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フォーラム記事

てるジノ坊主
2024年4月07日
In デジモン創作サロン
「いらっしゃいませー!」 活気盛んな居酒屋に店員の腹一杯の声が響く。 そんな居酒屋で、府内は軟骨の唐揚げが置かれたテーブル席でメガ盛りのハイボールを一人で飲んでいた。 「君がそれを飲むなんて、相当な情報の様だね」 そう言って、府内の席にショートヘアの女性が座る。 その女性は店員にウーロン茶を注文して、彼を見つめた。 武藤稲菜。 府内とは大学からの仲で、ディルビットモンの超越者であり、超越者のコミュニティEULErのリーダーだ。 「まぁな。まず初めに、運営は限りなくクロだ」 府内の発言に、武藤は一瞬言葉を失った。 運営が怪しいというのは、最初から分かりきっていた事だ。 そんな事を、わざわざここに呼び出して言う。 しかも「限りなく」という不確定な状況で。 そこで彼女は頭を回し、すぐにある結論に至る。 「問題はその情報元だね」 府内は唐揚げを一つ口にし、飲み込んだ後に「その通り」と答えたのであった。  ◆ ◆ ◆ ◆ 府内の話を聴き、武藤はしばらく考え込む。 シリウスモンの影響で全身麻痺になっていた筈の人間が、何故かゴーストゲームに参加していた事。 そしてその人間が「スーツェーモン」という超越者となった事。 それを手引きしている様な言動をしていたマクラモンが自らを「デーヴァ」と名乗った事。 そして、そのスーツェーモンとマクラモン両方の頭上に、ユーザーネームが全く表示されていなかった事…など、とにかく話を頭の中で整理するのは流石の武藤でも時間を有した。 しばらくして、武藤は整理を終えたのか口を開く。 「なるほど。思っていた以上に大きな収穫だね」 「大き過ぎて抱えきれん」 「だから私を呼んだんだろ?」 そう言い、武藤は唐揚げを一つ口にする。 「大体、君も物好きだね。超越者を調べようなんて」 「別に良いだろ」 ハイボールをぐっと飲む府内。 相当思い詰めているなと感じた武藤は、冗談混じりに口を開く。 「ただ、君が調べてくれているおかげで、こっちも色々と集中できるよ。自分が究極体となってる状況を自然と受け入れられているとはいえ、本音を言うと多少は気にはなっているからね」 「………もっと気にしろよ…」 府内は小声を漏らすが、武藤には聞こえていなかったのか彼女は「さて」と話を進める。 「実は私も話があってね。恐らく、そのシリウスモン騒動にいた一人だと思うんだが……それが超越者となった」 「あぁなるほど。君とシリウスモン以外の超越者の存在は聞いていたが、そいつは新入りだったって訳か」 空になったハイボールの前で、府内はメニュー表を睨み続ける。 「それで? そいつも勧誘したのか?」 「当然。良い返事を貰えそうだよ。でも、それよりもそのツレが気になるんだ」 「ツレ?」 府内の視線はメニュー表から武藤に映った。 武藤はその反応を待っていたと言いた気に頬を緩めて、話を進める。 「彼はただの人間だが、超越者誕生の瞬間を認知していた」 「一応言うが、さっき言ったスーツェーモンも誕生の瞬間を多くの人間が認識している」 「意地悪なことを言うね。君も薄々気付いているんだろう?スーツェーモンとやらは他の超越者とは違う」 武藤の言葉は正しかった。 府内はスーツェーモンと他の超越者とは別種であるとして考えている。 理由として、他の超越者は上部に文字化けしたユーザーネームが表示されているのに対し、スーツェーモンはそのユーザーネーム自体が表示されていないことだ。 どちらかと言うと、スーツェーモンは同じくユーザーネームが表示されていないマクラモンと近い存在なのではないかと府内は予想している。 だからこそ、スーツェーモン誕生の瞬間を多くの人間が認知していること自体はある意味納得できた。 スーツェーモン自体がイレギュラーな存在だと考えれば、イレギュラーな事態が起こるのはごく自然なことだ。 しかし武藤の話によると、一人の人間によって誕生を観測された超越者は、スーツェーモンの様にユーザーネームが表示されていない訳ではなかったらしい。 それはつまり、その観測された超越者は現段階では別種では無いということだ。 その誕生を唯一観測した人間。 「あぁ…そいつは、またレア物だな」 「だろう?超越者を認知…いや、観測した……観測者といったところか」 「新たな超越者と観測者…そして謎の別種」 「ふふ…問題が多くなったね」 「何楽しそうなんだよお前は」 それを追う側の身にもなって欲しいと、府内は心の中で嘆いた。 その嘆きをハイボールで洗い流そうとするが、ジョッキが空になっていたことを思い出す。 「君が大変なのは理解しているよ。だから微力ながら、私も協力しようと思う」 「別にいいさ。そっちもそっちで大変だろう?あとこれは俺の勘だが…少なくともその観測者とやらは、俺らのところに来ない方がいい」 そう、極力その観測者は、府内達とは関わらない方が良い。 それが府内の一旦の答えだった。 理由はどうあれ、観測者はイレギュラーな存在だ。 そして、そのイレギュラー代表の様な存在デーヴァ。 デーヴァは少なくとも自分達より詳しいことを知っている筈だ。 デーヴァに観測者のことを訊けば、すぐに答えは見つかるだろうが、その観測者がデーヴァにとってどういう立ち位置になるのかはまだ分からない。 もしかすると、デーヴァは観測者のことを探しているのかもしれない。 そんな観測者を連れて、デーヴァの真相を突き止めようとしたら、一体どうなるのか全く分からない。 観測者がデーヴァに殺されるかもしれない。 或いは、飛鳥というユーザーの様に超越者もどきへと変えられ、その観測者も敵になってしまうかもしれない。 現段階では、あまりに情報が無さすぎる。 観測者のデーヴァとの接触で、大きな収穫を得る可能性もあるが、今はまだそこまで急ぐ時ではないだろう。 観測者の件は、もっと情報を収穫してから考えるべきである。 この物語は、まだ始まったばかりなのだから。 「それには同意だね。だが、協力したいのは本当さ。まずは……あ、すみません」 武藤は途中で通りすがりの店員に声をかけ、注文を開始する。 「ハイボール……は、またメガ盛り?」 「いや、普通ので」 「じゃあそれとあと……ウーロンハイで」 武藤の最後の注文に、府内は目を丸くした。 自分もそうだが、武藤はあまり酒は飲まない方だった筈だ。 注文を終えた武藤は、残った少量のウーロン茶を一気に飲み、それを店員に渡す。 そして府内の方に向き、ニヤリと笑みを浮かべた。 「話を戻そう。協力してあげるよ。とりあえず、一緒に気が済むまで飲んであげる」 武藤の言葉を聞き府内は固まるが、しばらくして府内と同じ様に笑みを浮かべる。 そして、彼は一言だけ。 「メガ盛りにしとけば良かったな」  ◆ ◆ ◆ ◆ ブルースクリーン第3区 ここに立ち並ぶ多くの店舗の一つにモスバディという店がある。 正確に言うと、モスバディ 第3地区店。 モスバディはブルースクリーンを主に拠点と置くパソコンショップだ。 その第3地区店のガジェット担当として働いているのが、米咲である。 「お疲れ様で~す」 今日のシフトを終え、米咲は早々と職場を跡にする。 「結局これのこと誰にも訊けなかった…後で武藤さんに訊いてみようかな…」 米咲は自分のデジヴァイスを見つめながらそう言った。 だからだろうか、その人物に全く気付きもしなかった。 「おい」 後ろから声をかけられ、米咲は振り返る。 そこにいたのは、耳あての部分が金色の縁に囲まれた黒のヘッドホンを首にぶら下げた同年代ほどの男性だった。 「えっと…何か…」 「アヴェンジキッドモン」 その名を聞いて、米咲は思わず身構えた。 超越者としての米咲の名前。 その名は、普通の人間は知らない筈だ。 「超越者…か…!」 「そう構えるな。俺は芝入健真(しばいり けんま)。EULErのメンバーだ」 「EULErの…?ってことは…」 「そっ、リーダーにお前のお召し付け役を任された、可哀そうな先輩様さ」  ◆ ◆ ◆ ◆ 『ようやく私の話になります~?ヒカリちゃん待ちくたびれちゃった』 米咲のデジヴァイスに、青色のとんがり帽子と青色のファーマフラーといった青を基調とした衣装を身に包んだサポートAI ヒカリちゃんの姿だった。 自身が超越者となった時に破壊した筈のデジヴァイス。 それが何故か無傷の状態で手元にあり、しばらく「アップデート中…」と黙っていたままだったのが、今朝遂に目を覚ましたのだ。 見覚えがあるコスプレをしたヒカリちゃんと共に。 『一応言っておきますけど、アップデート中も会話は聞こえてたんですよ?何ですかアレ、姿変わった後、しばらくキャラ変した様に不思議ちゃんな雰囲気出して。作者でも変わりました?』 「何かいきなりの事で気が動転して逆に落ち着いてたんだって…。それよりこのヒカリちゃんの服って…確かゴースモンの…」 「そう、お前が覚醒した時に使用していた成長期のホログラムゴースト」 米咲の前に立つ芝入がそう言い放つ。 二人は今、地下鉄に続くエスカレーターを降りている途中だった。 どうやらEULErのアジトに案内される様で、この際気になっていたこのヒカリちゃんの話をしようと米咲がデジヴァイスを開いたという状況だ。 「何でヒカリちゃんが俺のデジヴァイスにいるんですか?こんなコスプレまでして」 『こんなって、何か嫌な言い方ですね炭水化物サマ?』 「ごめん」 反射的に謝る米咲。 つい「こんな」と言ってしまったが、本音を言うとそんなに悪くないコスプレだとは思っている。 「そりゃ、あんたが覚醒したからさ。ヒカリちゃんは『ゴーストゲーム』のサーバーから戻れず、超越者のデジヴァイスの中に永遠に宿ることになる。ヒカリアビリティを備えてな」 「ヒカリアビリティ?」 知らない言葉に、思わずそれを反復する。 しかし芝入はそんな反応は予想通りだったのか、動揺せずに話を進める。 「超越者が手に入れるさらなるチートだよ。ただ、当たり外れは激しいし、クールタイムは10時間っていう酷く使い勝手の悪いものだがな」 「クールタイムが10時間って…一回使うと10時間は使えないってことですか!?」 「そういうこと。そしてそのアビリティ内容は、超越者として覚醒した時に使用していた成長期のホログラムゴーストと関係がある。正確に言うと、そのホログラムゴーストに対する使用者のイメージが関係するってことだ」 芝入が話し終わると同時に、エスカレーターは彼らを目的地に到着させる。 芝入はそのまま歩き続け、米咲は一旦デジヴァイスを閉まってその後を追う。 「イメージ?例えばどんな?」 「例えば鳥のホログラムゴーストが使用していた成長期だとしたら、その見た目の鳥のイメージが反映された能力が使えるって訳だ。ちょっと飛べるとか…視力が良くなるとか…」 「何か能力地味過ぎね?」 「そんなんばっかなんだよヒカリアビリティは。だから使わずに戦いが終わるなんてこともある」 芝入の何気ないその言葉に、米咲は思わず歩を止める。 「ん?どうした?」 「…いや、戦いって…やっぱりその…-aって奴らとの戦いってことですか?」 「大体はな。戦いが嫌だなんて今更なこと言うなよ?超越者になった時点で遅かれ早かれ…」 その時だった。 『デジタルウェーブ確認しました!』 『ケンくんケンくん!敵いるよー!』 米咲と芝入のデジヴァイスから少女の声が響く。 言わずもがなヒカリちゃんの声だ。 「デジタルウェーブ!?」 「近くで超越者が現れたってことだ。どうせロクな奴じゃねぇ。ったく、こんな時に…!」 芝入はそう言って、デジヴァイスを取り出した。 一瞬、そのデジヴァイスに雷が流れたと思うと、バキン!という音と共に右上と左下に黒色の禍々しい形のシェルが現れる。 「えっ…!それ何…」 「お前もデジヴァイス取り出してヤル気になれ!そうすりゃなる!」 芝入に言われた通りに、米咲はデジヴァイスを取り出してそれをジッと見る。 すると、芝入のと同様の黒のシェルが雷と共に現れた。 「うおマジか」 驚く米咲に特に反応せず、芝入はデジヴァイスのゴムバンドを伸ばして頭に装着する。 米咲も慌てながら芝入同様にデジヴァイスを装着して、その瞬間に視界一杯に「ULTIMATE DIGIVOLUTION」という文字が浮かび上がった。 米咲の意識が、装着したデジヴァイスへ吸収される。 そしてデジヴァイスから飛び出す様に、米咲は姿をアヴェンジキッドモンへと変えた。 「おぉ…こうやって超越者になるのか…」 超越者への変身のメカニズムに感心しながら、米咲は隣の芝入を見る。 すると芝入がいた場所には、前屈みの機械仕掛けの青い肉食恐竜と、それに乗る様に下半身が恐竜と一体化した黒い騎士の姿であった。 「えっ…何その…なに?」 『あれはグレイナイツモンですね〜。あれ?何で私、データにない筈のホログラムゴーストの名前が分かるんでしょう?まぁいっか、炭水化物サマが超越者になった影響ですね、どうせ』 「何か投げやり感凄くない?」 グレイナイツモン。 それが芝入の超越者としての姿なのだろう。 そして同時に、武藤や芝入が本来ゴーストゲームにいない筈の超越者の種族名を知っている疑問にも何となく答えが見えてきた。 使用者が超越者として覚醒したことで進化したヒカリちゃんが、一々教えてくれたのだろう。 まぁ、何故ヒカリちゃんがそんな事を知っているのか、それは当の本人も全く分からないらしいのだが。 「とにかく、超越者のところに行くとしよう。危険分子なら我々が止める」 「カミクダイテ、イキノネ、トメル!」 グレイナイツモンの騎士の方がそう言った直後に、恐竜部分が片言で言葉を発した。 確かに一人の人間だった筈だが、芝入的にはこの変身はどう思っているのだろう。 恐らく人間寄りの意識は騎士の方だと思うのだが、その騎士の方も口調や雰囲気が芝入のものとは異なっている。 「あ、あの〜…顔二つとも喋ってるけど、それどういう…」 「? そんなもの、役者たるもの気にする事ではない」 「役者だったんだ」 「カオ、フエル。ヤクシャナラ、テキオウ、トウゼン!」 「そうかなぁ!?」 いまいち釈然としないが、今はそんなことに時間を費やしている場合ではない。 アヴェンジキッドモンとグレイナイツモンは、ヒカリちゃんの指示に従い、超越者の現れた場所へと向かった。 向かう途中に気付いたが、今アヴェンジキッドモン達がいる空間は、ゴーストゲームのゲーム空間と同等のものだそうだ。 その為、配信エリアに行かない限り、非プレイヤーの普通の人間は超越者の存在を認識できない。 さらに言うと、あの謎のデジヴァイスの変化。 アレを行った直後に、周囲の人間は超越者のことを認識出来なくなるようだ。 その超越者が例え人間の姿のままで、さっきまで話していた相手であろうとも。 (分かってはいたけど…本当に何なんだろうな超越者って…) アヴェンジキッドモンは、そんな事を考えながら現場へと向かっていった。  ◆ ◆ ◆ ◆ 「ハッハー!ホントのこと言っちゃうと、俺様サイキョーかもなぁ!?」 からくり人形の姿をした超越者・ピノッキモン。 周囲には様々な完全体のホログラムゴーストが隠れており、各々がピノッキモンの様子を伺っている。 どう考えても勝てない相手だ。その反応が当然だと言えるだろう。 「う〜ん…でも相手がいねぇのは、つまらねぇよなぁ〜?よし!じゃあ適当に決めるか!」 多くが怯える中で、ピノッキモンは飄々とした態度で言葉を紡ぎ、隠れているホログラムゴーストを一人一人指差していく。 「ど・れ・に・し・よ・う・か・な? か・み…」 「クダイテ、コロス!!!!!」 ピノッキモンが言い終わる前に、彼の頭上に文字通りグレイナイツモンが降ってきた。 ピノッキモンはそれを避け、グレイナイツモンと遅れて現れたアヴェンジキッドモンを睨む。 「んだよ危ねぇなぁ!まだ遊んでる最中なんだけどぉ!?」 「それはすまないね。だが、こっちもまだ用事が済んでいないのだよ。お互い様という奴さ」 グレイナイツモンの言葉が気に食わないのか、ピノッキモンは舌打ちをする。 「お前ら見ない顔だな?何者だ?」 「俺達はえ〜と…」 「EULErだ」 困惑するアヴェンジキッドモンの代わりに、グレイナイツモンが軽く答えた。 その名を聞き、ピノッキモンの眉間に皺が寄る。 「ほう…お前らがボスの言ってた馬鹿共か。こんなサイキョーな力を手に入れたってのに、俺達の邪魔をする…」 「その口振りからして、君は-aの一員だね?」 「そうだが……どうするってんだ?」 「カミクダクッ!!!!!」 グレイナイツモンは一直線にピノッキモンに向かう。 そのあまりに速い突進は、いくらピノッキモンでも対応出来なかった様で彼はすぐに吹き飛ばされビルに激突する。 「ぐっ…!面倒な奴だなぁ…。ホントのこと言うと、そういうのは大ッ嫌いだ!」 ピノッキモンは激突したビルを蹴り、その勢いでグレイナイツモンの方へ向かっていく。 「来るか…」 槍を構えるグレイナイツモン。 だが、ピノッキモンの目的は違った。 方向が少し、グレイナイツモンからズレていたのだ。 「お、俺か!?」 そう、狙いはアヴェンジキッドモン。 「どう見たって、お前は初心者。お荷物だろ!」 「舐めるな!」 確かにアヴェンジキッドモンの実戦経験はまだ1回しかない。 だが、それでも本能のままに戦える自信はある。 アヴェンジキッドモンは指先から放つエネルギー弾で狙い撃つ為、ピノッキモンの方へ指を向けた。 だがその瞬間、背後に何者かの気配を感じた。 「!」 咄嗟に振り返るアヴェンジキッドモン。 だがそこには誰の姿もない。 「かかったな。ブリットハンマー!」 思わず余所見をしてしまったアヴェンジキッドモンの頬に、ピノッキモンのハンマーが炸裂する。 そのあまりの勢いに、アヴェンジキッドモンはコンクリートの地面を何度も転がりながら倒れてしまう。 「アヴェンジキッドモン!」 「タクサンノ、ケハイ!モウ、ナイ!」 アヴェンジキッドモンが感じた気配は、グレイナイツモンも感じていた。 しかもそれは一つではない。 数え切れない大量のものだった。 それが今やもう存在しない。こんな不可解な現象、グレイナイツモンには心当たりがあった。 「ヒカリアビリティか…!」 「ホントのこと言うと、正解だ」 ピノッキモンはグレイナイツモンの方を向き、ハンマーを肩にかける。 すると、ピノッキモンの隣に手作り感のあるレザージャケットを羽織り、最低限の部分は布切れを着て隠す赤いモヒカンの生えた木製のヘルメットを被るヒカリちゃんの姿が映る。 「【百体気配《ゴブリモン》】。これが俺のヒカリアビリティ。10秒間、周囲に数え切れない気配のみを出現させる。俺も気配を感じるから、鬱陶しい部分もあるがな」 「ほう…わざわざ教えてくれるとは優しいね…」 「ヒカリアビリティを使えば、どうせこのサポートAIは現れる。だったら話しちまった方が良いだろ?それに、確かにこのアビは当たりだが、俺はこんなもの無くても勝てるんだよ」 「フットンダ、クセニ」 「うるせぇ!ホントのこと言うと油断しただけだ!もう負けやしねぇ!」 ピノッキモンはそう言って、グレイナイツモンに飛びかかる。 結論から言って、ピノッキモンの言葉は間違いではなかった。 グレイナイツモンはその体の構造上、前方に走るのは得意ではあるが、それ以外の機動力はあまり良いとは言えない。 しかしピノッキモンは、人と近い体型をしていることもあり前方以外の機動力はグレイナイツモン以上だ。 ピノッキモンも先ほどの戦いでそれに気付いたのか、動き回ってグレイナイツモンに攻撃の機会を与えようとはしていなかった。 「くっ…中々学習したみたいだね…」 「ビュンビュン、ムカツク!トマレ!!!」 「止まれと言ってホントに止まる奴なんていねぇよ!」 ピノッキモンは背中のX字のパーツを外し、それをグレイナイツモンへ向けて投げる。 俊敏に動きながらの飛び道具に、グレイナイツモンの反応は遅れてしまい、ピノッキモンの技が命中した。 「うっ!」「グオォッ!」 倒れるグレイナイツモン。 勝ち誇ったのか、その前に立ち止まるピノッキモン。 「これで終わりだ」 ピノッキモンはハンマーを大きく上げる。 絶体絶命 正にそう表現するしか無い状況だ。 グレイナイツモン一人であれば。 「ギリギリだったな」 背後から声が聞こえたと思った瞬間、ピノッキモンは何者かに背中を踏みつけられた。 彼を踏みつけた張本人は、フェードアウトした筈のアヴェンジキッドモンであった。 「て、てめぇまだ生きて…!いや、それより何時から!」 気配は全く感じなかった。 それどころか、アヴェンジキッドモンは完全に意識の外にいた。 倒しきったと思って油断していたと言われれば話は終わりだが、あまりにも気配を感じ無さすぎた。 それに疑問を感じていたピノッキモンだったが、答えはすぐに浮かび上がった。 アヴェンジキッドモンの隣に、青を貴重とした魔女の様な格好をしたヒカリちゃんの姿がいたのだ。 「ヒカリアビリティか…!」  ◆ ◆ ◆ ◆ 「現場に来る前に、一度自身のヒカリアビリティを確認した方が良い」 現場に向かう途中、アヴェンジキッドモンはグレイナイツモンにそう言われた。 「正直、我々のアビリティは戦いに役立つものとは言えないのでね」 「ダカラ、ツカワズ、カミクダク!」 「な、なるほど…確かに手札を知るのは大事ですね。ヒカリちゃん!」 アヴェンジキッドモンは、頭の中にいるであろうヒカリちゃんに話しかける。 ヒカリちゃんは「はーい」と返事をして、さらっとアヴェンジキッドモンのヒカリアビリティを話した。 【霊存在感《ゴースモン》】 それがアヴェンジキッドモンのヒカリアビリティ。 内容は一言で言うと、5秒間、相手の自身に対する認識能力を調整する。 この「相手」というのは、アヴェンジキッドモン自身が定めたものなら何でも良く、決して「戦闘相手」という事ではないらしい。 なので別に味方を対象としても良いのだが、注意点としては選べる「相手」は一人だけであること。 現実的ではないが、その5秒間で「相手」を変更することは可能なのか問いてみたが、それは不可能だと解答があった。 認識能力の調整というのはどういう事なのかを問うと、要は極端に影が薄くなったり、極端に存在感が増したりするとのことらしい。 だが、相手の自分に対する認識能力を「調整」するのであって、0やMAXにする訳ではない。 さらに言えば「調整」なので、自然と他の事情に対する認識能力もそれに合わせる形で変化する。 その変化は相手の意識に依存するので、どれがどのぐらい認識能力が上下するのかは全く分からないという。 分からないことを講義しても仕方ない。 重要なのは、認識能力を0やMAXに出来ないという点だ。 認識能力を0に出来ないという事は、謂わば透明人間になることは不可能だということ。 どれだけ自身に対する認識能力を低下させても、視界内に入っていればそれは「認識」される。最も、その認識したものに意識が向くかは相手次第にはなるが。 なので、極端に音を立てたり目の前に現れば、いくら認識能力を低くしてもバレてしまう恐れがある。 だから、認識能力を低くさせても5秒間絶対に安全という訳とは限らない。 そんな面倒な条件と5秒間というあまりに短い時間制限に、アヴェンジキッドモンは最初は微妙と思っていたが、戦闘に役立つ可能性がすぐ見つかるだけで大当たりだとグレイナイツモンは言ってくれた。 そこまで言われると、自分でハズレと言っているグレイナイツモンのヒカリアビリティが気になるところだが、そこでアヴェンジキッドモンはピノッキモンの場所へと辿り着いた。 だが、自身の能力の件はもう十分だ。 重要なのは、その能力を発動するタイミング。 それを発動するのに適切なタイミングが出てくれれば良いのだが…。  ◆ ◆ ◆ ◆ 「完璧なタイミングだったよ」 ピノッキモンの背中に片足を乗せたアヴェンジキッドモンはそう言葉を紡ぐ。 「あんたは俺を完全に意識の外に置いてくれた。おかげで、多少の行動は容認してくれた。このヒカリアビリティを使った上でな」 「てめぇ…!まさかやられたのも計算の上で…!」 「さぁな」 ピノッキモンの言葉にわざと曖昧に答え、アヴェンジキッドモンは足に力を込める。 「デストラクショントリッガー」 「ぐわああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 ピノッキモンを踏みつけたアヴェンジキッドモンの足から、爆発弾が放たれる。 そのゼロ距離からの攻撃により、攻撃を受けたピノッキモンはもちろん、攻撃をしたアヴェンジキッドモンも吹っ飛ぶ。 「良い位置だ」 「カミクダケナイノ、ザンネンダ!」 空中では自由に身動きが出来ない。 少なくとも、ピノッキモンはそうだった。 「ま、待って…!」 「「デスデストロイヤー!!!」」 恐竜の前足に当たるであろう部位に付いた2本のキャノン砲から、暗黒弾が放たれる。 それはピノッキモンの体に直撃し、体は暗黒弾に押される形でより天に上がっていった。 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 暗黒弾は遂に貫通し、ピノッキモンの目前に、黒いシェルの付いたデジヴァイスが現れる。 そしてその画面に、一つの文字列が浮かび上がった。 【DROPOUT】 その文字列が音としてデジヴァイスから鳴った直後、デジヴァイスは音を立てて砕け散る。 そして同時に、ピノッキモンの体は大きな爆発を起こした。 「死んだ…のか?」 「シンデナイ、ヒトニモドッタダケ」 「最も、超越者になってからの記憶は消えているがね」 死んでいない。 その言葉に少し安堵したが、その後に言われた事実にアヴェンジキッドモンは少し冷や汗を掻いた。 死にはしないが記憶を失う。 超越者になってからの記憶と言われても、もし仮に超越者になってから数年経っていれば、その分の記憶を丸々失うという事になるのだろう。 死ぬよりマシ。 そう言われればそうなのだが、どうしてもアヴェンジキッドモンは…いや、米咲は一人の人間として恐怖した。 「何はともあれ、戦いには勝てた。君のヒカリアビリティのおかげだ」 「ツカエルヤツ、カンゲイ!」 「えっ…い、いやぁ…」 一瞬気を取られていたアヴェンジキッドモンに、グレイナイツモンは励ましの言葉をくれる。 もしかすると、自分の不安な顔を見て気遣ってくれたのだろうか。 そんな事を考えているとアヴェンジキッドモンは一つ、ある事を思い出した。 「そういえば俺がアビリティ使おうとした時、目合ってましたよね?その後にあいつが貴方に攻撃当てて、油断して止まったから俺も近づけた訳ですけどもしかして……」 この場から立ち去ろうとしたグレイナイツモンは、そのアヴェンジキッドモンの言葉を聞いて立ち止まる。 そして振り返り… 「さぁな」 第三話『Starting Point』完 〜〜〜〜〜 あとがき 本当は令和6年4月7日22時までには投稿したかった話なんですよね。 理由はこの時間に「アクマゲーム」という漫画原作のドラマが始まるんですが、今回初登場のヒカリアビリティがそのアクマゲームに出てくる「悪魔の能力」が元ネタなんです。 「異能力だけど肝心のその能力がショボいし、めっちゃ限定的」というところがアクマゲームの悪魔の能力の好きなところで、ヒカリアビリティのクールタイムが10時間というのも、「悪魔の能力はゲーム中1回しか使えない」という酷く限定的なところを再現しているつもりです。 なのでせめてドラマ版のアクマゲームが始まるまでに投稿したかったんですが……ヘヘッ間に合いませんでしたぜ。 ってな訳で駆け足の展開でしたが、今日はここまで。 ありがとうございました
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てるジノ坊主
2024年1月14日
In デジモン創作サロン
