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フォーラム記事

イクタモン
2023年4月25日
In デジモン創作サロン
 そこにいたのはカブトムシの角を生やし、鳥や天使のごとく翼を伸ばし、たくましい巨躯を誇り、そして悪魔の腕を生やした合成魔獣である。  キメラモン―あらゆる成熟期デジモンの能力を併せ持つとされる合成デジモン。その姿はもとより、ハジメは、さっきまでカブテリモンだったものがこのような怪物になったこと自体に戦慄していた。 ―IO計画、In One計画の第一段階: デジモンの絶対数を減らすこと、それは粛清だけではなく、中絶、合成なども手段とする。 「こいつは・・・何としてでも食い止めなきゃならない!」  他二人は満身創痍、残る二人は人間とデジモンの子供。今自分がやらねばダメだ。 「・・・え?待てよ?!ちょっとムチャじゃないか?!相手は・・・」 「解ってる!でもやらなきゃ!!」 ハジメはキメラモンに向かって突進した。 デジモン・ザ・トゥモロー 「オレ達の父さん」  ハジメは低くかがんでグレイモン特有の鋭利な鼻角をキメラモンに突き刺そうとした。しかし悪魔の腕の怪力に阻まれる。そうするや否や、今度は骨の腕が合成獣から襲いかかってきた。尻尾で叩きのめすが、今度は空中に持ち上げられてしまった。 「ワンワン、かなり疲れてるな・・・。クロスケさんは酷い傷だ・・・。 回復アイテムは・・・あった!」  タイシはザックログから「回復カード」をワンワンとクロスケに与えた。ワンワンは全快のようだが、クロスケはまだ傷が治らない。 「すまん・・・俺がふがいないばかりに・・・だけどあいつを倒さないと・・・」 「もう少し休みましょう、ハジメさんが食い止めてるうちに・・・」 「おいタイシ!父さんを見捨てるってのかよ?!」 「違う!だけどこれじゃ手も足も出ない!」  歯噛みするワンワンとタイシ。「父」ハジメとの出会い、否、再会を喜んだのも束の間、今度はキメラの悪魔が立ちはだかった。幼い獣は、「父」の背をただただ見守るのしかないのか。 「チエさん!リラ!助けてくれ!!」  タイシが助けを呼ぶ。だが無情にもビジー状態だった。 「クソッ!オレ達はここで死ぬのか?!」  折角、仮とはいえパートナーにも会えた、刹那的とはいえデジモンテイマー仲間も出来た、だがそれもここで水泡に帰すのか・・・。 ―母さん、やっぱりデジモンには関わっちゃいけなかったのかな・・・? 父さん、こうなることはわかっていたのかな・・・?  物陰に逃げ、失意にうずくまるタイシ達は、ただ勇猛なグレイモンの戦いを涙目で見守るしかないのか・・・。 「タイシー!!」  それは母親の声だった。  だが、いつもの無気力な、苛立ちのこもったそれではなく、鬼気迫るものがありつつも必死に我が子を想う激しい呼び声だった。 「母さん、父さん、ヒロエ!!それにレッカさんや子供達!!」 「早く逃げなさい!!」レイコはまくしたてる。 「でも・・・あいつを放っておけない・・・」 「父さんがDIGITに連絡した!お前はその子を連れて逃げろ!」サトルは既に安全確保の準備が出来ている。  だが、タイシは逃げなかった。逃げたくなかった。茫然自失の表情で、戦いの場に踵を反そうとしたその時、 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」 「かあ・・・さん・・・?」  カネ目当てで十和田悟と結婚した一ノ瀬怜子。子を産んだのも若気の至り、子育ても大抵世間体を気にしてのことで、子供の事など大抵放任だった。だが、かのティラノモンと出会い、「母親」としての思いが一気にあふれ出した。 「タイシくん、おかあさんのことわってやりな」母ティラノモンが諭す。 「・・・だけど、いいえ、だからこそ、放っておけないんですよ!今まで自分勝手やって来たのもボクも同じ!ここで守れないでどうするんですか?!」 一方その頃、合成獣の空中での爪撃に苦しむハジメ。それが終わったかと思うと今度は地面に叩きつけられ、何度も踏みつけられた。隙を見て大きな火炎弾を吐き、ようやく顔面にダメージを与えられた。今度は魔獣が口から炎を吐き出そうとすると、重たい尻尾で口元をなぎ払った。大きくひるみ、怒り狂うキメラモン。 ―ドスッ!ドスッ!  悪魔の爪が猛スピードでハジメに突き刺さり、乱暴に突き刺す。ハジメが腕で爪を抜こうとすると余計に魔獣の力が入る。 ―どうしよう・・・このままだと、ハジメさんも・・・  タイシにその悪戦が目に留まった。助けに行くべきか。 「あの恐竜デジモン、この子のお父さんなんだ」 「タイシ?どういうことだ?」 「親子は・・・助け合いでしょ?」  ひきつるサトルを前に、タイシはワンワンと共にハジメの所に向かった。 「お、おお・・・」 「とうちゃん、だいじょぶ?」 「お前らを守るためなら・・・いくらでも・・・」  クロスケはカゲゾウを前に、ようやく立ち上がり、彼もまた、同じ方向に向かった。 ―何だ?この感覚?!今までのとは違う、もっと、湧き上がるようなものが・・・? でも、何だか穏やかなような、みなぎるような・・・ ―AQUIRED・・・EVOLUTION! 「ダウモン進化ァァァッ!ダットモン!!」  それは、太古の昔にいた恐竜程の巨体、すらりと伸びた腕と脚には力強い爪が備わっていて、刺々しい毛並みの尻尾、そして精悍にして獰猛な形相のモンスターだった。 「うおおおおおおおおッ!!」  キメラモンの胴体に大きく爪を振りかぶるダットモン。キメラモンが反撃に爪を伸ばすが軽々とかわし、連続で顔面をひっかく。  荒れ狂う魔獣。だがその時― 「何だ・・・これは・・・?」 「力が・・・戻ってくる・・・?」 「あれ?オレ、どうなっちゃうの・・・?」 ―EVOLUTION!  グレイモン、ダークティラノモン、そして黒いアグモンの身体が光り始めた。 「グレイモン超進化!メタルグレイモン!!」 「ダークティラノモン超進化!メタルティラノモン!!」 「アグモンしんかー!シェルモン!!」 ―え?どうなってんの?オレが進化したら、みんなまで・・・?  メタルグレイモンになった父は、息子のいぶかる顔を目に、 「ワンワン、さっさとアイツを片付けるぞ!」 「・・・あ。はい・・・!」 成熟期と完全体のペアで合成獣に挑む。 「ギガデストロイヤー!!」  ハジメの胸とクロスケの右腕から有機体系ミサイルが魔物の周りを翻弄するかのように飛ぶ。続くワンワンは大きな爪で腹を切り裂く。怒ったキメラモンは火炎を放とうとするが、カゲゾウの水圧が右目を直撃し、少しうずくまった。 「今だ!トライデントアーム!」 「エクスクラッシャー!!」 「ヌークリアレーザー!」  三体の攻撃が交わる。 激しい熱を帯びた三叉矛が、魔獣の身体を貫いた。 内に秘めたエネルギーとの反発で、キメラモンは爆散した。 「とうちゃ~ん!!」 「あんた・・・心配したよ~」 「すまなかったな・・・お前達を守りたかったんだ。 ありがとう」 「いやいやそれほどでも~」クロスケの礼に照れるワンワン。 「ところで、なぜお前のデジモンは退化を?」 「それは・・・考えたこともないです」  確かにタイシには疑問があった。  何故なら普通、デジモンの進化はほぼ成長と同義であり、一度進化したら元には戻らないはずなのである。だがワンワンは何度も進退化を繰り返し、今回は未知の種に進化し、また元の姿に戻った。 「ありがとう、父さん。・・・ってあれ?父さん?」  ワンワンの問いかけにハジメはうかない顔である。 「ああ、いや、何でもないんだ、ワンワン」 「あ・・・でも『ワンワン』じゃめんどくさいから『ワン』でいいよ―」 「―いや、お前は『ワンワン』がいい」 「・・・へ?」  急に激高した父を前に、ワンワンはたじろいだ。 ―デジモンは唯一の存在じゃないんだ、あって欲しくないんだ。 「え~~~~?!ここの保護区使えないんですかぁ?」 「はい、只今、先の事件で大きな損害がありまして・・・・」 ―あ”~~~やっぱり・・・  いつもの「母」が戻ってきた。ひきつりながらレイコを見るタイシ。やはり保健所行きなのだろうか。  すると、父が彼の肩を叩いた。 「タイシ、母さん、ヒロエ、そしてワンワン、話しておきたいことがある」  サトルは係員に安全な場所を尋ねると、そこに案内するように言った。 「実は父さん、“DIGIT”の一員なんだ」 「え?なんでそんなこと、今まで黙ってたの?」 「これは簡単に言えることではなかったが、デジモン事件が激化して・・・近いうちに話そうと思ったが、まさかこうなるとは思わなかったから」  茫然とする妻を前に、冷静な口調で語る夫。 「そして秘密裏に、タイシ、お前のウィノウスについても追っていた」 「ワンワンのこと、知ってたの?」 「ああ、だからこそ今ここでしか話せない」 「そっか、だからデジモン飼っちゃダメだったの?」 「それもあるな、ヒロエ」  父は子供達に申し訳なさそうに説明した。 「という訳でだ、ワンワンは・・・」 「オレが育てる!」 「ええ~~~~?」 「・・・だな」  母は相変わらずだったが、父は先の息子の姿をしっかりとらえていた。 「っつうわけで、よろしく~!」  ワンワンは上機嫌だった。  複雑そうな表情の母、すっきりとした感じの妹、  父子(おやこ)二人きりの中、やり取りは続いた。父はザックログを指差した。 (お前のザックログにDIGITへの案内を送った。彼を育てるなら・・・わかってるよな?)  その日の夕刻、タイシは都内のとある高層ビルの地下に辿り着いた。  指示通りにコードを解除すると、そこには巨大な秘密基地があった。  ディスプレイに集中する大勢の人々、トレーニングバトルや警備、更には雑用をするデジモン達、そこはまさにデジモン専門家達の秘密基地であった。 「ようこそ、Digimon International Guard and Intelligence Team―DIGIT日本支部へ」  そこには父、サトルがいた。 