「ヒャハハハハ!どうしちまったんだぁ?このオレを倒すんじゃなかったのかぁ!?」
俺はただ茫然と突っ立ていた。
相手を見下し、高々と笑い声を上げる漆黒の竜。
最初に言っておくが、俺はこの竜に襲われている訳ではない。
この竜は俺の味方だ。
というか…
「…え?いや、え?え?嘘…。マジでこいつ…」
~~~~~~~
「何で俺がこんなこと…」
俺、井深宮斗(いぶか みやと)は大雨の中、片方の手で傘を差し、もう片方の手で閉じた傘を握りしめた状態で、弟の光輝(こうき)が通う塾へ足を進める。
真新しいビジネスビルに入ると、そこで弟が宿題をテーブルの前に広げて待っていた。
「あ、兄ちゃん」
「あ、じゃねぇよ。全く…何で俺がこんなこと…」
「だって兄ちゃん暇じゃん」
「暇じゃねぇよ! 俺にだって宿題とかあんの! 高校生舐めんな!」
「でも帰宅部」
「部活が全てじゃないですー!」
そう、高校生活は部活が全てという訳ではない。部活をやらないという選択肢を取る事で、その分学業に集中できる。
学業に集中する部活。そう、そういう活動内容の部活、帰宅部に俺は入っているのだ。
別に何部にするか迷い過ぎて、タイミングを逃したとかいうカッコ悪い理由とかではない。
運動神経だって自信ある方だし…。
まぁそんな事は置いといて、弟の光輝は宿題を片付け始め帰る準備を進める。
こいつは今年で10歳、つまり小学4年生となり、自分で言うのもなんだが…本当に俺の弟か?って言いたいぐらい頭が回る。
5歳下の弟に俺が完全論破されてしまった事があるほどだ。あの時は絶望した。
「さて、おまたせ! 帰ろっか! 兄ちゃん!」
「あぁ本当におまたせだよ。全く…ゲームの続きやりたかったのに…」
「宿題は?」
「あ」
~~~~~~~
外に出てみると、空はかなり荒れていた。
大雨は当然、雷も鳴り、暴風が吹きつける。
おかしいな、天気予報は確認したけど、ここまで荒れる様な天気じゃなかった筈。
「ダーッ!マジで何だよこの天気!」
隣で、傘を両手に持った兄ちゃんが愚痴を言っていった。
気持ちは分かる。これじゃあまるで台風だ。
「流石にこのまま帰るのはマズいよ!一旦どっか建物に入らない!?」
「それ思った!」
僕の提案に、兄ちゃんは速攻で賛成した。
しかしその時だった。
雨雲一杯広がる空が、突然虹色に点滅を始めた。
こんなこと、現実的に考えてあり得ない。
「な、何これ!?」
「おいおい…何かやべぇんじゃねぇのコレ!」
あり得ない光景に、僕だけでなく兄ちゃんも狼狽えている。
だけどその直後、あちこちから悲鳴が聞こえた。
空の点滅に対するものじゃない。
もっと別の何かに対する悲鳴だ。
「なっ!? お、おい光輝!」
その何かに先に気付いた兄ちゃんが、僕の手を掴んで走った。
いきなり走り始めたものだから、僕は傘を落としてしまう。
よく見ると、兄ちゃんもいつの間にか傘を手放して走っていた。
僕は兄ちゃんが何を見つけたのか気になり、思わず振り返る。
「か、怪獣!?」
そう、あちこちで「怪獣」としか言い様のないものが街のあちこちで暴れていた。
それも全て、ノイズがかかって半透明な姿で。
まるでホログラムの様だけど、街灯が折れたり、車が吹き飛ばされたりと被害が明らかに出ている。
「な、何なのこれ…」
突然起きた非日常に、僕の頭は真っ白になる。
だけどその僕の視界に、一人で泣いてる女の子が入った。
「ま、待って兄ちゃん!」
僕は踏ん張って兄ちゃんを止め、兄ちゃんがそれに驚いている隙に抜け出して女の子のもとへ走る。
「おい光輝!」
「大丈夫?」
兄ちゃんが叫んでいるが、とりあえず僕は泣いている女の子に声をかけた。
多分、まだ4歳ぐらいだと思う。
「お母さんと逸れたの? えっと…ここは危ないから早く逃げよう?」
「ホントだよ! 光輝、早くその子掴んで…」
僕が女の子の手を握ろうとすると、僕達に大きな影が覆い被さる。
頭上を見ると、凸凹になった車が僕達のもとへ落ちてきていた。
「「危ない!!!」」
僕は咄嗟に女の子を突き飛ばし、兄ちゃんはそんな僕を庇う様に覆い被さった。
もう駄目だ。死ぬんだ。
僕はそう思った。
きっと兄ちゃんだって。
「いやぁ〜中々熱い兄弟愛やなぁ」
そんな時、聞き覚えの無い関西弁が聞こえてきた。
~~~~~~~
ドボンッ!
突然、俺は水の中に落ちた。
さっきまで街にいて、正に弟の光輝と一緒に車に潰されるところだったのに意味が分からない。
俺は慌てて海?から顔を出そうとするが、いくら上がろうとしても水中から抜け出せない。
駄目だ。もう息が続かない。
「ぷはぁ!溺れ……ん?あれ!?」
ここは水の中だというのに、何故か息が出来て声が出せる。
……いや、本当に水の中か?
