高架下の原っぱで、サッカーボールが宙を舞う。
原っぱで少年が一人っきり、ボールのリフティングを続けていたのだ。
そう、続けて「いた」。
ボールは地面に落ち、少年は深いため息を吐く。
針恵小学校5年生の藪内壇(やぶうち だん)は、ボールを見つめてしゃがみ込んだ。
「やっぱり……何か違う」
壇はそれだけ言って、ボールを思いっきり地面に叩きつけた。
ボールはリバウンドして、彼を飛び越え後ろへ飛んでいく。
「痛っ!?」
突然、後ろから誰かの声が聞こえた。
壇は後ろにいた誰かにボールがぶつかってしまったのだと気付き、慌てて振り返った。
「ご、ごめんなさ……って…あれ?」
確かに声が聞こえたというのに、後ろには誰もいなかった。
壇は困惑しながら辺りを見渡す。
「き、気のせい…?」
「んな訳あるかああああああ!!!!!」
「うわぁあ!?」
突然目の前に聞こえた大声に、壇は驚き尻餅をつく。
そしてその直後、目の前に見た事がない生き物が文字通り姿を表した。
それは、迷彩模様のトカゲの兵士であった。
〜〜〜〜〜
駅近のカラオケ店で、紫のパーカーを着た20代ぐらいの女性がケータイを見て部屋番号を確認していた。
「403…403……あ、ここか」
パーカーの女は目当ての部屋を見つけ、そこに入る。
少人数用の狭い部屋で、薄暗い照明とカラオケ機器から漏れるライトにより、少し幻想的な空間となる。
画面には、今売れっ子の人気バンドの楽曲紹介を含めたミニコーナーが流れていた。
そんな部屋のソファの端っこに、20代後半か30代前半と思われる白スーツの男が携帯ゲームを黙々としている。
「潮塁(うしお るい)さん……ッスか?」
白スーツの男・潮塁は、パーカーの女の言葉に対して何も返さず、ただ右手の掌を見せた。
ゲーム中だから少し待て、という事だろうか。
しばらくすると塁はゲームをテーブルに置き、天を仰いだ。
ゲーム画面を覗き込むと、どうやらやっていたゲームは格闘ゲームで、1P…つまり塁が操作していたキャラはコテンパンにやられていた。
挙げ句の果てには、画面に大きく映る勝利を伝える文字。
[PERFECT!!]
どうやら完敗だった様だ。
「強い人と当たっちゃったんッスね」
「あぁ…最近のコンピュータは強いな」
「相手コンピュータだったんだ」
まぁレベル設定によれば強いコンピュータも沢山いる。きっと最高レベルにしていたのだろう。
でないとあれ程忙しなく操作していたのに、完敗など早々出来るものではない。
「それで君は…」
「あ、ハイ! 本日付けで配属となりました! 白鳥縁奈(しらとり えな)です! って言っても何に配属されたのかは知らないッスけど…」
「当然だな。うちは言わば国家公認の秘密組織。そう何処何処に配属だなんて、公には言えない」
そう言って塁は、部屋に置いてあるタブレットを叩く。
すると画面から、長ったらしい漢字が表示される。
「電脳異次元世界解析機関、電脳異次元存在病毒因子化対策課。通称、電子課。その排除係が俺の…君の配属先だ」
「はぁー…それでその…なんちゃらかんちゃらかんちゃらって何ッスか?」
極秘機関への配属という最上級のビッグイベントを前に、縁奈は軽い口調で続きを促す。
しかし塁は、そんな彼女の態度を気にも止めず、縁奈の質問に答える。
「彼等は自分で、デジタルモンスター…略してデジモンと呼んでいる」
「自分で?話せる奴なんッスか?」
「あぁ、まずはそのデジモンについて語るとするか」
〜〜〜〜〜
始まりは日本だとされている。
「されている」という曖昧な言い方なのには理由がある。
それは排除係のエリートである潮塁、そして彼の上官でさえ、デジモンが誕生した時の情報をほとんど知らされていないからだ。
電子課は、ただ標的の排除と対策をすればいい。
標的が生まれた経緯など、必要最低限だけ分かっていればいい。
それが上の、国の方針なのだろう。
なので、ここからの話はさらに曖昧なものとなる。
日本で秘密裏に超スーパーコンピューターが開発された。