「ここがDIGITの日本支部か・・・って、DIGITって公的組織じゃないの?」 「確かに公的組織ではあるけど、こうやって、秘密裏に行動する場を設けないと、敵に筒抜けだからね」 「敵?脅威とかそういうのとか?」 「まあ、そうだな。特に今一番問題となっているのが―」 ―ウィノウスと、それを利用しようとする連中。 ―やっぱりそうなるのね・・・。 「ただいま~」 「おかえり、タイシ」 「母さん、色々ごめんなさい、でも―」 「ワンワンは飼っていいよ」 「え?」 母の変わりように、タイシは戸惑った。 「ただし、危ないことはやめてね、命ばっかりは・・・」 「わかるよ、母さん」 「やったァァァ~!!」ワンワンが二人の間で実体化した。 「オレ、レイねえちゃんのお手伝い何でもするからさ、勉強も頑張るからさ、なあいいだろ?」 「はいはい・・・でもあんまり・・・」 「大丈夫だって、オレとタイシならどんなピンチでも乗り越えるって!」 「・・・まったく、男の子ってのは・・・」  呆れながらも少し優しい目で見守るレイコ。 ―そういえば、あの人も、かなり冒険的な人だっけ、 本当に、父親ってのは・・・そういうものなのかな。  その頃、かのデジモン保護区では・・・ 「とうちゃん、やっぱりつよいよね~」 「お前達を守るためなら、誰にも負けないさ」 「だけど、無茶はするんじゃないよ、身体が無くなっちゃ元も子もない」  恐竜家族の談笑が響いていた。  そして、ハジメ。彼は再び時空のはざまで任務に就いていた。 ―ワンワン、お前はその名前がいい。デジモンにはあらゆる可能性があり、その芽を育んでいく。我々はその多様な命を大切にしていきたい・・・ ―生き延びるために。   「よーしパートナーデジモン登録完了!!」 「よろしくな、タイシ!!」 「ああ、こちらこそ、あらためて、ワンワン、よろしくな!!」  寝室で笑顔でじゃれ合う二人。 「ところでお父さん、ハジメさんはあれでいいのかい?」 「ああ、父さんはまた任務に出るって」  タイシの顔が少し神妙になった。 「どうしてだろうね?もしやお前と関係が・・・」 「DIGITと似たようなもんだろ」 「ああ・・・なかなか言えないのか」  タイシが腰を上げると、いつか見たずた袋の仮面を被った。 「タイシ?!なんだその格好?!」 「ああ、ユーフィルマーって知ってる?動画サイトの・・・って出会ったばかりだよなあ?」 「知らなくてとーぜんだ」 「今からオレが動画アップするからお前も協力してくれよ」 「え??オレの姿がネットに出たら、追手が来るんじゃ―」 「大丈夫、お前は声だけ出演で」 「はい?!」  タイシはパートナーを正式に得た喜びで、ノリノリで動画制作にいそしんだ。 「あれ?母さん、まだテレビ見てるの?」 「うん、今日は面白いのないか・・・」 「ネットの方がいっぱいあるのに?」 「昔っからのクセでね」 ヒロエとレイコは、何気ない母娘のやり取りをしていた。  今は、十和田家の自宅には、父は居ない。  そんな中で、ひそかに闘っているのだ。 『ボクが、どんなにおおきくなっても、  オイラが、どんなにつよくなっても、  オレが、どんなにこわくなっても・・・ ―大丈夫、 言っただろ、オレ達は、ずっと一緒だ。 【デジモンは責任をもって、最後まで育てましょう】』  新公共広告の、最近のCMであった。 ABSのデジモン大研究! 「今日のデジモンはこのデジモンだ! ・ティラノモン  古代の恐竜の姿をした、大人しく扱いやすいデジモンだ! そして― ・グレイモン  大きな角が特徴的で、頼もしいぞ! 次回も、お楽しみに!!」  デジモンが漫才を?!  っておや?丁度適材適所なデジモンがここに!!!  だが最近、彼の様子が変だとそのテイマーからの依頼が来た。  タイシ、初任務成功なるか? 次回、デジモン・ザ・トゥモロー 「狙われた三位一体」 明日をつくるのは、キミだ。
デジモン・ザ・トゥモロー 第5話 content media
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イクタモン
2023年4月25日
In デジモン創作サロン
 そこは、熱帯地域の密林を思わせる緑豊かな公園だ。所々スピーカーやライトなどの人工物が混じっているが。 今は、そこにて人も人ならざるデジモンも寝静まっているはずの真夜中。だが、突如鳴り響いた鈍く大きな足音と獲物を狙う猛獣のうめき声、そしてその異常事態に伴う警報によって静寂は破られた。作業服を着た男性たちと複数の赤い大きなクワガタムシ―クワガーモンが、声のする方向に駆けていった。見た方向には、黒い肉食恐竜が辺りを見回しながら低くうなりつつ、また少し歩み始めた姿があった。 「くそっ、今日で何回目だよ?!」男性の一人が毒づく。「クロスケ、いい加減にしろ!そこには誰もいないぞ!!」クワガーモンをけしかけて持ち場に戻そうとする。 「うるさい、俺にはわかるんだ・・・怪しい、ヤツの気配が」クワガーモンが2体掛かりでダークティラノモンを抑えても力負けしてしまい、吹き飛ばされてしまった。 「いくら何でもお前最近おかしいぞ?!」 「だまれ、これは、俺の大事な家族のためだ・・・」辺りを見渡すダークティラノモン。ややあって元の道に帰ろうと踵(きびす)を反した。  それでもやはり、暴君竜は気が気でなかった。 デジモン・ザ・トゥモロー 「デジモン保護区へようこそ」  タイシは母から大目玉を喰らった。  その日、1度ならず2度までもデジモン絡みのトラブルに遭い、着信履歴を調べたら父・悟との密約が発覚、おまけに他人も巻き込んでしまった、というので母・玲子はタイシのデジモンを保健所送りにして処分してもらいたい、と言ってのけてしまった。しかもタイシの分の夕食は抜き、スマホも財布もザックログも没収されてしまった。  もはやタイシには何も考える力も湧かず、自室で惰眠(だみん)に就こうとしていた。彼の心も頭もズタボロだった。  その時、久しぶりに生で聞いた声がした。「ただいま~」 ―父さん!!  タイシは跳び起きた。𠮟責直後の虚脱感がウソのように。 「ひどいな母さん・・・いくら何でもタイシにあそこまでするわけないじゃないの」 「考えてよ、デジモンに関わったらどうなるか分かんないし・・・」 「そういうあんただって金目当てで俺と結婚したって聞いたけど?『デジモン企業で働く俺』と」  ぐうの音も出なかった玲子。 「またケンカぁ?」タイシの自室で妹・ヒロエが兄に問う。 「全くどうしてこんな夫婦の間に産まれちゃったんだろ・・・まあオレはデジモンを知られただけいいけどさ」 「あたしもデジモンほしいよ~」 「だな」  その後しばらく夫婦の口喧嘩は続いた。そんな中、 「たださ、デジモンと暮らすにはしっかり責任を持って扱えよ。何せデジタル『モンスター』だからな」 「オッケ」  夫婦喧嘩のあと、両親はタイシの部屋に来た。ワンワンのこれからの去就(きょしゅう)を考えることになり、予定通りに日曜日にC番街のデジモン保護区に体験居住させることとなった。タイシは少し申し訳なさそうに、 「ごめんなさい、結局バレちゃって」 「気にするな、生き物を簡単に捨てるなんて道の外れたことが出来ないのは自然なことだ」 「あたしも行ける?」 「勿論さ」  歓喜するヒロエを悟は優しく見守っていた。ため息をつく玲子。  日曜日の朝。 「家の手伝いをしてくれたのはありがたいけど、今日でもうお別れだからね」 「ひでーなレイねーちゃん、そんなキレイな顔なのに台無しじゃんかよ」 「うるさい・・・」玲子はワンワンをどうしても追い出したかった。   都営バスに乗ると、道中高層ビルが並び立ち、間に新緑の街路樹が生えたり小さな電機店やアニメグッズ店があったりする風景が見えた。道行く人は大抵等身大のデジモン共に行動したり、そうでなくともザックログを携えたりしていた。ここはC番街、千代田区にできた新たな都市だ。そしてその一角に、「DIGIT公認 デジモン保護区 C番街支部」のドームがある。 入場手続きを終え、十和田一家は保護区内に入っていった。  そこは、見渡す限りの緑豊かな大草原と密林が広がっていた。とてもドーム内の環境とは思えない程、広く大きな空間である。そこには、恐竜、爬虫類、昆虫、哺乳類、鳥類、植物など、様々なデジモンが共存と対立をしながら暮らしている。  ここは、最新技術を駆使して局所に空間を拡張した、模擬デジタルワールドである。 「すっごい・・・こんなたくさんのデジモン!」ヒロエは興奮した。 「そう、ここは都内有数の大規模デジモン保護区だからね」悟はにこやかだ。 「・・・で、もう用はさっさと片付けてよね、タイシ、早く」 「はいはい・・・(つめたいなぁ・・・)」  玲子に促されてタイシはワンワンを実体化させる。ワンワンは背伸びした。すると横から、 「いらっしゃいませ~トロピカミートはいかがですか~?」 「今なら1個半額の75ビットですぞ~」 緑のパラサウロロフスと切り株のお化けがバナナ色の骨付き肉を販売している。 「おお~トロピカミート!!肉の質感と甘酸っぱい汁がゼツミョーなんだよな~」 「ダメです」 「何でぇ~?イジワル~」 「もうこれ以上お金は払えません」  ワンワンは玲子に突っぱねられてしょげる。 「まあ母さん・・・オレのザックログにお金入ってるから気にしないで。すみません、それ、5つ下さい」 「まいど~!!」 「やった~!!」  喜ぶワンワンだったが、次の瞬間自分の尻尾に熱いものを感じた。急いで吹き消す。  振り返ると、黒いトカゲが馬鹿笑いしていた。 「こぉ~のぉ~!!待ててめぇ!!」  黒いアグモンを追いかけるワンワンのあとに続く十和田家。玲子はイラついている。  小馬鹿にした態度で振り向きながら逃げる黒トカゲは大草原から密林に入っていこうとしたが、赤い恐竜にぶつかってにらまれ、たじろいだ。 「こらカゲゾウ!!!」  