
「逃げようなんて思うなヨ・・・生きて帰りたきゃこの俺を倒しナ!!
それが、デジモンの、掟だァッ!!」
十和田大志(とわだ タイシ)とダウモンに襲い掛かる赤いバンダナの黒衣の少年と黒い爬虫類デジモン。突然の出来事に身動きが取れないタイシを、ダウモンがかばう。
「ああそうかい、どのみち襲ってきたのはオマエだからうらみっこナシだな?」
2者が激突する―
「ボルテックス!」黒いデジモンが高速で前転しながら背ビレで突撃してくる。だがよけることなくダウモンは両手の大きな爪で抑え込み、帯電した右手で殴る。黒トカゲは不良少年すれすれの所まで弾き飛ばされたが、持ち直して立ち止まり、今度は血色の爪で襲いかかってきた。「ギャングハンド!」
ダウモンは大振りになった相手をしっかりと目で捉えたと思うと、胸の結晶体を光らせてのけぞり、光線を放った。
「プチクラッシャー!!」
一瞬、何が起こったか解らぬ黒いのは、クリーム色の子の青い光に焼かれた。
「ぐおっ?!」黒トカゲは黒少年に覆いかぶさるように吹き飛んだ。よろめきながら不良はダウモンをにらみつけた。
「な、何だ・・・お前のデジモン・・・?見たことねぇし、それに、まさか、この俺達が・・・」
「え?オレ、そんなに強いの?照れるなァ・・・」
「まあ、助かったよダウモン・・・ってそんなことより!」タイシは焦っている。
後ろにはパトカー数台と、ヘッドギアを付けた竜人がいた。
「またやったのね、武藤総磨(むとう ソウマ)君?」婦警がパトカーから呆れ顔で現れた。
デジモン ザ・トゥモロー
第2話「デジモンの運命」
「16時43分、武藤総磨、都の条例違反により1ヶ月のテイマー資格停止とする」蒲田朱音(かまた アカネ)巡査長がソウマのザックログにロックを掛けて返却する。
「はぁ?ざけんなよ、俺は普通にデジモンバトルしただけで・・・」
「不意打ちはルール違反よ、しかもキミ、今日で十何回目?これでも甘い方」
「けどやられたのはこっちだからアイツも同罪だろうが?!」
「あの子は正当防衛だったのよ?」
呆気にとられるタイシ。するとストライクドラモンが近づいてきて、
「ケガはなかったか?」
「はい、すみません・・・」
「ちょっと話を、いいかな?」
「ええ、実はこの子を・・・」
「ふ~ん、確かに見かけないデジモンね、でも、だからといって保健所送りは考え物ね」
「そう、思いますか」
「デジモンだって、『生きてる』のよ。それを勝手に人間の都合で手放して処分するなんて。あなたも知ってる?デジモン達の生命倫理問題」
西暦2,027年。人々は新生物、「デジタルモンスター」―デジモンとの共存に成功したかに見えた。だがそのデジモンが身勝手な動機で使い捨てられたり、中には殺処分されたりするケースは後を絶たない。たとえ元はデータの塊から具現化したものとはいえ、彼らは確かに「生きている」のだ。そこに立ちはだかる問題は軽くはない。
「でも、こいつは、ダウモンは昨日僕の家に突然現れたんです。知っていますよね、飛翔体の件。あれがこいつなんです」
「そりゃ戸惑うでしょうね・・・でも・・・」
「うちでは難しいみたいですね・・・母は面倒なことが嫌いでして、父は多忙で相談しようがない。妹の面倒も見なきゃいけないし」
タイシは巡査長にうかない顔で答えた。夕日は沈んでいる。これ以上話すと問題であろう、アカネは小さな紙に電話番号を書き、彼に渡した。
「また何かあったら相談してね」
「我々はきみの味方だ」
重苦しい空気を漂わせながら、タイシは交番を後にした。
「仮」パートナーデジモンと共に。
「だからダメだって言ってるでしょ!!」玲子が詰め寄る。
「おまけにデジモンに襲われたんだって?!あ~やだやだ、これだからお前をデジモンに関わらせたくなかったんだよ」
「じゃあ、この子は・・・」
「処分してもらいなさい、そんな訳の分からないヤツ」
「そんなヒドいことさらっと言うなよ!」タイシは激高した。
玲子はうなだれながら椅子に座りうずくまる。「なんでうちが・・・」それに目を配りながら静かに自室に向かうタイシ。
「なあ・・・タイシ、さっきの」
「・・・・・・」
「ショブンって、どういうことだよ?オレ、死んじゃうの?」
「・・・何とかするつもりだから、お前はそう気にしなくていい」
心配するダウモンをよそに、父・悟(さとる)に電話を試みるタイシ。だが、
「ダメだ、繋がらないや・・・」
「タイシ・・・」
ふたりは壊れたガラスを背に、ベッドの上でうなだれる。
残された時間は、あと1日半・・・。