多綱蓮(たずな れん)は動画配信者である。 《くるーえる》という名前でネットの世界で活動しているが、ハッキリ言ってそこまで名の知れた訳ではない。 だが、本人はそれでも本業と兼業して楽しく活動しており、それに自分なりの誇りを持っている。 それは動画配信の中で知り合った《炭水化物》という人物も同様で、趣味も通じるものがあった為にネットの知り合いの中でもかなり上位に入るほどの仲であった。 そんな彼が、自分の目の前で怪物となった。 少なくとも、彼自身はそう感じた。 だから彼は、その怪物となった友人と共にプレイしていたゲームを終えると、すぐにその友人がいるであろう場所へと走った。 「いない…!」 確かこの機体だった筈だ。 友人が、チュートリアルをこの機体で行うのを確かにこの目で見た。 そのすぐ後に、自分は彼がチュートリアルが終えるまでの間にでもとゲームをやっていたので、その後のことは分からないが、ゲーム中に機体を変えるなどという非効率的な行為はしない筈だ。 「何処に…!えっと…た、炭水化物さ〜ん!!!」 名前を呼ぼうにも、彼のフルネームを知らない。 叫ぶには珍妙なそのユーザーネームを言うしかなかった。 騒つく周囲を気にせず、多綱は叫び続ける。 そんな多綱を誰かが後ろから掴んだ。 「ちょ、ちょっと!くるーえるさん!」 炭水化物だ。 多綱はほっとした直後、すぐに周りの目に気付き、彼の手を引っ張ってゲームセンターを出て行った。  ◆ ◆ ◆ ◆ 炭水化物こと米咲乾土は、適当な路地裏までネット仲間のくるーえるに連れて行かれていた。 ある程度まで走り、くるーえるは息を整える。 引っ張られたからか、彼に対して米咲は息が全く上がらなかったが、彼の息が整うまでとりあえず待ってみることにする。 「し、心配しましたよ…た、炭水化物さん……」 「あ、す、すみません…。まさかあそこまで大騒ぎするとは……」 「いや、するでしょう!?普通!炭水化物さんが超越者みたいになって!不安になって機体の方へ見たら姿がいなくなってたんですから!!!」 思っていたより友人のことを心配させてしまった様だ。 もう良い大人なのに、ここまで人を心配させてしまったことに流石に米咲にも罪悪感が湧いてくる。 「それは本当に……その…申し訳ないです…。でも変なんですよね…。俺、確かにさっきまでゲームしてた筈なのに、気が付いたらくるーえるさんの後ろで立ってて……」 「は?立ってた?」 米咲の言葉に、くるーえるは疑問符を浮かべた。 機体は座ってゲームをプレイするものの筈。 それなのに【気が付いたら立っていた】? 「あれ?」 くるーえるが考え事をしていると、彼の背後の先に気になるものが見えた。 ゴミ箱に上半身を突っ込んだ子供の姿が見えたのだ。 「うわああああああああああああ!!!!!犬神家!!!!!!!!!!」 「え?何が……わああああああああああああ!!!!!犬神家!!!!!!!!!!」 二人は急いでその子供へ駆け寄り、足を引っ張る。 無事に子供はゴミ箱から解放され、そのまま地面に尻餅を付いた。 「いてて…だ、大丈夫?」 米咲はゴミ箱に食われていた子供の方を見る。 そして、彼は一瞬固まる。 それは隣にいたくるーえるも一緒だった。 「ヒカリ……ちゃん…?」 そう、雰囲気は違えどその顔はゴーストゲームのサポートAIのアバターと全く同じ顔だったのだ。 眠たげな表情をするそのヒカリ似の少女は、特に礼も言わずに米咲の顔をジッと見つめる。 「……アヴェンジキッドモン…」 「!?」 それは米咲がさっきゴーストゲーム中に変身したホログラムゴーストの名前だった。 だが、ゲーム内にそんなゴーストは存在せず、その名前も米咲の頭の中に自然と流れ込んだものの筈だった。 つまりそれは、米咲本人しか知らない筈の文字列。 「キミ、名前は?大人の人とは一緒じゃないの?」 米咲が固まる中、くるーえるが少し動揺しつつもその少女の目を見て尋ねる。 少女はまた何も答えずに、くるーえるをジッと見つめる。 「……先に名前を名乗った方が、相手は心理的に落ち着くらしい」 「えっ…」 ごもっともな事を言われ、今度はくるーえるが止まった。 そんな彼を割り込む様に、米咲は口を開ける。 「俺は米咲乾土」 「い、言うんだ…まぁそっか…」 躊躇なく名乗る米咲に少々驚きながら、くるーえるは一旦咳払いをして答える。 「多綱蓮。キミは?」 「………」 少女は何故か考える素振りを見せて「じゃあ」と口を開く。 「八神(やがみ)……八神……ヒカリで」 「え?何その今決めたみたいな感じ」 くるーえること多綱が困惑していると、いつの間にかヒカリは米咲と多綱の間を通り抜けていた。 「名前がそんなに大事なの?」 その一言だけを残して、二人が振り返った瞬間にはヒカリの姿は消えていた。 「何なんだ…一体…」 「それはこっちの台詞かな」 多綱が突然消えた少女に驚いていると、今度はショートヘアーの女性に声をかけられた。 「次から次へと…!」 もう頭が限界の多綱は髪を掻きむしるが、そんな事はお構いなく女性は彼等に近づく。 「その声…貴女は…」 多綱は頭がパンク状態で全く気が付かなかったが、米咲はその声に聞き覚えがあった。 そう、アヴェンジキッドモンとなった米咲と白い竜人の戦いに割って入ってきた謎の兎耳の獣騎士の声と同じなのだ。 「武藤稲菜(むとう いな)だ。初めて会った時はディルビットモンだったな」 「……米咲乾土です」 「あのぉ!?何でそんなあっさり自己紹介できるの!?しかも本名で!」 当たり前の様に話し合う二人に、多綱は全く着いて来れずにいた。 超越者の乱入、友の超越者化、謎の幽霊少女、そしてまた謎の女。 こんな事が立て続けに起きて、着いて来れる方がどうかしている。 「悪かった。だが、私的には君とも話がしたいんだ。くるーえる……だったかな」 「え……俺とも?」 完全に蚊帳の外と思っていた多綱に、予想外の言葉がかかる。 「あぁ、君は確かに今は部外者だが、知っておいても損は無い。我々、【EULEr(オイラー)】のことを」 「「おいらー???」」 二人は声を合わせて、その名前を口にした。  ◆ ◆ ◆ ◆ 「超越者。我々はそれを究極体と認識している」 「認識?」 超越者が一部で究極体と呼ばれているのは、多綱も知識として知っている。 だがそれより、「認識している」という武藤の言い方が気になった。 彼等は今、ブルースクリーン2区にあるフードコートで食事をしながら話していた。 「超越者に変わった瞬間、頭の中でそう感じたんだ。君もそうじゃないか?」 そう言って、武藤は今まさにハンバーガーを頬張ろうとしていた米咲に目をやる。 米咲は口を大きく開けたまま、気まずそうに頷いた。 ユーザーネーム的にライスバーガーにすれば良いのに、と頭を過りながら多綱はその摩訶不思議な現象について腕を組む。 「情報が入ってきたってことですか?まぁ…精神をデータ化しているから、不思議なことでは無い……のか?だとしたらその情報は何処から…」 「それは分からないな。不思議なことに、そこまで興味が湧かないのが事実な訳だし」 武藤はエビ天ぷらうどんを啜る。 「いやいや、湧いてくださいよ。明らかに変でしょあんなの」 たこ焼きを頬張る多綱。 「でも…武藤さんの気持ち、分かる気がします」 ハンバーガーを半分ほど食べ終えた米咲は、武藤の意見に賛成する。 それに多綱は「え?」と声を漏らした。 「俺も何で究極体になったのか…それに対してそこまで疑問に思えなくなってるんです。何というか……それが当たり前みたいな」 「ウッソ……マジですか?」 「マジマジ」 軽い調子で、エビの天ぷらを噛みながら武藤は答えた。 「そんな訳だから、私はこの事情の真相についてはよく知らない。だが、私達の様に究極体になった人間が好き勝手に暴れている事実については黙認はできない」 「それって…あの白い竜人みたいな…」 米咲の言葉に、尻尾ごと天ぷらを口に入れた武藤が頷く。 「シリウスモン。奴は謎が多くてな。さっきも尾行出来たらと思ってやってみたんだが、無駄足だった。どうやら【-a(マイナスアルファ)】の奴等も奴については何も知らないらしいんだ」 「マイナスアルファ?」 また聞かない名前に、多綱が食いついた。 武藤は僅かに残った麺を取ろうと悪戦苦闘しながら「そう」と言葉を綴る。 「究極体で好き勝手に暴れ回る奴等が作ったコミュニティ。まぁ一言で言えば、ヤンキー集団みたいなところかな」 「なるほど…じゃあ武藤さんが言ってた【EULEr】っていうのは…」 米咲の質問に、麺を食べ終えた武藤はその場にあった紙とペンで何かを書き始める。 Evolved that Undoes the Last Error 「最後のエラーを正す進化体。略して【EULEr】。私がリーダーを務める……簡単に言えば、究極体による治安維持部隊ってところかな」 「「リーダー!?!?」」 意外な言葉に、米咲と多綱は声を上げた。 武藤はうどんの出汁を全て飲み終えてから、「うん」と答えるだけだった。  ◆ ◆ ◆ ◆ 「昨日、また超越者が出たらしいぜ」 「知ってる。しかも今回は一気に3体も出たって話なんでしょ?」 「フリーマッチにいきなり白い奴が乱入してきて」 「沢山のプレイヤーがボコボコにされたって」 「何だっけ?超越者にやられたら意識失うとか…」 「そうだったら今頃、大ニュースになってるっての」 「みんながそうなる訳ないじゃん」 「だよな〜、安心した〜」 「でも」 「一人、全身麻痺になったらしい」  ◆ ◆ ◆ ◆ 宇佐美入寿(うさみ いりす)。 何処にでもいる平凡な高校2年生の青年。 自慢できることがあるとしたら、それはゴーストゲームの腕である。 都内最強を決める黄龍杯への参加を目指して、練習として昨日もゴーストゲームのフリーマッチを行っていた。 「僕が…練習をしようなんて言わなければ…」 宇佐美は頭を抱えて自室で後悔していた。 昨日やったフリーマッチ。 それに突如として現れた謎の白いホログラムゴースト。 それは周りから超越者と呼ばれるチーターだった。 宇佐美はその超越者に手も足も出ずに負けた訳だが、その際に同じチームメイトもやられてしまったのだ。 それだけなら良かったのだが、そのチームメイトはなんとゲームが終わった後、首から下が全く動けない状態となっていた。 彼は本名も知らない彼女が、救急車で運ばれるのをただジッと見つめるしかなかった。 自分が誘わなければ彼女は無事だったのに。 そんな後悔が、彼の頭の中を占めていく。 瞬間、宇佐美のデバイスがメールを受信した。 もう一人のチームメイトからだろうか。 確か昨日は、用事があるということで彼は練習に参加できなかったのだ。 まぁそのおかげで、彼は無事でいられた訳なのだが。 そんな事を考えながらそのメールを確認する宇佐美だったが、確認した途端に彼は固まった。 それは、メールの内容が意外なものであったからだった。 【キジ太郎様、突然のメールを失礼します。 昨日の超越者による事件の際、キジ太郎様のゲームプレイを現地で拝見しておりました。 ですので、超越者による被害者が同じチームメイトの飛鳥様であることも知っています。 単刀直入にお話しします。 超越者を撲滅しましょう。 あの化け物共は、最早ゲームだけの話では無い。運営も動かない今、我々が動くしかありません。 貴方様も、あの超越者には恨みがある筈です。 我々は、貴方様のような超越者に恨みを持つ者により結成されたコミュニティです。 貴方様のような上級プレイヤーがいれば、我々のコミュニティはもっと強くなれます。 是非とも、コミュニティの参加をお待ちしております。】 「何だよこれ…超越者を撲滅する……コミュニティ…?」 《キジ太郎》というのは、宇佐美のユーザーネームだ。 そして《飛鳥》というのは、全身麻痺になってしまったチームメイトのユーザーネームである。 確かにゲーム中はユーザーネームが表示されるし、自分も飛鳥の名前を叫んでいた。その上、朱雀杯の内容は公式配信されていたので、自分達が同じチームであることも知っている人間は知っている。 現地にいた者で、その試合を知っている者なら、誰がキジ太郎で誰が飛鳥なのかは簡単に分かるだろう。 それにコミュニティというのも、今のネット社会では別に珍しいものではない。寧ろあって当然のものだ。 だが一番気になるのは、超越者の撲滅? 本当にそんなコミュニティがあるのだろうか。 メールにはURLが貼られてあるが、こんな胡散臭いメールに付いているURLなど進みたくない。 宇佐美はURLを見て、それが世界的に利用されているコミュニティサイトのものであることを理解し、そのサイトへ飛んだ。  ◆ ◆ ◆ ◆ Loveform 無数のサーバーを無料で作り、そのサーバー内に同じ趣味等を持つ仲間を集めて交流する世界的に有名な大型コミュニティサイト。 宇佐美もここで飛鳥や園長と出会ったのだ。 宇佐美はキジ太郎として、キジの様なアバターの姿で、このLoveformのメインサーバーへとアクセスしていた。 「えぇと…ここは検索して調べた方が無難かな…」 キジ太郎は「超越者」「撲滅」と検索してコミュニティを探してみる。 すると何件かヒットしたが、トップで出てきたコミュニティがメールに書いてあったコミュニティ名と完全に一致していた。 【ペリメトロス】  ◆ ◆ ◆ ◆ 「待ってましたよキジ太郎さん!」 89と大きく書かれただけの無機質なアバター が、ペリメトロスのコミュニティルームに入室したキジ太郎に話しかけてきた。 このユーザーの名前は《89番裏口》。 キジ太郎にメールを送った張本人だ。 「せっかくで悪いんですけど、僕は別にここに入るとは決めてません。ただ、話だけでも聴いてみようと思いまして…」 「それだけで充分です!ささっ!リーダーがお待ちですので」 そうやって、キジ太郎はリーダーがいるらしいエリアへと案内される。 案内と言っても、ただ89番裏口が貼ったリンクを押せばいいのだが。 しかし、何度考えても分からない。 超越者を撲滅というのはどういう事なのだろうか。 普通に考えれば、アカウント停止とかそういう話な気がするが、それは運営がやるものではないだろうか。 考え事はそのくらいにして、キジ太郎は用意されたリンクを押す。 コミュニティサイトの機能内でのリンクなので、詐欺とかではないだろう。 リンクを押した瞬間、キジ太郎はとあるエリアへ飛ばされた。 そこには、黄金の騎士のアバターが立っていた。 「やぁ、君がキジ太郎だね」 騎士の頭上に表示されるユーザーネームには《キャメロット》と記されており、名前の初めに星マークが付いている。 コミュニティ作成者の証だ。 つまり… 「あなたが此処のリーダー…ですか?」 「えぇ、キャメロットと名乗らせていただきます。ようこそ、ペリメトロスへ」 「その…ペリメトロスって何なんですか?気になってたんですけど」 出会って早々、キジ太郎は我慢できずに質問してみた。 聞き馴染みのないその言葉が、ずっと気になっていたのだ。 「何でしたっけ…ギリシャ語か何かで『円』とかそういう意味でしたね。みんなで輪になって超越者を撲滅しようって感じで付けたんです」 なるほどギリシャ語。 キジ太郎は特に口にはしなかったが納得した。 確かに語感は、ギリシャ語のそれである。 だが、そこでもう一つの疑問が浮かぶ。 いや、正確に言うと「復活した」。 「その『撲滅』なんですけど、一体どういう事なんですか?確かに僕は超越者に良い感情は抱いていない。でも、一体具体的に何をやろうとしているんですか?」 キジ太郎の質問に、先程はすぐに答えたキャメロットが黙り始めた。 黙るキャメロットにキジ太郎が不信に思うと、キャメロットから小さな笑い声が聞こえた。 「ハハッ…失礼。少々意外な質問だったもので」 「そう…ですか?」 言うほど意外な質問だろうか。寧ろコミュニティ名の由来よりも妥当な質問だと思うのだが。 そうキジ太郎が訝しむが、アバター越しでそんなことが伝わる訳もなく、キャメロットは平然と話を続ける。 「言葉の通りですよ。超越者が現れ次第、奴を殺します」 殺す ゲーム内でもたまに聞いてしまう言葉だが、キャメロットの放ったそれには本気度が伝わった。 そのあまりに物騒な声圧に、キジ太郎は少し引いてしまう。 「こ、殺すって…それってゲーム内の話…」 「どうでしょうね?少なからず奴らは、ゲームの出来事を現実に反映させることが可能なほどの影響力を持っている。ご存じでしょう?」 キャメロットの言葉に、キジ太郎…いや、宇佐美の脳裏に動けなくなった飛鳥の姿が過ぎる。 「え、えぇ…まぁ…」 「それほどの影響力を持つ超越者…果たしてその影響力は、超越者自身にも与えてしまうものなのか…」 そこまで言って、キジ太郎は分かってしまった。 このユーザーの考えていることが。 「つまり…ゲーム内とは言え、超越者を殺せば…」 「そのユーザーも死ぬ…かもしれません。もちろん仮説ですが」  ◆ ◆ ◆ ◆ 宇佐美はゴーストゲームにログインしていた。 果実と雛鳥を合わせた様な成長期のホログラムゴースト・ポームモンの姿で、ロビーでとある人物が来るのをただただ待つ。 あの後、キャメロットの指示で一度ペリメトロスのメンバーとフリーマッチを行う事になったのだ。 公式戦にも出る宇佐美の実力を知らない訳では無い。だが、キャメロット曰く「通過儀礼みたいなもの」ということらしい。 何はともあれ、これをクリアすれば無事ペリメトロスに入れるという訳だ。 しかし、同時に不安でもあった。 ペリメトロスに入れるかどうかの不安ではない。 ペリメトロス自体に対しての不安だ。 宇佐美にだって、超越者に対する憎しみはある。 だが、ペリメトロスの醸す空気は何やら危険なものを感じる。 「宇佐美はいつも冷静だよな」 友達に、よくこんな言葉をかけられる。 確かに、我ながらかなり冷静に立ち回れている方だと思う。 だからこそ、ゲームだって冷静な立ち回りが特に要求されるであろう囮役によく抜擢されるし、宇佐美自身もそれが性に合っている。 その冷静さは、言うなれば直感から来るものが多かった。 一瞬冷静さを欠けそうになった時、自然と自らを俯瞰して見始める。 そしてその視点から自分を見る事で直感が働き、宇佐美はそれに従って行動する。 もちろん、それがいつも正しい訳ではないのだが、この直感により頭が一瞬で冷静になって考えを纏めることができるので、自分のこの性質については我ながら助かっているつもりだ。 そして今、その直感が言っている。 ペリメトロスは危険だと。 「お待たせしました」 後ろから段ボールを全身に被った同じく成長期のホログロムゴースト・バコモンが話しかけてきた。 その頭上には《89番裏口》と記されている。 彼をペリメトロスに誘ったあのアカウントだ。 「まさかキジ太郎さんと一緒に戦えるなんて夢にも思っていませんでしたよ。まぁキジ太郎さんの事です。いつも通りやっていただければ問題ありませんよ」 恐らく宇佐美…キジ太郎の緊張を解そうとしているのだろう。 だが生憎、キジ太郎のこの緊張は面接から来るものではない。ペリメトロス自体から来るものだ。 しかしそんな事、ペリメトロスのメンバーである彼に伝えたところで良いことは無いだろう。 それが分かっているからこそ、キジ太郎は「そうだと良いんですけどね」と曖昧な返答をして、89番裏口とチームを組み、フリーマッチモードの入口へと向かった。  ◆ ◆ ◆ ◆ 【Ready】 キジ太郎の目前に、その文字が大きく表示された。 2人チームでのフリーマッチモード。 最大5チームの合計10人で行うバトルロイヤルであり、予め他プレイヤーとチーム登録をして参加するのもあり。登録せずに即興でAIにチーム登録され初めての相手と一緒に戦うのもありのゴーストゲームで最もポピュラーなモードである。 それ故に、10人のプレイヤーが集まるのは一瞬だった。 【Ready】の文字の後の3秒間、カウントダウンと共に参加メンバーが画面一杯に表示される。 《キジ太郎》《89番裏口》 《モップ大王》《むらぴー》 《虎汁》《野生のたぬきち》 《ちかおま》《TOUCH》 《飛鳥》《園長》 「……ん?」 ある筈の無い、見慣れた名前が見えた。 【GO!】 頭が混乱を始めた直後、無慈悲にもゲーム開始のアナウンスが鳴る。 『キジ太郎ちゃ〜ん。もう始まってるんですけど〜?』 サポートAIのヒカリちゃんの声が聞こえる。 相変わらず神経を逆撫でさせる様な喋り方ではあるが、キジ太郎自身はもうこれに慣れた。 キジ太郎は頭を回し、ワクチン、トリ、リュウのブレイブポイントの場所を確認する。 「……よし!行ける!89番さん!ワクチンとトリのブレイブポイントは僕にください!あとリュウも少しだけ!」 「分かりました!」 相棒である89番裏口の返事を確認し、キジ太郎はステージを駆け巡りながら順調に目当てのものであるワクチン、トリ、そしてリュウのブレイブポイントを集めていく。 基本的に進化先はランダムと言われているが、ずっと使っているキャラなので、どのブレイブポイントをどれくらい集めればどのホログラムゴーストになるのかは大体頭の中に入っている。 キジ太郎の思惑通り、ポームモンの姿にノイズが走り、彼の姿は火の鳥とも言える成熟期のホログラムゴースト・バードラモンへと進化する。 「これで…」 バードラモンとなったことで、キジ太郎は空へ羽ばたくことが可能となった。 キジ太郎は目前で始まっているバトルを無視して、バードラモンが上昇できるギリギリの高さまで飛ぶ。 『えぇ〜?もう戦線離脱〜?臆病者〜!』 『キジ太郎さん!?どうしたんですか!?』 ヒカリちゃんと相棒の89番裏口の声が聞こえるが、キジ太郎はそれを無視してステージ中に目を向けた。 「何処にいるんですか…!飛鳥さん!」 キジ太郎がバードラモンに進化先を選んだ一つの理由。それはステージの全体をこうして眺めることが出来るからだった。 これならきっと、いくら広大なステージでも飛鳥を見つけることが出来る筈だ。 あの、全身麻痺となってゲームすら参加できない筈の飛鳥を。 「おやおや、貴方が焦るなんて珍しいですね」 背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。 キジ太郎は背後にある高層ビルの屋上へ目を向ける。 そこにいたのは、ヒョウ柄の布を纏った緑色の子猿の成長期のホログラムゴースト・コエモンだった。 そしてそのコエモンの頭上には、それを操るプレイヤーの名前が。 「園長さん…!」 そう、それはキジ太郎と飛鳥と同じチームを組んでいたプレイヤー《園長》であった。 ゲームが始まる3秒間、そこで表示されたあり得ない名前《飛鳥》と並んでいたもう一つの名前。 キジ太郎にとっては、その名前の登場も実に不可解なものであった。 「一体…何がどうなっているんです!さっきゲームが始まる前に出たあの名前…飛鳥って…」 「えぇ、貴方のご存じの…あの《飛鳥》さんですよ」 園長は平然とそう答え、次に「ほら」と言って地上に目をやる。 園長の視線の先を見ると、サイと恐竜を合わせた様な成熟期のホログラムゴースト・モノクロモンとしてステージを暴れる飛鳥の姿が見えた。 「体は動けなかった筈…。もしかして、症状が治った…?」 僅かな期待から、キジ太郎はそう答えた。 そうだ。本当はそうであって欲しい。 奇跡的に回復して、回復祝いに園長と一緒にゴーストゲームを楽しんでいる。 ただ、それだけであればどれだけ嬉しいことか。 しかしそんな希望も、園長の静かな笑いにより崩れ去る。 「残念ですが…超越者とやらが起こした症状は、そう簡単には治りませんよ。僕がちょっと手伝って、この世界に飛ばしてあげているだけです」 「世界に…飛ばす…?」 「そろそろ…ですかね」 意味深な園長の発言に気を取られていると、さっきまでモノクロモンだった飛鳥は完全体のトリケラモンへとなっていた。 何がそろそろなのかは分からないが、何か嫌な予感がする。 キジ太郎はバードラモンの技である『メテオウィング』を放つ。 これは広範囲に火球を飛ばす技であり、この広範囲攻撃こそがキジ太郎が進化先にバードラモンを選んだもう一つの理由である。 飛鳥を中心に起きた上空からの広範囲攻撃により、飛鳥の側にいたプレイヤーが彼女から離れた。 キジ太郎はその隙を見逃さず、彼女の目前に着地する。 「飛鳥さん…飛鳥さんなんですね!一体……一体何がどうなって…!」 「キジ……太郎さん…」 飛鳥は一瞬だけキジ太郎の方を見て、すぐに彼から目を逸らす。 「飛鳥さん!無事なんですか!?どうなんですか!?」 何も答えようとしない飛鳥に、キジ太郎は痺れを切らしてさらに問いかけた。 『キジ太郎ちゃん、何やってるんですか〜?戦うんならさっさと戦ってくださ〜い!』 「あぁもう、うるさいなぁヒカリちゃん!」 そんな中で、ヒカリちゃんが話しかけてくる。 流石のキジ太郎も我慢の限界で、サポートAIに文句を漏らした。 その瞬間、飛鳥はキジ太郎に向かってツノを突き出した体勢で突進してきた。 少し掠ってしまったが、キジ太郎はギリギリでその攻撃を避ける。 「あ、飛鳥さん!」 キジ太郎は咄嗟に名前を叫んだ。 「黙れぇ!!!」 キジ太郎の呼びかけを、飛鳥は声を荒げて遮った。 そして振り返り、キジ太郎を睨む。 「園長さんが言ったんだ…。何も考えずに暴れろって……そうしたら、私はまた自由になれるって…」 「暴れろ…?どういう…」 「意味なんて知らない!でも…私はまた動きたい!たった1日でも耐えられなかった…。あれが一生続くなんて……死んでも嫌なんだああああああああああああ!!!!!!!」 再び飛鳥はツノを突き出してキジ太郎に突進する。 今度こそ当たる。 そう思ったが、二人の間に頭部がショートケーキで出来たホログラムゴースト ・ショートモンが文字通り飛んできた。 「えっ!?ちょっ!まっ!」 頭上に《ちかおま》と表示されたショートモンは、目の前に技を発動させたトリケラモンが迫っている事に気付いたが、誰かに投げ飛ばされたその状態で出来ることなどなく、トリケラモンの技『トライホーンアタック』に直撃して呆気なくクリーム色の卵となり敗北した。 ショートモンという壁が出来たおかげで、技の直撃を避けることができたキジ太郎は、すぐにこちらの技である『メテオウィング』を繰り出した。 大したダメージは得られない。 そんな事は分かっている。 だが、攻撃を受けたことで一瞬とはいえ隙が出来る。 キジ太郎はその隙を使って、再び上昇して飛鳥から距離を取った。 「飛鳥さん…」 「頼むから……邪魔をしないでえええええええ!!!!!!!!!!」 飛鳥は音割れがするほどに雄叫びを上げる。 すると、トリケラモンの飛鳥の周囲に赤いオーラが現れ始めた。 「何だ……これ…」 「くくく…」 困惑するキジ太郎の耳に届いた笑い声。 そちらに意識を向けると、先ほどまでビルの屋上にいた筈の園長が地面に立っていた。 何か良からぬ事が起きている。 そして恐らく、その黒幕は…… 「園長おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」 キジ太郎は、バードラモンの鋭利な爪を園長に突き刺そうと急降下する。 たかがゲーム。 そんな事をしても、精々このプレイヤーがゲームオーバーになるだけだ。 だが、それだけでもしないとキジ太郎の心は耐えられなかった。 成熟期のバードラモンと成長期のコエモン。 普通に考えて、バードラモンのキジ太郎が優勢だった。 その筈だった。 「うるさい」 コエモンだった園長にノイズが走ったと思うと、次の瞬間そのアバターは完全体のマクラモンへと変わる。 そしてマクラモンとなった園長は、回し蹴りをして迫りくるキジ太郎をビルの壁に叩きつけた。 「な、何っ…!?」 『キジ太郎ちゃん!?何アレ…!いきなりSPがすっからかんになってるじゃん!』 ヒカリちゃんの言う通り、キジ太郎のSPはさっきの回し蹴りだけでいきなり0になっていた。 しかしそれよりも驚くべきは、園長自体だった。 成長期の次の進化系は成熟期のはず。 それなのに園長は、その成熟期を飛ばしてホログラムゴーストの最終進化である完全体になった。 そして、まだ気になる点がある。 「園長……あんた…ユーザーネームは何処に…」 そう、マクラモンになった瞬間、まるでガラスが砕ける様に《園長》と記されたユーザーネームが消えてしまったのだ。 園長は「う〜ん」と少し悩む素振りを見せながら、キジ太郎に近づく。 「名前なんて、そんなものに意味は無いでしょう?まぁ、そういう価値観も人間の好きなところではありますが」 「何を……言って…」 まるで自分が人間ではない様な言い方。 まさかとは思いつつ、キジ太郎は信じたくなかった。 長い間、一緒に戦ってくれたチームメイトの正体が化け物なんて。 「僕はマクラモン。ホログラムゴーストなんていう紛い物じゃない。正真正銘のデジモンであり、四聖獣に使える十二神将(デーヴァ)の一人」 「デーヴァ…?それって…」 「でも、我ながら《園長》という名前はよく考えているでしょう?僕はね、人間が好きなんですよ。先ほどの名前、そしてファッションという文化はとても素晴らしい。だから、本当は何れ人間を管理してみたい。人間園の長になりたい。故に…《園長》」 【デーヴァ】という名前に引っかかるキジ太郎。 そんな中、園長は「ほら」と飛鳥の方を指差す。 「始まりますよ」 園長に言われるがまま、キジ太郎は飛鳥の方を見た。 すると、トリケラモンの飛鳥の体の所々が膨張を始めていく。 「な、何が起きて…」 さっきから、全く状況が掴めない。 しかし、何か良くないことが起きている事だけは分かる。 そして、トリケラモンの体は、爆ぜた。 周囲には炎が立ち込め、爆発の中心にいた筈のトリケラモンの姿は無かった。 