ティラノモンの怒声に縮こまり、カゲゾウはつままれて連れていかれた。  そこは蒸し暑い密林の入り口だった。 「いた、いたぞ・・・ってあれ?」ワンワンは首を傾げた。タイシ達も着いた。 「見つかったかワンワン?ん?あなたは・・・」 「いやはや、うちのバカ息子がすみませんでした」やや高い声でティラノモンが謝る。 「おいカゲゾウ、イタズラしちゃいけないんだぞ!」 「にいちゃんやかあちゃんのいうこときくんだぞ!!」  黄色いアグモン2匹(うち1匹は手に赤いベルトを着けている)が黒いアグモンを諭す。 「だって、とうちゃんあそんでくれないし、かあちゃんこわいし・・・」  タイシとヒロエは何か思うものがあったようだ。一方ワンワンは、 「まったく、ひとに火をつけるなんてイタズラどころじゃねぇだろ!!」 「解ってる、ただ・・・お話いいですか?」  タイシはティラノモンに目を配った。  デジモンは元々、肉体の死亡直前にデジコア(電脳核)含んだデジタマ(卵)を遺して生殖するので、男女の性別や、ましてや家族という概念はないはずである。だが多様な種のデジモンが一堂に会する機会が増えたうえ、共存を目指す対象の人類を模倣する動きが活発になり、彼らにも模擬的とはいえ「家族」が出来るようになってきた。 「そういえば『デジモンと人間の絆!』ってよく関連商品のキャッチコピーにありますけど、考えればその延長線上ですね」 「まあ私は『母ちゃん』と呼ばれて随分と経つよ。ちなみに私の名はレッカ。あのチビども―キイチ、アカジロウ、カゲゾウ・・・色々ゴタゴタしてるけど、あいつらは赤んぼの頃から大切な奴らだ」 「『母ちゃん』?・・・ちょっとすみませんが、『旦那さん』は?」 「いるよ。ダークティラノモンのクロスケ。見た目はちと怖くて威圧的だけど、とても家族思いさ。ただ・・・」 「・・・なんだよ?」タイシとレッカの間に割って入るワンワン。 「お前さん、気を付けな。見たことのないデジモンだな。最近旦那が夜な夜な気が立っててそこら中うろついてるんだわ。もしかしたら最近うわさに聞く新種ってのをよく聞くけど・・・」 「オレだってのかよ?!」 「違うかもしれないけど、油断すんなよ」  レッカとの会話がひと段落すると、アグモン3兄弟がタイシとワンワンを遊びに誘ってきた。かくれんぼか、鬼ごっこか、あるいは本格的にバトルか・・・。  だがその様子を玲子が心配そうに見つめる。ふと赤い竜が目をやる。 「ゆううつそうですね」 「まったく・・・デジモンに関わらなきゃどんなに平和で済んだか」 「子供が心配なのは、デジモンも人間も同じでしょう」 「いや、産んで後悔しちゃったことが多々あるけど。若気の至りで・・・」 「そりゃあ、子供がわずらわしい、色々失敗したなんて思うのはしょっちゅうですよ。でも、それ以上に、あいつらや旦那といる楽しさの方が、大きいかなぁ」 「う~ん・・・なんかあたし、事なかれ主義で、子供達のこと、全然考えもしなかったのかも」  玲子は今までの自分を、少しずつ顧みている風だった。 「グーググルルルル・・・・・」  突然、うなり声と共に、大きな足音を鳴らし、ダークティラノモンが帰ってきた。 「とうちゃ~ん!」カゲゾウは嬉しそうだが、それをワンワンが制止する。 「待て!こいつ、様子がおかしい・・・」  しばらくワンワンの方をにらんだ黒竜クロスケは、少し引き下がり、 「お前・・・じゃない?」 「え”?!」ワンワンは驚愕した。 「俺が気がかりなのは、もっと、まがまがしい、邪悪な気配・・・」  ワンワンとタイシは困惑しながら目を合わせた。    すると保護区内に警報が鳴り響き、音声放送が流れた。 「侵入者発見!侵入者発見!一体のカブテリモンが、何らかの手段で不法侵入した模様!!」  カブテリモンは基本、野性的で生存以外の事には興味がない昆虫デジモンだが、その個体は何故か怪しげな点があった。 「ヤツが来る!!」クロスケは臭いを頼りにカブテリモンを探しに行った。  それを追いかけるタイシ達。 「お前達はここで母ちゃんと待ってろよ!!」レッカは子供達を見張ることにした。  そのカブテリモンは、異常なほどに凶暴だった。すでに区内のクワガーモンを何体も食い殺し、今度はモノクロモンに襲い掛かってきた。職員達は火炎デジモン、メラモン部隊を従え、カードをログで読み取り、攻撃命令を出した。 「撃て!ファイアダーツ!!」  火炎弾が巨大カブトムシに連続で当たる。ひるんだ彼は、そのままメラモン部隊に戦闘機のごとく突進してきた。隊列が崩れた。  その後ろにはクロスケとタイシ達がいた。 「見つけたぞ・・・やはりお前だったのか!!」 「デジモン、くう。わが、しめい。おまえら、えもの・・・」 ―食う?使命?今そんなこと言ったよな?  困惑するタイシをよそに、カブトのバケモノはワンワンに襲いかかってきた。 「危ない!」  クロスケは巨大な尻尾で怪物をなぎ払った。だが相手の頭部の角は相当な硬さと刃のごとく鋭さを誇るため、彼も傷を負ってしまった。 「おっさん、逃げろ!あいつはオレを狙ってる!」 「悪いがうちを滅茶苦茶に壊したあいつを許せなくてな、俺はまだ戦うぞ」 「考えてるこたぁいっしょだな!!」  獣の子と恐竜の大黒柱が魔虫に突撃する。       ―ここは・・・どこだ?  いまは・・・いつだろう?  とあるデジモンがどこかを漂っている。恐らくそこは、どこにも属さない、いわば次元のはざまだろう。だが― ―この感覚、もしかして・・・  巨大な勇ましい竜は声のする方向へ意識を集中した・・・  なるべく広い場所にカブテリモンを挑発しながら誘導するワンワン。 「おめぇの相手はこのオレだぁ!つかまえらえるんならやってみな、バーカバーカ!!」  巨虫は彼を捕食しようとした。だがタイシの指示でよけられ、口から地面に突っ込んでしまった。タイシはクロスケにも攻撃を促す。 「うおおおぉぉ!」クロスケはカブテリモンの脇腹をひっかく。大きくひるんだ隙にれんぞくして関節部にたたみかける。そして、 「羽根をつかめ、ワンワン!」 「わかった!」ワンワンは羽根にしがみつき、電流を流した。  うめき声をあげて苦しむカブテリモン。 「とどめだ!プチクラッシャー!」 「ファイアーブラスト!」  燃え上がる巨虫。だが、様子が変である。 「おおお・・・われ、しなず、きさまら、けすまで・・・」  カブテリモンの傷が回復したかと思うと、突然、筋肉部が盛り上がり・・・ 「な、なんじゃこりゃ、そんなバカな・・・ ・・・カブテリモンが、巨大化しただとォ~?!」  そこには、先程よりも3~4倍はある巨躯の魔物がいた。そして一呼吸するや否や、口から巨大な火球を放った。吹き飛ばされる2体。 「ワンワン!クロスケさん!」 「俺は・・・大丈夫だ。そっちは?」 「・・・ああ、なんとかな。でも今のはカブテリモンの技じゃねぇ」 「そんな気がしたが・・・まさか?」 「そのまさかかもしれねぇ。さっきのは『メガブラスター』じゃなく、 『ヴォルケーノストライク』だ・・・」 「くっ・・・すでに結構やられてるな・・・。あいつを許さん、徹底的に―」  クロスケが起き上がろうとした瞬間、カブトのバケモノに抑え込まれた。彼の肩にかぶりつく。 「おっさん!くっそぉ・・・サンダースクラッチ!!」 ワンワンがカブテリモンの関節をひっかいてもほとんどダメージが無かった。 「こいつ、たくさんデジモン食ってやがった・・・オレにはわかる」  もがき苦しみ抵抗するクロスケに容赦なくバケモノは食いつく。すると・・・ 「あれは・・・カゲゾウ?なんでこんなところに?」タイシは脂汗をかいている。 「とうちゃ~ん!!このヤロー!とうちゃんをはなせー!!」口から放火するカゲゾウ。だがほとんど無傷で、子供には目もくれない強敵。 「バカ、何やってんだ!!」何度も突撃しては弾かれるワンワンが焦る。 「だって、オレのだいじな、だいじなとうちゃんがぁぁぁ~!!!」 カゲゾウが泣き叫ぶ。 ワンワンの怒りは限界を突破し― 「おい!!狙いはこのオレなんだろ?!食うならオレにしろ!!」カブテリモンに怒鳴りつける。 「ワンワン、何言って―」 「わりぃがこうするしかねぇ!タイシ、すまねぇ、オレのせいで・・・」 「何言ってんだよ?!俺達パートナーじゃ・・・」 「このまんまじゃ二人とも犬死にだぞ!!はやく逃げろ!!」  タイシは唇をかんで、ゆっくり黙ってうつむくしかなかった。程なくしてパートナーを背に、歩み始めた。 ―ワンワンはオレを守るために・・・なのか、でも・・・せっかく会えた「パートナー」なのに、こうするしか・・・なかったのかよ・・・  業火の中、ゆっくりと血色に染まる青空・・・そしてそれは、暗雲の色となっていった・・・。 「そこまでだ!」  暗雲から勇ましい声がしたかと思うと、そこからまばゆい光の裂け目が生じ、地上の巨虫目掛けて何者がそれをなぎ倒した。 「あんたは・・・」茫然とするクロスケ。 「おまえなんだな、あのデジタマからかえったのは」 「え、ウソ、ウソでしょ・・・」  ワンワンが見たのは、ギガノトサウルスのような恐竜体型、だが頭部は暗褐色の殻で覆われ、鼻先とこめかみのあたりに鋭い角が生えているデジモンだ。しかも、ワンワンの事をしっているらしい・・・。 ―ということは・・・ 「オレの・・・父さん?!」  そう、彼はあの黄金の竜人、ウォーグレイモンの原種、  恐竜デジモンの、グレイモンだ。 「説明は後だ。今はこいつを・・・立てるか?」 「ああ・・・子供達を守るためなら!」  二体の恐竜と一体の獣の子が、巨大な怪物に立ち向かう。  角で襲いかかるカブテリモン、だがグレイモンは低姿勢でよけ、鼻の角でアッパーカットを食らわせる。吹き飛んだところをワンワンとクロスケの電撃火炎連携。凄まじい閃光が走る。付けた傷は想像以上に深く、スパークによる相乗効果で大ダメージを与えられた。  今度は空中から2本の左腕で殴りかかってきたが、グレイモンが大口でそれにかぶりつく。これもまた痛い。