それを使い国は、何らかの超極秘国家プロジェクトを行っていたらしい。
そのプロジェクトにより、故意か事故か不明だが、とある異次元世界を発見。
異次元世界に住まう知的生命体は自らを「デジタルモンスター」略称「デジモン」と名乗っており、それに伴いその世界も「デジタルワールド」と呼称。
電脳異次元世界解析機関が設立され、デジモンの解析が行われた。
しかし、そこである事件が起きた。
回収していたデジモンのサンプルが原因不明の突然変異を起こしたのだ。
その変異体はまるでウイルスの様に機関のネットワークに広がった。
至急、機関はそのウイルスの排除を実行したが、一部は機関のネットワークから脱出した。
脱出したウイルスは世界中のネットワークに散らばった…と思われたが違った。
ウイルスはなんと、「実在する怪物」としてこの日本中に現れたのだ。
何故わざわざ日本という限られた島国にしか現れなかったのか分からない。
だが国はこれを好機と見て、引き続き機関とデジモンの存在を隠蔽して、この後に「ウイルス種」と分類されるデジモンを排除する業務も設けた。
それが電脳異次元存在病毒因子化対策課、電子課の誕生だ。
しかし、いくら訓練をつんだ人間でも怪物であるウイルス種を排除するのは困難だ。
そこで機関は、一度デジタルワールドに応援を要請したが、彼らはそれを却下した。
頼みの綱も切れ、悩みぬいた機関は一つの答えにたどり着いた。
デジモンを家畜化すればいい。
そのもとで生まれたのが「ワクチン種」と呼ばれるデジモンである。
なんとか捉えたウイルス種の情報を元に、ウイルス種特攻種族とも言えるデジモンを、機関が人工的に作ったものだ。
以降、電子課はワクチン種を連れ、日本中に散らばるウイルス種を駆逐することとなったのだった。
「ふ〜ん…そういうことッスか」
「そうだ。ワクチン種を使い、ウイルス種を殲滅する。もちろん、デジモンの存在も隠しつつな」
そう言って、塁は別のゲームを起動させた。
どうやらRPGの様だ。
「えっと…デジモンの存在を隠すって大変じゃないッスか?デジモンがどんなのか分かんないッスけど、今の情報社会で隠せるもんかなぁ〜」
「電脳世界を調査しているんだ。人が作った擬似的電脳世界にある情報を隠蔽することなど容易い。それに、目撃者の記憶を消すこともそう難しいことじゃない」
塁はゲームをやりながら縁奈の疑問に答える。
格闘ゲームと違って、ターン制のゲームの為にそういう暇はある様だ。
「記憶を消す?つまりあれッスか!?あの映画とかで良くあるピカーって光るみたいな奴!」
「まぁ……そんなところだ。少し席を外す」
ゲーム機を置いて、塁は部屋を後にする。
扉が閉まった後、縁奈は塁が置いたゲーム機を興味本位で覗き込んだ。
「ま、負けてる…」
塁は、ゲームが極端に苦手であった。
〜〜〜〜〜
「見逃してください忘れてくださいお願いします」
壇の目の前に現れたトカゲの兵士は、早口でそう言って土下座をする。
意味不明な生き物に意味不明な行動を取られ、壇は困惑した。
「え、えっと……その…ごめん……状況が全く掴めないんだけど……」
最初は未知の生き物に恐怖を覚えたが、あまりに綺麗な土下座姿を見ると少し恐怖心が薄れてしまう。
壇は興味本位でそのトカゲに事情を訊いた。
「えっと…オレ、コマンドラモン。何か気付いたらここにいて…それで人間からずっと追われてて……だから頼みます!見逃してください!!!」
「ちゃんと答えるんだ…。話の内容は気になる点多すぎるけど…」
「オレもよく分かんねぇんだよ!別に何も悪いことはしてない……と思うし、とにかく!殺される筋合いはオレにはねぇ!!!……はず」
「もうちょっと自信持って言ってよ。それじゃあ僕も庇いづらいって」
所々不安要素が残る話に、壇は思わずそう言い、コマンドラモンは何故か目を輝かせた。
「庇ってくれるのか!?」
「いやそういう意味じゃなくて…!」
「あ〜あ、やっと見つけたよ」
何だか面倒なことになった。
