
ここは、どこだろうか。
そして、いまは、いつだろうか。
判っているのは、この混沌とした空間の中で、異形の者同士が争っていることぐらいだ。それらは大きく二つの勢力に分かれ、片やどす黒い思念をもったサイボーグや魔族などの集団、もう一方は獣人や亜人・野生生物を模した種族で構成されている。その二者が激しく激突する中、黄金の竜人と、黒衣の大男、群青の竜騎士が戦火を抜け出していった。そして彼らの手元には、卵と謎の機器が握られていた。だがそうするや否や、敵勢力の魔手が伸びていき、彼らと、そして守るべきものも危うくなってきた。すると―
「ケンさん!時空のはざまが見えたよ!!」
「しかし、あの大きさでは3人が出るまでは間に合わない・・・」
「ぼくが食い止めてじきに追いつく、だから―」
空間に開いた穴が縮まる―。
「すまない、みんな・・・」大男ケンは穴に入った。
「あとは任せろ、『シャイニングVフォース』!」青い竜は敵陣目掛けて光線を放った。だが、多勢に無勢だった。
「くっ、このままだとこの子らもやられる、どうするハジメ?」
金色の竜人、ハジメはうつむきながら卵と機器を見つめた、そして―
「マル、キミが先に行け、ぼくは大丈夫だ・・・」
「大丈夫、ってまさかアレを使おうなんて・・・でもアレは・・・って?!」
「―行け」ハジメはマルを穴に放り込み、自らの持っていた卵も投げた。そして、二口三口デバイスに向かって話すと、それを投げた―
―頼むぞ、誰か・・・。
デジモン ザ・トゥモロー
第1話「その子を守って」
デジタルモンスター。略称デジモン。
人工知能(AI)研究のさなか、それらやコンピュータプログラム、ウイルスソフトが変異して誕生、技術進歩によって物質世界―いわゆる現実世界にも肉体を持って活動ができるようになった。西暦1997年にその存在を確認されて以降、その生態系をインターネット上にある「デジタルワールド」などをはじめとして広げており、また幾度となく人間と衝突したり、協力したりを繰り返してきた。
それから30年後の西暦2027年、デジモンは世界全体に浸透し、人間社会の中で労働力確保や介護、軍事や犯罪などを目的に使役されている。
ここは東京都墨田区の某所、私立田工(デンコウ)学園。デジモンがそこに居ることを除けば生徒や教師が他愛のないやり取りをしている風景は従来の中学・高等学校とさしてかわりは無い。
「んでさ、昨日ウォーグレイモンがいっぱい敵と戦ってる夢を見てさぁ・・・」
デジモンに関する夢を熱く語る少年、十和田大志(トワダ タイシ)はデジモン大好きな中学2年生。普段中々耳にすることもないデジモンの知識を多く有する好奇心旺盛な面白い事好きな少年だ。
だが、そんな彼には大きな悩みがあった、それは・・・。
「ところでタイシ、まだデジモン持ってないの?」
「あのねぇサナエさん・・・うちはとある事情があって・・・」
「でもいい加減あなたもデジモン飼ったらぁ?」
「そうは言うけどねぇ、いつもいつも・・・」
タイシはデジモン好きでありながら、デジモンを持っていないのである。
「まったく、またデジモンの話?ダメなものはダメ!」
母親、玲子(レイコ)に将来いい職に就けるようにまず私立学校で学習せしめられたタイシ。その代償として、デジモンを養うための経済力を犠牲にしたというのだ。父はデジモン運営会社「メイガス」に努めているので家計は問題ないが、妹の広江(ヒロエ)の分の食いぶちまでで精一杯だから駄目だ、とのことである。
「だからU-Film(ユーフィルム)で稼ごうって考えてるんです!もちろん家計にも入れます!!」
「でもあと2週間収入無しだったらユーフィルマー辞めてもらうからね!」
「はいはい・・・」
「視聴者よ、大志を抱け!!このABSのように!!」
タイシは、動画サイトU-Filmの投稿者「ユーフィルマー」の「ABS(エービーエス)」の名義で活動している。投稿時には自作のツギハギだらけの仮面を被って活動する。
「皆さんはここ数年の人間とデジモンの付き合い方についてどう思いますかぁ~?わたくしはですねぇ~」
だが、
“またその話かよ”
“はいはい出た出た何度目かのネタ”
“どーせデジモン持ってないから話進まないんでしょ?”