じたばたするカブテリモンの右わきががら空きだ。 「クロスケさん、上の右わき!今だ!」 伸びた上右腕目掛けて重い爪のパンチ。連続で殴り、裂く。その間に、 「いくぞ、ワンワン!」 「サンダースクラッチ!」  獣の全力の一撃が稲妻と共に巨虫に走り、巨虫は絶叫した。  3人がそこを離れると、カブテリモンはぐったりと倒れた。 「とうちゃ~ん!」カゲゾウがクロスケに駆け寄る。 「ばかやろう・・・こんな所にくるんじゃないよ。まあ、無事でよかった」  そんな2人をよそに、タイシとワンワンがグレイモンから話を聞く。 「このウォーグレイモン、あなただったんですね?」 「そうだ。ボクは『ハジメ』、このデジモンザックログの元持ち主さ、そして・・・」 「これといっしょに落ちてきたのがオレで・・・となると、やっぱり父さん・・・」 「まあ、デジモンには元々家族の概念はないけどね。でも、デジモンもだんだん変わりつつある、よく言われる『絆』の形も・・・」 「絆・・・」 「おまえに、そしてそのパートナーにどんなことがあっても、ボクはいつもおまえ達のことを想っているよ」  だが、タイシには疑問がまだ残っていた。 「ハジメさん、でしたっけ?さっき、あの黒い雲の裂け目から来たのを見たんですが・・・ ・・・あなたは、一体・・・?」 「そうだ、言っておかなければならないことがある。ボク達は、時空を超えた使命を帯びてこの時代にやって来た。そう、『ウィノウス』の敵対種の討伐と、さらなる新種の守護を」 「やっぱりあいつ、ワンワンが目的だったのか・・・」 「ワンワン?その子のこと?」 「ああ、ダウモンって種らしいです」 「『らしい』じゃなく、そうなんだよ!」 (Digimon And Unlimited-Monsterか・・・聞いた通り・・・) 「なんか言った?『父さん』?」 「い、いや、何でも・・・(ボクが父親か・・・^_^;)」  ワンワンはハジメを父と見なしたようだ。  だが、雑談をしている余裕も長くは続かなかった。程なくしてカブテリモンがゾンビのように起き上がり、驚愕する5人。  そして、その身体から赤い甲虫、白い骨、青白い毛で覆われた脚、鋭い眼、飛竜や天使の羽、悪魔の鉤爪が生え、そして、胴体はグレイモンのように筋肉質になった。 「・・・合成魔獣、キメラモン・・・」  ハジメは戦慄し、あることを思い出した・・・。 ―IO計画・・・。  カブテリモンがキメラモンに進化して絶体絶命のタイシ達。  そんな絶望的な状況の中、デジモン達が、そしてワンワンが覚醒する!!  デジモン達の絆の力で、キメラモンを倒せ!! デジモン・ザ・トゥモロー 「オレ達の父さん」 明日をつくるのは、自分だけだから。
デジモン・ザ・トゥモロー 第4話 content media
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イクタモン
2023年4月24日
In デジモン創作サロン
 その大きな家は、住宅というよりは研究所のようなものだった。  地下に広がる大きな一室で、黒八木理羅(くろやぎ リラ)は、視線をディスプレイと伝送装置の間で左右させながら胸躍らせて何かを待っていた。そんな派手で長い金髪にショッキングピンクのメッシュをこさえた白衣の少女を心配そうに見つめる銅色の丸々したロボット。 「お嬢、あのメールはやはり本当なのでしょうか?」 「本当だよ、あたしのバイタルサインの反応が日増しに強くなってるし、見てなかったの?」 「ウィルスやクラッキングかもしれませんよ?」 「それに脅えちゃ研究はできないって!!」  リラはガードロモンを軽くあしらった。  その刹那、伝送装置がまばゆい光を放ち、リラは歓喜した― デジモン・ザ・トゥモロー 「キミはどこから来たの?」 「そのクリスタル、その見かけない顔、やっぱりウィノウスだぁ!」 「え?いきなり何?!」タイシは派手な少女を前に困惑する。「あの・・・あなたは?」 「ああ、あたし?黒八木 理羅。そしてこの子は・・・」  青紫のサイボーグゴリラは相方とは反対におどおどしている。 「はじめまして・・・僕、キコです・・・。『ドンモン』という種の・・・」 「ふむ、君も見たことないデジモンだな・・・」  そんな二組をけげんな眼差しで見るチエ。「何かご用ですか?」 「う~ん・・・やっぱり見過ごせないんだよね・・・あたしとキミのパートナー」  タイシはあのウォーグレイモンの通達とウイングドラモンの忠告を思い出した。 「もしかして、誰かに狙われてるとか?」  複雑な表情でしばし周りをにらむ。そこでリラは指を鳴らし、 「そうだ、あたしのラボに来ない?そこで色々話したいの」 「え?いきなり言われても・・・あれ?外崎さん?」 「ごめん、これからお手伝いなんだ!じゃあまた!!」  猛ダッシュで帰宅するチエを前に呆然とするタイシ。とりあえずリラについていく事にした。  だが彼は、割と従順な態度で追っていった。何故なら、彼女ならワンワンに関することを少しは知っているかもしれないし、うまくいけば保健所送りだけは防げそうだと感じたからだ。 「・・・やっぱりウィノウスだ」  事は現在から3日前にさかのぼる。  黒八木家にある大型伝送装置の床からまばゆい閃光が走ったかと思うと、そこにいたのは赤髪で黒衣の壮年男性を思わせる戦士と、青紫色の毛と半機械の身体、そして朱色の結晶を持つゴリラだった。 「君なのか、私の伝言を拾ったのは」 「はい~そりゃこのわたくしに掛かれば朝飯前で~」 「とにかく早く伝えよう。我々は遠くない未来に襲い来るデジモンの新種、『ウィノウス』の脅威に備えるべく、この子らを守る任務に就いた」 「『ウィノウス』・・・?」 「ウィノウスはこの世界はおろか、次元をも書き換えうる危険な存在だ。それに対抗するには、同じウィノウスに属するデジモンを育てねばならない」 「・・・まあ、あたしがちょっと拾ったようなもんですけど、何で連れてきたの?」 「我々が追手を引き付けている間、君達はその子を正しい道へ進むよう育ててくれないか? 無責任であることは承知だ。でもこれが最善の方法なのだ、すまない」 伝送装置に稲妻が走っている、嫌な予感がした。 「わかった、この子はあたしが育てる!必ず、強くして見せる―」 「ありがとう、信じているぞ―」   戦士は光の中へ消えた・・・。 「・・・とまあ、あたしの好奇心もあってこの子を引き取ったわけ」 「好奇心って・・・事の重大さがわかってないじゃないの、リラさん」  タイシはリラの話を聞いて余計押しつぶされそうになったうえ、彼女の余裕しゃくしゃくな態度に呆れていた。 「・・・で、聞いた話はそれだけ?」 「じゃないかもしれないよ。だって、ほら・・・」  リラのザックログにはテイマーに属さないボルケーモンのアドレスがあった。とはいえその内容は文字化けしていて、判るのは火山を生やしたアメフトプレイヤーの画像のみだった。すると・・・ 「このヒトからメールだ」 「でもやっぱり文字化けしてるよ」 「まあ、このくらいの文字なら・・・」 「待って、リラ!」キコが割って入る。 (お前さっきまでモジモジしてたのに急にりりしくなったな・・・)ワンワンがデバイス内でぼやく。 (二人だけの秘密にしよう) (いや、今すぐ外部と遮断するから、まず伝えて) リラはパソコンを操作して家中のセキュリティを強化した。 「じゃあリラ、言うね― 『この間はすまなかった。ただ伝えたいことがある。 未来の新種、ウィノウスの最大の目的は、自分たちが“新たなる支配者”として世界に君臨することだ。 その達成のため、現存デジモンはおろか現生生物全体の生態系を壊滅させかねない。 奴等は言っていた“選ばれた者達の望む、永遠の楽園をつくる”と。 だが幸いなことに、ウィノウスすべてがその思想を持っていないことと、その中でも特異な種がいる事が判っていた。 そこで私達は3つのウィノウスのデジタマを過去に運び、我々の味方となるように善良なテイマーに託す命をイグドラシルから受けた。 重ねて申し訳ないが、その子らを頼む。 ケン』」 「そうだったのか・・・だからあのとき・・・」 「どうしたの、タイシ君?」 「いやいや、オレとタイシが3匹のエアドラモンに害悪扱いされて襲われちゃってさぁ~」 「どうやらデジモンの間でもすでにウィノウスの噂は広まってるらしい・・・ワンワンさえも。オレ、そいつをどうするか迷っていたところなんだけど、余計に危ないじゃないの」 「え⁈オレを見捨てんのかよ、タイシ!!」  タイシは唇をかんで眉間にシワを寄せてうつむいた。 「親御さんには秘密に・・・なんてできないよね」 「リラさん、他人事みたいに言うなよ・・・お互い当事者なんだから」  ふと顔を上げるとそこには昨日見た顔があった。 「善良なテイマー・・・みんながみんなそうだといいんだけどな、 ―武藤ソウマ!!」  武藤ソウマが部屋の隅っこでヘラヘラしていた。 「え?ムートー?この子とトラブったの?!」 「『ムートー』はやめろってんだこのケバケバ女!!」 「ふたりとも・・・知り合い?」唖然としながらタイシが聞く。 「んまぁ・・・『悪友』ってヤツ?カレも相当なデジモンと兵器マニアで・・・」 「うるせぇ!!」 「でもテイマー資格ひと月停止じゃ手も足も出んわなぁ」 「え?!あっそうなの?!あ~あ・・・やっちゃったね」 「ったくお前みたいなのにも襲われて生きた心地がしねぇよ」  歯ぎしりするソウマ。憤りながら地上に出た。 「あいつとあたしは、まあ色々とウマが合うんだけど、どーも好戦的でいかんのよ」 「それはさておき・・・」  タイシは暗めな表情でザックログを見つめる。ワンワンの表情にも少し怒りがある。 「どうにもならないな・・・」 「なんでよ?」 「だってうちはまず論外、母さんが許してくれないし、もし保護区に連れて行っても、そこにいるデジモンや職員さんたちが狙われるし、それでもウィノウスってヤツらに対抗するにはお前を育てなきゃだし・・・でも・・・オレ一人じゃ・・・」  リラは首をかしげながら少し考えた。