「うっげぇ〜…全然寝れなかった…」
ベアモンの優亮は青白い顔で歩き続ける。
その先を歩く三人の内、レナモンの晶が振り返った。
「大丈夫ですか?」
「う〜…寧ろなんでそっち平気そうなの?野宿とか初めてで寝れる訳ねぇし、何よりデジモンになったんだぜ?ドキドキして寝れねぇよ」
「確かに、またウッドモンみたいな敵が現れたらと思うと、不安にはなりますね…」
優亮の言葉に、ブイモンの直は顎に手を置きながら呟いた。
だが、優亮は「あ〜そういう事じゃなくて」と言葉を紡ぐ。
「分かるだろ? ケモナー的にはこう…な?」
「先行ってますね」
「直君冷たい!!!!!」
このままでは本当に置いてかれるので、優亮は急いで直達の後を追う。
そしてそのまま、隣になったヴォーボモンの研一に声をかける。
「なぁなぁ、研一なら分かるだろ?俺の言いたいこと」
「えっ…あ、その…まぁ分かりますけど…」
「だろだろ!? で、今何処目指してるんだっけ」
優亮の発言に、研一は呆れたような困惑したような顔を見せる。
そして話をする勇気を出すためか、しばらく置いてから口を開く。
「その…朝話したんですけど、デジモン達の集落とかを探すんですよ。確か」
「あぁ〜そっか。思い出したわ」
分かったのか分かってないのか、よく分からない雰囲気で優亮は一人で勝手に納得する。
そんな中、優亮は研一がチラチラと自分を見ているのに気が付いた。
「どうした? 顔に何か付いてるか?」
「えっ! あぁ…いや…そういう訳じゃ…」
「ふぅん…って、あ!」
突然の強風で、優亮の帽子が飛んで行った。
優亮は思わずその帽子を追いかけ、研一はそれに気付いていない他の二人と優亮を何度も見返す。
「あっ…えっと……あぁ…」
何とも言えない声を漏らしながら、申し訳なさそうに研一は優亮を追いかけた。
もちろん他の二人はそれに気付くことなく前へ進んで行ったのだった。
「見つけたぁ!」
優亮は草むらを掻き分け、遂に帽子を見つけた。
「いやぁわりぃわりぃ! じゃあ先に…」
しかし、優亮が振り返るとそこにいたのは研一だけであった。
「……あれ?二人は?」
「あっ…えっと……先に…行っちゃった…みたいです…。すみません…」
「えぇ!? やべぇマジか!俺達つまりアレか!? 迷子なのか!?」
優亮の言葉に、研一は申し訳なさそうに頷く。
それを見て小さく「うわぁ…マジか…」と項垂れてしまった。
「ご、ごめんなさい…。僕がその…二人にちゃんと言っておけば…でも…その…僕、話すの苦手で…」
「分かってるよ。俺も何も言わなかったのがわりぃんだ。しゃーない。探してみるか」
優亮は特に研一を非難せず、適当に歩き始める。
それを見た研一は、「あ、あの!」と声をかける。
「ん? なんだ?」
「あまり、動かない方が良いと思います…。手当たり次第に歩いて、奥に進んじゃったら余計迷うし…」
「………」
「あ…す、すみません。何か…知った様なこと…」
優亮は何も言わずに研一に近づいた。
研一はいきなり近づいてきた優亮に驚き、不安そうな瞳で見つめる。
「……お前、すげぇな」
「……へ?」
予想外の言葉に、研一は喫驚する。
優亮は「いやよぉ」と言葉を紡いでいく。
「自分で言うのもアレだけど、俺って行き当たりばったりなところあってさぁ。なのにお前は、冷静に分析して、ここから動かない方が良いとか提案できたり…すげぇなって。そもそも、本名で自己紹介しようって言ったのも、お前の案だったじゃねぇか」
「い、いえ…ちょっとその…臆病なんですよ…」
「用心深いってことだろ? それに先の事を考えてるってことだし…小説だって、今もまだ考え中なんだっけ?何処まで固まったんだ設定」
「え? えっと…ボスの名前を今考えてて…」
いきなり話題が変わった気もするが、これも優亮の行き当たりばったりな性格故だろう。
「おぉ! どんなんなんだ!?」
「えっ…えぇっと…カルボネって名前で…」
「そこまでだ」