周りには雲が浮かんでいて、まるで青空だ。
なのに、水中の浮力?ってものを感じる。
「え?何で…」
「兄ちゃん!」
「あ、光輝!」
振り返ると光輝がいた。
良かった。こいつも何とか無事な様だ。
……今が無事な状況なのかは分からないが。
「やぁやぁやぁ、お二人さんとも平気?」
すると、聞き慣れない声がした。
俺はその声の方へと振り向く。
そこにいたのはゴーグルを付けたカラスの様な生き物だった。
「カ、カラス?カラスが喋った?!」
「いやカラスやないわ。俺はシーチューモン」
「シチュー?」
「シーチューモン!シとチューの間、伸ばす!」
「き、きみ…あの怪獣達の仲間なの…?」
シチュー…じゃなかった。シーチューモンと名乗る変なカラスに俺が困惑していると、光輝は恐る恐るそう訊いてきた。
その質問に、シーチューモンは「う〜ん」と一人唸る。
「あんたらが怪獣と呼んどる奴等はデジモンっちゅう奴や。まぁ俺もそのデジモンやから、仲間言われたら仲間になるんかもな」
「その言い方は…キミは街にいるその…デジモンとは思想が違うってこと?」
「何や年の割にムズい言葉使うな。思想言うても、あいつらに大した考え無いわ。あいつらも被害者みたいなもんやしな」
「被害者?ふざけんな!俺達の方が被害者だろ!」
「どっちもや。どっちも被害者。あんたらやって、いきなり知らん世界に放り出されたらパニックぐらいなるやろ」
「その割には、きみは冷静だよね」
さっきから光輝が、意外と鋭い指摘をしてくれる。
いや本当にマジで光輝が一緒にいてくれて助かる。
「まぁな。俺はこの事態を予測しとったし…やから、そんなパニック状態でも使えそうな奴がおらんか探しとったんや」
「使えそうな奴…?」
シーチューモンの言葉を、俺は思わず復唱する。
「そうや?結論から言って、俺はあんたらに頼みがある」
「はぁ?!俺達に!?」
「あの状況で人助けを率先して行ったん見たのは、あんたらが最初やったんや。その上、死にそうやったからな。やから、お助けついでに選んだんや」
「いや、ついでかよ!!!」
まぁだが、助けてくれたのは感謝ではある。あれはマジで死を覚悟したからな。
「で…その頼みって何なの?」
光輝がシーチューモンに質問をしてきた。
そうだ、確かにそれが肝心だ。俺達ができることであれば、恩返しという形でやっても良いだろう。というかやるべきな気がする。
「救って欲しいんや。世界を」
…………
「「はぁ?!?!?!」」
俺達二人は、予想を超え過ぎた要求にただ驚くことしかできなかった。
~~~~~~~
「まずデジタルワールドっちゅう異世界が二つあってな。それぞれビフレスとイリアスって俺は呼んどるんやわ。まぁどっちもけったいな世界なんやけどな〜。
あ、そうそう。そんで、その二つの世界が何か知らんけどガッチャーン!ってなってもうたんよ。
そしたらもうそりゃ大変、そのせいであんたらの世界にもどっぴゃー!って影響が出たみたいでな。何でか知らんけど。
これ、このまま放っとくとビフレスもイリアスも、ついでにあんたらの世界もドーン!と消えてまう訳。マジふざけんなっちゅう話よな。
ここまでは分かった?」
「全然分かんないです」
突拍子の無い要求の次は、状況説明としてこれまた意味不明な言葉の羅列が現れた。
早速聞いたこと無い言葉が現れるし、早口だし、何か擬音多いしでもう頭が追いつかなくて爆発しそうな勢いだ。
「つまり…」
俺が呆然としていると、光輝が口を開けた。
「まず、ビフレスとイリアスと呼ばれる二つの異世界があって、それが何らかの理由で融合を始めた。
その結果、これまた理由は不明ではあるけど僕たちの世界にも影響を与え、このまま放っておくと三つの世界が消えてしまう…。
そういうこと?」
「そうそう!正にそれや!」
「え?何でさっきの説明で理解できたの?」
「そういう事で、あんたらには融合した二つの世界に行って、その世界融合の謎を解いて欲しいんや。それが分かれば世界を救えるかもしれんしな。どうや?あんたらの世界も救う事になる訳やし、悪い話やないやろ?」
「いや何処がだよ!?」
俺は声を荒げた。
確かにさっきの説明は理解できなかったが、流石の俺もこのシーチューモンの要求がどんなに馬鹿げたものかは分かっているつもりだ。
「異世界って…それお前みたいなあの怪獣達がいる世界なんだろどうせ!そんな危険な場所で、俺達ガキが生き残れる訳ねぇだろ!大体、何でお前がそれやらねぇんだよ!」
「まぁ確かに、デジタルワールドは俺らデジモンの世界で、ニンゲンには危険極まりない世界や。でも、やりようはある」
「やりよう?何だよそれ」
「どっちかがデジモンの力を使えばええ。ホンマは両方がデジモンの力を使えればええんやが…俺にはそんな力無くてな。一人に与えれるんが精一杯や」
「デジモンの力…?」
何だそれ?俺達があの怪獣の力を使えるってことか?