そう壇が思っていた時に、再び突然聞き覚えのない声が聞こえる。
今度ははっきりと声の主の姿が見えた。
白地のTシャツの上にアロハ柄のシャツを羽織り、さらにシルクハット型の麦わら帽子を被り、丸いサングラスを付けた見るからに怪しい成人男性だった。
「姿消すとかマジ聞いてねぇって。捜すの苦労したんだぜ?」
「あ、あの人間だ!」
コマンドラモンはその見るからに怪しい人間を見て、壇の後ろに隠れた。
「えっ!?ちょっ!?」
「お~いボク~。その怪物は危ないから早く離れた方が良いよ~」
「えっ…いや…でも…」
「でもじゃなくてさぁ」
アロハシャツの男は少し気だるげに話す。
「さっきも言ったけどそいつは危険なの。大体、その怪物守って何の得もないでしょ?」
「そ、それはそうですけど…」
壇は、自分の後ろに隠れるコマンドラモンを見つめる。
確かに、今さっき会ったばかりのこのよく分からない生き物を守ったところで自分には何の得もない。
ならば、コマンドラモンをこの男に引き渡して忘れるのが自分にとって一番なのかもしれない。
「嫌だ…死んでたまるか…」
その時、背後からコマンドラモンの震える声が聞こえた。
コマンドラモンは震えながら、ライフルをしっかり握る。
「人間。もういい。オ、オレの問題だから…オレの問題だから…オレが片付ける…!」
壇とコマンドラモンの目が合う。
壇はその瞳をしっかりと見つめ、遂に心に決めた。
「やだ」
「え?」
「は?」
壇の言葉に、コマンドラモンとアロハシャツの男は思わず声を漏らす。
だがアロハシャツの男は少し間を置いた後、大きく溜め息を吐いた。
「あっそ。まぁ良いけど。お前に拒否権はねぇから」
男はポケットからスマートフォンの様なデバイスを取り出した。
男が液晶画面に映る爆発のアイコンにタップする。
【フォーマット】
デバイスからハキハキとした電子音が流れたと思うと、そのデバイスを中心に大きな音と眩い光が起きる。
【クローキング】
「位相転換」
そして男は続けざまにデバイスの別のアイコンにタップし、それを横に大きく振った。
男を中心にブロックノイズの波が起きる。
その波に呑まれたかの様に、男とコマンドラモンは姿を消した。
突然の光と突然消えた男とコマンドラモン。
普通この状況に困惑するはずだが、壇は呆然と突っ立ていた。
壇はふらふらとその場を後にしようと歩を進める。
「それじゃあ、つまらないな」
何かが壇にすれ違った。
いつの間にか、何かしらのVRヘッドの様な機械を取り付けられる弾。その機械から金切り音に似た音が鳴る。
「………うわぁあうるせぇ!!!」
壇は慌てて、機械を取り外した。そしてしばらくして辺りを見渡す。
「あ、あれ!?コマンドラモンとあの怪しい大人は!?」
「キミはあの人間に記憶を封印されてたんだよ。催眠もついでにね」
今日で三回目になる謎の声。
壇がその声の方を向くと、コマンドラモンより少し大人っぽい仮面を被ったウサギの様な怪物がいた。
「キ、キミは…?コマンドラモンの仲間?」
「あんな紛い物と同じ括りにされるのは心外だね。私はあの…」
壇に問われたそのウサギは、何故か妙に偉そうな態度を取る。
そしてこれまた理由は不明だが、ウサギは少し間を置いて壇を見つめて口を開ける。
「《良宵(りょうしょう)のエクロナ》…だよ」
「………」
「………」
しばしの沈黙。
されど沈黙。
先にその沈黙を破ったのは意外にもウサギの方だった。
「……あ、そっか。すまない忘れてくれ」
「どういうこと!?」
「レキスモンだ。レキスモンのエクロナ」
「普通に自己紹介しないで!?」
「ギャーギャー騒ぐな。これを」
そう言い、仮面のウサギ・レキスモンのエクロナは何かを壇に投げ渡す。
それは壇が一瞬だけ見たあのアロハの男が持っているデバイスと似たものだった。
「これは…?」
「何と言ってたっけな……そうそう、デジヴァイスVだ」
「デジヴァイス……V?」
聞き慣れない名前だ。
デジタルデバイスの略なのだろうか。だとしてVは?