代わりに、赤い鳥の姿が現れた。 バードラモンの様に火に包まれている訳では無い。 その鳥には、大きな翼が四枚あった。 その鳥には、赤い目が四つ付いていた。 その鳥には、思わず拝みたくなる程の威圧感を放っていた。 「遂にお目覚めになりましたね。スーツェーモン様」 「スーツェーモン…?」 園長の言葉に、キジ太郎が訳も分からず復唱する。 スーツェーモンの頭上には、マクラモン同様にユーザーネームが表記されていなかった。 だが、直前の状況から考えて、このスーツェーモンとやらがあの飛鳥であることは確かだった。 「まさか…飛鳥さんが超越者に…?」 『ヤバヤバ!ヤバいってキジ太郎ちゃん!あのマクラモンもそうだけど、あの鳥もっとヤバいよ!』 ヒカリちゃんが今まで聞いた事が無いほどパニックになっていた。 だが、その気持ちもよく分かる。 キジ太郎自身も、何が何やら困惑しているのだ。 そんな彼の前に、紫の翼を生やし、両手にはサイボーグ手術が施された様な足の無い竜の姿をした完全体のホログラムゴースト・メガドラモンが現れる。 そのメガドラモンの頭上には、《89番裏口》の文字が。 「超越者…!まさかこんなところで会えるなんて…!」 89番裏口は、言うや否やスーツェーモンに向けて両腕からミサイルを発射する。 その時、キジ太郎の脳裏に超越者を倒した時に起こるかもしれないキャメロットの仮説が響いた。 『ユーザーも死ぬ…かもしれません』 「飛鳥さんが…死ぬ!」 89番裏口が放ったミサイルが、スーツェーモンに直撃する。 「やめろ!やめてください89番さん!」 「何を言っているんです…?ゲームから抜け出すわ、超越者に怖気づくわ…見損ないま」 89番裏口が言葉を言い終わるより先に、爆炎の中から現れた黒い爪が彼の頭を掴んだ。 「なっ!これ!何!」 その爪はスーツェーモンのものであった。 「へぇ…紛い物にしては威勢が良いじゃないか」 スーツェーモンはそう言って、鷲掴みした89番裏口を見下ろす。 その声は確かに、飛鳥のものだ。 「この!離せ!化け物!」 「下等動物が…」 「スーツェーモン様」 爪の力を強めようとしたスーツェーモンに、園長・マクラモンが声をかける。 「お言葉ですが、今はまだ他の四聖獣が覚醒していない状態。人間界に多大な被害を及ぼすと、後々面倒かと」 「……なるほど。なら仕方ないね」 そう言って、スーツェーモンは再び視線を89番裏口に向ける。 「壊すのは心だけにしてあげる。煉獄爪(れんごくそう)」 瞬間、89番裏口を掴んでいた爪に炎が纏った。 「やめろ!」 キジ太郎は叫んだが、もう既に遅かった。 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 89番裏口の全身は燃え上がり、悲痛の叫びを上げて橙色の卵となった。 そしてその卵は地面に落ち、バラバラに砕け散った。 「ホロタマが…砕けた…」 『嘘……あり得ないんだけど…』 ホログラムゴーストが負けるとホロタマとなり、戦闘不能となる。 だが、それが砕け散ることなど、ゲームのプログラム上存在しない筈だった。 「そんな…飛鳥さん!」 キジ太郎は、飛鳥の名前を叫んだ。 それを聞き、スーツェーモンは彼の方へ視線を向ける。 「何だ、まだいたのか。キジ太郎」 「飛鳥さん…やっぱり、飛鳥さんなんですね。どうして…何が起こったんですか!僕、さっきから意味分からなくて…」 このスーツェーモンが、飛鳥の記憶を持っているらしいことは分かった。 だからキジ太郎は率直に訊いてみた。チームメイトだった飛鳥ならきっと答えてくれる、そう信じていたから。 「分からないならそれで良い。下等動物は下等動物らしく、ただ耳障りな鳴き声でも漏らしておけ」 「……え…」 飛鳥の答えに、キジ太郎はただ立ち尽くすしかなかった。 そしてスーツェーモンとマクラモンを中心に炎の渦が起きたと思うと、二人の姿が消えていた。 【エラーが発生しました。ゲームを中断します】  ◆ ◆ ◆ ◆ 「くそッ!」 宇佐美は中止になったゴーストゲームの機体から出て、悪態をついていた。 一体さっきから何が起きているのか全く分からない。 園長は自分をマクラモンと言っていた。 確かにマクラモンは、園長が得意とするホログラムゴーストだ。 園長が実は、そのマクラモン自身だということか? だとして、それは一体どういう意味なんだ? 宇佐美は一旦落ち着く為に、自動販売機で炭酸の缶ジュースを買い、近くにあった椅子に座って一飲みした。 ゲームセンターに設置されたモニターに、ゴーストゲームの宣伝映像が流れる。 そしてそのモニターから、開発会社である「DEVA」という名前が映る。 「デーヴァ…」 園長…いやマクラモンは自分をデーヴァの一人と名乗っていた。 そしてそのデーヴァというのは、ゴーストゲームを作った会社の名前と全く同じだった。 これは、果たしてただの偶然なのだろうか。 悩む宇佐美のデバイスが鳴った。 ペリメトロスからだろうか。 「……ん?」  ◆ ◆ ◆ ◆ ゆったりとした落ち着く音楽が流れる空間。 「ご馳走様でしたー」 「ありがとうございまーす」 二人組の女性がその建物から出て、カウンターでコップを拭いていた30代ほどの男性が礼を言う。 何処にでもある喫茶店の、何処にでもある光景。 普通はそう見えるものだ。 「マスター」 「だからマスターじゃねぇって」 厨房の奥から、ノートパソコンを操作しながら若い男が現れた。 マスターと呼ばれた男は若い男の言葉を訂正させるも、すぐに「どうした?」と会話を促す。 「そろそろ時間です」 「あぁ…でも来てくれるかなぁ…」 「どうでしょうねぇ…俺もただ連絡しただけですし、ゲーム中もロクに話してないんで」 若い男はそう言って、カウンターに座る。 「でもあの感じ…貴重な情報源にはなりそうなのは確かですね」 「そっかぁ…。ねぇねぇ羽山(はやま)くん、彼って君のファンだったりする?だったら来るんじゃない?」 マスターと呼ばれた男にそう言われ、若い男・羽山は特に照れもせずに「さぁ?」とだけ答えた。 その時であった。扉が開き、それを知らせる鈴が鳴ったのは。 「あ、いらっしゃいませー!」 顔を覗かせたのは宇佐美であった。 宇佐美は辺りを見渡した後、外にあるその建物の看板を見る。 「あ、あれ…?間違え…ました……?」 「間違ってませんよ」 困惑する宇佐美に、羽山がノートパソコンを閉じながら立ち上がる。 「……あなたが……《野生のたぬきち》さん?」 「おぉ〜流石は有名人」 マスターと呼ばれた男は、まるでおちょくる様に羽山にそう言った。 しかし、羽山はそれに対して特に反応はせず、宇佐美に近づく。 「はい。メッセージ読んで頂けたみたいで何よりです。《野生のたぬきち》改め、羽山善邦(はやま よしくに)です。初めまして」 《野生のたぬきち》 顔は非公開ではあるが、ゴーストゲームではかなりの腕前を持つ強豪プレイヤー。 しかし大会などには興味は無い様で、たまに野良でゲームに参加しているらしい。 そしてそのプレイの仕方も動画で投稿しており、今や人気動画配信者の一人でもある。 あのゲームの後、宇佐美に届いたメッセージは彼からのものだった。 《飛鳥》と《園長》という名前に意識が向いていて忘れていたが、確かにあのゲームに《野生のたぬきち》の名前があった。 つまり、彼はあの一部始終を見て宇佐美に連絡を送ったのだ。 「……キジ太郎改め、宇佐美入寿です。あのメッセージ…ここは本当に超越者のことを…」 「えぇ本当です。ここは超越者のことについて調査している」 「超越者の撲滅ではなく?」 「だったらペリメトロスに入りますよ」 どうやら、ペリメトロスの存在は知っている様だ。 知りつつペリメトロスに入っていないという事は、撲滅が目的ではないというのは本当の様だ。 「気になった事はどうしても知りたいタチでしてね。飛鳥っていうユーザーと貴方が何か気になる話をしてたんで、助けてみたんですが……まさかそのユーザーが超越者になるなんてね」 「助けた…?」 宇佐美は羽山の言葉に首を傾げる。 あのゲーム中、助けられた様なところはあっただろうか? 「ほら、ショートモンが盾になってくれたでしょう?あれ、俺が投げた奴なんですよ」 「あぁ!アレ!」 確かにそんな事があった。 ショートモンのプレイヤーには気の毒ではあるが、アレが無いと宇佐美は飛鳥がスーツェーモンになるあの瞬間を見れなかったかもしれない。 まぁ、それが良いのか悪いのかは分からないが。 「とにかく、俺達は知りたいんです。超越者のことやその他諸々のこと。貴方も同じでしょう?」 羽山に言われて、宇佐美は頷く。 飛鳥までも超越者となった。 そんな飛鳥すらも最悪殺そうと企むペリメトロスとは、到底一緒に活動する気にはならなかった。 それよりも、飛鳥の身に何が起きたのか知りたい。園長の正体、そしてこのゴーストゲームそのものについても。 「話は纏まったみたいだね」 マスターと呼ばれた男が羽山の隣にやってきた。 「所長の府内寧美(ふない ねいび)だ。ようこそ【府内探偵事務所】へ」 手を差し伸べた府内に、宇佐美は握手で答えた。 そして、ここが目当ての探偵事務所だと知り、つい宇佐美を口を滑らせる。 「やっぱり探偵事務所なんでねここ。どう見ても喫茶店ですけど」 「コーヒーが美味しいって評判でこうなったんだよ。ね?マスター」 「マスターじゃなくて所長な!?」  ◆ ◆ ◆ ◆ 多綱は自宅でパソコンを操作していた。 ゴーストゲームに対して、何か怪しい動きは無かったか。 それをとにかく探していた。 昨日、武藤稲奈という女性から言われたあの言葉がずっと気になっていたのだ。 「それで…どうして僕まで呼んだんですか?」 始まりは多綱自身からの質問だった。 正直信じられないが、超越者と呼ばれるもののコミュニティが存在するらしいことは分かった。 その内の一つ、EULErのリーダーが今目の前にいる武藤だということも。 「彼が呼ばれた理由は分かります」 そう言って多綱は、隣に座っている米咲を見た。 「彼も今や超越者だ。大方、そのEULErとやらにスカウトしたいってところでしょ?」 「まぁ…大体合ってるね」 武藤は紙コップに入っている水を飲む。 「でも、俺は違います。俺は超越者じゃない。あなたも言ったでしょ?俺は部外者だって。なのに、何で俺にまでこの話を…」 多綱の質問はご尤もだった。 それを聞き、米咲も静かに頷く。 そして水を飲み終えた武藤は、ジッと多綱の目を見る。 「君は…超越者誕生の瞬間を他に知っているか?」 「え?」 質問の意図がよく分からなかった。 多綱が混乱する中、武藤は話を続ける。 「超越者の数は決して少なくはない。なのに、誰もその超越者誕生の瞬間を見ていないんだ。今の時代、ネットに一つぐらいは転がっても良いのに……変だとは思わないか?」 「ま、まぁ…言われてみれば確かに…」 「今回の件も動画は出回っているが、米咲君が超越者になっている瞬間は映っていない。《炭水化物》というプレイヤーが敗北し、次に超越者が出現したという流れになっている筈だ」 多綱は、ネットに流出している動画を確認した。 武藤の言う通り、確かにその様な動画に改変されていた。 「本来、その場にいたとしても人間が超越者…つまり究極体に進化した瞬間は認識されない。なのに君は、今もハッキリとその瞬間を覚えているだろう?」 多綱は思わず米咲を見た。 確かに覚えている。いや、忘れるはずがない。 この米咲が超越者になった瞬間を。 「だから君も関係者として呼んだんだ。だが…どっちなんだろうね」 食事を終えた武藤はトレーを持って立ち上がり、二人の顔を見つめる。 「認識させた究極体か、認識する人間か……果たしてどっちがイレギュラーなのか」 そう言って、武藤はその場から戻ってこなかった。 最後の武藤の言葉、あれが多綱の頭から離れなかった。 だからこうして、多綱は超越者誕生のことをパソコンで調べていた。 一つでも目撃情報があれば、それは何らかの手掛かりになる筈だ。 その瞬間、多綱の目にあるネットニュースが流れ込んできた。 【ゴーストゲームに未知のホログラムゴースト 出現。噂の超越者か】 どうやら、今日のゴーストゲームで赤い鳥の姿をした超越者が出たらしい。 それも完全体のホログラムゴーストから変化したという目撃情報もあった状態で。 「これって……超越者誕生の瞬間じゃ…」 ネットニュースになると言う事は、この事態を認識した者が一人以上はいるということだ。 生憎動画は存在しないが、その瞬間を見た人間は確かにそれなりにいた様だ。 「認識されないんじゃねぇのかよ…」 多綱は頭が痛くなり、全体重を椅子に預けた。 一体、何がどうなっているのだろうか。 この意味不明な事態に、多綱は頭を悩ませるだけであった。  ◆ ◆ ◆ ◆ 八神ヒカリは、相変わらず路地裏を徘徊していた。 名前に反して日光が苦手な彼女にとって、路地裏は気楽な場所だ。 建物の影の中で寝ていると、太陽が動いてその影が突然無くなっていた時には焦ったものだ。 だからこそ、目に入ったゴミ箱にダイブしてしまったのだが、それがキッカケでこの路地裏という最高の空間を見つけることができた。 「キミ、こんなところで一人は危ないよ?」 突然、後ろから男性に呼び止められた。 男性は青い帽子を被り、白のTシャツに青いジーンズジャケットを羽織っていた。 「僕は小根明日(こね みらい)。小さな根に、明日って書いて『みらい』って読むんだけど、分かるかな?」 帽子の男・小根は優しい笑顔を見せる。 しかし、八神はそんな小根をジッと見て彼の顔を指差す。 「違う。あなたは、マクラモン」 そう言われた瞬間、小根は顔色を全く変えないまま、自身の体にノイズを走らせる。 そして小根…《園長》は、その体をキジ太郎達にも見せた真の姿であるマクラモンのものへと変えた。 「流石はデジタルワールド様」 マクラモンは八神ヒカリに手を伸ばす。 だが、まるで間に壁でもあるかの様に、バチン!と衝撃が走り彼女を掴むことが出来なかった。 そして気が付くと、彼女の姿は何処にもいなくなっていた。 マクラモンは小根の姿に戻り、路地裏を吹きぬく風に帽子が飛ばされないようにそれを手で押さえる。 「やっぱり…まだ掴めないかぁ…」 小根は特に焦る様子を見せず、そう言って笑みを浮かべるだけであった。 第二話『Q?』完 誰得あとがき ってな訳で、ユキサーンさんの『Zero/oneを僕達は行く』の第二話を書かせていただきました。 第一話にマクラモン出て、さらにはゲーム中は本来完全体までしかいないという設定で「これワンチャン、デーヴァ出せるんじゃね?」と思ったのがキッカケで作ろうと思ったので、ユキサーンさんが用意してくださった米咲や多綱の出番がめっちゃ少なくなってしまいました。 続きはいつ書くことになるかは分かりませんが、イメージとしては米咲・多綱・宇佐美の三人で話を回せたらなと思っています。 まぁ話を回すキャラは増えていきそうですが。 これ以上増やしてどうすんのとか言わない。 せっかくのユキサーンさんが書いた話なのに、あまりその色を出せなかったのが反省ポイントですね。 あとサポートAIのヒカリちゃんの存在忘れてたので、急遽キジ太郎のヒカリちゃんのシーンを付け足したので、何か変になってるかもしれません。 え?それ以外にも変なところあるだろって?うるせぇうるせぇ!素人だぞこっちは!!!(謎の自信) ってな訳で、とにかく情報量が多かったと思うので、元ネタ解説も交えた紹介を。 と言ってもキャラまで紹介すると文字数大変になりかねないので、組織名だけ言いますね。出来る限り手短に。 【-a(マイナスアルファ)】 名前だけ出て構成員が1ミリも出ていませんが、とりあえず解説です。 簡単に言うと究極体の力を使って好き勝手やる半グレ野郎共です。主な敵枠ですね。 名前の由来はシンプルにAIにAを引くと虚数を意味するiになるのでこういう名前になりました。 虚数ってワードが出てきて「虚数!良いよね虚数!」ってなったのも書くキッカケの一つです。 【EULEr(オイラー)】 -aとは違い、究極体の力を平和の為に使うコミュニティです。 劇中では「Evolved that Undoes the Last Error(最後のエラーを正す進化体)」の略であると説明されてますが、メタ的な由来は俺の推しの数学者レオンハルト・オイラーからです。 オイラーさんは色々な数学的発見をした凄い人なんですが、その中で虚数関係のものがあったのです。 長年、数学者の間で「虚数ってなんやねん。ふざけんな」と言われてたのですが、オイラーさんが「待って震えてる」と言って出したのが「オイラーの等式」と言われる「この世で最も美しい数式」であり、これには虚数が使われていたのです。ここからガウスを始めとする数学者達が「虚数ってすごくない?」と思う様になり、虚数が数としての権利を取得していく訳なのですが……まぁ要は虚数が今の立ち位置にいられたのはこの人のおかげという訳なので、この名前になりました。 【ペリメトロス】 超越者(究極体)撲滅を企むコミュニティ。 メンバーは普通のプレイヤーで占めています。当然ですね。 由来はリーダーのキャメロットが言ってますがギリシャ語です。 キャメロットは「円」と言ってますが正しくは「円周」らしく、これがあの円周率πの由来とも言われています。 虚数(ホログラムゴースト)側ではないので、実数由来が良いと思い、かと言って実数由来って数のほとんどやんけと思ったので、数学定数として有名なπを採用しました。 【府内探偵事務所】 超越者やゴーストゲームの謎を調査する探偵事務所。コーヒーが美味いと専らの評判のため、ほぼ喫茶店となっています。 由来はペリメトロスがπを使ったので、それに並ぶ定数としてネイピア数eを使いました。 πが3.14……でeは2.71……なので、この最初の3桁「271」で「府内」って感じですね。 所長の下の名前が「寧美(ねいび)」ですが、まぁこれもズバリ「ネイピア数」からですね。 本当はネイピア数は前述の通りeと書かれるので、「え」から始まる名前にしようかと思ったんですが、どうしても良い感じのが思いつきませんでした。 ちなみに余談ですが、先ほど言った「この世で最も美しい数式」とされる「オイラーの等式」は、虚数はもちろん、円周率πやネイピア数e、そして自然数1と0だけの数を使った式でして、これがもうすごk(オタク特有の早口 あと最後のマクラモンこと小根明日こと園長の衣装が第一話と違いますが、これは彼が服が好きなオシャレキャラなので、衣装は毎日異なりますよという意味合いです。 非オシャレ人間がオシャレキャラを小説で書くとは無謀なことをしますね。正気か? ってな訳で、ここまで読んでくださり有難うございます。 そしてユキサーンさん、あまり上手く書けなかったかもですが、こんな素晴らしい題材を用意してくださり有難うございます。 それでは
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てるジノ坊主
2023年11月30日
In デジモン創作サロン
高架下の原っぱで、サッカーボールが宙を舞う。 原っぱで少年が一人っきり、ボールのリフティングを続けていたのだ。 そう、続けて「いた」。 ボールは地面に落ち、少年は深いため息を吐く。 針恵小学校5年生の藪内壇(やぶうち だん)は、ボールを見つめてしゃがみ込んだ。 「やっぱり……何か違う」 壇はそれだけ言って、ボールを思いっきり地面に叩きつけた。 ボールはリバウンドして、彼を飛び越え後ろへ飛んでいく。 「痛っ!?」 突然、後ろから誰かの声が聞こえた。 壇は後ろにいた誰かにボールがぶつかってしまったのだと気付き、慌てて振り返った。 「ご、ごめんなさ……って…あれ?」 確かに声が聞こえたというのに、後ろには誰もいなかった。 壇は困惑しながら辺りを見渡す。 「き、気のせい…?」 「んな訳あるかああああああ!!!!!」 「うわぁあ!?」 突然目の前に聞こえた大声に、壇は驚き尻餅をつく。 そしてその直後、目の前に見た事がない生き物が文字通り姿を表した。 それは、迷彩模様のトカゲの兵士であった。 〜〜〜〜〜 駅近のカラオケ店で、紫のパーカーを着た20代ぐらいの女性がケータイを見て部屋番号を確認していた。 「403…403……あ、ここか」 パーカーの女は目当ての部屋を見つけ、そこに入る。 少人数用の狭い部屋で、薄暗い照明とカラオケ機器から漏れるライトにより、少し幻想的な空間となる。 画面には、今売れっ子の人気バンドの楽曲紹介を含めたミニコーナーが流れていた。 そんな部屋のソファの端っこに、20代後半か30代前半と思われる白スーツの男が携帯ゲームを黙々としている。 「潮塁(うしお るい)さん……ッスか?」 白スーツの男・潮塁は、パーカーの女の言葉に対して何も返さず、ただ右手の掌を見せた。 ゲーム中だから少し待て、という事だろうか。 しばらくすると塁はゲームをテーブルに置き、天を仰いだ。 ゲーム画面を覗き込むと、どうやらやっていたゲームは格闘ゲームで、1P…つまり塁が操作していたキャラはコテンパンにやられていた。 挙げ句の果てには、画面に大きく映る勝利を伝える文字。 [PERFECT!!] どうやら完敗だった様だ。 「強い人と当たっちゃったんッスね」 「あぁ…最近のコンピュータは強いな」 「相手コンピュータだったんだ」 まぁレベル設定によれば強いコンピュータも沢山いる。きっと最高レベルにしていたのだろう。 でないとあれ程忙しなく操作していたのに、完敗など早々出来るものではない。 「それで君は…」 「あ、ハイ! 本日付けで配属となりました! 白鳥縁奈(しらとり えな)です! って言っても何に配属されたのかは知らないッスけど…」 「当然だな。うちは言わば国家公認の秘密組織。そう何処何処に配属だなんて、公には言えない」 そう言って塁は、部屋に置いてあるタブレットを叩く。 すると画面から、長ったらしい漢字が表示される。 「電脳異次元世界解析機関、電脳異次元存在病毒因子化対策課。通称、電子課。その排除係が俺の…君の配属先だ」 「はぁー…それでその…なんちゃらかんちゃらかんちゃらって何ッスか?」 極秘機関への配属という最上級のビッグイベントを前に、縁奈は軽い口調で続きを促す。 しかし塁は、そんな彼女の態度を気にも止めず、縁奈の質問に答える。 「彼等は自分で、デジタルモンスター…略してデジモンと呼んでいる」 「自分で?話せる奴なんッスか?」 「あぁ、まずはそのデジモンについて語るとするか」 〜〜〜〜〜 始まりは日本だとされている。 「されている」という曖昧な言い方なのには理由がある。 それは排除係のエリートである潮塁、そして彼の上官でさえ、デジモンが誕生した時の情報をほとんど知らされていないからだ。 電子課は、ただ標的の排除と対策をすればいい。 標的が生まれた経緯など、必要最低限だけ分かっていればいい。 それが上の、国の方針なのだろう。 なので、ここからの話はさらに曖昧なものとなる。 日本で秘密裏に超スーパーコンピューターが開発された。 それを使い国は、何らかの超極秘国家プロジェクトを行っていたらしい。 そのプロジェクトにより、故意か事故か不明だが、とある異次元世界を発見。 異次元世界に住まう知的生命体は自らを「デジタルモンスター」略称「デジモン」と名乗っており、それに伴いその世界も「デジタルワールド」と呼称。 電脳異次元世界解析機関が設立され、デジモンの解析が行われた。 しかし、そこである事件が起きた。 回収していたデジモンのサンプルが原因不明の突然変異を起こしたのだ。 その変異体はまるでウイルスの様に機関のネットワークに広がった。 至急、機関はそのウイルスの排除を実行したが、一部は機関のネットワークから脱出した。 脱出したウイルスは世界中のネットワークに散らばった…と思われたが違った。 ウイルスはなんと、「実在する怪物」としてこの日本中に現れたのだ。 何故わざわざ日本という限られた島国にしか現れなかったのか分からない。 だが国はこれを好機と見て、引き続き機関とデジモンの存在を隠蔽して、この後に「ウイルス種」と分類されるデジモンを排除する業務も設けた。 それが電脳異次元存在病毒因子化対策課、電子課の誕生だ。 しかし、いくら訓練をつんだ人間でも怪物であるウイルス種を排除するのは困難だ。 そこで機関は、一度デジタルワールドに応援を要請したが、彼らはそれを却下した。 頼みの綱も切れ、悩みぬいた機関は一つの答えにたどり着いた。 デジモンを家畜化すればいい。 そのもとで生まれたのが「ワクチン種」と呼ばれるデジモンである。 なんとか捉えたウイルス種の情報を元に、ウイルス種特攻種族とも言えるデジモンを、機関が人工的に作ったものだ。 以降、電子課はワクチン種を連れ、日本中に散らばるウイルス種を駆逐することとなったのだった。 「ふ〜ん…そういうことッスか」 「そうだ。ワクチン種を使い、ウイルス種を殲滅する。もちろん、デジモンの存在も隠しつつな」 そう言って、塁は別のゲームを起動させた。 どうやらRPGの様だ。 「えっと…デジモンの存在を隠すって大変じゃないッスか?デジモンがどんなのか分かんないッスけど、今の情報社会で隠せるもんかなぁ〜」 「電脳世界を調査しているんだ。人が作った擬似的電脳世界にある情報を隠蔽することなど容易い。それに、目撃者の記憶を消すこともそう難しいことじゃない」 塁はゲームをやりながら縁奈の疑問に答える。 格闘ゲームと違って、ターン制のゲームの為にそういう暇はある様だ。 「記憶を消す?つまりあれッスか!?あの映画とかで良くあるピカーって光るみたいな奴!」 「まぁ……そんなところだ。少し席を外す」 ゲーム機を置いて、塁は部屋を後にする。 扉が閉まった後、縁奈は塁が置いたゲーム機を興味本位で覗き込んだ。 「ま、負けてる…」 塁は、ゲームが極端に苦手であった。 〜〜〜〜〜 「見逃してください忘れてくださいお願いします」 壇の目の前に現れたトカゲの兵士は、早口でそう言って土下座をする。 意味不明な生き物に意味不明な行動を取られ、壇は困惑した。 「え、えっと……その…ごめん……状況が全く掴めないんだけど……」 最初は未知の生き物に恐怖を覚えたが、あまりに綺麗な土下座姿を見ると少し恐怖心が薄れてしまう。 壇は興味本位でそのトカゲに事情を訊いた。 「えっと…オレ、コマンドラモン。何か気付いたらここにいて…それで人間からずっと追われてて……だから頼みます!見逃してください!!!」 「ちゃんと答えるんだ…。話の内容は気になる点多すぎるけど…」 「オレもよく分かんねぇんだよ!別に何も悪いことはしてない……と思うし、とにかく!殺される筋合いはオレにはねぇ!!!……はず」 「もうちょっと自信持って言ってよ。それじゃあ僕も庇いづらいって」 所々不安要素が残る話に、壇は思わずそう言い、コマンドラモンは何故か目を輝かせた。 「庇ってくれるのか!?」 「いやそういう意味じゃなくて…!」 「あ〜あ、やっと見つけたよ」 何だか面倒なことになった。 そう壇が思っていた時に、再び突然聞き覚えのない声が聞こえる。 今度ははっきりと声の主の姿が見えた。 白地のTシャツの上にアロハ柄のシャツを羽織り、さらにシルクハット型の麦わら帽子を被り、丸いサングラスを付けた見るからに怪しい成人男性だった。 「姿消すとかマジ聞いてねぇって。捜すの苦労したんだぜ?」 「あ、あの人間だ!」 コマンドラモンはその見るからに怪しい人間を見て、壇の後ろに隠れた。 「えっ!?ちょっ!?」 「お~いボク~。その怪物は危ないから早く離れた方が良いよ~」 「えっ…いや…でも…」 「でもじゃなくてさぁ」 アロハシャツの男は少し気だるげに話す。 「さっきも言ったけどそいつは危険なの。大体、その怪物守って何の得もないでしょ?」 「そ、それはそうですけど…」 壇は、自分の後ろに隠れるコマンドラモンを見つめる。 確かに、今さっき会ったばかりのこのよく分からない生き物を守ったところで自分には何の得もない。 ならば、コマンドラモンをこの男に引き渡して忘れるのが自分にとって一番なのかもしれない。 「嫌だ…死んでたまるか…」 その時、背後からコマンドラモンの震える声が聞こえた。 コマンドラモンは震えながら、ライフルをしっかり握る。 「人間。もういい。オ、オレの問題だから…オレの問題だから…オレが片付ける…!」 壇とコマンドラモンの目が合う。 壇はその瞳をしっかりと見つめ、遂に心に決めた。 「やだ」 「え?」 「は?」 壇の言葉に、コマンドラモンとアロハシャツの男は思わず声を漏らす。 だがアロハシャツの男は少し間を置いた後、大きく溜め息を吐いた。 「あっそ。まぁ良いけど。お前に拒否権はねぇから」 男はポケットからスマートフォンの様なデバイスを取り出した。 