灰色の海にて繰り広げられていた、ぶつかり合う刃と刃。
二刀流の黒き武人・ガイオウモンと、海の破戒僧・ダゴモン。
灰色の海にて繰り広げられる煉獄の闘いは激しさを増していくばかりであった。
『ぜぁああああああ!!』
『■■ッ!!』
海上を駆け巡るガイオウモンに向けてダゴモンの振り下ろすトライデントが狙う。
だが、その矛先を軽々と弾き飛ばし、逆にカウンターとして真空刃をお見舞いする。
目の前で繰り広げられているガイオウモンの戦いぶりにアグモンは舌を巻いた。
『すっげぇ、ガイオウモンって強いんだな!』
「ガイオウモン、か……」
レイジは戦いを繰り広げるガイオウモンを見て、とある光景を重ね合わせる。
それは、かつての父と相棒のデジモンの背姿。
自分にとっては立派なヒーローである両者は、誇るべき対象として憧れ、同時に乗り越えるべき壁として目指していた。
そんな父親たちと、今のクロトとガイオウモンは似ている。
奇妙な共通点を見出し、先程まで恐怖で凍っていた顔はどこへやら、思わず笑みを浮かべて噴き出した。
「やっぱ凄いな、チーム・イズモのクロトさんってのは」
レイジは目の前にいるクロトへ視線を向けた。
ガイオウモンから繰り出される斬撃にダゴモンは圧倒されていく。
トライデントを持っていながら後ずさったダゴモン……このままでは不利と判断する自らの身体を構成している手足を幾万の触手へと戻し、鋭い槍として繰り出した。
『■■■■■■ッッッ!!』
『いいだろう、少し馳走してやる、燐火斬!!』
ガイオウモンは菊燐を構えると、そのまま振るい翳した。
ダゴモンの繰り出した幾万の触手による攻撃"サウザンドテンタクル"……それらを二本の菊燐による残す怪しい光の軌跡に触れたモノ、すべてを切り裂く"燐火斬"で切り裂いていく。
触手は全て斬り落とされ、炎に焼かれ消し炭となって消えた。
手足を構成する触手を斬られ、後方へと退くダゴモン。
だが、切られた触手はすぐさま生え、さらに手足へと成り代わる。
その様子を見てクロトは眉をひそめて呟いた。
「再生した? アイツ、もしかして結構強いな?」
『クロトさん、そんなこと言ってる場合か! 再生されたらどうしようもないぞ!』
感心するクロトへアグモンがツッコミを入れる。
元通りになった四肢で迫り、再び手にしたトライデントで攻撃で攻撃を仕掛ける。
ガイオウモンは上手く捌きながら次の一手を考えていた。
『再生能力が厄介だな……コイツを斬るには』
ガイオウモンは振り下ろされるトライデントを片手の菊燐で受け止め、もう片方でダゴモンの胴体を思いっきり叩き切る。
だが、すぐさま触手が繋ぎ合わせ、元通りになる。
一旦距離を取り、次の一手を繰り出そうとしたその時だった……。
『飯綱!』
『天之尾羽張!』
突如、四匹の管狐と黒い稲妻がダゴモンへ襲い掛かった。
何事かと思いながらガイオウモンは振り向くと、そこに現れたのは、二体の人型のデジモン。
片や金の鎧に女性的なボディ、長く伸ばした白髪を纏めて狐を模した仮面をつけた姿の神人型デジモン――サクヤモン。
片や忍者を思わせる鋼鉄のボディ、背中から生えた漆黒の片翼を持つサイボーグ型デジモン――レイヴモン。
ガイオウモン、そしてクロトは彼らをよく知っている……チームの同じメンバーであり、ミコトとダンのバディのデジモンである。
その証拠を示すのか、サクヤモンの肩にはミコト、レイヴモンの片腕にはダンの姿があった。
「クロト君!」
「間に合った、クロト先輩!」
「ミコト、ダン、来てくれたか! っととと!?」
ミコトはサクヤモンの肩から飛び降り、クロトに抱き着く形で着地し、その後にダンが音もなく地面に降り立った。
自分達のバディリンカーを地上に降ろした後、サクヤモンとレイヴモンはガイオウモンの傍らに立ち並つと彼に話しかける。
『ガイオウモン、どうやら手間取ってるようね』
『サクヤモン……チッ、残念ながらこのタコ野郎、一筋なわじゃいかねえのは確かだ』
『ソイツは自分が作り上げたこの邪気を漂わせたフィールド内ならどんな攻撃も再生してしまう。つまりアイツの攻略法は……』
『なるほど、大体読めた。準備が整うまで攻撃を切り伏せりゃいいんだな』
レイヴモンの言葉を理解したガイオウモンは腰を低くしながら、地面をけり上げてダッシュする。
対してダゴモンは向かってくるガイオウモンへ片腕を突き出し、再びいくつもの触手を解き放った。
その一手を見据えていたガイオウモンは身体を捻り、回転しながら斬り落としていく。
ダゴモンがガイオウモンの相手をしている所へ、サクヤモンのバディリンカーであるミコトが狐色のデジヴァイスリンクスを掲げて指示を送る。