「状況とそのデジヴァイスVの使い方を簡単に教えよう。だがその前に…」
「そ、その前に…?」
エクロナは真剣な表情で壇を見つめる。
ただならぬ空気を感じ、壇は息を呑んだ。
「そのVRヘッドみたいなの返して」
「あ、ごめん」
〜〜〜〜〜
【リアライズ】
アロハの男のデバイスから白い中型犬が飛び出した。
「頼むぜラブラモン」
「了解しました」
ラブラモンと呼ばれた中型犬は言葉を発した。
そう、この犬もれっきとしたデジモンである。
それも電子課が作り上げたウイルス種特効デジモン・ワクチン種の。
ワクチン種の中で、ラブラモンは大量に生産されたデジモンである。
しかし、量産型だからと言ってその力は決して弱い訳ではない。
ラブラモンが睨む先にいたのはコマンドラモン。
ウイルス種であるコマンドラモンにとって、このラブラモンは充分に強敵だった。
「クソッ…!またこれかよ!何なんだよこの変な空間!」
コマンドラモンは辺りを見渡す。
壇の姿を見失っただけでなく、青空は紫色に草木は赤色に染まっている。
「俺も詳しくは知らねぇけど、要は別の世界に飛ばしたんだよ。怪物にはピッタリだろ?」
「んだよ…さっきから怪物怪物って!オレはコマンドラモンだ!」
「つまり怪物だろ。やれ、ラブラモン」
「はっ!」
コマンドラモンに飛びかかるラブラモン。
反応が一瞬遅れ、コマンドラモンはライフルを構えようとするが間に合わない。
だがそんな時。
【Quarantine】
電子音と共に、コマンドラモンの周りに障壁が現れる。
その障壁にラブラモンは吹き飛ばされるものの、すぐに体勢を立て直す。
「な、何が!」
困惑するラブラモン。
その時、ラブラモンの視界に驚くべきものが入った。
突然現れた障壁に守られているコマンドラモンの隣に、なんと壇が立っていたのだ。
「はぁ!?何であの子がここに!」
壇の姿を見て、アロハの男も驚愕する。
「大丈夫!?コマンドラモン!」
「お、お前…!」
「待ってて!」
【Syringe】
壇の所持してる端末・デジヴァイスVにコネクタの様なものが現れ、それをコマンドラモンの腕に押し込んだ。
コマンドラモンが混乱する中、今度はそのコネクタを自分自身に押し込む壇。
【Infection】
体内に何か大きなものが流れたのを感じる壇とコマンドラモン。
「これ……何が…!」
「僕もよく分からない…けど、これをやったらコマンドラモンが強くなるって聞いて…」
「聞いて?誰に?」
「おいガキィ!!!」
疑問だらけのことが続くばかりだ。
だがその疑問を考える余地も無く、アロハの男が声を上げる。
「どうやってここに来やがった!いや、それより何でその怪物を守るんだよ!よく分かんねぇのに首突っ込むんじゃねぇ!これは大人の仕事なんだ!カッコつけて正義のヒーローの真似事してんじゃねぇ!」
「………違います」
「なに?」
アロハの男の言葉に、壇は障壁越しに彼を睨みながら言い返す。
「ヒーローの真似何かじゃない…。僕は…こいつを放って置けない!」
「はぁ?放って置けないだぁ?」
「こいつ…コマンドラモンは人間に追われながら、ずっと逃げてきたんでしょう!?それなのに、同じ人間の僕にはすぐ攻撃をしてこなかった!ライフルなんて持ってるのに!