男が液晶画面に映る爆発のアイコンにタップする。 【フォーマット】 デバイスからハキハキとした電子音が流れたと思うと、そのデバイスを中心に大きな音と眩い光が起きる。 【クローキング】 「位相転換」 そして男は続けざまにデバイスの別のアイコンにタップし、それを横に大きく振った。 男を中心にブロックノイズの波が起きる。 その波に呑まれたかの様に、男とコマンドラモンは姿を消した。 突然の光と突然消えた男とコマンドラモン。 普通この状況に困惑するはずだが、壇は呆然と突っ立ていた。 壇はふらふらとその場を後にしようと歩を進める。 「それじゃあ、つまらないな」 何かが壇にすれ違った。 いつの間にか、何かしらのVRヘッドの様な機械を取り付けられる弾。その機械から金切り音に似た音が鳴る。 「………うわぁあうるせぇ!!!」 壇は慌てて、機械を取り外した。そしてしばらくして辺りを見渡す。 「あ、あれ!?コマンドラモンとあの怪しい大人は!?」 「キミはあの人間に記憶を封印されてたんだよ。催眠もついでにね」 今日で三回目になる謎の声。 壇がその声の方を向くと、コマンドラモンより少し大人っぽい仮面を被ったウサギの様な怪物がいた。 「キ、キミは…?コマンドラモンの仲間?」 「あんな紛い物と同じ括りにされるのは心外だね。私はあの…」 壇に問われたそのウサギは、何故か妙に偉そうな態度を取る。 そしてこれまた理由は不明だが、ウサギは少し間を置いて壇を見つめて口を開ける。 「《良宵(りょうしょう)のエクロナ》…だよ」 「………」 「………」 しばしの沈黙。 されど沈黙。 先にその沈黙を破ったのは意外にもウサギの方だった。 「……あ、そっか。すまない忘れてくれ」 「どういうこと!?」 「レキスモンだ。レキスモンのエクロナ」 「普通に自己紹介しないで!?」 「ギャーギャー騒ぐな。これを」 そう言い、仮面のウサギ・レキスモンのエクロナは何かを壇に投げ渡す。 それは壇が一瞬だけ見たあのアロハの男が持っているデバイスと似たものだった。 「これは…?」 「何と言ってたっけな……そうそう、デジヴァイスVだ」 「デジヴァイス……V?」 聞き慣れない名前だ。 デジタルデバイスの略なのだろうか。だとしてVは? 「状況とそのデジヴァイスVの使い方を簡単に教えよう。だがその前に…」 「そ、その前に…?」 エクロナは真剣な表情で壇を見つめる。 ただならぬ空気を感じ、壇は息を呑んだ。 「そのVRヘッドみたいなの返して」 「あ、ごめん」 〜〜〜〜〜 【リアライズ】 アロハの男のデバイスから白い中型犬が飛び出した。 「頼むぜラブラモン」 「了解しました」 ラブラモンと呼ばれた中型犬は言葉を発した。 そう、この犬もれっきとしたデジモンである。 それも電子課が作り上げたウイルス種特効デジモン・ワクチン種の。 ワクチン種の中で、ラブラモンは大量に生産されたデジモンである。 しかし、量産型だからと言ってその力は決して弱い訳ではない。 ラブラモンが睨む先にいたのはコマンドラモン。 ウイルス種であるコマンドラモンにとって、このラブラモンは充分に強敵だった。 「クソッ…!またこれかよ!何なんだよこの変な空間!」 コマンドラモンは辺りを見渡す。 壇の姿を見失っただけでなく、青空は紫色に草木は赤色に染まっている。 「俺も詳しくは知らねぇけど、要は別の世界に飛ばしたんだよ。怪物にはピッタリだろ?」 「んだよ…さっきから怪物怪物って!オレはコマンドラモンだ!」 「つまり怪物だろ。やれ、ラブラモン」 「はっ!」 コマンドラモンに飛びかかるラブラモン。 反応が一瞬遅れ、コマンドラモンはライフルを構えようとするが間に合わない。 だがそんな時。 【Quarantine】 電子音と共に、コマンドラモンの周りに障壁が現れる。 その障壁にラブラモンは吹き飛ばされるものの、すぐに体勢を立て直す。 「な、何が!」 困惑するラブラモン。 その時、ラブラモンの視界に驚くべきものが入った。 突然現れた障壁に守られているコマンドラモンの隣に、なんと壇が立っていたのだ。 「はぁ!?何であの子がここに!」 壇の姿を見て、アロハの男も驚愕する。 「大丈夫!?コマンドラモン!」 「お、お前…!」 「待ってて!」 【Syringe】 壇の所持してる端末・デジヴァイスVにコネクタの様なものが現れ、それをコマンドラモンの腕に押し込んだ。 コマンドラモンが混乱する中、今度はそのコネクタを自分自身に押し込む壇。 【Infection】 体内に何か大きなものが流れたのを感じる壇とコマンドラモン。 「これ……何が…!」 「僕もよく分からない…けど、これをやったらコマンドラモンが強くなるって聞いて…」 「聞いて?誰に?」 「おいガキィ!!!」 疑問だらけのことが続くばかりだ。 だがその疑問を考える余地も無く、アロハの男が声を上げる。 「どうやってここに来やがった!いや、それより何でその怪物を守るんだよ!よく分かんねぇのに首突っ込むんじゃねぇ!これは大人の仕事なんだ!カッコつけて正義のヒーローの真似事してんじゃねぇ!」 「………違います」 「なに?」 アロハの男の言葉に、壇は障壁越しに彼を睨みながら言い返す。 「ヒーローの真似何かじゃない…。僕は…こいつを放って置けない!」 「はぁ?放って置けないだぁ?」 「こいつ…コマンドラモンは人間に追われながら、ずっと逃げてきたんでしょう!?それなのに、同じ人間の僕にはすぐ攻撃をしてこなかった!ライフルなんて持ってるのに! 僕はそんな優しい奴を放って置けない!」 壇は「それに…」と言いながら自分の右足を一瞬見る。 「きっとこいつ…生まれてから逃げることしかできてない…。まだ…『自分の好き』を見つけれてないんだ。そんなの、あんまりだよ…」 自分の好き。 壇は、それがどれほど大切なものなのかよく分かっている。 それを失ってから、壇の世界はモノクロになってしまったのだから。 「だから…せめて僕は…こいつの好きを見つける手伝いをしたい!だから…こいつを放っては置けない!」 壇の言葉を聴き、アロハの男は頭を掻いて大きく溜め息を吐く。 「これだからガキはよぉ…」 その瞬間、コマンドラモンは持っていたライフルの引き金を引いた。 内側からの衝撃には弱いのか、それとも意図的なものなのか、障壁は簡単に砕かれ銃弾はラブラモンの方へ向かう。 「くっ!」 ラブラモンは間一髪のところで避け、戦闘体勢を取る。 「気に入ったぜ人間!」 コマンドラモンはライフルを構えたまま、壇にそう言った。 眩しいほどの笑顔を見せて。 「……人間じゃない、藪内壇だ!」 「ヤブ……なげぇなぁ!後でまた教えろ!」 「うん!」 壇はコマンドラモンに頷き、アロハの男とラブラモンを見つめる。 「今更だけど、あの喋る犬も敵…ってことで良いんだよね?」 「あぁそうだ!」 そう言ってコマンドラモンは懐から何かを取り出し、それをラブラモンに投げた。 「ラブラモン!」 「レトリバーク!」 アロハの男はすかさずその投げられた物を指差し、ラブラモンに指示を送る。 ラブラモンが発した衝撃波により、コマンドラモンが投げた物は空中で爆発する。 どうやら、コマンドラモンが投げた物は爆弾だった様だ。 反応が遅れれば、あの爆弾はアロハの男とラブラモンの前で爆発していたことだろう。 男の判断は流石の早さであった。 しかし、その爆弾に気を取られ過ぎたのがいけなかった。 「なっ!い、いない!」 壇の隣にいる筈のコマンドラモンの姿が消えていた。 視線が爆弾に向かっている隙に、コマンドラモンは何処かに移動したのだ。 「後ろか!?」 こういう場合、背後を取るのがセオリーだ。 男はそう言い、ラブラモンに振り返る様に命令を送る。 「残念、正面だ」 しかし、男の読みは外れた。 コマンドラモンは自身の光学迷彩で姿を消し、ずっと正面で銃を構えて待っていた。 ラブラモンが後ろを向き、余所見をしている隙にコマンドラモンは至近距離でライフルを乱射する。 「うわあああ!!!!」 「ラ、ラブラモン!」 至近距離のライフル攻撃により、ラブラモンは吹き飛ばされる。 ラブラモンはボロボロになりながらも立ち上がり、激しい怒りの形相でコマンドラモンを睨んだ。 「こ、この……ウイルス種の分際で…!レトリバーク!!!!!」 「バッ…!ガキに当たったら上から何言われるか…」 ラブラモンの怒りのままの攻撃にアロハの男は慌てるが、デジモンであるコマンドラモンはいいとして、人間である壇は冷静なままだった。 コマンドラモンは衝撃波を避け、人間の壇もそれに続いてラブラモンの衝撃波を避ける。 「なにっ!?」 デジモンの技を避けるなど、子供どころか大人でも難しい筈だ。 それなのに、壇はそれをやってのけた。 その時、男の脳裏に弾が持つデジヴァイスVから流れた電子音を思い出す。 【Infection】 「インフェクション…感染……まさか!自分にデジモンの因子を…?そんな…そんな危険なことを!?」 「コマンドラモン!一気に決めろ!」 「もちろんだ!」 コマンドラモンは今までにない速さで一気にラブラモンと距離を詰める。 壇だけではない。コマンドラモンの動きも壇が来るまでと全く違う。 「こ、この…病原菌がああああああああ!!!!!」 ラブラモンは迫り来るコマンドラモンに爪で対抗しようとするが、コマンドラモンは地面を滑り、ラブラモンの爪攻撃を避けながらラブラモンの腹部に何度もライフルを乱射する。 ラブラモンはその銃撃により宙に浮き、無防備の状態となった。 その隙に、コマンドラモンはライフルを操作して必殺の銃弾を装填する。 「M16アサシン」 バンッ!と音が鳴った後、無音が世界を支配する。 ラブラモンはその体を消滅させながら落ちていく。 そしてラブラモンは、地面に付く前にその体を完全に消滅させた。 「クソッ!こんなこと知らねぇぞ!運がねぇ!」 【フォーマット】 「チッ!」 アロハの男は悪態を吐きながらデバイスを操作。 壇の記憶を消したあの光と音のアプリを起動させ、壇達の視界を奪った隙にその世界から姿を消した。 光を思いっきり浴びたが、今度は壇の記憶を消えず、催眠状態にかかることは無かった。 催眠状態を解いたあのVRヘッドセットのおかげだろうか。 しばらくして、世界も元の青空の世界へと戻った。 壇は一安心し、その場に座り込む。 「怖かった〜!身体中がもう痛すぎ…」 戦闘中に湧き出るあの力は感じない。 どうやらアレは、一時的なものの様だ。 だがそれより、壇が気になるのは…。 「あの犬みたいな奴……死んじゃったのか…?」 「あぁ」 壇の問いに、コマンドラモンは呆気なく答える。 自分もコマンドラモンに「決めろ」なんて言ってしまったが、まさか命を奪うとは思ってなかった。 自分が命令したせいで、あの犬の様な怪物は死んでしまったのではないか。 壇の心は、罪悪感で支配される。 「……殺らなきゃ、オレが死んでた。だから殺した。オレの意思で」 壇の気持ちを察したのか、コマンドラモンはそう呟いた。 その言葉に、壇は「そう…そっか…」としか答えられなかった。 「それより!お前、何て言うんだっけ?ヤブ……なんとか?」 しんみりとした空気の中、今度は空気を読まずにコマンドラモンは壇の顔を覗き込んだ。 さっきまでと全く違う態度に、壇は少し困惑しながらも「えっと…」とコマンドラモンに答える。 「藪内壇。ヤブウチ・ダン。覚えられなかったら壇で良いよ」 「そっか!ダンだな!オレ、コマンドラモン!」 「それは聞いたよ。でも…コマンドラモンって何か長くて言い辛いね。あのレキスモンって奴はエクロナってさらに名乗ってたけど……どっちが名前なんだ?」 「レキスモン?エクロナ?誰だそれ?」 どうやら、エクロナについてはコマンドラモンも知らない様だ。 余計にアレは何なのだろうか。 だが、分からないものをいくら考えても仕方がない。 壇はコマンドラモンに代わる良い呼び名は無いか模索する。 「……銃をバンって撃ってたから……バン……とか?いやでもなぁ〜…」 あまりに安直過ぎる上に、自分の名前と被っている名前に、壇は考えを改める。 だがそんな壇にくっ付くんじゃないかと思うぐらいに、コマンドラモンは顔を近づける。 「バン!!??それ、オレのことなのか!!??」 コマンドラモンは目を輝かせてそう言った。 壇はその迫力に負け、思わず「う、うん…」と答えてしまう。 「そっかー!オレ、バンかー!いいな!うん!今からオレはコマンドラモンのバンだ!」 どうやらコマンドラモンの部分は譲れないらしい。 だが、その嬉しそうな姿に壇は思わず微笑んでしまう。 「……そうだね…。よろしく、バン」 〜〜〜〜〜 「へぇ〜…アレがウイルス種デジモンって奴ッスか」 場所は変わり、縁奈と塁は路地裏に立っていた。 今さっき、周辺に潜伏したウイルス種デジモンを討伐したところだ。 「デジモンにはクラスがある。デジタルワールドでは別の呼び名がある様だが…俺達はデータ質量が多い順にシンプルにA、B、C、E+、Eといった具合に分けている。 まぁウイルス種はクラスBとクラスCしかいないから、そこまで覚える必要性は無いが」 「さっきのデジモンは?」 「クラスCだ。こいつと同じ」 塁はそう言って、ある一点を見た。 そこにいたのは、塁が使徒する仔ライオンの様な姿をしたワクチン種デジモン。 「よくやったぞ、レオルモン」 「へっへ〜ん!いつだってボクに任せてよルイ!」 仔ライオンのデジモン・レオルモンは自慢げにそう言った。 その言葉に、塁は無表情のまま「あぁ」とだけ答え、路地裏の先にある建物をジッと見つめる。 「……本部に行くのは明日だ。そこでお前のデバイスやデジモンも支給される筈。今日は一旦休め。休憩先はメールで送る」 「了解ッス!」 縁奈のキレイな敬礼に一瞥もせず、塁はレオルモンをデバイスに戻して路地裏を出る。 そして塁は、その先にあったゲームセンターに真っ直ぐ向かった。 塁は閉店まで、そのゲームセンターにあるシューティングゲームをプレイした。 結論から言って、塁は最初のステージすらクリア出来ずにゲームセンターを後にする事となったのであった。 -------誰得あとがき------- サロンを全然チェック出来てないので、被ってる話だったらすみません。 っていうか「インフェクション」の段階で気付いたんですが、データでウイルスって仮面ライダーエグゼイドだこれ!!!!! アロハの男とか絶対あいつの影響じゃん!!!!! ってな訳で、何とかギリギリで投稿できました。 これ割と昔から構想はあったんで、こういう形で出せて感無量です。 あと本当は主人公の名前「藪内『弾』」だったんですね。 でも書いていく内に、パートナーデジモンがパートナーデジモンなんで「これ『弾』って一文字がややこしくなりそう」と思って、途中から急遽「壇」に変わりました。 なのでもしかしたら、何処かに直し忘れがあるかもしれません。 あとまぁ結構雑になりましたが、期間内に間に合ったしええやろ!!!!!(思考放棄) それでは時間もアレなので、さようならでございます。 ----------あとがきのあとがき---------- 投稿時間がギリギリだったので断念した各キャラの名前の由来などのコーナーとなります。パチパチ。 おいそこ、誰得とか言うな。俺得だ。 藪内壇 前述のとおり、元々は「藪内弾」でした。 この名前から察する人もいるかもですが、名前の由来…と言えるものかは微妙ですけど、それは「藪の中から銃を撃つ」みたいなイメージで出来た名前です。 パートナーがコマンドラモンというのは決まっていたので、パートナーを連想させるもので名前を付けています。 余談ですが、昔から構想があったと言ってたとおり、他にも色んな人間キャラがいたんですが、ウイルスのパートナーデジモンがいるメインキャラは壇同様の感じで名前が付けられ、名ありのモブキャラは全員の名前の頭文字を合わせると、いろは歌が完成するみたいなお遊びでやってました。 まぁ今やそんな連中は死に絶えたがな!!!!!(言い方) バン 作中で言われてるとおり。それ以上でも以下でもありません。 潮塁、白鳥縁奈 塁は当初からいたんですが、世界観説明の相手として縁奈が急遽参戦しました。 そういうのもあって、二人の名前は色々とごちゃごちゃしてるので一気に解説します。 まず塁ですが、ズバリ「牡牛」と「ルイ・パスツール」です。 ルイ・パスツールは超ざっくり言うとワクチン作った人で、ワクチンの名前の由来は「牡牛」から来ているので「潮塁」という名前になりました。 そして縁奈は「白鳥の首フラスコ」と「エドワード・ジェンナー」です。 「白鳥の首フラスコ」ってのは、まぁ一般的に想像する丸いフラスコの出入り口をちょちょっと加工したもので、これ先ほど言ったルイ・パスツールが使用したフラスコです。 そしてエドワード・ジェンナーは、天然痘の予防接種法を開発した人で、その予防接種に使ったのが牛痘だった訳なんですが、この人間に牛痘を接種させる実験がルイ・パスツールがワクチンの名前の由来に「牡牛」を入れた理由になった………らしいです。 完全にネットで調べただけなので、これで合ってるかどうかは知りませんが、とりあえず二人の由来はこんなワクチン開発秘話から交互に取ってる感じになります。 それはそうと、ルイ・パスツールと並ぶライバルの細菌学者ロベルト・コッホという人もいるので、それを由来にするのもアリだったかもしれないですね。もう知らね(投げやり)。 エクロナ レキスモンなのでどうしてもルナモンをイメージしてしまいました。 ルナと言えば、そうだね。慈愛の勇者だね。 という訳で、ウルトラマンコスモスのコロナモードとエクリプスモードから取って、エクロナになりました。 え?意味が分からない?なら調べろッ!そしてウルトラマン沼に落ちろッ!!!落ちるんだッ!!!!! デジヴァイスV Vってなんだろうって壇は思っていますが、まぁ普通に考えて「ウイルス(Virus)」ですね。 まぁVだけなんで、色々な意味を載せれますので特に深い意味は無いです。 当初の構想も「まぁ色々あるけど大した意味は無い」って感じだったんで。 デジモンアトリビューター 「Attribute」を名詞系にしたものです。 エキサイト翻訳で「属性」と出たんでそのまま使いました。 実際割と深い意味があるみたいで「〜のせいにする」とか、神と関連する持ち物とかの意味があるみたいです。へぇ〜(他人事)。 あと「A tribute」の名詞系と訳すこともできますかね。 「tribute」は「感謝」とかの意味になるので、まぁそれも上手くいけるかもしれないですね。 へぇ〜(他人事2) それでは駆け足ですが失礼します。
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てるジノ坊主
2023年9月20日
In デジモン創作サロン
「ヒャハハハハ!どうしちまったんだぁ?このオレを倒すんじゃなかったのかぁ!?」 俺はただ茫然と突っ立ていた。 相手を見下し、高々と笑い声を上げる漆黒の竜。 最初に言っておくが、俺はこの竜に襲われている訳ではない。 この竜は俺の味方だ。 というか… 「…え?いや、え?え?嘘…。マジでこいつ…」 ~~~~~~~ 「何で俺がこんなこと…」 俺、井深宮斗(いぶか みやと)は大雨の中、片方の手で傘を差し、もう片方の手で閉じた傘を握りしめた状態で、弟の光輝(こうき)が通う塾へ足を進める。 真新しいビジネスビルに入ると、そこで弟が宿題をテーブルの前に広げて待っていた。 「あ、兄ちゃん」 「あ、じゃねぇよ。全く…何で俺がこんなこと…」 「だって兄ちゃん暇じゃん」 「暇じゃねぇよ! 俺にだって宿題とかあんの! 高校生舐めんな!」 「でも帰宅部」 「部活が全てじゃないですー!」 そう、高校生活は部活が全てという訳ではない。部活をやらないという選択肢を取る事で、その分学業に集中できる。 学業に集中する部活。そう、そういう活動内容の部活、帰宅部に俺は入っているのだ。 別に何部にするか迷い過ぎて、タイミングを逃したとかいうカッコ悪い理由とかではない。 運動神経だって自信ある方だし…。 まぁそんな事は置いといて、弟の光輝は宿題を片付け始め帰る準備を進める。 こいつは今年で10歳、つまり小学4年生となり、自分で言うのもなんだが…本当に俺の弟か?って言いたいぐらい頭が回る。 5歳下の弟に俺が完全論破されてしまった事があるほどだ。あの時は絶望した。 「さて、おまたせ! 帰ろっか! 兄ちゃん!」 「あぁ本当におまたせだよ。全く…ゲームの続きやりたかったのに…」 「宿題は?」 「あ」 ~~~~~~~ 外に出てみると、空はかなり荒れていた。 大雨は当然、雷も鳴り、暴風が吹きつける。 おかしいな、天気予報は確認したけど、ここまで荒れる様な天気じゃなかった筈。 「ダーッ!マジで何だよこの天気!」 隣で、傘を両手に持った兄ちゃんが愚痴を言っていった。 気持ちは分かる。これじゃあまるで台風だ。 「流石にこのまま帰るのはマズいよ!一旦どっか建物に入らない!?」 「それ思った!」 僕の提案に、兄ちゃんは速攻で賛成した。 しかしその時だった。 雨雲一杯広がる空が、突然虹色に点滅を始めた。 こんなこと、現実的に考えてあり得ない。 「な、何これ!?」 「おいおい…何かやべぇんじゃねぇのコレ!」 あり得ない光景に、僕だけでなく兄ちゃんも狼狽えている。 だけどその直後、あちこちから悲鳴が聞こえた。 空の点滅に対するものじゃない。 もっと別の何かに対する悲鳴だ。 「なっ!? お、おい光輝!」 その何かに先に気付いた兄ちゃんが、僕の手を掴んで走った。 いきなり走り始めたものだから、僕は傘を落としてしまう。 よく見ると、兄ちゃんもいつの間にか傘を手放して走っていた。 僕は兄ちゃんが何を見つけたのか気になり、思わず振り返る。 「か、怪獣!?」 そう、あちこちで「怪獣」としか言い様のないものが街のあちこちで暴れていた。 それも全て、ノイズがかかって半透明な姿で。 まるでホログラムの様だけど、街灯が折れたり、車が吹き飛ばされたりと被害が明らかに出ている。 「な、何なのこれ…」 突然起きた非日常に、僕の頭は真っ白になる。 だけどその僕の視界に、一人で泣いてる女の子が入った。 「ま、待って兄ちゃん!」 僕は踏ん張って兄ちゃんを止め、兄ちゃんがそれに驚いている隙に抜け出して女の子のもとへ走る。 「おい光輝!」 「大丈夫?」 兄ちゃんが叫んでいるが、とりあえず僕は泣いている女の子に声をかけた。 多分、まだ4歳ぐらいだと思う。 「お母さんと逸れたの? えっと…ここは危ないから早く逃げよう?」 「ホントだよ! 光輝、早くその子掴んで…」 僕が女の子の手を握ろうとすると、僕達に大きな影が覆い被さる。 頭上を見ると、凸凹になった車が僕達のもとへ落ちてきていた。 「「危ない!!!」」 僕は咄嗟に女の子を突き飛ばし、兄ちゃんはそんな僕を庇う様に覆い被さった。 もう駄目だ。死ぬんだ。 僕はそう思った。 きっと兄ちゃんだって。 「いやぁ〜中々熱い兄弟愛やなぁ」 そんな時、聞き覚えの無い関西弁が聞こえてきた。 ~~~~~~~ ドボンッ! 突然、俺は水の中に落ちた。 さっきまで街にいて、正に弟の光輝と一緒に車に潰されるところだったのに意味が分からない。 俺は慌てて海?から顔を出そうとするが、いくら上がろうとしても水中から抜け出せない。 駄目だ。もう息が続かない。 「ぷはぁ!溺れ……ん?あれ!?」 ここは水の中だというのに、何故か息が出来て声が出せる。 ……いや、本当に水の中か? 周りには雲が浮かんでいて、まるで青空だ。 なのに、水中の浮力?ってものを感じる。 「え?何で…」 「兄ちゃん!」 「あ、光輝!」 振り返ると光輝がいた。 良かった。こいつも何とか無事な様だ。 ……今が無事な状況なのかは分からないが。 「やぁやぁやぁ、お二人さんとも平気?」 すると、聞き慣れない声がした。 俺はその声の方へと振り向く。 そこにいたのはゴーグルを付けたカラスの様な生き物だった。 「カ、カラス?カラスが喋った?!」 「いやカラスやないわ。俺はシーチューモン」 「シチュー?」 「シーチューモン!シとチューの間、伸ばす!」 「き、きみ…あの怪獣達の仲間なの…?」 シチュー…じゃなかった。シーチューモンと名乗る変なカラスに俺が困惑していると、光輝は恐る恐るそう訊いてきた。 その質問に、シーチューモンは「う〜ん」と一人唸る。 「あんたらが怪獣と呼んどる奴等はデジモンっちゅう奴や。まぁ俺もそのデジモンやから、仲間言われたら仲間になるんかもな」 「その言い方は…キミは街にいるその…デジモンとは思想が違うってこと?」 「何や年の割にムズい言葉使うな。思想言うても、あいつらに大した考え無いわ。あいつらも被害者みたいなもんやしな」 「被害者?ふざけんな!俺達の方が被害者だろ!」 「どっちもや。どっちも被害者。あんたらやって、いきなり知らん世界に放り出されたらパニックぐらいなるやろ」 「その割には、きみは冷静だよね」 さっきから光輝が、意外と鋭い指摘をしてくれる。 いや本当にマジで光輝が一緒にいてくれて助かる。 「まぁな。俺はこの事態を予測しとったし…やから、そんなパニック状態でも使えそうな奴がおらんか探しとったんや」 「使えそうな奴…?」 シーチューモンの言葉を、俺は思わず復唱する。 「そうや?結論から言って、俺はあんたらに頼みがある」 「はぁ?!俺達に!?」 「あの状況で人助けを率先して行ったん見たのは、あんたらが最初やったんや。その上、死にそうやったからな。やから、お助けついでに選んだんや」 「いや、ついでかよ!!!」 まぁだが、助けてくれたのは感謝ではある。あれはマジで死を覚悟したからな。 「で…その頼みって何なの?」 光輝がシーチューモンに質問をしてきた。 そうだ、確かにそれが肝心だ。俺達ができることであれば、恩返しという形でやっても良いだろう。というかやるべきな気がする。 「救って欲しいんや。世界を」 ………… 「「はぁ?!?!?!」」 俺達二人は、予想を超え過ぎた要求にただ驚くことしかできなかった。 ~~~~~~~ 「まずデジタルワールドっちゅう異世界が二つあってな。それぞれビフレスとイリアスって俺は呼んどるんやわ。まぁどっちもけったいな世界なんやけどな〜。 あ、そうそう。そんで、その二つの世界が何か知らんけどガッチャーン!ってなってもうたんよ。 そしたらもうそりゃ大変、そのせいであんたらの世界にもどっぴゃー!って影響が出たみたいでな。何でか知らんけど。 これ、このまま放っとくとビフレスもイリアスも、ついでにあんたらの世界もドーン!と消えてまう訳。マジふざけんなっちゅう話よな。 ここまでは分かった?」 「全然分かんないです」 突拍子の無い要求の次は、状況説明としてこれまた意味不明な言葉の羅列が現れた。 早速聞いたこと無い言葉が現れるし、早口だし、何か擬音多いしでもう頭が追いつかなくて爆発しそうな勢いだ。 「つまり…」 俺が呆然としていると、光輝が口を開けた。 「まず、ビフレスとイリアスと呼ばれる二つの異世界があって、それが何らかの理由で融合を始めた。 その結果、これまた理由は不明ではあるけど僕たちの世界にも影響を与え、このまま放っておくと三つの世界が消えてしまう…。 そういうこと?」 「そうそう!正にそれや!」 「え?何でさっきの説明で理解できたの?」 「そういう事で、あんたらには融合した二つの世界に行って、その世界融合の謎を解いて欲しいんや。それが分かれば世界を救えるかもしれんしな。どうや?あんたらの世界も救う事になる訳やし、悪い話やないやろ?」 「いや何処がだよ!?」 俺は声を荒げた。 確かにさっきの説明は理解できなかったが、流石の俺もこのシーチューモンの要求がどんなに馬鹿げたものかは分かっているつもりだ。 「異世界って…それお前みたいなあの怪獣達がいる世界なんだろどうせ!そんな危険な場所で、俺達ガキが生き残れる訳ねぇだろ!大体、何でお前がそれやらねぇんだよ!」 「まぁ確かに、デジタルワールドは俺らデジモンの世界で、ニンゲンには危険極まりない世界や。でも、やりようはある」 「やりよう?何だよそれ」 「どっちかがデジモンの力を使えばええ。ホンマは両方がデジモンの力を使えればええんやが…俺にはそんな力無くてな。一人に与えれるんが精一杯や」 「デジモンの力…?」 何だそれ?俺達があの怪獣の力を使えるってことか? 何かそれ… か、かっけぇな…。 「自分で言うのもなんやが、俺はかなり特別なんや。やから、こうやってあんたらを世界の狭間に避難させることもできとる。やけどな、恥ずかしい話、戦闘はからっきしなんや。そんで、俺が考えたんは助っ人の募集っちゅう訳。ついでにニンゲンの違う視線なら、何か新しいもんが見つかるかもしれんからなぁ」 「人間の…違う視線?」 