何かそれ…
か、かっけぇな…。
「自分で言うのもなんやが、俺はかなり特別なんや。やから、こうやってあんたらを世界の狭間に避難させることもできとる。やけどな、恥ずかしい話、戦闘はからっきしなんや。そんで、俺が考えたんは助っ人の募集っちゅう訳。ついでにニンゲンの違う視線なら、何か新しいもんが見つかるかもしれんからなぁ」
「人間の…違う視線?」
俺がデジモンの力って奴に少し興奮してる中、シーチューモンの言葉に光輝は首を傾げる。
「そうや!全てのモノは見方次第!これ、俺のモットーや。海も空も、どっちも同じ世界の最果てやが、見えるもんは違う。やけど…同じもんもある。そこが世界のおもろいところや!」
「まぁ海と空は違うからね」
「見方次第や!そういう訳でどうや?俺に協力してくれんか?」
シーチューモンの提案に、俺と光輝は顔を見合わせた。
放っておくと世界が滅亡する。そう言われると他人事ではないのだが、あの怪獣達がいる世界に行くのはリスクが多すぎる。
「まぁ確かに、超能力みてぇのが使えるってのは魅力的だけど…」
「デジタルワールドに興味が無いって言ったら嘘になるよ?興味深い世界だし、是非行ってみたい…」
「おぉそうか!ほな決まりやな!」
「「え?」」
シーチューモンが右翼を振る。
すると海流が迫ってきて、俺達はどこかへ流されていく。
「ちょ、ちょっと待って!?」
「俺らは別に行くとは言ってねぇ!!!」
「え?マジ?やば………まぁ旅は道連れって事で!!!!!」
「「ええええええええええええええ????!!!!」」
あまりに適当なシーチューモンの言葉に俺達は驚きの声を出すこと以外できなかった。
~~~~~~~
「……ん…んん…」
ここは何処だ?
確か俺はあのシーチューモンとかいうカラス野郎のせいで…
「お?目ぇ覚めたみたいやな」
「あ!テメッ!人の話ちゃんと聴けよ!」
ケロっとした顔のシーチューモンを見て、俺は思わずそいつの服の襟を掴む。
「あぁもう悪かったってぇ!これでも反省しとるんやからぁ!」
「だったらさっさと俺らを…あ!そうだ!光輝は!?光輝~!」
「光輝?あぁもう一人の奴か。あんたに変化が無いっちゅう事は…」
シーチューモンが何かを言っているが、俺は気にせず弟を探す。
どうやらここは荒野の様だ。辺りには植物は無く、そしてゴツゴツとした岩壁が周囲の視界を塞いでいる。
光輝はこの岩壁の向こうにいるのか?
「うぅ…」
予想通り、岩壁…というより小さく反り立つ岩山の向こうから声が聞こえた。
はっきりとは聞こえなかったが、きっと光輝の声だ。
「光輝!?光輝だな!俺だ!宮斗だ!」
「兄ちゃん!?」
直後、俺は声を失った。
声がした岩山の向こうから、その山を越える巨体で黒い竜が顔を覗かせたからだ。
「ん?兄ちゃん小さい…え?」
黒い竜は俺を見た後、自分の異様に長い手を見て固まった。
「え?…えぇ!?」
黒い竜は自分で全身を確認して狼狽える。
ま、まさかこの竜って…
「に、兄ちゃん!これ何!?僕、怪獣になってる!」
「こ、こここ光輝いいいいいいいいいいいいい!!!???」
「ほ~う、デビドラモンか」
俺達がまた驚いていると、シーチューモンが呑気な声で光輝である黒い竜を見て言う。
「お、おい!これどうなってんだよ!何で光輝がこんな姿に!」
「はぁ?説明したやろ?一人にデジモンの力を与えるって」
「ま、まさかお前それ…」
「僕達どっちかをデジモンにするってこと!?」
「そうや?」
「「言い方ややこしいわああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」」
俺と光輝の怒号に、シーチューモンは心外にも迷惑そうに耳を塞ぐ。
「いや、でも嘘は言うとらんやんけ。あんたらが勝手に勘違いしただけや」
「だからって言い方がなぁ!」
俺は怒りのままにシーチューモンに向かったが、それをシーチューモンが手を前に向けて止める。
「まぁ、待ちぃな。デビドラモンのコウキの実力、そしてその有意義と必要性…分かってくるで」
「は?」
「おうおうおうおう!誰だよ俺様の縄張りに入ってんのはぁ!」
シーチューモンの意味不明な言葉に固まっていると、突然声が聞こえた。
「ここがこのモノドラモンのガジョ様の縄張りだとは知らねぇみてぇだなぁ!」
現れたのは全身紫で両手に蝙蝠の様な被膜が付いた一本角の小さいドラゴンだった。
その両隣には、赤いペンギンと体が丸っこい濃い紫色の蝙蝠がいる。
三人とも、今の光輝は当然、俺より体が小さい化け物…いや、デジモンだった。
「んだよ!今度は他のデジモンかよ!おい、あいつらは危険なデジ…っていねえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
突然の来訪者の危険性をシーチューモンに訊こうと振り向くと、奴の姿は綺麗さっぱりいなくなっていた。
あ、あいつ!どさくさに紛れて逃げやがった!
そういえばあいつ、戦いは苦手みたいなこと言ってた!
今来たデジモン、何か戦いそうな雰囲気だし、あいつ俺と光輝に全部丸投げする気だな!
「何だ何だぁ?一々うるせぇ奴だなぁ!何処の誰かは知らねぇが…」
小さいドラゴン…確かモノドラモン?のガジョとか言ったか。奴が拳をパキパキと音を鳴らして迫ってくる。
やばい…小さいからって油断はできねぇ。もしかしたらいきなり殺されるかも…!
