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フォーラム記事
地水(ちすい)
2024年4月17日
In デジモン創作サロン
人間たちが住む現実世界とデータ生命体"デジモン"が住む異世界『デジタルワールド』を繋ぐ|門《ゲート》が出来て早20年。
当世の子供たちをはじめとした人々がデジモンとパートナーとなり、共生関係となった新世代。
今では人間とデジモンが共に暮らすことが当たり前になった。
だがしかし、いつの時代も事件と災いは起きるもの。
人が、デジモンが、誰しもが心がある限り、争いは起きる。
だが悲しむことはない、争いによる不幸をよく思ってない者は必ずいる。
そしてその中には戦いを以て戦いを終わらせようと立ち上がる者がいた。
その名は、『バディリンカー』。
デジモンを相棒として絆を結び、戦いに赴く者たちをそう呼ぶ。
――だが。
そんなバディリンカー達もいつも無敵ではなく、普段は人の子だ。
これはそんなバディリンカー達の何気ない一幕である。
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池袋。
そこは東京の名所の一つである観光街……昔はアニメ・漫画・ラノベといったサブカルの聖地は秋葉原と言われていた時期もあったが、今ではこの池袋もかつての秋葉原のように充実したアニメショップや関連ストアが並び、サブカルファンやオタク達を『聖地』として注目させていた。
そんな池袋に足を踏み入れたのはとある男女の二人組だった。
「なぁ、エリヤ。ココでいいのか?」
「うん、今回はココがいいの」
片方は乱獅子ヨウト、片や如月エリヤ。
チームロムルスの主力である二人は休日を使ってこの池袋へとやってきていたのであった。
その目的は……説明するより先に、エリヤがヨウトの腕に絡みついている様子から目に見て明らかであった。
「おい、くっつきすぎじゃないか?」
「なによぉ、恥ずかしがることないじゃん」
ぐいぐいと自身の体を押し付けてくるエリヤと、肌に伝わる女性特有の柔らかさにドギマギするヨウト。
普段から同じ屋根の下で生活していても、やはり攻められると男は弱いというもの。
若干顔を赤らめている様子にエリヤは笑う。
「じゃあ、向かいましょうか。エスコートよろしくね」
「腕くっつけているこの状態でか?」
蠱惑的な笑みを浮かべるエリヤに、渋々腕に絡まれたままヨウトは観念した。
ニヤニヤとしながら嬉しさと楽しさを隠し切れない美少女の相棒を傍に、多くの人々とデジモン達が人混みを成している所をかき分けていく。
まず最初に二人が赴いたのは、とあるアニメ作品の展示会ステージだった。
作品名は【刀剣神域】、剣を用いて戦う少年少女の物語を描いたSFファンタジーのライトノベル原作のアニメ作品であり、初放送から10年以上経った今でも根強いファンが生まれ続ける大人気の作品だ。
今回展示されているのは、設定資料や絵コンテといった製作過程で生まれた代物で、ファンと思われる観覧客達が長蛇の列を作り出していた。
「めっちゃ並んでるなコレ。ファンの方々か?」
ヨウトは礼儀良く並んでいる観客達の光景を見ながら、自分達も一番後ろから並ぶ。
すぐさま展示スペースにやってくると、そこには劇中にて登場人物が使っていた刀剣の武器の|実物模型《レプニカ》が飾られており、10代くらいの若い少年少女やデジモン達が目を輝かせて見ていた。
作品のファンなのかな、と思いながらチラリと隣にいるエリヤの方を見ると、――武器を目にして目を輝かせている彼女の姿があった。
まるで憧れのヒーローにあったかのようなリアクションを浮かべ、武器の名称を嬉しそうに早口で述べた。
「ねぇねぇヨウト、これアヴァローズだよ! ヒロインのエリカが第1部で使っていたレイピアだよ!」
目の前にある薔薇のように赤いレイピアの模型を見て、子供のようにはしゃぐエリヤ。
ヨウトの記憶が正しければ、刀剣神域のヒロイン・天宮エリカが使っていた細剣"アヴァローズ"であり、一番人気の高い第一部でヒロインを象徴する武器として有名……のはずだ。
どちらかと言えばスポーツや武道といった体を動かす方が得意かつ大好きで、アニメ・映画鑑賞や文学といった文化的な趣味に関してヨウトは少々疎かった。
「ハハハ……で、あれって確か」
「ブレイザルバーだよ、主人公のケントが同じく第1部使っていた愛剣だよ」
それに対してエリヤは読み込んだスラスラとその武器の設定を説明する。
――エリヤ曰く、作品の看板キャラである鳴坂ケントが使っている黒い柄に真っ白い刀身を有するその剣"ブレイザルバー"、その満月のように輝く刃で数々の危機を断ち切ってきたのは有名なエピソード……だという。
実際に二人で最新の現行シリーズまで目を通したことはあるが、ヨウトはエリヤほどしっかりと読み込んでいないためにざっくりとした雰囲気しかわからなかった。
逆に言えば、エリヤは自分より原作小説やアニメをしっかりと読み込んでいるのだ。
その熱量は凄まじく、実物模型の展示スペースを過ぎ去った後に設定資料集のスペースを通ると、目にした途端に腕を絡ませているヨウトごと引っ張って急いで近づいた。
「わぁ、これ、第9話の『碧眼の魔人』の絵コンテだよ! 凄い情報量!」
「わかった、わーったから腕引っ張るな。つか力強いなぁ!?」
「あっ、こっちは第11話の『夕闇の少女』のマナちゃんの映像! めっちゃかわいい!」
「エリヤ、エリヤさん、そう引っ張られると肩痛いから外してくれ」
エリヤに腕を掴まれたままヨウトは成す術なく引き連れられてしまう。
このスペースに展示されている実物の絵コンテや、まだ着色されてない映像といった製作段階の代物がガラス越しに展示されている。
そのガラスに食い込まんという勢いで食い見るエリヤに掴まれたままヨウトは腕を引っ張られていた。
好きな物にはとことんのめりこむ、という彼女の一面に何処か嫌いには慣れないと思いつつも、抵抗することもせずに刀剣神域の世界に夢中になるエリヤに引きずられていく。
登場人物たちの等身大パネルのスペース、過去に行われたイベント時の写真の展示場、そして過去の名場面映像の数々……。
やがて出口に辿り着いて刀剣神域の展示場を抜けたヨウトとエリヤの二人は一緒に一息ついた。
「「ふぅ……」」
「楽しかったか? エリヤ」
「うん、とっても! 特にケンエリのグッズがこんなにも豊潤で!」
やっと休息ができて安堵するヨウトと、推しカップリングのグッズを手に入れて嬉しそうに喜ぶエリヤ。
曰く、物語の中で永遠の愛を誓い合った主人公とヒロインがとても尊い、だそうだ。
何はともあれ、自分にとっての恋人《ヒロイン》が嬉しそうな様子を見て、ヨウトは楽しんだ回はあったと思った。
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その後、国内最大級のアニメショップ・アニエイトで限定グッズを買ったり、街中で行われていた大人気漫画のスタンプイベントに参加したり……時間は過ぎ去ってあっという間に昼食時間。
ヨウトとエリヤはどこかで休憩できるところじゃないかと、うろついていた。
手に持った荷物を抱えながらエリヤは近くを見回す。
「なんか美味しそうなところ何処かにないかな」
「さーてな、池袋は大抵の所回ってるしな……後他に行ってないところとなると、何処かあったっけ?」
「うーん、思い出せない……ん?」
ヨウトと共に何処か穴場の美味しい飯屋がないかと探していると、エリヤの嗅覚に香ばしい焼いた肉の匂いが届く。
気になって行ってみると、そこは池袋に存在する池袋南公園であり、そこで見つけたのはとあるデジモン達が営んでいる大型のフードトラックだった。
車内ではハンバーガー型のハンチング帽を被った妖精のような成長期のデジモン・バーガモンとエビバーガモンの二体が調理場にて慣れた手つきでハンバーガーを作っている様子が伺えた。
『ビーフバーガー、及びエビバーガー、できました!』
出来上がったいくつものハンバーガーをジュースやポテトと共に一緒に乗せて、従業員と思われる唐揚げのような姿をした幼年期デジモン・とりからボールモンが数体がかりで器用に運び、お客さんの元へと運ぶ。
どうやらデジモン達が営んでいるハンバーガーショップのようであり、キッチンカーのすぐ近くで食べているお客たちが商品であるハンバーガーを食べる姿を見て、ヨウトとエリヤの二人は胃袋が刺激された。
「う、美味そう」
「今日はここにしよう、うん、そうしよう」
互いに有無を言わさず、二人はバーガモン達のフードトラックへと赴く。
すぐさま自分達の注文の番が来て、ハンバーガーを作りながらバーガモンとエビバーガモンが出迎えた。
『『いらっしゃいませー! ご注文をどーぞ!』』
バーガモン達の元気な声を浴びた後、二人は車体に備え付けられてあるメニュー一覧を見た。
メニューには『チキンバーガー』、『アボカドバーガー』、『オニオンバーガー』、『ピザバーガー』といった様々なメニューが書かれていた。
個人的には『焼きソーバーガー』や『ガブモンバーガー』といったハンバーガーメニューもあったが……とりあえず目についた『キューバサンドバーガー』を頼むことにした。
「このキューバサンドのセットを二つ……あ、いや四つお願いします」
『『キューバサンドバーガーのセット、承りましたー!』』
閑話休題
『『お待たせしましたー! キューバサンドセットですー!』』
ヨウトとエリヤの前に差し出されたのは、分厚い豚肉を茶色く焼かれたバンズに挟み込まれたハンバーガーがメインとしたジュースとフライドポテト付きの代物。
キューバサンドバーガーの方は酸味の利いたピクルスと熱によってとろけたチーズが食欲がそそぎ、フライドポテトは素材そのままを生かすために皮付きのジャガイモをカットして熱々に油で揚げたモノだ。
どちらも美味しさは確実に保証されていると直感で実感した。
「う、美味そう」
ヨウトがそうポツリと呟いた後、二人は近くに立てられたパラソルテーブルに座ると、そこでデジヴァイスリンクスを取り出して席へと向ける。
「お昼ご飯だよ、ルナモン」
エリヤの言葉と共に、二人のデジヴァイスリンクスから出てきたのは相棒であるコロナモンとルナモン。
彼らは空いていた席に座ると、目の前に置かれたキューバサンドバーガーを見て目を輝かせた。
『うぉぉー! ハンバーガーだ! 美味しそう!』
『見たこともないハンバーガーだわ!』
コロナモンはその肉厚な所に喜び、ルナモンは新しい料理のハンバーガーにはしゃぐ。
どちらも嬉しそうな様子を見て、ヨウトとエリヤは互いに笑みを綻ばせた。
全員が椅子に座って席に着いた後、手を合わせて頂くことにした。
「「頂きます」」
『『いただきまーす!』』
四人は両手でハンバーガーを持ち、そして一斉に口へと運ぶ。
バンズごと肉にかぶりつくと、自分達の口内に広がる肉汁と特製ソースの味が合わさり、一同の目が見開いた。
チーズ、レタス、ピクルスといった食材も合わさってハンバーガー特有の味わいが四人の心を高鳴らせた。
『美味い』と声を漏らしながら余りの美味しさに舌鼓を打つコロナモンとルナモン達。その光景を見ながらヨウトはエリヤに話しかけた。
「このハンバーガー、中々いいな」
「うん、毎日食べたい……ってのは、強欲かしら」
「ハハハッ、かもな」
「こういう御馳走は、たまに食べるのがありがたみがあっていいのよね」
口角を上げて笑うヨウトの姿を見て、エリヤも釣られてニコリと笑みを浮かべる。
他愛無い話をしながら二人と二体、合わせて4人の束の間の昼下がりは下がっていく。
これは、彼らバディリンカー達の何気ない日常の一幕である。
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地水(ちすい)
2024年4月14日
In デジモン創作サロン
後編
進化を遂げたファイラモンとレキスモン。
二体は目の前へ迫ってくるトリケラモンとヴァーミリモンを迎え撃つべく、それぞれの攻撃を繰り出した。
ファイラモンは火炎弾、レキスモンは両の拳による鉄拳。
鈍い音と軽い衝撃波が響き渡り、開幕早々火花を散らし始めた。
『グォォォォォ!!』
『どっせぇぇーい!』
ファイラモンは突進してきたトリケラモンを真正面から受け止め、その力強い膂力を耐え凌ぐ。
その隣ではヴァーミリモンが振り下ろす角を捌きながら、正拳突きによる鋭いキレのある一撃を叩き込む。
『せぇぇぇい!!』
『グアッ!? グルルルル!』
レキスモンの攻撃を受けてしまったヴァーミリモンは一度退くも、唸り声を上げながら態勢を立て直す。
すぐ傍で戦っていたトリケラモンもファイラモンから離れ、次なる一手を放とうとする。
『トライホーンアタック!!』
三本の角による突進攻撃"トライホーンアタック"が放たれ、ファイラモン達へと迫っていく。
仮にも完全体による強烈な一撃だ。叩き込まれたら一溜まりもない。
ファイラモンとレキスモンは身構えると、トリケラモンを迎え撃つべくそれぞれの必殺技を繰り出した。
『ファイラクロー!』
『ムーンナイトキック!』
ファイラモンの繰り出した炎の爪"ファイラクロー"と、レキスモンが繰り出した急降下キック"ムーンナイトキック"。
それぞれ放ったの必殺技が突撃してくるトリケラモンへと炸裂し、激しく拮抗する。
力と力、力技の勝負が両者の間で繰り広げられている……だがその最中、カクデンの声が響いた。
「今だ、ヴァーミリモン! 撃てぇぇぇっ!」
『ヴォルケーノストライクS!』
トリケラモンの後方から放たれたのは、ヴァーミリモンが放った火炎弾"ヴォルケーノストライクS"。
真っ直ぐと向かってきたその火炎弾は味方であるはずのトリケラモンをも巻き込んでファイラモンとレキスモンへと炸裂した。
『『うわああああああ!?』』
「ファイラモン!」
「レキスモン!?」
吹き飛ばされたバディデジモンの名を叫ぶヨウトとエリヤ。
二体のデジモンは倒れ伏し、なんとか起き上がろうとするのが精一杯だった。
一方で先程の攻撃に巻き込まれたはずのトリケラモンは多少黒く煤がついただけで特段ダメージを受けている様子はない。
恐らく持ち前の頑丈さで爆炎を凌いだのだと推測できた。
その推測が合っているかのように、カクデンの余裕綽々な態度が示してくれた。
「へっへぇ、真面目に戦うと思ったか? お生憎様、使える手は何でも使うんだよ」
「お前、自分のデジモンを巻き込んでまでもか?」
「ハッ、承知の上さ。そのくらいのリスクをやらなきゃお前らは撃退できないからよ」
ヨウトの問いかけに清々しいまでの答えを言い放ったカクデン。
彼を相棒とするバディデジモンであるトリケラモンとヴァーミリモンは目をギラつかせながら戦闘続行の意思を示している。
調子に乗っている相手だったら手加減して捕縛する予定だったが、目の前にいるカクデンとそのバディデジモン達は言動に反して強い。
そう強く感じたヨウトは傍にいるエリヤへと呟く。
「エリヤ、アイツはセーブして戦えるような奴でもなさそうだぜ」
「そうだね。生意気な口調に対して実力は確かにあるようね」
「ハァッハァ、オレの凄さに今更気づいても遅いぜ……って、生意気ってなんだぁ!?」
自分に対する侮辱を聞き捨てならないと言わんばかりにツッコミを入れるカクデン。
だが目の前にいる強者に対して手加減はしてられないと悟ったヨウトとエリヤの二人はデジヴァイスを再び構え、バディデジモン達に対して叫ぶ。
「まだいけるよな、ファイラモン!」
『おうよ、当然だ! もうひと段階行くとするか!!』
「レキスモン、頑張れる?」
『ふふっ、当然よ。アナタが諦めない限り何度でも立ち上がるわ!』
リンカー達の声を聞いて態勢を立て直したファイラモンとレキスモン。
彼らの周囲には進化に伴う光のエフェクトを纏い始め、デジヴァイスから電子音声が鳴り響く。
【HYPER EVOLUTION UP】
『ファイラモン、超進化!』
『レキスモン、超進化!』
進化の光がファイラモンとレキスモンを身を包み、その姿を変えていく。
ファイラモンの姿が四足歩行から二足歩行に変わり、筋肉質な体の上から鎧を身に纏う。
黄金の鬣を長くたなびかせ、威風堂々とした雰囲気を露にする。
レキスモンの姿が女性のような体つきになり、胸部と頭部には装甲を身に纏う姿に。
その両腕には三日月型の鎌と盾"ノワ・ルーナ"を装備されていた。
再び進化を遂げた二体は、高らかに今の姿を名乗り上げる。
『エボルアップ、フレアモン!』
『エボルアップ、クレシェモン!』
ファイラモンから進化したフレアモンと、レキスモンから進化したクレシェモン。
成熟期から完全体のデジモンへと変化を遂げた二体のバディデジモンは、再びトリケラモン・ヴァーミリモンへと立ち向かっていく。
完全体へと進化を遂げた相手にカクデンは鬼気迫る表情で相棒たちに指示を言い放つ。
「トリケラモン、お前は前に出て赤い獅子の方を受け止めろ! ヴァーミリモンはその場で迎え撃て!」
『『グルォォ!!』』
カクデンの言葉にうなずくように唸り声を上げると、指示通りに動き出した。
まずトリケラモンが迫ってきたフレアモンとぶつかり合い、互いの両手を握り合って取っ組み合う。
バチリバチリと殺気を含んだ激しい視線を送り、時折トリケラモンから繰り出される頭突きをフレアモンが避ける。
二体が取っ組み合っている隙を狙い、ヴァーミリモンは自慢の一本角を構えて突進する。
『グォォォォォ!!』
『させない!!』
フレアモンへとその突進が決まろうとした瞬間、間に割って入ったのはクレシェモンだった。
手に持った盾でヴァーミリモンの突撃攻撃を受け止め、その場で踏み留まる。
成熟期の時とは全く異なる完全体の力量に少し驚くヴァーミリモンだが、自分のできる事はただ一つ。
|相棒《バディ》であるカクデンの指示を遂行するまで……そう思ったヴァーミリモンは足を踏み込んで打ち破ろうとする。
だが、それをさせまいと動いたのはクレシェモンだった。
『ルナティックダンス!』
クレシェモンが手に持ったノワ・ルーナを振るって放つ斬撃"ルナティックダンス"。
三日月の軌跡を描いた一撃がヴァーミリモンの胴体へと炸裂し、その重厚な巨躯をよろめかせた。
一方でトリケラモンとぶつかり合うフレアモンにも動きがあった。
完全体のデジモンの中でも剛力を誇るトリケラモンが猛攻を仕掛けてきたのだ。
『グルルルォオオオオ!!』
『ぐぉぉぉ!?』
突き出されたトリケラモンの角が目の前まで迫り、あわや突き刺さろうとした瞬間。
首を背ける事で咄嗟に避け、そのままの勢いで巴投げの用量でトリケラモンを投げ飛ばしたのだ。
間一髪、距離を離したフレアモンは必殺の一撃を叩き込もう構える。
『紅蓮獣王波!』
火炎と闘気から獅子のように形取り、エネルギー波として繰り出す"紅蓮獣王波"。
放たれたその一撃はトリケラモンへと炸裂し、大きく吹っ飛ばした。
フレアモンの強烈な攻撃を受けたトリケラモンは再び立ち上がろうとするが、止む無く力尽きるように地面へと倒れ込む。
同様にヴァーミリモンもぜいぜいと息を切らした後、地面へと倒れてしまう。
自慢が誇る完全体二体のバディデジモンを蹴散らされ、カクデンは驚いた。
「おいおい、一撃だと!? オレのベイビーちゃん達がなんで!?」
『乾坤一擲、我が一撃は全身全霊を以てぶつける。それだけあれば事足りる』
自分達の敗北に戸惑うカクデンに対し、フレアモンは真剣な眼差しで答えた。
強者同士の戦いは一撃でもまともに当たれば致命傷となる……その意味を理解したカクデンは自嘲気味に笑った。
「ハハッ、未熟だったのはオレの方だったか」
『さぁ、観念しなさい。もうアナタを守るデジモンはいないわ』
「チェッ、ここまで来て負けるなんざ、気に食わねえなぁ」
クレシェモンに投降するように迫ってくる状況でも、カクデンは不敵な笑みを浮かべた。
二体の相棒が戦闘不能の今、立ち向かえるものなにもない……内心諦め半分にくじけていたカクデンも、勝っている状況にも関わらず複雑な表情を浮かべていたヨウト達もそう思っていた時。
――凛とした声が耳に届いた。
「ブラキモン、ハンマーヘッド!」
「ッ!? 二人とも退いて!」
咄嗟に叫ぶエリヤの声を聴いて、フレアモンとクレシェモンは飛び退いた。
その瞬間、二人がいた場所へ飛んできた瓦礫が襲い掛かる。
今まで戦っていた広い部屋の壁をぶち破って現れたのは、見上げるほどの巨躯を誇る首の長いデジモンだった。
何が起きたのかと驚くヨウトだが、そこでカクデンの傍らに立つ男の存在を見つける。
その男――バンスケはヨウトとエリヤの二人がこちらの気づくと、表情を変えずただ静かに言い放った。
「悪いが、コイツらを捕まらせるわけにはいかない」
「バンスケさん!? イーファング幹部のアンタが何故こんなところに!?」
「さぁな。だがお前の飽くなき向上心は捨てがたいと思っただけだ」
表情からでもわかるほど心底驚いているカクデンの言葉に対し、バンスケは素っ気なく返す。
彼はトリケラモンとヴァーミリモンがデジヴァイスに収納された様子を見届けた後、カクデンの腕を抱えて背を向けてその場から離れようとする。
逃げる気なのか、と思ったヨウトが呼び止めた。
「待て、お前らを逃がすとでも……!?」
「別に俺とブラキモンはいいぞ。完全体の|その先《・・・》で殴り合っても……だが、そうなると新宿は更地になるかもな」
「ぐっ……!」
バンスケが口にしたある言葉を聞いて、何も言い返せなくなるヨウト。
『完全体のその先』、その言葉の意味をヨウトもエリヤも理解していた。
――究極体
デジモンが進化できる姿形の中で一番強力かつ強大な存在。
その気になれば人間の街の一つや二つ簡単に滅ぼせるほどの力を持つそれは、守る者にとっては諸刃の剣。
バディリンカーズは究極体の力の使い時を見誤ってはいけないのだ。
事実、ヨウトもエリヤも、バディデジモン達を究極体へと進化できる事は可能だ。
かたや全ての暗黒を焼き尽くし、光を照らす『太陽神』。
かたや闇夜の中に美しく照らし、眠りを誘う『月女神』。
そんな強力な二体のデジモン達に進化させればあの二人を捕縛できるかもしれない。
だが、相手が持つ究極体のデジモンとぶつかった場合、地上の新宿ごと壊滅するかもしれない……少なくとも相手はその気でこの場に乗り込んできたんだと、ヨウト達は悟った。
「お前、そこまでして仲間を助けるのか!?」
「お前達がどう思おうが勝手だ。俺は俺の勝手をするだけだ……さて、もうすぐ他のハンターも来る。いくぞ」
「ちょっと、待ちなさい!」
もうこの場には用がないと言わんばかりにバンスケはカクデンを連れて、その場から去ろうとする。
止めようと前に出ようとするエリヤだが、その瞬間ブラキモンが放った泡攻撃"ブラキオバブル"が迫る。
危ないと思ったその時、間一髪の所をヨウトに身体を寄せられて何とか回避し、無事に至った。
後に残されたのは、激闘を繰り広げた戦いの跡だけであった。
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数十分後、地上の新宿。
もう既に夜を迎えようとする時間になっており、チームロムルスやバアルモンの活躍によって他のイーファングの構成員達は捕縛され、引き渡し作業によって遅れて駆け付けたジェイが二人の目の前に現れた。
ヨウトとエリヤの無事な姿を確認すると安心したような表情を彼は浮かべる。
「無事なようで安心したよ」
「すいません、主犯格のバディリンカー達は逃げられました」
「ああ、わかってる……ブラキモン使いのリンカーは存じている。まさか幹部メンバーの横槍が入るとは」
ヨウトからの状況を聞いて、神妙な面持ちに変わるジェイ。
想像していたものよりイーファングの脅威は強大であり、当面は彼らに悩まされると感じたからだ。
ブラキモン使いのバンスケをはじめとしたイーファングの幹部達が何らかの事件を起こすのか。齎される被害は何なのか。それが今後懸念する事であった。
――だが。
何はともあれイーファングの構成員の捕縛任務は終わった。
名残惜しそうにミネルヴァモンがデジヴァイスリンクス越しに口を開く。
『あーあ、せっかくコロナモンとルナモン達と共闘の機会だったのにぃ』
「そういうなよミネルヴァモン。戦いじゃなくてもまた会いに行こう」
『むぅ……いっぱいおしゃべりして一緒に食べたいよぉ』
駄々をこねる子供を言い聞かせるようにミネルヴァモンを諭すジェイ。
その傍らではバアルモンが優しい眼差しで二人の様子を眺めており、仲の良い様子が見て取れた。