突然、研一の話に二人のコマンドラモンがそれぞれ二人の後ろから銃を突きつけて割り込んできた。
「「!?」」
「貴様…何故ボスの名前を知っている…」
「ボス…!?」
コマンドラモンの言葉に、研一は目を見開く。
ボスというのは十中八九「カルボネ」の事だろう。
そして「カルボネ」は研一が構想中の敵キャラ。
晶の作った敵組織「夜導衆」が、何故かこの世界に存在した。
となると、他の作品の敵組織もいると考えるのが妥当だ。
しかし、直の作品は敵などいない短編だけで、研一自身も構想しているだけで作品どころかその構想中の内容を何処にも話したことはない。
だから、あるとすれば優亮の掛け持ちした二つの小説の片方、若しくはその両方の敵組織が登場するものだと思っていた。
だが実際は違った。
「カルボネ」という名前のボスがいるというのなら…。
「僕の……設定まで…!」
「うぐっ!」
突然の衝撃に、研一が目が覚めた。
「お、おい! 大丈夫か!」
「優亮さん…ここは……」
駆けつけた優亮に場所を問いかけながら、研一は辺りを見渡した。
どうやら洞窟の中の様だ。
広く空いた空間で、壁には等間隔に松明がぶら下がっており、周りには沢山のタルや麻袋が置いてある。
「そうだ…。あの後、コマンドラモンに何かを撃たれてそれで……」
「気が付いたか」
研一が記憶を辿っていると、洞窟の奥の方から声が聞こえた。
振り返ると、松明の光が届かない闇の奥から、葉巻を吸いながら一人のデジモンが現れる。
そのデジモンは黒い獣の毛皮のマスクを被り、灰色のロングコートとネイビーのスーツといった、まるで映画に出てくる様なマフィアを彷彿とさせる恰好をしていた。
研一はこのデジモンをよく知っている。
何故なら、自身の創作予定のキャラなのだから。
「アスタモン……カルボネ…!」
「フッ…本当に俺の名を知っている訳か。Interessante!」
「インテ……なんて?」
「イタリア語で『興味深い・面白い』って意味です」
「イタリア? 何で?」
「いや…それはその…」
「何の話をしている?」
優亮と研一の会話に、カルボネは少し不機嫌そうにそう言った。
そのカルボネの発言に、研一はもちろん優亮も気を引き締める。
今目の前にいるのは、未だネット上の何処にも載ってはいないとはいえ、一つの物語のラスボス…若しくはそれに近い存在だ。
「……まぁいい。貴様らには訊きたい事がある。どうして俺の名を知っている?俺の記憶の中に、貴様らの様なガキはいない筈だが…」
「………」
研一は考えた。
一体、何を言えば正解だ?
カルボネの設定はまだ完全には決まってはいないとはいえ、彼に下手な嘘は通じない。
彼の実力が高いのは言わずもがなだが、最も驚異的なのは彼の慎重で完璧主義な性格だ。
彼が作戦を実行に移すまで、ほとんど誰にも気付かれない。
そんな完璧な設定故に、研一は中々執筆が出来なかった。
主人公をどう行動させても、敵は確実にその上を行ってしまうのだから……。
《H to M(仮)》
作者:ジョージ1号
ヴォーボモンとなった人間の主人公・弥生伴(やよい ばん)は、その屈強な精神力でデジタルワールドで楽しく暮らしていた。
だがその時、謎の組織がデジタルワールドを襲撃。多くのデジモンはデジタルワールドを追われ人間界に現れる。
伴も人間界に逃げ、過去の親友と再会を果たす——
「俺達は、別の世界からやって来た人間だ。で、こいつがお前の事を知ってるのは、こいつがお前の作者だから。お前は本当は、創作上のキャラクターなんだよ」
何を言えばいいか研一が悩む中、優亮は荒唐無稽な真実を一言一句正しく言い放った。
それが真実だと分かっている研一でさえも信じられないその話に、場は一瞬で静まりかえる。
「………人間…?創作上の……キャラ…?」
カルボネは眉を顰め、優亮の放った単語を反芻する。
そしてしばらく考え込むと、彼の体は小刻みに震え始めた。
「クククッ……アハハハハハ!!!! Interessante!」