俺がデジモンの力って奴に少し興奮してる中、シーチューモンの言葉に光輝は首を傾げる。 「そうや!全てのモノは見方次第!これ、俺のモットーや。海も空も、どっちも同じ世界の最果てやが、見えるもんは違う。やけど…同じもんもある。そこが世界のおもろいところや!」 「まぁ海と空は違うからね」 「見方次第や!そういう訳でどうや?俺に協力してくれんか?」 シーチューモンの提案に、俺と光輝は顔を見合わせた。 放っておくと世界が滅亡する。そう言われると他人事ではないのだが、あの怪獣達がいる世界に行くのはリスクが多すぎる。 「まぁ確かに、超能力みてぇのが使えるってのは魅力的だけど…」 「デジタルワールドに興味が無いって言ったら嘘になるよ?興味深い世界だし、是非行ってみたい…」 「おぉそうか!ほな決まりやな!」 「「え?」」 シーチューモンが右翼を振る。 すると海流が迫ってきて、俺達はどこかへ流されていく。 「ちょ、ちょっと待って!?」 「俺らは別に行くとは言ってねぇ!!!」 「え?マジ?やば………まぁ旅は道連れって事で!!!!!」 「「ええええええええええええええ????!!!!」」 あまりに適当なシーチューモンの言葉に俺達は驚きの声を出すこと以外できなかった。 ~~~~~~~ 「……ん…んん…」 ここは何処だ? 確か俺はあのシーチューモンとかいうカラス野郎のせいで… 「お?目ぇ覚めたみたいやな」 「あ!テメッ!人の話ちゃんと聴けよ!」 ケロっとした顔のシーチューモンを見て、俺は思わずそいつの服の襟を掴む。 「あぁもう悪かったってぇ!これでも反省しとるんやからぁ!」 「だったらさっさと俺らを…あ!そうだ!光輝は!?光輝~!」 「光輝?あぁもう一人の奴か。あんたに変化が無いっちゅう事は…」 シーチューモンが何かを言っているが、俺は気にせず弟を探す。 どうやらここは荒野の様だ。辺りには植物は無く、そしてゴツゴツとした岩壁が周囲の視界を塞いでいる。 光輝はこの岩壁の向こうにいるのか? 「うぅ…」 予想通り、岩壁…というより小さく反り立つ岩山の向こうから声が聞こえた。 はっきりとは聞こえなかったが、きっと光輝の声だ。 「光輝!?光輝だな!俺だ!宮斗だ!」 「兄ちゃん!?」 直後、俺は声を失った。 声がした岩山の向こうから、その山を越える巨体で黒い竜が顔を覗かせたからだ。 「ん?兄ちゃん小さい…え?」 黒い竜は俺を見た後、自分の異様に長い手を見て固まった。 「え?…えぇ!?」 黒い竜は自分で全身を確認して狼狽える。 ま、まさかこの竜って… 「に、兄ちゃん!これ何!?僕、怪獣になってる!」 「こ、こここ光輝いいいいいいいいいいいいい!!!???」 「ほ~う、デビドラモンか」 俺達がまた驚いていると、シーチューモンが呑気な声で光輝である黒い竜を見て言う。 「お、おい!これどうなってんだよ!何で光輝がこんな姿に!」 「はぁ?説明したやろ?一人にデジモンの力を与えるって」 「ま、まさかお前それ…」 「僕達どっちかをデジモンにするってこと!?」 「そうや?」 「「言い方ややこしいわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」」 俺と光輝の怒号に、シーチューモンは心外にも迷惑そうに耳を塞ぐ。 「いや、でも嘘は言うとらんやんけ。あんたらが勝手に勘違いしただけや」 「だからって言い方がなぁ!」 俺は怒りのままにシーチューモンに向かったが、それをシーチューモンが手を前に向けて止める。 「まぁ、待ちぃな。デビドラモンのコウキの実力、そしてその有意義と必要性…分かってくるで」 「は?」 「おうおうおうおう!誰だよ俺様の縄張りに入ってんのはぁ!」 シーチューモンの意味不明な言葉に固まっていると、突然声が聞こえた。 「ここがこのモノドラモンのガジョ様の縄張りだとは知らねぇみてぇだなぁ!」 現れたのは全身紫で両手に蝙蝠の様な被膜が付いた一本角の小さいドラゴンだった。 その両隣には、赤いペンギンと体が丸っこい濃い紫色の蝙蝠がいる。 三人とも、今の光輝は当然、俺より体が小さい化け物…いや、デジモンだった。 「んだよ!今度は他のデジモンかよ!おい、あいつらは危険なデジ…っていねえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」 突然の来訪者の危険性をシーチューモンに訊こうと振り向くと、奴の姿は綺麗さっぱりいなくなっていた。 あ、あいつ!どさくさに紛れて逃げやがった! そういえばあいつ、戦いは苦手みたいなこと言ってた! 今来たデジモン、何か戦いそうな雰囲気だし、あいつ俺と光輝に全部丸投げする気だな! 「何だ何だぁ?一々うるせぇ奴だなぁ!何処の誰かは知らねぇが…」 小さいドラゴン…確かモノドラモン?のガジョとか言ったか。奴が拳をパキパキと音を鳴らして迫ってくる。 やばい…小さいからって油断はできねぇ。もしかしたらいきなり殺されるかも…! 「ん?」 すると、ガジョは俺の後ろの岩山越しにいるコウキと目が合った。 「デ、デデデデデデビドラモンだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「いや逆に何で気付かなかったんだよ」 明らかに恐怖と動揺をしているガジョに対し、俺は思わず冷静にそうツッコミを入れる。 「えっ…に、兄ちゃん。今の僕ってそんなに怖い?」 「まぁ…その……ハイ」 「何で敬語!?」 「あ、い、いやぁ悪い悪い。で、でもさ?ほら…でけぇし手長いし目が四つあるし…」 「酷いよ兄ちゃん!僕だって好きでこんな姿になった訳じゃないんだよ!?」 「んなこと分かってるけど…」 光輝には申し訳ないが、今の光輝は結構怖い。 その恐ろしい姿で光輝の幼い言動をするのだから、そのミスマッチ差が更に恐怖を掻き立ててる……気がする。 「お、おい…俺様思うんだけどよ。あのデビドラモン…何だかちょっと様子がおかしくねぇか…?」 「ミーもそう思うッス」 「俺氏も同意」 そんな事を考えていると、ガジョ達がコソコソ話をしている。 まぁ全部丸聞こえなんだが…。 って言うかあの赤いペンギンの一人称はまだ良いとして、あの蝙蝠の一人称何だよ。「俺氏」なんて一人称リアルで聞いたことねぇよ。 ごめん、「ミー」も聞いたことなかったわ。 何なら「俺様」もリアルで聞かねぇわ。 「くっくっく…分かったぞ!分かっちゃったぞ俺様ァ!!!」 いきなり、ガジョの奴が大声を出し始めた。 なんだなんだ?何が分かったっていうんだ? 「あのデビドラモン、多分落ちこぼれだ!落ちこぼれの弱虫野郎なら俺様達でも勝てるぜ!」 「落ちこぼれ?弱虫?」 ガジョの言葉に、光輝が少し反応した。 確かにムカつきはするが、温厚な光輝があれでここまで反応するとは意外だ。 まぁでも、今の奇々怪々の出来事の最中にそう言われるとイラっと来るのも分かる。 「おぉ!流石ッス、ガジョ!」 「ってわけでリット、行ってこい」 「えっ」 うわ、あのリットとかいう赤ペンギン、パシリに合ってんじゃん。可哀そう。 「な、何でミーなんッスか!おかしいでしょ!」 「うるせぇ!おやつ一個減らすぞ!」 「そんなぁ!!!何でそんな残酷なことできるんッスかぁ!!!」 残酷かな? 「うぅ…でも確かにナシ5個だけはキツいッス…」 意外と多いなおやつ。 「まぁでも、ガジョの予想通りならこんな弱虫、ミーでも簡単に倒せるッス!」 そう言って、リットは高く跳び上がった。 嘘だろおい、ただのジャンプであそこまで高く跳べるのか。 「トロピカルピーク!」 リットはそのまま、まるでミサイルの様にクチバシを向けて光輝に突っ込んでいく。 「光輝!」 俺は何故か俯いている光輝に呼びかける。 だが、光輝は動く様子を見せない。 光輝の奴、一体どうしちまったんだ! 「これで終わりッスー!」 「光輝いいいいいいいい!!!!!!」 その時、黒い触手がリットの体に巻き付いた。 「「「「へ?」」」」 俺もリットも、ガジョも蝙蝠も状況が分からず声を漏らした。 そして直後に、リットの体は叩きつけられた。 「「リットオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!?????」」 ガジョと蝙蝠が驚愕した声を上げる。 肝心なリットだが…まぁピクピク動いているのは確認できるので死んではいない様だ。多分…。 それより気になるのは、あのリットを拘束して叩きつけたあの黒い触手だ。 一体あれは……ん? 俺は黒い触手の跡を追っていると、その触手が光輝から伸びているのが分かった。 というかアレ…触手じゃない。今の光輝の尻尾だ。 「こ、光…輝…?」 「……ヒヒッ…」 「え?」 何だが一瞬、光輝から笑い声が聞こえた気がする。 ……いやまさかな。光輝が笑う場面なんてどこにも… 「ヒャハハハハ!どうしちまったんだぁ?このオレを倒すんじゃなかったのかぁ!?」 光輝である筈の邪竜の口から、とても光輝のものとは思えない台詞が聞こえた。 ……え???? 俺は思わず茫然としてしまった。 だが、これは無理もない。悪いが、茫然ぐらいさせてくれ。 「…え?いや、え?え?嘘…。マジでこいつ…俺の弟????」 「そうやが?」 「うわおぉ!!!シーチューモン!?」 いつの間にか隣にいたシーチューモンに、思わず変な声が出る。 「テメッ!今まで何処に…いや、っていうか光輝の奴どうしちまったんだよ!」 「どうも何も、アレがデビドラモンのコウキの正しい姿や。デビドラモンは邪悪で多くの者に恐れられている邪竜型デジモン。そのデジモンになったんやから、精神性がそれに影響されることは当然や」 「じゃ、じゃあ…光輝の性格が変わったみたいなのは…デジモンになっちゃった所為って訳か!?」 「そういうこと!」 いやいやいやいや。何がそういうことだよ。 姿が変わるだけじゃなくて性格まで変わる? そんなのってアリなのか??? 「おいおいおいおいガジョ氏!全然あいつ落ちこぼれ感ゼロなんだが?!?」 「お、おおお落ち着けキーマ!今のはまぐれだ!きっと!多分!絶対!」 ガジョと蝙蝠も慌てている。 そりゃそうだ。光輝の性格が豹変しているんだから。俺だってパニックだ。 「さっきやられたんはムーチョモンで…あとモノドラモンのガジョの隣にいるキーマって奴はピコデビモンやな。まぁ強さ的に言ったら……」 「俺氏、離脱しま〜す!」 「あ、ズリッ!俺様も!」 「ちょっと待てよ」 ガジョとキーマが逃げようとすると、コウキは生まれて初めての筈の翼を器用に使って、あっという間に回り込んだ。 「まだこの力を試しきれてねェんだ。実験材料としては心許ないが……息の根が止まるすこ〜しの間…付き合ってくれ!!!!!」 「「ひやああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」」 なんとも情けない悲鳴を上げて、二人はコウキとは反対方向…つまり俺の方へ走っていった。 だが、俺(とついでにシーチューモン)には目もくれず、二人はそのまま何処かへ走り去ってしまった。 …っていうか、ちゃっかりリットとかいう赤ペンギンまで回収して逃げてやがる。 かなり焦っていた様に見えたが、そこら辺はしっかりしてるんだな。 「強さ的に言ったら…まぁ…あの…アレやな」 「何で急に語彙力下がるんだよ。大体察したよ実力差は」 「ヒャハハハハハ!予想通り!」 俺がもう背中が見えないガジョ達を探していると、とても俺の弟のものとは思えない笑い声が聞こえた。 俺はゆっくりと彼の方へ振り返る。 「ん?どうしたんだよ兄ちゃん」 その外見と口調で「兄ちゃん」と言われると、ヤの付く人感が出てくるのは気のせいだろうか。 「い、いや〜…本当に貴方様が私の弟なのか少し信じられなくてございしゅうでゲスね…」 「途中で敬語がクラッシュしたぞ」 あまりの緊張に言語能力が崩壊してしまった。 だが、コウキはその後少し考える素振りを見せて「あぁ…!」と何かに気付く。 「何でそんな事訊くのかと思ったが、オレのこの性格か!言われねェと気付かねェもんだな」 「もう説明したんやけど、性格の変化についてはな…」 「良いよ、理由は察した。この体のせいだろ?」 そう言って、コウキは自分の手をまじまじと見つめる。 というか、本人は性格の変化に気付かなかったのか。気付いた後もこれだし、シーチューモンの言う通りこれが正しい姿…自然な状態なんだろう。 本人もこの体のせいで性格が変わったことを理解しているみたいだし。 「すげぇなあんたら兄弟は。テレパシーみたいに察せられるんやなぁ。カサゴか何か?」 「お前の知ってるカサゴやべぇな」 シーチューモンの馬鹿発現にツッコミこそは入れるが、それでも俺はパニックだ。 「つぅか、ひでェなぁ。さっきまで普通に話してたろ兄ちゃん」 「いやいやいやいや!それ言うならさっきまで普通だったじゃん!?何でいきなり話し方変わるんだよ!あ、デジモンになったからか!いや、そう言うことじゃなくて!!!」 「一人で忙しそうやな」 「お前のせいでもあるんだけどね!!!!!」 一々シーチューモンの横槍が入るせいで、話の軸がズレる。 もう本当にこいつ何なんだよ。 「いきなりって言っても…この体になってからなんとなく違和感あったんだよ。でも、あのガジョって奴がオレのことを落ちこぼれだとか弱虫だとか言ったろ?」 俺はそれを聞いて、その時のコウキがガジョの発言に反応していたのを思い出した。 温厚な光輝がイラつくなんて珍しいと思っていたが、デジモンの姿になったことで怒りの沸点も変わったってことか? 「それで…キレた瞬間に今に至った……と?」 「いや…」 すると、コウキは邪悪な笑みを浮かべて。 「オレをそうやって馬鹿にするのは良いが、そう馬鹿にした奴にこれからボコボコにされるってのも中々笑えるかもと思ったら、何か心の中が弾けた感じがしてなァ。勝てる相手だってのはなんとなく分かってたし、気晴らしに丁度良いと思って……今思えばそれからだな。こうなったのは。 ヒヒッ!あの時の顔…!今思い出しても笑えてくるぜ…!」 どうやら俺の想像とは違ったらしい。 シーチューモンが言うには、今のコウキは邪悪で恐れられるデジモン・デビドラモン。 そのデジモンになった事で、性格が邪悪そのものになってしまっているらしい。 あぁ…まぁ生意気なところは多少あったけど、あんな可愛かった俺の弟が…。 そう思うと、シーチューモンに怒りが湧いてきた。 「おいお前」 「ん?なんや?」 「元の世界に戻れば、コウキは…俺の弟は元に戻るんだろうな?」 「戻るが生憎、あんたらの世界には戻せんで。力は使ってもうたからな」 「じゃあ!コウキを元に戻す方法は!」 「あるにはあるで?」 「そう……え?」 元の世界には戻れないという重大情報をあまりにあっさり言うものだから、思わずスルーしてしまったが、次に出てきた情報はギリギリ無視することを避けることができた。 俺は無我夢中で、シーチューモンの肩を掴んだ。 「マジか!?コウキを戻せるのか!?」 「まぁな。説明したやろ?あんたらを連れてきた目的は…」 「融合したデジタルワールドの原因の調査…だったな」 シーチューモンの説明にコウキが口を出す。 それを別に咎めはせず、シーチューモンは「そうや」と言い、話を続ける。 「あんたらの世界への移動はできん。やけど、融合した二つの世界…ビフレスとイリアスの行き来は可能や」 「……はぁ?行き来は可能って…その二つが融合したんじゃねぇのか?ってかそれの何処がコウキを戻す話に繋がるんだよ」 俺は意味が分からず、シーチューモンに訊く。 融合しているのなら、行き来などはできない筈だ。 俺の質問に、シーチューモンは「まぁ聴けや」と言って、しばらくの間考える。 「融合の話に戻るで?え〜と…説明が難しいんやけどな?二つの世界は融合こそしとるが、今のところ別々に存在しとるんや。 今までは全く関係ないと言ってもいい程の別世界やったんやが、謎の融合のせいでお互いの関係がパラレルワールド並みにリンクしとる。 それが今の状況や」 「パラレルワールド並みにリンク???」 「シーチューモン。ちなみにこの世界はどっちだ?」 「ビフレスや」 コウキの質問で、俺達はようやくここがその二つの世界の片割れビフレスだと理解した。 そしてコウキもしばらく考え、口を開く。 「つまり、さっきのガジョ達を例に出すと、イリアスにも本来は存在しない筈だった『イリアスのガジョ』が現れてしまったってことか?」 「ちゃうけど惜しいな。『ビフレスのガジョ』と『イリアスの誰か』が共通の存在になったんや。例えば、今ガジョはこのビフレスで仲間を連れてどっか走って逃げとる。 このガジョを観察したままイリアスへ飛ぶと、『仲間と一緒に走ってるガジョ』の代わりに『仲間と一緒に走ってるイリアスの誰か』がそこに現れることになる。 何故走っていたのか…その理由はガジョと同じか別なのかは分からんが、重要なのは『場所』『存在』『状況』だけが二つの世界でリンクしてしまっとるんや」 「なるほど。となると、イリアスでもオレ達が存在することにしないと話が成立しなくなる筈だが…」 何かコウキは納得して話を続けているが、俺には全く分からん。 一体何を話してるんだ?っていうか何でコウキは理解できてんの? 人間には理解できない話なの???? 「まぁそこはどうなんやろうな。上手いこと世界側がやってくれとるんとちゃうか?何せ前代未聞やからな。やけど、さっきも言うたとおり、俺の力であんたらをイリアスへ送ることはできる。そうなると自動的に『ビフレスのあんたら』が『イリアスのあんたら』へと姿が切り替わる訳やが…」 「ふむ……つまり、オレを人間に変える話…」 そうだった。 何だか難しい話で頭が混乱していたが、重要なのはそこだ。 だけど、さっきも言ったけど一体今までの話の何処にその要素があったんだ? そう俺が悩んでいると、コウキが俺を見て口を開く。 「ビフレスだと兄ちゃんは人間のままだが、オレはデジモンになる。だが逆に、イリアスだと兄ちゃんがデジモンになり、オレは人間に変わる。そういうことか」 「そういうことや」 ……は??? 「はあああああああああああああああ!!!???」 俺は思わず声を漏らした。 ちょっと待てちょっと待て。そうなるとそれは少し話が変わる。 「コウキを戻すには、俺がデジモンにならないといけないのか!?」 「そう言うとるやろ」「そう言ってんじゃん」 シーチューモンとコウキが、当たり前の様に言い捨てる。 いやまぁ、確かにさっきそういう結論に至った訳なんだけど…。 「んだよ兄ちゃん。オレを元に戻すんじゃなかったのか~?もしかして怖いのか~?」 「お前本当にキャラ違うな!?」 「それに兄ちゃん、デジモンの力使えるって聞いてちょっとワクワクしてたろ?良いじゃねェか?可愛い弟助けるついでだと思ってさァ?」 コウキの奴、この姿になってSっ気が出てねぇか? 俺、そんな弟に育てた覚え無い!!! ……でも、デジモンの力に興味があるのは本当で…。 「…な、なぁシーチューモン。ちなみに変身するデジモンってどんな基準で決まるんだ?」 「え?知らん。波長でも合ってんのとちゃう?」 「俺の弟、邪竜と波長合っちゃってんの???」 あまりに適当過ぎる解答に呆れるが、まぁこいつはそんな奴だ。 まだ会ったばかりなんだが。 「あぁもう!じゃあ俺がえ~と…いりあす?に行くと、どんなデジモンになるのか分かんねぇのか!?」 「何だよ、やっぱり兄ちゃんも気になってんじゃん」 「う、うるせぇ!」 男はこういうもんに憧れるんだよ! っていうか、こう気にしてみるとコウキの奴ズルいな!よく見たらカッコいいじゃねぇか! 「あぁ~…まぁ事前に確認するのも大事やな。どれどれ…」 そう言って、シーチューモンは位置を調整する様にゴーグルに触れる。 原理は分からないが、それで俺がどんなデジモンになるのかが分かるらしい。 「…………」 「…………」 「…………」 「………すぅー……………好きな金属とかある?」 「話題変えるの下手クソか」 思わずツッコミを入れてしまったが、これは大ごとだ。 だって何だよあの異様に長い間は!!! 「絶対ハズレじゃん!俺がなるデジモン絶対にハズレじゃん!」 「い、いやぁ~あ、あのぉ~…全てのモノは見方次第ですしぃ~???」 「ハズレだから見方変えてんだろ!!!」 「うっさいなぁ!!!これ以上文句垂らしてるとハッ倒して、血管であやとりして、穴という穴からセンブリ茶流し込んで、苺のショートケーキ食わせて、俺が体調崩したことあるクソ映画観させて、感想文を1万文字以上で書かせたるぞぉ!!!」 「何か途中でおやつの時間なかった?」 何だか変な方向に話が進んでしまったが、まぁいい。 少なくとも、俺の変身するデジモンが碌でもないことが分かった。 コウキを人間に戻す手段を他に探すか…。 「なぁ、一回でもいいからイリアス行ってくんねェか?」 …ん? 「何や?あんたの方から言うとはな。そんなに今の姿が嫌なんか?」 「いいや?だが、世界融合の話聴いたら、お互いの世界でのオレ達の能力差を知っておく必要があると思ってさ」 な、何言ってんだコウキの奴。いや、コウキが人間に戻るのは嬉しいが…。 「い、いやコウキ君?さっきのやり取り聞いてた?イリアスだと多分俺、役に立ちそうにないぜ?コウキだって人間に戻るんだし、戦力差絶望だぜ?そりゃコウキが人間に戻りたいってんなら良いけど…」 「人間の姿はどうでもいいが、イリアスでオレ達ができることを確認するのは必要だろ。 ビフレスとイリアスがリンクしてるってんなら、例えばビフレスでどうにもできない状況を、イリアスに行けば打破できる可能性がある。 そうやって、二つの世界を行き来して目的を達成するつもりなら、兄ちゃんがどんな役立たずでもイリアスでは何ができるのかを知らなきゃいけねェ。だろ?」 分かってはいたが、デジモンの姿になっても知性は変わっていない様だ。 まぁ確かに、イリアスでの武器は知る必要があるのかもしれない。 でもそうなると俺は… 「大丈夫だ兄ちゃん」 悩む俺に、コウキが声をかけてきた。 コウキがデジモンになってしまった事でできた身長差を埋める為、コウキはしゃがみ込み(それでも俺よりでかいが)、俺の目をしっかりと見つめる。 「兄ちゃんがどんなデジモンになっても、オレは兄ちゃんを見捨てたりしねェ。オレが邪竜になっても、見捨ててくれねェみてェにな」 「コウキ…」 あぁもう!実の弟にこう言われると、俺が怖がってんのがバカみてぇだ。 第一、弟を人間に戻すためにはイリアスに行かなきゃダメだもんな! まぁ代わりに俺がデジモンになるし、ビフレスに戻ったらまた弟がデジモンになるわけだから、問題の解決にはなってねぇんだけど。 「分かった。納得はしてねぇけど、物は試しだ!シーチューモン!イリアスに連れてってくれ!」 「う~ん…まぁええか。使えない訳ではないしな。ほな、行くでぇ~」 そう言うとシーチューモンは、翼を思いっきり横に振った。 その瞬間、俺達を大きな波の様なものが襲いかかった感じがする。 一瞬、世界が霞んだ。 そして俺達は別の世界…多分イリアスへとあっという間に到着した。 え?何で到着したって分かるかって? そりゃあまぁ…明らかに違うからな。 荒野なのは同じだが、微妙に景色が違う。 そしてこれが圧倒的な違い。 何だか周りにある岩山がビフレスと比べて明らかに大きい。 「うわぁ!本当に戻ってる!」 聞き覚えのある声に、俺はすぐに振り返る。 そこには見慣れた弟の人間としての姿があった。どうやらイリアスに行くと人間に戻れるというのは本当だった様だ。 でも、何だか大きくねぇか? 「お、おれ……ん〜…何か小っ恥ずかしいなぁ〜。やっぱりあの姿が原因だったんだ、あの感じ…。あ、そういえば兄ちゃ……」 少しビフレス時の自分に恥ずかしさを覚えそうにしながらも、光輝は俺を探した。 まぁすぐに見つけた訳なんだが、光輝は目線を下げて俺を見つめたまま固まっている。 「まぁ驚くのも分かるので?でもその…使えん訳ではないからな」 光輝の隣にシーチューモンが現れる。 そのシーチューモンも今までよりも姿が大きい。 ……いや待て。薄々気付いてたけど、これって俺が縮んでんの!? 「お、おいシーチューモン!俺、今どんなデジモンになってんだよ!」 「あ〜ハイハイ」 シーチューモンは右足で地面を叩きつけると、ゆっくりとその右足を上げていく。 するとその右足を追う様に、氷の結晶が地面から生えてくる。 何だかよく分からないが器用なことするなと関心してしまったが、俺はすぐにそのシーチューモンが作った氷の鏡で自分の姿を確認する。 「な、何だコレ!?!?」 俺の視界に飛び込んできたのは、ヘッドホンとマフラーを付けたピンク色のウサギだった。 「こ、光輝の時より凄いファンシーな見た目になってんだけど!?」 「キュートモン。成長期の妖精型デジモンやな。あ、成長期っていうのはあのガジョって奴等と同じレベルってことな」 「キュ、キュ、キュートモン!?!?」 あんまりな名前に思わず驚愕の声を漏らす。 おい光輝、今ちょっと笑っただろ。 「何だよそれ!もっとこう…光輝の時みたいなさぁ!?」 「文句言うなや。俺やってまぁまぁ困っとるんや。でもまぁ使えんでもねぇぞ?キュートモンは治癒能力に優れてるが争う能力はあまり無くてな?それでいて臆病で……うわっ何これ使えね。ハズレやん」 「本音が溢れ出してるよ」 光輝の言う通り、シーチューモンの溢れ出した本音に、俺の頭はクラクラする。 戦えない上に臆病…? そんな…そんな体で…… ………… ……… …… 「……うっ…うわあああああああああああああん!!!!!!!!!!」 「あ、弾けた」 あまりな出来事に、もう涙が止まらなくなった。 光輝が前に言ってた。心の中が弾けた感じ。 多分、今がそうなんだと思う。 「あ、あんまりだよぅ…。ボ、ボクだけこんな目に遭うなんてぇ…ひっぐ…」 「あ〜あ泣いちゃった」 情けなく泣くボクを光輝が抱っこする。 これじゃあどっちがお兄ちゃんか分からなくなるけど、恥ずかしい話これが落ち着く。 「大丈夫だって兄ちゃん。治癒能力だって凄いじゃん。ゲームでも回復技って重要でしょ?」 「う、うん…」 「良かったな光輝!お兄ちゃんになれたで!」 「君のメンタルはダイヤモンドなの?」 光輝がシーチューモンの相手をしている中、ボクはだんだん眠くなってきた。 そういえば、今日は散々だった。よく分からない理由でよく分からない世界に飛ばされて、よく分からない姿にされている。 こんなことが続いて、眠くならない訳がなかった。 これからボク達はどうなっちゃうんだろう…。 そんな不安に駆られながらも、ボクは睡魔に全てを委ねた。 「あ、兄ちゃん寝ちゃった。どうしようかなぁ、一応来てみたものの目的もアバウトだから次何をするべきか…」 「とりあえずキュートなお洋服でも買ったげる???ハハハ、やべっツボに入った死にそう」 「まず君は何処で心を落としてきたの?」 ーーーーーーーー あとがき ってな訳で今更ながらザビケ参加致しました。 本当はもっと堅実な雰囲気の作品書く予定だったんですが、どっかのデジモン化マニアに「は????デジモン化書かないとかマ?????」とナイフを喉元に突きつけられて言われたので、急遽作りました。最近の世の中は物騒ですね(2割嘘) ってな訳で「どうせ続き書かねぇんなら、好み過ぎて続き書くとHな気持ちになっちゃうシチュでやろうぜ!」となりまして、とりあえず「邪竜になるショタ」と「か弱い存在になる男子高校生」を書くということしか頭に考えずに作りました。なのでストーリー面は超適当です。 シーチューモンが主人公の質問に対し時々「知らん」と答えてますが、マジで知りません。いや本当にマジで。だって考えてないんだもん。 ということで企画の特徴上、続きを書いてくれる方が出てくるかもしれないらしいのですので(まぁそんな物好きがいるのか知りませんが)、一応ネーミングの由来など記入しておきます。 何らかのアイデアにはなるかもね! 井深宮斗 まず下の名前の「宮斗」ですが、これがこの作品中2番目ぐらいの難産でした。 まず「斗」は弟の名前が「光輝」と二文字になるので付けたもので、本来は「宮」でした。 この「宮」の由来ですが、キュートモンになるのは決まってたので「ウサギ→ラビット→ビット」まで行って、8ビットで1バイトということで「1/8」の形を崩して「宮」にした感じです。 いやほら、8だけで「呂」みたいじゃないですか。そういうことです。 で、苗字の「井深」ですが「片方が人間ならば、もう片方はデジモン」という状況がプログラミングとかのif文っぽいなということで、由来はズバリ「if文」です。 井深光輝 苗字はもう言ったので省略するとして、光輝が実は1番難産でした。 宮斗の後に考えたのですが、宮斗が上手い具合に「変化するデジモンをイメージしつつIT関係に纏わる名前」にできたので、彼もそうしようとしたんです。 でもドラゴンとIT関係だと僕の知識では上手く思いつかず、結局妥協してIT関係のドラゴンのマスコットキャラ「Konqi(コンキー)」からとって光輝になりました。 え?Konqi君は具体的に何のマスコットかって?少しマニアックな話になるかもだから自分で調べてください。 Konqi君はいいぞ。 デジタルワールド・ビフレス 二つのデジタルワールドを行き来するということで、デジタルワールド・イリアスを使わねぇとなぁ!?となった訳ですが、まぁイリアスだけ名前があるのは変なので付けました。 名前の由来はアレですね。北欧神話に出てくる虹の橋「ビフレスト」です。 イリアスの由来からして神話から取った方がいいかなって。 ガジョ、リット、キーマ 話の都合上出てきて、癖で名前まで付けちゃったモブ。 ガジョは「ガキ大将」で、リットとキーマは二人合わせて「取り巻き」です。 ……何でモブの解説してんだ???? シーチューモン 個人名は出てませんが1話という形式上、あっても出さなくてギリギリ許せるかな程度で出してません。 本当は敵デジモンも個人名は出さず「この作品内でのデジモンには個人名があるかどうかはお任せします」という形にする予定だったんですがね…。悪い癖が。 まぁあとで「ガジョ達は勝手に名乗ってた」とか「イリアスでは個人名は無い」とか言い訳はできますが。 なので、こいつに個人名があるのか、そしてあったとしてどんなのなのかは分かりません。お任せします。 こいつなら「まぁ名前なんて言わんでもええかなと思って」とかで片付きそうでしょう。 実際、宮斗達もシーチューモンに自己紹介してないし。シーチューモンが二人の名前知ったのも会話が読み取っただけだし。 Digimon e/se IF タイトルですがこれは「デジモン エルスイフ」と読みます。/が小文字のLです。 上でも言ってたif文関係です。 /を使いたかったんです…… ってなわけで、ここまで読んでくださいまして有難うございました。 僕は理想のTFシチュが書けたので満足です。 ぐへへへ尊厳破壊は何度見ても楽しいぜぇ……