・・・などと、心をえぐるリアルタイムチャットが散見された。ABSことタイシの、ユーフィルマーのチャンネル登録者数は20人にも満たないのだ。
タイシは動画配信を中断しようとした。うなだれながら画面に目をやると、
“blueTeeth:今日もお疲れ様です。明日会ってお話ししましょう♪”
―ああ・・・ハケット先生・・・。
タイシは明日の授業を思い浮かべながら、録画を終えた。
翌日、昼休み
“あぁ・・・こんにちは、ハケット先生。お話って・・・”
「そう小さくなるなよ、タイシ。いい知らせがあるんだ(日本語)」
「blueTeeth」とはタイシの英語の授業の担任、アンドリュー・ハケットのことだった。
「あさって、転校生が来るんだってね、しかも、カワイイ女の子だよぉ~見た目や性格はぁ・・・う~ん、ヤマトナデシコ、って感じの」気のいい口調でハケットが話す
「ふむ・・・それで?」
「何だよ、タイシ~?もうちょっと喜べよぉ。キミにもガールフレンドが出来ればもうちょっと元気に・・・」
「Mr.ハケット、僕は充分元気ですし、それにまだ恋愛なんて・・・」
「おいおい、その割には・・・」
タイシにはあまり元気がない。
“おいアンディ、そりゃ例の「デジハラ」ってやつじゃねぇのか?”
“違うガイ、これは一種のコミュニケーションだよ”「おっと、まあ・・・やっぱり、『デジモン持ってない』てのが気になるか?」
タイシはしばらく沈黙して、
「・・・いいですね、先生はデジモン持ってて」
ハケットの持つデバイスに細目をやると、すねた様に席を発った。
“・・・う~ん、キミはキミでいい、そのはずなんだけどなぁ・・・”
“ああ言ってそりゃないだろ?”
デバイス越しに青いワニが、憂う黒い大男に突っ込んだ。
帰宅後、
―デジモン持てそうにないし、稼げそうにないし、もう配信止めちゃおうかな・・・。
タイシはパソコンを落胆した表情で眺めていた。
すると―
・・・ヴィーンヴィーン!!ヴィーンヴィーン!!
スマートフォンからけたたましい警報音が流れた。
―国民緊急サイレン?!「飛翔体が東京都に接近中」?!
街中に避難警報が発令される中、彼はパニックになってただただ右往左往するだけであった。
―うちはマンション住まいだからどうすればいいんだっけ?!
そうこうしているうちに飛翔体はまばゆい光を放ちタイシの部屋に突っ込んできた。
「うわぁぁぁぁ!!」
―バリャーン!!
部屋のガラス戸は粉々に砕け、大きくよろめくタイシ。
・・・ん?オレ、生きてる?
そういえば、あの物体は・・・?
飛翔体が落ちたと思しき先には・・・
「デジモンザックログ?!・・・と―
―なんじゃこりゃ?
こいつ、デジモンなのか・・・?!」
そこには、デジモン活動記録デバイス「デジモンザックログ」と、タイシの知らない、クリーム色の体毛と朱色の虎模様、そして胸に結晶体をもつイヌともネコともつかない生物がいた。
―え”?!これ、何てデジモン?今まで見てきたヤツとはどうも違うし、データベースにもないはずだぞ?じゃあ・・・
「いやぁ~ハデにぶっ壊れてんなぁ。・・・ってここどこだぁ?」謎の生物が問うと、おどおどしながらタイシが問い返す。
「・・・キ、キミは、だれ?!」
「ああ、オレは『ダウモン』。と言っても頭ん中にそう浮かんだだけで生まれたてのホヤホヤなんだけどな。オマエは?」
「十和田・・・タイシです」
するとデバイスの画面が光りだし、メッセージの着信を告げた。タイシが開くと、
「この子を・・・頼む・・・これを拾った者が誰になろうが・・・ボクは・・・」
10秒程度で終わった。動画には満身創痍のウォーグレイモンの姿があった。
「このヒト・・・じゃなかったデジモン、キミのお父さん?」
「わかんねぇや、っつうか見たことないし」
タイシがため息をつくと、何者かがタイシの部屋の戸を開けた。
「タイシ?!大丈夫?」母が駆け付けた。「え?その子って、デジモン??」
心配そうな眼差しが険しくなった。「ああ・・・この子は、今の事故で・・・」
「貸しなさい」
「えっ?」
「その子は飼えないから保健所に連れてくの。あとその機械は区役所に。うちはデジモンダメって言ったでしょ?」
