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フォーラム記事

ルツキ
2024年5月01日
In デジモン創作サロン
こちらは、2023年の超DIGIコレにて無料配布いたしました『ツカイモンとパタモン』のWeb再録(加筆修正あり)です。 【終】 ↓オチのツカイモン(かわいそう) もしも、対立したら… 実際の無配には、このあとセラフィモンvsデーモンXの落書きを載せていましたが、 ルツキには、WEB上にさらす勇気はありませんでした……お許しください。いつかちゃんと描きたいです(願望) あとがき
過去イベント無料配布『ツカイモンとパタモン』 content media
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ルツキ
2023年11月30日
In デジモン創作サロン
「あまり時間がない。今から私が言うことをよく聞いてほしい」 お前にしか頼めない。そう言うと白衣の男は、武装した青いトカゲのデジモン…コマンドラモンに目線を合わせると、トランシーバー型のデバイスを両手で握らせた。そして、大きな爪や指を両手で包み込むように手を添える。 「私の身体は、まもなく限界を迎える。だが身体の崩壊後、私のデータはこのデジヴァイスにロードされる仕様になっている」 レックスと呼ばれたコマンドラモンは、驚愕のあまり、目前の男から目を離すことが出来ない。男が努めて冷静に話をしている間にも、その身体の至る箇所にノイズが走り、段々とその身体が透けていくのが目に見えて、その実体が失われていくのだから。 「レザード……身体、が」 つい堪らなくなったレックスは、話を遮り異常を指摘する。だが白衣の男レザードは、ただただレックスを見つめ返すだけである。……レザードには、自覚があったのだ。もう己の身体の崩壊は如何にもならないことを。 そして、身体を亡ってなおもレックスを縛ろうとしていることを。 「次に雨が降った夜、ミッションを遂行して欲しい。……私の、パートナーとしての最期のお願いだ。大丈夫、悲しむことはない。このデジヴァイスがある限り私はレックス……常にお前の傍にいるのだから」 このレザードという男は、このデジタルワールドに最初に降り立った人間の一人であり、研究者だった。以来、帰る手段も誰にも会わせる顔も無く永い時を生きてきた彼の身体データは今、遂に限界を迎えた。 そんな彼が最期の感情は、嫌悪感。デジモンは感情で涙を流すのか。……最期にそんなことを考えている自分に対する自己嫌悪だった。 ――疑似電脳空間『デジタルワールド』…そこは現実世界に限りなく近い、ネットワーク上に存在する電子で構成された魔法の世界と言っても過言ではないだろう…少なくとも世界の仕組みがまだ解明されていない現在においては。  現実と異なる空間であるデジタルワールドには、生命が存在する。それが『デジタルモンスター』…その存在は、ネット上に自然発生したとも、とあるライフシミュレーションアプリ上の生命活動分子が変化したとも言われる。とかく『デジタルワールド』と『デジモン』については、未だに解明されていない事項が多い。現在もネットワークが広がり続けていることを考慮すればその規模は、宇宙と同等ともいえるのかもしれない。―――― ネットワークが世界中に張り巡っているように、この疑似電脳空間は現実世界の裏側に存在していてリアルとデジタルは、表裏一体で存在している。そういう可能性もなくはない…か? ――空から止めどなく降り注ぐ雨、見通しの効かない夜道を見つめていたレザードは、ふとそんなことを思った。遠方に視える街の中心部のギラギラと輝くネオンカラーや浮かび上がるビル群は、人工物でありながら小説のように異世界を演出している。だが男が今歩いているこの場所は〝この世界に元から在った〟荒廃した工場の跡地の一部だ。人間の手による開発が進み、都市めいたこの要塞(ハコ)も容量の割には慢性的な人不足の為に、まだまだ未開発部分が残っており、監視の目も届かない。