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てるジノ坊主
2023年1月12日
In デジモン創作サロン
「うっげぇ〜…全然寝れなかった…」 ベアモンの優亮は青白い顔で歩き続ける。 その先を歩く三人の内、レナモンの晶が振り返った。 「大丈夫ですか?」 「う〜…寧ろなんでそっち平気そうなの?野宿とか初めてで寝れる訳ねぇし、何よりデジモンになったんだぜ?ドキドキして寝れねぇよ」 「確かに、またウッドモンみたいな敵が現れたらと思うと、不安にはなりますね…」 優亮の言葉に、ブイモンの直は顎に手を置きながら呟いた。 だが、優亮は「あ〜そういう事じゃなくて」と言葉を紡ぐ。 「分かるだろ? ケモナー的にはこう…な?」 「先行ってますね」 「直君冷たい!!!!!」 このままでは本当に置いてかれるので、優亮は急いで直達の後を追う。 そしてそのまま、隣になったヴォーボモンの研一に声をかける。 「なぁなぁ、研一なら分かるだろ?俺の言いたいこと」 「えっ…あ、その…まぁ分かりますけど…」 「だろだろ!? で、今何処目指してるんだっけ」 優亮の発言に、研一は呆れたような困惑したような顔を見せる。 そして話をする勇気を出すためか、しばらく置いてから口を開く。 「その…朝話したんですけど、デジモン達の集落とかを探すんですよ。確か」 「あぁ〜そっか。思い出したわ」 分かったのか分かってないのか、よく分からない雰囲気で優亮は一人で勝手に納得する。 そんな中、優亮は研一がチラチラと自分を見ているのに気が付いた。 「どうした? 顔に何か付いてるか?」 「えっ! あぁ…いや…そういう訳じゃ…」 「ふぅん…って、あ!」 突然の強風で、優亮の帽子が飛んで行った。 優亮は思わずその帽子を追いかけ、研一はそれに気付いていない他の二人と優亮を何度も見返す。 「あっ…えっと……あぁ…」 何とも言えない声を漏らしながら、申し訳なさそうに研一は優亮を追いかけた。 もちろん他の二人はそれに気付くことなく前へ進んで行ったのだった。 「見つけたぁ!」 優亮は草むらを掻き分け、遂に帽子を見つけた。 「いやぁわりぃわりぃ! じゃあ先に…」 しかし、優亮が振り返るとそこにいたのは研一だけであった。 「……あれ?二人は?」 「あっ…えっと……先に…行っちゃった…みたいです…。すみません…」 「えぇ!? やべぇマジか!俺達つまりアレか!? 迷子なのか!?」 優亮の言葉に、研一は申し訳なさそうに頷く。 それを見て小さく「うわぁ…マジか…」と項垂れてしまった。 「ご、ごめんなさい…。僕がその…二人にちゃんと言っておけば…でも…その…僕、話すの苦手で…」 「分かってるよ。俺も何も言わなかったのがわりぃんだ。しゃーない。探してみるか」 優亮は特に研一を非難せず、適当に歩き始める。 それを見た研一は、「あ、あの!」と声をかける。 「ん? なんだ?」 「あまり、動かない方が良いと思います…。手当たり次第に歩いて、奥に進んじゃったら余計迷うし…」 「………」 「あ…す、すみません。何か…知った様なこと…」 優亮は何も言わずに研一に近づいた。 研一はいきなり近づいてきた優亮に驚き、不安そうな瞳で見つめる。 「……お前、すげぇな」 「……へ?」 予想外の言葉に、研一は喫驚する。 優亮は「いやよぉ」と言葉を紡いでいく。 「自分で言うのもアレだけど、俺って行き当たりばったりなところあってさぁ。なのにお前は、冷静に分析して、ここから動かない方が良いとか提案できたり…すげぇなって。そもそも、本名で自己紹介しようって言ったのも、お前の案だったじゃねぇか」 「い、いえ…ちょっとその…臆病なんですよ…」 「用心深いってことだろ? それに先の事を考えてるってことだし…小説だって、今もまだ考え中なんだっけ?何処まで固まったんだ設定」 「え? えっと…ボスの名前を今考えてて…」 いきなり話題が変わった気もするが、これも優亮の行き当たりばったりな性格故だろう。 「おぉ! どんなんなんだ!?」 「えっ…えぇっと…カルボネって名前で…」 「そこまでだ」 突然、研一の話に二人のコマンドラモンがそれぞれ二人の後ろから銃を突きつけて割り込んできた。 「「!?」」 「貴様…何故ボスの名前を知っている…」 「ボス…!?」 コマンドラモンの言葉に、研一は目を見開く。 ボスというのは十中八九「カルボネ」の事だろう。 そして「カルボネ」は研一が構想中の敵キャラ。 晶の作った敵組織「夜導衆」が、何故かこの世界に存在した。 となると、他の作品の敵組織もいると考えるのが妥当だ。 しかし、直の作品は敵などいない短編だけで、研一自身も構想しているだけで作品どころかその構想中の内容を何処にも話したことはない。 だから、あるとすれば優亮の掛け持ちした二つの小説の片方、若しくはその両方の敵組織が登場するものだと思っていた。 だが実際は違った。 「カルボネ」という名前のボスがいるというのなら…。 「僕の……設定まで…!」 「うぐっ!」 突然の衝撃に、研一が目が覚めた。 「お、おい! 大丈夫か!」 「優亮さん…ここは……」 駆けつけた優亮に場所を問いかけながら、研一は辺りを見渡した。 どうやら洞窟の中の様だ。 広く空いた空間で、壁には等間隔に松明がぶら下がっており、周りには沢山のタルや麻袋が置いてある。 「そうだ…。あの後、コマンドラモンに何かを撃たれてそれで……」 「気が付いたか」 研一が記憶を辿っていると、洞窟の奥の方から声が聞こえた。 振り返ると、松明の光が届かない闇の奥から、葉巻を吸いながら一人のデジモンが現れる。 そのデジモンは黒い獣の毛皮のマスクを被り、灰色のロングコートとネイビーのスーツといった、まるで映画に出てくる様なマフィアを彷彿とさせる恰好をしていた。 研一はこのデジモンをよく知っている。 何故なら、自身の創作予定のキャラなのだから。 「アスタモン……カルボネ…!」 「フッ…本当に俺の名を知っている訳か。Interessante!」 「インテ……なんて?」 「イタリア語で『興味深い・面白い』って意味です」 「イタリア? 何で?」 「いや…それはその…」 「何の話をしている?」 優亮と研一の会話に、カルボネは少し不機嫌そうにそう言った。 そのカルボネの発言に、研一はもちろん優亮も気を引き締める。 今目の前にいるのは、未だネット上の何処にも載ってはいないとはいえ、一つの物語のラスボス…若しくはそれに近い存在だ。 「……まぁいい。貴様らには訊きたい事がある。どうして俺の名を知っている?俺の記憶の中に、貴様らの様なガキはいない筈だが…」 「………」 研一は考えた。 一体、何を言えば正解だ? カルボネの設定はまだ完全には決まってはいないとはいえ、彼に下手な嘘は通じない。 彼の実力が高いのは言わずもがなだが、最も驚異的なのは彼の慎重で完璧主義な性格だ。 彼が作戦を実行に移すまで、ほとんど誰にも気付かれない。 そんな完璧な設定故に、研一は中々執筆が出来なかった。 主人公をどう行動させても、敵は確実にその上を行ってしまうのだから……。 《H to M(仮)》 作者:ジョージ1号 ヴォーボモンとなった人間の主人公・弥生伴(やよい ばん)は、その屈強な精神力でデジタルワールドで楽しく暮らしていた。 だがその時、謎の組織がデジタルワールドを襲撃。多くのデジモンはデジタルワールドを追われ人間界に現れる。 伴も人間界に逃げ、過去の親友と再会を果たす—— 「俺達は、別の世界からやって来た人間だ。で、こいつがお前の事を知ってるのは、こいつがお前の作者だから。お前は本当は、創作上のキャラクターなんだよ」 何を言えばいいか研一が悩む中、優亮は荒唐無稽な真実を一言一句正しく言い放った。 それが真実だと分かっている研一でさえも信じられないその話に、場は一瞬で静まりかえる。 「………人間…?創作上の……キャラ…?」 カルボネは眉を顰め、優亮の放った単語を反芻する。 そしてしばらく考え込むと、彼の体は小刻みに震え始めた。 「クククッ……アハハハハハ!!!! Interessante!」 「……? …あッ!」 突然笑い始めたカルボネを見て、研一は混乱したが、すぐに何かを思い出したのか声を出す。 「なんだよ? 信じられねぇってか?まぁ俺も信じられねぇけど、だったら何で俺達なんかがお前の名前知ってると思うんだよ!」 自信満々に言う優亮に、カルボネは未だに笑いながら「クククッ…確かに…一理あるな」と納得する。 そして突然… 「うッ!」 「優亮さん!?」 優亮の腹部に、カルボネの蹴りが炸裂した。 研一は急いで優亮に駆け寄ろうとするが、カルボネが空かさず、研一の溶岩の翼を掴む。 「なぁ…あいつの話が本当だとしたら、お前は差し詰め…神様といったところか?」 「……カルボネ…!あんた…!」 研一が振り返ると、カルボネは彼の目のギリギリのところでナイフを突き出した。 カルボネの顔は、笑っていた。 「神様を殺したら……そいつは一体どうなるんだ?」 「やっぱり……あんたには…あの設定が…!」 「足掻いても無駄だ。まだ薬の効果は切れていないだろう?」 カルボネの言葉に、さっきからある倦怠感の正体が分かった。 察しはしていたが、やはり気を失う前にコマンドラモンに撃たれた弾薬に、力を低下させる効果がある様だ。 だがそれより… (間違いなく、カルボネにはあの設定が生きている…!なら、チャンスさえあれば…でも、どうやって…!) 「おぉら!!!」 研一が頭を必死に回していると、優亮が近くにあったパンパンに詰まった麻袋をカルボネの顔にぶん投げた。 ダメージは期待できないが、その一瞬の衝撃にカルボネは思わず研一を離してしまう。 研一はその一瞬を見逃さず、優亮の方へ駆け寄る。 「ありがとう優亮さん!」 「なぁに。だがどうする? 体に力入んねぇし…あれ投げるだけで精一杯だぞ?」 研一はカルボネの先にある通路を見る。 この部屋の脱出口は、あの通路だけだ。 だからここを出る為には、まずカルボネを攻略する必要がある。 しかし、技もマトモに出せない状況で自分達は成長期のデジモン。 相手は完全体で、しかも究極体をも凌駕する力を持つとも言われる強敵だ。 「……そうだ。粉塵爆発!」 「え?」 「よく聞くだろ! 大量の小麦粉とかを周りにバーッて撒いて爆発する奴!これ、何か粉みたいなの入ってそうだし、お前の火花もあるし…」 「危険過ぎます! 第一、お話の中なら兎も角、これは現実なんですよ!専門家でもない僕達が、そんな現象を自分の都合の良い様に再現出来る訳が…」 「でも! それしかねぇだろ!!!理屈捏ねてやらねぇよりも、多少無理でもやった方が断然マシだ!!!!」 「なッ…!」 優亮のあまりにも無茶な言葉に、研一は絶句した。 だが、しばらくして何かを決意した様に、彼はハッキリと頷く。 「……さてさて、相談は終わったのかな?」 律儀にも二人の会話を待っていたカルボネを、研一と優亮は鋭い目で見つめた。 「あぁ!」 「まぁね!」 そう言うと、優亮は近くの麻袋を取り出してその爪で切り口を入れる。 そしてそれがカルボネに投げられた時、研一は自身の溶岩の翼を力強く横に降った。 溶岩の翼から漏れた火花が、麻袋の切り口から漏れた粉に当たる。 そして—— 一つの洞窟が、大爆発を起こした。 周りで採石の様な作業をしていたデジモン達は手を止め、幾つか建てられたテントから数十人のデジモンが爆発した洞窟の前に集まる。 そのデジモン達は、採石作業をしていると思われるデジモンとは場違いな迷彩模様で、全員銃を構えていた。 迷彩模様のデジモン・コマンドラモン達が洞窟に銃を構えて数分待ったその時…。 「グレイトフレイム!!!!」 洞窟の奥から巨大な火の玉が飛んできた。 その火の玉に、コマンドラモン達は簡単に吹き飛んでしまう。 そしてその直後に、巨大な黒い影が洞窟から飛び出した。 その影は、黒い溶岩の体を持ち、その巨体を翼の様な前足で支えるトカゲの様なデジモンだった。 「へへ…やったな…!研一!」 そのトカゲのデジモンの背に乗る優亮は、機械仕掛けの羽根ペンを持って自身が乗るデジモン・研一に話しかけた。 「うん…!優亮さんのおかげです!」 時は10分前に遡る—— ……パスッ… 中身が溢れた麻袋は、そう情けない音を出しながら地面に落ちた。 周囲には舞うのは粉状の物体ではなく、沢山のコーヒー豆に似た物体だった。 「……へ?」 優亮の素っ頓狂な声の後に、カルボネは大袈裟な溜め息を吐く。 「まさか…それで終わりか?全く…何か面白いものが見られるのかと期待していたのだが……」 カルボネはそう言って葉巻を取り出し、火をつけようとした。 その時、カルボネの視線は自然と下に向かっていた。 カルボネと研一の、目が合った。 「そうでもないよ?」 研一は自分の手を思いっきり振り、さっきと同様に火花を散らした。 しかしそれは、麻袋の中身ではなくカルボネの目を狙って。 「ぐッ!?」 「今だ!!!」 「へっ? お、おう!」 目を抑えるカルボネを通り抜け、研一と優亮は洞窟の奥へと走っていった。 二人の姿が見えなくなってきた頃に、カルボネは一人小さく笑う。 カルボネの脳裏に過るのは、研一のあの言葉。 『やっぱり……あんたには…あの設定が…!』 「クククッ…俺のこの悪い癖は、お前が設定したものなんだな?ケンイチ…」 カルボネは抑えていた手を離す。 その目には、火傷の痕など一つもなかった。 「Interessante! なら俺も、壮大に遊んでやろう…!」 カルボネが不気味な笑みを浮かべる中、研一と優亮の二人は出口を求めて走り続けていた。 「研一…お前俺が失敗するの分かってたのか?」 「まさか! 中身が豆だと知って、咄嗟にもう一つの案に行ったんですよ。失敗する可能性も一応踏まえておいたんです」 「ひぇ〜…俺完全に粉塵爆発頼りだったのに…。何だか恥ずかしい…」 「………そんな事……無いです!」 先頭を走りながら、研一は優亮の方に振り向いた。 「確かにアレは博打です。でも、僕の策も博打だった。僕一人じゃ…あんな危ない作戦はきっとやれない。でも!優亮さんの『とりあえずやってみる』っていう豪快なところに、僕…憧れたんです! だから…僕もとりあえずやってみる事にした。 理屈捏ねてやらないよりも、多少無理でもやる方がマシですから!!!!」 「研一……お前…」 その時、突然洞窟が大きく揺れ始めた。 「な、なんだ!?」 優亮が困惑していると、突然周りから無数の銃弾が飛んでくる。 「カルボネ…!この洞窟ごと僕らを潰す気だ!!!」 「はぁ!? いきなりアグレッシブ過ぎるだろ!!!!もっとこう…スマートにやれねぇのかあいつ!!!!」 「いや、元々はそういう設定でした…。でも…!」 研一は銃弾が飛んでくる方向を見つめる。 恐らくあそこで、カルボネは手当たり次第に引き金を引き続けているに違いない。 そう、元々のカルボネの設定は「慎重な完璧主義者」。 だが、その設定を重視し過ぎると、カルボネに隙が生まれなくなってしまった。 だから研一は、自身がデジモンになった日の前日に「自身が面白いと思ったモノには強い好奇心を示す」という設定を入れてみた。 どんなに自身の作戦の障害になろうと、カルボネが「面白い」と判断したものは、敢えて泳がしたり敢えて雑な方法で挑んできたり……つまりチャンスを意図的に与えてやるのだ。 そのチャンスをこの玩具はどう攻略するのか。 彼はそれを観察する事にも生き甲斐を感じる。 普段は慎重で完璧に物事をこなすが、同時に遊びも全力で楽しむ。 それが研一が考えていたカルボネの弱点であり、カルボネの個性。 快楽志向の完璧主義者。 しかしこの弱点、考えてみたのは良いものの、その後すぐに眠ってしまい、その次の日には自分はデジモンになってデジタルワールドに来ていた。 つまり、この「弱点」がどうカルボネに作用するのか。 研一自身はそこまで検証していないのだ。 (分からない…!構想中のキャラだったから…まだ動かしていないキャラだから…!行動が全く読めない…!) 「早く逃げましょう! あいつにとって遊びでも、僕らにとっては…」 研一が早めの脱出を提案すると同時に、丁度彼の真上の天井が抉れた。 天井の一部は巨大な落石となり、重力に従って研一に迫る。 「! 研一ィ!!!!」 優亮にそれに気付き、落石に向かって跳んだ。 自分に何が出来るのか分からなかった。 コマンドラモンに撃たれた薬品の効果は薄れ、力は出る様にはなったが、それでも自分はデジモン成り立て。そして戦いはもちろん、殴り合いすらもした事が無い。 だが、優亮は自他共に認めるケモナーだ。 もしデジモンに…自分の推しであるベアモンになったら…… そんな妄想、日常茶飯事だ。 だからこそ、その妄想が活きるはずだ。 (こんな俺に憧れてくれたんだ…!だったらそれらしく! カッコいいところ、見せなきゃいけねェだろうがァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」 いつの間にか、優亮は自分の心の声を口に出していた。 そして、そのまま拳に力を込めて落石に向ける。 「小熊正拳突きィ!!!!」 優亮の技が、落石に命中する。 落石はピシピシとヒビ割れを起こし、遂には粉々に砕け散る。 「ケモナー……舐めんなよ…」 優亮の一撃で命拾いした研一だが、すぐに周りを見渡した。 洞窟全体にヒビが広がっているのだ。 「マズい…!このままだと…!」 「だったら!」 そう言って優亮が取り出したのは、あの機械仕掛けの羽根ペン。 「えっ!? そ、それ何処で!?」 「さぁ? 知らん!」 実際、優亮の言葉は本当だった。 優亮が「小熊正拳突き」を放った後、気が付くとこの羽根ペンを握っていたのだ。 だが、今はそんな事はどうでもいい。 「理屈捏ねてやらねぇより、多少無理でもやった方が断然マシだ!だろ? 研一!!!!」 「……は、はいッ!!!」 優亮は羽根ペンと共に現れた半透明の本に、筆を走らせる。 【ヴォーボモンの体内に無数のデータの粒子が入り込む。 湧き上がる力に、ヴォーボモンは体を震わせ徐々に巨大化していった。 「ヴォーボモン進化ァァァ!!!」 体内に宿る強大な力を解き放つかの様に、咆哮の如くヴォーボモンは叫ぶ。 そしてヴォーボモンは強烈な光を爆発させる。 光は徐々に粒となり再構築され、ヴォーボモンの新しい体を作り上げる。 溶岩の体はそのままに、巨大化した体を支える為に翼であった前足で地面に立つ。 進化を完了したそのデジモンは、力強く現在の自分自身の種族を宣言する!】 「ラヴォーボモンッ!!!!」 ラヴォーボモンへと進化した研一は、優亮と共に洞窟を脱出出来たのは良いものの、すぐにコマンドラモン達に囲まれていた。 だが、研一の背中に乗る優亮はそれでも余裕の表情は崩さない。 「初進化は勝利フラグなんだよコマンドラモン君!!!!」 【ラヴォーボモンは両前足を高く挙げ、地面を力一杯叩きつける】 「うおおおおおおおおお!!!!」 轟音と共に、コマンドラモン達に砂塵が襲いかかる。 その隙に優亮はペンを走らせ、研一はそのペンの効果で高速に移動した。 今二人がいる場所は高い岸壁に囲まれているが、研一はそんな壁も鋭利な爪を食い込ませて軽々と登っていく。 そして研一達が登り終える少し前に、崩れた洞窟から服を整えながらカルボネが現れた。 それに気付いた二人のコマンドラモンは、急いで自身の主人の近くへ駆け寄る。 「カ、カルボネ様! ご無事だったんですね!」 「まぁな…」 カルボネは葉巻を吸い、岸壁を登り終えて森の中へ進む研一達を見つめる。 「……あいつらを捕らえてきたのは、お前達だったな」 「……!ハ、ハイ…」 「面白い奴等を連れてきたな。褒美だ」 そう言ってカルボネは、懐から四つのアンプルをそれぞれ二つずつ二人のコマンドラモンに投げ渡す。 「それを使えば…また奴等を捕まえられるかもな」 「………あ、ありがとうございます!」 「直ちに!」 二人のコマンドラモンは、すぐにそのアンプルの蓋を折って破り、中の気体を鼻で吸う。 すると二人の体に血管が浮かび上がり、目も真っ赤に充血し、異常な素早さでその場から姿を消した。 「……ふむ。一回ではその程度の効力か…」 カルボネは一人、そう呟いた。 優亮を背中に乗せたまま、ラヴォーボモンの研一は走った。 出来る限り遠くへ、カルボネのところから離れる必要がある。 その為に、彼は走るのをやめなかった。 しかし、彼の目の前に一つの手榴弾が現れる。 「くッ!」 研一は走るのをやめ、巨大な前足で自身の顔と優亮を覆った。 手榴弾の爆弾は大したものではなく、それでなんとか防げたが、思わず研一は足を止めてしまった。 研一が正面を見ると、そこには二人のコマンドラモンが立ちはだかっていた。 「ハァ…ハァ…我らがボスの為に…!」 「貴様らには、死んでもらう!」 そう言って二人のコマンドラモンは再びアンプルを折って、その中身を吸う。 「うっ…がはッ!」 すると、一人のコマンドラモンが血を吐いて倒れた。 しかし、もう一人は体を震わせ、白目ながらも未だ立っている。 「うぐぐぐ…ガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」 あまりの苦しみに、コマンドラモンは天に向かって吠えた。 するとコマンドラモンの体が溶け始め、腐臭を放ちながらその場で崩れた。 そしてしばらくして、その溶けた体が起き上がる。 目の周りには金属板が張り付いており、所々にチューブの様な機械的なものと肋骨といった生物的なものがはみ出していた。 「レアモンに……進化した!」 「というより…レアモンになっちゃったって感じか?」 「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」 研一と優亮が驚いていると、レアモンが研一に向かって突進をした。 そのタックルにより研一は吹っ飛び、彼の背中に乗っていた優亮も地面に倒れる。 「いってぇ! 畜生やりやがったな!」 「優亮さん! まだ僕はこの姿に慣れてない!だから!」 「分かってるよ! 俺の文才、見せてやるぜ!」 「ウワオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」 レアモンは口からヘドロを吐き出す。 それに対し研一は、優亮の執筆に合わせて上空に跳んだ。 「わりぃな! あんま時間かけてやれねぇんだ!」 優亮はそう言い、執筆のスピードを上げる。 【ラヴォーボモンは、その重量級の体で地面を思いっきり叩いた。 ラヴォーボモンの体重+重力 極単純な自然法則に乗っ取った力だが、現在進行形で崩壊を続けているレアモンの体には、衝撃を与えるには十分過ぎるものだった】 「グッ…グオォォゥ…」 「今だ!」 優亮は近くの木に寄り添って、揺れる地震からバランスを取りながら、また筆を進める。 それと同時に、研一は喉元に力を蓄えた。 優亮はそれを見てニヤリと笑う。 「言ったろ? 初進化は勝利フラグだ」 「グレイトフレイム!」 研一の放った渾身の火の玉が、隙だらけのレアモンに炸裂。 「グオォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」 レアモンの叫びは森中を震わせ、その声の残響を自身の耳で聞きながら、レアモンは粒子となって消滅した。 体に溜まっていたエネルギーが、一気に外に出ていくのを感じる。 研一はラヴォーボモンからヴォーボモンへと姿を戻す。 「やりましたね優亮さん! あとは…」 研一が優亮の方へ振り向く。 しかし、優亮は研一を笑顔で出迎えてはくれなかった。 優亮は、特殊武装をした竜人のデジモン・シールズドラモンに拘束されていた。 「! ゆ…」 研一が、思わず飛び出そうとすると、後ろから何者かに踏みつけられた。 その相手は、あのカルボネだ。 「よう神様。どうだったかな? 俺達の発明は」 「発明…?」 カルボネが何を言っているのか、最初は分からなかったが、研一はまさかと思い一人のコマンドラモンが倒れていた場所を見る。 そこには、さっきまでいたはずのコマンドラモンの姿は何処にもなかった。 「まさか…あのシールズドラモン…!」 「あぁ、まさか一人は成功するとは思わなかった。嬉しい誤算だよ」 そう、あの倒れていたコマンドラモンは、あの後アンプルの効果によってシールズドラモンへと進化していたのだ。 それも、レアモンの時とは違って自我を保った状態で。 「さぁ神様、君の力は見せてもらった。次は俺の相手をしてくれるかな?」 カルボネは笑みを浮かべ、研一に問う。 こんな質問、もちろんノーと言いたいところだが…。 「もちろん、断る訳が無いよなぁ? お友達の命を握られている中で」 一方、直と晶は… 「優亮さんと研一さん、何処に行ったんでしょう」 「う〜ん…そこまで遠くへは行っていない筈ですが…」 二人は行方不明になった仲間を探し続けていた。 だが、この広大な森で二人の成長期デジモンを探すなど、ハッキリと言って無謀だ。 そんな事、直も晶も分かってはいるのだが、だからと言って彼等を見捨てる事ができるほど冷酷ではない。 「何か音や煙を上げて、場所を伝えるというのは?」 「それが一番ですね。ただ、ウッドモンみたいなのが来ないか心配ですが…」 晶の提案に、直がデメリットを考慮しながらも賛成しようとした時、ある方角から轟音が聞こえた。 その轟音は、優亮と研一が洞窟から脱出した時に上がった音だった。 直と晶がそんな事を知る由も無いのだが、結果的に正解とも言える判断で、二人はその轟音の方へと走った。 だが彼等の前に、ある一人の赤い小竜が立ち塞がる。 「そう慌てんなよ。ビクト様」 頭に羽の様な飾りを付けたその赤い小竜は、直をアカウント名で呼びニヤリと笑う。 「ギルモンX抗体…!? まさか…!」 直はその種族に見覚えがあった。 それは、隣にいる晶も同様だった。 デジモンファンとして知っている訳ではない。 晶は、直の作品を全て読んだ事があるから知っていたのだ。 直とギルモンX抗体が、「作者」と「キャラ」の関係である事を…。 あとがきですのよー! ってなわけで、すぐ投稿するとか言って、1週間かかりました。 まぁ数年放置とかあるから、それと比べたら光の速さの更新なのでヨシ!!!!!!! 実はここに1章投稿した時点で2章はほぼ出来上がってたんですが、最初の案だとカルボネが研一達を逃がして終わりだったんです。 ただ、後々の展開とか考えたら、「カルボネがここで逃がすのも変だな」「予想外の助っ人参戦!とかも使いたくないな」って訳で急遽この展開になりました。 これからどうなるかって?俺も知らねぇ。 ということで第2章でした。 さてさて、この続きはいつ出来るかな!?