ディーハンターの面子の様子を後目にエリヤはヨウトの方へ近づき、こっそりと耳打ちをした。
「ねぇヨウト」
「なんだ?」
「デートの続き、もうちょっとしていいかな? やっぱりせっかく新宿に来たんだからさ」
「へいへい、エリヤの気が済むまで付き合ってやるよ」
「やったぁ、大好き」
「あっ、おまっ! ずるっ!?」
一先ずの勝利を手に入れたが、彼らの戦いは終わりを知る事はない。
見逃せない脅威がいまだに蔓延り、まだ見ぬ敵はこの世にいっぱいいるのは明らかだ。
それでも一緒にいたい人との一時の時間……そんなささやかな報酬を手に入れた彼ら英雄達は次の戦いも立ち向かうだろう。
――国造りの英雄の名を冠する、『チーム・ロムルス』
――彼らが使途するは、闇を切り裂き光を照らす相棒達。
――彼らの闘いは続く。次に戦いへ誘おうのは何者か。
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地水(ちすい)
2024年4月13日
In デジモン創作サロン
前編
東京都近郊・某所。
とっくの昔に廃れたボーリング場。そこには大勢の少年少女が屯していた。
仲間と駄弁ったり、持ち込んだゲーム機で遊んだり、転寝したりと思い思いに過ごしていた。
「まーたお前負けたのかよ! チェックメイターズの天才様に!」
「うるせぇ! だいたい強すぎるんだよアイツ!? ウッドプッシャーってなんだよ!?」
「ハハッ、それは考えなしって意味だよ!」
「ちげぇねぇ!お前はバカだからなぁ!」
「「「ギャハハハハ!」」」
とあるチームに挑んだ話で馬鹿笑いを上げるメンバー達。
そこへ、一人の人物がボーリング場へと現れた。
その人物が姿を現れことにより、その場にいた少年少女は表情が気が引き締まる。
鋭い眼つきが特徴的なその短い黒髪のその男――『洋城 バンスケ』は口を開いた。
「どうやら元気しているようだな。お前ら」
「「「バンスケさん!」」」
「大方頭数は揃ってるようだな……単刀直入に言う。備えろ、やってくるぞ」
バンスケから言われた言葉を聞いて、ハッとした表情を浮かべる一同。
鋭い眼光から見えてくるその真剣さを伺えた少年少女は先程まで談笑していた様子は何処へやら、まるで兵士の如く真面目に聞いている。
彼らの様子の変化を特に気を止める様子もなく、話を続けていく。
「先の秋葉原にて蛮勇な同胞がハンター達によって打ち倒された。アイツらは無謀だった」
「「「……」」」
「お前達は、俺達は無謀を勇気と吐き間違える奴らと違う。故に、俺達を掴まえに来るであろう連中を返り討ちにする!」
バンスケは自身の握る手を高らかに突き掲げた。
彼の激励を聞いた少年少女は狂喜の声を上げて、同じく握った手を突き上げた。
この場にいる一同が一丸となって【自分達を捕まえに来るディーハンターを倒す】という目的で動き始める。
出迎えの準備をし始める一同をバンスケは背を向けると、ボーリング場を後にしようとする。
その背中には切り裂いた爪のようなデザインEの文字が刻まれた皮のジャケットを羽織っていた。
その名は|E-FANG《イーファング》。
|EATER《食らう》、|EVIL《悪》、|END《終わり》を内包する闘争終わらぬチームの総称である。
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東京・新宿。
人々が賑わいを見せるその場所にヨウトとエリヤはやってきた。
傍らにはコロナモンとルナモンがしがみ着いており、興味津々に周囲を見渡していた。
『新宿、久しぶりに来たなぁ!』
『そっか、ヨウトはこういうところに興味がないものね』
「悪かったな。お洒落に無頓着で」
ルナモンが口にした茶化しにムッとした表情に変わるヨウト。
不機嫌そうな彼の様子にエリヤはニヤリと笑うと、彼の手を掴み指を絡めた。
そして悪戯ような笑みを向けて口を開く。
「じゃあさ、ちょっとだけでもデートでもしてみる?」
「それは……あとにしろ。頼まれ事済んでからにしろ」
「あれ、デートはしてくれるんだ? ヨウトくーん」
「うるせぇ……」
小馬鹿にしたような笑みを浮かべるエリヤを見て、ヨウトはそっぽを向いた。
その耳は若干真っ赤になっていたようにも見えた気がしたが、一瞬だけのことだったのでエリヤ自身は気にも止めることもなく、笑みを絶やさずにしていた。
そんな二人の独特なやりとりを二体のバディデジモン達は呆れた表情を浮かべていた。
『おいおい、二人ともなぁ……』
『とっくの昔にお互いの気持ちを通じ合っているくせに』
片や恥ずかしがるヨウト、片や面白がるエリヤ。
自分達の相棒であるリンカー達の複雑で単純な人間の感情にバディデジモン達は大変そうだなと思いながらも、長年相棒を務めているため諦めた様子で付き合うことにした。
少しだけ、もう少しだけこの日常を楽しんでいたかった。
なんも変哲もない、普通の男の子と女の子の時間を過ごしたかった。
今となっては些細な幸せとなった夢のような時間……。
だがその時間は、デジヴァイスに入った連絡によって共に唐突に終えた。
立体映像として写し出されたのは、新宿区内に示されたとある座標。
それは新宿の地下に位置する場所であり、そこにイーファングが根城にしているアジトがあるとメッセージにて書かれていた。
場所はココからすぐ近くだ。だがエリヤは少し残念そうに俯いた。
「……そっか、意外と近くだったんだね」
束の間の甘い時間が終わった事に少し寂しい表情を浮かべるエリヤ……その彼女の様子に、ヨウトは彼女へ言い聞かせるようにポツリと呟いた。
「デートはいつでもできる。また新宿に行こう」
「……! そうだね! 新宿だけじゃない、お台場や秋葉原だって行きたいよ!」
「フッ、いつもの人食ったような性格に戻ったな」
「ええっ、何よーそんな言い方ないじゃない!」
ニヤリと笑うヨウトに抗議をするエリヤ。
二人は傍らで暖かい目をしている相棒達を連れて、示された場所へと向かっていく。
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数十分後、新宿の地下鉄の駅へとやってきたヨウト達一同。
今は多くのデジモン達を交えた人々が電車を待つ光景が広がる中、そこでジェイの姿を見つける。
彼は口を開かずにこっちだと言わんばかりに手招きをしており、二人はそれに従って駆け寄る。
合流した一同は先程送られた場所へと人気がない場所へと向かうことになった。
「ジェイさん、さっき送られてきた場所って奴らのアジトですよね」
「ああ。あいつらは今は使われてない廃れた地下鉄の駅を根城に使っているんだ。独自のルートを使ってな」
「ふぅん、まるで|土竜《モグラ》みたいね。いや、恐竜デジモン使ってるから、あながち繋がりあるかも」
「エリヤ、キミが冗談言えるくらいなら俺の背中を任せても大丈夫だな」
ヨウトとエリヤの様子を見て、ジェイは安心したような笑顔を浮かべる。
3人と2体は使っていない地下鉄の通路へ入っていき、アジトがある方向へと進んでいく進んでいく。
遠くの方から電車の音が聞こえながら、一同は向かう。
やがて辿り着いたのは、新宿区内に存在する使われてない廃駅。
本来ならば人気のないはずのその場所なのだが、そこに人影がいくつもあった。
ヨウト達と同い年くらいのイーファングの構成員と思われる少年少女と、彼らに付き従う恐竜型のデジモン達の姿があり、殺気立つような警戒している様子だった。
まるで既に敵が来ることを察知してるかのような対応にジェイは訝しんだ。
「既に待ち構えているだと……? だが情報が漏れているとは思えないし、誰かが先読みしたのか?」
「どうするんだ?」
「一旦ココから離れますか?」
「……いや、ここは俺が派手に暴れまわって陽動する。お前達は先に行け」
撤退するという案を退け、自ら陽動役を引き受けるとジェイは告げた。
ヨウトはエリヤの方へ顔を向けると、互いに頷く。
二人の様子を見てに穏やかな笑みを浮かべた後、ジェイは自分の赤いデジヴァイスリンクスを構え、一歩踏み出した。
「フリーズ、ディーハンターだ!」
「ッッ!? 来たぞ、ハンター達だ!」
ディーハンターであるジェイの登場により、引き締まった表情を露にするディーファング構成員達。
彼らは傍らにいた恐竜型のデジモン達に呼び掛けた。
「目にモン見せてやれ、タスクモン!」
「ぶっ倒すぞ、アロモン!」
「ぶちかませ、モノクロモン!」
「切り裂け、ステゴモン!」
「やったれ、パラサウモン!」
『『『グォオオオオオオ!!』』』
一斉に獣じみた咆哮を上げる恐竜型デジモン達。
シンプルな力技が得意なデジモンが多く、数で圧されては間違いなく苦戦するだろう。
だがジェイは焦る様子も見せず、余裕の態度を崩さない。
「さてと、ココの適任者は」
『ジェイ、俺が行こう。愚か者どもに少し灸を据えてやる』
「わかったよ。―――リロード、バアルモン!」
ジェイのデジヴァイスリンクスから放たれた光から飛び出てきたのは、一体の人型のデジモン。
護符で作られた白いマントに青いターバン、金色の髪に真紅の瞳。何より目を引くのは異形に長い片腕。
【気高き王】とも呼ばれるその魔人型デジモン・バアルモンは手に持った赤い打神鞭を構え、デジモン達を従えるイーファングへ言い放つ。
『知恵足らぬ愚か者共、手加減してやるから全力で掛かってこい』
「たった一人で生意気な! いけぇ!!」
『『『グォオオオオオオ!!』』』
バアルモン目掛けて一斉に襲い掛かる恐竜型デジモン達。
多勢に無勢などなんのその、バアルモンは静かに腰を低くするような構えをとり、そして地面を蹴り上げた。
一方その頃、ジェイとバアルモンが大立ち回りを繰り広げているであろう頃。
イーファングのアジトへの潜入が成功したヨウトとエリヤは向かってくる刺客を蹴散らしているところであった。
「コロナモン!」
『食らいな! コロナフレイム!』
「ルナモン!」
『行くわよ! ティアーシュート!』
コロナモンが放った火炎弾"コロナフレイム"とルナモンが放った水の球"ティアーシュート"が、イーファングの構成員であるエレキモンや黒いウィルス種のアグモンといったデジモン達を撃破しながら進んでいく。
やがて辿り着いたのは大きく広い空間……そこには2つの人影があった。
三白眼とニヤリと笑う口元が印象的なその茶髪の少年はヨウト達の姿を見て、笑い声を上げた。
「へへっ、お前達か? 幹部さん達が言っていたハンター達は?」
「ハンター……ディーハンターのことか。まあ合ってるぜ」
「そう言うことなら、オレ達が相手になってやるぜ……そう、このオレ、イーファング一の|特攻《ブッコミ》隊長であるカクデンがなぁ!」
高らかに名乗り上げた少年・カクデン。
彼の傍らには二体の恐竜型デジモンがゆっくりと自身の姿を露にした。
片や三本の角を生やしたトリケラトプスを思わせるデジモン・トリケラモン。
片や赤い体表に大きな一本を持った巨大な鎧竜を思わせるデジモン・ヴァーミリモン。
彼らは鼻息を荒くしながら、敵であるヨウト達を見据えていた。
「出番だ、トリケラモン!ヴァーミリモン!天下のイーファング次期幹部候補として、ココは死守させてもらう!」
『『グォオオオオオ!!』』
唸り声を上げてヨウト達へと突進を仕掛けようとするトリケラモンとヴァーミリモン。
二体の恐竜型デジモンが迫ろうとする中、ヨウトとエリヤは思いっきり叫んだ。
「コロナモン!」
「ルナモン!」
「「進化だ!」」
ヨウトとエリヤ、二人がそれぞれ構えたデジヴァイスから光が放たれる。
それは、鳴り響いた電子音声と共に二人のバディデジモンの姿を変えていく。
【EVOLUTION UP】
『いくぜ、――コロナモン・進化!』
『了解、――ルナモン・進化!』
デジヴァイスから発せられた光を受けてコロナモンとルナモン、二体のデジモンは全く異なる姿へと変化していく。
コロナモンは翼と立派な鬣を生やした四足歩行の赤い獅子のような姿へと。
ルナモンは両手にグローブを纏った仮面を被った二足歩行の兎のような姿へと。
人間とは全く異なる変貌であり、デジモンしか持ってない固有の能力『進化』をしていく二体のデジモン。
そして進化によるそれぞれの変化を終えた後、二体は今の自分の名前を高らかに名乗り上げた。
『エボルアップ、ファイラモン!』
『エボルアップ、レキスモン!』
コロナモンが進化したデジモン・ファイラモンと、ルナモンが変身したレキスモン。
成長期から成熟期の姿へと変わった彼ら二体は、迫りくるトリケラモンとヴァーミリモンへ目掛けて走り出す。
そして欲望のまま貪り尽くす悪しき牙の尖兵を打ち倒すべく迎え撃った。
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地水(ちすい)
2023年8月26日
In デジモン創作サロン
中編
東京・某所。
都内でも有名なとある大型マンションの、とある一室には二人の人物が住んでいた。
寝室も兼ねている自室にてベットの上で寝ているのは、赤毛の少年。
10代半ばほどの年齢を彼は未だ眠りから起きず、叩き落とされた毛布が彼の寝相の悪さを物語っている。
「すぅ、すぅ……むにゃにゃ、もう食べられないぜ」
赤毛の少年は未だ夢の中。
寝息を立てて惰眠を貪っていると、彼の寝室が開いて誰かが入ってくる。
一般的に言えば、10人中10人が振り向いて綺麗と答えるほどの整った顔立ちを持った10代半ばの紺色の髪色の美少女は呆れた表情で口を開いた。
「はぁ、まだ寝てる……ヨウト、起きて」
「ううん……何だよエリヤ。まだ寝かせてくれよ」
「だーめ、いい加減起きてよ。起きない寝坊助には朝御飯抜きだから」
「おいおい、それだけは勘弁しておくれって!」
額をハの字に寄せた少女の言葉によって飛び起きた少年。
彼ら二人の騒がしい朝は今日も始まっていくのであった。
少年の名前は、『乱獅子ヨウト(らんじし・ようと)』。
少女の名前は、『如月エリヤ』。
二人はかの秋葉原最強のバディリンカー達・チームイズモと並ぶ強豪のバディリンカーである彼ら。
その名は、『チームロムルス』。
かのローマ帝国の礎となった国造りの英雄・ロムルスの名を関する彼らが今回の話の主役である。
――数十分後。
「「ご馳走様」」
朝の食事が終わった後、向かい合わせの席で手を合わせるヨウトとエリヤ。
こなれた動きで二人は空となった食器を片付け、水で軽く洗い流しながら水へをつけておく。
既に制服姿に着替えた二人は家を後にしようとした。
「んじゃあ、行くか」
「うん、行こう」
「「いってきます」」
二人の声が重なるように、バタンと家の扉は閉められ、二人は小走りに出入口へと向かっていく。
マンションから出て、すぐに通学路へと入り、自分達の学校へ向かう。
途中ではデジモンを連れた同級生達の姿がチラホラと視界に入っていくる。
中にはダチョウのような体形をしたデジモン・ペックモンやシーサーの姿を形どったデジモン・シーサーモンにトナカイの姿をしたデジモン・ムースモンなどの成熟期デジモンを用いた通学をしている生徒もいた。
最早現在の子供達によっては見慣れた光景と化している非日常を横目に、ヨウトとエリヤは特に驚きもせず歩いていく。
やがて辿り着いたのは、二人が通うとある高校。
校名は『城南大学附属高校』、知る人ぞ知るあの【城南大学】に属する学校は多くの生徒が通っている。
なんでも世界に轟かす有名人を輩出しているらしいが……そんなことはヨウトもエリヤも興味がない。
普段通りに校門を通過した後、そこで一人の少女が声をかけてきた。
「お二人とも、おはようございます」
「おぉ、奏さんじゃん。朝早いね」
「ミユキさん、おはようございます」
そこにやってきたのは、一人の少女。
淡い水色の髪色が特徴的な彼女……『奏 ミユキ』はヨウト達へ挨拶をした後、質問してくる。
「前から思っていたんですがヨウト君とエリヤさんって同じ時間にやってきますよね」
「んー? そうか?」
「まあ家はお隣同士だしねぇ」
ミユキに対してヨウトは疑問符を浮かべるような表情を浮かべ、エリヤは真実を交えて受け答えした。
……実際の所、ヨウトとエリヤは【とある理由】でいわゆる男女のカップルのような同棲当然の生活を同じ部屋でしている。
この現在社会、年端も行かぬ青春期の異性を同じ住まいに住まわせる事は健全なことなのかと問いだされかねないので、とりあえず黙っとくことにした二人。
ミユキは二人の隠している事など気付く様子もなく、次の話題に移りかけていたその時、一つの声がデジヴァイスリンクスから聞こえてきた。
『おーっと、ちょっと待ってくださいませミユキ様』
「ちょっ、ライラモン!?」
『そこの隠しているお狐様たち。お天道様が見抜けなくても、この私ライラモンがキッチリピッタリお見通しという事を教えて差し上げますわ!』
独特の言い回しをしながらミユキの隣に一体のデジモンが出現する。
ライラックの花のような意匠が入った植物と女性を合わせたような見た目をした人型デジモン・ライラモンは二人を見やった。
『むむむっ』
「おぉ、確かお前はミユキのバディデジモンか」
「私達の顔に何かついてますか?」
『いいえ、綺麗で端正な顔以外、何も貼り付いてませんわね』
訝しむ様子のライラモンにヨウトとエリヤはジト目で見返す。
まるで呆れているような表情を浮かべている二人に対して、そんな目など気にせずライラモンは言葉を紡いでいく。
『噂に聞くと、あなた方デジモンのチームとして有名じゃあありませんか』
「えっと確かチームロムルスだったよね。今世界中にいる強豪チームの中でもトップクラスで強いっていう」
『ええミユキ様。正解でございます。彼らの強さは天井知らず。ことある事に話題となる腕前とその強さは誰も彼も魅了します』
「「そりゃどうも」」
『片や冷たき月やら月光のエリヤ様、片やレッドサンやら日輪のヨウト殿とか色々呼ばれる異名持ち。そんな孤高のお二人ですがお二人のご関係ってどんな感じなんですかぁ?』
「ヨウトさんとエリヤさん、そんな風に言われてるんだ……」
『ズッバーリ! アナタ方は誰にも言えぬ恋仲なのではあっりませんかー!?』
まくし立てるように話しかけるライラモン。
そんな彼女の言葉に対して、興味なさそうに欠伸をするヨウトと一片たりとも変わらないまま笑顔を向けるエリヤ。
二人と一体の間に奇妙な空気が漂い、リンカーであるミユキはあわあわと戸惑っていた。
そんな時だった。三人の元へ声が聞こえてきたのは。
「コラー! そこの三人、遅刻しますよー!」
「わわっ、メイちゃん先生!?」
ミユキが振り向くと、そこには眼鏡をかけた長い黒髪の女性。
『メイちゃん先生』と呼ばれた彼女はわざわざ出入口から出てきて、白衣をはためかせながらやってくる。
その傍らには毛の長い猫のような見た目のデジモンが付き添う姿もあった。
「まったく、長話してるとホームルームに間に合わないですよ!」
「えっ、やばっ、もうこんな時間!?」
「それにライラモンさんもあんまり人をからかわないでください!」
『すみませーんメイちゃん先生、気を付けまーす』
メイちゃん先生に告げられて、ミユキは慌てふためき、ライラモンは不服そうに従って登校口へと向かっていく。
そうしてほとんどの生徒が校内へと入っていく中、同じく自分の教室へと向かおうとするヨウトとエリヤをメイちゃん先生が呼び止めた。
「ああそうだ、ヨウトさんとエリヤさん。お昼の休憩時間にお客さんが来ますから予定空けておいてくださいね」
「えっ、お客さん? 一体誰なんですか?」
「ディーハンターのジェイさんですよ。また捜査依頼なのかしら」
ヨウトの質問にお客さんの名前を答えたメイちゃん先生は、隣に付き添っていた猫型デジモンを抱きかかえると、彼らが呼ばれた思い当たる節を口にした。
『ジェイ』というお客さんの名前を聞いて、エリヤは先程とは異なり神妙な面持ちを浮かべる。
「ジェイさん、か。また何か事件起きてるんだろうか」
「さてな。でもどっちにしろ、腕を買われている事には違いないんだろ?」
何かデジモンによる事件が起きているのではないか……少し考えこむエリヤに対し、ヨウトは特に悩む様子もなく再び歩き始めた。
前へと向かうヨウトにエリヤは慌てて追いかけていく。
そんな二人の様子を見て、メイちゃん先生はボソリと呟いた。
「お似合いねぇ、あの二人」
『青春だねぇ、メイ』
「そうだねー、メイちゃん。あっ、私達も教室へ行かないと」
お互いに『メイちゃん』と呼び合う先生と猫型デジモンことメイクーモン。
二人が校舎へと入った後、始業を知らせるチャイムが鳴り響いたのであった。
~~~~
時間は過ぎ去り、お昼休みのチャイムが鳴り響く。
ヨウトとエリヤの二人が校内にある会議室にやってくると、そこには一人の青年がいた。
二人にとっては見知った人物であるその青年・ジェイはヨウト達が部屋に入ってくる姿が見えると、笑って出迎えてくれた。
「よぉ、ヨウトにエリヤ。久しぶり、でもないか」
「どうもジェイさん。変わらずお元気そうで何より」
「リヴさん達の他のハンターの皆は元気でしょうか?」
「ああ、元気に活動してるよ」
ジェイとのたわいもない会話を繰り広げるヨウト達。
お互いに席に座った後、ジェイは真剣な面持ちで話し始める。
「ヨウト、エリヤ。さっそく要件を伝えよう。俺達ハンターと協力してイーファングの暴走を止めてくれ」
「イーファングって、あのイーファングか?」
「前に秋葉原で暴れまわる事件を起こした奴らですよね」
ヨウト達が思い浮かべるのは、つい最近秋葉原にて起きたデジモン珍走事件。
主犯はE-FANGイーファング、ティラノモンをはじめとした恐竜のデジモンで構成されたチーム。
彼らは秋葉原にて活動するチームを潰して支配地域を伸ばそうとしていたが、駆け付けたディーハンターと"黒い剣士のバディデジモンを連れたリンカー"によって阻止されたという事を聞いている。
後者のバディリンカーについては噂は眉唾物だが、心当たりがないわけでもないが……。
それより気になる事をエリヤが訊ねた。
「でもあいつらってジェイさん達ハンターの手によって取り締まったんじゃないんですか?」
「そうでもない……イーファングは構成員だけなら他のチームより圧倒的に多い。あの時掴まえたのは、チーム構成員全体から見てもたった一握りなんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「なんというか、一昔前にあったヤンキー漫画にありそうな話ですね。それって」
ジェイから告げられた事情を聴いて聞き返すエリヤと、その隣で規模の大きさに遠い目をするヨウト。
今までも何度かデジモン犯罪に加担するバディリンカー達相手に戦った事もあるが、今回の依頼は骨が折れそうだと予感がしたからだ。
相手の人数はこちらより圧倒的に多くて危険そうにも思える……そう感じとったヨウトとエリヤだが、そこへ二人のデジヴァイスリンクスから声が響き渡った。
『ヨウト! やろうぜ、困ってるヤツを見過ごしていいわけないだろ?』
『エリヤ、アナタがその気なら私達戦うわよ』
一つは元気そうな声、一つは大人びた声。
名前を呼ばれた二人がデジヴァイスリンクスを取り出すと、そこから二体のデジモンが飛び出してきた。
ヨウトのオレンジ色のデジヴァイスからはオレンジ色の小さな体躯に獅子のような鬣を持ったデジモン・『コロナモン』。
エリヤの紫色のデジヴァイスからは白い小さな体躯に長い耳を持った兎のようなデジモン・『ルナモン』。
二人のバディデジモンである彼らはジェイの方へ向かうと大声で話す。
『ジェイさんよ、アナタがオレ達の腕を見込んで声をかけたのは見え透いているぜ』
『百戦錬磨の私達に依頼をしてくるなんてお目が高いわね』
「まあね。君達にはこっちのバディが推薦もあったからね」
コロナモンとルナモンに対し、ジェイは自身の真紅色のデジヴァイスを見せた。
そこには彼のバディデジモンの一体であるミネルヴァモンの姿が映し出されていた。
ミネルヴァモンはデジヴァイスの中から話しかけてきた。
『よぉ、お二方。元気そうじゃんか』
『『ミネルヴァモン!』』
「同郷の伝手ってやつさ。どうせ誰かに手伝わせるならチームロムルスがいいって言われてさ」
ジェイは苦笑を浮かべて、観念したかのように両手を上げる仕草を披露した。
その時口に告げた『チームロムルス』という単語を聞いて、ヨウトとエリヤの瞳の色が変わった。
「俺達をチームロムルスとして頼るってなら、やりますよ。その依頼」
「元々受けるつもりだったんですけどねぇ。理由が理由だから、より一層気合入れていかないと」
ヨウトとエリヤはそう答えて依頼を受諾した。