「ん?」
すると、ガジョは俺の後ろの岩山越しにいるコウキと目が合った。
「デ、デデデデデデビドラモンだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「いや逆に何で気付かなかったんだよ」
明らかに恐怖と動揺をしているガジョに対し、俺は思わず冷静にそうツッコミを入れる。
「えっ…に、兄ちゃん。今の僕ってそんなに怖い?」
「まぁ…その……ハイ」
「何で敬語!?」
「あ、い、いやぁ悪い悪い。で、でもさ?ほら…でけぇし手長いし目が四つあるし…」
「酷いよ兄ちゃん!僕だって好きでこんな姿になった訳じゃないんだよ!?」
「んなこと分かってるけど…」
光輝には申し訳ないが、今の光輝は結構怖い。
その恐ろしい姿で光輝の幼い言動をするのだから、そのミスマッチ差が更に恐怖を掻き立ててる……気がする。
「お、おい…俺様思うんだけどよ。あのデビドラモン…何だかちょっと様子がおかしくねぇか…?」
「ミーもそう思うッス」
「俺氏も同意」
そんな事を考えていると、ガジョ達がコソコソ話をしている。
まぁ全部丸聞こえなんだが…。
って言うかあの赤いペンギンの一人称はまだ良いとして、あの蝙蝠の一人称何だよ。「俺氏」なんて一人称リアルで聞いたことねぇよ。
ごめん、「ミー」も聞いたことなかったわ。
何なら「俺様」もリアルで聞かねぇわ。
「くっくっく…分かったぞ!分かっちゃったぞ俺様ァ!!!」
いきなり、ガジョの奴が大声を出し始めた。
なんだなんだ?何が分かったっていうんだ?
「あのデビドラモン、多分落ちこぼれだ!落ちこぼれの弱虫野郎なら俺様達でも勝てるぜ!」
「落ちこぼれ?弱虫?」
ガジョの言葉に、光輝が少し反応した。
確かにムカつきはするが、温厚な光輝があれでここまで反応するとは意外だ。
まぁでも、今の奇々怪々の出来事の最中にそう言われるとイラっと来るのも分かる。
「おぉ!流石ッス、ガジョ!」
「ってわけでリット、行ってこい」
「えっ」
うわ、あのリットとかいう赤ペンギン、パシリに合ってんじゃん。可哀そう。
「な、何でミーなんッスか!おかしいでしょ!」
「うるせぇ!おやつ一個減らすぞ!」
「そんなぁ!!!何でそんな残酷なことできるんッスかぁ!!!」
残酷かな?
「うぅ…でも確かにナシ5個だけはキツいッス…」
意外と多いなおやつ。
「まぁでも、ガジョの予想通りならこんな弱虫、ミーでも簡単に倒せるッス!」
そう言って、リットは高く跳び上がった。
嘘だろおい、ただのジャンプであそこまで高く跳べるのか。
「トロピカルピーク!」
リットはそのまま、まるでミサイルの様にクチバシを向けて光輝に突っ込んでいく。
「光輝!」
俺は何故か俯いている光輝に呼びかける。
だが、光輝は動く様子を見せない。
光輝の奴、一体どうしちまったんだ!
「これで終わりッスー!」
「光輝いいいいいいいい!!!!!!」
その時、黒い触手がリットの体に巻き付いた。
「「「「へ?」」」」
俺もリットも、ガジョも蝙蝠も状況が分からず声を漏らした。
そして直後に、リットの体は叩きつけられた。
「「リットオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!?????」」
ガジョと蝙蝠が驚愕した声を上げる。
肝心なリットだが…まぁピクピク動いているのは確認できるので死んではいない様だ。多分…。
それより気になるのは、あのリットを拘束して叩きつけたあの黒い触手だ。
一体あれは……ん?
俺は黒い触手の跡を追っていると、その触手が光輝から伸びているのが分かった。
というかアレ…触手じゃない。今の光輝の尻尾だ。
「こ、光…輝…?」
「……ヒヒッ…」
「え?」
何だが一瞬、光輝から笑い声が聞こえた気がする。
……いやまさかな。光輝が笑う場面なんてどこにも…
「ヒャハハハハ!どうしちまったんだぁ?このオレを倒すんじゃなかったのかぁ!?」
光輝である筈の邪竜の口から、とても光輝のものとは思えない台詞が聞こえた。
……え????
俺は思わず茫然としてしまった。
だが、これは無理もない。悪いが、茫然ぐらいさせてくれ。
「…え?いや、え?え?嘘…。マジでこいつ…俺の弟????」
「そうやが?」
「うわおぉ!!!シーチューモン!?」
いつの間にか隣にいたシーチューモンに、思わず変な声が出る。
「テメッ!今まで何処に…いや、っていうか光輝の奴どうしちまったんだよ!」
「どうも何も、アレがデビドラモンのコウキの正しい姿や。デビドラモンは邪悪で多くの者に恐れられている邪竜型デジモン。そのデジモンになったんやから、精神性がそれに影響されることは当然や」
「じゃ、じゃあ…光輝の性格が変わったみたいなのは…デジモンになっちゃった所為って訳か!?」
「そういうこと!」
いやいやいやいや。何がそういうことだよ。
姿が変わるだけじゃなくて性格まで変わる?
そんなのってアリなのか???