僕はそんな優しい奴を放って置けない!」
壇は「それに…」と言いながら自分の右足を一瞬見る。
「きっとこいつ…生まれてから逃げることしかできてない…。まだ…『自分の好き』を見つけれてないんだ。そんなの、あんまりだよ…」
自分の好き。
壇は、それがどれほど大切なものなのかよく分かっている。
それを失ってから、壇の世界はモノクロになってしまったのだから。
「だから…せめて僕は…こいつの好きを見つける手伝いをしたい!だから…こいつを放っては置けない!」
壇の言葉を聴き、アロハの男は頭を掻いて大きく溜め息を吐く。
「これだからガキはよぉ…」
その瞬間、コマンドラモンは持っていたライフルの引き金を引いた。
内側からの衝撃には弱いのか、それとも意図的なものなのか、障壁は簡単に砕かれ銃弾はラブラモンの方へ向かう。
「くっ!」
ラブラモンは間一髪のところで避け、戦闘体勢を取る。
「気に入ったぜ人間!」
コマンドラモンはライフルを構えたまま、壇にそう言った。
眩しいほどの笑顔を見せて。
「……人間じゃない、藪内壇だ!」
「ヤブ……なげぇなぁ!後でまた教えろ!」
「うん!」
壇はコマンドラモンに頷き、アロハの男とラブラモンを見つめる。
「今更だけど、あの喋る犬も敵…ってことで良いんだよね?」
「あぁそうだ!」
そう言ってコマンドラモンは懐から何かを取り出し、それをラブラモンに投げた。
「ラブラモン!」
「レトリバーク!」
アロハの男はすかさずその投げられた物を指差し、ラブラモンに指示を送る。
ラブラモンが発した衝撃波により、コマンドラモンが投げた物は空中で爆発する。
どうやら、コマンドラモンが投げた物は爆弾だった様だ。
反応が遅れれば、あの爆弾はアロハの男とラブラモンの前で爆発していたことだろう。
男の判断は流石の早さであった。
しかし、その爆弾に気を取られ過ぎたのがいけなかった。
「なっ!い、いない!」
壇の隣にいる筈のコマンドラモンの姿が消えていた。
視線が爆弾に向かっている隙に、コマンドラモンは何処かに移動したのだ。
「後ろか!?」
こういう場合、背後を取るのがセオリーだ。
男はそう言い、ラブラモンに振り返る様に命令を送る。
「残念、正面だ」
しかし、男の読みは外れた。
コマンドラモンは自身の光学迷彩で姿を消し、ずっと正面で銃を構えて待っていた。
ラブラモンが後ろを向き、余所見をしている隙にコマンドラモンは至近距離でライフルを乱射する。
「うわあああ!!!!」
「ラ、ラブラモン!」
至近距離のライフル攻撃により、ラブラモンは吹き飛ばされる。
ラブラモンはボロボロになりながらも立ち上がり、激しい怒りの形相でコマンドラモンを睨んだ。
「こ、この……ウイルス種の分際で…!レトリバーク!!!!!」
「バッ…!ガキに当たったら上から何言われるか…」
ラブラモンの怒りのままの攻撃にアロハの男は慌てるが、デジモンであるコマンドラモンはいいとして、人間である壇は冷静なままだった。
コマンドラモンは衝撃波を避け、人間の壇もそれに続いてラブラモンの衝撃波を避ける。
「なにっ!?」
デジモンの技を避けるなど、子供どころか大人でも難しい筈だ。
それなのに、壇はそれをやってのけた。
その時、男の脳裏に弾が持つデジヴァイスVから流れた電子音を思い出す。
【Infection】
「インフェクション…感染……まさか!自分にデジモンの因子を…?そんな…そんな危険なことを!?」
「コマンドラモン!一気に決めろ!」
「もちろんだ!」
コマンドラモンは今までにない速さで一気にラブラモンと距離を詰める。
壇だけではない。コマンドラモンの動きも壇が来るまでと全く違う。