二人の瞳の奥には燃え滾る炎のような輝きを宿していた。
ジェイはやる気溢れる二人の姿を見て、ジェイは安堵したような表情を浮かべる。
「そう言ってくれるとありがたい限りだよ」
『チームロムルス、作りだすは英雄伝説《ヒーローサーガ》、ってか』
ヨウトとエリヤ、二人のチームの通り名を思い出すように、ミネルヴァモンはデジヴァイスの中で呟いた。
――彼らの名は『チームロムルス』。
――かの欧州に名を轟かしたローマ帝国、その礎となった国作りの英雄の名を冠するバディーリンカー達である。
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地水(ちすい)
2023年8月21日
In デジモン創作サロン
#演葬
中編
(https://www.digimonsalon.com/top/dezimonchuang-zuo-saron/dian-huan-mo-swu-guai-qi-tan-mu-jue-meruhuang-jin-jian-zhong-bian)
夜を迎えつつある夕方。
五十土町内にある、とある幽霊屋敷にやってきた俺とズバモン。
長年放置されていたのか草木が茫々と無造作に生えており、屋敷はもはや壊れる寸前なほど廃れていた。あまりの荒れ具合に俺とズバモンは眉を顰めるが、その屋敷の奥にいる存在に気付いていた。
『おいマサモリ、気付いてるか?』
「ああ、確かにいる」
奴さんがいるかもしれない恐る恐る足を踏み入れる俺達。
幽霊屋敷の土間に当たる部分の入り口から内部へ入ると、すぐ隣へ繋がっている居間に何か積み重なっていた。
目を凝らしてよく見ると、それは金銭や小判、簪に綺麗な反物といった金目の物になりそうな物品が山のように積み上げられていた。
そのどれもが人斬り事件の現場で襲撃を受けた店や家のものだと俺は悟った。
「盗まれたものがこんなに」
『へっ、とんだ盗人だぜ。金目になりそうなもんを根こそぎ集めて蓄えてるたぁ』
ズバモンは呆れた様子で山積みになっている盗まれた物を見ていた。
するとそこへ何者かが声が聞こえてきた。
「だ、誰だぁ……お前?」
振り向くとそこには少し汚れた着物を纏った初老手前の男性がいた。
男の顔は痩せこけており、まるで鬼か何かに憑かれている有様だった。
ズバモンへ目配せすると、何かを感じ取ったように頷き、この男が件の士族の親父さんだと思った。
俺は緊張しながらもはっきりとした声で名乗り上げた。
「桐谷流剣術師範代、緋山真守。茅という娘の頼みでお前の凶行を止めに来た」
「茅、だと……お前、オレの一人娘に何をっ」
「鬼に憑かれて盗みを繰り返している父親を止めてくれと頼まれたんだ」
俺は臆する自分を殺しながら士族だった親父さんを見据えた。
親父さんはブツブツと呟き、定まらない視点で下を向けて様子を取り乱し始める。
「俺はっ、母を先立たれていない茅のためにっ……身売りさせたくねぇ……俺はどうなってもいい、でも、茅、娘だけは、娘だけは生きて、生きて、生きて……ああああああああああ!」
うわ言の様につぶやく親父さんだったが、その背後から異形の幻影が出現する。
鋭い大鎌を持ったカマキリのような半透明の化け物――スナイモンは、親父さんの動きと連動するように苦しむような様子を見せる。
まるで男の苦しみがスナイモンにも伝わってるように……その様子を見て、ズバモンは俺へと向かって叫ぶ。
『マサモリ! ここじゃあ戦いに不利だ! 殴り飛ばすか蹴り飛ばしてでもいいからアイツを外へ出すぞ!』
「あ、ああ……わかった!」
俺はズバモンの言葉に従う形で男へと近づき、体を掴んで親父さんを外へと投げ飛ばした。
襖を破りながら既に日が落ちて夜になった外へと放り出たその瞬間、親父さんの姿と重なり合うようにスナイモンの幻影が重なり、その姿をデジモンの姿へと変えていく。
完全に実体化したスナイモンへと姿を変えると、野性じみた奇声を上げて襲い掛かろうとする。
『キシャアアアアア!!』
「ズバモン!」
『いいぜ、マサモリ……どうやら縁(エニシ)は既に結ばれてるみてぇだ!』
迫るスナイモンを前に逃げず構えをとる真守(オレ)と、彼の呼び声にズバモンは大きな声で答えた。
振り下ろされた大鎌をズバモンが頭部で受け止めると、そのまま自分を黄金剣の姿形となってはじきとばし、真守の手元へと収まる。
しっかりと握りしめたその黄金剣を構え、俺はいったん見据えて……そして切り込み口を見つけ、走り出した。
「ッッ!!」
スナイモンが振り下ろす大鎌からの風の刃――真空波を目掛けて、俺は一閃した。
振り下ろした黄金剣の刀身は真空波を受け止め、そして容易く砕け散らせる。
まるで硝子が砕け散るような耳につく音が鳴り響かせ、真守は斬撃を叩き込む
「ハァ!」
『ギッ』
突き出した黄金剣の斬撃をスナイモンはなんとか防いだ。
金属音が鳴り響く中、そこで目にしたのは前にスナイモンの大鎌につけたはずの皹が跡形もなく治っていたのだ。
もしや負った手傷が治るほど先程より強くなっているのではないか……そんな俺の懸念がぶち当たるように、スナイモンは両腕の大鎌が一瞬歪んだ。
否、歪んだというよりは形を変えたのだ。まるで戦斧のように肥大化した大鎌は、容赦なく振り下ろされた。
「ぐっ!?」
ガキィン、と重量を誇る鈍い一撃が黄金剣越しに響いた。
どうやら攻撃の一撃一撃が重くなっているようで、例え砕けぬ毀れぬと謳った黄金剣でもこれを受け止めるには一苦労すると俺は悟る。
それになぜ、突如スナイモンの大鎌が変貌したのか、俺がその事に驚いていると黄金剣となっていたズバモンが声を発する。
『なるほどな、あのスナイモン飲み込まれてやがる』
「飲み込まれているだと?」
『ウィザーモンは奴さんに憑りついていると推測してたが……今、目の前にしてわかったぜ、逆だ。アイツの娘を思う感情が大きすぎて、乗っ取られているんだよ。だからああいう体の構造を無視した無茶ができやがるってんだ!』
――それは、本来ならあり得ない事。
異界からの魔獣・デジモンに利用される人間のはずが、内包していた負の感情に飲み込まれ、宿主の激情のままその力を振るっている状況。
スナイモン自身が何の目的で男に近づいたかは分からないが、それが運の尽きだった。
男の娘を失いたくない心の叫びが、スナイモンを支配し、逆に乗っ取ったのだ。
スナイモンと化した男はその凶刃で盗みを働き、そして誰かを手に掛けた。
もはや歯止めが聞かないところまでやってきた事を悟ると、俺は黄金剣を握る手を強める。
「止めるぞズバモン……アイツの凶行を、ここで断ち切る!」
『おうよ! 策はあるんだよな?』
「今、思いついた……あとは俺と、お前を信じる!」
俺は決意を決めて、再び走り出す。
確かに策は思いついたが、上手く行く保証はない……だが、引き下がるわけにはいかなかった。
このまま魔獣の力で凶行を繰り広げられるわけには、親父さんの悪行に悲しむ娘の茅ちゃんを泣かせるわけにはいかなかった。
地面を蹴り上げる速度を速め、素早く駆け出していく。
目指している先では再びスナイモンが両腕の大鎌を振り下ろそうとしていた。
『ギャッ!』
振り下ろされた大鎌が、俺へと迫る。
ここだ、と言わんばかりに俺は全身の力を込めて、黄金剣を独特な軌跡で振るった。
「二十剣撃・二ノ陣」
「覚醒顎(かくせいあぎと)」
まるで翼を広げる鳥のように、両サイドにいくつもの刃の軌跡を素早く描く。
スナイモンの大鎌がその軌跡に触れた瞬間、ガキィンと共に大鎌は俺――真守の真横に深々と突き刺さった。
地面へと刺さったそれを抜ける様子はなく、スナイモンがこまねいてる所へすかさず次の技を叩き込んだ。
「二十剣撃・三ノ陣」
「昇り赤龍(のぼりせきりゅう)……おりゃああああ!!」
黄金剣での力一杯に衝撃をスナイモンの空いた大鎌へと下段から上段へ叩き込む。
まともに受けてしまった戦斧のような大鎌へ皹が入り、ガラス細工のように砕け散った。
自慢の得物を失い、スナイモンから悲痛な声が響き渡る。
『キシャアアアアア! か、やぁぁぁぁぁ!!!』
スナイモン自身の叫びと親父の叫びが入り混じって、慟哭が幽霊屋敷を突き破って轟く。
己を蝕む魔物の悲しみを断ち切るをつけるべく、俺は走った。
『キシャ、あああああああああ!!!』
スナイモンは地面に突き刺さった無事な方の大鎌を引き抜き、勢いよく振りかざした。
だが……振りかざされたその刃を受け流し、スナイモンの横っ腹へ横からの蹴り飛ばす。
常人大を超える巨躯は地面を転がり、仰向けとなる。
だが大鎌が重くてスナイモンはうまく立ち上がれない……それを見て、思わず呟いた。
「やっぱりな……アンタ、巨大化した大鎌のせいで自慢の速さが落ちてる」
『ギィィィ……』
「スナイモンとやらのままだったら、もうちょっと苦戦していたが……人と混じり合いすぎたから、できた隙だ」
人とデジモン、肉体が持つゆえに苦しむ者と実体を持たない故に渇望する者。
苦しむ者同士が生み出した異常な武器は相手を倒すには十分なほどの威力を持つが、同時に思わぬ弱点を生み出した。
知識人じゃない自分らしからぬ頭を使った考えを巡らしながら、俺はとどめの一撃を叩き込もうとした。
腰を捻りながら落とし、身体を捻った状態で、地面を蹴り上げて走る。
「二十剣撃・十六ノ陣」
「疾車(はやぐるま)!」
それは目にも止まらぬほど走る車輪の如く、素早く体を回転させた斬撃。
スナイモンは大鎌を無理やり構えて迎え撃つが、暫し拮抗した後に大鎌を弾き飛ばす。
そして回転した勢いのまま胴体目掛けて叩き斬った。
金色の光が、闇夜の中で光り輝く。
その幻想的な光景に、ある意味俺は魅入られていた。
叩き斬られたスナイモンは再び幻影となって倒れ伏す。
透けた体のスナイモンから出てくるように一体化していた親父が吐き出された。
すぐさま近寄って確かめると、男には微かに息があり、どうやら生きているようだ。
一先ずは一安心……そう思った俺はチラリと幽霊屋敷の方に視線を向けると、すぐさま次の問題が出てきた。
「あっ、ここにある盗まれたもの、どうしよう」
俺は困り果てたように、苦笑をうかべるしかなかった。
ともかく、人斬り事件はもう起こる事はなくなったのは確かだ。
~~~~
その後、士族だった男こと茅の親父さんはウィザーモンの手により命は無事に済んだ。
だがデジモンと融合していた事は相当の負担だったようで、少しの間は病院住まいと言われた。
その間の茅の面倒と次の稼ぎ口はうちの道場で面倒を見ることになった。
一方、真守の知人……次郎とやらの伝手で知ったが人斬り事件は迷宮入りとなった。
無理もない……事件を引き起こした犯人は茅の親父さんがスナイモンと融合してため、蟷螂の怪物が盗んでいたのだ。
世間から見れば蟷螂の怪物は何者なのかの分からないまま、何も知らない人々は化け物の蟷螂の当分怯える事となるだろう。
それはそれとして、次郎とやらは何か俺を怪しんでいたようだが……それは別の機会になるだろう。
そして今、真守は早朝の道場での一仕事を終えて、朝飯の準備をしていた。
本来なら師範かそれに関わる人間が準備するのだが、それより一足早く飯の準備をしていた。
――それは、新たなる隣人であるオレ達のためのものだった。
「ほら、ズバモン、ウィザーモン、できあがったぞ」
『ありがとう、マサノリ』
『おう、サンキュー』
道場での掃除を終えたオレ達の前に差し出されたのは、お盆に乗った握り飯と沢庵、味噌汁。
白く炊きあがった米を塩で味付けして三角上に整えて海苔を巻いた握り飯、大根を糠につけて漬物にした黄色い沢庵、青葱と豆腐をぶちこんで味噌で味付けした汁物、だったか。
とにかくシンプルながら美味そうなそれをオレ達デジモンは早速ありつくことにした。
我ながら箸を器用に使って口へ運ぶとひろがる素朴な味は。
『うんめぇなぁ、デジタルワールドじゃ肉とか野菜が主流だったが、こういう飯もいいもんだなぁ』
『そうだな、ロンドンや中華でも飯はありつけたが、日ノ本の飯はなかなかどうしてシンプルながら美味しいんだ……』
「それって褒めてるのか?」
真守はジト目で見ながら、自身の作った握り飯にありつく。
料理の腕は中々いいもんだな、とオレは思いながら若干辛めに整えた味噌汁を味わっていると、急に真守が話しかけてきた。それも真剣な面持ちで核心をつくような言葉を用いて。
「なぁ、なんでデジモンってのは五十土町に現れたんだ? なんで別の世界にいるお前達デジモンが人間の……そう、人間の世界にやってきたんだ?」
『それは、恐らく我々が追っているデジモンが他のデジモン達をこの町へ呼びよせているからだ』
「呼び寄せている?」
『ああそうだ、ソイツはこのオレが一度が倒した。確かに倒したんだが……オレ達の推測だが、復活しようとしてるようだな』
ウィザーモンの言う通り、この町にはデジタルワールドから呼び寄せられたデジモン達がいる。
そしてその元凶となっているのは、オレが倒したとあるデジモン。
世界から世界への移動を自由に行き来でき、デジモンと絆を結んだ人間――テイマーともジェネラルとも呼ばれている奴らを糧に復活しようとしている。
何処かに潜むソイツを、オレは見つけ出して悪行を止めなければならない。
オレは真剣に考えている他所で、真守はウィザーモンへ質問をぶつけていた。
「じゃあ、まだあんな事件が起きるってのか?」
『ああ、その通りだ』
「だったら、俺がその魔性退治、協力するよ」
『『……なんだって!?』』
真守が告げた決意にオレとウィザーモンは異口同音で聞き返した。
人斬り事件はともかく、ただの人間にこれ以上巻き込むわけにはいかないとオレもウィザーモンも思っていたが、そんなオレ達の気持ちを露知らず、真守は堂々と言った。
「この町で好き勝手する連中を放っておけるわけにはいかない。人外相手ならなおさらだ」
『……ほう、勇気があるな君は』
『いいのかよ。危険な目に遭うのはお天道様が西へ沈む事みたいに確かなんだぜ』
「構うものかよ。ウィザーモン、ズバモン。お前らがいればなんとかなるさ」
自信を以って語るその瞳にオレは説得は難しそうだなと悟った。
何故かって? その瞳に宿った光はオレ自身が口にする不朽不滅の光によく似ていたからだ。
感心するウィザーモンと目配せして、オレはやれやれと言った表情を浮かべて、真守に言いつけてやった。
『いいだろう、耳かっぽじって聞け! 人間・マサモリ!』
『オレとお前は一心同体、人刃一体だ! オレ達が折れない限り、悪さする奴らの宿業をオレ達が叩き斬ってやる!』
道場に響き渡る、異界の魔獣・デジモンの誓いの言葉。
これがこれから五十土町にて起こるデジモンが引き起こす怪奇譚の、一人の剣客と黄金の魔獣たちの出会いの話の、その始まり。
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地水(ちすい)
2023年8月10日
In デジモン創作サロン
#演葬
前編 (https://www.digimonsalon.com/top/dezimonchuang-zuo-saron/dian-huan-mo-swu-guai-qi-tan-mu-jue-meruhuang-jin-jian-qian-bian) 後編(https://www.digimonsalon.com/top/dezimonchuang-zuo-saron/dian-huan-mo-swu-guai-qi-tan-mu-jue-meruhuang-jin-jian-hou-bian?origin=notification)
目の前に現れた黄金の魔獣・ズバモン。彼は白いマントを靡かせて、スナイモンへと飛び掛かっていた。
対してスナイモンは自慢の大鎌でズバモンの突進を受け止めると、そのまま弾き返そうとする。
だが、ズバモンの頭部にある刃はスナイモンの大鎌すら弾き飛ばした。
『トゥエニスト!!』
『ギャッ!?』
ズバモンが振り下ろした斬撃がスナイモンの大鎌に直撃し、そのまま吹き飛ばされる。
その際に斬撃が直撃した大鎌の刃が欠けてしまい、それを見たスナイモンは驚きの声を上げた。
『ギシャアア!?』
『へっ、どうでぇ!』
斬撃を叩き込まれて怯むスナイモンに、ズバモンは自慢げに鼻を鳴らす。
自分の得物が使い物にならなくなったと悟ったスナイモンは俺達の方に背を向けると、大空へと大きく跳んだ。
まるで本物のカマキリのように飛び上がったそれを見て、ズバモンは睨みつけながら叫ぶ。
『テメェ、逃げてんじゃねえぞ! 降りてこーい!』
勢いつけて走り出したズバモンは逃げたスナイモンを追いかけようとする。
だが、行方が消えるとすぐに立ち止まり、悪態をついた。
『ちっくしょう、逃げ足だけは韋駄天並かよ!?』
『ズバモン!』
彼を呼び止めるようにウィザーモンの声が響いた。
血気盛んそうな様子だったズバモンの歩む足が止まり、ゆっくりと振り向いた。
そしてウィザーモンの姿を見ると
『おぉ!! よぉウィザーモンじゃねえか! 元気にしていたか?』
『ズバモン……探したんだぞ』
『おいおい、そこまで心配かけちまったのかよ? 悪かったって、謝るからそんな辛気臭そうな顔するんじゃねえって!』
近くまで駆け寄ってきたウィザーモンの表情を見て、ズバモンは困ったような渋い顔をする。
俺には背中が見える角度になってしまったためにその顔を伺う事ができなかったが、きっと色々な感情がないまぜになったものだと察することができるだろう。
先程の戦いによる傷の痛みに耐えながら俺は立ち上がると、ズバモン達が駆け寄ってやってきた。
『おい、人間のあんちゃん。大丈夫かよ』
「まあ一応無事だな。それより、お前は……」
『さっき名乗った通り、オレの名前はズバモン。お前が手にした立派な剣だが、アレはこのオレその人よ』
立てた親指を自分へ向けて自慢げな表情をするズバモン。
それを見て俺はじっくりと見てみるが、確かにあの黄金剣の意匠をこのズバモンの体に何処か似ていた。
彼の言う通り黄金剣がズバモンだったというのは本当らしい。
俺はさらに追及しようとするが、そこへウィザーモンが咳ばらいをして言い出した。
『真守、ズバモン、話したい事は山々あるがここは危険だ』
『ああん、危険ってどういうことだぁ?』
「あ、そうか……被害が大きくなりすぎた。騒ぎを聞きつけて誰かがやってくる」
『そういうことだ。別の所へと逃げるぞ』
真守の言葉に肯定するように頷いたウィザーモンは目の前へと手を翳す。
すると何らかの文字が描かれた大きな円陣が三人の足場に広がって出現し、瞬く間もなくズバモンとウィザーモン、そして俺はその円陣の中へと消えていった。
謎の空間に飛び込む前に見えたのは後に残されたのは破壊された神社の建物とその切り裂かれた破片だけ。
静まり返った昼下がり、騒がしくなる前に脱出できたことを不幸中の幸いだと思いながら俺は流されるがままに出口へと流れていった。
~~~~~
数年ぶりか数十年ぶりか、とにもかくにもあの神薙神社に長く眠っていたこのオレ――ズバモンは"マサモリ"なる人間によって呼び起こされた。
まるで泥に沈んだかのように眠っているのは存外悪くなかったが、何かを目覚めたオレは謎のデジモン・スナイモンの襲撃に遭っているコイツを助けた。
……なんで助けたかは分からないが、無視するってのは違うし、何より目覚めが悪いってもんだ。
ともかく助けた俺は古くからの戦友であるウィザーモンと再会し、こうして彼の隠れ家までやってきたのだ。
魔法陣から出てきたオレは先に辿り着いていたウィザーモンへと訊ねる。
『ここは?』
『私が作った拠点の一つだ。さっきまでいた場所から遠く……五十土町にある魔法部屋だ』
そこに広がっていたのはいくつもの本棚が並べられた部屋で、その本棚には分厚い本が大量に並べられていた。
何処か辛気臭さを覚える魔法使いであるウィザーモンらしい部屋に若干懐かしさをオレは感じていると、そこへ遅れてマサモリが魔法陣から出てきて到着した。
「んとっとと……どこだ此処?」
オレは周囲を珍しそうに見回しているマサモリの姿を見た。
灰色を基調とした上の着物と紺色の袴、長く伸ばした後ろ髪を一本に縛っている。
顔立ちは……まあ所謂伊達男、と言ったところか? 女好みの顔だと感覚的に分かるが、オレにはその良さがわからない。
ウィザーモンの説明を受けて今自分が置かれた状況を理解したマサノリはオレへ訊ねる。
「えっと、ズバモン、お前がさっき助けてくれたのか?」
『まあな。たっく、デジモン相手に立ち向かうたぁ無謀だなぁ』
「無謀って……」
『まあいい。オレが目覚めたのはテメェのおかげだ。礼代わりにといってはなんだが、お前が追ってる事件とやら、オレもかませろよ』
オレはニヤリと不敵な笑みを向けながら、マサノリに提案を告げた。
だがマサモリは一瞬考え込むような仕草をした後、意外な答えを口にした。
「考えさせてくれ」
『あっ、なんでだぁ? オレならあんな刃欠けの鈍野郎に勝てるぞ!』
「助けてくれたことには感謝する。だけど、まだわからないことが多い……特にあのスナイモン、油断ならない」
すました顔で語るコイツにオレは眉を顰めた。
一体何を、と告げるオレへとウィザーモンが口を挟んできた。
『いや、真守の言う通りだ。あのスナイモンは今のズバモンと同じく実体を持っていた』
『あん、実体? そういや実体化していたな……』
先程交戦したスナイモンの様子を思い出して、オレは疑問を持つ。
――本来、デジタルワールド以外でのデジモンは人間達がいるようなこの世界へ来ると実体のない幽霊のような形で干渉ができない。
物を掴もうとすればすり抜け、壁を通り抜けようとすればそのまま部屋の中へ入れてしまうような具合にだ。
便利な部分も確かにあるが、実体がなければ飲み食いも欲しいものも手に入れられない部分を見ればどちらかと言えば不便な状態……デジモンであるオレが知る限り、これを解決するには二つの手段がある。
一つはデジモンが人と心を通わせることで実体化する方法。
こっちは人間と意思疎通して仲を深める必要があるため、あのスナイモンがこの方法を取ったとは考えにくい。
そしてもう一つ、デジモンが人の世界で実体化する方法がある。
それはデジモンが憑りついて、欲望や感情といった気力を糧に実体化をする方法。
スナイモンが何者かに憑りついて実体化したのなら筋が通る。
今のスナイモンの状況を推測して合点がいったオレはウィザーモンへ訊ねた。
『スナイモンが実体化していたってことは、誰か人間に憑依していた時ってことか?』
『その通りだズバモン、恐らくその可能性が高い。だが行動理由は……』
「おい、それって本当なのか?」
そこへウィザーモンが言ってる所にマサノリが遮った。
マサモリはそれこそ驚愕したような表情を浮かべており、続けざまに発した言葉に驚愕した。
「……もしその話が本当なら、デジモンが憑いている人間に心当たりがある」
『本当か? してその人間ってのは?』
手がかりがあるってことに驚いているオレの横で、ウィザーモンは冷静に訊ね返した。
マサモリは少し息を整えると、そのスナイモンの正体を口に告げた。
「恐らく、スナイモンに憑りついてるのは……」
「士族から盗賊になった人だ」
~~~~
ウィザーモン達へある程度話した後、俺は魔法陣を潜り抜けて、五十土町へと戻ってきた。
見慣れた西洋と東洋が交わったような街並みに何処か安心感を覚えると、ゆっくりと歩き出す。
様々な人々が通り過ぎていく中……そこで、不意に俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
『おい、マサモリ』
少し上を振り向くと、近く壁の塀の上に乗っている半透明姿のズバモンの姿があった。
どうやら人々には目立ってないらしく、彼の姿に対して特に反応をしてなかった。
ズバモンは訝し気な目でこっちに訊ねてくる。
『さっきしたあの話、本当なのか?』
「ああ、そうだ」
『オレぁどうにも信じられねえよ。士族ってつまるところあれだろ、お侍様ってことだろ? なんで誇り高いお侍様がデジモンになんぞ憑りつかれるんだよ』
「詳しい事は分からないけど……それでも俺は止めなくちゃならない」
『そりゃなんで?』
「頼まれたからだ。うちの道場に助けを求めてやって来た子がいた」
ズバモンにそう言いながら、俺は事件に首を突っ込むきっかけとなった出会いを思い出す。
それは数日前の事、自分が勤めている剣術道場にとある子供がやって来た。
少し汚れている割には見事な柄の着物を纏っているその少女は俺へ助けを求めてきた。
――お願いします、父を、父を止めてください!