次の日の学校でも、タイシは沈んでいた。
ほおづえをつきながら、ハケット先生に相談するか、蒲田巡査長にまた電話するか、否、みんなそれぞれ事情があるから保健所に送るほかないか・・・と思案に尽きていた。
「こんにちは」後ろ髪を結った女子生徒が声をかけた。
「そ、外崎さん?!」彼は転校生を前にたじろぐ。
「はい、外崎千恵(そとざき チエ)です、その子は?」
「え、え~と、ダウモン」
「ふむふむ、何て呼んでるの?」
「へ?」
「デジモンって、進化すると姿形が大きく変わっちゃうから、個体名付けてる人多いの」
「あ・・・こいつは、『ワンワン』」
「なんじゃそりゃ?!」ダウモン、命名、ワンワンは愕然とした。
「ま、まあ、悪くないね・・・私のは『ヨロズ』っていうんだ」
黒地に赤の模様が入ったザックログには、赤い牛の子デジモン、ベコモンがいた。
「よろしくですだ~」
「あはは・・・よろしく、って言っても今日が最後なんだ」
「え?どういうこと?」
「こいつは・・・保健所行きになるかもしれない。うち、母がめんどくさがり屋・・・というよりは事なかれ主義で、デジモンとか、そういうの、避けたがるんだ」
「・・・そうなんだ、でもあなたは?」
「本当は俺だって、そんな簡単に投げ出したくない。それに、ようやくパートナーができたんだし・・・。まあ、妹は泣きついてきたけど」
チエは少しうつむいてから顔を上げた。
「そうだ、よかったらうちの銭湯にあとで来ない?もしかしたら力になれるかもしれないから」
「はい?せんとう?」
タイシはちょっと気が抜けた。
タイシはちょっと気まずかった。
同級生の家族が営む銭湯、否スーパー銭湯「みちよ」に誘われたはいいものの、彼は・・・
―お こ づ か い ど う し よ う
「なに、青ざめてるの?」
「ああ・・・俺のなけなしのお小遣いじゃ、入れないな・・・」
「私のお家はここ」
「・・・そっちか」
チエの実家は「みちよ」の勝手口から入るのだ。てっきりタイシは銭湯に引き込まれたのかと思った。控室でのタイシは落ち着いていた。しばらくするとチエとヨロズが事務室から戻ってきた。
「ううん、うちもちょっと難しいって話・・・だけど、近くの『デジモン保護区』って所に相談してみるんだって」
「そうか、その手があったか・・・気が動転して忘れてたよ。・・・ん?」
「どうしたの?タイシ君」
「でもなぁ・・・ワンワンは未確認種だからなぁ・・・職員さんや他のデジモンに迷惑掛かっちゃうかも・・・」
「その子を助けたいんじゃないの?」
「・・・あ、ああ。でも昨日エアドラモンに襲われて、確か『そいつは害悪だ!』みたいなことを言ってたしな・・・う~ん、なんかムジュンしてるぞ、俺?」
「ワンワンは未確認種か・・・」
そんな中、壮年の男性従業員の声が、二人の会話に割り込んだ。
「若女将、本日開店の時間です」
「はい!行くわよ、ヨロズ」
「はいな!」ベコモンが実体化した。
「あの、じゃあ僕はこれで・・・」
「またね」
タイシは家路につく・・・
・・・はずだった。
―あれ?ザックログ置いてきちゃったかな?
急いで銭湯の勝手口に戻る。
「すみませ~ん!!」
「へい!いらっしゃい!!」
「はい?!」
そこには「仮」パートナーの声がこだましていた。慌ててザックログを確認すると、なんとそいつは居なかった。
「お~タイシ。オレの働きっぷりをよく撮ってくれよな?そしたら・・・」
「保護区に入ろうってわけね、はいはい」
タイシは前日までザックログを持っていなかったが、操作方法はすでに知っていた。
―このようにワンワンの働きぶりを見せることで、保護区職員の方やそこのデジモン達の好感度を上げられるかな・・・?
とはいえこれは寄り道だ。しばらくしたらすぐに帰宅しなければならない。あんな母親だ。翻って保健所処分にもなり得る。
「ワンワン、もういいだろ・・・って!」
ワンワンはお菓子を食べている。
「駄目だって!それはお客さんへの―」
「ごほうびだから大丈夫ですだ」ヨロズが制止した。
タイシは胸をなでおろして深呼吸した。
「保護区、探してくれるってさ」
「あ、ああ・・・」
「どうした?タイシ」
「いや、なんでもない・・・」
タイシの表情はどこか寂しげだ。
「やっぱり・・・なんか違うのか?」
少年はスマートフォンをそっと鞄から出した。だが・・・、
―あれ?電波がつながらない?
それに、ちょっと寒いぞ?
異変を感じたタイシの周りには、雪をつかむ子供や、季節外れの寒さに身を寄せるカップル、そして逃げるサラリーマンがいた。
―!!敵意を感じる!!