「……? …あッ!」
突然笑い始めたカルボネを見て、研一は混乱したが、すぐに何かを思い出したのか声を出す。
「なんだよ? 信じられねぇってか?まぁ俺も信じられねぇけど、だったら何で俺達なんかがお前の名前知ってると思うんだよ!」
自信満々に言う優亮に、カルボネは未だに笑いながら「クククッ…確かに…一理あるな」と納得する。
そして突然…
「うッ!」
「優亮さん!?」
優亮の腹部に、カルボネの蹴りが炸裂した。
研一は急いで優亮に駆け寄ろうとするが、カルボネが空かさず、研一の溶岩の翼を掴む。
「なぁ…あいつの話が本当だとしたら、お前は差し詰め…神様といったところか?」
「……カルボネ…!あんた…!」
研一が振り返ると、カルボネは彼の目のギリギリのところでナイフを突き出した。
カルボネの顔は、笑っていた。
「神様を殺したら……そいつは一体どうなるんだ?」
「やっぱり……あんたには…あの設定が…!」
「足掻いても無駄だ。まだ薬の効果は切れていないだろう?」
カルボネの言葉に、さっきからある倦怠感の正体が分かった。
察しはしていたが、やはり気を失う前にコマンドラモンに撃たれた弾薬に、力を低下させる効果がある様だ。
だがそれより…
(間違いなく、カルボネにはあの設定が生きている…!なら、チャンスさえあれば…でも、どうやって…!)
「おぉら!!!」
研一が頭を必死に回していると、優亮が近くにあったパンパンに詰まった麻袋をカルボネの顔にぶん投げた。
ダメージは期待できないが、その一瞬の衝撃にカルボネは思わず研一を離してしまう。
研一はその一瞬を見逃さず、優亮の方へ駆け寄る。
「ありがとう優亮さん!」
「なぁに。だがどうする? 体に力入んねぇし…あれ投げるだけで精一杯だぞ?」
研一はカルボネの先にある通路を見る。
この部屋の脱出口は、あの通路だけだ。
だからここを出る為には、まずカルボネを攻略する必要がある。
しかし、技もマトモに出せない状況で自分達は成長期のデジモン。
相手は完全体で、しかも究極体をも凌駕する力を持つとも言われる強敵だ。
「……そうだ。粉塵爆発!」
「え?」
「よく聞くだろ! 大量の小麦粉とかを周りにバーッて撒いて爆発する奴!これ、何か粉みたいなの入ってそうだし、お前の火花もあるし…」
「危険過ぎます! 第一、お話の中なら兎も角、これは現実なんですよ!専門家でもない僕達が、そんな現象を自分の都合の良い様に再現出来る訳が…」
「でも! それしかねぇだろ!!!理屈捏ねてやらねぇよりも、多少無理でもやった方が断然マシだ!!!!」
「なッ…!」
優亮のあまりにも無茶な言葉に、研一は絶句した。
だが、しばらくして何かを決意した様に、彼はハッキリと頷く。
「……さてさて、相談は終わったのかな?」
律儀にも二人の会話を待っていたカルボネを、研一と優亮は鋭い目で見つめた。
「あぁ!」
「まぁね!」
そう言うと、優亮は近くの麻袋を取り出してその爪で切り口を入れる。
そしてそれがカルボネに投げられた時、研一は自身の溶岩の翼を力強く横に降った。
溶岩の翼から漏れた火花が、麻袋の切り口から漏れた粉に当たる。
そして——
一つの洞窟が、大爆発を起こした。
周りで採石の様な作業をしていたデジモン達は手を止め、幾つか建てられたテントから数十人のデジモンが爆発した洞窟の前に集まる。
そのデジモン達は、採石作業をしていると思われるデジモンとは場違いな迷彩模様で、全員銃を構えていた。
迷彩模様のデジモン・コマンドラモン達が洞窟に銃を構えて数分待ったその時…。
「グレイトフレイム!!!!」
洞窟の奥から巨大な火の玉が飛んできた。
その火の玉に、コマンドラモン達は簡単に吹き飛んでしまう。
そしてその直後に、巨大な黒い影が洞窟から飛び出した。
その影は、黒い溶岩の体を持ち、その巨体を翼の様な前足で支えるトカゲの様なデジモンだった。
「へへ…やったな…!研一!」