――何があったんだ
――このままだとあの人は、鬼に、鬼になってしまいます
泣きながら懇願されたその少女の涙を無碍にできないと思った俺は事情を聴くことにした。
その娘は元士族の姫であり、数年前に母親を亡くして父親と資産を切り崩しながら暮らしているという。
だが、その資産もつきかけ、立派な士族だった父の食い扶持を繋ぐ術はなく、困り果てていた。
娘である自分を売れば、父親の生活の足しになると言ったが、父親はならんと一点張りで激しく拒絶した。
ある時父親はおかしくなった。まるで鬼か魔性に憑りつかれたようにおかしくなったのだ。その頃からであった。巷で騒がせている人斬り事件が流行り始めたのは。
狙われているのは武家屋敷や資産家といった金のある所ばかりで、金目の物は全部持っていかれていた。
盗まれたその金目の物の一部を父親は持ち帰ってきたのだ。
人斬り事件の元凶が父であると悟った娘は止めるしかないと思い、町の中でも腕の立つ俺に助けを求めたのだ。
藁にも縋る思いでやって来た彼女の話を聞いて、俺は首を突っ込むことにした。
そして今に至った話を聞いてズバモンは目を細めて口を開いた。
『お前さん、よくもまあ見返りもなしにそこまでやれるなぁ』
「……放っておけるわけにもいかないだろ。誰かが罪を犯すのに放っておけるわけが」
『まあねえ、それがお前の人の好さってものなのかねぇ』
人気がない所に差し掛かった所で塀を飛び降りたズバモンは俺の前に立つと、鋭い視線を向けてくる。
まるで喉元に刃を押し付けられているような緊張感を俺に襲い掛かるが、すぐにズバモンは目を逸らすとあっけらかんな答えを返してきた。
『だが、オレはそんなお前のような見返をを考える前に先に行動に移すヤツ、嫌いじゃねえぜ』
「……! それって!」
『ま、とりあえずは今回の人斬り事件の犯人をどうにかとっちめねえとな』
ニヤリ、とズバモンは笑うような仕草をする。
人と異なる姿をしているが、どうやら彼と俺の目的は同じようだ。
少なくとも此処にいる彼らを信じてもよさそうだと、俺は信じたい気持ちでいる。
『で、例の士族の親父ってのは何処にいるんだ?』
「茅(かや)ちゃん……道場に駆け込んできた娘が住んでいたっていう誰も使ってない幽霊屋敷があるんだが、そこに財宝をため込んでいる。と」
『んあじゃあ、早速行くか』
「なんも準備もなしにか?」
俺の忠告を聞いて進めようとしていた足を止めるズバモン。
ばつが悪そうにチラリと横目を向けて、少し不機嫌そうな声で告げた。
『んぐっ……おいおい、準備って何の準備だよ? 腹ごしらえでもするつもりかよ?』
「ああ……そうだな、俺朝から何にも食ってないし、一度飯屋に行くか」
『おいちょっと待て、本当に腹ごしらえするってのか!?』
俺の呟いた言葉を聞いて慌てふためくズバモンだったが、朝から何にも食べてない方が堪えた俺はとりあえず近くに飯屋がないか探すことにした。
表通りへと出ようとした俺を、ズバモンが叫ぶ声が聞こえた。
『おまっ、飯ならオレにも奢りやがれってんだ!! 食わせろぉぉぉぉぉぉ!!』
ズバモンの叫ぶ声が、天にまで響いた……かもしれないのであった。
束の間の平穏が戦地へ向かう二人を癒すのであった。
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地水(ちすい)
2023年8月02日
In デジモン創作サロン
中編
スタジアム会場、運営スタッフ集合所。
簡易テントによって設けられたその場所に、二人の人物の姿があった。
チーム・イズモのメンバーであるミコトとダンの二人は今回のBLSランク昇格試験をクロトと共に手伝っていた。
その中でミコトは手に持った名簿を確認しながらペンでチェックを入れる作業をしている。
「えっと、このバディリンカーは合格で、こっちの方がペケ、と」
「ミコト先輩、こっちCランク昇格の合格者一覧です」
「ありがとうダン君。ふぅ……このお仕事をやるのは何度目にもなりますが、慣れないですね」
ミコトとダンは試験官スタッフから伝えられたバディリンカー達の合否の確認していた。
何故チーム・イズモである彼らがBLSランク試験を手伝っているのかと言うと、D-ハンターからの依頼だからだ。
デジモンと人間との共存を目指している今、強いバディーリンカー達が後世の人間達のために力を尽くすこともある。
もっとも今回は依頼といっても、実質はアルバイトみたいなものだが……。
『ミコト、こっちの手配終わったわ』
『主、弁当の手配済んだぞ』
ミコトとダンの下にやって来たのは、二人の相棒である二体のバディデジモン達。
黄色い毛並みのキツネの獣人型デジモン・レナモン。
黒と紫を基調とした鳥型デジモン・ファルコモン。
二人のバディデジモンである彼らも、無論手伝っていた。
レナモン達の姿を見てミコトはねぎらいの言葉をかけた。
「お疲れ様、レナモン」
『そっちも大丈夫?』
「うん、大丈夫だよ。はいこれ、飲み物だよ」
『ありがとう……くふっ、うまい』
戻ってきたレナモンの言葉にミコトは飲み物が入ったペットボトルを渡した。
ちなみに味はレモンと塩分を含んだスポーツ飲料であり、少々疲れていたレナモンは美味しそうに飲む。
その一方でファルコモンは手に持っていた小包をダンへと手渡した。
『主、先にこれを渡しておこう』
「この弁当は?」
『アズサ殿から預かった物だ。頑張るアナタへ、だそうだ』
「アズサさんか。運営が用意してくれたヤツがあるのに、わざわざ作ってくれたのか」
ファルコモンから渡されたその小包につけられた手裏剣の刺繍を見て、少し苦笑気味な笑みを浮かべる。
彼らがそれぞれのバディデジモンとのやり取りを繰り広げていると、別の誰かがやって来た。
自分達と同じ運営スタッフであるショウキと、黄金色の鎧を身に纏う剣士のような姿のデジモンであった。
「ミコトにダン、休憩はとっているか」
『そろそろ昼時だからな。しっかりとっておけよ』
ショウキの傍らに立つのは、彼のバディデジモンである剣士のデジモン・グレイドモン。
リンカーとの付き合いは長く、結構昔から相棒関係を結んでいると聞いている。
普段はとある学校で教師をやっている彼に似てか何かと気をかける性格に変わっているようだ。
「お疲れ様です、真導先生、グレイドモンさん」
「先生がこっちに来たってことは、Bランクの試験も終わったんですか?」
「まあな、結構数はいたんだが歯応えある奴はそこそこいた」
ミコトとダンの質問返すとショウキは集合所にあった椅子に座り、首にかけていたタオルで自身の垂れ流した汗を拭く。
簡易テントの外ではグレイドモンは大型デジモン用の腰かけに座り、一息ついていた。
それぞれ一仕事を終えた二人を見て、ダンは感心しながら見ていた。
「ふむ……グレイドモン、か」
「どうしたんですか? ダン君」
「いや、オレ達がよく知っているグレイドモンとはえらく違うんだなぁって思いまして」
「私達が知っているグレイドモン……あぁ……」
物腰が落ち着いている様子のグレイドモンを見て、ダンとミコトは"自分達のよく知るグレイドモン"……もとい、ガイオウモンの事を思い浮かべる。
元々血気盛んな性格をしており、その勢いは例え相手が地獄を支配する悪魔の王と呼ばれる存在でも、天界を統べる神の使いであっても自身が気に食わない所業をしていれば立ち向かう程だ。
この前の誘拐事件を引き起こした冒涜の邪神・ダゴモンにすら食い掛る勢いで切り倒そうとしたのが最たる例だ。
その性格は元来成長期であるドルモンからの生まれつきのものであり、究極体になってもその信念とも言える想いの刃は錆びつくことを知らない。
……故に目の前にいる同族のグレイドモンの様子に少し肝を抜かれた様子なのだ。
「同じデジモンでもこうも性格が違うなんて」
「人間でも性格は千差万別というが、こうも違うとなぁ」
ミコトは同族のデジモンの性格の違いを改めて認識し、ダンは人間とデジモンの正確にそこまで違いがないと悟った。
そんな二人の悩む姿を横目に見ながら、ショウキはグレイドモンへと話しかけた。
「グレイドモン……まさか藤原さん所のクロト君がこうして肩を並べて一緒に働く日が来るとはな」
『そうだな、ショウキ。小さかった彼も見ないうちに俺達より強くなってるじゃないか』
「ハハッ、あっという間に追い抜かれてしまったな」
『あっちのバディは究極体まで進化できるからなぁ。負ける気はしないが、勝つ事になると苦労するだろうなぁ』
グレイドモンと共にショウキは今試験官として頑張っているであろうクロトの姿を思い浮かべる。
その目には何処か過去であった出来事を脳裏に浮かべて懐かしさを秘めていた。
~~~~
一方その頃。
スタジアム中央部の第3難関では、一体のデジモンが大立ち回りをしていた。
その名はドルモン、クロトのバディデジモンである彼は何体ものデジモン達を前に不敵な笑みを浮かべて、文字通り食らいついてきた。
『おらよぉ!』
『ぐげっ!?』
追いついてきた熊型のデジモン・ベアモンをがぶりと噛みつき、ドルモンはそのまま回転しながら軽々と投げ飛ばす。
投げ飛ばされたベアモンは他のデジモンにぶつかり、ドミノ倒しとなって共倒れになってしまう。
投げ飛ばした隙を狙ってカニ型デジモン・ガニモンとパペット型デジモン・ジャンクモンが襲い掛かるが、それを見越してか太い尻尾で顔面へ思いっきり叩きつける。
『そらぁ!』
『ぎゃっ!?』
『あばっ!?』
『とんでけぇ!』
目つぶしと言わんばかりに尻尾を叩きつけられたガニモンとジャンクモンの二体は怯み、そこへドルモンのが繰り出した鋭い蹴りを食らってしまう。
立ちはだかった三番目の刺客であるドルモンのその縦横無尽の暴れっぷりに、カズマは驚いていた。
「な、なんなんだよあれ……本当に成長期のデジモンか!?」
『下手に近づくと我々が巻き込まれる……いったん退いて様子見だ!』
驚いているカズマに対して、コカブテリモンは冷静に分析し、一歩退く。
その一瞬を狙って二人の前に共に突破してきたデジモンであるロップモンが前へと出てきた。
『ボクがお前を倒す!てーい!』
『あん?』
『プチツイスター!』
ロップモンは両耳をプロペラの様にして小型竜巻を起こす攻撃・プチツイスターを繰り出す。
それに対してドルモンへ小型竜巻が迫るが、それに対して勢いよく駆け出して向かってくる。
そしてそのまま、口から鉄球を吐き出し、そのまま突撃を仕掛けてきた。
『ダッシュメタル!! どっりゃああ!!』
『なっ、わわわわわわ!?』
『あっぶない!?』
ドルモンの繰り出した突撃技・ダッシュメタルの鉄球が小型竜巻に飲み込まれる。
その瞬間、回転によって勢いを増した鉄球が中から出てきてあらぬ方向へ飛んでいく。
鉄球が飛んだ先に居たのはエレキモンとファルコモン……彼らに向かってくるようにいくつもの鉄球が降り注ぐ。
何とか避けていく二人だったが、そこへ接敵してきたドルモンが頭突きを叩き込まれた。
『うおらぁ!』
『『ぐぉ!?』』
ダッシュメタルによるコンボを受けて、突き飛ばされるエレキモンとファルコモン。
一気に数体のデジモンを蹴散らす光景に、コカブテリモンをはじめとしたデジモン達、バディデジモン達のリンカー達は唖然とするしかなかった。
カズマも例外ではなく、口を開けて驚いていた。
「すっげぇ……!!」
『どうするカズマ……あれだけ大立ち回りしているヤツだ。攻略法は……』
「そんなの……動いてから決める!」
『ええっ!?』
カズマの突拍子もない言葉を聞いて驚くコカブテリモン。
だがツッコミを入れる暇もなく、ドルモンが凄まじい勢いで突っ込んできた。
せめて受け止めようとする身構えるコカブテリモンだったが、次に見えたのは……。
『次はお前かぁぁぁぁぁぁ!!!』
――――目を見開き、ニヤリと口角を上げたドルモンの顔だった。
種族というドルモン本来のその愛らしい見た目と反した血の気の多いスマイルに、コカブテリモンは泣いた。
『……ぎゃああああああああ!?』
ドルモンの恐ろしい形相にコカブテリモンは背中の翅を広げて急いで逃げる。
背後から聞こえる足音に、コカブテリモンの心臓は恐怖で一層高鳴っていく。
自分が逃げている間にも立ち向かっていく他のデジモン達が蹴散らされる声が聞こえ、最早取り乱すのは必至だった。
そこへ、カズマの声が耳に届く。
「コカブテリモン!」
『すまないカズマ!あれは、アレは俺達が立ち向かえるもんじゃ……』
「――――そのまま真っ直ぐ逃げろ! まっすぐだ!!」
『はっ!?』
相棒の予想外な言葉を聞いてコカブテリモンは驚いた。
いくらカズマが抜けている所があるとはいえ、なんも考えなしにそんな命令を言う性格だと思えない。
一体自分の先に何があるのかと前方を向くと……その理由はすぐに分かった。
その緑の複眼に希望の兆しが見えると、体に力を込めて飛び上がった。
『うぉぉぉぉぉぉ!!』
『あん? アイツ一体どこに向かって!!』
ドルモンは背を向けて逃げるコカブテリモン目掛けて真っ直ぐと追いかける。
一体何を仕掛ける気なのかと思い、それでも自身の全力疾走で駆け抜けていく。
コースを逆走する形で進む二体の間は瞬く間に距離は狭まっていき、ついには目と鼻の先までになる。
『うおらあああああ!!』
大口を開けて噛みついて捕らえようとするドルモン。
だが、コカブテリモンは翅を閉じて飛び降り、そのままの勢いでスライディング……ドルモンの顎は空を切り、態勢を低くしたままコカブテリモンは自慢の角で自分の目指した場所にあったものを投げ飛ばした。
『とりゃああああ!!』
『なっ……!?』
驚くドルモンの視界に入ってきたのは、第二関門にあったナノモンの操作していた巨大アーム。
機能停止されて置物となっていたそれをコカブテリモンは軽々と投げ飛ばし、ドルモンへと覆いかぶせたのだ。
激しく息を吐くコカブテリモンの元へ、カズマが追い付いて声をかけてきた。
「やったぜ、コカブテリモン!」
『カズマ、咄嗟にこれを思いついたのか?』
「いやぁ、土壇場だったけど上手くいってよかったよ」
後頭部に手を当てながら照れくさそうに浮かべるカズマ。
どうやら咄嗟の思いつきのようだったが、上手く行ったのは確かだとコカブテリモンは少し安心した様子を見せて笑った。
他のデジモンやリンカー達も最大の強敵であるドルモンを打破し、カズマ達二人に驚愕と賞賛の眼差しを向けた。
――――だが、ガサリ、と物音を立てた事によりその場にいた一同の驚きは別の意味に変わる。
カズマとコカブテリモンが恐る恐るゆっくりと振り向くと、ドルモンを覆いかぶさっている巨大アームの隙間から謎の光が漏れていた。
否、正しくはその光の正体は知っている……いわゆる進化の光なのだ。
【EVOLUTION UP】
電子音声が鳴り響いた後、無数の斬撃音と共に巨大アームが切り刻まれる。
まるでサイコロステーキのように成り果てて、中から現れたのは……ドルモンが進化した、黒鉄の鎧を纏った翼の竜のようなデジモンであった。
『エボルアップ、ラプタードラモン』
カズマとコカブテリモンの前に再び姿を現したサイボーグ型デジモン『ラプタードラモン』。
地面へ打ち付けるようにに大きく発達した後ろ脚を踏み込むと、そのまま飛び立たん勢いでダッシュを仕掛ける。
目にも止まらぬ速さで距離を詰めてきて、コカブテリモンは咄嗟に自前の大きな両腕で防ごうとする。
『ハァ!!』
『のわぁ!?』
急旋回したラプタードラモンの尻尾が直撃し、コカブテリモンは軽く吹っ飛ぶ。
その際に発生した突風は他のデジモン達へ襲い、中には吹っ飛んだり倒れたりするデジモンやリンカーの姿もあった。
強烈な風圧に耐えながらカズマは叫んだ。
「コカブテリモン!負けるな!」
『う、うぉおおおおおお!!!』
空中へ投げ出されたコカブテリモンは翅を再び広げて何とか態勢を立て直そうとする。
だが十分に立ち直っていない所へ、ラプタードラモンが迫る。
『グォォォォォ!』
鋭い牙を生えた口を開け、コカブテリモンへと飛び掛かっていく。
ラプタードラモンの必殺技・アンブッシュクランチが炸裂しかねない……その光景を見るのをためらうのか今まで二人の戦いぶりを見守っていたカグヤは手で顔を塞ぎ、ユキノは眼を逸らす。
やがてラプタードラモンがコカブテリモンへと接敵し、鋭い歯を食い込ませんと……。
「そこまで!」
その直前、クロトの声が響いた。
彼の言葉を耳にしたラプタードラモンはコカブテリモンの真横を通り過ぎ、大空を舞う。
地表へと降り立ったコカブテリモンはカズマの元へよろよろと近づき、そしてへたり込んだ。
『か、カズマ……』
「大丈夫か、コカブテリモン!?」
『こ、怖かった……走馬灯が、見えた』
ぷるぷると震えている姿を見て、相当怖かったのだなとカズマは実感する。
地面へと仰向けに倒れたコカブテリモンを何とか抱えると、そこへ誰かがやって来た。
ラプタードラモンのリンカーであるクロトはカズマへと話しかける。
「よくやったじゃないか。俺のバディ相手にあそこまで食い下がるなんて」
「えっ、そ、そうですか? いやぁ~、オレも上手く行くとは思ってなくて……」
「それでもすごいよ。咄嗟の機転とそれを実行するデジモンの力を信じた事……これで兆しがあったら合格ライン申し分ないんだったけどな」
「えへへ、そうですか……えっ? 兆し? 合格?」
褒めるクロトの言葉を聞いて疑問を抱くカズマ。
一体何のことなんだろうかと首を傾げる横で、他の人々が騒がしくしている声が耳に届いた。
カズマが振り向くと、そこには先程ドルモンが進化したときと同じ光に包まれたロップモンの姿があった。
突如起きた変化にロップモンのリンカーであるカグヤは驚いていた。
「な、なんなんですのこれは!?」
『なんだか、力が溢れてくる……ロップモン、進化!!』
ロップモンが叫んだ瞬間、その小さな身体は大きな体躯に変わっていく。
ジーンズを吐いた黒い体に両腕にはガトリング銃を装備している姿に変わり、変化を終えると自身の今の名を高らかに名乗り上げる。
『ブラックガルゴモン!』
「わぁ、進化しましたわ! 凄いですわ!」
「……意外、トゥルイエモンじゃないのね」
ロップモンが進化したデジモン・ブラックガルゴモンにカグヤは狂喜する。
本来の進化ルートと言われている"トゥルイエモン"とは別の進化を遂げた光景にユキノは口数少なく、しかし確かに感心していた。
別のバディデジモンが進化した一部始終を見ていたカズマは口をあんぐりとしながらクロトに訊ねる。
「えっ……あの、えっ……デジモンってランクが上がれば進化するもんじゃないんですか?」
「逆だよ。デジモンが次の段階に進化したらバディリンカーのBLSランクも上がるよ。もちろんただ上がるわけじゃなくて、手続きやこういった試験が必要なんだけど」
「じゃあ、試験をする意味ってのは?」
「デジモン達を試験という形で戦いに身を投じて刺激して、進化の兆しのきっかけを施すんだよ」
『昔はD-ハンターもなかったからバディリンカーが行く先々の事件を解決して、危険な目に遭って状況を打開するために進化することあったんだよ……もっとも今の時代は比較的平和になってるから、こんな試験を開くんだけどな』
クロトの説明を捕捉するように空から降りてきたラプタードラモンが言葉を付け加える。
先程の獰猛ぶりから一転して冷静な物腰をみて、度肝を抜かれるカズマ。
……どうやら自分達は進化をしないまま、強敵に目にもの見せたらしい。
嬉しいような、でも悲しいような、色々と入り混じった感情がふつふつと湧く中、抱えられていたコカブテリモンが口を開く。
『カズマ……どんまい』
「――――ぬおおおおおお!! 諦めないぞぉぉぉぉ! 絶対にだぁぁぁぁ!!」
時刻は丁度午後0時を指しかかったお昼頃。
千葉の新設スタジアムにとあるバディリンカーの慟哭が天を衝くほど響き渡った。
Special thanks
・赤坂一真/花凜様
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地水(ちすい)
2023年7月28日
In デジモン創作サロン
前編
千葉県某所。
そこに新設された大型スタジアムの前、そこにはバディデジモンを連れた何組ものバディリンカー達が多くいた。彼らはBLSランク昇格のために集まったバディリンカー達であり、その中にはカズマとコカブテリモンの姿があった。
「よっしゃあ! ついにやってきたぜ、昇格試験!」
『気合を入れているな。カズマ』
「そりゃもちろん、これでランクが上がればお前と一緒に強くなれるんだからな!」
張り切っている様子のカズマの答えにコカブテリモンはニコリと笑う。
こんな純粋に試験へ挑もうとする彼に自分自身も何処か元気づけられるからだ。
何かと失敗続きだが、前向きな彼に元気づけられるのだ。
カズマとコカブテリモンの二人がスタジアムの内部に入ると、すぐに受付をしている人と思われる人物の元へと向かう。
そこに立っているのはオールバックにした銀髪と眼鏡にかけた男性。カズマの目から見ても強面の印象を受ける彼は繭をハの字の形をして対応している様子だ。
「会場はスタジアム中央だ。案内板に従っていくといい」
『「はーい」』
小さなデジモンを連れた小学生くらいの男の子は男性に言われた通りに試験会場へと向かう。
先程の光景を見て男性が案内係だと悟ったカズマは恐る恐る声をかけた。
「あのぉ、すいません」
「ん? 君は……」
「BLSランク昇格試験を受けに来た赤坂カズマです」
「試験者か。今回の案内係を務める真導だ。今日はよろしく頼む」
強面の男性『真導 将騎(シンドウ・ショウキ)』はカズマにそう名乗ると、握手を求めてきた。
カズマは快くその手を握り、見た目と違って優しそうな人だと感じて他愛無い会話を続ける。
「こちらもよろしくお願いします、真導さん」
「オレも受付を終わったら試験管の一人として勤める。若いからって贔屓は一切しないからしっかりと心構えして受けるように」
「はいっす!」