そしてタブレット端末をいじりながらタイシに問うた。 「だったらさ、『DIGIT』のサポートを受ければどう?」 「デジット?」  デジモン国際警備及び情報収集団(Digimon International Guard and Intelligence Team)とは、近年増加するデジモン犯罪や紛争、その他の脅威に備えて結成された警備や諜報のエキスパートが集まる組織。リラとその両親はその資格を持つ会員だという。  タイシはあることを思い出した。 「そこって、『メイガス』とも関係があるんじゃ・・・」 「そ、メイガスの社員さんはDIGITに守られてるの」 「それじゃぁ・・・」  タイシは一縷(いちる)の希望を見出していた。父、悟はメイガスの社員であるため、コネクションを使ってDIGITのサポートを受けられるだろうと考えた。だが・・・ 「・・・う~ん、やっぱり父さんはいつも忙しくて難しいな、サポートは」 「んじゃオレグレちまうぞ~」 「ああ~わかったよ!何とかするよ!!」にらむ相棒を前にたじろぐタイシ。リラに許可を得た後、彼は父に連絡をした。 「もしもし?タイシ?急に連絡なんてどうしたんだ?」 「実は・・・」  これまでのいきさつを話し、そして今後のワンワンの扱いやDIGITについて問いかけた。すると意外にも、 「わかった。父さんもこの件について応じる。但し母さんには内緒だぞ。数日以内にどこかで落ち合おう。追い追い連絡する」 「本当?!ありがとう・・・」  父の温かさすら覚える応対にタイシは胸をなでおろした。 「いいのかよ?そんなにやすやすと情報教えちゃって」ワンワンは少しいぶかる 「だって、今やほんの少しの情報で犯罪が・・・」 「解ってる、だけどオレには・・・」少し悔いているタイシに、 「リラはそんな悪い子じゃない!!」  さっきまで大人しかったキコが激高する。  そこにリラがなだめに入る。キコは出会って数日しかない彼女の事を非常に大事にしているので、彼女が少しでも侮辱されたと感じると怒りっぽくなるそうとのこと。  ただ、タイシにはぬぐえない疑問があった。 「あれ?ふたりとも、まだ生まれたばかりだよね?その割には、防犯とか相方のこととかよく知ってる風に見えるけど、何でだろ?」 「オレに聞いてもなぁ・・・」 「僕にもわからない、でも・・・」  二人の持つ結晶体がかすかに光っていた。リラが目を光らせた。 「おお~!そのクリスタル!!さっき進化した時光ってたよね?」 「光ってた?オレはワンワンの後ろにいたからわかんなかった。どうだ、ワンワン?」  デバイス内の相棒は少し思い起こしながら答えた 「なんかこう・・・何かが流れ込んでくるっつうか・・・」 「もしかして―」リラが割り込んでタブレットにつないだザックログをかざす。  タブレットの画面には、常人では到底読めない、おびただしい量の文章があった。しかもそれは、デジモンの生体データとは別のものも多く含まれているという。 「今でも『流れ込んでる』のか?」 「まあそんな感じだな」心配げなタイシにワンワンが答える。 「デジモンはインターネットから産まれたのもいるけど、ここまで異常な量のデータが、しかも外部から流れてるのって異常だよ。それが、ウィノウスを『新種』たらしめてるのかな?」  クリスタルがデータの流れの度合いを示しているのだろうか。心なしか楽しげなリラをよそに、不安をにじませる3人(1人と2体)。  そして陰でニヤリとする男1人。  振り向くとそこには邪悪な笑みを浮かべた少年がタイシの前に居た。 「どけ。俺にも見せろよ」 「何だよ、アンタはテイマーひと月お休みじゃなかったのかよ」  悪態をつかれると、ソウマは少し身震いした。だがすぐ持ち直して、 「このソースデータ貰ってくぜ」  呆れるタイシをよそにずけずけと要求する。思いの外リラはあっさりと許可した。だが条件があり、 「そのデータ、3日で消えちゃうから」  ソウマは愕然とし、そのまま燃え尽きた。彼のパートナー、ジメモンは、1ヶ月間都の刑務所のデジモン課に預けられるのだ。昨日タイシを不意打ちした罪で。確かに野生の範囲内ならデジモンが不意打ちするのは不思議ではないが、人間と共同の社会公共の場にいる限りは、規則を守らなければならない。 「・・・とまあ、あたしにできることはこのくらいかな」 「う~ん、とはいってもまだ、父と連絡が着かないけど、その間どうしようかな・・・」 「あたしが預かってもいいんだよ?うち、預かりデジモンが結構いるし」  パソコンの画面には10体近くのデジモンのデータがあった。 「でも、少しの間『預かる』だけだよ。その子、キミに懐いちゃってるし」 「ベ、別になついてなんかいないし!」ワンワンが顔を赤らめる。    その直後、リラのザックログに通信が入った。 「ガーちゃん、どうしたの?」 「大変ですお嬢!うちの近くに、タスクモンが暴れてます!!」 「しまった・・・ここはシェルターも兼ねてるからその程度の暴動じゃ気付かないわ」 「行くよ!リラ!!」キコが目を合わせる。 「オレ達も行くぞ!!」ワンワンが勝手にデバイスから飛び出す。困惑するタイシは階段を駆け上がった。  家の近くには、パトカー数台が停まっていて、そのすぐ隣で猟犬型デジモン数体が交戦していた。たくましい緑色の巨躯(きょく)を誇り、両肩には黒く太い角を生やしたウィルス恐竜デジモン、タスクモンがドーベルモンを次々となぎ倒してリラの家に迫る。警官たちはドーベルモンがやられてもなお、進撃する巨竜に発砲し続けた。 「ああ?ウザいんだよ、ザコふぜいが」  このタスクモンには銃弾などかすり傷かそれ以下のダメージしかない。再び黒八木家に進路を変えると、 「ディストラクショングレネード!」  追尾弾が巨竜の顔面に命中し、ひるませた。  リラ、キコ、ワンワン、そしてタイシが門前までやって来た。 「おお~カモが、しかも2匹やってくるとはなぁ・・・へへへ」 「やっぱりこいつも知ってるのか?!ウィ―」 「タイシ!!」リラが制止する。うっかり口を滑らせれば、自分達の身が危うい。ふと我に返る。  キコとワンワンは四つんばいになってダッシュし、タスクモンに迫る。 「メタルナックル!」  キコは巨竜ののど元にアッパーを食らわせた。いらつく巨竜が今度は大きな左前脚で殴りかかろうとするが、ガードロモンの光線が顔面に当たり、またもひるむ。 「ワンワン!かかとを!」  タイシが命じると、ワンワンはタスクモンの後ろ右足のけんを噛んだ。激痛が走り、思わず叫ぶタスクモン。足をばたつかせ、強引にワンワンを振り落とす。  その直後の巨竜の雰囲気は異様だった。 「・・・ったく、よくもまあ、この俺様に大ダメージを与えるとはなぁ・・・ガキが」  キレたタスクモンが左後ろ脚に力をこめる。 「ベイオネットランサー!!」今度は猛ダッシュで角アタックを仕掛けてきた。吹き飛ばされるガードロモン。その勢いはゆるむことなくキコに襲い掛かる。 「キコ!よけて!!」だがよけられなかった。  否、よけていなかった。  キコはその強化された腕で、タスクモンの大角の猛攻を抑えていた。そしてその後ろには、ワンワンの支えがあった。 「リラ、君をこんな危ない目にあわせたのは僕の責任だ。だから何としてでも君を守る!」 「タイシ、オレもおんなじだ。今の、よ~く撮っとけよ」 ―IFVOLUTION… ―イフヴォリューション?!  そうリラが首をかしげるや否や、キコはまばゆい光に包まれて進化した。  全身が氷の塊である、アイスモンになった。 「何ッ?こいつ変身しやがった!!」 ワンワンが手を離すと、キコはタスクモンを投げ飛ばし、冷気を含んだ息で起き上がるところを封じた。巨竜は寒さで動きがかなり鈍っている。 「こ、このヤロー!!」辛うじて復帰しつつ突撃する巨竜を前に、 「キコ!口の中!!」 「アイスボールボム!!」 頭部から氷塊をタスクモンの口の中に3発ぶち込み、超冷気でとどめを刺した。 「こ、これが・・・お前たちの実力・・・お前たち・・・一体・・・?」  件のタスクモンは保護区から脱走した個体だった。管理員がそれを制止するも失敗し、警察のデジモン部隊が出動することとなったという。不幸にもその部隊は駆け出しの上、相手は相当な経験値を積んだバケモノであった。  そのことを聞いて、ますます不安に駆られるタイシ。 ―やっぱり、こいつは・・・  そううつむいていると、スマートフォンの着信があった。父からだった。 「タイシか?明後日父さんと一緒にC番街の保護区へ行くぞ」 「本当?!ただ、大事なことを言わなきゃ―」  リラに制止される。 「もしもし?」 「ごめん、ちょっと整理したら、また連絡するから」  通話はそこで終わった。だがタイシは腑に落ちていない。 「どこまで話せばいいんだろ・・・あのこと」 「もう噂になっちゃってるけど、極力言わないほうがいいかな」 「さっきの奴も聞きつけて・・・ってお前の差し金じゃないのか?」 「ぜんっぜん。俺に何のメリットがある?」気が付けばそこにソウマがいた。 「ウィノウスだの何だのはともかく、俺は俺のやり方でやる」 「ルールは守ってね~」 「うるせぇ!クソアマ!!」  ソウマはにらんだ後帰路についた。 ―もう手遅れだよ、トワダ・タイシ。 ウィノウスは我々の知っているところだ、既にな。  そのモニターには、奇怪な結晶と、複数の魔獣が映っていた。  家族を説得させ、デジモン保護区に辿り着いたタイシ。  だがそこでは最近、デジモンが夜な夜な脱走を図る事態が起きている。  その目的は何か?ワンワンか、それとも・・・ デジモン・ザ・トゥモロー 「デジモン保護区へようこそ」 明日をつくるのは、キミだ。
デジモン・ザ・トゥモロー 第3話 content media
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イクタモン
2023年4月24日
In デジモン創作サロン