そのトカゲのデジモンの背に乗る優亮は、機械仕掛けの羽根ペンを持って自身が乗るデジモン・研一に話しかけた。
「うん…!優亮さんのおかげです!」
時は10分前に遡る——
……パスッ…
中身が溢れた麻袋は、そう情けない音を出しながら地面に落ちた。
周囲には舞うのは粉状の物体ではなく、沢山のコーヒー豆に似た物体だった。
「……へ?」
優亮の素っ頓狂な声の後に、カルボネは大袈裟な溜め息を吐く。
「まさか…それで終わりか?全く…何か面白いものが見られるのかと期待していたのだが……」
カルボネはそう言って葉巻を取り出し、火をつけようとした。
その時、カルボネの視線は自然と下に向かっていた。
カルボネと研一の、目が合った。
「そうでもないよ?」
研一は自分の手を思いっきり振り、さっきと同様に火花を散らした。
しかしそれは、麻袋の中身ではなくカルボネの目を狙って。
「ぐッ!?」
「今だ!!!」
「へっ? お、おう!」
目を抑えるカルボネを通り抜け、研一と優亮は洞窟の奥へと走っていった。
二人の姿が見えなくなってきた頃に、カルボネは一人小さく笑う。
カルボネの脳裏に過るのは、研一のあの言葉。
『やっぱり……あんたには…あの設定が…!』
「クククッ…俺のこの悪い癖は、お前が設定したものなんだな?ケンイチ…」
カルボネは抑えていた手を離す。
その目には、火傷の痕など一つもなかった。
「Interessante! なら俺も、壮大に遊んでやろう…!」
カルボネが不気味な笑みを浮かべる中、研一と優亮の二人は出口を求めて走り続けていた。
「研一…お前俺が失敗するの分かってたのか?」
「まさか! 中身が豆だと知って、咄嗟にもう一つの案に行ったんですよ。失敗する可能性も一応踏まえておいたんです」
「ひぇ〜…俺完全に粉塵爆発頼りだったのに…。何だか恥ずかしい…」
「………そんな事……無いです!」
先頭を走りながら、研一は優亮の方に振り向いた。
「確かにアレは博打です。でも、僕の策も博打だった。僕一人じゃ…あんな危ない作戦はきっとやれない。でも!優亮さんの『とりあえずやってみる』っていう豪快なところに、僕…憧れたんです!
だから…僕もとりあえずやってみる事にした。
理屈捏ねてやらないよりも、多少無理でもやる方がマシですから!!!!」
「研一……お前…」
その時、突然洞窟が大きく揺れ始めた。
「な、なんだ!?」
優亮が困惑していると、突然周りから無数の銃弾が飛んでくる。
「カルボネ…!この洞窟ごと僕らを潰す気だ!!!」
「はぁ!? いきなりアグレッシブ過ぎるだろ!!!!もっとこう…スマートにやれねぇのかあいつ!!!!」
「いや、元々はそういう設定でした…。でも…!」
研一は銃弾が飛んでくる方向を見つめる。
恐らくあそこで、カルボネは手当たり次第に引き金を引き続けているに違いない。
そう、元々のカルボネの設定は「慎重な完璧主義者」。
だが、その設定を重視し過ぎると、カルボネに隙が生まれなくなってしまった。
だから研一は、自身がデジモンになった日の前日に「自身が面白いと思ったモノには強い好奇心を示す」という設定を入れてみた。
どんなに自身の作戦の障害になろうと、カルボネが「面白い」と判断したものは、敢えて泳がしたり敢えて雑な方法で挑んできたり……つまりチャンスを意図的に与えてやるのだ。
そのチャンスをこの玩具はどう攻略するのか。
彼はそれを観察する事にも生き甲斐を感じる。
普段は慎重で完璧に物事をこなすが、同時に遊びも全力で楽しむ。
それが研一が考えていたカルボネの弱点であり、カルボネの個性。
快楽志向の完璧主義者。
しかしこの弱点、考えてみたのは良いものの、その後すぐに眠ってしまい、その次の日には自分はデジモンになってデジタルワールドに来ていた。
つまり、この「弱点」がどうカルボネに作用するのか。
研一自身はそこまで検証していないのだ。
(分からない…!構想中のキャラだったから…まだ動かしていないキャラだから…!行動が全く読めない…!)