ショウキに案内されて、カズマはコカブテリモンを連れて試験会場であるスタジアムフィールドへと向かう。
足を踏み入れた先に広がっていたのは、――様々なデジモン達を連れた人々だった。
成長期デジモンが多くいる中に混じって、大きな体で佇むエクスブイモン、アンキロモン、アクィラモン、スティングモンといった成熟期のデジモンがちらほらといる。
小さい体躯のデジモンから目につくほど巨躯を誇るデジモンが立つ光景にカズマのテンションはうなぎ昇りになる。
「すごいや、成熟期デジモンがいるよ!」
「彼らはBLSランクBのバディリンカー達だな。彼らもランク昇格のためにやってきたんだ」
歓喜しているカズマに対してショウキは冷静に説明を口にする。
成熟期デジモン達の傍らには相棒のリンカーと思われる人々がおり、彼らが真剣な表情で試験を受けに来た様子を伺えた。
彼らBLSランクBのバディリンカー達も自分のように、あるいはそれ以上強くなるために難関に挑む……そんな風に思ったカズマはがぜんやる気が出てくるのであった。
「コカブテリモン、準備はいいか?」
『当然だ、カズマ。君こそドジを肝心な時に踏むんじゃないぞ』
「うぐぅ……それは言わないでくれよぉ」
コカブテリモンの言葉に対してカズマは試験が始まる前から疲れたようにタジタジな様子になる。
2人は緊張しながら試験の時間になるまで、指定された所で待つことにした。
~~~~
やがて時間は過ぎ去って行き、ついに試験の時間となる。
スタジアムに敷かれたコースの上に並び立つ何組ものバディデジモンとリンカー達。カズマとコカブテリモンもその中に居た。
彼ら二人の近くには、同じく試験を受ける別のバディデジモンとリンカーがいて、彼らの会話が耳に届いた。
『大丈夫かい、カグヤ? 震えているよ?』
「どうしましょうロップモン! 今私、とても緊張しております。今朝なんて御飯1合しか食べてないですもの!」
白い長髪で小柄かつ線が太い雰囲気の少女の『卯聖(うしょう) カグヤ』と、そのバディデジモンであるウサギのような見た目をした焦げ茶色のデジモン『ロップモン』。
文字通り緊張しているのか全身震えており、しかしいつもの三日月のような笑みは絶やしていない。
彼女なりの見栄なのだろうとロップモンは理解しており、せめて緊張を和らげるためにカグヤの指を握った。
その一方、数組のバディリンカー達分の離れた位置に2体のデジモンを引き連れた少女がいた。
長い黒髪をロングテールにして纏めている姿の彼女はバディである二体のデジモンに話しかけていた。
「いい、無理はしないでね。エレキモン、ファルコモン」
『大丈夫だって、俺達なら行けるって!』
『そうだよ、僕達は君と大空に飛ぶって夢があるんだから』
黒髪の少女『敷島 雪乃(シキシマ・ユキノ)』は、相棒のバディデジモンである赤い体毛の獣のようなデジモン『エレキモン』と深緑色の羽毛に爪の生えた爪と牙が生えた嘴が特徴なデジモン『ファルコモン』に言い聞かせる。
普段物静かな少女は
彼女達三人もBLSランク昇格試験に挑むようで、ちゃんとした目的を以て挑むようだ。
それぞれがそれぞれの目的でBLS試験を目指す中、ついにその時が訪れた。
拳銃の体を持ったガンマンのような雰囲気のデジモン・リボルモンが普段使っている拳銃を上へと向けて、引き金を引こうとする。
「位置について、ヨーイ」
「「「……」」」
『『『……』』』
「――ドォーン!」
空砲。
スターターピストル代わりの空の銃声が鳴り響くと同時に一声に走り出す成長期のデジモン達。
開始の合図と共に前方へと向かうデジモンの後からリンカー達が追いかける。
多くのデジモン達が入り混じる中でコカブテリモンは全体から見て中くらいの位置にいるが、混雑する前方にカズマは戸惑っていた。
「くぅ、ランク昇格試験がこれほどのものだとは」
『大丈夫だカズマ! これから何が控えているのか分からない!』
焦るカズマに対してコカブテリモンは走りながら叫ぶ。
その証拠と言わんばかりに、先頭を走っていたデジモン達の叫ぶ声が耳に聞こえてきた。
『『『うわああああ!!』』』
「な、なんだぁ!?」
前方を見ると、そこにはコース上から発生した巨大な水の柱によって吹っ飛ぶデジモン達の姿があった。
突如現れた水の柱に参加デジモン達やリンカー達が驚いていると、カズマはとある存在を見つける。
それはコースから少し外れた所に立つ一体の河童を思わせる姿をデジモン……"シャウジンモン"と呼ばれるその魔人型のデジモンは自分の力を駆使して、コース上に水の柱を生み出しているようだ。
その証拠にシャウジンモンの腕には今回のBLSランク試験の運営スタッフを示す腕章がつけられており、水柱が障害物の一つだとカズマをはじめとしたリンカー達は悟った。
「コカブテリモン! 飛べ!」
『おう!』
カズマの言葉を聞いて、コカブテリモンは背中の羽根を広げて飛び立つ。
シャウジンモンが繰り出す何本もの水柱を掻い潜り、最初の難関を突破する。
コカブテリモンに続いて、エレキモンとファルコモン、ロップモンといった具合に次々と後続が突破していく。
先を走るデジモン達へと追いかける形でコカブテリモンとカズマが走っていると、次の難関がすぐに見えた。
『なんだよこれぇ!? ぎゃふっ!?』
「きゃーっ!? モドキベタモーン!!」
第二の難関へ先に到達していた黄色いカエルのような様な姿をしているデジモン"モドキべタモン"が横で吹っ飛ぶ姿が真横で繰り広げられ、コカブテリモンはすぐ前方を確認する。
そこにあったのは巨大な機械でできたマジックハンドであり、見た目は白い手袋そのもの。その大きな手は5本の指で向かってくるデジモン達をデコピンで弾いたり、軽くはたく仕草などで蹴散らしていた。
文字通り手を伸ばしてくるマジックハンドをコカブテリモン達が避けながら、カズマは周囲を見渡すとそこに試験官と思われるデジモンがいた。
それは壊れた機械のような外見をした小型のマシーンデジモン"ナノモン"であり、シャウジンモンと同じく腕章をつけたそのナノモンは両手に抱えた小型化コントローラーで白い手を操作しているようだった。
「今度は大きなお手々か……力は凄そうだけど、コカブテリモンだって負けてないんだぜ!」
『ああ、そうだ!』
ニヤリと笑ったカズマと時同じくして、手をこまねいているデジモン達を掻き分けてコカブテリモンが目の前へと躍り出る。
マジックハンドはまっすぐへとコカブテリモンに飛んでいき、彼の掴もうとする。
だが完全に掴む前にコカブテリモンが接敵し、逆にコカブテリモンがマジックハンドを捕らえた。
『ふんぬっ!』
「いっけぇ、大技だぁ!!」
『スクープ……スマッシュッ!!』
捕らえたマジックハンドの下を掻い潜り、自慢の角で掬い上げて投げ飛ばす必殺技『スクープスマッシュ』。
より大きなデジモンであるトータスモンすら持ち上げるほどの剛力で投げ飛ばされたマジックハンドはそのまま地面へとまっすぐ落ちた。
ドシィン……、と轟音を立てながら自身の投げ技を披露した後、コカブテリモンとカズマは先に向かう。
大きな障害物であったマジックハンドが簡単に撃破されて驚くデジモン達とリンカー達だが、そんな彼らと違ってユキノのエレキモンとファルコモン、カグヤのロップモンが進んでいく。
『おっさきー!』
『復活しないうちにささっといくよ、エレキモン』
『わーい! らっくちーん!』
三体のデジモンが第二の難関を抜けた直後、ナノモンのコントローラー操作によって新たなるマジックハンドが出現。
試験者たちを苦しめていく光景を背に、ユキノ、カグヤがカズマの後をついていく。
「……すごい」
「彼ら、さながら横綱級ですわ!」
「へへっ、これなら最後までいけるぜ!」
コカブテリモンの活躍に驚くユキノとカグヤ、そんな彼女達の驚く声を他所にカズマは前へ前へと走る。
目指すのは最後である三つ目の難関……一体何が待ち受けているのか。
そんな事を思いながら、カズマはコカブテリモンと共に、最後の難関の場所へと辿り着いた。
その時だった、声が聞こえてきたのは。
『最後の難関は、オレ自らが相手をしてやる』
カズマとコカブテリモンがその堂々とした声を耳にした瞬間、目に飛び込んできたのは一個の鉄球。
コカブテリモンは咄嗟に両腕の大きな手でその鉄球を受け止めた。
一体何が……とカズマが鉄球が飛んできた方向を見ると、そこにいたのは一体の紫色の毛並みのデジモン……そして黒髪で黒い服装の一人の少年。
どちらもシャウジンモンやナノモンと同じく試験官を示す腕章をつけており、少年は自身の名を口にした。
「試験官を務めさせてもらう、藤原クロトだ。よろしく」
『クロトのバディデジモン……今はドルモンだ』
片や少年……藤原クロト、片や彼の相棒のデジモン……ドルモン。
特にドルモンはカズマ達がよく知っている通常のドルモンより鋭い眼光でこちらを射抜いてくる。
殺気ともいっていいその剣気にカズマは冷や汗をかき、コカブテリモンは一瞬固まった。
あの時のゴブリモンの群れとはくらべものにならないほどの威圧に二人ともビビってしまったのだ。
身動きできないカズマとコカブテリモンの後ろから遅れてカグヤとユキノが追い付いた。
「よ、ようやく追いつきましたわ……って、アレって」
「……ッ! チームイズモの藤原クロト……!? 本物なの?」
「えっ、イズモって、あのチームロムルスと双璧をなすとかいう!?」
ユキノの呟いた言葉にカズマは驚きの声を上げた。
チームイズモといえばいくつもの事件を解決してきたバディリンカー達が集まるチームであり、その実力はかのチームロムルスと双璧を成すほど強いと言われている。
そんな実力者が最後の難関にとは思ってなかったと言わんばかりにカズマは焦るが……そんな暇を作らせる暇もなく、ドルモンが怒号を上げた。
『噂や名声なんてどうでもいい! 自分自身が強くなることにそんなもの必要ない!!』
『お前らも強くなるために来たんだろ? だったら……』
『手加減してやるから全力でかかってこい!!』
成長期らしからぬ笑みでニヤリと口元を歪ませるドルモン。
彼の背後に見える【二本の刀を持った黒い剣士】の光景が覇気として見えるほどにカズマはビビりながら、最後の難関に立ち向かうことになった。
後編
Special thanks
・赤坂一真/花凜様
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地水(ちすい)
2023年7月27日
In デジモン創作サロン
#演葬
夜も更けた丑三つ時。
人々が寝静まったはずの町に響き渡る喧噪を前に、『俺』は走っていた。
江戸時代から続く土塀に囲まれた道を過ぎ去り、段々と喧噪の音が近くなる。
やがて辿り着いたのはとある大きな屋敷……記憶の限りだと、確か元は武家屋敷で有名な士族が住んでいたらしい。
だが、その武家屋敷を囲っているはずの分厚い土塀の一部がまるで豆腐の様に切られており、地面には土壁だった瓦礫が切り取られた破片のように散乱していた。
一体誰がこんなことを……と、そう考えていると、つんざくような悲鳴が耳に届いてきた。
「ば、化け物だぁ!」
その悲鳴を聞いた『俺』は迷わず崩れ去った土塀から中へと入った。
敷地内に足を踏み入れると、何かと交戦する黒服姿の警察の人間が見えたすぐに見えてきた。恐らく警官である彼らは怯えた顔で目の前にいる【それ】と戦っていた。
警官たちが見ている先に会った【それ】を見て、『俺』は驚愕した。
「なんなんだよ、あれは」
そこにいたのは、緑色のカマキリのような化け物だった。
鋭い歯を覗かせる口、目がない代わりに赤い触覚が目立つ頭部、何より特筆すべきは両腕に生えたその大鎌。
鋭く切れ味がよさそうな獲物で外壁を切り裂き、侵入してきたのだとわかる。
カマキリの化け物の足元には倒れ伏した他の警官達や屋敷の人間の姿があった。既に犠牲者が出ている事に拳を握るが、誰かの悲鳴がすぐさま悔やんでる暇はないと気づく。
前を見れば警官の持っていた刺又が先端から斬り落とされ、無防備になってしまった光景が広がった。
武器がなくなった事に怖気づいた警官は腰を抜かしてしまい、その場から動けなくなってしまう。
「ひぃ!?」
『シャアアアア!!』
カマキリの化け物は奇声を上げながら腕の大鎌を高く振り上げる。
あわや真っ二つにされようとしている警官を前に、『俺』は咄嗟に動いた。
犠牲者の警官が持っていたであろうその刀を拾い上げ、腰を抜かした警官の前に立つと、その手に握っていた刀を勢いよく振り放った。
「ハァァァ!!」
瞬間、カマキリの化け物が振り下ろした大鎌が刀の刀身とぶつかり合う。
金属同士がぶつかり合う激しい音を響かせながら、大鎌は真横を掠って地面へと深々と刺さった。
常人を優に超えた膂力と刀が刃こぼれするほどの大鎌の切れ味に驚きながらも、咄嗟に身動きのできない警官を抱え上げて『俺』は咄嗟に離れた。
カマキリの化け物は地面に刺さった己の大鎌が引き抜こうとして追撃どころではない。その隙を見計らって、他の警官の元へ自分の抱えた警官を預け、振り向いて身構える。
握った刀は先程の一撃で刃こぼれしており、今でも折れては不思議じゃない。せめて、もう少し頑丈な得物があればなんとかなるんだが。
そう思いながら苦戦を強いられる覚悟でカマキリの化け物と対峙する……対してカマキリの化け物は地面へと刺さった己の大鎌をようやく引き抜くと、こちらへと狙いを定めて、飛び掛かろうと四脚の足に力を込める。
来るか……そう思った矢先、カンカンと甲高い鐘の音を打ち付ける音が聞こえた。
何かと思えば、黒服姿の警官達の姿があり、それが増援と気付いたのは彼らが持っている鉄砲でカマキリの化け物を攻撃し始めたのだからだ。
「撃て!」
その号令とと共に、激しい発砲音と共にカマキリの化け物へと弾丸が発射されていく。
カマキリの化け物は敵わないと思ったのか、着弾する前に地面を蹴って大空へと逃げていく。
闇夜に消えていく緑の体躯を見て、『俺』は苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。
「最近人斬りがあんな物の怪なのかよ……」
最近この町・五十土町(いかづちちょう)にて騒がしている切り裂き事件の犯人を前に、この『俺』――――『緋山 真守(ひやま・まさのり)』は悪態づいた。
これは、この町で起きた摩訶不思議極まる怪奇譚の話。
そして、俺が出会った謎の魔獣……喋る黄金剣こと『アイツ』との出会いの物語。
~~~~
翌日の事。
武家屋敷を後にした俺はこの町・五十土町にある警察署にて朝を迎えていた。
無事だった警官が寝ている医務室を後にし、俺は外へ出ていくために廊下を歩く。
署内では様々な人々が忙しなく行き交いしており、昨夜の物怪事件の対応に追われていた。
朝っぱらから忙しい所を後目に歩いていると、そこへ一人の男が呼び止めた。
「おい、緋山」
「一ノ瀬さん」
俺を呼び止めたのは、一人の眼つきの鋭い男性。
名前は『一ノ瀬次郎(いちのせじろう)』……この警察署に滞在している顔見知りの警察官であり、階級は警部補。
どうにも近づきがたい雰囲気を醸し出しているこの人はいかにも固そうな口から言葉を吐きだした。
「お前、まだ突っ込むつもりか。この事件に」
「すいません……そっちの迷惑にかかってしまうのは百も承知なんですが」
「謝るな馬鹿が。……本当なら注意の一つや二つ言いたいところだが、お前は俺の部下を助けてくれた。あの時助けてくれなかったら、犠牲者が増えていたかもしれない」
「そんな……俺が力があれば、何とか退治することができたんですが」
自分の無力さを呪いながら、俺は拳を握りしめる。
無力さえなければ、血を流す人は減らしていたかもしてない……せめて切れ味の鋭いあの鎌を受け止める術があれば。
自然に悔しそうな表情を浮かべている事が嫌でも分かる程悔恨の感情はうちの胸を支配されていると、ゴツッと誰かの拳が俺の額に当たった感触が響いた。
それが次郎さんの拳だと気づいたのは、彼の低い声が響いたときだった。
「お前は根を詰めすぎだ」
「一ノ瀬さん……」
「緋山、お前は警官じゃない関係者で俺達警察官が守る市民だってことを忘れるな。無茶して死んでしまえばお前でも悲しむ人がいるんだぞ」
まるで睨みつけているような鋭い眼光で俺を射抜く次郎さん。
その瞳には厳しさだけじゃない『何か』を宿しており、少なくとも俺を叱りつけるためだけじゃないと悟った。
次郎さんは一息ついた後、そこへ部下の人が俺達の元へとやって来て次郎さんの名前を呼んだ。
「一ノ瀬さん、ここにいらしたんですか。会議の時間です」
「ああ、わかった。すぐに行く」
部下の警官に短く伝えると、次郎さんはあるものを渡してくる。
それはとあるお守りであり、見てみると厄除けのようであり、次郎さんは次のように告げた
「一度息抜きしてこい。神薙神社という場所で手に入れたものだ」
「神薙神社?」
「そこは神様だろうと断ち切るっていうご神体があるって噂だ。神社なのに神を切るってなんなんだろうな」
顔に似合わぬ軽口を叩きながら、次郎さんは背を向けて去っていく。
受け取ったそのお守り……狐色の布に『破邪退散』と書かれた物騒な内容のそれを見て、俺はとりあえず向かおうと思った。
~~~~
文明開化も新しい明治の町並みを通りすぎ、五十土町と隣町の近い所にある、とある神社――神薙神社。
規模は決して大きくはないものの、日本古来より信仰されている神様・稲荷大明神を祀っている名を知れた神社という触れ込みを事前に聞いてきた俺は足を運んできた。
「ここが一ノ瀬さんが言っていた神社か……」
見た感じ、至って普通の神社だと今のところは俺は思った。
だが敷地内に入ると、――――冬場の静電気に当たったような感覚に襲われた。
思わず驚いたような声をもらした俺は思わず周囲を振り向いた。一体何を俺が感じたのか、それを確かめるために目を凝らしながら見回した。
朱色の鳥居、一対の狛犬、大きな建物、その周囲には生い茂る木々、そして異様なボロ布を纏った半透明の人影。
ん?と何かを見逃しそうになった俺はその違和感丸出しの存在をよく見るとその人影は人間のように衣服を纏ってはいるが、しゃれこうべの部品がついた尖がった帽子と手に持った杖、素顔を隠しながらも覗かせる茶色の髪と緑色の瞳という日本人離れしたその要素に異様さを醸し出していた。
「なんだよ、アレって」
眉を顰めた事を感じた俺は恐る恐る近づく。
そして勇気を出して謎のボロ布の存在に声を出して声をかけた。
「お、おい」
『……?』
ボロ布の存在は半透明の姿で周囲を見回す。
そして俺が声にかけてきた事に気づくと、凛とした声を発しながら訪ねてきた。
『君、私が見えるのか?』
「お前、人なのか? 物怪なのか?」
『ふむ、その質問に答えたいのはやまやまだが……すまない、今の私には君を納得させられるような答えを持ち合わせていないのだ』
ボロ布を纏ったその人影は少し思案した後、あっけらかんに答えた。
とりあえず話が通じそうだなと思った俺は自己紹介をすることにした。
「俺は緋山真守。桐谷流剣術師範代を務めている」
『私の名はウィザーモン。異世界からやってきた"デジモン"という存在だ。以後お見知りおきを』
「で、でじもん?」
"でじもん"なる謎の言葉を聞いてきょとんとなった。
それに異世界って……御伽草子に出てくるような幽世でも異界でもないし、急に信じられるかと言わんばかりに困惑していた。
その困りっぷりはボロ布改め『ウィザーモン』にも伝わっており、やれやれと言った表情で提案してきた。
『まあなんだ。腰を落ち着かせても話すか』
「呑気だなお前!? いやまあ、いいが」
ウィザーモンの誘いに乗って、とりあえず神社の建物の一つである拝殿……そこにある階段へと腰かける俺。
俺の隣にウィザーモンは座ると、彼は話をし始めた。
『さっき言った通り、私はデジモン。異世界・デジタルワールドからやって来た存在だ』
「でじもん、ねぇ……お前どう見ても人間じゃないのか?」
『君達に似た姿のデジモンもいるんだ。デジモンは色んな姿の存在がいる……共通しているのは、デジモンはこの世界では普通の手段では干渉できない。ということだ』
「へぇー……で、お前何しにここ待て来たんだ? 観光か?」
デジモンって他にもいるんだ……とそう思いながら、俺はウィザーモンがこの神社にいた理由を尋ねた。
それに対してウィザーモンは真剣な声音で告げた。
『はぐれた仲間を探している。この近くにいるはずなんだが』
「仲間を? ここにいるのか?」
『ああ、この世界に辿り着いて20年も彷徨って、ようやくここへと見つけたんだ』
「はっ!? 20年もか!? おまっ、一体年齢いくつだ!?」
ウィザーモンの発言大して思わず感じた事を口にしてしまうが、ウィザーモンは気にせず神社の方へと視線を向けた。
その先にあるであろう"何か"と巡り合うためにココへやってきたのだと、俺は感じた。
「おいおい、この中にあるのか?」
『ああ、彼は確かにここにいる』
「この中にって……ほぼ閉め切られているような所に誰がいるんだ?」
ウィザーモンの確信した言葉を信じられないと思いながら、俺は階段を上り、拝殿の奥を覗く。
拝殿の奥には本殿がチラリと見え、人の姿は無論なかった。
凡そ人かでじもんなる物怪の姿は何処にもないと俺は思ったが、ウィザーモンは確信したような目で覗いていた。
『間違いない。ここにアイツはいる』
「いや……人っ子一人も見当たらんが」
『確かにいるのは確かだが……起きている気配がない。恐らく眠っている』
「眠っているって、ここには何も……あっ」
ウィザーモンが感じ取っている"何か"を聞いて、俺はとある事を思い出す。
それは次郎さんが言っていた『神様だろうと断ち切るっていうご神体がある』という噂。
もしかしたらそのご神体とやらがウィザーモンが言っている"仲間"かもしれない。
……しかし、今の今まで眠っているソイツは一体なんなんだ?