「サクヤモン、巫女モード!」
『ええ、参りましょうか!』
サクヤモンの言葉と共に彼女の姿が変わっていく。
金と黒を基調とした戦闘衣装が解き離れ、女性的なメリハリのある身体が露になり、そこへ白い小袖に緋袴を身に纏う。
神事の奉仕をおこなう姿『サクヤモン:巫女モード』へ変わると、手にした御幣を構え、舞いをし始めた。
『払えたまえ、清めたまえ、この常世に漂う邪気を消えたまえ!』
巫女モードのサクヤモンが披露する舞いと共に、周囲の雰囲気が変わっていく。
灰色の世界に広がる陰鬱とした雰囲気が神聖なものへ変わりはじめ、同時に幾何学模様の柱が力を失ったように塵となって崩れ去る。
自身のリソース源となっていた柱が消えたことにダゴモンは目を見開いた。
このままでは再生ができなくなる……その思考に陥った時、耳元に声が聞こえた。
『なるほど、連れ去った子供達を生贄として使い、その生命エネルギーを自らの力に得ていたか』
『■■■ッ!?』
『おっと!』
背後に忍び寄ったレイヴモンに気付いたダゴモンは身体から触手を伸ばし貫こうとする。
だが素早い身のこなしで軽々と避けられると、レイヴモンから左腕の白銀の翼を振るい降ろされた。
白銀の翼は眩く発光し、ダゴモンの身体を容易く切り裂いた。
『ブラストウィング!!』
『■■■■■!!!』
レイヴモンの繰り出した左腕の翼で切り裂く『ブラストウィング』を受け、深々と身体を切り裂かれたダゴモン。
すぐさま傷を再生しようとする……だが、傷の治る速度が遅くなっている。
今のダゴモンには驚異的な再生能力はない……そう悟ったガイオウモンは、足場を思いっきり蹴り上げ、高く飛び上がる。
―――狙うは若き子供達を冒涜する海の邪神……今、黒き刃が振り下ろされる。
『自らの位に驕り昂る神に出会えばその神を斬り!』
一太刀、上空から振り下ろされた刃がトライデントごと切り裂き。
『暴虐の限りを尽くす悪魔に会えばその悪魔すら撃つ!』
二太刀、もう一振りから振り下ろされた真一文字が胴体を泣き別れにさせる。
『我が刃は神魔すら断ち斬る意思の一太刀!』
三太刀、回転した勢いに乗って上段からの斬撃が、邪神の頭から下まで叩き切った。
ガイオウモンが繰り出した剣撃により、ダゴモンの身体は四つに切り裂かれた。
それでも、邪神と言われるゆえ成り立つ宿業か、それとも完全体にまで上り詰めたデジモンだからこその意地か。
自らを切り裂いた怨敵へ手を伸ばそうとする……せめてお前だけでも、道連れに。
――だが、その刹那、ダゴモンの左顔に容赦なく菊燐が突き刺さる。
『■■■■ッッッ!!!!!』
『生憎だったな、俺が斬るべき相手はこの世でたった一人……空前無二の存在だ』
『■■■ッッ!?』
『邪神などという立場で満足している貴様程度に躓いてられるか……一足先に、地獄の奈落で待っていろッッ!!』
揺ぎ無い信念を宿したガイオウモンの言葉を共に、菊燐が光り輝く。
大気中……否、大地や海からのエネルギーを刀身に集め、繰り出すその一撃。
幾千幾万の闘いを勝ち抜き、強くなっていったガイオウモンだからこそ必殺の一撃へと昇華させたその技の名を、思いっきり叫んだ。
『―――ガイア……リアクタァァァァアア!!』
世界が真っ白に染まり、眩い閃光と多大な熱量が灰色の海が広がる世界を焼き尽くした。
ガイオウモンが繰り出した『ガイアリアクター』によって、ダゴモンが生み出した空間のゆがみが破壊されていく。
ここにいては危険だと嫌でもわかるほどの爆発を背に、攫われた子供達を抱きかかえてクロト達チームイズモは空間の歪みから脱出した。
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子供の行方不明者事件の元凶・ダゴモンを倒して数十分後。
行方不明になっていた子供達は大人達に任せ、チームイズモはレイジと共にお台場に残ってとある人物を待っていた。
間もなくして現れたのは、兄の救出を報告し、マヒロと共にやってきたのはアイラ。
兄のレイジの姿を見つけると、アイラは彼に抱き着いた。
「お兄ちゃん!」
「アイラ!」
「もう、心配したんだから!」
「ああ、心配かけさせて悪かったな」
安心と嬉しさのあまり泣き出すアイラを、レイジは優しい笑みを浮かべながら頭を優しく撫でた。
その光景を見ながら、クロトは安心した表情を浮かべる。
「よかったな。レイジ君、無事助かって」
「なんか嬉しそうですな」
「ああ、オレ四人兄弟の末っ子でな。兄さんも姉さんも、あと一番上の姉さんもとってもいい人に優しくてさ……だから兄弟の良さはよく知ってる」
