
そこにいたのはカブトムシの角を生やし、鳥や天使のごとく翼を伸ばし、たくましい巨躯を誇り、そして悪魔の腕を生やした合成魔獣である。
キメラモン―あらゆる成熟期デジモンの能力を併せ持つとされる合成デジモン。その姿はもとより、ハジメは、さっきまでカブテリモンだったものがこのような怪物になったこと自体に戦慄していた。
―IO計画、In One計画の第一段階:
デジモンの絶対数を減らすこと、それは粛清だけではなく、中絶、合成なども手段とする。
「こいつは・・・何としてでも食い止めなきゃならない!」
他二人は満身創痍、残る二人は人間とデジモンの子供。今自分がやらねばダメだ。
「・・・え?待てよ?!ちょっとムチャじゃないか?!相手は・・・」
「解ってる!でもやらなきゃ!!」
ハジメはキメラモンに向かって突進した。
デジモン・ザ・トゥモロー
「オレ達の父さん」
ハジメは低くかがんでグレイモン特有の鋭利な鼻角をキメラモンに突き刺そうとした。しかし悪魔の腕の怪力に阻まれる。そうするや否や、今度は骨の腕が合成獣から襲いかかってきた。尻尾で叩きのめすが、今度は空中に持ち上げられてしまった。
「ワンワン、かなり疲れてるな・・・。クロスケさんは酷い傷だ・・・。
回復アイテムは・・・あった!」
タイシはザックログから「回復カード」をワンワンとクロスケに与えた。ワンワンは全快のようだが、クロスケはまだ傷が治らない。
「すまん・・・俺がふがいないばかりに・・・だけどあいつを倒さないと・・・」
「もう少し休みましょう、ハジメさんが食い止めてるうちに・・・」
「おいタイシ!父さんを見捨てるってのかよ?!」
「違う!だけどこれじゃ手も足も出ない!」
歯噛みするワンワンとタイシ。「父」ハジメとの出会い、否、再会を喜んだのも束の間、今度はキメラの悪魔が立ちはだかった。幼い獣は、「父」の背をただただ見守るのしかないのか。
「チエさん!リラ!助けてくれ!!」
タイシが助けを呼ぶ。だが無情にもビジー状態だった。
「クソッ!オレ達はここで死ぬのか?!」
折角、仮とはいえパートナーにも会えた、刹那的とはいえデジモンテイマー仲間も出来た、だがそれもここで水泡に帰すのか・・・。
―母さん、やっぱりデジモンには関わっちゃいけなかったのかな・・・?
父さん、こうなることはわかっていたのかな・・・?
物陰に逃げ、失意にうずくまるタイシ達は、ただ勇猛なグレイモンの戦いを涙目で見守るしかないのか・・・。
「タイシー!!」
それは母親の声だった。
だが、いつもの無気力な、苛立ちのこもったそれではなく、鬼気迫るものがありつつも必死に我が子を想う激しい呼び声だった。
「母さん、父さん、ヒロエ!!それにレッカさんや子供達!!」
「早く逃げなさい!!」レイコはまくしたてる。
「でも・・・あいつを放っておけない・・・」
「父さんがDIGITに連絡した!お前はその子を連れて逃げろ!」サトルは既に安全確保の準備が出来ている。
だが、タイシは逃げなかった。逃げたくなかった。茫然自失の表情で、戦いの場に踵を反そうとしたその時、
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「かあ・・・さん・・・?」
カネ目当てで十和田悟と結婚した一ノ瀬怜子。子を産んだのも若気の至り、子育ても大抵世間体を気にしてのことで、子供の事など大抵放任だった。だが、かのティラノモンと出会い、「母親」としての思いが一気にあふれ出した。
「タイシくん、おかあさんのことわってやりな」母ティラノモンが諭す。
「・・・だけど、いいえ、だからこそ、放っておけないんですよ!今まで自分勝手やって来たのもボクも同じ!ここで守れないでどうするんですか?!」
一方その頃、合成獣の空中での爪撃に苦しむハジメ。それが終わったかと思うと今度は地面に叩きつけられ、何度も踏みつけられた。隙を見て大きな火炎弾を吐き、ようやく顔面にダメージを与えられた。今度は魔獣が口から炎を吐き出そうとすると、重たい尻尾で口元をなぎ払った。大きくひるみ、怒り狂うキメラモン。
―ドスッ!ドスッ!
悪魔の爪が猛スピードでハジメに突き刺さり、乱暴に突き刺す。ハジメが腕で爪を抜こうとすると余計に魔獣の力が入る。
―どうしよう・・・このままだと、ハジメさんも・・・
タイシにその悪戦が目に留まった。助けに行くべきか。
「あの恐竜デジモン、この子のお父さんなんだ」
「タイシ?どういうことだ?」
「親子は・・・助け合いでしょ?」
ひきつるサトルを前に、タイシはワンワンと共にハジメの所に向かった。
「お、おお・・・」
「とうちゃん、だいじょぶ?」
「お前らを守るためなら・・・いくらでも・・・」
クロスケはカゲゾウを前に、ようやく立ち上がり、彼もまた、同じ方向に向かった。
―何だ?この感覚?!今までのとは違う、もっと、湧き上がるようなものが・・・?