「こ、この…病原菌がああああああああ!!!!!」
ラブラモンは迫り来るコマンドラモンに爪で対抗しようとするが、コマンドラモンは地面を滑り、ラブラモンの爪攻撃を避けながらラブラモンの腹部に何度もライフルを乱射する。
ラブラモンはその銃撃により宙に浮き、無防備の状態となった。
その隙に、コマンドラモンはライフルを操作して必殺の銃弾を装填する。
「M16アサシン」
バンッ!と音が鳴った後、無音が世界を支配する。
ラブラモンはその体を消滅させながら落ちていく。
そしてラブラモンは、地面に付く前にその体を完全に消滅させた。
「クソッ!こんなこと知らねぇぞ!運がねぇ!」
【フォーマット】
「チッ!」
アロハの男は悪態を吐きながらデバイスを操作。
壇の記憶を消したあの光と音のアプリを起動させ、壇達の視界を奪った隙にその世界から姿を消した。
光を思いっきり浴びたが、今度は壇の記憶を消えず、催眠状態にかかることは無かった。
催眠状態を解いたあのVRヘッドセットのおかげだろうか。
しばらくして、世界も元の青空の世界へと戻った。
壇は一安心し、その場に座り込む。
「怖かった〜!身体中がもう痛すぎ…」
戦闘中に湧き出るあの力は感じない。
どうやらアレは、一時的なものの様だ。
だがそれより、壇が気になるのは…。
「あの犬みたいな奴……死んじゃったのか…?」
「あぁ」
壇の問いに、コマンドラモンは呆気なく答える。
自分もコマンドラモンに「決めろ」なんて言ってしまったが、まさか命を奪うとは思ってなかった。
自分が命令したせいで、あの犬の様な怪物は死んでしまったのではないか。
壇の心は、罪悪感で支配される。
「……殺らなきゃ、オレが死んでた。だから殺した。オレの意思で」
壇の気持ちを察したのか、コマンドラモンはそう呟いた。
その言葉に、壇は「そう…そっか…」としか答えられなかった。
「それより!お前、何て言うんだっけ?ヤブ……なんとか?」
しんみりとした空気の中、今度は空気を読まずにコマンドラモンは壇の顔を覗き込んだ。
さっきまでと全く違う態度に、壇は少し困惑しながらも「えっと…」とコマンドラモンに答える。
「藪内壇。ヤブウチ・ダン。覚えられなかったら壇で良いよ」
「そっか!ダンだな!オレ、コマンドラモン!」
「それは聞いたよ。でも…コマンドラモンって何か長くて言い辛いね。あのレキスモンって奴はエクロナってさらに名乗ってたけど……どっちが名前なんだ?」
「レキスモン?エクロナ?誰だそれ?」
どうやら、エクロナについてはコマンドラモンも知らない様だ。
余計にアレは何なのだろうか。
だが、分からないものをいくら考えても仕方がない。
壇はコマンドラモンに代わる良い呼び名は無いか模索する。
「……銃をバンって撃ってたから……バン……とか?いやでもなぁ〜…」
あまりに安直過ぎる上に、自分の名前と被っている名前に、壇は考えを改める。
だがそんな壇にくっ付くんじゃないかと思うぐらいに、コマンドラモンは顔を近づける。
「バン!!??それ、オレのことなのか!!??」
コマンドラモンは目を輝かせてそう言った。
壇はその迫力に負け、思わず「う、うん…」と答えてしまう。
「そっかー!オレ、バンかー!いいな!うん!今からオレはコマンドラモンのバンだ!」
どうやらコマンドラモンの部分は譲れないらしい。
だが、その嬉しそうな姿に壇は思わず微笑んでしまう。
「……そうだね…。よろしく、バン」
〜〜〜〜〜
「へぇ〜…アレがウイルス種デジモンって奴ッスか」
場所は変わり、縁奈と塁は路地裏に立っていた。
今さっき、周辺に潜伏したウイルス種デジモンを討伐したところだ。