「誰だ?!出てこい!!」ワンワンが叫ぶと、春の陽気を破って氷の竜が現れた。
「おい・・・ウソだろ・・・これって・・・ヤバいヤツじゃ・・・」
クリスペイルドラモン。攻撃、防御、そして飛行能力においてかなり秀でている氷竜だ。しかも進化段階は「完全体」だ。ワンワンよりも2段階も上、前日のエアドラモンとは格が違う。
「ま、まさか・・・これは・・・」
「オ前ヲ、消去シニ来タ。無駄ナ抵抗ハ、ヤメロ」氷竜の目には、生気がない。
「今度こそ逃げるぞ、ワンワン!」
「遅イ・・・」クリスペイルドラモンの爪が襲い掛かる。
ワンワンは直撃を喰らい、タイシもかすってしまった。しかも、
「ワンワン、大丈夫か・・・って、足が、凍ってる!」
「今度コソ止メヲ刺シテヤル」
にじり寄る怪物を前に恐怖するタイシ。だが、何とか気持ちを落ち着かせようとした。
―落ち着け、こんな時は、こんな時はッ!!
よく見るとザックログの電波は繋がっていた。
―しめた!「HELP」を使おう!!
デジモンザックログには電波通信機能がある。交友関係を結んだテイマーやデジモンとの遠距離会話や、緊急救援要請もできるのだ。
―頼む!誰か、助けてくれ!!
一歩一歩踏みしめるクリスペイルドラモン。だがその時・・・
「獣将突・亜流(じゅうしょうとつ・ありゅう)!!」
急な炎の突撃で氷竜は倒れた。
―あれは、チエさんの・・・でも・・・
何かが違う。ヨロズは今、さっきまでのような小さな赤べこではない。
「タイシ君、大丈夫?」
「ああ、ありがとう・・・。でも、あれは?」
「ベコモン進化、タウロモン」
炎と剣技を使いこなして戦う、ワクチンデジモンだ。
「おお~オレ、動けるぞ!」
「ワンワン!」氷が炎の熱で解けたのだ。
「オ前ラ全員、皆殺シダ・・・!」竜が大きく息を吸う。だがその隙に、
「牛将丸(ぎゅうしょうまる)!!」ヨロズが素早くすねに切りかかる。激痛でひるむクリスペイルドラモン。
「サンダースクラッチ!」ワンワンが喉元をひっかく。2発、3発、だが相手も反撃に出た。
氷の息がまた、ワンワンを襲った。とはいえ先程よりは弱い。まだ立ち直れる。
彼が気合を入れて体制を立て直す、次の瞬間―
―IF…VOLUTION
―何だ、これ?急に、力が・・・。
ワンワンがまばゆい光に包まれたかと思うと、それはたちまち大きくなり、辺り一面を真っ白にした。
光が消え、タイシの前に居たのは・・・
「ト、トリケラモン・・・?」
それは、タイシが既に知っているモンスターではあった。だが、進化元は未確認種、なのに原生デジモンであろう角竜に何故?を隠せなかった。しかも、ワンワンはダウモン―成長期と思しきデジモンだったからだ。
―これ、アレか?ピンチの時の奇跡?
叫びながらクリスペイルドラモンが吐息を放ちながら近づいてきた。だが重戦車のごとく隆々とした角竜の前には意味を成さなかった。氷竜が飛び立った瞬間、
「トライホーンアタック!!!」
三本の角による突撃が相手を撃ち落とした。
すかさずマウントポジションに立ち殴打を繰り返すトリケラモン。だが、数発殴ると、
「ひかり・・・いやだ・・・こないで・・・」
ワンワンは攻撃の手を止めた。
巨大なクリスペイルドラモンは、小さなブルコモンになった。
「ほんとうに、ほんとうに、ごめんなさい」青い小動物の平謝り。
「わかったわかった、でも、さっきの、何だったんだ?『ひかり・・・こないで・・・』って?」
「だれかがよんでるこえがしたんだ、そしたら体がヘンになって、気がついたらこうなちゃってて・・・」
「何者かに操られてた?」
「タイシ~オレはハッキリ覚えてるぞ~『トライホーンアタック!!!』」
「ワンワン、キミもそれはそれで心配だなぁ」
元に戻ったワンワン。
だが、タイシの方にも異常な感覚があったのは確かだった。
「何だったんだ?“IF…VOLUTION”って」
するとそこにもうひと組のテイマーとデジモンのコンビがいた。
「あ~いたいた!!―ってもう終わっちゃってるし!」
「ああ、さっきの、もうひと組いたんだ・・・」
だがそこにいたのはチエとヨロズではなく、派手な髪染めのメガネ少女と、ゴリラを思わせるサイボーグデジモンだった。
「急に呼び出してごめん。あれ?その子は?」
タイシにはそのゴリラに見覚えが無かった。
「タイシ君!!無事?!」こちらはチエ。
「ああ、何とか・・・」
一方、こちらにけげんな眼差しが向けられているのに気が付いた。
メガネ少女から。
「そのコア・・・もしかして・・・『ウィノウス』でしょ?」
「・・・?!『ウィノウス』?!」
不思議少女、リラの研究室に誘われたタイシ達、そこで彼らは、ワンワン、キコ、そしてこれから襲い来る脅威についての出自を知ることとなった。
果たして、「ウィノウス」とは一体?
デジモン・ザ・トゥモロー
「キミはどこから来たの?」
明日をつくるのは、キミだ。
※この作品は、pixivにて公開したものとほぼ同文です。