「おいおいおいおいガジョ氏!全然あいつ落ちこぼれ感ゼロなんだが?!?」
「お、おおお落ち着けキーマ!今のはまぐれだ!きっと!多分!絶対!」
ガジョと蝙蝠も慌てている。
そりゃそうだ。光輝の性格が豹変しているんだから。俺だってパニックだ。
「さっきやられたんはムーチョモンで…あとモノドラモンのガジョの隣にいるキーマって奴はピコデビモンやな。まぁ強さ的に言ったら……」
「俺氏、離脱しま〜す!」
「あ、ズリッ!俺様も!」
「ちょっと待てよ」
ガジョとキーマが逃げようとすると、コウキは生まれて初めての筈の翼を器用に使って、あっという間に回り込んだ。
「まだこの力を試しきれてねェんだ。実験材料としては心許ないが……息の根が止まるすこ〜しの間…付き合ってくれ!!!!!」
「「ひやああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」」
なんとも情けない悲鳴を上げて、二人はコウキとは反対方向…つまり俺の方へ走っていった。
だが、俺(とついでにシーチューモン)には目もくれず、二人はそのまま何処かへ走り去ってしまった。
…っていうか、ちゃっかりリットとかいう赤ペンギンまで回収して逃げてやがる。
かなり焦っていた様に見えたが、そこら辺はしっかりしてるんだな。
「強さ的に言ったら…まぁ…あの…アレやな」
「何で急に語彙力下がるんだよ。大体察したよ実力差は」
「ヒャハハハハハ!予想通り!」
俺がもう背中が見えないガジョ達を探していると、とても俺の弟のものとは思えない笑い声が聞こえた。
俺はゆっくりと彼の方へ振り返る。
「ん?どうしたんだよ兄ちゃん」
その外見と口調で「兄ちゃん」と言われると、ヤの付く人感が出てくるのは気のせいだろうか。
「い、いや〜…本当に貴方様が私の弟なのか少し信じられなくてございしゅうでゲスね…」
「途中で敬語がクラッシュしたぞ」
あまりの緊張に言語能力が崩壊してしまった。
だが、コウキはその後少し考える素振りを見せて「あぁ…!」と何かに気付く。
「何でそんな事訊くのかと思ったが、オレのこの性格か!言われねェと気付かねェもんだな」
「もう説明したんやけど、性格の変化についてはな…」
「良いよ、理由は察した。この体のせいだろ?」
そう言って、コウキは自分の手をまじまじと見つめる。
というか、本人は性格の変化に気付かなかったのか。気付いた後もこれだし、シーチューモンの言う通りこれが正しい姿…自然な状態なんだろう。
本人もこの体のせいで性格が変わったことを理解しているみたいだし。
「すげぇなあんたら兄弟は。テレパシーみたいに察せられるんやなぁ。カサゴか何か?」
「お前の知ってるカサゴやべぇな」
シーチューモンの馬鹿発現にツッコミこそは入れるが、それでも俺はパニックだ。
「つぅか、ひでェなぁ。さっきまで普通に話してたろ兄ちゃん」
「いやいやいやいや!それ言うならさっきまで普通だったじゃん!?何でいきなり話し方変わるんだよ!あ、デジモンになったからか!いや、そう言うことじゃなくて!!!」
「一人で忙しそうやな」
「お前のせいでもあるんだけどね!!!!!」
一々シーチューモンの横槍が入るせいで、話の軸がズレる。
もう本当にこいつ何なんだよ。
「いきなりって言っても…この体になってからなんとなく違和感あったんだよ。でも、あのガジョって奴がオレのことを落ちこぼれだとか弱虫だとか言ったろ?」
俺はそれを聞いて、その時のコウキがガジョの発言に反応していたのを思い出した。
温厚な光輝がイラつくなんて珍しいと思っていたが、デジモンの姿になったことで怒りの沸点も変わったってことか?
「それで…キレた瞬間に今に至った……と?」
「いや…」
すると、コウキは邪悪な笑みを浮かべて。
「オレをそうやって馬鹿にするのは良いが、そう馬鹿にした奴にこれからボコボコにされるってのも中々笑えるかもと思ったら、何か心の中が弾けた感じがしてなァ。勝てる相手だってのはなんとなく分かってたし、気晴らしに丁度良いと思って……今思えばそれからだな。こうなったのは。
ヒヒッ!あの時の顔…!今思い出しても笑えてくるぜ…!」
どうやら俺の想像とは違ったらしい。
シーチューモンが言うには、今のコウキは邪悪で恐れられるデジモン・デビドラモン。
そのデジモンになった事で、性格が邪悪そのものになってしまっているらしい。
あぁ…まぁ生意気なところは多少あったけど、あんな可愛かった俺の弟が…。
そう思うと、シーチューモンに怒りが湧いてきた。
「おいお前」
「ん?なんや?」
「元の世界に戻れば、コウキは…俺の弟は元に戻るんだろうな?」
「戻るが生憎、あんたらの世界には戻せんで。力は使ってもうたからな」
「じゃあ!コウキを元に戻す方法は!」
「あるにはあるで?」
「そう……え?」
元の世界には戻れないという重大情報をあまりにあっさり言うものだから、思わずスルーしてしまったが、次に出てきた情報はギリギリ無視することを避けることができた。
俺は無我夢中で、シーチューモンの肩を掴んだ。
「マジか!?コウキを戻せるのか!?」
「まぁな。説明したやろ?あんたらを連れてきた目的は…」
「融合したデジタルワールドの原因の調査…だったな」
シーチューモンの説明にコウキが口を出す。
それを別に咎めはせず、シーチューモンは「そうや」と言い、話を続ける。
「あんたらの世界への移動はできん。やけど、融合した二つの世界…ビフレスとイリアスの行き来は可能や」
「……はぁ?行き来は可能って…その二つが融合したんじゃねぇのか?ってかそれの何処がコウキを戻す話に繋がるんだよ」
俺は意味が分からず、シーチューモンに訊く。
融合しているのなら、行き来などはできない筈だ。
俺の質問に、シーチューモンは「まぁ聴けや」と言って、しばらくの間考える。
「融合の話に戻るで?え〜と…説明が難しいんやけどな?二つの世界は融合こそしとるが、今のところ別々に存在しとるんや。
今までは全く関係ないと言ってもいい程の別世界やったんやが、謎の融合のせいでお互いの関係がパラレルワールド並みにリンクしとる。
それが今の状況や」
「パラレルワールド並みにリンク???」
「シーチューモン。ちなみにこの世界はどっちだ?」
「ビフレスや」
コウキの質問で、俺達はようやくここがその二つの世界の片割れビフレスだと理解した。
そしてコウキもしばらく考え、口を開く。
「つまり、さっきのガジョ達を例に出すと、イリアスにも本来は存在しない筈だった『イリアスのガジョ』が現れてしまったってことか?」
「ちゃうけど惜しいな。『ビフレスのガジョ』と『イリアスの誰か』が共通の存在になったんや。例えば、今ガジョはこのビフレスで仲間を連れてどっか走って逃げとる。
このガジョを観察したままイリアスへ飛ぶと、『仲間と一緒に走ってるガジョ』の代わりに『仲間と一緒に走ってるイリアスの誰か』がそこに現れることになる。
何故走っていたのか…その理由はガジョと同じか別なのかは分からんが、重要なのは『場所』『存在』『状況』だけが二つの世界でリンクしてしまっとるんや」
「なるほど。となると、イリアスでもオレ達が存在することにしないと話が成立しなくなる筈だが…」
何かコウキは納得して話を続けているが、俺には全く分からん。
一体何を話してるんだ?っていうか何でコウキは理解できてんの?