タイシは絶句して反論できなかった。それもそのはず、ユーフィルマーとして稼ぎは無く、ましてや今自分の隣に居るのは全く未知のデジモン、飼えるなんて言えない。
「おい、どうした?タイシぃ。もしかしてこのコワいねーちゃんの言うこと真に受けてんのか?」獣が不謹慎に問いかける。
「誰が怖い姉ちゃんだァ?!とにかく、今日はもういいし、ガラスの後片付けをまずしなきゃだし、明日は学校だからデジモンの事は週末ね」そう言い放つと母は部屋のを乱暴に閉めた。
翌日、田工学園中等科2年D組。
転校生は外崎千恵(そとざき チエ)。柔らかな表情と凛とした佇まいの少女だ。
タイシのクラス内ではその子の話題で持ち切りだが、彼は上の空だった。これからどうしようか、仮にもデジモンを持つことで新たな苦悩を抱いてしまった。飯はどうするか、機嫌取りに何をしようか、戦いに誘われたらどうしようか、やっぱり保険所送りが一番なのか・・・。
「あれ?タイシ、いつの間にデジモン?」サナエが駆け寄ってきた。
「・・・うん、だけどうちはデジモン飼っちゃダメそうだし、保健所に預けるまでしばらく面倒見てる感じ。それに見たことないヤツだし・・・」
「新種のデジモン?!いいねぇ!!」
「本当ならこりゃ喜ばしいハズなんだけどね・・・」
「喜べよタイシぃ、カノジョも心配するぞぉ?!」ダウモンがおちょくる。サナエが赤面する。
「変なこと言うな・・・」ぶーたれながらタイシは怒った。
帰り道、タイシは思いつめながら歩いていた。獅子の顔をした獣人と手をつなぐ幼女、巨大な鶏に乗るお爺さん、荷物を運ぶ一角獣、野菜を売る植物のオバケ・・・。もうずっと見慣れた光景のようで、彼にはまだ受け入れられないものがあった。
「それでもやっぱり、デジモンは『デジモン』なのかな・・・」
「そりゃそうだろ、何を今さら・・・」
「もう少し考えたい、だいぶ前まではデジモンは危ないモノだったんだ、それが今じゃ・・・」
「ああ~もううっせぇなぁ、やめてくれ!」
「・・・わかった、帰ろう」仮パートナーと共に家路へ向かうタイシ。
その時だった。
―よこせ・・・よこせ・・・、
空からドスの利いた声が聞こえてきた。見上げると、3体の飛竜が、円を描くように彼の真上を飛んでいた。するとそれらは急降下し、タイシに迫ってきた。
「グルルルルルル・・・」
エアドラモン。成熟期、ワクチン属、飛竜型デジモン。凶暴で高い知力を持つそのデジモン、しかも3体を目の当たりにし、彼は身動きが取れない。
「よこせ!そいつは害悪になりうる存在だ!!」「早くしろ!」「渡せば何もしないがな」
―え?こいついわくつきだったの?でも・・・
「ぼ、ぼくは、何も知りません・・・」腰を抜かすタイシ。
「ほざくなぁッ!!そいつは訳の分からぬデジモン、脅威になったらどうするつもりだ?!」
彼はウォーグレイモンのことを思い出した。
「え~っと、ウォーグレイモンに頼まれて・・・」
「信じられん、もはや対話は不要、観念しろ!!」
エアドラモンが臨戦態勢に入ると、その瞬間、ザックログが光りだし、まばゆいものがタイシの前に降り立った。
ダウモン、リアライズ。
「お前のような奴は、生かしてはおけん!」エアドラモンは羽ばたきにより大気のくさびを放った。
「危ない!!」ダウモンはタイシをかばい、よけた。だが残りの2体が噛みついてくる。それも上手くかわす。
「・・・ごめん、こうなることも怖くて」
「あやまるこたぁねぇだろ。オレらはそういう生き物だからさ」
タイシを建物の陰に避難させると、ダウモンが3体の飛竜に突っ込む。
―こんな時、オレにできることは・・・タイシは悩んでいる間にもダウモンの突撃は止まらない。前衛のエアドラモン2体がかぶりつこうとした瞬間―
「ジャンプだ!ダウモン!!」
言う通りに飛んでかわした。2体の竜はぶつかって怯んだ。残りの1体は突風で応戦する。とっさに構えるダウモン。
「サンダースクラッチ!」
突風の中を電撃が走り、エアドラモンは感電した。
「く・・・ここまでやられるとは・・・お前等、もう一度やるぞ!!」
だが・・・、
―待て、その子を攻めてはならない。
「?!然し、素性の分からぬ輩を放っておくわけには・・・」
―いいから止めるんだ!