「デジモンにはクラスがある。デジタルワールドでは別の呼び名がある様だが…俺達はデータ質量が多い順にシンプルにA、B、C、E+、Eといった具合に分けている。
まぁウイルス種はクラスBとクラスCしかいないから、そこまで覚える必要性は無いが」
「さっきのデジモンは?」
「クラスCだ。こいつと同じ」
塁はそう言って、ある一点を見た。
そこにいたのは、塁が使徒する仔ライオンの様な姿をしたワクチン種デジモン。
「よくやったぞ、レオルモン」
「へっへ〜ん!いつだってボクに任せてよルイ!」
仔ライオンのデジモン・レオルモンは自慢げにそう言った。
その言葉に、塁は無表情のまま「あぁ」とだけ答え、路地裏の先にある建物をジッと見つめる。
「……本部に行くのは明日だ。そこでお前のデバイスやデジモンも支給される筈。今日は一旦休め。休憩先はメールで送る」
「了解ッス!」
縁奈のキレイな敬礼に一瞥もせず、塁はレオルモンをデバイスに戻して路地裏を出る。
そして塁は、その先にあったゲームセンターに真っ直ぐ向かった。
塁は閉店まで、そのゲームセンターにあるシューティングゲームをプレイした。
結論から言って、塁は最初のステージすらクリア出来ずにゲームセンターを後にする事となったのであった。
-------誰得あとがき-------
サロンを全然チェック出来てないので、被ってる話だったらすみません。
っていうか「インフェクション」の段階で気付いたんですが、データでウイルスって仮面ライダーエグゼイドだこれ!!!!!
アロハの男とか絶対あいつの影響じゃん!!!!!
ってな訳で、何とかギリギリで投稿できました。
これ割と昔から構想はあったんで、こういう形で出せて感無量です。
あと本当は主人公の名前「藪内『弾』」だったんですね。
でも書いていく内に、パートナーデジモンがパートナーデジモンなんで「これ『弾』って一文字がややこしくなりそう」と思って、途中から急遽「壇」に変わりました。
なのでもしかしたら、何処かに直し忘れがあるかもしれません。
あとまぁ結構雑になりましたが、期間内に間に合ったしええやろ!!!!!(思考放棄)
それでは時間もアレなので、さようならでございます。
----------あとがきのあとがき----------
投稿時間がギリギリだったので断念した各キャラの名前の由来などのコーナーとなります。パチパチ。
おいそこ、誰得とか言うな。俺得だ。
藪内壇
前述のとおり、元々は「藪内弾」でした。
この名前から察する人もいるかもですが、名前の由来…と言えるものかは微妙ですけど、それは「藪の中から銃を撃つ」みたいなイメージで出来た名前です。
パートナーがコマンドラモンというのは決まっていたので、パートナーを連想させるもので名前を付けています。
余談ですが、昔から構想があったと言ってたとおり、他にも色んな人間キャラがいたんですが、ウイルスのパートナーデジモンがいるメインキャラは壇同様の感じで名前が付けられ、名ありのモブキャラは全員の名前の頭文字を合わせると、いろは歌が完成するみたいなお遊びでやってました。
まぁ今やそんな連中は死に絶えたがな!!!!!(言い方)
バン
作中で言われてるとおり。それ以上でも以下でもありません。
潮塁、白鳥縁奈
塁は当初からいたんですが、世界観説明の相手として縁奈が急遽参戦しました。
そういうのもあって、二人の名前は色々とごちゃごちゃしてるので一気に解説します。
まず塁ですが、ズバリ「牡牛」と「ルイ・パスツール」です。
ルイ・パスツールは超ざっくり言うとワクチン作った人で、ワクチンの名前の由来は「牡牛」から来ているので「潮塁」という名前になりました。
そして縁奈は「白鳥の首フラスコ」と「エドワード・ジェンナー」です。