「だから助けたかったというわけ、か」
ダンに聞かれ、クロトは嬉しそうに答えた。
その答えも聞いて、ダンもまるで自分の事のように笑顔で返した。
そんな中、クロトの背中に何かこつんと軽い衝撃が走る。
何事かとクロトが振り向くと、ミコトの頭が見えた……どうやら自分の背中に回って身を寄せているようだ。
「……ミコト?」
「クロト君、また一人で危険な場所に飛び込んで」
「あー、あれか。どうしても助けなければいけなかったから」
「わかってる、わかってるけど……どうせなら連れて行ってほしかった。置いていくくらいなら頼って連れて行ってほしかった」
「いやだって、気分悪いまま連れて行くわけにもいかなかったし、あの場に残っていた方が後続のために」
「…………」
「ちょっ、まっ、ミコト!? ミコトさん!? やめっ、やめてくださーい!?」
自ら危険を冒すことに抵抗感がないクロトにミコトは眉を顰めると、両腕を回して彼の身体を拘束し、ぐりぐりと頭を押し付ける。
クロトは彼女の奇行に戸惑いながら、無理に取っ払うわけにもいかず動けないでいた。
二人の仲包まじい様子(?)をレイジとアイラはキョトンとした表情で眺めていた。
「何やってんだろう? あれ」
「ねえ、ダンさん。ミコトさんってクロトさんの事好きなの?」
「うーんそうだよ……見ていても割と重すぎるくらいにはね」
ダンはアイラの質問に諦めと同情が混じった表情で、クロトとミコトが繰り広げるやり取りを見ていた。
そんなチームイズモの様子を静かに見ていたマヒロと、ダンに同行していたミスターガッチが話し合う。
「ふむ……今回もいい結果になったか」
「まさかあのダゴモンが事件の元凶だったとは……倒せてよかったですね。流石秋葉原最強のバディリンカーズであるチーム・イズモだ」
「……ん? ああそういう話か」
「え……マヒロさん?」
「無自覚な男と重い愛の女、二人のああいう形も、甘いと思っていてな」
「……これがボケボケマイスターか」
最年長でありながら変人じみたマヒロの一面を見て、ミスターガッチは苦笑いを浮かべた。
時刻は夕方、赤く燃える夕日が一同を色鮮やかに照らしていた。
―――神々が集う聖地の名を冠する、『チーム・イズモ』
―――彼らが使途するは、神魔も恐れぬ最強の相棒たち。
―――彼らの闘いは続く。次に戦いへ誘おうのは何者か。
地水様、初めまして。このサイトにて感想屋をやっております夏P(ナッピー)と申します。以後お見知りおきを。
ご投稿ありがとうございます。新作に触れるの好き! ハーメルンの方で既に大分投稿されているようで、とはいえ私は読ませて頂くのが初めてなので折角ということで最初から感想を書かせて頂きます。非常に読みやすくハッと気付いた時には前中後編まで読み終わってしまっておりました。
一瞬、もしやこれデジモンシーカーズとコラボしてるのかと警戒しましたが特にそんなことはなかった。それにしたって突然花嵐エリ様の名前が出てきて驚いたんだからん。世界観的には02エピローグのデジモンが普通にいる世界を想像しておりましたが、そこに突き入れられるアプモン要素。そしてミスターガッチ。な、何者だ貴様……!? エリ様の名前出てきたからてっきりハル君だと思ったぜ!
マヒロさんの存在がいい感じにGet Backersっぽさを滲み出しておりますが、最強チームと言われるだけあって3人とも究極体とは。天之尾羽張を完全に読み違えて「“あまのはばきり”だとッ! まさかスサノオモン!?」となったのは内緒。レイヴモンでしたか。サクヤモンが巫女モードになったみたくレイヴモンもいきなりバーストモード化するのかと思いきやそんなことはなかった。ガイオウモンの武器組替と合わせて別モードが存在する和風デジモン縛りだったりしますかね……? そしてガイオウモンの口上が善良な公務員。俺達が地獄だされるダゴモン。サクヤモン羽根無いですが、いずれテイマーズ最終回でジャスティモンにエネルギーを与えたみたいにティアラエールとアーシュガード射出! 最強の魔神よ戦え!(LEGEND OF GAIOH)
兄と妹の話として非常にスッキリ纏まっておりましたが、レイジ君はパートナーにアグモンってことはまた出番あるんでしょうか。愛が重い女は好きです、しかし意外と力強いと書かれてたので別の意味でも重い気がしてきた(禁句)。
世界観がなかなか楽し気で、彼らの活躍をもっと見たいような、この世界観の別チームの様子も見たいような、今はそんな気分です。
今回はこの辺りで感想とさせて頂きます。既に沢山投稿されておられますので、またこれ以降も感想書かせて頂きますね!