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てるジノ坊主
2023年1月04日
In デジモン創作サロン
身体中が痛い。 彼は、特に痛む腹部を抑える。 全身の色がほとんど青を占める中、そこだけは真っ白だった。 その人と全く違う体色が、現在の自分の状況を再認識させられる。 (ブイモンになって…早々これって…) 彼、ブイモンは頭の中でそうボヤいた。 ブイモンが隣を見ると、真剣な表情をしているデジモンがいた。 「みんな隠れてて。これはきっと…私の責任です」 そうそのデジモンは言って、隠れていた倒木の影から姿を曝け出す。 「だ、駄目だ…!一人で勝てる相手じゃない!」 ブイモンは、出て行ったそのデジモンへと届きもしない手を伸ばした。 助けなきゃ…! もしかしたら彼女は…! その時、ブイモンの目の前に一枚の羽根が舞い降りた。 そんな気がした。 ソーシャル・ネットワーク・サービス SNSと呼ばれるそれは、多くの人々の情報と欲望が渦巻く不思議な世界。 そこで人々は、現実と同じ様に一つのグループに集まって他愛もない会話をしていた。 《最新話読んだけど…いいなぁ。僕はこんな長編書けない…》 《でも私は短編とか書けないですし…》 《俺最後に更新したのいつ…? いつ…?》 《う〜ん…中々設定が固まらない…》 四人の男女が、またいつもの様に好き勝手に会話をする。 この四人に共通する趣味。それは「デジモン」だ。 彼等が生まれる少し前に生まれたコンテンツで、デジタルの世界で暮らす多種多様なモンスターは当時の子供達を夢中にさせた。 デジモンは今でもファンを惹きつけ、その人気は続いている。 この四人も、その夢中になったかつての子供達だ。 そしてそのデジモン愛を、彼等は一つの方法で表現していた。 ネット小説。 今や誰でも作れるそれは、ネットの世界では溢れかえっていた。 この四人は、そのデジモン小説を書いたり読んだりしている仲良しグループなのだ。 ある一人は、短編専門で色んな話をその都度その都度に書き、またある一人は、長編を今もなお続けて書いている。 そしてまたある一人は、長編を二つ書いていたが、多忙な生活となってその二つともを全く更新しないまま放置してしまっている現状。 そして最後の一人は、読む専門でまだ小説を書いていないが、これから書こうと設定を練っているところだ。 この四人はいつも通り、他愛もない会話をし、時計の針が12時を過ぎた頃にだんだんとそれは終息していった。 また明日、彼等はネット上で集まって話をするのだろう。 そう、ネット上で集まって。 「ん〜…」 狐の獣人の様なデジモン・レナモンは目を覚ます。 ギンギンに光る太陽の光が視界に入り、レナモンである彼女は再び目を瞑る。 「……ん?」 その時、妙な事に気付いた。 自分は屋内で寝たはずだ。 それなのに…太陽? 「へ!?」 彼女は勢いよく起き、辺りを見渡した。 青空が広がるその原っぱは、彼女の記憶の何処にも該当しなかった。 そしてその後すぐに、彼女は自分の手を見る。 「何これっ!?」 彼女は自分の手だけでなく、他の部位も確認していく。 そして確認した事で導き出された答えは一つ。 「レ、レナモンだ…」 自分がよく知るデジモン。というか、自分が一番好きなデジモンだ。 そのデジモンに、「人間である自分」がなっている。 「えっ…? ど、どういう…」 「うおぉ!?」 突然、誰かの声が聞こえた。 その方向を見ると、そこには帽子を被った熊の様なデジモン・ベアモンがいた。 ベアモンは、自分のもふもふの腕を何度か揉んだ後、呆然とする。 その姿を見て、レナモンは確信した。 このベアモンも、自分と同じだ。 そしてよく見ると、ベアモン以外にも自分と同じ様に倒れているデジモンがいた。 あれは確かブイモンだ。 そしてもう一人は… 彼は自分のゴツゴツの翼となっている手を見て愕然としていた。 全身溶岩で出来た様な飛竜の様なデジモン・ヴォーボモンは周りを見渡す。 ブイモン、レナモン、ベアモン…。 どれもよく知っているデジモンだ。 そして自分が「なっている」デジモンのヴォーボモン。 このデジモンの事を忘れる訳がない。 ヴォーボモンは、彼の一番のお気に入りのデジモンだ。 だが、まさかそんなデジモンに自分がなるとは思わなかった。 いや、デジモンになるという事自体が驚きなのだが。 「あの…」 ヴォーボモンが困惑していると、レナモンが声をかけてきた。 彼はレナモンの方へ向き、とりあえず一度会釈する。 「な、なんです…か…?」 「さっきの反応を見るに、貴方も同じ…ですよね?」 「……同じ?」 レナモンの質問に首を傾げるヴォーボモンだったが、そこにすぐに乱入者が現れた。 「人間って事だよな!?」 取り乱した様子で、ベアモンが二人の間に割り込んできた。 突然の乱入にヴォーボモンは驚くが、ベアモンはそれを気にせずズレた帽子を直しながら口を開く。 「全く意味わかんねぇよなこの状況!ねぇ? 君は何か知ってんの?」 ベアモンはすぐにレナモンの方へと訊いてくる。 レナモンは腕を組み、ベアモンをジッと見つめる。 「………何か喜んでない?」 「よ、よよよ喜んでねぇし!!!別にベアモンになりたいなんて思った事ねぇし!!!」 「思ってたんですね」 「あぁハイ思ってましたよ! 思ってましたとも!悪かったですねケモナーで!!!!!」 ヴォーボモンにも図星を突かれ、ベアモンは最早否定を諦めて開き直った。 だがそんな彼を見て、レナモンとヴォーボモンはクスッと笑い始める。 「な、何だよ…」 「いや、実は私もちょっと今の状況にワクワクしてたものだから…」 「なんだか同じ事思ってる人いると知ったら、安心しちゃって…あ、人じゃなくてデジモンですね」 レナモンとヴォーボモンは互いにそう言った後、一人岩に座るブイモンを見る。 「貴方はどうですか? ブイモンさん」 「へ?」 レナモンに声をかけられ、少し遠くにいたブイモンは振り返った。 その瞬間、ブイモンの目は大きく開かれた。 「危ない!」 ブイモンの叫びとほぼ同時に、レナモン達の背後から大きな影が現れる。 その影の接近に気付き、レナモン達は咄嗟にその影から離れる為に走った。 そしてその直後、レナモン達がいた場所に巨大な木が落ちてきて地面を抉る。 距離を取った後にその影の正体を見るレナモン達。 それは、枯れ果てた大木の姿をしたデジモンだった。 「ウッドモンだ!」 ベアモンが空かさずそのデジモンの名を叫ぶ。 ウッドモンの事なら、ブイモンを含めた四人全員が知っていた。 だからこそ、彼等は危機感を覚えていた。 数で勝っているとはいえ、成長期相手に成熟期なんてデジモン初心者には厳しいものだ。 「貴様ら…何者だ?」 ウッドモンは鋭い目で、ブイモン達を睨む。 何者と言われても、こっちも未だに状況が判断できないのだ。そんな事を言われても困る。 「答えんのか…。ならせめて、貴様らの命でワシの心を満たすがいい!この『夜導衆《やどうしゅう》』であるワシをな!」 「夜導衆…?」 ウッドモンの言葉に、レナモンは引っかかるものを感じた。 だがそれはレナモンだけでなく、残りの三人も同じであった。 「夜導衆って…【まっちゃちゃ】さんの…」 その内一人のベアモンは、思わず疑問を口に漏らす。 そして今度は、その言葉を聞いた三人が彼を見る。 「えっ…な、なに…?」 全員が困惑している事を尻目に、ウッドモンは音を立てて迫ってきた。 四人はすぐにそれに気付き、浮かんだ疑問を一先ず置いて構える。 「お、おいどーすんだよ!? 技とかどう出すんだ!?」 「ヴォーボモンの技は『プチフレイム』だけど…あれどうやったら出るんですか!?」 「私の『狐葉楔《こようせつ》』もね…」 「出せるのは…」 ブイモンはしばらく考え、迫るウッドモンに飛びかかり、頭を向けた。 「ブイモンヘッド!」 ブイモンの頭突きが、ウッドモンの炸裂する。 ウッドモンはよろけるが、すぐに頭突きの衝撃で宙に浮くブイモンを巨大な枝の腕で殴り飛ばす。 「うっ!」 「ブイモン!」 吹っ飛び地面に叩きつけられたブイモンに駆け込むレナモン。 「そ、そっか! 俺だって…」 ベアモンは自分の技が拳によるものだと思い出し、ウッドモンに向かおうとした。 だが、現実で見るウッドモンはイラストやゲームで見るものよりも恐ろしく見え、ベアモンは思わず足を止めてしまう。 「干からびてしまえ! 『ブランチドレイン』!」 「げっ!?」 ベアモンが止まった事に大して反応をせず、ウッドモンは巨大な腕を光らせベアモンに迫る。 ベアモンはすぐに危険を察知し回れ右をして走り出した。 案の定、レナモン達も逃げており、ブイモンはレナモンに担がられている。 「おいおいおいおい! やべぇよこれやべぇよこれ!なぁこれ夢じゃねぇよな!?」 「だったらどっち!? 嬉しいの!?嬉しくないの!?」 「ベアモンになれたのは嬉しいけど、ウッドモンに追われるのは嬉しくない!!!!!」 「僕もそう思います!」 レナモンに対するベアモンの答えに、ヴォーボモンも同意しながら一緒に逃げていく。 翼があるくせに、全く飛ぶ気配が見られないが、元が人間なうえにこういうタイプのデジモンはまともに飛べた試しがない。 レナモンは一見非効率的に見えるその逃げ方に効率性を見ながら、追いかけるウッドモンを見る。 「夜導衆…」 《電子狐は夢を見るか》 作者:まっちゃちゃ 虚無感に悩まされるレナモンは、その虚無感を満たす為に悪事を働く集団の中にいた。 だが、レナモンはそんなことで本当に心が満たされるのかが疑問で、どうしたらこの虚無感を満たせるものかと毎日毎日考えていた。 その時、同じく虚無感に悩まされながらも、見ず知らずの命の為に身を投げ出す不思議な生き物と出会った。 その生き物・人間の少女に興味を持ったレナモンは、彼女が人間界に帰る方法を手伝うという名目で近づき、自分自身の虚無感を満たそうと考えた。 こうして、レナモンの望月《みつき》と人間の稲荷満月《いなり みづき》の冒険が始まる—— これがとある小説投稿サイトで、とある人物が【まっちゃちゃ】というアカウント名で投稿しているネット小説《電子狐は夢を見るか》のあらすじである。 そして、その小説内に出てくる敵役の組織の名は「夜導衆」だ。 そう、今現在レナモン達を追いかけてきているウッドモンが所属しているらしい集団と同じ名前。 それに、レナモンは強く引っ掛かった。 この小説を知っているから…いや、知りすぎているからだ。 何故なら… (何で…私の作ったお話と同じ名前が…) そう、例の小説の作者【まっちゃちゃ】は他でもない彼女なのだ。 もちろん、彼女は実在する集団を小説に取り入れた訳ではない。 彼女自身が「頭の中で作った敵役」なのだ。 レナモンは何故そうなったのか、怪我をしたブイモンとベアモン、そしてヴォーボモンと一緒に倒木の影に隠れながら考えていた。 しかし、幾ら考えても答えは出てこない。 何故、自分の作った空想の敵が自分達を襲っているのだろうか。 「何処に行った…。出てこい!ワシの心を満たせぇ!」 ウッドモンの声が聞こえる。 このまま放って置けば、辺り一面を破壊するなんてやりかねない。 自分が作った敵なのだ。よく知っている。「夜導衆」は、そんなイカれたデジモンの集まりだ。 結局答えは出てこないが、元はと言えば「夜導衆」を作ったのは自分自身だ。 ならば、やる事は一つ。 「みんな隠れてて。これはきっと…私の責任です」 レナモンはそれだけ言って、自ら姿をウッドモンに曝け出した。 さっき意識がはっきりし始めたばかりのブイモンが何か言っていたが、レナモンはそれを無視してウッドモンに近づく。 「一人だけか…。他の三人は何処だ?」 「さぁね。逸れちゃった」 「フン…そうか。なら良い」 レナモンの嘘を信じたのか信じていないのか、ウッドモンは特に何も言わずに巨大な腕を振り上げる。 「ワシの心を満たすが良い!」 ウッドモンの腕が振り下ろされる。 レナモンは体に力を入れ、ウッドモンと迎え撃つ覚悟を決める。 その時、レナモンを中心にデータの嵐が起きた。 「ぐおぉ!?」 突然の衝撃に、ウッドモンは吹き飛ばされた。 その衝撃の中心にいるレナモンに、徐々にデータが集まってくる。 「レナモン進化!」 データはレナモンの体に纏わりつき、データで覆われた体は別の形へと変化する。 脚、腕、尻尾と変化していき、最後には顔にデータが集まり、レナモンと比べて大人びた顔へとなり、レナモンは九本の尻尾の生えた四足歩行の狐のデジモンに変化…いや、進化した。 「キュウビモン!」 キュウビモンへと進化したレナモンを見て、ウッドモンは起き上がりながら目を見開く。 だがすぐに冷静さを取り戻し、戦闘態勢を取った。 「少し進化したところでぇ…!」 ウッドモンが迫ると、キュウビモンは空かさずその九本の尻尾を大きく広げる。 するとその尻尾の先端に、次々と青い炎が現れた。 「鬼火玉!」 九つの鬼火が、ウッドモンの周りを浮遊する。 植物型デジモンであるウッドモンにとって天敵であるその鬼火に、彼は身動きが取れずに辺りを見渡す。 「フン…馬鹿にするな」 するとウッドモンは、自身の腕で勢いよく地面を叩き、その反動で宙に浮いた。 「なにっ!?」 予想外の行動に、キュウビモンは思わず驚く。 重力に従って迫ってくるウッドモンから逃げようと足を動かすが、バランスを崩してよろけてしまう。 「くらえぇ!」 「ぐあぁ!」 ウッドモンは落ちた瞬間に腕で地面を叩き、その衝撃で鬼火は消え、逃げ遅れたキュウビモンは吹き飛ばされ木にぶつかる。 「どうした? 進化したばかりで、体が慣れないのか?」 「くっ…そんな訳…」 キュウビモンは強がってみせたが、実際はその通りだった。 無理もない。本当の姿は人間で、ついさっきまではレナモンという人に近い姿形をしたデジモンだったのだ。 九本の尻尾を持ち、四足で歩くなど人生で一秒たりとも経験は無い。 「強がりを。まぁ良い。その程度なら、簡単に殺せるからな」 再び、ウッドモンは腕をキュウビモンに振り下ろした。 動く事すらままならない程だ。 直撃はせずとも、ダメージは必ず受ける。 そう、ウッドモンは油断していた。 だから、ウッドモンはキュウビモンの姿を見失ってしまった。 「なにっ!?」 ウッドモンは焦り、右方へ体を向ける。 あの一瞬で攻撃を避けていたキュウビモンの姿を目に捉えたが、それもすぐに消えてしまった。 キュウビモンは、立ち並ぶ木々を素早く蹴っていって、ウッドモンを翻弄する。 「どういう事だ!? 何故…!?」 「鬼火玉!」 「ぐおっ!」 ウッドモンが混乱していると、様々な方向から鬼火が襲ってくる。 ただでさえ動きが遅いウッドモンはそれを避けきれず、どんどん体力を消耗していく。 「何が起きてるんだ…!」 息を切らして、ウッドモンは頭を整理させる。 さっきまではキュウビモンは、自分自身の体に慣れていない様子だった。 それなのに突然、彼女は素早く動き始めたのだ。 突然の事で動揺しているが、この動きはキュウビモンとしてはまだ平均的だ。 だが、それにしてもだ。 それにしても、動きが別人過ぎる。 その時、太陽に一つの影が重なった。 ウッドモンは反射的に太陽を見る。 キュウビモンだ。 キュウビモンは炎を纏いながら体を縦回転させる。 「孤炎龍!」 キュウビモンは青い炎の龍の姿となり、ウッドモンに迫った。 「馬鹿な…!」 ウッドモンはそれを避けきれず、青い炎に包まれ断末魔をあげながら消滅した。 燃え盛る青い炎をバックに、キュウビモンは地面に着地してレナモンへと姿を戻したのであった。 レナモンは青い炎を見つめた後、不思議そうに自分の手を見つめる。 進化、技、そしてあのキュウビモン特有の素早い動き。 何故、それらをあそこまで自然に行えたのか、レナモン自身にも分からなかった。 そんな時、ブイモン達がレナモンへと駆け寄ってきた。 ブイモンの手には、何やらメカニカルな羽根ペンの様なものが握られている。 「良かった。勝てたんですね」 「えぇまぁ…それは?」 レナモンはブイモンが手に持っている羽根ペンを指差した。 ブイモンは「あぁ」と言って、そのペンが見やすい様にレナモンへと向ける。 「多分、デジヴァイスみたいなものだと思いますよ。【まっちゃちゃ】さん」 ブイモンの発したその名前に、レナモン本人はもちろん、ベアモンとヴォーボモンが「えぇ!?」と声を漏らした。 ブイモンは微笑み、口を開く。 「『夜導衆』って名前を聞いて、自分の責任だなんて言うレナモンと言ったら、【まっちゃちゃ】さんしか考えられなくて。僕、【ビクト】です」 ブイモンの自己紹介に、レナモン達三人は驚き、ベアモンに至っては「えぇ!?」と声を上げる。 「えっ…マ、マジで…?俺…【グリリン】」 「ぼ、僕は【ジョージ1号】です…」 ベアモンとヴォーボモンの自己紹介にも、再び衝撃が走った。 何故ならこの四人は、よくSNSで話す四人組なのだから。 辺りはすっかり真っ暗になり、ブイモン達はとりあえず森の中で野宿をする事になった。 野宿なんて初めての経験だが、辺りに食べられそうな果物と飲み水になる川が流れていて助かった。 少し抵抗はあるが、この際だ。仕方がない。 「つまり、このペンが突然現れたと?」 小枝を集めながら、レナモンはブイモンにそう訊いた。 ブイモンは「はい」と答え、小枝を一箇所に集め始める。 「【まっちゃちゃ】さんが戦いに出た時に、僕も何かできないかと思ってたら出てきたんです」 「でもそれ…デジヴァイスみたいなものと言っていましたね。どう使うんですか?」 「見てもらった方が早いと思いますよ」 「お待ち〜!」 ブイモンとレナモンが話す中、ベアモンが沢山の小枝を抱えながら、ヴォーボモンと共に戻ってきた。 そして彼等が集めた小枝も、これまた一箇所に集める。 「よし、これで焚き火の準備完了だな。なぁ【ビクト】さん。そのペン、貸してくれねぇか?」 「良いですよ。そもそも僕のものでもないですし」 そう言ってブイモンは、ベアモンに例の羽根ペンを渡した。 ベアモンがその羽根ペンにあったスイッチを押すと、何処からともなく半透明の光の本が現れる。 「え〜と…枝が全部燃えると困るし…。つかペン持ちづれ」 ベアモンはしばらく考えた後、少し苦労しながらその本のページの上でペンを滑らせる。 【ヴォーボモンは小枝達に息を吹きかけた。すると、その息に紛れた火の粉によって、小枝に火が付く】 そうページに書かれた瞬間、ヴォーボモンは集まった小枝に顔を近付かせてそのページ通りにフッと息を吹きかけた。 そしてこれもページ通りに、小枝に火が付いて焚き火が完成する。 それを見て、レナモンはペンの能力を知って驚愕した。 「まさか…書いた通りになる…という事ですか?」 「そんな万能なものじゃないみたいですけど…まぁそんな感じです」 ブイモンは一部を否定しながら、そう答える。 その答えを聴き、レナモンは今日起きた不可思議な出来事の一つを納得できた。 「じゃあ私が進化したり、技を出せたのも…」 「えぇ、僕が書いたんです。まぁウッドモンが思ってたより強くて、筆記が間に合わなくなった時もありましたけど…すみません」 筆記が間に合わなくなった時とは、恐らく思う以上に動く事が出来なくなったあの一瞬だろう。 その後すぐにブイモンが続きの展開を書いてくれたから、自分はきっとウッドモンの意表を突いて勝てる事が出来たのだ。 「という事は、相手側の動きはコントロール出来ない…?」 「相手の行動は事前に文字で浮かぶんですけど、その後にすぐにこっちも対抗策を書かないといけないみたいですね。あと、僕やみんなを進化させたり、元の世界に戻すとかやってみましたけど、全部ダメでした」 「一体…何故?」 「多分シチュエーション…でしょうね。物語として不自然な展開は現実化できない。それがあのペンの限界なんだと思います」 「なるほど…シチュエーション…」 レナモンはそこまで聴いて納得した。 「書いたことを現実にする」とは一見チートアイテムに聞こえるが、その様な制限があるとなると、そこまで万能ではない。 書く側次第では、戦況が詰んでしまう可能性だってある訳だ。 「お〜い。そんな難しい話してねぇで、こっちの話も聞いてくれよ」 「え? あぁすみません」 「すみません」 ベアモンに声をかけられ、ブイモンとレナモンは謝る。 ヴォーボモンは「いえいえ」と優しく微笑み、こっちで進めていた話の続きをする。 「その…良かったらなんですけど、改めて自己紹介…とか…しません?その…本名で」 「まぁとにかく! こんな状況にもなったんだ!しばらくの間どうするか分かんねぇし、アカウント名で呼ぶのも気が引き締まらねぇからさ!な!? 良いだろ!?」 辿々しく訊くヴォーボモンのフォローをするかの様に、ベアモンは屈託のない笑顔で続けてそう言った。 ブイモンとレナモンはしばらく考え、その提案に乗った。 こうして互いに、二回目の…そして本名での自己紹介を行った。 四人のプロフィールは以下のとおりだ。 本名:伊佐田直《いさだ なおる》 アカウント名:ビクト 種族デジモン:ブイモン 執筆状況:全て完結(全て短編) 作品名:サンタモン探索隊、罪を受け入れし竜、憧れは現実へ…など 本名:佐野晶《さの あきら》 アカウント名:まっちゃちゃ 種族デジモン:レナモン 執筆状況:連載中 作品名:電子狐は夢を見るか 本名:多川優亮《たがわ ゆうすけ》 アカウント名:グリリン 種族デジモン:ベアモン 執筆状況:二つとも放置中 作品名:デジモンネバーライフ、DIGITAL-DOOMSDAY 本名:宮崎研一《みやざき けんいち》 アカウント名:ジョージ1号 種族デジモン:ヴォーボモン 執筆状況:未執筆 作品名:なし(製作予定) 彼等四人は、これからも多くの困難にぶつかる事になる。 それは四人全員、心の何処かで感じ取っていたが、とりあえず今はそれを考えない様にして、いつも通り他愛も無い話をして笑い合った。 ここから、「デジモンSNS《セーブ・ノベル・ストーリーズ》」の物語が始まるのだ。 あとがきですわー! という訳で、デジモンSNSでした。 これはpixivでも投稿していて、第1章投稿してから半年経ってもまだ続きができてない作品となります。 なら何故出した まぁここに投稿した理由としては、まずこの作品は「みんなこんなの考えてるでしょ!?ね!!!」って気持ちで即席で書いたもので、よくよく考えたらこの創作サロンが一番合ってる作品だよなということ。 あとは他所でも投稿することで「はよ続き書けや」と自分を追い込むことですねハイ。 まぁpixivでメインで投稿してる作品も全然書けてないんですけどね。ゴホンゴホン。 近いうちに第2章は投稿する予定ですが、果たしていつまで続くかな!?!? という訳で(?)、皆さん読んでくれてありがとうございました。 何か気付いたらアカウント名「てるジノ坊主」のキャラ増えてたりしねぇかな
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てるジノ坊主
2022年10月31日
In デジモン創作サロン