でも、何だか穏やかなような、みなぎるような・・・
―AQUIRED・・・EVOLUTION!
「ダウモン進化ァァァッ!ダットモン!!」
それは、太古の昔にいた恐竜程の巨体、すらりと伸びた腕と脚には力強い爪が備わっていて、刺々しい毛並みの尻尾、そして精悍にして獰猛な形相のモンスターだった。
「うおおおおおおおおッ!!」
キメラモンの胴体に大きく爪を振りかぶるダットモン。キメラモンが反撃に爪を伸ばすが軽々とかわし、連続で顔面をひっかく。
荒れ狂う魔獣。だがその時―
「何だ・・・これは・・・?」
「力が・・・戻ってくる・・・?」
「あれ?オレ、どうなっちゃうの・・・?」
―EVOLUTION!
グレイモン、ダークティラノモン、そして黒いアグモンの身体が光り始めた。
「グレイモン超進化!メタルグレイモン!!」
「ダークティラノモン超進化!メタルティラノモン!!」
「アグモンしんかー!シェルモン!!」
―え?どうなってんの?オレが進化したら、みんなまで・・・?
メタルグレイモンになった父は、息子のいぶかる顔を目に、
「ワンワン、さっさとアイツを片付けるぞ!」
「・・・あ。はい・・・!」
成熟期と完全体のペアで合成獣に挑む。
「ギガデストロイヤー!!」
ハジメの胸とクロスケの右腕から有機体系ミサイルが魔物の周りを翻弄するかのように飛ぶ。続くワンワンは大きな爪で腹を切り裂く。怒ったキメラモンは火炎を放とうとするが、カゲゾウの水圧が右目を直撃し、少しうずくまった。
「今だ!トライデントアーム!」
「エクスクラッシャー!!」
「ヌークリアレーザー!」
三体の攻撃が交わる。
激しい熱を帯びた三叉矛が、魔獣の身体を貫いた。
内に秘めたエネルギーとの反発で、キメラモンは爆散した。
「とうちゃ~ん!!」
「あんた・・・心配したよ~」
「すまなかったな・・・お前達を守りたかったんだ。
ありがとう」
「いやいやそれほどでも~」クロスケの礼に照れるワンワン。
「ところで、なぜお前のデジモンは退化を?」
「それは・・・考えたこともないです」
確かにタイシには疑問があった。
何故なら普通、デジモンの進化はほぼ成長と同義であり、一度進化したら元には戻らないはずなのである。だがワンワンは何度も進退化を繰り返し、今回は未知の種に進化し、また元の姿に戻った。
「ありがとう、父さん。・・・ってあれ?父さん?」
ワンワンの問いかけにハジメはうかない顔である。
「ああ、いや、何でもないんだ、ワンワン」
「あ・・・でも『ワンワン』じゃめんどくさいから『ワン』でいいよ―」
「―いや、お前は『ワンワン』がいい」
「・・・へ?」
急に激高した父を前に、ワンワンはたじろいだ。
―デジモンは唯一の存在じゃないんだ、あって欲しくないんだ。
「え~~~~?!ここの保護区使えないんですかぁ?」
「はい、只今、先の事件で大きな損害がありまして・・・・」
―あ”~~~やっぱり・・・
いつもの「母」が戻ってきた。ひきつりながらレイコを見るタイシ。やはり保健所行きなのだろうか。
すると、父が彼の肩を叩いた。
「タイシ、母さん、ヒロエ、そしてワンワン、話しておきたいことがある」
サトルは係員に安全な場所を尋ねると、そこに案内するように言った。
「実は父さん、“DIGIT”の一員なんだ」
「え?なんでそんなこと、今まで黙ってたの?」
「これは簡単に言えることではなかったが、デジモン事件が激化して・・・近いうちに話そうと思ったが、まさかこうなるとは思わなかったから」
茫然とする妻を前に、冷静な口調で語る夫。
「そして秘密裏に、タイシ、お前のウィノウスについても追っていた」
「ワンワンのこと、知ってたの?」
「ああ、だからこそ今ここでしか話せない」
「そっか、だからデジモン飼っちゃダメだったの?」
「それもあるな、ヒロエ」
父は子供達に申し訳なさそうに説明した。
「という訳でだ、ワンワンは・・・」
「オレが育てる!」
「ええ~~~~?」
「・・・だな」
母は相変わらずだったが、父は先の息子の姿をしっかりとらえていた。
「っつうわけで、よろしく~!」
ワンワンは上機嫌だった。
複雑そうな表情の母、すっきりとした感じの妹、
父子(おやこ)二人きりの中、やり取りは続いた。父はザックログを指差した。
(お前のザックログにDIGITへの案内を送った。彼を育てるなら・・・わかってるよな?)