「早く逃げましょう! あいつにとって遊びでも、僕らにとっては…」
研一が早めの脱出を提案すると同時に、丁度彼の真上の天井が抉れた。
天井の一部は巨大な落石となり、重力に従って研一に迫る。
「! 研一ィ!!!!」
優亮にそれに気付き、落石に向かって跳んだ。
自分に何が出来るのか分からなかった。
コマンドラモンに撃たれた薬品の効果は薄れ、力は出る様にはなったが、それでも自分はデジモン成り立て。そして戦いはもちろん、殴り合いすらもした事が無い。
だが、優亮は自他共に認めるケモナーだ。
もしデジモンに…自分の推しであるベアモンになったら……
そんな妄想、日常茶飯事だ。
だからこそ、その妄想が活きるはずだ。
(こんな俺に憧れてくれたんだ…!だったらそれらしく! カッコいいところ、見せなきゃいけねェだろうがァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
いつの間にか、優亮は自分の心の声を口に出していた。
そして、そのまま拳に力を込めて落石に向ける。
「小熊正拳突きィ!!!!」
優亮の技が、落石に命中する。
落石はピシピシとヒビ割れを起こし、遂には粉々に砕け散る。
「ケモナー……舐めんなよ…」
優亮の一撃で命拾いした研一だが、すぐに周りを見渡した。
洞窟全体にヒビが広がっているのだ。
「マズい…!このままだと…!」
「だったら!」
そう言って優亮が取り出したのは、あの機械仕掛けの羽根ペン。
「えっ!? そ、それ何処で!?」
「さぁ? 知らん!」
実際、優亮の言葉は本当だった。
優亮が「小熊正拳突き」を放った後、気が付くとこの羽根ペンを握っていたのだ。
だが、今はそんな事はどうでもいい。
「理屈捏ねてやらねぇより、多少無理でもやった方が断然マシだ!だろ? 研一!!!!」
「……は、はいッ!!!」
優亮は羽根ペンと共に現れた半透明の本に、筆を走らせる。
【ヴォーボモンの体内に無数のデータの粒子が入り込む。
湧き上がる力に、ヴォーボモンは体を震わせ徐々に巨大化していった。
「ヴォーボモン進化ァァァ!!!」
体内に宿る強大な力を解き放つかの様に、咆哮の如くヴォーボモンは叫ぶ。
そしてヴォーボモンは強烈な光を爆発させる。
光は徐々に粒となり再構築され、ヴォーボモンの新しい体を作り上げる。
溶岩の体はそのままに、巨大化した体を支える為に翼であった前足で地面に立つ。
進化を完了したそのデジモンは、力強く現在の自分自身の種族を宣言する!】
「ラヴォーボモンッ!!!!」
ラヴォーボモンへと進化した研一は、優亮と共に洞窟を脱出出来たのは良いものの、すぐにコマンドラモン達に囲まれていた。
だが、研一の背中に乗る優亮はそれでも余裕の表情は崩さない。
「初進化は勝利フラグなんだよコマンドラモン君!!!!」
【ラヴォーボモンは両前足を高く挙げ、地面を力一杯叩きつける】
「うおおおおおおおおお!!!!」
轟音と共に、コマンドラモン達に砂塵が襲いかかる。
その隙に優亮はペンを走らせ、研一はそのペンの効果で高速に移動した。
今二人がいる場所は高い岸壁に囲まれているが、研一はそんな壁も鋭利な爪を食い込ませて軽々と登っていく。
そして研一達が登り終える少し前に、崩れた洞窟から服を整えながらカルボネが現れた。
それに気付いた二人のコマンドラモンは、急いで自身の主人の近くへ駆け寄る。
「カ、カルボネ様! ご無事だったんですね!」
「まぁな…」
カルボネは葉巻を吸い、岸壁を登り終えて森の中へ進む研一達を見つめる。
「……あいつらを捕らえてきたのは、お前達だったな」
「……!ハ、ハイ…」
「面白い奴等を連れてきたな。褒美だ」
そう言ってカルボネは、懐から四つのアンプルをそれぞれ二つずつ二人のコマンドラモンに投げ渡す。
「それを使えば…また奴等を捕まえられるかもな」
「………あ、ありがとうございます!」