ピンポーン 聞き慣れている筈のその音が、人生最大の決断をした自分にとっての祝福と激励の鐘の音に聞こえた。 この春に小学3年生となり、背の低い順で遂に前から二番目になるという彼にとっては大きな進歩を遂げた少年・河合翔大(かわい しょうた)は、自宅から隣の一軒家の前に立っていた。 「翔く~ん! 約束守ってくれたんだねぇ~!」 扉を勢いよく開けて出てきたのは、ポニーテールの活発そうな中学生の女の子・桐井愛音(きりい あいね)。 「は、はい! ま、まぁその…えっと…」 愛音は、翔大の初恋だ。 物心付いた時から、彼は愛音を実の姉の様に慕い、彼女もそれに笑顔で応えてくれた。 そんな彼女の屈託のない笑顔は、翔大に恋心というものを目覚めさせるには十分なものだった。 そんな初恋の相手にいきなり呼び出され、しかも二人っきりだという。 こんなの緊張しない訳がない。 「はいはい、話は部屋に入ってから!」 「えっ!? あ、えっとじゃあ…お邪魔します…」 少し強引に家に招き入れようとする愛音に、少々戸惑いながら初恋の相手の家に入る翔大。 そのまま彼は、愛音の部屋に入り、夢にまで見た個室で二人っきりの状態になる。 「ごめんねぇ~、いきなり呼んじゃって」 「い、いえ!ぜ、全然大丈夫れ…大丈夫です!」 緊張で少し噛みながら姿勢を正す翔大。彼の目の前には、予め愛音が用意していたのであろうお菓子とジュースが置いてある。 「いいよ食べても」 「あ、えっと…頂きます!」 翔大は緊張から喉が渇いていたのか、置いてあるジュースを一気飲みする。 「飲むねぇ~。そんなに飲んでくれてると私も嬉しいよ~。ほら、お菓子もあるよ」 「えっ…あ、は、はい。い、いただきます…」 愛音の言葉に逆らう訳にもいかず、翔大は言われるままにお菓子を食べる。 「うんうん、よく食べる。やっぱり翔くん見てると、改めて気持ちが固まったよ!」 「え…固まった?」 愛音のよく分からない発言に、翔大の手が固まってしまった。 「…あれ?」 そう、文字通りに。 「いきなり一人で来てって言った理由、話してなかったでしょ? 実はね私、パートナーが欲しいんだよね」 「え、いや、あの、これ…何が…ッ!」 青色に染まっていく翔大の体。 だが、愛音は気にせず話を続ける。 「何でも気軽に話せちゃうような…それでいて弟のような…そういうパートナーが欲しいんだよねぇ~」 「あ、あの!愛ねえ!これ、これ変だよ!?」 翔大の服は粒子状になって散り、その姿が露わになった。 全体の体色は青く、口元と腹部の白がよりその青色を引き立てる。 目元や額には黄色いアクセントが付いており、本人には見えないだろうが、特に額の模様がV字に見えて特徴的だ。 翔大は体が変わったことに驚愕しながらも、突然服が消えたことにより思わず自分の股間部を隠す。 「あはは、大丈夫だよ翔くん。君が思ってる様なものはその体には無いから。あ、翔くんじゃなくて、もう『ブイモン』か」 「ど、どういうこと愛ねえ…。ぼ、僕…か、から、体が…」 「もう!パートナーなんだから『愛ねえ』じゃなくて『愛音』って呼んでよ。ね? ブイモン」 「だから何言ってんだよ愛音!あれ?僕いま愛音のこと…じゃなくてその…愛、愛ねえのこと…」 何故か『愛ねえ』と呼ぶのに抵抗を感じる。まるで、今まで慣れ親しんできた呼び方を突然変えてしまった様な違和感だ。 「ボク…前から愛音のこと愛音って呼んでた?い、いやそんな筈…でも…何だこれ…」 翔大だったブイモンは怖くなり、愛音から距離を取り始める。 すぐ後ろにはドアがあり、今からでも逃げ出せる位置にブイモンは立った。 だが、そこでも不思議な事が起きた。 「どうしたのブイモン?私から逃げようと思ってる?そんな事しないよね?だって私達パートナーだし」 愛音の言葉に、ブイモンは震えた。 いや、震えようとした。 自分を別の何かに変えてしまったこの人間に対し、恐怖を感じて逃げ出したいと頭の中では叫んでいる。 しかし、心の何処かで愛音を『大切な存在』と感じてしまっている。 そんな大切なものを置いて何処かへ行くなどあり得ない。ブイモンの中に、そんな考えが広がっていく。 「お、お願い…戻して愛音…。ママとパパが心配しちゃう…」 「そんな事言わないでよブイモン。ブイモンにとって一番大事なのは誰?」 「そんなの!もちろん愛音に決まってるでしょ!」 愛音の言葉に、ブイモンは食い掛るようにそう答えた。 しかし答えた直後に違和感を感じ、思わず「あれ?」と声を漏らす。 「今ボク何を…?一番大事なものって言われて…それでボクは愛音って答えて…それで…終わり?いや、そんな訳…どこかに変なところがあった筈…」 ブイモンはこの違和感を探ろうと部屋を見渡す。 そして、自分のすぐ後ろに部屋から出るドアがあることに気付いた。 自分は部屋から出ようとしたのだろうか?一体何故?自分は初めて出会った時から愛音のパートナーで、ずっと愛音と側にいたのに何故今更? それに、初めて出会ったっていうのはいつ? 頭の中で考えを反芻するブイモンと何処か不安気にも見つめるものの、それを顔に出さない様に笑顔を作る愛音。 そんな笑顔の愛音を見て、ブイモンはある出来事がフラッシュバックした。 毎日出会う度に見せてくれる眩しい笑顔。 その笑顔に惹かれて、彼は愛音に恋をしたのだ。 そう、『河合翔大』は… 「………あ、そうだ。ボク、人間だ」 ブイモンは自分の過去を思い出した。 そして、不安そうな顔をする愛音の方に振り向く。 「愛音、ボクを『しょーた』って人間からデジモンにしたんだね?」 「あぁ…惜しかったのに思い出しちゃったかぁ~…。じゃあ今度は…」 「大丈夫だよ愛音」 悔しそうに何か別の手を打とうとする愛音に、ブイモンは近づいた。 その顔の距離は僅か数センチ。 「ボクから『しょーた』を完全に消したいんでしょ?でも、もう無理だと思うし、そんな事やっても無駄だよ?だってボク、愛音のパートナーなのは変わらないもん」 「あぁ…ブイモぉン…なんて嬉しいことを…!」 念願のパートナーを手に入れて、愛音は思わずブイモンに抱き着いた。 ブイモンは少し恥ずかしかったが、パートナーなんだからいいかと考え、それを甘んじて受け入れた。 (前のボクだったら、恥ずかしくて狼狽えるなぁ…) 呑気にそんな事を思っていると、ブイモンはあることを思い出した。 「ねぇ愛音。前のボクの…『しょーた』の両親とか友達はどうするの?行方不明になったら探しに来るよ?」 「あっ…やば。そこ全然考えてなかった」 「もう…愛音ったらぁ…」 ブイモンは考えなしに行動する愛音に呆れながらも、怒ったり焦りはしなかった。 確かに「河合翔大」という人間が行方不明となってしまえば間違いなく捜査が始まる。 そして捜査が進むに従って、疑いの目が愛音に向くことは避けられようが無いだろう。 だが、今の愛音には「パートナー」がいる。 「もし愛音に酷いことをする奴がいたら、ボクが倒してあげるから安心してね」 「もしそれが、翔くんのママやパパでも?」 愛音の質問に、ブイモンは首を傾げる。 「もちろん倒すけど…なんで???」
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てるジノ坊主
2020年9月12日
In デジモン創作サロン
Episode1「EVOLUTION」 「さぁさぁ! 始まりました! 第十一回! デジモンバトルトーナメント!」 真緑の鬼の様な姿をした怪物・シャーマモンは棍棒の代わりにマイクを持ち、スーツ姿で周りの会場にいる怪物達の熱気を上げる。 「このトーナメントで、新たな最強のデジモンが決定するぅ!!!!! 優勝した暁には、チャンプ専用のスペシャルアイテムがプレゼントされ…そして!!!!!」 シャーマモンの気合いの入った声とともに、色とりどりの照明で輝くステージの中央に火花が飛び散る。 そして火花が収まった瞬間、ステージの中央からオレンジ色の体色をした二足歩行のトカゲ・アグモンが現れた。 そのアグモンは背中に白銀のマント、頭には白い帽子、そして首元にはゴーグルをぶら下げた如何にも派手な格好をしていた。 「第一回から第十回全てのトーナメントで優勝した伝説のチャンピオン! 【チャンプ・ゼン】への挑戦権が得られるぞおおおおおおおおお!!!!!」 ゼンと呼ばれたアグモンは、笑顔で会場の怪物に手を振った。 ここは仮想空間。VRの中だ。 デジタルモンスター、通称デジモンと呼ばれるこのVRゲームでは、プレイヤーはデジモンという怪物の姿となってこの世界を好きな様に冒険ができる。 VRという使用上、アバターとなるデジモンは二足歩行のものが主流だが、その制限の中でも様々なデザインのデジモンとそのデジモンを自分用にコーデが出来る機能が、多くの人々の心を魅了させていた。 そのデジモンの中には、アバターとしては使えないが故に自由なデザインをしたデジモン…所謂NPCデジモンもいるのだが、それはまた別の話である。 ーーーーーーー 「うわ〜ん! またハズレだ〜!」 沢山の本が囲まれた部屋で、毛皮を被ったツノの生えたデジモン・ガブモンは泣き喚いていた。 彼自身も自分好みのコーデが既にされており、丸いメガネをかけている。 このゲームでは、のんびり暮らすという遊び方の他に、前述のバトルトーナメントの様な戦いも体験できる。もちろん、ゲームなので安全性は保証されている。 NPCデジモンを狩ったり、他のプレイヤーと戦ったりできるのだが、そこで重要なのは自身のゲームセンスとアバターのステータス、そして武器となるアイテムだ。 このアイテムとやらが曲者で、自分で選んで買えるものもあれば、ガチャというランダム性の強いシステムで手に入れるものもある。 そして意地の悪いことに、ガチャで出てくるアイテムの方が、選んで買えるアイテムよりも性能が良かったりするのだ。 まぁ、それが当たればの話だが。 このメガネをかけたガブモン…アカウントネーム【ウルル】は、どうやらガチャで目当てのアイテムを手に入れようとしていた様だ。 しかし、結果はまぁ察しの通りである。 「くそぅ…もう時間も無いし、金も無い…。確率的に悪くないと思ったのにぃ…!」 ウルルは諦め、今まで手に入れた武器アイテムの表を眺める。 悪くないものもあるのだが、どうしても目当てのアイテムと比べると目劣りしてしまう。 「はぁ〜…まぁこれも激レアもんだし、無いよりマシか…」 そう言い、ウルルは一本の青いメカニカルな片手剣を呼び出し、それを掴んだ。 名前は【アビス・オブ・ヘヴン】。 アビスなのかヘヴンなのか一体どっちなんだと言いたくなる名前だが、この武器は攻撃力も大したもので、使用者のスピードを上げる等の特殊効果が付いている。 「………よし…。こうなりゃヤケだ!」 ウルルは武器を眺めてから一息付き、歩を進めた。 「武運を祈っているぞ」 途中、何か声が聞こえた気がしたが、ウルルは勘違いだと再び歩き始めたのだった。 ーーーーーーー 「皆さんおはようございます! そして、大変長らくお待たせしましたぁ〜!!!!」 司会のシャーマモンの張り切った声がマイクからスピーカーを通して流れる。 そしてそんな爆音をも物ともせず、観客の熱狂は上がっていた。 そしてその中央のステージに、ウルルは武器であるアビス・オブ・ヘヴンを持って立っている。 彼と向かい合って立っているのは、チャンピオンのゼンと同じアグモン…いや、そのブラック版のブラックアグモンだ。 短めの茶色いレザージャケットを羽織っているブラックアグモンの手には、赤黒い巨大な鎌が持たれている。 「それでは一回戦! ウルル選手とノヴィル選手の試合が開催されます! ウルル選手のアバターはガブモン! 武器はアビス・オブ・ヘヴン! 素早さを上げるのがウリの先手必勝の激レア武器です! 対して【ノヴィル】選手のアバターはブラックアグモン! 武器は【デジサイズ・ブルーティグ】! リーチの長い上級者向けのこのアイテム! ノヴィル選手は扱い切れるのでしょうか!? では………始めぇ!!!!」 シャーマモンの言葉と共に、試合開始の合図のラッパが鳴いた。 その直後に、ウルルは剣を構えて相手のノヴィルに迫る。 アビス・オブ・ヘヴンの効果で、ウルルの素早さは上がっている。 ノヴィルとは距離がまだ離れているが、このくらいならすぐに間合いに入り込める筈だ。 デジサイズ・ブルーティグの効果はウルルも知っている。戦いを長引かせては危険だ。 ウルルは先手必勝とばかりに、間合いに入った瞬間に剣を振る準備をしていた。 だが、その動きはノヴィルにも読まれていた。 ノヴィルは、アビス・オブ・ヘヴンよりも遥かにリーチが長いデジサイズ・ブルーティグをウルルに向けて振った。 ウルルはそれを避ける為に思わず後ろに跳び、せっかく縮めた距離を離してしまう。 「悪いけど、そう簡単に負ける訳にはいかねぇんだよ。こっちだって、本気でやってるんだからな」 「本気…か…。分かってるよ! 僕だって本気だ!」 ーーーーーーー 「ハントぉ?」 メガネをかけた高校一年生の男子生徒、【蝋山風流(ろうやま ふりゅう)】は読書を一旦中断してそう言った。 現在、風流の学校はお昼休みの最中で、風流は趣味の読書で時間を潰していた。 しかし、その途中で親友の【久住夜武史(くすみ やぶし)】からとある頼みをお願いされたのだ。 「そう! 今やってるイベント! 参加するだけでいいからさ!」 「いやでも…僕、そういうのした事ないんだけど…」 「それでも良いから! こう…ガーッとやろうぜぇ!? 大体、お前デジタルモンスターでいつも何やってんだよ!」 「本をバーッと読んでるよ」 「それ…普段とどう違うんだよ…」 親友の久住にそう言われたが、それは心外だ。 デジタルモンスター内では、現在はもう絶版された本すらも電子書籍として載っており、しかもその本を読む環境も自由にカスタムできる。 だから、大自然の森の中で一人で読書をするなんて事も可能なのだ。 「なぁ〜頼むよ〜。参加してくれるだけで良いんだ。今回のイベントさぁ、すっげぇアイテム貰えるんだよね。だからさ〜! 頼む!」 「全く……」 正直、風流はデジタルモンスターで行うハントなど興味が無いのだが、親友の頼みをそう無下には断れない。 まぁせっかくデジタルモンスターに登録しているのだから、少しぐらいそういう遊びもやってみるのもアリだろう。 「分かったよ。一回だけだからな?」 「ヤッホゥ! やっぱりそう言ってくれると思ったぜ! じゃあお前のアドレス後で送ってくれ! それでえっと…アカウントネームなんだっけ?」 「ウルル」 「だっせ」 「うっせぇ」 ーーーーーーー 「……ヤバいなぁ…これ…」 風流ことウルルは、自分のHPを確認する。 相手がほぼ無傷なのに対して、自分はもう既に3分の1は消耗してしまっている。 何とか相手に近づきたいが、何より相手の武器のリーチが長過ぎる。 そのせいで上手く近づけず、逆にこっちがダメージを受けてばかりだ。 このままでは勝負がつかない。 いや…… 「確率的に…僕の負け…」 ウルルの脳内に「棄権」の二文字が浮かぶ。 最初は親友に頼まれて始めたハント。 そしてそれに意外にもハマり、遂には対人戦も始めた。 ウルルはデジタルモンスター歴と比べて、対人戦をやった回数は少ない。それこそ対人戦を始めて、まだ一年も経っていない。 そんなに経験も少ないのだ。 ならば、予選に勝ち抜いてトーナメントに出場できただけ、まだ良かったのではないだろうか。 ………… 「……いや…まだだ…」 ウルルの剣を握る手の力が強くなる。 剣を構え、彼は目の前の敵を睨む。 「一度で良い…! 僕はゼンに一度でも挑戦してみたい! だから、このトーナメントに出たんだ!」 ウルルは真っ直ぐに相手のノヴィルに迫った。 ノヴィルは、慌てずに武器である大鎌を振る。 だが、それはウルルも予想していた。 ウルルは空かさずそれをしゃがんで避け、そのままノヴィルの前に立った。 そして勢いをそのままに、剣を振り下ろした。 「当たれぇ!」 しかしそれも、ノヴィルにとっても予想通りだった。 ノヴィルはウルルの剣が迫る少し先に、バックステップをしてそれを避けた。 そしてそのまま、ノヴィルは大鎌の柄をウルルに叩きつける。 「うわぁ!」 ウルルは叩き飛ばされ、ステージに倒れた。 「くっ…くそっ…」 ウルルは立ち上がり、再びノヴィルを睨む。 どうすれば勝てる? 何が足りない? 奴の弱点は? 色々と考えを巡らせるが、自身のステータスとアイテムでは、この相手に勝つことも最早不可能に近い。 やはり、棄権するしかないのか…? 「もっと…もっとすぐに距離を詰めれたら…!」 【スピードデータ・コンバージョン】 「……え?」 脳内に謎の声が響いたかと思うと、ウルルの体に何か不思議な感覚が届いた。 VRの筈なのに、何故か体に力が漲るのを感じる。 まさかと思い、ウルルはすぐに自分のステータスを開く。 するとなんと、自身の素早さのステータスが急激に上がっているのだ。 「な、なにが…」 ウルルが突然の事で困惑していると、ノヴィルが彼に接近してきた。 それに気付いた頃には、ノヴィルは既に大鎌を振ろうとしており、ウルルの素早さでは今避けても避けきれないものだった。 だがウルルは、それを理解しながらも本能でそれを避ける為に動く。 すると、鎌はウルルの腹をギリギリ掠めただけで避ける事に成功したのだ。 「「!?」」 お互い避けきれないと思っていたのか、ノヴィルだけでなくウルル自身も驚愕する。 「何で…避けきれた…? 本当に素早さが…」 ウルルには訳が分からなかったが、今はそんな事はどうでも良い。 これなら、もしかしたら… 「勝てる…勝てるかもしれない…!」 ーーーーーーー 「もっと…もっと…!」 【スピードデータ・コンバージョン】 「まだ…!」 【スピードデータ・コンバージョン】 「まだだぁ!」 【スピードデータ・コンバージョン】 素早さが増していくウルルに、ノヴィルは徐々に追い込まれていった。 そして既に、お互いのHPは30%を切っていた。 「何だよお前…! 何でいきなりそんな…!」 「さぁ? 僕も分かんないよ…。でも…これで…!」 ウルルは勝利を確信し、足に力を込める。 【ネクストステージ・マイグレーション】 「うっ!」 ウルルは突然苦しみだし、剣を落とした。 その異変に、ノヴィルは喫驚する。 「お、おい! どうした!」 「うっ…がっ…!」 「おい! しっかりしろ!」 ノヴィルの声はウルルには聞こえず苦しみ続ける。 そして遂に、ウルルの体から青い炎が放出されてウルル自身を包み込んだ。 【アナライズ・コンプリート】 「ガブモン…進化ァ…!」 【コンクルージョン・トゥ・エボリューション】 ウルルが苦しみながらそう言うと、彼が覆っていた毛皮が巨大化し始め、彼の体を包み込む。 そして「バキッ! ボキッ!」と生々しい音を立てながら、毛皮は姿を変え始めた。 青い炎が弾け飛んだ瞬間、毛皮は白地に青いラインが走った巨大な狼の姿へと変わっていて… 「ガルルモン…!」 ウルルは自身の今現在の姿のデジモン名を言い、ノヴィルに歯を見せて威嚇をした。 その姿は、まるで知性を持たない獣のそれであった。 ーーーーーーー 会場のデジモン達はウルルの姿が変わった事に驚愕していた。 だが、その変化した当人であるウルルは気にせず、そのままその四本の足でゆっくりと対戦相手のノヴィルへと近づく。 「ど、どうしたんだよ…。何かのバグか? 改造か? 大体、それVRでどう操作して…」 ノヴィルの言葉を無視して、ウルルは歩を進める。 その一歩によって、彼がガブモンのアバターだった頃にかけていたメガネが踏み潰されるが、ウルル自身は何も気にしていない様子だった。 「フォックスファイアー!」 「嘘だろ!?」 突然、ウルルは口内から青い炎を吐き出した。 予想外の攻撃に、ノヴィルは焦って横に転がってそれを避ける。 「な、何だよそれ! 炎吐くとか…どういう改造だ! ずりぃぞおい!」 「ズルい? 何のこと? デジタルワールドにそんな言葉は通用しない…」 「デジタルワールド? 何だそりゃ!? お前やっぱおかしいぞ!?」 一瞬、ウルルが喋れる事に安堵するノヴィルだったが、意味不明な言葉をさも当然の様に使っている。 やはり、普通ではない。 「おい運営! 何とかしろ! これ、ただ事じゃねぇぞ!」 ノヴィルはすぐに会場の何処かにいる運営に呼びかけるが、何の反応も返ってこなかった。 そう言えば、司会をしていたシャーマモンは何処に…? 「よそ見をしてる場合?」 ノヴィルが不信感を抱いていると、ウルルは前足で彼を叩き飛ばした。 ノヴィルは武器を手から離しながら壁にぶつかり、そのまま倒れてしまう。 「うっ…がっ…! 何だこれ…いてぇ…! 超いてぇ…!」 VRでただのゲームの筈なのに、ノヴィルの体には激痛が走った。 負けてしまっても良い。ノヴィルはすぐにVRゴーグルを外そうとするが、何処に手を伸ばしてもゴーグルに触れることは無かった。 「ゴーグルが…無い…! ど、どうなってんだよ…さっきから…!」 ノヴィルは混乱するが、前を見るとウルルが口に炎を溜めてゆっくり近づいて来ていた。 さっきから訳の分からない事が起きすぎてる。 だが、一つだけハッキリしてる事がある。 やらなきゃ、やられる。 「だったら…! 負けられるかぁ…!」 【ソウルデータ・コンバージョン】 「は?」 頭に響いた声に、ノヴィルは疑問を抱く。 「フォックスファイアー!」 だがウルルの攻撃が始まり、ノヴィルはその声の事を一旦忘れて避ける事に専念した。 そして炎を避けながら、ノヴィルは自身が手から離してしまった武器・デジサイズ・ブルーティグを見つめる。 「もう俺のHPも残り僅か……なら!」 ノヴィルは一瞬の隙を突き、デジサイズの方へ走りそれを掴む。 「ハッ! そんなガラクタ、一体何の役に立つんだよ!」 「……あぁ、そうかい」 ウルルの言葉にノヴィルはそう返し、デジサイズを持ってウルルをすれ違いに斬った。 だが、ウルルは斬られたにも関わらず、鼻で笑ってノヴィルの方へ振り返る。 「成長期の君が、成熟期の僕に勝てる訳ないだろう! 例えそんなガラクタ……」 突然、ウルルの動きが止まった。 そしてウルルの身体中にノイズが走る。 「な、何が…」 「……デジサイズ・ブルーティグの効果だ」 ノヴィルはそう言って、ウルルを見た。 「持ち主のHPが低ければ低いほど、この武器の攻撃力は上がる…!」 「な、なに…!?」 「お前は、それを知っていた筈だ…。だから、早く勝負を付けようとしていた…。なのに…それも忘れたのかよ…! 何なんだよ…その姿…!」 「知っていた…? 僕が…? 僕はそんなガラクタ…あれ…?」 ウルルのノイズは酷くなり、遂には横に倒れてしまった。 そして薄れゆく意識の中、彼は口を少しずつ動かしていく。 「僕は……誰…?」 最後にそう言い残し、ウルルの姿は完全に消滅。 その場には何故かタマゴの様な物体が一つ落ちただけだった。 【エクスペリエンスポイント・ゲイン】 再び声が響いた途端、今この場には不釣り合いな祝福のファンファーレが鳴り響いた。 「いやぁ〜白熱したバトル、ありがとうございました〜!」 ステージに現れたのは、さっきまで姿を見せなかったシャーマモンだった。 ノヴィルはすぐにそのシャーマモンの襟を掴む。 「てめぇ! 何処にいやがった! 何がどうなってんだよこれ! あいつは!? ウルルって奴は何処に行ったんだ!」 「まぁまぁ、そう焦らずに〜」 「ふざけんな! これゲームなんだよな!? おい! 何か言いやがれ!」 「あ〜もう分かりましたよ…。ゴホン…」 シャーマモンは一度咳払いをすると、今までの笑顔とは違う不気味な笑みを見せた。 「離せよ。クソ人間」 ノヴィルが「なに?」と言い返す直前に、二人の間に矢が飛んできた。 ノヴィルはそれに驚き、思わずシャーマモンから手を離す。 矢が飛んできた方向を見ると、そこにいたのは黒い装甲を纏い弓矢を持ったケンタウロス体型のデジモンだった。 「サジタリモンだ。トーナメントに棄権したり、私に反発なんかしたら、その時点であいつの矢が飛んでくる。よく覚えておきましょうね」 「………チッ…」 シャーマモンの脅しに、ノヴィルは舌打ちをするのが精一杯だった。 そんなノヴィルに満足したのか、シャーマモンは再び笑顔に戻る。 「さぁて! まだまだ始まったばかりですよトーナメントは! もうトーナメントに参加した方ももちろん、今この空間にログインしている者全て、ここから脱出できません! せめて、ここで楽しんじゃってくださーい! ヒャハハハハハ!」 シャーマモンの下品な笑い声が、ステージ中に響いた。 それをトーナメントの参加者や観戦者は顔を青白くして見ていた。 すぐに誰もがVRから出ようとするが、そもそもゴーグルが存在せず、ゴーグルに触れることすら叶わなかった。 そしてその光景を、モニター越しに見ているデジモンが一人。 「……無事に進化した個体を確認。殺されはしたが、まだそれで良い…」 そのデジモンはそう言い、モニターに映るトーナメント参加者達を次々と観察していく。 「さぁ争え。そして進化しろ。人を捨てて高みを目指すのだ。その先で…」 モニターを見つめるデジモンは一言で言うと、武士のロボットだった。 その威厳に満ちた武士ロボットの様なデジモンの名前はタクティモン。 「我が悲願が達成される。その為に、お前達に進化の力を与えてやったのだからな…」
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てるジノ坊主

その他
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