俺がそう考えると、ふと耳に異質な音が聞こえてきた。
――――それは虫が羽ばたくような羽音。
それがわかったとき、見開いて空を見上げた。
上空に飛んでいたのは緑の異形の影……それが昨夜のカマキリの化け物だと気づいたのは、急降下しながら大鎌を振り下ろした後だった。
「ッ!? よけろ!」
俺は叫んだと同時に、咄嗟に横へ飛び込む。
瞬間、振り下ろされた大鎌は拝殿の建物を容易く真っ二つにした。
崩れ去る拝殿を背に、俺は周囲を見回すと、ウィザーモンは反対方向に回避していており無事だった。
ウィザーモンは目の前の蟷螂の姿を見ると、驚きながら謎の名前を口にした。
『コイツはスナイモン!? しかも実体化している!?』
「おい、知ってるのか!?」
『デジモンの一体だ! 同胞からも恐れられている森の狩人だ!』
カマキリの化け物――スナイモンは俺を目掛けて鎌を振り回す。
受け止めきれる武器がない今、避けるしかない俺は必死に回避に専念する。なんとか鎌の刃に当たらずに済んでいる俺を見て、ウィザーモンは杖を構えると周囲に黒い雲のような物を生み出した。
バチバチと稲妻が走る音を響かせ、勢いよく叫んだ。
『真守、離れろ!』
「ッ!!」
『サンダークラウド!』
俺が咄嗟に飛ぶと、その瞬間ウィザーモンが雷雲から放たれた雷撃はスナイモンへと直撃。
当たれば黒焦げ必死なその一撃に俺は冷や汗をかいた。
「危ねぇ……雷を出すなんてお前なんなんだよ」
『少し物知りな魔法使い、と覚えておいてくれ』
「魔法使い、ねぇ。また御伽草子みたいなことを……」
俺は軽口を叩きながら、雷撃が直撃したスナイモンを見やる。
スナイモンは身体がしびれているのか身動きができなくなっている。
だが、俺には分かった。スナイモンから流れ出るその異様な殺気……俺は咄嗟に叫んだ。
「飛べッ!!」
『ギシャアアアアア!!』
咆哮と同時に大鎌を大きく振り放ったスナイモン。
その際に発生した風の刃とも言うべき鋭利な物が俺とウィザーモンの真横の地面を抉った。
俺は崩れ去った拝殿へと投げ飛ばされた……ウィザーモンは、それほど投げ飛ばされてないのか、呻いている声は聞こえる。
『うぐぅぅぅ……』
どうやら生きてはいるようだ……対して俺は身体が動かない。
叩きつけられたせいが身動きなっている俺をスナイモンが近づき、命を取らんと狙ってくる。
すぐそばまでたどり着くと、大きく腕の鎌を振り上げた。
「ぐっ!?」
もはや命これまでか……。
そう思った時、何かが聞こえてきた。
『おい、手前ェ……それでいいのか? 諦めるたぁ男児の風上にもおけねぇよ』
「はっ!?」
俺は声の振り向くと、目と鼻の先に本殿があって、崩れ去った扉の間から黄金色の輝きが見えた。
まるで壊れる事を知らない不屈の輝き……そう思えるほど、その光は強く輝いていた。
煌めく星のような輝きへ向けて俺は咄嗟に手を伸ばす。後ろでスナイモンの鎌が振り下ろされようとしていたが、構わず手を伸ばした。
『はっ、それだ。それでいい!!』
その瞬間、黄金色の光は一瞬にして俺の手の元へと届き、その手に握る。
振り下ろされたスナイモンの大鎌を容易く受け止めると、光が収まり、代わりに姿を現したのは黄金の剣。
まるで遠い海の向こうの異国にあった"黄金剣"と形容すべきそれを俺は握っており、今まで呆けていた所で我に返り、力を込めて押しのけた。
スナイモンは押しのけられ、大きな図体が地面へと転がる。今まで太刀打ちできなかった相手が倒れる所見て俺は驚き、黄金剣を見る。
「なんなんだよ、これ」
『ほう? 聞きたいか? 聞きてぇのか? 俺の名乗り口上を!』
「えっ、わわわっ!?」
黄金剣から発せられた声に気を取られていると、黄金剣の方から勝手に動き始めた。
手元から離れた黄金剣は姿を変えて、一体の黄金の鎧を纏った一体の魔獣。
頭部に刀身を生やしたその魔獣は高らかに名乗り上げた。
『オレはズバモン……"不朽不滅の刃"のズバモンたぁ、オレの事よ!』
黄金色の魔獣――『ズバモン』は俺の前に、自らをそう名乗り上げた。
悠久の時を得て、金色の刃は再び目を覚ました。
中編
1
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70
地水(ちすい)
2023年7月23日
In デジモン創作サロン
その日、『赤坂 一真(あかさか・カズマ)』は追われていた。
彼の傍らにはバディであるカブトムシの見た目をした青い昆虫型デジモン『コカブテリモン』の姿があり、リンカー共々に逃げている。
何から逃げている? と問われれば、それは彼らの後方に走る『存在』が物語っていた。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ!」
『カズマ、追いつかれたらヤバいぞ! 走るのをやめるな!』
「そ、そうはいっても、コカブテリモン……ノンストップで10分走りっぱなしはきつい!」
必死に走って逃げるカズマと、自分の翅を広げて飛びながらカズマを激励するコカブテリモン。
そんな彼らを追うのは、緑色の体色をした鬼のデジモン達。その数は見ただけでも数十体にも及ぶ。
赤いモヒカンと手に持ったボルト付きの棍棒が特徴的なデジモン・ゴブリモンは奇声を上げながらカズマ達へと迫っていた。
『『『ウガアアアアアア!!!』』』
「ぎゃあああああ!?」
『悲鳴を上げてる場合か!?』
鬼気迫る勢いの姿であるゴブリモン達に思わず悲鳴を上げてしまったカズマと、隣でツッコミを入れるコカブテリモン。
その背後からはゴブリモン達が投げつけてきた火の玉の技・ゴブリストライクが飛んできて、逃げる二人の周囲へと着弾。
大きな音と火柱を立てながら爆炎を上げる光景を目の当たりにして、カズマは必死に逃げる足を速めた。
なぜこうなっているかと言うと、数十分前に遡る。
~~~~
その日、カズマはコカブテリモンと共にバディリンカーとして東京の港付近に訪れていた。
目的は『港付近で姿を見せるデジモンの調査』という内容の調査依頼……ある一定数のバディリンカーにとっては、特に珍しくもない依頼だった。
オレンジレッドのカラーリングのデジヴァイスリンクスを構え、内蔵されたカメラ機能を使って港付近に姿を見せるデジモンの姿を映していた。
白鳥の姿形をしたデジモン・スワンモン、いくつものヒレを生やした黄色い体色のデジモン・ギザモン、壺を被ったタコの見た目をしたオクタモンといった具合にいつの間にか根付いているデジモン達を映してポツリと呟く。
「いやぁ、こんなに住みついているデジモンが多いとはなぁ」
『デジタルワールドが開いてもう20年近く経つからなぁ。今じゃ人間の世界住みのデジモンが多いのは明白だな……お、あそこにハンギョモンがいる』
「あ、ほんとだ。撮っておこう」
港の海で泳ぐボンベを背負った半魚人の姿形をしたデジモン・ハンギョモンの写真をカシャリと撮るカズマ。
自由気ままに調査を熟している彼らはこのまま平穏に依頼を果たそうとしていた。
――だが、コンテナが置かれた場所に足を踏み入れた時にその平穏は終わった。
人気がなさそうな場所に迷い込んでしまったカズマ達は周囲を見回しながら、脚を前へ出していく。
後から続いてコカブテリモンが続くが、その異様さに気づいた。
『なぁ、カズマ』
「んー? どうしたの、コカブテリモン」
『なんだか様子がおかしい。一旦みんなと戻った方が』
「んー、なんだよそれって。カブトムシだから虫の知らせってヤツか?」
コカブテリモンの心配する言葉を聞いて笑ってからかうカズマ。
呑気そうに歩みを進めるが、そこで何かを踏みつけ……そして視界が逆転する。
それがカズマ自身が転んだと分かったのは、地面にすっころぶ前にコカブテリモンが身体を持ち上げる形で咄嗟に受け止めたからだ。
「ぬぉっ!?」
『カズマ!』
「あっぶなぁ。」
『まったく……お前はいつも気が抜けないから心配だ』
自分より倍もあるカズマの体を軽々と持って受け止めたコカブテリモンは溜息をつく。
申し訳ないと表情を浮かべたカズマだったが、その直後にバサリと自分の顔に何かが被った。
甘ったるい異臭に鼻が付き、急いで掴むとそれはバナナの皮だった。
どうやらバナナの皮で転んだようで、カズマは素っ頓狂な声を上げた。
「ばっ、バナナ? ばなっ、バナナ?」
『バナナの皮、何故こんなところに捨てられて』
「マナー悪いなぁ。一体誰が……」
謎の捨てられたバナナの皮に悪態づくカズマだったが、そこである事に気づく。
バタバタと何かが近づく足音が聞こえてきたのだ。それも一体だけではない、二体三体と次第に多くなっていく。
やがてカズマ達の現れたのは、何体何十体も及ぶ人型の野良デジモン。
ゴブリモンと呼ばれるそのデジモン達は、鼻息を荒くしながらギロリと鋭い眼光を睨みつけてきた。
どうやらバナナの皮にスッ転んだ事で気づかれてしまったようで、しかも気が立っている。
カズマはその光景に背筋が凍り付き、コカブテリモンは冷や汗をかく。
暫しの静寂の後、ゴブリモン達は大きな口を上げて咆哮を上げた。
『『『ウガアアアアアア!!』』』
『「きゃあああああああ!!」』
――――そして、現在。
ゴブリモン達に追われたカズマとコカブテリモンは逃げていた。
一体や二体ならコカブテリモンが何とか対処できるが、追いかけてくる相手は数十体も及ぶ。
成熟期デジモンすら持ち上げるほどの怪力を有するコカブテリモンも多勢に無勢。
状況を打開するチャンスが巡り合うまで、カズマとコカブテリモンは逃げていた。
……だが、何時までも逃げられるわけでもなく、カズマは息が切れかかっていた。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……や、やばっ、息と足がっ」
『カズマッ! 気をしっかり持て!』
「そ、そんな事言われたって……あっ、げふっ!?」
コカブテリモンが激励を送るのもつかの間、足がもつれて地面へと滑り込むカズマ。
慌てて立て直そうとするが、後ろから追いついてきたゴブリモンが棍棒を振り下ろしてきた。
成長期と言えど当たれば一溜まりもない……カズマは死を覚悟した。
(あっ、これはおわっ――)
『――デスビハインド!』
棍棒が直撃する直前、何処からともかく放たれたナイフがゴブリモンの棍棒に突き刺さり、勢いよく撃ち落とした。
一瞬の出来事に何が起きたのかと思ったカズマが振り向くと、そこには見知った二人の顔があった。
カズマは思わず彼ら二人の名前を叫ぶ。
「か、カオルさん!ケイ君!」
「カズマさん、下がって!」
「ゴブリモン達の相手は僕らがやります!」
何とか立ち上がったカズマを下がらせると、二人の人物はデジヴァイスリンクスを持って身構える。
片や、黒髪のショートに切った白い和服姿の少年――『八乙女 薫(さおとめ カオル)』。
片や、綺麗に切り揃えた茶髪の甘い顔立ちの少年――『小御門 ケイ』。
二人は並び立つと、自分自身の相棒バディの名を叫んだ。
「シールズドラモン!」
『よっしゃあ、やっちゃるぜ!』
カオルの傍に現れたのは、身軽な武装を身に着けたドラゴンのようなデジモン・シールズドラモン。
彼は先程投げつけた愛用のナイフを回収し、襲い掛かるゴブリモンを斬り付けていく。
「ボンバーナニモン!」
『ああ、お熱いのをかましてやるぜ!』
ケイの傍らに現れたのは、黒く丸い体に手足が生えたような見た目の強面のデジモン・ボンバーナニモン。
こちらも徒手空拳を用いた接近戦で振り下ろされる棍棒を捌き、一撃一撃を叩き込む。
二体のデジモンに片づけられ次第に減っていくゴブリモン達。
目の前にいる奴らがただものではないと悟った彼らはそれぞれの棍棒を構え、それを大きく振り下ろす。
ゴブリストライクによる火炎弾がいくつも振り放たれて、一同へと向かっていく。
そこへボンバーナニモンが前に出て、その手に丸い黒の球体を握りしめる。
『ふせろ、お前ら! フリースローボム!』
ボンバーナニモンが投げた爆弾による攻撃"フリースローボム"が火炎弾へと直撃。
爆風によってゴブリモンのゴブリストライクによる火炎弾を相殺し、なんとか危機を回避する。
ゴブリモン達は驚きつつもその蛮勇ぶりを象徴するかの如く勢いに身を任せたまま迫ろうとするが、爆炎と煙を駆け抜けてこちらへと迫る存在がいた。
『動くなよ? 動くと痛いぜ!』
そう言いながら、爆炎から抜けてきたシールズドラモンはゴブリモンへとナイフと体術による連撃を叩き込んでいく。
目にも止まらぬ手捌きでゴブリモン達はノックアウト……そのまま地面へと倒れ込んだ。
仲間のゴブリモン達がやられ、他のゴブリモン達は慌てて退散してく。
彼らが消えると、安心したのかカズマは地面へとへたり込んだ。
「こ、怖かったぁ!」
「大丈夫?」
泣きべそ書いているカズマへカオルが手を差し出す。
その隣ではボンバーナニモンやシールズドラモンが疲れて倒れたコカブテリモンを抱えてきた。
コカブテリモンを受け取ったカズマはポツリと呟いた
「はぁ、皆みたいに強くなりたいなぁ……」
『とはいっても、BLS(ビルス)ランクCの自分達は成熟期への進化は難しい所だぞ』
コカブテリモンはカズマに抱えられながら自分達の無力さを語った。
この人間世界での決まりでバディリンカーズには幾つかのランクを設けられていた。
『Bady Linker`S Rank』、通称BLSランクと呼ばれるそれは進化したデジモンの形態にその強さを示していた。
まず大概のリンカーが持っているのは成長期デジモンがランクC、次に成長期のデジモンが進化した成熟期デジモンを有しているランクB、そして数ある成長期デジモンが強く進化した完全体のデジモンを相棒にしているランクA。
――それ以上の形態のデジモンのランクもあるのだが、カズマ自身はそれを知らない。
未だにランクC止まりで嘆くカズマに対し、シールズドラモンとボンバーナニモンは呟いた。
『ボンバーのおっさんはともかく、オレはこのままのランクBでいいぜ。正統進化すると、なぁ?』
『ああ、そうか。確かタンクドラモンだったか』
『そーそー、銃火器搭載で火力マシマシ固定値高めになるのはいいが、如何せん小回りが利かなくなるから今の戦闘スタイルに合わないんだよなぁ』
進化していいとは限らないと言わんばかりに愚痴を呟くシールズドラモン。
もちろんデジモンの進化は無限大。彼らデジモンに決まったルートはないのはわかってはいるが、それでも進化していいとは限らないのだ。
そんな話を聞いたカズマは余計に落ち込む。
「うごごごご……」
「まあまあ、焦らずに行こうよ。きっとカズマさんもコカブテリモンも強くなれるよ」
落ち込むカズマへケイは元気づける。
急ぐ気持ちはわかるが、彼らの場数が追い付いてないのはカオルとケイは察した。
正義感の強い彼ならもっと強くなれる……そう感じているが、その強くなるために必要なものはカズマ達は足りていない。
だが彼が強くなる道を見つけるのは彼自身がその道を切り開くしかないのだ。
そのため、カオルとケイたちはあえて黙る事にした。それがカズマとコカブテリモン……彼らのために。
そんな時だった、彼らのデジヴァイスリンクスに連絡が入ったのは。
カズマが自分のデジヴァイスを操作して連絡内容を確認すると、そこに書かれていたのは『BLSランク昇格試験』というものだった。
「えっ、これは!?」
『カズマ、昇格試験だ!』
「もし、これに受かれば……きっとオレ達も!」
昇格試験に目を輝かせるカズマとコカブテリモン。
二人のやる気を出して張り切る姿に、四人は半分期待・半分不安を綯い交ぜな複雑な表情を浮かべていた。
彼が行く先々でトラブルが起こるのは確かなのだから。
新人バディリンカー・赤坂 カズマ。
これはこの世界で生きる何気ない日常の一幕である。
中編
Special thanks
・赤坂一真/花凜様
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地水(ちすい)
2023年7月15日
In デジモン創作サロン
人間たちが住む現実世界とデータ生命体"デジモン"が住む異世界『デジタルワールド』を繋ぐ門(ゲート)が出来て早20年。
当世の子供たちをはじめとした人々がデジモンとパートナーとなり、共生関係となった新世代。
今では人間とデジモンが共に暮らすことが当たり前になった。
だがしかし、いつの時代も事件と災いは起きるもの。
人が、デジモンが、誰しもが心がある限り、争いは起きる。
だが悲しむことはない、争いによる不幸をよく思ってない者は必ずいる。
そしてその中には戦いを以て戦いを終わらせようと立ち上がる者がいた。
その名は、『バディリンカー』。
デジモンを相棒として絆を結び、戦いに赴く者たちをそう呼ぶ。
――だが。
そんなバディリンカー達もいつも無敵ではなく、普段は人の子だ。
これはそんなバディリンカー達の何気ない一幕である。
~~~~~
都内にあるとある神社。
規模は決して大きくはないものの、日本古来より信仰されている神様・稲荷大明神を祀っている名を知れた神社があった。
名は『神薙神社(かんなぎじんじゃ)』、神が薙ぐという物騒な名前にも聞こえるその神社は、ご利益があるデジモンがいる理由で有名となっていた。
「いってきまーす!」
朝早くから出かけたのは和服をベースとした私服を身に纏った黒髪の少女・ミコト。
紺色の袴に淡く彩られた桜色に染まった着物を身に纏った矢絣袴姿の彼女は、陣羽織代わりにジャンパーを羽織り、黒の革ブーツで足取りを軽くしながら出かけて行った。
傍から見てお嬉しそうな様子の彼女の姿を、敷地内にて掃除をしていた同居人でもある紫色の妖狐型デジモン・ヨウコモンが静かに見送る。
パタパタと後ろに縛って纏めたポニーテールが揺れる中、彼女は待ち合わせの場所へと向かっていく。
道すがら運動中のランナーと共に走る毛皮と角の生やした成長期デジモン・サイケモンや、人間の消防士と共に準備を行うセーバードラモンとダークリザモンという消防隊の訓練風景、広場で遊ぶ幼年期デジモンを横目で見ながら、走る速度を速めていく。
一秒でも早く彼に会いたい……そう思いながら、ミコトは駆け出していく。
やがて駅を乗り継いで都内の渋谷・渋谷駅へと辿り着いたミコトは忠犬ハチ公像へと近寄っていく。
待ち合わせにしやすい目立つ場所であるそこには、一体のデジモンと一人の少年がいた。
「いいか、この忠犬ハチ公は銅像だ。本物の忠犬ハチ公は遠い所でご主人様と再会したんだよ」
『そうなの? ハチ、一人で寂しくしてないの?』
白い毛皮と桃色の垂れた耳の持つ犬型デジモン・ラブラモンを言い聞かせているように注意をしているのはミコトの会いたがっていた少年・クロトその人。
黒を基調とした現代の若者といういつもの私服である彼はラブラモンの目線を合わせてしゃがみながら、諭しているようだ。
「ハチ公はもう一人じゃない。だから一緒に居なくていいんだよお前は」
『そっか! ハチ公一人じゃないなら安心だ!』
クロトの言葉を聞いたラブラモンは納得した表情を浮かべてその場から離れていく。
何とか説得に成功したクロトは一息つくと、額に浮かべた汗を腕で拭うような仕草をした。
「やれやれ、ハチ公に憧れるデジモンっているもんだなぁ」
「クロト君!」
「ふぇ? ぐぉ!?」
後ろから声をかけられ、ふと振り向くと次の瞬間、少しの衝撃と柔らかい感触がクロトの体を襲った。
それがミコトに抱き着かれた事だと気づいたのはすぐだった。
胸元にのしかかっている豊かなお胸様の感触に少し困った表情を浮かべ、気を紛らわすために挨拶を行う。
「よ、よぉミコト。こんにちわ」
「ええ、こんにちわクロト君。ふふふっ」
「な、何か嬉しそうだな……何かいいことあったのか?」
「クロト君のいい所をまた見つけたんです。それが嬉しくて嬉しくて」
まるで大切な宝物を見つけたように嬉しそうに笑うミコト。
魅力的な弾力と漂ってくる女性特有の匂いにたじたじになりながらクロトは耳元で囁く。
「えっと、あの、その、まずは離れてくれませんか?」
「もうちょっとこうしていてください。ぎゅーっ」
「せめて人前ではやめてください。ミコトさん」
和服の美少女に抱きつかれ、どうすることもできないと困り果てるクロト。
こうなったら彼女の気が済むまでされるがままにさせるしかない。
どこからどうみても仲睦まじい男女の様子に通行人やデジモンたちは生暖かい目で見守っていた。
~~~~~
ミコトの熱い抱擁から解放された後、クロトは彼女と共に街中を歩いていた。
本当はクロトの片腕に抱きつかれようとしたのだか、先程の行いもあって流石に控えさせてもらった。
若干不満そうにしている彼女を横目に、クロトは溜息をついた。
「はぁ、そこまで不満そうにする必要はないだろう」
「むむっ……なんんですか、私が我儘な女性って思ってるんですか」
「そういうわけじゃない。むしろオレにはもったいないくらいとてもいい人だって思ってるよ」
「うぐぐっ、本心なのはわかってるつもりなんですが」
普段から思っている事を告げたクロトへ、ミコトは不服そうにこちらを睨みつける。
若干顏を赤くしているところを見ると決して心の底までは不満ではないと察することはできるが……どちらにしろ機嫌を直さなければ。
そう思ったクロトが何かないか周囲を見渡すと、そこにあったのはとあるデジモン達が開いていた出店。
相棒と思われる妙齢の女性の隣には二体のデジモン……炎の人型のデジモン・メラモンと雪だるまのような見た目のデジモン・ユキダルモンがいた。
メラモンは身体から噴き出る自らの炎を用いて鉄板で調理しており、それとは対照的にユキダルモンは自身の冷凍能力でアイスクリームを作っている。
それぞれの能力を活かして店を切り盛りしている光景を見て、何か惹かれるものがあったクロトはミコトの方へと向くと、通り過ぎようとする彼女の手を掴んだ。
急に掴まれた事によりミコトは顏を赤くしながら驚きの声を上げる。
「ひゅわっ!? く、クロト君!?」
「ミコト、あの店に食べに行こう」
意中の相手からの急な攻め(もっとも無意識なんだろう)に戸惑うミコトの手を引いてクロトはその出店へと向かっていく。
どうやらメラモンとユキダルモンのいるその出店はどうやらクレープ屋のようで、人の生み出した機械とは一味違った工夫で生み出されたクレープがちょっとした評判を呼んでいるらしい。
受付をやっている妙齢の女性の前までやってきた二人は注文の品を告げた。
「オレ、バニラ黒蜜クレープを一つ。ミコトは?」
「えっと、えっと、あっ、この抹茶アイスのものをお願いします」
2人が注文の品を告げた後、間もなくして二つのクレープが差し出された。
クロトの方には琥珀色に鈍く輝く黒砂糖の甘いソースがかけられた真っ白いバニラアイスが入ったクレープ。
ミコトの方には抹茶アイスをベースに生クリームと餡子を包んだ餡蜜を彷彿とさせるクレープ。
どちらも美味しそうな見た目と匂いが二人の食欲を刺激され、ゴクリと唸らせる。
「美味しそうだな」
「はい、とっても」
代金を払い終えたクロトとミコトは側に置かれたテーブル席へ向かいあうように座ると、早速口の運んで一口食べた。
黒蜜とバニラアイスの異なる甘い味、抹茶のほろ苦く甘い味、そしてふんわりやわらかいクレープ生地が口内に広がっていく。
嬉しそうに食べ勧める二人……特にミコトに関しては好みの味だったのか嬉しそうにパクついていた。
どうやら上機嫌になったようだ。そう思ったクロトは心の中で胸をなでおろした。
(どうやらいつものミコトに戻ったようだな。よかった)