「直ちに!」
二人のコマンドラモンは、すぐにそのアンプルの蓋を折って破り、中の気体を鼻で吸う。
すると二人の体に血管が浮かび上がり、目も真っ赤に充血し、異常な素早さでその場から姿を消した。
「……ふむ。一回ではその程度の効力か…」
カルボネは一人、そう呟いた。
優亮を背中に乗せたまま、ラヴォーボモンの研一は走った。
出来る限り遠くへ、カルボネのところから離れる必要がある。
その為に、彼は走るのをやめなかった。
しかし、彼の目の前に一つの手榴弾が現れる。
「くッ!」
研一は走るのをやめ、巨大な前足で自身の顔と優亮を覆った。
手榴弾の爆弾は大したものではなく、それでなんとか防げたが、思わず研一は足を止めてしまった。
研一が正面を見ると、そこには二人のコマンドラモンが立ちはだかっていた。
「ハァ…ハァ…我らがボスの為に…!」
「貴様らには、死んでもらう!」
そう言って二人のコマンドラモンは再びアンプルを折って、その中身を吸う。
「うっ…がはッ!」
すると、一人のコマンドラモンが血を吐いて倒れた。
しかし、もう一人は体を震わせ、白目ながらも未だ立っている。
「うぐぐぐ…ガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
あまりの苦しみに、コマンドラモンは天に向かって吠えた。
するとコマンドラモンの体が溶け始め、腐臭を放ちながらその場で崩れた。
そしてしばらくして、その溶けた体が起き上がる。
目の周りには金属板が張り付いており、所々にチューブの様な機械的なものと肋骨といった生物的なものがはみ出していた。
「レアモンに……進化した!」
「というより…レアモンになっちゃったって感じか?」
「ウオオオオオオオオオオオ!!!!」
研一と優亮が驚いていると、レアモンが研一に向かって突進をした。
そのタックルにより研一は吹っ飛び、彼の背中に乗っていた優亮も地面に倒れる。
「いってぇ! 畜生やりやがったな!」
「優亮さん! まだ僕はこの姿に慣れてない!だから!」
「分かってるよ! 俺の文才、見せてやるぜ!」
「ウワオォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
レアモンは口からヘドロを吐き出す。
それに対し研一は、優亮の執筆に合わせて上空に跳んだ。
「わりぃな! あんま時間かけてやれねぇんだ!」
優亮はそう言い、執筆のスピードを上げる。
【ラヴォーボモンは、その重量級の体で地面を思いっきり叩いた。
ラヴォーボモンの体重+重力
極単純な自然法則に乗っ取った力だが、現在進行形で崩壊を続けているレアモンの体には、衝撃を与えるには十分過ぎるものだった】
「グッ…グオォォゥ…」
「今だ!」
優亮は近くの木に寄り添って、揺れる地震からバランスを取りながら、また筆を進める。
それと同時に、研一は喉元に力を蓄えた。
優亮はそれを見てニヤリと笑う。
「言ったろ? 初進化は勝利フラグだ」
「グレイトフレイム!」
研一の放った渾身の火の玉が、隙だらけのレアモンに炸裂。
「グオォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」
レアモンの叫びは森中を震わせ、その声の残響を自身の耳で聞きながら、レアモンは粒子となって消滅した。
体に溜まっていたエネルギーが、一気に外に出ていくのを感じる。
研一はラヴォーボモンからヴォーボモンへと姿を戻す。
「やりましたね優亮さん! あとは…」
研一が優亮の方へ振り向く。
しかし、優亮は研一を笑顔で出迎えてはくれなかった。
優亮は、特殊武装をした竜人のデジモン・シールズドラモンに拘束されていた。
「! ゆ…」
研一が、思わず飛び出そうとすると、後ろから何者かに踏みつけられた。
その相手は、あのカルボネだ。