人間には理解できない話なの????
「まぁそこはどうなんやろうな。上手いこと世界側がやってくれとるんとちゃうか?何せ前代未聞やからな。やけど、さっきも言うたとおり、俺の力であんたらをイリアスへ送ることはできる。そうなると自動的に『ビフレスのあんたら』が『イリアスのあんたら』へと姿が切り替わる訳やが…」
「ふむ……つまり、オレを人間に変える話…」
そうだった。
何だか難しい話で頭が混乱していたが、重要なのはそこだ。
だけど、さっきも言ったけど一体今までの話の何処にその要素があったんだ?
そう俺が悩んでいると、コウキが俺を見て口を開く。
「ビフレスだと兄ちゃんは人間のままだが、オレはデジモンになる。だが逆に、イリアスだと兄ちゃんがデジモンになり、オレは人間に変わる。そういうことか」
「そういうことや」
……は???
「はあああああああああああああああ!!!???」
俺は思わず声を漏らした。
ちょっと待てちょっと待て。そうなるとそれは少し話が変わる。
「コウキを戻すには、俺がデジモンにならないといけないのか!?」
「そう言うとるやろ」「そう言ってんじゃん」
シーチューモンとコウキが、当たり前の様に言い捨てる。
いやまぁ、確かにさっきそういう結論に至った訳なんだけど…。
「んだよ兄ちゃん。オレを元に戻すんじゃなかったのか~?もしかして怖いのか~?」
「お前本当にキャラ違うな!?」
「それに兄ちゃん、デジモンの力使えるって聞いてちょっとワクワクしてたろ?良いじゃねェか?可愛い弟助けるついでだと思ってさァ?」
コウキの奴、この姿になってSっ気が出てねぇか?
俺、そんな弟に育てた覚え無い!!!
……でも、デジモンの力に興味があるのは本当で…。
「…な、なぁシーチューモン。ちなみに変身するデジモンってどんな基準で決まるんだ?」
「え?知らん。波長でも合ってんのとちゃう?」
「俺の弟、邪竜と波長合っちゃってんの???」
あまりに適当過ぎる解答に呆れるが、まぁこいつはそんな奴だ。
まだ会ったばかりなんだが。
「あぁもう!じゃあ俺がえ~と…いりあす?に行くと、どんなデジモンになるのか分かんねぇのか!?」
「何だよ、やっぱり兄ちゃんも気になってんじゃん」
「う、うるせぇ!」
男はこういうもんに憧れるんだよ!
っていうか、こう気にしてみるとコウキの奴ズルいな!よく見たらカッコいいじゃねぇか!
「あぁ~…まぁ事前に確認するのも大事やな。どれどれ…」
そう言って、シーチューモンは位置を調整する様にゴーグルに触れる。
原理は分からないが、それで俺がどんなデジモンになるのかが分かるらしい。
「…………」
「…………」
「…………」
「………すぅー……………好きな金属とかある?」
「話題変えるの下手クソか」
思わずツッコミを入れてしまったが、これは大ごとだ。
だって何だよあの異様に長い間は!!!
「絶対ハズレじゃん!俺がなるデジモン絶対にハズレじゃん!」
「い、いやぁ~あ、あのぉ~…全てのモノは見方次第ですしぃ~???」
「ハズレだから見方変えてんだろ!!!」
「うっさいなぁ!!!これ以上文句垂らしてるとハッ倒して、血管であやとりして、穴という穴からセンブリ茶流し込んで、苺のショートケーキ食わせて、俺が体調崩したことあるクソ映画観させて、感想文を1万文字以上で書かせたるぞぉ!!!」
「何か途中でおやつの時間なかった?」
何だか変な方向に話が進んでしまったが、まぁいい。
少なくとも、俺の変身するデジモンが碌でもないことが分かった。
コウキを人間に戻す手段を他に探すか…。
「なぁ、一回でもいいからイリアス行ってくんねェか?」
…ん?