「美味しい~……あっ、クロト君。この抹茶アイス入り美味しいですよ。食べませんか?」
「えっ、いいのか? 悪い気がするんだが」
「そうですか? 私は気にしてませんよ? あ、じゃあそれならその黒蜜のものを一口頂けませんか?」
ニコリと笑いかけてくるミコトを見て、クロトはやれやれといった表情で苦笑した。
二人は互いのクレープを食べさせあって、それぞれ味わったものを舌鼓する。
やがて、二人の持っていたクレープは綺麗に食べ終わった。
「ふぅ、美味しかった」
「美味しかったですね。皆にも教えたいくらいに美味しかったです」
「そうだな、また食べたいな」
「ああ、でもできるなら、またクロト君と二人で食べに行きたいですね」
「ん? ああ……」
クロトは眉を顰め、ミコトの方へと顔を向けた。
その瞬間、クロトの視界に映ったのは……間近に迫ったミコトの顔だった。
一瞬ギョッとするが、ミコトは自身の顔を寄せてクロトの口元……厳密にはクロトの口元に残っていたソースを舌で舐めとった。
「ッ!?」
「ふふっ、餡子の甘さもいいですが、黒蜜の甘さも乙なものですね」
「……ミコト、今のは誰かに勘違いされても文句は言えないぞ?」
「私は貴方へ一途だからいいんです」
顔を片手で覆いながら困惑するクロトの様子に対し、ミコトは花が咲いたような笑顔で答えた。
まるで動じないような彼女の態度に、クロトは何も言い返せずたじたじになるしかなかった。
『おいおい、一刀両断されちまったな。クロトのヤツ』
『言葉の刃はミコトの方が上だったというわけか』
微笑ましい二人の様子を相棒バディであるデジモン達はデジバイスの中から愉快そうに覗いているのであった。
これは、彼らバディリンカー達の何気ない日常の一幕である。
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地水(ちすい)
2023年7月11日
In デジモン創作サロン
中編
灰色の海にて繰り広げられていた、ぶつかり合う刃と刃。
二刀流の黒き武人・ガイオウモンと、海の破戒僧・ダゴモン。
灰色の海にて繰り広げられる煉獄の闘いは激しさを増していくばかりであった。
『ぜぁああああああ!!』
『■■ッ!!』
海上を駆け巡るガイオウモンに向けてダゴモンの振り下ろすトライデントが狙う。
だが、その矛先を軽々と弾き飛ばし、逆にカウンターとして真空刃をお見舞いする。
目の前で繰り広げられているガイオウモンの戦いぶりにアグモンは舌を巻いた。
『すっげぇ、ガイオウモンって強いんだな!』
「ガイオウモン、か……」
レイジは戦いを繰り広げるガイオウモンを見て、とある光景を重ね合わせる。
それは、かつての父と相棒のデジモンの背姿。
自分にとっては立派なヒーローである両者は、誇るべき対象として憧れ、同時に乗り越えるべき壁として目指していた。
そんな父親たちと、今のクロトとガイオウモンは似ている。
奇妙な共通点を見出し、先程まで恐怖で凍っていた顔はどこへやら、思わず笑みを浮かべて噴き出した。
「やっぱ凄いな、チーム・イズモのクロトさんってのは」
レイジは目の前にいるクロトへ視線を向けた。
ガイオウモンから繰り出される斬撃にダゴモンは圧倒されていく。
トライデントを持っていながら後ずさったダゴモン……このままでは不利と判断する自らの身体を構成している手足を幾万の触手へと戻し、鋭い槍として繰り出した。
『■■■■■■ッッッ!!』
『いいだろう、少し馳走してやる、燐火斬!!』
ガイオウモンは菊燐を構えると、そのまま振るい翳した。
ダゴモンの繰り出した幾万の触手による攻撃"サウザンドテンタクル"……それらを二本の菊燐による残す怪しい光の軌跡に触れたモノ、すべてを切り裂く"燐火斬"で切り裂いていく。
触手は全て斬り落とされ、炎に焼かれ消し炭となって消えた。
手足を構成する触手を斬られ、後方へと退くダゴモン。
だが、切られた触手はすぐさま生え、さらに手足へと成り代わる。
その様子を見てクロトは眉をひそめて呟いた。
「再生した? アイツ、もしかして結構強いな?」
『クロトさん、そんなこと言ってる場合か! 再生されたらどうしようもないぞ!』
感心するクロトへアグモンがツッコミを入れる。
元通りになった四肢で迫り、再び手にしたトライデントで攻撃で攻撃を仕掛ける。
ガイオウモンは上手く捌きながら次の一手を考えていた。
『再生能力が厄介だな……コイツを斬るには』
ガイオウモンは振り下ろされるトライデントを片手の菊燐で受け止め、もう片方でダゴモンの胴体を思いっきり叩き切る。
だが、すぐさま触手が繋ぎ合わせ、元通りになる。
一旦距離を取り、次の一手を繰り出そうとしたその時だった……。
『飯綱!』
『天之尾羽張!』
突如、四匹の管狐と黒い稲妻がダゴモンへ襲い掛かった。
何事かと思いながらガイオウモンは振り向くと、そこに現れたのは、二体の人型のデジモン。
片や金の鎧に女性的なボディ、長く伸ばした白髪を纏めて狐を模した仮面をつけた姿の神人型デジモン――サクヤモン。
片や忍者を思わせる鋼鉄のボディ、背中から生えた漆黒の片翼を持つサイボーグ型デジモン――レイヴモン。
ガイオウモン、そしてクロトは彼らをよく知っている……チームの同じメンバーであり、ミコトとダンのバディのデジモンである。
その証拠を示すのか、サクヤモンの肩にはミコト、レイヴモンの片腕にはダンの姿があった。
「クロト君!」
「間に合った、クロト先輩!」
「ミコト、ダン、来てくれたか! っととと!?」
ミコトはサクヤモンの肩から飛び降り、クロトに抱き着く形で着地し、その後にダンが音もなく地面に降り立った。
自分達のバディリンカーを地上に降ろした後、サクヤモンとレイヴモンはガイオウモンの傍らに立ち並つと彼に話しかける。
『ガイオウモン、どうやら手間取ってるようね』
『サクヤモン……チッ、残念ながらこのタコ野郎、一筋なわじゃいかねえのは確かだ』
『ソイツは自分が作り上げたこの邪気を漂わせたフィールド内ならどんな攻撃も再生してしまう。つまりアイツの攻略法は……』
『なるほど、大体読めた。準備が整うまで攻撃を切り伏せりゃいいんだな』
レイヴモンの言葉を理解したガイオウモンは腰を低くしながら、地面をけり上げてダッシュする。
対してダゴモンは向かってくるガイオウモンへ片腕を突き出し、再びいくつもの触手を解き放った。
その一手を見据えていたガイオウモンは身体を捻り、回転しながら斬り落としていく。
ダゴモンがガイオウモンの相手をしている所へ、サクヤモンのバディリンカーであるミコトが狐色のデジヴァイスリンクスを掲げて指示を送る。
「サクヤモン、巫女モード!」
『ええ、参りましょうか!』
サクヤモンの言葉と共に彼女の姿が変わっていく。
金と黒を基調とした戦闘衣装が解き離れ、女性的なメリハリのある身体が露になり、そこへ白い小袖に緋袴を身に纏う。
神事の奉仕をおこなう姿『サクヤモン:巫女モード』へ変わると、手にした御幣を構え、舞いをし始めた。
『払えたまえ、清めたまえ、この常世に漂う邪気を消えたまえ!』
巫女モードのサクヤモンが披露する舞いと共に、周囲の雰囲気が変わっていく。
灰色の世界に広がる陰鬱とした雰囲気が神聖なものへ変わりはじめ、同時に幾何学模様の柱が力を失ったように塵となって崩れ去る。
自身のリソース源となっていた柱が消えたことにダゴモンは目を見開いた。
このままでは再生ができなくなる……その思考に陥った時、耳元に声が聞こえた。
『なるほど、連れ去った子供達を生贄として使い、その生命エネルギーを自らの力に得ていたか』
『■■■ッ!?』
『おっと!』
背後に忍び寄ったレイヴモンに気付いたダゴモンは身体から触手を伸ばし貫こうとする。
だが素早い身のこなしで軽々と避けられると、レイヴモンから左腕の白銀の翼を振るい降ろされた。
白銀の翼は眩く発光し、ダゴモンの身体を容易く切り裂いた。
『ブラストウィング!!』
『■■■■■!!!』
レイヴモンの繰り出した左腕の翼で切り裂く『ブラストウィング』を受け、深々と身体を切り裂かれたダゴモン。
すぐさま傷を再生しようとする……だが、傷の治る速度が遅くなっている。
今のダゴモンには驚異的な再生能力はない……そう悟ったガイオウモンは、足場を思いっきり蹴り上げ、高く飛び上がる。
―――狙うは若き子供達を冒涜する海の邪神……今、黒き刃が振り下ろされる。
『自らの位に驕り昂る神に出会えばその神を斬り!』
一太刀、上空から振り下ろされた刃がトライデントごと切り裂き。
『暴虐の限りを尽くす悪魔に会えばその悪魔すら撃つ!』
二太刀、もう一振りから振り下ろされた真一文字が胴体を泣き別れにさせる。
『我が刃は神魔すら断ち斬る意思の一太刀!』
三太刀、回転した勢いに乗って上段からの斬撃が、邪神の頭から下まで叩き切った。
ガイオウモンが繰り出した剣撃により、ダゴモンの身体は四つに切り裂かれた。
それでも、邪神と言われるゆえ成り立つ宿業か、それとも完全体にまで上り詰めたデジモンだからこその意地か。
自らを切り裂いた怨敵へ手を伸ばそうとする……せめてお前だけでも、道連れに。
――だが、その刹那、ダゴモンの左顔に容赦なく菊燐が突き刺さる。
『■■■■ッッッ!!!!!』
『生憎だったな、俺が斬るべき相手はこの世でたった一人……空前無二の存在だ』
『■■■ッッ!?』
『邪神などという立場で満足している貴様程度に躓いてられるか……一足先に、地獄の奈落で待っていろッッ!!』
揺ぎ無い信念を宿したガイオウモンの言葉を共に、菊燐が光り輝く。
大気中……否、大地や海からのエネルギーを刀身に集め、繰り出すその一撃。
幾千幾万の闘いを勝ち抜き、強くなっていったガイオウモンだからこそ必殺の一撃へと昇華させたその技の名を、思いっきり叫んだ。
『―――ガイア……リアクタァァァァアア!!』
世界が真っ白に染まり、眩い閃光と多大な熱量が灰色の海が広がる世界を焼き尽くした。
ガイオウモンが繰り出した『ガイアリアクター』によって、ダゴモンが生み出した空間のゆがみが破壊されていく。
ここにいては危険だと嫌でもわかるほどの爆発を背に、攫われた子供達を抱きかかえてクロト達チームイズモは空間の歪みから脱出した。
~~~~~
子供の行方不明者事件の元凶・ダゴモンを倒して数十分後。
行方不明になっていた子供達は大人達に任せ、チームイズモはレイジと共にお台場に残ってとある人物を待っていた。
間もなくして現れたのは、兄の救出を報告し、マヒロと共にやってきたのはアイラ。
兄のレイジの姿を見つけると、アイラは彼に抱き着いた。
「お兄ちゃん!」
「アイラ!」
「もう、心配したんだから!」
「ああ、心配かけさせて悪かったな」
安心と嬉しさのあまり泣き出すアイラを、レイジは優しい笑みを浮かべながら頭を優しく撫でた。
その光景を見ながら、クロトは安心した表情を浮かべる。
「よかったな。レイジ君、無事助かって」
「なんか嬉しそうですな」
「ああ、オレ四人兄弟の末っ子でな。兄さんも姉さんも、あと一番上の姉さんもとってもいい人に優しくてさ……だから兄弟の良さはよく知ってる」
「だから助けたかったというわけ、か」
ダンに聞かれ、クロトは嬉しそうに答えた。
その答えも聞いて、ダンもまるで自分の事のように笑顔で返した。
そんな中、クロトの背中に何かこつんと軽い衝撃が走る。
何事かとクロトが振り向くと、ミコトの頭が見えた……どうやら自分の背中に回って身を寄せているようだ。
「……ミコト?」
「クロト君、また一人で危険な場所に飛び込んで」
「あー、あれか。どうしても助けなければいけなかったから」
「わかってる、わかってるけど……どうせなら連れて行ってほしかった。置いていくくらいなら頼って連れて行ってほしかった」
「いやだって、気分悪いまま連れて行くわけにもいかなかったし、あの場に残っていた方が後続のために」
「…………」
「ちょっ、まっ、ミコト!? ミコトさん!? やめっ、やめてくださーい!?」
自ら危険を冒すことに抵抗感がないクロトにミコトは眉を顰めると、両腕を回して彼の身体を拘束し、ぐりぐりと頭を押し付ける。
クロトは彼女の奇行に戸惑いながら、無理に取っ払うわけにもいかず動けないでいた。
二人の仲包まじい様子(?)をレイジとアイラはキョトンとした表情で眺めていた。
「何やってんだろう? あれ」
「ねえ、ダンさん。ミコトさんってクロトさんの事好きなの?」
「うーんそうだよ……見ていても割と重すぎるくらいにはね」
ダンはアイラの質問に諦めと同情が混じった表情で、クロトとミコトが繰り広げるやり取りを見ていた。
そんなチームイズモの様子を静かに見ていたマヒロと、ダンに同行していたミスターガッチが話し合う。
「ふむ……今回もいい結果になったか」
「まさかあのダゴモンが事件の元凶だったとは……倒せてよかったですね。流石秋葉原最強のバディリンカーズであるチーム・イズモだ」
「……ん? ああそういう話か」
「え……マヒロさん?」
「無自覚な男と重い愛の女、二人のああいう形も、甘いと思っていてな」
「……これがボケボケマイスターか」
最年長でありながら変人じみたマヒロの一面を見て、ミスターガッチは苦笑いを浮かべた。
時刻は夕方、赤く燃える夕日が一同を色鮮やかに照らしていた。
―――神々が集う聖地の名を冠する、『チーム・イズモ』
―――彼らが使途するは、神魔も恐れぬ最強の相棒たち。
―――彼らの闘いは続く。次に戦いへ誘おうのは何者か。
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地水(ちすい)
2023年7月10日
In デジモン創作サロン
前編
東京近郊。
森林公園に辿り着いたダンは、そこでとある人物と待ち合わせをしていた。
そこにやってきたのは緑の髪の上に大き目のゴーグルをかけた一人の少年。
ダンはその少年を見つけると、気軽な感じで声をかけた。
「やぁ、調子はどうかな? ミスターガッチさん」
「ばっちりだよ、ダン君。君の推測でそれらしいのは見つかったよ」
そう言いながら、ゴーグルの少年……『ミスターガッチ』は手にしていたタブレットPCを差し出しす。
ダンが覗き込むと、そこに映し出されていたのは被害者として報道された子供と彼らを連れ去る人影の光景。
人影の方は何処か人間というよりはデジモンの姿に似ている……ダンは疑問に思ったことを告げる。
「コイツは? デジモンか?」
「事件当日、監視カメラに映し出されていたものだよ。子供たちが最後に目撃されたとき、これらが現れていたんだ」
「……特徴からして、水かきと魚顔? どことなくハンギョモンに似ているが」
「だとしても、何故こんなに"黒い"?」
ダンは疑問に思ったのは、ハンギョモンに似た黒い人影の姿。
連れ去られた時間的にも関わらず、子供たちを連れ去ったソレはまるで絵具で塗りつぶしたかのように姿が黒かった。
その異質さにミスターガッチと共に眉を顰め、少し思考を巡らせる。
そして、辿り着いた答えを口に呟いた。
「こいつら、もしやデジモンの形をした何かじゃないか?」
「えっ、どういうことだい?」
「行きすがら話すよ……もしかしたら、この行方不明事件は結構ヤバいかもしれないってこと」
そう言いながら、ダンはミスターガッチと共に、公園から別の場所へ向かう。
自らが導き出した答えに一抹の不安を抱えながら、別行動の仲間の元へと合流しに。
~~~~~
東京、お台場。
青い海が広がる海洋公園へ足を踏み入れたクロトとミコト。
二人は行方不明になった子供の一人が最後に目撃された場所に足を踏み入れた。
クロトは自分たち以外に周囲を見回す。
「ここが、最後の子供がいなくなった場所か。ミコト、どうだ? 何か感じるか?」
「……微かですが、妙な邪気が残ってる。何処かにまだ痕跡があるかも」
「なら、少し探してみるか」
気を研ぎ澄ませながら周囲を探ってくれたミコトと、彼女の言葉を信じて周囲を探し始めるクロト。
この場所も警察の手が入り込んで調べつくした後だが、それでも自分達が見つけられる『何か』があると信じて探っていく。
やがて、二人はあるものを見つける……それは、時空の歪みだ。
まるでゲームやアニメなどによくある虚空に浮かぶ孔で、その向こう側には灰色の海の光景が広がっていた。
クロトとミコトは驚きの声を上げる。
「「見つけた!」」
「だが、これって……」
「……ッ! 気を付けてクロト君……凄い邪気が、満ちている」
歪みの向こうから漂う邪気を感じ取り、ミコトは眉を顰めクロトに思わず抱き着いた。
あまりの邪気の濃さに気分が悪くなったのだとクロトは悟った。
ひとまず彼女の気分を優れさせるために一旦この場から離れようとする……だがそこへ、つんざくような悲鳴が聞こえてきた。
「―――うわあああああああ!!!?」
「悲鳴!? あの歪みの向こうからだ!」
「ま、待って! まさかあそこへ飛び込む気!?」
「放っておけないだろ。ミコトはここから離れて、ダンと合流してくれ」
クロトは戸惑うミコトにそう言い聞かせると、彼女に軽いハグをお見舞いして、その後は時空の歪みへ走り出し、そのまま大きくジャンプ。
そのまま時空のひずみへと飛び込み、姿を消した。
「……クロト君」
一人残されたミコトはクロトに触れられた所を優しく手で添えながら、彼に言われた通りダン達と合流を待つことにした。
その頃、灰色の海が広がる異世界。
そこに黒い影達に追いかけられる一人の少年と一匹の小さな爬虫類のデジモンがいた。
「くっそぉ!こいつらどうなってるんだ!」
『レイジ、こいつらいくら倒してもまた出てくるよ!』
「諦めるなアグモン! きっと打開策はある!」
ボサボサの長髪とゴーグルが特徴の少年・志士神レイジと、彼の相棒である黄色い爬虫類型のデジモン・アグモン。
二人は後方から追いかけてくる黒い人影から必死に逃げていた。
子供ながら運動部でやりこんだ足の速さと、アグモンが放つ口からの火の球・"ベビーフレイム"で何とか牽制をしているものの、いまだに追手の勢いが消えることがない。
「くっそ、あいつらいつまで追いかけてくるんだ!?」
『あいつら、攻撃が全然効いてない!』
「少しは痛がれっての!」
レイジとアグモンは逃げる足を速める。
自分達は行方不明になった友達を助けるために、ここまで来たんだ。
簡単に諦めてたまるか……そう思った矢先、逃げていた先に広がっていた光景に驚く。
そこに広がるのは、数十人にも及ぶほどの黒い影。
後ろから迫る黒い影と合わせて、逃げ場を失ったとレイジ達は知ることになった。
「か、囲まれた!?」
『絶体絶命のピンチ!』
レイジとアグモンが目の前に迫る危機に一瞬気を取られる。
その瞬間を狙って、黒い影は襲い掛かった。
絶体絶命的な状況……それでも諦めたくないレイジは敵から視線を外さなかった。
その時、第三者の声が聞こえてきた。
「ディーサモン、ガルルモン!」
【SUMMON THE DEGIMON】
電子音声と共に、青と白の風が吹きすさぶ。
凄まじい風圧と共に、黒い影へと近づき、その牙と爪を以て蹴散らしていく。
その場にいる全ての黒い影を蹴散らすと、レイジたちの目の前に姿を現したのは一体のデジモン。
白い身体に青い模様が入った何処か狼を思わせる四足歩行型のデジモン・ガルルモン。
だが、本来のガルルモンとは違い、向こうの景色が透けて見えるほどの半透明のボディが特徴的だった。
ガルルモンは敵が蹴散らしたのを見届けると、空気に溶けるかのように消えていった。
それを見て、レイジはあるものに辿り着いて呟く。
「デジメモリアの召喚体デジモンか」
「よく知ってるな。デジメモリアの事を」
レイジが振り向くと、そこに立っていたのは自分より年上の少年。
その少年……もとい、クロトはレイジに近づき、しゃがんで同じ目線にした後彼に訊ねた。
「君がレイジ君か。君を助けに来た」
「えっ、オレを?」
『おにーさん。何者なの?』
「そうだ、こっちから名乗らないと。オレは志士神レイジ、こっちは相棒のアグモンだ」
『アグモンだよ、よろしく』
「オレは藤原クロトだ。よろしく」
クロトは手を差し出して握手を求め、レイジはそれに答えるように握り返した。
その後、別の場所へと映したクロトがここまでの経緯を話すと、レイジは納得した表情を浮かべた。
「つまりクロトさんは俺を探しにここに来たってことか」
「ああ、そうだよ。君の事をアイラちゃんは心配しているからね」
「……わかってる。今俺がしていることは決して褒められることじゃないってことぐらい。だけどどうしても放っておけなかったんだ」
「行方不明になった友達をかい?」
クロトの訊ねにレイジは静かに頷く。
二人は海が一望できる崖へとたどり着くと、そこに広がっていたのは灰色の海と、その近くの岩礁にはいくつもの幾何学模様の柱が聳え立っていた。
その柱に縛られているのは……十数人にも及ぶ子供達の姿。
「ほら、あそこ!」
「あれって、行方不明になった子供達!」
『俺とレイジは助けに行こうとしたけど、あの影が邪魔して泣く泣く一時撤退したんだ』
アグモンの説明の通り、柱の周囲には黒い影が徘徊していた。
きっと今のままでは先程のレイジ達みたいに取り囲まれてしまう……そう思ったクロトは懐にあったカード型アイテム・デジメモリアを取り出す。
先程使ったガルルモンのデジメモリアの他に、"デッカードラモン"や"メタリフェクワガーモン"といった複数のデジメモリアが手元にあった。
どれを使おうかと思考していると、レイジが一枚のデジメモリアに目を止める。
「ねぇ、こいつ使えるんじゃないか?」
「コイツか……よし、使ってみるか!」
レイジの示したデジメモリアを手にすると、手にしていたスマートフォンと酷似した外見を持つ漆黒の機械・『デジヴァイスリンクス』を構える。
そして、画面にデジメモリアを翳して、前方へ突き出した。
「ディーサモン、ガルダモン!」
【SUMMON THE DEGIMON】
クロトの言葉と共に電子音声が鳴り響き、空中にとある召喚体デジモンが出現した。
赤い羽毛と大きな翼を持った姿をした鳥人型デジモン・ガルダモン。
クロト・レイジ・アグモンの3人は咄嗟にガルダモンの足にしがみ付くと、ガルダモンは翼を大きく羽ばたかせながら飛んでいく。
向かうは岩礁に建てられた柱に縛り付けられている子供達……黒い影は襲撃者に気付くと取り押さえられる飛びかかるも、ガルダモンの羽ばたく風圧に負け、軽々と吹き飛ばされてしまう。
何とか柱の元へとたどり着いた一同は子供達の元へ近寄る。
「子供たちは……無事だな、よかった」
「待ってろよ皆、俺が、俺達が今助けてやるからな」
レイジは子供達を開放しようと縛っている綱を解こうとする。
行方不明の子供を連れて戻れば、後は事件解決……そう考えていたレイジへ、何かの気配を感じ取ったアグモンが叫んだ。
『……! レイジ! ヤバいぞ! 来る! 何かが来る!』
「「……!?」」
その言葉が聞こえた直後、海に巨大な水柱が打ちあがった。
暗い海の底から這い出てきたのは、―――天を見上げるほどの巨大な身体を持った、一体の怪物。
背中から生えた蝙蝠を模した翼、タコの模した頭部、首には数珠。
その禍々しい姿にレイジは目を見開いてくぎ付けになった。
「なんだよ、ありゃ……!」
『■■■■■■ッッッ!!!』
その禍々しい怪物はゆっくりと、ゆっくりと、足を進めながら陸上へ向かってくる。
レイジはその恐ろしい光景を見て、心の内が恐怖に支配されていく。
まさか、コイツが子供たちを……?