その日の夕刻、タイシは都内のとある高層ビルの地下に辿り着いた。
指示通りにコードを解除すると、そこには巨大な秘密基地があった。
ディスプレイに集中する大勢の人々、トレーニングバトルや警備、更には雑用をするデジモン達、そこはまさにデジモン専門家達の秘密基地であった。
「ようこそ、Digimon International Guard and Intelligence Team―DIGIT日本支部へ」
そこには父、サトルがいた。
「ここがDIGITの日本支部か・・・って、DIGITって公的組織じゃないの?」
「確かに公的組織ではあるけど、こうやって、秘密裏に行動する場を設けないと、敵に筒抜けだからね」
「敵?脅威とかそういうのとか?」
「まあ、そうだな。特に今一番問題となっているのが―」
―ウィノウスと、それを利用しようとする連中。
―やっぱりそうなるのね・・・。
「ただいま~」
「おかえり、タイシ」
「母さん、色々ごめんなさい、でも―」
「ワンワンは飼っていいよ」
「え?」
母の変わりように、タイシは戸惑った。
「ただし、危ないことはやめてね、命ばっかりは・・・」
「わかるよ、母さん」
「やったァァァ~!!」ワンワンが二人の間で実体化した。
「オレ、レイねえちゃんのお手伝い何でもするからさ、勉強も頑張るからさ、なあいいだろ?」
「はいはい・・・でもあんまり・・・」
「大丈夫だって、オレとタイシならどんなピンチでも乗り越えるって!」
「・・・まったく、男の子ってのは・・・」
呆れながらも少し優しい目で見守るレイコ。
―そういえば、あの人も、かなり冒険的な人だっけ、
本当に、父親ってのは・・・そういうものなのかな。
その頃、かのデジモン保護区では・・・
「とうちゃん、やっぱりつよいよね~」
「お前達を守るためなら、誰にも負けないさ」
「だけど、無茶はするんじゃないよ、身体が無くなっちゃ元も子もない」
恐竜家族の談笑が響いていた。
そして、ハジメ。彼は再び時空のはざまで任務に就いていた。
―ワンワン、お前はその名前がいい。デジモンにはあらゆる可能性があり、その芽を育んでいく。我々はその多様な命を大切にしていきたい・・・
―生き延びるために。
「よーしパートナーデジモン登録完了!!」
「よろしくな、タイシ!!」
「ああ、こちらこそ、あらためて、ワンワン、よろしくな!!」
寝室で笑顔でじゃれ合う二人。
「ところでお父さん、ハジメさんはあれでいいのかい?」
「ああ、父さんはまた任務に出るって」
タイシの顔が少し神妙になった。
「どうしてだろうね?もしやお前と関係が・・・」
「DIGITと似たようなもんだろ」
「ああ・・・なかなか言えないのか」
タイシが腰を上げると、いつか見たずた袋の仮面を被った。
「タイシ?!なんだその格好?!」
「ああ、ユーフィルマーって知ってる?動画サイトの・・・って出会ったばかりだよなあ?」
「知らなくてとーぜんだ」
「今からオレが動画アップするからお前も協力してくれよ」
「え??オレの姿がネットに出たら、追手が来るんじゃ―」
「大丈夫、お前は声だけ出演で」
「はい?!」
タイシはパートナーを正式に得た喜びで、ノリノリで動画制作にいそしんだ。
「あれ?母さん、まだテレビ見てるの?」
「うん、今日は面白いのないか・・・」
「ネットの方がいっぱいあるのに?」
「昔っからのクセでね」
ヒロエとレイコは、何気ない母娘のやり取りをしていた。
今は、十和田家の自宅には、父は居ない。
そんな中で、ひそかに闘っているのだ。
『ボクが、どんなにおおきくなっても、
オイラが、どんなにつよくなっても、
オレが、どんなにこわくなっても・・・
―大丈夫、
言っただろ、オレ達は、ずっと一緒だ。
【デジモンは責任をもって、最後まで育てましょう】』
新公共広告の、最近のCMであった。
ABSのデジモン大研究!
「今日のデジモンはこのデジモンだ!
・ティラノモン
古代の恐竜の姿をした、大人しく扱いやすいデジモンだ!
そして―
・グレイモン
大きな角が特徴的で、頼もしいぞ!
次回も、お楽しみに!!」
デジモンが漫才を?!
っておや?丁度適材適所なデジモンがここに!!!
だが最近、彼の様子が変だとそのテイマーからの依頼が来た。
タイシ、初任務成功なるか?
次回、デジモン・ザ・トゥモロー
「狙われた三位一体」
明日をつくるのは、キミだ。