「何や?あんたの方から言うとはな。そんなに今の姿が嫌なんか?」
「いいや?だが、世界融合の話聴いたら、お互いの世界でのオレ達の能力差を知っておく必要があると思ってさ」
な、何言ってんだコウキの奴。いや、コウキが人間に戻るのは嬉しいが…。
「い、いやコウキ君?さっきのやり取り聞いてた?イリアスだと多分俺、役に立ちそうにないぜ?コウキだって人間に戻るんだし、戦力差絶望だぜ?そりゃコウキが人間に戻りたいってんなら良いけど…」
「人間の姿はどうでもいいが、イリアスでオレ達ができることを確認するのは必要だろ。
ビフレスとイリアスがリンクしてるってんなら、例えばビフレスでどうにもできない状況を、イリアスに行けば打破できる可能性がある。
そうやって、二つの世界を行き来して目的を達成するつもりなら、兄ちゃんがどんな役立たずでもイリアスでは何ができるのかを知らなきゃいけねェ。だろ?」
分かってはいたが、デジモンの姿になっても知性は変わっていない様だ。
まぁ確かに、イリアスでの武器は知る必要があるのかもしれない。
でもそうなると俺は…
「大丈夫だ兄ちゃん」
悩む俺に、コウキが声をかけてきた。
コウキがデジモンになってしまった事でできた身長差を埋める為、コウキはしゃがみ込み(それでも俺よりでかいが)、俺の目をしっかりと見つめる。
「兄ちゃんがどんなデジモンになっても、オレは兄ちゃんを見捨てたりしねェ。オレが邪竜になっても、見捨ててくれねェみてェにな」
「コウキ…」
あぁもう!実の弟にこう言われると、俺が怖がってんのがバカみてぇだ。
第一、弟を人間に戻すためにはイリアスに行かなきゃダメだもんな!
まぁ代わりに俺がデジモンになるし、ビフレスに戻ったらまた弟がデジモンになるわけだから、問題の解決にはなってねぇんだけど。
「分かった。納得はしてねぇけど、物は試しだ!シーチューモン!イリアスに連れてってくれ!」
「う~ん…まぁええか。使えない訳ではないしな。ほな、行くでぇ~」
そう言うとシーチューモンは、翼を思いっきり横に振った。
その瞬間、俺達を大きな波の様なものが襲いかかった感じがする。
一瞬、世界が霞んだ。
そして俺達は別の世界…多分イリアスへとあっという間に到着した。
え?何で到着したって分かるかって?
そりゃあまぁ…明らかに違うからな。
荒野なのは同じだが、微妙に景色が違う。
そしてこれが圧倒的な違い。
何だか周りにある岩山がビフレスと比べて明らかに大きい。
「うわぁ!本当に戻ってる!」
聞き覚えのある声に、俺はすぐに振り返る。
そこには見慣れた弟の人間としての姿があった。どうやらイリアスに行くと人間に戻れるというのは本当だった様だ。
でも、何だか大きくねぇか?
「お、おれ……ん〜…何か小っ恥ずかしいなぁ〜。やっぱりあの姿が原因だったんだ、あの感じ…。あ、そういえば兄ちゃ……」
少しビフレス時の自分に恥ずかしさを覚えそうにしながらも、光輝は俺を探した。
まぁすぐに見つけた訳なんだが、光輝は目線を下げて俺を見つめたまま固まっている。
「まぁ驚くのも分かるので?でもその…使えん訳ではないからな」
光輝の隣にシーチューモンが現れる。
そのシーチューモンも今までよりも姿が大きい。
……いや待て。薄々気付いてたけど、これって俺が縮んでんの!?
「お、おいシーチューモン!俺、今どんなデジモンになってんだよ!」
「あ〜ハイハイ」
シーチューモンは右足で地面を叩きつけると、ゆっくりとその右足を上げていく。
するとその右足を追う様に、氷の結晶が地面から生えてくる。
何だかよく分からないが器用なことするなと関心してしまったが、俺はすぐにそのシーチューモンが作った氷の鏡で自分の姿を確認する。
「な、何だコレ!?!?」
俺の視界に飛び込んできたのは、ヘッドホンとマフラーを付けたピンク色のウサギだった。
「こ、光輝の時より凄いファンシーな見た目になってんだけど!?」
「キュートモン。成長期の妖精型デジモンやな。あ、成長期っていうのはあのガジョって奴等と同じレベルってことな」
「キュ、キュ、キュートモン!?!?」
あんまりな名前に思わず驚愕の声を漏らす。
おい光輝、今ちょっと笑っただろ。
「何だよそれ!もっとこう…光輝の時みたいなさぁ!?」
「文句言うなや。俺やってまぁまぁ困っとるんや。でもまぁ使えんでもねぇぞ?キュートモンは治癒能力に優れてるが争う能力はあまり無くてな?それでいて臆病で……うわっ何これ使えね。ハズレやん」
「本音が溢れ出してるよ」
光輝の言う通り、シーチューモンの溢れ出した本音に、俺の頭はクラクラする。
戦えない上に臆病…?
そんな…そんな体で……
…………
………
……
「……うっ…うわあああああああああああああん!!!!!!!!!!」
「あ、弾けた」
あまりな出来事に、もう涙が止まらなくなった。
光輝が前に言ってた。心の中が弾けた感じ。
多分、今がそうなんだと思う。
「あ、あんまりだよぅ…。ボ、ボクだけこんな目に遭うなんてぇ…ひっぐ…」
「あ〜あ泣いちゃった」
情けなく泣くボクを光輝が抱っこする。
これじゃあどっちがお兄ちゃんか分からなくなるけど、恥ずかしい話これが落ち着く。
「大丈夫だって兄ちゃん。治癒能力だって凄いじゃん。ゲームでも回復技って重要でしょ?」
「う、うん…」
「良かったな光輝!お兄ちゃんになれたで!」
「君のメンタルはダイヤモンドなの?」
光輝がシーチューモンの相手をしている中、ボクはだんだん眠くなってきた。
そういえば、今日は散々だった。よく分からない理由でよく分からない世界に飛ばされて、よく分からない姿にされている。
こんなことが続いて、眠くならない訳がなかった。
これからボク達はどうなっちゃうんだろう…。
そんな不安に駆られながらも、ボクは睡魔に全てを委ねた。
「あ、兄ちゃん寝ちゃった。どうしようかなぁ、一応来てみたものの目的もアバウトだから次何をするべきか…」
「とりあえずキュートなお洋服でも買ったげる???ハハハ、やべっツボに入った死にそう」
「まず君は何処で心を落としてきたの?」
ーーーーーーーー
あとがき
ってな訳で今更ながらザビケ参加致しました。
本当はもっと堅実な雰囲気の作品書く予定だったんですが、どっかのデジモン化マニアに「は????デジモン化書かないとかマ?????」とナイフを喉元に突きつけられて言われたので、急遽作りました。最近の世の中は物騒ですね(2割嘘)
ってな訳で「どうせ続き書かねぇんなら、好み過ぎて続き書くとHな気持ちになっちゃうシチュでやろうぜ!」となりまして、とりあえず「邪竜になるショタ」と「か弱い存在になる男子高校生」を書くということしか頭に考えずに作りました。なのでストーリー面は超適当です。
シーチューモンが主人公の質問に対し時々「知らん」と答えてますが、マジで知りません。いや本当にマジで。だって考えてないんだもん。
ということで企画の特徴上、続きを書いてくれる方が出てくるかもしれないらしいのですので(まぁそんな物好きがいるのか知りませんが)、一応ネーミングの由来など記入しておきます。
何らかのアイデアにはなるかもね!