エアドラモン達の元に謎の声が届いたと思ったら、さらに巨大な、青い翼を持った竜が現れた。ウイングドラモンなる完全体のデジモンだ。落ち着いた表情でタイシを見つめる。
「同胞を止められなくてすまなかった。君への非礼を詫びよう」
「・・・あ、あの、ウイングドラモンさんですよね?彼らは・・・」
「どうやら最近、デジモン達の気が立っているようでな、どうやらあるデジモンがこれから来る厄災に関与しているとの噂で穏やかならないのだ」
「オレは悪いヤツじゃねぇ!!」ダウモンが怒鳴る。
「解っているよ。だが、新たな3つのデジタマのうち2つがが亜空間内で行方不明になったと聞いたが・・・もしや・・・」
「・・・オレだってのかよ?」いぶかるダウモン。
「とにかく、すまなかったな、今後はこのような事の無いようにしっかり見張っておくよ」
「よろしく頼みますね・・・」タイシは疲労困憊だった。
「ますます厄介になっちゃったな・・・でも、あのメッセージ・・・」
あのウォーグレイモンの伝言を再び思い返すタイシ。
―何か意味ありげなんだよなぁ、この子。だったらなおのこと保健所に預けなきゃ・・・でもそうしたら今度はその保健所の人が厄介だし・・・他には誰もいなそうか・・・。
「今日はもう帰ろう、ダウモン」
「あ、ああ。でも、お前んち・・・」
「他にどこの誰にも押し付けるわけにもいかないしさ」
「何だよそれ?」
「・・・帰るぞ、話はそれからでいいだろ」
ややぐったりした表情だったが、彼は何故か少し嬉しそうだった。
―オレの・・・パートナーデジモン・・・。
「待ちな!!」
帰り道の横から黒い二つの影が襲い掛かる。
ひとつはガラの悪そうな同年代程度の少年、もうひとつは小さくも凶暴な爬虫類デジモン。
「そいつのデータ、もらったぁァッ!!」
慌ててダウモンを連れて逃げようとするタイシ。だが黒いデジモンに簡単に追いつかれてしまった。
「逃げようなんて思うなヨ・・・生きて帰りたきゃこの俺を倒しナ!!
それが、デジモンの、掟だァッ!!」
―くそっ、どうすれば・・・。
戦うことがデジモンの性。然しそれよりもタイシに大きくのしかかるのが、ダウモン―ワンワンを取り巻く状況、そして秘密。
果たして彼らは正式にパートナーになれるのか?
デジモン・ザ・トゥモロー
「デジモンの運命」
明日をつくるのは、キミだ。
(この小説は、pixivにおいて、著者イクタモンが描き起こしたものを一部修正したものです)
初めまして、夏P(ナッピー)と申します。以後宜しくお願い致します。
Pixvでは拝見しておりませんでしたので、初めて読ませて頂きました。冒頭に描写されたのはロイヤルナイツと悪い連中の戦いでしょうか。群青の騎士はアルフォースブイドラモン、金色の竜人というのはメッセージを残していたウォーグレイモンかと思いますが黒衣の大男とは……?
人間界の方は平和そのもの……でもなかったり? 1997年からデジモンと人間との関係が始まったのは、初代デジタルモンスターが発売した年度のオマージュっぽくてニヤリ。そこから30年ということなのでまさかの現代より未来の世界。タイシ君はデジモン主人公らしくタから始まる名前ですがイラスト見る限りゴーグル無い……!? タカトのようにこれから装備するのでしょうか。ユーチューバーっぽいことしてますが収入ゼロとは。ABSの由来って……お母さん食い扶持がどうとか仰ってますが、お父さん大企業勤めだろうに家計は火の車なのか。
ダウモンというのはオリデジでしょうか? :辺りから全部把握し切れていなかったりするので既存種かとググっちゃったりしたのは内緒です。女子転校生が話の発端になるのかと見せかけそんなことはなく普通に帰り道に襲ってくるエアドラモン軍団。物分かりのいいウイングドラモン様のおかげで事無きを得ましたが、どうも卵は外にも二つあるようで……ライバルか!? 最後に現れたのはライバルなんだな!?
そしてまさかの次回予告。こーいうの私大好きです。
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。