「逃げようなんて思うなヨ・・・生きて帰りたきゃこの俺を倒しナ!! それが、デジモンの、掟だァッ!!」  十和田大志(とわだ タイシ)とダウモンに襲い掛かる赤いバンダナの黒衣の少年と黒い爬虫類デジモン。突然の出来事に身動きが取れないタイシを、ダウモンがかばう。 「ああそうかい、どのみち襲ってきたのはオマエだからうらみっこナシだな?」  2者が激突する― 「ボルテックス!」黒いデジモンが高速で前転しながら背ビレで突撃してくる。だがよけることなくダウモンは両手の大きな爪で抑え込み、帯電した右手で殴る。黒トカゲは不良少年すれすれの所まで弾き飛ばされたが、持ち直して立ち止まり、今度は血色の爪で襲いかかってきた。「ギャングハンド!」  ダウモンは大振りになった相手をしっかりと目で捉えたと思うと、胸の結晶体を光らせてのけぞり、光線を放った。 「プチクラッシャー!!」  一瞬、何が起こったか解らぬ黒いのは、クリーム色の子の青い光に焼かれた。 「ぐおっ?!」黒トカゲは黒少年に覆いかぶさるように吹き飛んだ。よろめきながら不良はダウモンをにらみつけた。 「な、何だ・・・お前のデジモン・・・?見たことねぇし、それに、まさか、この俺達が・・・」 「え?オレ、そんなに強いの?照れるなァ・・・」 「まあ、助かったよダウモン・・・ってそんなことより!」タイシは焦っている。  後ろにはパトカー数台と、ヘッドギアを付けた竜人がいた。 「またやったのね、武藤総磨(むとう ソウマ)君?」婦警がパトカーから呆れ顔で現れた。 デジモン ザ・トゥモロー 第2話「デジモンの運命」 「16時43分、武藤総磨、都の条例違反により1ヶ月のテイマー資格停止とする」蒲田朱音(かまた アカネ)巡査長がソウマのザックログにロックを掛けて返却する。 「はぁ?ざけんなよ、俺は普通にデジモンバトルしただけで・・・」 「不意打ちはルール違反よ、しかもキミ、今日で十何回目?これでも甘い方」 「けどやられたのはこっちだからアイツも同罪だろうが?!」 「あの子は正当防衛だったのよ?」  呆気にとられるタイシ。するとストライクドラモンが近づいてきて、 「ケガはなかったか?」 「はい、すみません・・・」 「ちょっと話を、いいかな?」 「ええ、実はこの子を・・・」 「ふ~ん、確かに見かけないデジモンね、でも、だからといって保健所送りは考え物ね」 「そう、思いますか」 「デジモンだって、『生きてる』のよ。それを勝手に人間の都合で手放して処分するなんて。あなたも知ってる?デジモン達の生命倫理問題」  西暦2,027年。人々は新生物、「デジタルモンスター」―デジモンとの共存に成功したかに見えた。だがそのデジモンが身勝手な動機で使い捨てられたり、中には殺処分されたりするケースは後を絶たない。たとえ元はデータの塊から具現化したものとはいえ、彼らは確かに「生きている」のだ。そこに立ちはだかる問題は軽くはない。 「でも、こいつは、ダウモンは昨日僕の家に突然現れたんです。知っていますよね、飛翔体の件。あれがこいつなんです」 「そりゃ戸惑うでしょうね・・・でも・・・」 「うちでは難しいみたいですね・・・母は面倒なことが嫌いでして、父は多忙で相談しようがない。妹の面倒も見なきゃいけないし」 タイシは巡査長にうかない顔で答えた。夕日は沈んでいる。これ以上話すと問題であろう、アカネは小さな紙に電話番号を書き、彼に渡した。 「また何かあったら相談してね」 「我々はきみの味方だ」  重苦しい空気を漂わせながら、タイシは交番を後にした。  「仮」パートナーデジモンと共に。 「だからダメだって言ってるでしょ!!」玲子が詰め寄る。 「おまけにデジモンに襲われたんだって?!あ~やだやだ、これだからお前をデジモンに関わらせたくなかったんだよ」 「じゃあ、この子は・・・」 「処分してもらいなさい、そんな訳の分からないヤツ」 「そんなヒドいことさらっと言うなよ!」タイシは激高した。  玲子はうなだれながら椅子に座りうずくまる。「なんでうちが・・・」それに目を配りながら静かに自室に向かうタイシ。   「なあ・・・タイシ、さっきの」 「・・・・・・」 「ショブンって、どういうことだよ?オレ、死んじゃうの?」 「・・・何とかするつもりだから、お前はそう気にしなくていい」  心配するダウモンをよそに、父・悟(さとる)に電話を試みるタイシ。だが、 「ダメだ、繋がらないや・・・」 「タイシ・・・」  ふたりは壊れたガラスを背に、ベッドの上でうなだれる。  残された時間は、あと1日半・・・。  次の日の学校でも、タイシは沈んでいた。  ほおづえをつきながら、ハケット先生に相談するか、蒲田巡査長にまた電話するか、否、みんなそれぞれ事情があるから保健所に送るほかないか・・・と思案に尽きていた。 「こんにちは」後ろ髪を結った女子生徒が声をかけた。 「そ、外崎さん?!」彼は転校生を前にたじろぐ。 「はい、外崎千恵(そとざき チエ)です、その子は?」 「え、え~と、ダウモン」 「ふむふむ、何て呼んでるの?」 「へ?」 「デジモンって、進化すると姿形が大きく変わっちゃうから、個体名付けてる人多いの」 「あ・・・こいつは、『ワンワン』」 「なんじゃそりゃ?!」ダウモン、命名、ワンワンは愕然とした。 「ま、まあ、悪くないね・・・私のは『ヨロズ』っていうんだ」 黒地に赤の模様が入ったザックログには、赤い牛の子デジモン、ベコモンがいた。 「よろしくですだ~」 「あはは・・・よろしく、って言っても今日が最後なんだ」 「え?どういうこと?」 「こいつは・・・保健所行きになるかもしれない。うち、母がめんどくさがり屋・・・というよりは事なかれ主義で、デジモンとか、そういうの、避けたがるんだ」 「・・・そうなんだ、でもあなたは?」 「本当は俺だって、そんな簡単に投げ出したくない。それに、ようやくパートナーができたんだし・・・。まあ、妹は泣きついてきたけど」 チエは少しうつむいてから顔を上げた。 「そうだ、よかったらうちの銭湯にあとで来ない?もしかしたら力になれるかもしれないから」 「はい?せんとう?」  タイシはちょっと気が抜けた。  タイシはちょっと気まずかった。  同級生の家族が営む銭湯、否スーパー銭湯「みちよ」に誘われたはいいものの、彼は・・・ ―お こ づ か い ど う し よ う 「なに、青ざめてるの?」 「ああ・・・俺のなけなしのお小遣いじゃ、入れないな・・・」 「私のお家はここ」 「・・・そっちか」  チエの実家は「みちよ」の勝手口から入るのだ。てっきりタイシは銭湯に引き込まれたのかと思った。控室でのタイシは落ち着いていた。しばらくするとチエとヨロズが事務室から戻ってきた。 「ううん、うちもちょっと難しいって話・・・だけど、近くの『デジモン保護区』って所に相談してみるんだって」 「そうか、その手があったか・・・気が動転して忘れてたよ。・・・ん?」 「どうしたの?タイシ君」 「でもなぁ・・・ワンワンは未確認種だからなぁ・・・職員さんや他のデジモンに迷惑掛かっちゃうかも・・・」 「その子を助けたいんじゃないの?」 「・・・あ、ああ。でも昨日エアドラモンに襲われて、確か『そいつは害悪だ!』みたいなことを言ってたしな・・・う~ん、なんかムジュンしてるぞ、俺?」 「ワンワンは未確認種か・・・」  そんな中、壮年の男性従業員の声が、二人の会話に割り込んだ。 「若女将、本日開店の時間です」 「はい!行くわよ、ヨロズ」 「はいな!」ベコモンが実体化した。 「あの、じゃあ僕はこれで・・・」 「またね」  タイシは家路につく・・・ ・・・はずだった。 ―あれ?ザックログ置いてきちゃったかな? 急いで銭湯の勝手口に戻る。 「すみませ~ん!!」 「へい!いらっしゃい!!」 「はい?!」 そこには「仮」パートナーの声がこだましていた。慌ててザックログを確認すると、なんとそいつは居なかった。 「お~タイシ。オレの働きっぷりをよく撮ってくれよな?そしたら・・・」 「保護区に入ろうってわけね、はいはい」 タイシは前日までザックログを持っていなかったが、操作方法はすでに知っていた。 ―このようにワンワンの働きぶりを見せることで、保護区職員の方やそこのデジモン達の好感度を上げられるかな・・・?  とはいえこれは寄り道だ。しばらくしたらすぐに帰宅しなければならない。あんな母親だ。翻って保健所処分にもなり得る。 「ワンワン、もういいだろ・・・って!」  ワンワンはお菓子を食べている。 「駄目だって!それはお客さんへの―」 「ごほうびだから大丈夫ですだ」ヨロズが制止した。  タイシは胸をなでおろして深呼吸した。 「保護区、探してくれるってさ」 「あ、ああ・・・」 「どうした?タイシ」 「いや、なんでもない・・・」  タイシの表情はどこか寂しげだ。 「やっぱり・・・なんか違うのか?」  少年はスマートフォンをそっと鞄から出した。だが・・・、 ―あれ?電波がつながらない?  それに、ちょっと寒いぞ? 異変を感じたタイシの周りには、雪をつかむ子供や、季節外れの寒さに身を寄せるカップル、そして逃げるサラリーマンがいた。 ―!!敵意を感じる!! 「誰だ?!出てこい!!」ワンワンが叫ぶと、春の陽気を破って氷の竜が現れた。 「おい・・・ウソだろ・・・これって・・・ヤバいヤツじゃ・・・」  クリスペイルドラモン。攻撃、防御、そして飛行能力においてかなり秀でている氷竜だ。しかも進化段階は「完全体」だ。ワンワンよりも2段階も上、前日のエアドラモンとは格が違う。 「ま、まさか・・・これは・・・」 「オ前ヲ、消去シニ来タ。無駄ナ抵抗ハ、ヤメロ」氷竜の目には、生気がない。 「今度こそ逃げるぞ、ワンワン!」 「遅イ・・・」クリスペイルドラモンの爪が襲い掛かる。  ワンワンは直撃を喰らい、タイシもかすってしまった。しかも、 「ワンワン、大丈夫か・・・って、足が、凍ってる!」 「今度コソ止メヲ刺シテヤル」  にじり寄る怪物を前に恐怖するタイシ。