井深宮斗
まず下の名前の「宮斗」ですが、これがこの作品中2番目ぐらいの難産でした。
まず「斗」は弟の名前が「光輝」と二文字になるので付けたもので、本来は「宮」でした。
この「宮」の由来ですが、キュートモンになるのは決まってたので「ウサギ→ラビット→ビット」まで行って、8ビットで1バイトということで「1/8」の形を崩して「宮」にした感じです。
いやほら、8だけで「呂」みたいじゃないですか。そういうことです。
で、苗字の「井深」ですが「片方が人間ならば、もう片方はデジモン」という状況がプログラミングとかのif文っぽいなということで、由来はズバリ「if文」です。
井深光輝
苗字はもう言ったので省略するとして、光輝が実は1番難産でした。
宮斗の後に考えたのですが、宮斗が上手い具合に「変化するデジモンをイメージしつつIT関係に纏わる名前」にできたので、彼もそうしようとしたんです。
でもドラゴンとIT関係だと僕の知識では上手く思いつかず、結局妥協してIT関係のドラゴンのマスコットキャラ「Konqi(コンキー)」からとって光輝になりました。
え?Konqi君は具体的に何のマスコットかって?少しマニアックな話になるかもだから自分で調べてください。
Konqi君はいいぞ。
デジタルワールド・ビフレス
二つのデジタルワールドを行き来するということで、デジタルワールド・イリアスを使わねぇとなぁ!?となった訳ですが、まぁイリアスだけ名前があるのは変なので付けました。
名前の由来はアレですね。北欧神話に出てくる虹の橋「ビフレスト」です。
イリアスの由来からして神話から取った方がいいかなって。
ガジョ、リット、キーマ
話の都合上出てきて、癖で名前まで付けちゃったモブ。
ガジョは「ガキ大将」で、リットとキーマは二人合わせて「取り巻き」です。
……何でモブの解説してんだ????
シーチューモン
個人名は出てませんが1話という形式上、あっても出さなくてギリギリ許せるかな程度で出してません。
本当は敵デジモンも個人名は出さず「この作品内でのデジモンには個人名があるかどうかはお任せします」という形にする予定だったんですがね…。悪い癖が。
まぁあとで「ガジョ達は勝手に名乗ってた」とか「イリアスでは個人名は無い」とか言い訳はできますが。
なので、こいつに個人名があるのか、そしてあったとしてどんなのなのかは分かりません。お任せします。
こいつなら「まぁ名前なんて言わんでもええかなと思って」とかで片付きそうでしょう。
実際、宮斗達もシーチューモンに自己紹介してないし。シーチューモンが二人の名前知ったのも会話が読み取っただけだし。
Digimon e/se IF
タイトルですがこれは「デジモン エルスイフ」と読みます。/が小文字のLです。
上でも言ってたif文関係です。
/を使いたかったんです……
ってなわけで、ここまで読んでくださいまして有難うございました。
僕は理想のTFシチュが書けたので満足です。
ぐへへへ尊厳破壊は何度見ても楽しいぜぇ……
弟が10歳にしては賢過ぎて歓喜。夏P(ナッピー)です。
後書きにキャラや用語の由来があるのいいぞーこれ。デジタルワールドイリアスって何だったっけかな……と思ったらアレだ! デジモンクルセイダーズで言及された奴! ビフレスと言われると牛肉が思い浮かんでしまいますが、スレイプモンの必殺技も同じ由来だったかな……?
デジモン化ということで然る御方の姿が浮かぶようでしたが、10歳児が変化したのはまさかのデビドラモン。しかも10歳児にして高校生を超えてそうな優等生にも関わらず、種族の性質に引っ張られてヒャッハーな世紀末状態になる罠。流石はこれほど邪悪なデジモンは他にはいないと言われる猛者、成長期相手なら瞬殺だぜ! というかむしろしっかり死なずに逃げ切ったモブ三人固いな!?
リットとキーマはてっきりムーチョモンいただけに、カレーやら辛いもの関連の名前だと思っていたのに、そのまんま取り巻きでダメだった。
兄者の方はまさかのキュートモン。何か金属好きかってシーチューモンが言うから、俺ぁてっきりメタルエンパイアの誰か、しかも10歳児よりちっこくなったとのことで「マメモン来たな……見た目で舐められる奴だ」とワクワクしましたがまさかお前だとは思わなかったッキュ。仲間を集めてグレイテストキュートモンになるしかない……
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。