「よう神様。どうだったかな? 俺達の発明は」
「発明…?」
カルボネが何を言っているのか、最初は分からなかったが、研一はまさかと思い一人のコマンドラモンが倒れていた場所を見る。
そこには、さっきまでいたはずのコマンドラモンの姿は何処にもなかった。
「まさか…あのシールズドラモン…!」
「あぁ、まさか一人は成功するとは思わなかった。嬉しい誤算だよ」
そう、あの倒れていたコマンドラモンは、あの後アンプルの効果によってシールズドラモンへと進化していたのだ。
それも、レアモンの時とは違って自我を保った状態で。
「さぁ神様、君の力は見せてもらった。次は俺の相手をしてくれるかな?」
カルボネは笑みを浮かべ、研一に問う。
こんな質問、もちろんノーと言いたいところだが…。
「もちろん、断る訳が無いよなぁ? お友達の命を握られている中で」
一方、直と晶は…
「優亮さんと研一さん、何処に行ったんでしょう」
「う〜ん…そこまで遠くへは行っていない筈ですが…」
二人は行方不明になった仲間を探し続けていた。
だが、この広大な森で二人の成長期デジモンを探すなど、ハッキリと言って無謀だ。
そんな事、直も晶も分かってはいるのだが、だからと言って彼等を見捨てる事ができるほど冷酷ではない。
「何か音や煙を上げて、場所を伝えるというのは?」
「それが一番ですね。ただ、ウッドモンみたいなのが来ないか心配ですが…」
晶の提案に、直がデメリットを考慮しながらも賛成しようとした時、ある方角から轟音が聞こえた。
その轟音は、優亮と研一が洞窟から脱出した時に上がった音だった。
直と晶がそんな事を知る由も無いのだが、結果的に正解とも言える判断で、二人はその轟音の方へと走った。
だが彼等の前に、ある一人の赤い小竜が立ち塞がる。
「そう慌てんなよ。ビクト様」
頭に羽の様な飾りを付けたその赤い小竜は、直をアカウント名で呼びニヤリと笑う。
「ギルモンX抗体…!? まさか…!」
直はその種族に見覚えがあった。
それは、隣にいる晶も同様だった。
デジモンファンとして知っている訳ではない。
晶は、直の作品を全て読んだ事があるから知っていたのだ。
直とギルモンX抗体が、「作者」と「キャラ」の関係である事を…。
あとがきですのよー!
ってなわけで、すぐ投稿するとか言って、1週間かかりました。
まぁ数年放置とかあるから、それと比べたら光の速さの更新なのでヨシ!!!!!!!
実はここに1章投稿した時点で2章はほぼ出来上がってたんですが、最初の案だとカルボネが研一達を逃がして終わりだったんです。
ただ、後々の展開とか考えたら、「カルボネがここで逃がすのも変だな」「予想外の助っ人参戦!とかも使いたくないな」って訳で急遽この展開になりました。
これからどうなるかって?俺も知らねぇ。
ということで第2章でした。
一週間でも十分早い! 夏P(ナッピー)です。
サロンでは雑兵としてコマンドラモン出てくる作品を最近よく見る気がする……それはともかく、またも続けて新しい作品の設定が飛び込んできましたね。コマンドラモン軍団従えながら頭目はアスタモンとは。そしてデジモン化する直前に考えた設定まで反映されているのは一体……羽根ペンは気付いたら出現している感じでしたが、それも含めて止めてる作品さっさと書けと言われているかのようだ。初進化は勝利フラグとか言ってるから追い付かれてピンチになるんだああああああああ!
話の途中でチラッと書いていた・考えていた物語のあらすじや抜粋を見せてくれるのが心地良い。完結の暁には確実に四人で「この冒険もまた一つの物語だったんだ!」的な終わり方になるに違いない。ONE PIECEの最終回予想のようですが。
ギルモンX抗体とはキャラと作者の関係!? どういうことだってばよ!?
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。