だが、何とか気持ちを落ち着かせようとした。 ―落ち着け、こんな時は、こんな時はッ!! よく見るとザックログの電波は繋がっていた。 ―しめた!「HELP」を使おう!!  デジモンザックログには電波通信機能がある。交友関係を結んだテイマーやデジモンとの遠距離会話や、緊急救援要請もできるのだ。 ―頼む!誰か、助けてくれ!!  一歩一歩踏みしめるクリスペイルドラモン。だがその時・・・ 「獣将突・亜流(じゅうしょうとつ・ありゅう)!!」  急な炎の突撃で氷竜は倒れた。 ―あれは、チエさんの・・・でも・・・  何かが違う。ヨロズは今、さっきまでのような小さな赤べこではない。 「タイシ君、大丈夫?」 「ああ、ありがとう・・・。でも、あれは?」 「ベコモン進化、タウロモン」  炎と剣技を使いこなして戦う、ワクチンデジモンだ。 「おお~オレ、動けるぞ!」 「ワンワン!」氷が炎の熱で解けたのだ。 「オ前ラ全員、皆殺シダ・・・!」竜が大きく息を吸う。だがその隙に、 「牛将丸(ぎゅうしょうまる)!!」ヨロズが素早くすねに切りかかる。激痛でひるむクリスペイルドラモン。 「サンダースクラッチ!」ワンワンが喉元をひっかく。2発、3発、だが相手も反撃に出た。 氷の息がまた、ワンワンを襲った。とはいえ先程よりは弱い。まだ立ち直れる。 彼が気合を入れて体制を立て直す、次の瞬間― ―IF…VOLUTION ―何だ、これ?急に、力が・・・。  ワンワンがまばゆい光に包まれたかと思うと、それはたちまち大きくなり、辺り一面を真っ白にした。  光が消え、タイシの前に居たのは・・・ 「ト、トリケラモン・・・?」  それは、タイシが既に知っているモンスターではあった。だが、進化元は未確認種、なのに原生デジモンであろう角竜に何故?を隠せなかった。しかも、ワンワンはダウモン―成長期と思しきデジモンだったからだ。 ―これ、アレか?ピンチの時の奇跡? 叫びながらクリスペイルドラモンが吐息を放ちながら近づいてきた。だが重戦車のごとく隆々とした角竜の前には意味を成さなかった。氷竜が飛び立った瞬間、 「トライホーンアタック!!!」 三本の角による突撃が相手を撃ち落とした。 すかさずマウントポジションに立ち殴打を繰り返すトリケラモン。だが、数発殴ると、 「ひかり・・・いやだ・・・こないで・・・」  ワンワンは攻撃の手を止めた。  巨大なクリスペイルドラモンは、小さなブルコモンになった。 「ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい」青い小動物の平謝り。 「わかったわかった、でも、さっきの、何だったんだ?『ひかり・・・こないで・・・』って?」 「だれかがよんでるこえがしたんだ、そしたら体がヘンになって、気がついたらこうなちゃってて・・・」 「何者かに操られてた?」 「タイシ~オレはハッキリ覚えてるぞ~『トライホーンアタック!!!』」 「ワンワン、キミもそれはそれで心配だなぁ」  元に戻ったワンワン。  だが、タイシの方にも異常な感覚があったのは確かだった。 「何だったんだ?“IF…VOLUTION”って」  するとそこにもうひと組のテイマーとデジモンのコンビがいた。 「あ~いたいた!!―ってもう終わっちゃってるし!」 「ああ、さっきの、もうひと組いたんだ・・・」  だがそこにいたのはチエとヨロズではなく、派手な髪染めのメガネ少女と、ゴリラを思わせるサイボーグデジモンだった。 「急に呼び出してごめん。あれ?その子は?」  タイシにはそのゴリラに見覚えが無かった。 「タイシ君!!無事?!」こちらはチエ。 「ああ、何とか・・・」  一方、こちらにけげんな眼差しが向けられているのに気が付いた。  メガネ少女から。 「そのコア・・・もしかして・・・『ウィノウス』でしょ?」 「・・・?!『ウィノウス』?!」  不思議少女、リラの研究室に誘われたタイシ達、そこで彼らは、ワンワン、キコ、そしてこれから襲い来る脅威についての出自を知ることとなった。  果たして、「ウィノウス」とは一体? デジモン・ザ・トゥモロー 「キミはどこから来たの?」 明日をつくるのは、キミだ。 ※この作品は、pixivにて公開したものとほぼ同文です。
デジモン・ザ・トゥモロー 第2話 content media
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イクタモン
2023年1月25日
In デジモン創作サロン
 ここは、どこだろうか。  そして、いまは、いつだろうか。    判っているのは、この混沌とした空間の中で、異形の者同士が争っていることぐらいだ。それらは大きく二つの勢力に分かれ、片やどす黒い思念をもったサイボーグや魔族などの集団、もう一方は獣人や亜人・野生生物を模した種族で構成されている。その二者が激しく激突する中、黄金の竜人と、黒衣の大男、群青の竜騎士が戦火を抜け出していった。そして彼らの手元には、卵と謎の機器が握られていた。だがそうするや否や、敵勢力の魔手が伸びていき、彼らと、そして守るべきものも危うくなってきた。すると― 「ケンさん!時空のはざまが見えたよ!!」 「しかし、あの大きさでは3人が出るまでは間に合わない・・・」 「ぼくが食い止めてじきに追いつく、だから―」 空間に開いた穴が縮まる―。 「すまない、みんな・・・」大男ケンは穴に入った。 「あとは任せろ、『シャイニングVフォース』!」青い竜は敵陣目掛けて光線を放った。だが、多勢に無勢だった。 「くっ、このままだとこの子らもやられる、どうするハジメ?」  金色の竜人、ハジメはうつむきながら卵と機器を見つめた、そして― 「マル、キミが先に行け、ぼくは大丈夫だ・・・」 「大丈夫、ってまさかアレを使おうなんて・・・でもアレは・・・って?!」 「―行け」ハジメはマルを穴に放り込み、自らの持っていた卵も投げた。そして、二口三口デバイスに向かって話すと、それを投げた― ―頼むぞ、誰か・・・。 デジモン ザ・トゥモロー 第1話「その子を守って」  デジタルモンスター。略称デジモン。  人工知能(AI)研究のさなか、それらやコンピュータプログラム、ウイルスソフトが変異して誕生、技術進歩によって物質世界―いわゆる現実世界にも肉体を持って活動ができるようになった。西暦1997年にその存在を確認されて以降、その生態系をインターネット上にある「デジタルワールド」などをはじめとして広げており、また幾度となく人間と衝突したり、協力したりを繰り返してきた。 それから30年後の西暦2027年、デジモンは世界全体に浸透し、人間社会の中で労働力確保や介護、軍事や犯罪などを目的に使役されている。 ここは東京都墨田区の某所、私立田工(デンコウ)学園。デジモンがそこに居ることを除けば生徒や教師が他愛のないやり取りをしている風景は従来の中学・高等学校とさしてかわりは無い。 「んでさ、昨日ウォーグレイモンがいっぱい敵と戦ってる夢を見てさぁ・・・」 デジモンに関する夢を熱く語る少年、十和田大志(トワダ タイシ)はデジモン大好きな中学2年生。普段中々耳にすることもないデジモンの知識を多く有する好奇心旺盛な面白い事好きな少年だ。  だが、そんな彼には大きな悩みがあった、それは・・・。   「ところでタイシ、まだデジモン持ってないの?」 「あのねぇサナエさん・・・うちはとある事情があって・・・」 「でもいい加減あなたもデジモン飼ったらぁ?」 「そうは言うけどねぇ、いつもいつも・・・」 タイシはデジモン好きでありながら、デジモンを持っていないのである。 「まったく、またデジモンの話?ダメなものはダメ!」 母親、玲子(レイコ)に将来いい職に就けるようにまず私立学校で学習せしめられたタイシ。その代償として、デジモンを養うための経済力を犠牲にしたというのだ。父はデジモン運営会社「メイガス」に努めているので家計は問題ないが、妹の広江(ヒロエ)の分の食いぶちまでで精一杯だから駄目だ、とのことである。 「だからU-Film(ユーフィルム)で稼ごうって考えてるんです!もちろん家計にも入れます!!」 「でもあと2週間収入無しだったらユーフィルマー辞めてもらうからね!」 「はいはい・・・」 「視聴者よ、大志を抱け!!このABSのように!!」 タイシは、動画サイトU-Filmの投稿者「ユーフィルマー」の「ABS(エービーエス)」の名義で活動している。投稿時には自作のツギハギだらけの仮面を被って活動する。 「皆さんはここ数年の人間とデジモンの付き合い方についてどう思いますかぁ~?わたくしはですねぇ~」 だが、 “またその話かよ” “はいはい出た出た何度目かのネタ” “どーせデジモン持ってないから話進まないんでしょ?” ・・・などと、心をえぐるリアルタイムチャットが散見された。ABSことタイシの、ユーフィルマーのチャンネル登録者数は20人にも満たないのだ。  タイシは動画配信を中断しようとした。うなだれながら画面に目をやると、 “blueTeeth:今日もお疲れ様です。明日会ってお話ししましょう♪” ―ああ・・・ハケット先生・・・。 タイシは明日の授業を思い浮かべながら、録画を終えた。 翌日、昼休み “あぁ・・・こんにちは、ハケット先生。お話って・・・” 「そう小さくなるなよ、タイシ。いい知らせがあるんだ(日本語)」 「blueTeeth」とはタイシの英語の授業の担任、アンドリュー・ハケットのことだった。 「あさって、転校生が来るんだってね、しかも、カワイイ女の子だよぉ~見た目や性格はぁ・・・う~ん、ヤマトナデシコ、って感じの」気のいい口調でハケットが話す 「ふむ・・・それで?」 「何だよ、タイシ~?もうちょっと喜べよぉ。キミにもガールフレンドが出来ればもうちょっと元気に・・・」 「Mr.ハケット、僕は充分元気ですし、それにまだ恋愛なんて・・・」 「おいおい、その割には・・・」 タイシにはあまり元気がない。 “おいアンディ、そりゃ例の「デジハラ」ってやつじゃねぇのか?” “違うガイ、これは一種のコミュニケーションだよ”「おっと、まあ・・・やっぱり、『デジモン持ってない』てのが気になるか?」 タイシはしばらく沈黙して、 「・・・いいですね、先生はデジモン持ってて」 ハケットの持つデバイスに細目をやると、すねた様に席を発った。 “・・・う~ん、キミはキミでいい、そのはずなんだけどなぁ・・・” “ああ言ってそりゃないだろ?” デバイス越しに青いワニが、憂う黒い大男に突っ込んだ。 帰宅後、 ―デジモン持てそうにないし、稼げそうにないし、もう配信止めちゃおうかな・・・。  タイシはパソコンを落胆した表情で眺めていた。  すると― ・・・ヴィーンヴィーン!!ヴィーンヴィーン!!  スマートフォンからけたたましい警報音が流れた。 ―国民緊急サイレン?!「飛翔体が東京都に接近中」?! 街中に避難警報が発令される中、彼はパニックになってただただ右往左往するだけであった。 ―うちはマンション住まいだからどうすればいいんだっけ?! そうこうしているうちに飛翔体はまばゆい光を放ちタイシの部屋に突っ込んできた。 「うわぁぁぁぁ!!」 ―バリャーン!! 部屋のガラス戸は粉々に砕け、大きくよろめくタイシ。 ・・・ん?オレ、生きてる? そういえば、あの物体は・・・?  飛翔体が落ちたと思しき先には・・・ 「デジモンザックログ?!・・・と― ―なんじゃこりゃ? こいつ、デジモンなのか・・・?!」 そこには、デジモン活動記録デバイス「デジモンザックログ」と、タイシの知らない、クリーム色の体毛と朱色の虎模様、そして胸に結晶体をもつイヌともネコともつかない生物がいた。 ―え”?!これ、何てデジモン?今まで見てきたヤツとはどうも違うし、データベースにもないはずだぞ?じゃあ・・・ 「いやぁ~ハデにぶっ壊れてんなぁ。・・・ってここどこだぁ?」謎の生物が問うと、おどおどしながらタイシが問い返す。 「・・・キ、キミは、だれ?!」 「ああ、オレは『ダウモン』。と言っても頭ん中にそう浮かんだだけで生まれたてのホヤホヤなんだけどな。オマエは?」 「十和田・・・タイシです」  するとデバイスの画面が光りだし、メッセージの着信を告げた。タイシが開くと、 「この子を・・・頼む・・・これを拾った者が誰になろうが・・・ボクは・・・」 10秒程度で終わった。動画には満身創痍のウォーグレイモンの姿があった。 「このヒト・・・じゃなかったデジモン、キミのお父さん?」 「わかんねぇや、っつうか見たことないし」  タイシがため息をつくと、何者かがタイシの部屋の戸を開けた。 「タイシ?!大丈夫?」母が駆け付けた。「え?その子って、デジモン??」 心配そうな眼差しが険しくなった。「ああ・・・この子は、今の事故で・・・」 「貸しなさい」 「えっ?」 「その子は飼えないから保健所に連れてくの。あとその機械は区役所に。うちはデジモンダメって言ったでしょ?」  タイシは絶句して反論できなかった。それもそのはず、ユーフィルマーとして稼ぎは無く、ましてや今自分の隣に居るのは全く未知のデジモン、飼えるなんて言えない。 「おい、どうした?タイシぃ。もしかしてこのコワいねーちゃんの言うこと真に受けてんのか?」獣が不謹慎に問いかける。 「誰が怖い姉ちゃんだァ?!とにかく、今日はもういいし、ガラスの後片付けをまずしなきゃだし、明日は学校だからデジモンの事は週末ね」そう言い放つと母は部屋のを乱暴に閉めた。 翌日、田工学園中等科2年D組。 転校生は外崎千恵(そとざき チエ)。柔らかな表情と凛とした佇まいの少女だ。 タイシのクラス内ではその子の話題で持ち切りだが、彼は上の空だった。これからどうしようか、仮にもデジモンを持つことで新たな苦悩を抱いてしまった。飯はどうするか、機嫌取りに何をしようか、戦いに誘われたらどうしようか、やっぱり保険所送りが一番なのか・・・。 「あれ?タイシ、いつの間にデジモン?」サナエが駆け寄ってきた。 「・・・うん、だけどうちはデジモン飼っちゃダメそうだし、保健所に預けるまでしばらく面倒見てる感じ。それに見たことないヤツだし・・・」 「新種のデジモン?!いいねぇ!!」 「本当ならこりゃ喜ばしいハズなんだけどね・・・」 「喜べよタイシぃ、カノジョも心配するぞぉ?!」ダウモンがおちょくる。サナエが赤面する。 「変なこと言うな・・・」ぶーたれながらタイシは怒った。 帰り道、タイシは思いつめながら歩いていた。獅子の顔をした獣人と手をつなぐ幼女、巨大な鶏に乗るお爺さん、荷物を運ぶ一角獣、野菜を売る植物のオバケ・・・。もうずっと見慣れた光景のようで、彼にはまだ受け入れられないものがあった。 「それでもやっぱり、デジモンは『デジモン』なのかな・・・」 「そりゃそうだろ、何を今さら・・・」 「もう少し考えたい、だいぶ前まではデジモンは危ないモノだったんだ、それが今じゃ・・・」 「ああ~もううっせぇなぁ、やめてくれ!」 「・・・わかった、帰ろう」仮パートナーと共に家路へ向かうタイシ。 その時だった。 ―よこせ・・・よこせ・・・、 空からドスの利いた声が聞こえてきた。見上げると、3体の飛竜が、円を描くように彼の真上を飛んでいた。するとそれらは急降下し、タイシに迫ってきた。 「グルルルルルル・・・」 エアドラモン。成熟期、ワクチン属、飛竜型デジモン。凶暴で高い知力を持つそのデジモン、しかも3体を目の当たりにし、彼は身動きが取れない。 「よこせ!そいつは害悪になりうる存在だ!!」「早くしろ!」「渡せば何もしないがな」 ―え?こいついわくつきだったの?でも・・・ 「ぼ、ぼくは、何も知りません・・・」腰を抜かすタイシ。 「ほざくなぁッ!!そいつは訳の分からぬデジモン、脅威になったらどうするつもりだ?!」 彼はウォーグレイモンのことを思い出した。 「え~っと、ウォーグレイモンに頼まれて・・・」 「信じられん、もはや対話は不要、観念しろ!!」 エアドラモンが臨戦態勢に入ると、その瞬間、ザックログが光りだし、まばゆいものがタイシの前に降り立った。 ダウモン、リアライズ。 「お前のような奴は、生かしてはおけん!」エアドラモンは羽ばたきにより大気のくさびを放った。 「危ない!!」ダウモンはタイシをかばい、よけた。だが残りの2体が噛みついてくる。それも上手くかわす。 「・・・ごめん、こうなることも怖くて」 「あやまるこたぁねぇだろ。オレらはそういう生き物だからさ」  タイシを建物の陰に避難させると、ダウモンが3体の飛竜に突っ込む。 ―こんな時、オレにできることは・・・タイシは悩んでいる間にもダウモンの突撃は止まらない。前衛のエアドラモン2体がかぶりつこうとした瞬間― 「ジャンプだ!ダウモン!!」  言う通りに飛んでかわした。2体の竜はぶつかって怯んだ。残りの1体は突風で応戦する。とっさに構えるダウモン。 「サンダースクラッチ!」  突風の中を電撃が走り、エアドラモンは感電した。 「く・・・ここまでやられるとは・・・お前等、もう一度やるぞ!!」  だが・・・、 ―待て、その子を攻めてはならない。 「?!然し、素性の分からぬ輩を放っておくわけには・・・」 ―いいから止めるんだ!  エアドラモン達の元に謎の声が届いたと思ったら、さらに巨大な、青い翼を持った竜が現れた。ウイングドラモンなる完全体のデジモンだ。落ち着いた表情でタイシを見つめる。 「同胞を止められなくてすまなかった。君への非礼を詫びよう」 「・・・あ、あの、ウイングドラモンさんですよね?彼らは・・・」 「どうやら最近、デジモン達の気が立っているようでな、どうやらあるデジモンがこれから来る厄災に関与しているとの噂で穏やかならないのだ」 「オレは悪いヤツじゃねぇ!!」ダウモンが怒鳴る。 「解っているよ。だが、新たな3つのデジタマのうち2つがが亜空間内で行方不明になったと聞いたが・・・もしや・・・」 「・・・オレだってのかよ?」いぶかるダウモン。 「とにかく、すまなかったな、今後はこのような事の無いようにしっかり見張っておくよ」 「よろしく頼みますね・・・」タイシは疲労困憊だった。 「ますます厄介になっちゃったな・・・でも、あのメッセージ・・・」  あのウォーグレイモンの伝言を再び思い返すタイシ。 ―何か意味ありげなんだよなぁ、この子。だったらなおのこと保健所に預けなきゃ・・・でもそうしたら今度はその保健所の人が厄介だし・・・他には誰もいなそうか・・・。 「今日はもう帰ろう、ダウモン」 「あ、ああ。でも、お前んち・・・」 「他にどこの誰にも押し付けるわけにもいかないしさ」 「何だよそれ?」 「・・・帰るぞ、話はそれからでいいだろ」  ややぐったりした表情だったが、彼は何故か少し嬉しそうだった。 ―オレの・・・パートナーデジモン・・・。 「待ちな!!」  帰り道の横から黒い二つの影が襲い掛かる。  ひとつはガラの悪そうな同年代程度の少年、もうひとつは小さくも凶暴な爬虫類デジモン。 「そいつのデータ、もらったぁァッ!!」  慌ててダウモンを連れて逃げようとするタイシ。だが黒いデジモンに簡単に追いつかれてしまった。 「逃げようなんて思うなヨ・・・生きて帰りたきゃこの俺を倒しナ!! それが、デジモンの、掟だァッ!!」 ―くそっ、どうすれば・・・。 戦うことがデジモンの性。然しそれよりもタイシに大きくのしかかるのが、ダウモン―ワンワンを取り巻く状況、そして秘密。 果たして彼らは正式にパートナーになれるのか? デジモン・ザ・トゥモロー 「デジモンの運命」 明日をつくるのは、キミだ。 (この小説は、pixivにおいて、著者イクタモンが描き起こしたものを一部修正したものです)
デジモン・ザ・トゥモロー 第1話 content media
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イクタモン

その他
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