今回の行方不明事件の真実が目の前にいる怪物のせいだと気づき、次は自分の番だと気づく。
何とかしなければと頭ではわかっていながらも、手足は震え動かない。
恐怖で動けなくなっていると気づいたレイジは、歯を食いしばった。
―――だが、その恐怖を一刀両断するかの如く、希望に満ちた声が聞こえてきた。
「はっ、子供達を取り戻しに来たってところか。ならばアイツを倒せばいいのかな」
「く、クロトさん?」
「レイジ君。そういや紹介してなかったね。オレの相棒をね」
クロトは一歩足を踏み出し、迫りくる巨大な怪物へ向けてデジヴァイスリンクスを突き出す。
深呼吸をしながら整えると、勢いよく叫んだ。
「出陣だ、ガイオウモン!!」
その言葉と共にデジヴァイスリンクスの画面が眩い閃光が辺りを包む。
次に出現したのは、大地から噴き出す赤い炎。
まるで色を失った世界を斬り出して噴き出した鮮血のように炎の柱が噴き出す中、そこから漆黒の魔人が現れた。
漆黒に染まった和風の鎧、二本の角が生えた竜にも似た鉄の仮面、手には二振りの曲刀を携えてある。
鎧武者の竜人というべきそのデジモン――『ガイオウモン』は、堂々した面持ちで姿を現すと、愛刀・菊燐を目の前へ構えた。
『ようやく、出番か。クロト』
「ああ、今回の相手はお気に召すかな?」
『フン……』
クロトの言葉を聞いて、ガイオウモンは目の前に迫りくる邪なる怪物を一瞥する。
そして少しの間観察したのち、突如菊燐を大きく振るった。
一閃、灰色の海が斬られ、モーセの如く道ができた。
怪物はなすすべなく海の底だった場所へと叩きつけられしまう。
ガイオウモンは手応えを確かめた後、口を開いた。
『なるほど、今まで神や悪魔を断ち切ってみせたが、邪神というのはまだだったな』
『■■■■■■ッッッ!!!』
『ようやくその気になったか、―――面白い、斬ってみるか!』
よもや"自分を倒すかもしれない"敵に危機感を覚えた怪物は背中の翼を広げ、襲い掛かろうとする。
それに対して、ガイオウモンは鋼鉄のマスクに覆われた顔の下で歓喜の声を上げながら地面を蹴り上げる。
『さぁ、いざいざ、戦場に押して参らん!』
『■■■■■■ッッッ!!!』
迫りくる黒き刃の武人を見て、怪物は三又槍を構え、相対する。
二刀流の竜人型デジモン・ガイオウモン。
冒涜なる邪神型デジモン・ダゴモン。
二体のデジモンがぶつかり合い、激突する。
その余波で海が裂け、大地は砕け、空は荒れる。
陰鬱とした雰囲気だった灰色の海は今や紅蓮の地獄を巻き起こす戦場と化した。
後編
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地水(ちすい)
2023年7月09日
In デジモン創作サロン
人間たちが住む現実世界とデータ生命体"デジモン"が住む異世界『デジタルワールド』を繋ぐ|門《ゲート》が出来て早20年。
当世の子供たちをはじめとした人々がデジモンとパートナーとなり、共生関係となった新世代。
今では人間とデジモンが共に暮らすことが当たり前になった。
だがしかし、いつの時代も事件と災いは起きるもの。
人が、デジモンが、誰しもが心がある限り、争いは起きる。
だが悲しむことはない、争いによる不幸をよく思ってない者は必ずいる。
そしてその中には戦いを以て戦いを終わらせようと立ち上がる者がいた。
その名は、『バディリンカー』。
デジモンを相棒として絆を結び、戦いに赴く者たちをそう呼ぶ。
~~~~~
秋葉原、とある街道。
いくつもの人々とデジモンが行きかっている日常が続いていた。
昨日と何一つ変わらぬいつもの日常、今日も続くと思われていた。
だが、そんな当たり前を崩すように耳障りな爆音が聞こえてきた。
「おらおらおら! チームE-FANG《イーファング》のお通りだ!」
『『『ギャォオオオオ!!』』』
そこに突き進むのは、自動車などお構いなしに道路を突き進んでいくデジモン達と彼らを駆る相棒らしきフードを被った少年達。
赤い体色をした肉食恐竜型デジモン・ティラノモンや深緑色と角が特徴の草食恐竜型デジモン・トリケラモン、そしてリーダー格の少年が乗っている翼竜型デジモン・プテラノモン。
恐竜の姿形をしたデジモン達が秋葉原の道路を突き進んでいく光景に通行人は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「へっへっへ! ここ秋葉原に俺達の拠点建ててやるぜ!」
「いいねぇ! 荒しついでに乗っ取ってやろうじゃねえの!」
「そうだ。まず手始めに秋葉原を根城にしているやつらをぶったおして……」
イーファングの少年達は次なる標的を定めていると、視界に入ってきたのはキツネを思わせる小さな黄色いデジモンを抱えた一人の少女。
どうやら逃げ遅れた様子でその小さなデジモン・ポコモンを大事そうに抱えている。
イーファングの少年達はそんな少女とポコモンを見てもお構いなしか、恐竜デジモンの走る足を速めた。
「おらおらおら! どかねぇってんなら死にたいようだなぁ!」
「くたばっておっちんじまいなあ! ガキがぁ!」
容赦ない罵声を上げながら迫る恐竜デジモン達。
少女は悲鳴を上げる間もなく、ただ大事な友達のポコモンを庇うために身を挺す。
目撃者は誰もが息をいきをのみ、背筋を凍らせる。
だが、一人だけ足を踏み出し、少女の元へ駆けつける人影があった。
人影は手にした漆黒色の機械である"ソレ"を取り出し、構える。
―――その時、黒い影が一瞬視界を覆いつくす。
その刹那、耳障りな斬撃音と共にティラノモンやトリケラモンといった地上にいた恐竜デジモン達が倒れ伏した。
彼らの上に乗っていたイーファングの少年たちは勢いあまって投げ出され、地面へと叩きつけられる……前に光の輪が彼らを宙に拘束した。
唯一空中にいたため逃れたプテラノモンとリーダー格の少年は何が起きたのか困惑していた。
「な、なんだ!? どうしたんだよこれ!?」
『そりゃ、お前たちの悪行が今から返ってくる所だからよ』
「えっ、ぎゃふぅん!?」
謎の第三者の声が聞こえてきて、リーダー格が振り返ると……そこに映ったのは自らへ振り下ろされる鉄の剣。
剣の腹がプテラノモンをも纏めて直撃し、間抜けな声と共にリーダー格の少年は意識を手放した。
謎の非行少年達達によるデジモン進撃があっけなく終わった後、その現場に駆け付ける者がいた。
黒髪に空のような青い瞳を持つ赤を基調とした服を身にまとう男性は周囲の状況を確認した後、傍らにいた白装束の衣装を身にまとう人型のデジモンと、何処かギリシャっぽい蛇の鎧を身にまとった少女の姿をしたデジモンにねぎらいの言葉をかけた。
「お疲れ、バアルモン、ミネルヴァモン」
『ああ。被害は思ったより少なく済んだようだな。ジェイ』
『全員拘束、当然だけど生存確認してるよ』
「とはいえ、よくもまあ荒してくれちゃって……」
赤い服の青年……『ジェイ』は非行少年集団イーファングが及ぼした被害に苦笑をしていた。
デジモンとの共存する社会となっている今、デジモンを使った人間が引き起こす犯罪。
そんな彼らを取り締まる捜査機関"ディーハンター"である自分の仕事だ。
自身の二体の相棒であるバアルモンとミネルヴァモンと共に事後処理を行うとするが、ミネルヴァモンが声をかけてくる。
『そーいえばジェイ、地上のデジモンなんだけど妙な斬撃を受けた傷があったよ。【例のアレ】だ』
「ああ、なるほど……いわば陰の功労者ってヤツか」
ミネルヴァモンの証言を聞いて何かを察したジェイは再び周囲を見渡した。
そこで、とある光景に目が留まった。
ポコモンを連れた小さな少女に、一人の年若い少年が膝をついて話しかけていた。
「大丈夫か?」
「うん、助けてありがとう。おにーちゃん」
『ありがとっ』
感謝の言葉を言われて黒い髪と黒いジャケットを身にまとた少年は笑顔で返した。
そんな彼を見てジェイはため息をつきながら近づくと、気さくな口調で話しかける。
「よぉ、お前も来ていたか。クロト」
「あっ、えっ、ジェイさん!?」
後ろから話しかけられ、振り向いて視界に入った途端、ジェイからすぐさま離れる少年。
その少年……『藤原クロト』はジェイ達から距離を取って離れたのち、一目散に近くの裏路地へ逃げて行った。
ジェイは無駄とわかっていても呼び止めようとする。
「おい、クロト! ちょっと待て! お前にも話が!!」
『ふむ、追いつくのは難しいな。どうする?』
「……いいや、やめておくよ。俺が言いたかったのは感謝の言葉だったんだけどな」
バアルモンの言葉を聞いて、ジェイは彼を追いかける事を断念すると、不思議そうに見つめる少女に声をかけてお話という事情聴取を取り始めた。
―――彼らの頭上で、クロトを乗せた黒い人影が大空の向こうへと飛び去って行った。
~~~~~
秋葉原、某所。
何処かの公園に足を踏み入れたクロトはとある場所へと向かっていた。
空中に浮かぶ拡張現実による立体モニターには最新情報が映し出されている。
『ドッカンパンチ!花嵐笑里のソロシングル発売!』
『デジモンディーチューバーAstraのノレルーツ!今日はチームロムルスのルーツを探っていくぜ!』
『先程秋葉原中央通りにて起きたデジモンの暴走事件ですが、死傷者0とのことです。警察によると少年らは全員取り押さえられ……』
様々な出来事が映し出されている中、クロトはとある場所にたどり着く。
そこは、総務線の高架下に建てられたとある喫茶店。
『一番星』と書かれた看板を引っさげているその店の扉を開けた。
店内は畳を敷いた集団席や緑茶を中心としたお品物などどこか和風の雰囲気の内装が広がる。
そしてカウンター席では二人の人物が座っていた。
一人は紅色の和服を身に纏う黒髪の大人びた美少女、もう一人はファーのついた上着を着たこげ茶髪の少年。
クロトが店内に入って来たのを二人が見つけると、少女のほうが立ち上がる。
「クロト君!」
クロトの名を呼びながら駆け寄ると、思いっきり飛びついて抱き締める。
その際に彼女の豊満な胸がおしつけられてしまい、布越しでも分かるような柔らかい感触にクロトは少し照れてしまう。
少年はいつも見慣れた光景に同情を孕んだ視線を向けながら特に口出しもせず見守っていた。
引き剥がそうにも意外と力強い彼女……『神和木ミコト』に事情を聞き始める。
「どうしたんだよミコト。いきなり飛びついてきて」
「だ、だって! クロト君が買い物出掛けた所に事件が!?」
「えっ、事件って何が?特に何も……」
「何も無かった、なんて言わせはしないですよ。クロト先輩」
「どういうことだよ、ダン」
ミコトに抱きつかれ、心当たりがない事に戸惑うクロト。そこへこげ茶の髪の少年……『加藤ダン』はタブレットPCに映し出されたものを見せる。
そこに映し出されていたのは、倒れ伏した恐竜型デジモンとしょっ引かれる持ち主の少年たちの画像だった。
「さっき起きた白昼堂々のデジモン珍走族事件。犯人はE-FANGっていうここ最近東京近辺で暴れ回っていたチーム……これ片付けたのクロト先輩でしょ?」
「……あー、ああ。あいつらか?」
「ああ、やっぱりか。その様子だと誰かを助けるついでにやっちゃったわけだ」
「いやその、オレは小さい子が巻き込まれるのが見えて、それで咄嗟に」
「とっさの勢いで悪さしてたチームを呼吸するかの如く潰すなんてね。ここまで来ると誇らしくなってきますね、ホントに」
ダンの生暖かい視線を向けられ、何とも言えない気持ちになるクロト。
反論しようと彼の元へ向かおうとするも、ミコトが未だに抱き着いているせいか上手く身動きが取れない。
そのミコトは顔を見せないようにしたまま、呟くように声を出した。
「クロト君……危ないことはしないでください。じゃないと私、悲しくなります」
「いや、その、あの……おい」
「イヤですよ。他人の恋路を邪魔するなんて危険を侵すほど忍者は愚かじゃないんで」
「こいじって……ともかく、オレは無事なんだからいいだろ!」
抱き着いているミコトを離そうとしながら、クロトはジンに向かって叫ぶ。
三人がいつものやりとりを繰り広げていると、店の奥から一人の壮年の男性が現れる。
ウェーブかかった長い茶髪をしているグラサンをかけた男性……『高見沢マヒロ』は、三人へ声をかけた。
「三人とも、お前たちにお客さんだ」
「はーい。さて、行きますか。クロト先輩、ミコト先輩」
「…………むぅ」
「むくれるんじゃないっての。ほら、いくぞ」
マヒロの言葉を聞いて先に店の奥へと進むダン。不満そうにむくれるミコトを連れてクロトも後に続く。
三人が団体客用の奥座敷の部屋に通され、そこにいたのは一人のショートヘアーの女の子とピンク色の羽毛に覆われた鳥型のデジモン。
マヒロが座っている少女の元まで向かうと挨拶を促した。
「さぁ、事情を話してごらん。このお兄ちゃんたちに」
「はい……あの、初めまして。私の名前は|志士神 愛空《シシガミ・アイラ》って言います。こっちはパートナーのピヨモン」
『よろしくね』
その赤毛のショートヘアーが特徴の少女・志士神アイラと鳥型デジモン・ピヨモンは三人に挨拶を告げた。
三人が挨拶をしたのち、アイラは振り絞る声で言い放った。
「あの、お兄ちゃん達を助けてください!」
「お兄ちゃんを?」
「お兄ちゃん……レイジって名前ですけど、最近頻発している神隠し事件に友達が巻き込まれて、それで取り戻すと言って家に帰ってこなくて」
疑問符を浮かべたダンの言葉にアイラは答える。
……話によると、ここ最近東京近郊で起きている小学生や中学生をはじめとした子供たちが消失する行方不明事件。
共通点は年若い子供たちという点以外何一つつかめてないまま警察の操作は難航していた。
その中にはアイラの兄・レイジの友達や同級生が巻き込まれたという。
大人達が何もしてくれない今、"頼れるのは自分だけ"だとレイジは家から飛び出して、それ以降家には何日も帰っていないという。
その話を聞いて、ある事に気づいたミコトは訊ねる。
「お父さんやお母さんには相談しなかったの?」
『アイラのお父さんもお母さんも海外に仕事で、家にはいないの』
「それに、お父さん達がいたとしても、話さなかったと思う。お兄ちゃん、二人に迷惑かけたくなかったから」
ミコトの質問にピヨモンが答え、アイラが続いて言葉を紡ぐ。
自分たちの父と母ははっきり言ってしまえば誇らしい人間だ。
特に父に至ってはデジモンと共に大きな仕事をしているそうだ。
そんなヒーローみたいな両親を持ったからこそ、二人には迷惑をかけたくなかった。
そう思った兄は相棒のデジモンと共に、友達の行方を追うことになった。
だが、もしもその兄もすら失ったら……。
そう思ったとき、アイラは泣きそうになる。
目尻に涙を浮かべ、堪えるには年が若い……そんな中、クロトの声が耳に届いた。
「そっか、お兄ちゃんは友達の事を大切に思ってるんだね」
「えっ……」
「だって君のお兄ちゃん、友達のために動いたんだろ?」
クロトが向けた笑顔に、アイラは目を見開いて少し驚く。
少し無鉄砲ながらも誰かのために動く兄の事を褒めてくれたことに何処か嬉しさを覚えると、兄の話を続ける。
「お兄ちゃん、お父さんに似て仲間や友達の事を大切に思っていて、よく私達と同じぐらいの時に似ているってお母さん言っていた」
「あれ、ということはお父さんとお母さんは幼いころから知り合って、それで結婚したの?」
「うん、そうだよ」
「わぁ、素敵! 長い付き合いの男女が結婚するなんてロマンチックですね」
ミコトはアイラの両親の慣れそめ話の聞き惚れ、クロトとダンはあきれた表情を浮かべた。
そこへ二人の人物が入ってくる。
黒髪と唇の髭が目立つ『桜井コウヤ』と、茶髪と眼鏡をかけた『フリージア坂崎』。
この喫茶店の従業メンバーである彼らは、クロト達三人に向かって話しかける。
「おーい、若造ども。情報は仕入れてきたぞー」
「ほら、頑張らねえと今日のまかない奮発してやらねーぞ?」
「……ということだ。準備は良いか?」
マヒロの言葉に、三人はアイラに視線を向ける。
そして、彼女に元気づけるこう告げた。
「アイラちゃん、オレ達に任せろ。君のお兄ちゃんはオレ達が戻す」
「あなたの大切な人、きっと取り戻すからね」
「そういうことだから、ここでゆっくり待っていてくれよ。あとココの"オムそば"と"ゆであずき"は美味しいから味見してみなよ」
クロト、ミコト、ダンはそう言い残すと、部屋から出て行った。
アイラは呼び止めようとするが、その手をピヨモンが止めた。
『大丈夫よ、アイラ、彼らなら』
「ピヨモン……」
『だって彼らだから私とあなたは頼ったんでしょ?』
「うん……!」
ピヨモンの勇気づける言葉にアイラは力づよくうなずいた。
一番星から出ていくクロト達三人……その背後には彼らに付き従う謎の影。
クロトには【鎧武者にも似た黒い竜人】の姿が。
ミコトには【金色の鎧を纏った狐の麗人】の姿が。
ダンには【漆黒に染まった片翼を宿した鳥人】の姿が。
三人は彼らと共に、争いの不幸を正して終わらせるべく動き出した。
―――彼らの名は【チーム・イズモ】
―――八百万の神が集まる聖なる地の名を冠するバディーリンカー達である。
中編
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地水(ちすい)
新人デジモンの書き手
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