「白鳥の首フラスコ」ってのは、まぁ一般的に想像する丸いフラスコの出入り口をちょちょっと加工したもので、これ先ほど言ったルイ・パスツールが使用したフラスコです。
そしてエドワード・ジェンナーは、天然痘の予防接種法を開発した人で、その予防接種に使ったのが牛痘だった訳なんですが、この人間に牛痘を接種させる実験がルイ・パスツールがワクチンの名前の由来に「牡牛」を入れた理由になった………らしいです。
完全にネットで調べただけなので、これで合ってるかどうかは知りませんが、とりあえず二人の由来はこんなワクチン開発秘話から交互に取ってる感じになります。
それはそうと、ルイ・パスツールと並ぶライバルの細菌学者ロベルト・コッホという人もいるので、それを由来にするのもアリだったかもしれないですね。もう知らね(投げやり)。
エクロナ
レキスモンなのでどうしてもルナモンをイメージしてしまいました。
ルナと言えば、そうだね。慈愛の勇者だね。
という訳で、ウルトラマンコスモスのコロナモードとエクリプスモードから取って、エクロナになりました。
え?意味が分からない?なら調べろッ!そしてウルトラマン沼に落ちろッ!!!落ちるんだッ!!!!!
デジヴァイスV
Vってなんだろうって壇は思っていますが、まぁ普通に考えて「ウイルス(Virus)」ですね。
まぁVだけなんで、色々な意味を載せれますので特に深い意味は無いです。
当初の構想も「まぁ色々あるけど大した意味は無い」って感じだったんで。
デジモンアトリビューター
「Attribute」を名詞系にしたものです。
エキサイト翻訳で「属性」と出たんでそのまま使いました。
実際割と深い意味があるみたいで「〜のせいにする」とか、神と関連する持ち物とかの意味があるみたいです。へぇ〜(他人事)。
あと「A tribute」の名詞系と訳すこともできますかね。
「tribute」は「感謝」とかの意味になるので、まぁそれも上手くいけるかもしれないですね。
へぇ〜(他人事2)
それでは駆け足ですが失礼します。
サロンにコマンドラモン旋風が吹き始めている。夏P(ナッピー)です。
というわけでコマンドラモン、そういえばウィルス種なの忘れておりましたがコマンドラモン。見た目アグモンとほぼ同じなのに毛皮被るとデータ種のガブモンになるし迷彩服を得るとウィルス種のコマンドラモンになるデジモン的不条理。おのれぇウィルス種だからって目の敵にするとは……と思ったら壇君が既に近しいことを言っていた。何故ウィルス種が憎まれるのか、何故デジモンの攻撃を生身で躱せたのか、何故アロハが何かしたら頭が痛むのクァ! その答えはただ一つ……(アロワナノー)
アロハは監察医以前に言動からして既に死相が見えておりましたが、無事に逃げおおせましたね。結果的にだけどラブラモン見捨てたので更に死相が増している。一方で如何にもライバルっぽい塁さんがレオルモンだったので、これはアロワナノーが前フリでアクセル仲間のスイムモンが出てくる流れだ! そしてそれ貰いそうな筆頭の縁奈さん追加キャラだったとは……全然そんな気がしなかったので驚き。いやよく考えたら世界観や話の構成的にデータ種が役に立たんのでは!? ……と思って確認したらアイツワクチン種だった! 行けるぞ!
デジヴァイスVは完全にバイタルブレスを想像していましたが違ったようで。というか、アロハの正体って塁さん達の同僚とかお仲間では……?
デジモン絡みの世界観がなかなか面白そうなのでこれは深堀されているのを見てみたさありますね。
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。