町外れを分厚いコートの……住人登録の無い、怪しい男が堂々と歩いていようと人目に触れることは無いだろう。しかしフィールド(野外)に近い辺鄙な場所なだけあり稀に野良デジモンが出没することがある為、念を入れて雨の気候を選んだ理由の一つがそれである。人間に限らず、雨を嫌うのは生物であるデジモンも同じらしかった。 ――だから今なのだ。仕掛けるならば、今しか無い。 「征こうかレックス」 降り頻る雨は、足元を濡らし、水溜りを形成し、飛沫を上げる。だが雨音は、筋肉運動による水音をかき消す。結果、耳に情報として伝わってくるのは単調かつ弾けるような騒音ばかりとなる。コートの男は、時間から取り残された暗く寂しい廃工場地帯を抜け、遠方の煌びやかなネオンサインを目印に歩みを進める。目指すのは〝最も未来に近い場所〟今からそこにレザードの過去の清算をしにいく――男には、腰に備えた端末『デジヴァイス』と確かな覚悟があった。 × 廃工場地帯を抜け、都市の外れである古いビルなどの建物が残された閑散地に足を踏み入れる。そこから都市内部へと進入を試みようとしていた。そのときだった。 「こんばんは。ねぇおじさん、…こんな所で何しているの?」 ふいに嵐の中で囁くセイレーンの様な声が耳に飛び込み、コートの男は歩みを止めた。前方の建物の陰からスッと姿を現したのは、オーバーサイズのロングコートを着た鮮やかな紅のベルベットのごとき髪の麗しい少女だった。雨にも関わらず、セットされた髪は形を保ち華やかな洋服は水分を含んだ様子がない。陶器のような肌を次々滑り落ちていく水滴は、白い肌を艶やかに演出していた。  少女は俗に、愛らしいと称されるであろう微笑みを浮かべていたが、行く手を塞がれた当の男は、そのニヤニヤと微笑みを浮かべる姿に怖気立つ。 「お前……、どうして」 「あらら…? 質問しているのは、こっちなんだけどなぁ〜……」 「……その、気味の悪い喋りを辞めてくれないか? それとも自棄になってその年で少女趣味に目覚めたのか? 戦場を駆ける様を雷神と称された〝男〟が」 きょとん。とした少女は、腕を組んで何やら思考すると、浮かべた笑みを強めて「フハ」と笑う。すると、それまで纏っていた雰囲気を一変させた。 「ああ、懐かしいなぁ〜! 戦車も恐れる赤毛の暴君が今や〝マイ・フェア・レディ〟も吃驚の麗しのご令嬢とは、何百年経てども…今だに訳が分からなさすぎて笑えるよな!! ……にしてもだぞ? 麗しの〝ドナ嬢〟がお前だけに微笑んでいるのだから、もう少し色良い反応を期待していたんだぞ、レザードぉ?」 打って変わって友好的、しかし威圧的にニッと歯を見せて笑う少女。見るものが見れば状況判断に困る展開だ――しかしレザードは、あくまで冷静に呆れた声で返事をする。 「……昔のお前を知っている人間に、お前に睨まれて喜ぶヤツはいないだろうよ」 「おー、そうかー? まあ当時の知己はお前以外死んだようなものだ。オレの知己に対する感覚が鈍るのもしょうがないだろう? おおそうだ! 立ち話もなんだ…近くにオレの行きつけがある。そこで昔話といこう」 「遠慮するよ、サー。私には、やるべき事がある」 と、レザードは少女(元:男)ドナの誘いをばっさりと断った。だがドナは、機嫌良く話していたままの笑顔で話を続ける。 「……おや、その賢い頭で理解できなかったか? 見逃してやろうと言ったんだ。…それで? お前、今までどうしていたんだ? 大人しく隠居生活を送っているか、死んだと思っていたが……もう一度聞く。今更、何をしに来た」 更に打って変わってドナは、目の前の男を鋭い黄眼で突き刺すが如く、明確な敵意を持って睨みつける。対するレザードは、周囲の空気がさらに冷え込んだかの様な錯覚を覚えた。 「まあ、待て。私もお前がただ昔話をしにきた訳でないことくらい分かっている。誤魔化しはしない。過去の、清算 だよ」 「ほうほう、それで? オレがみすみす侵入を許すとでも思ったのなら……見積もりが甘すぎるが? それともオレ を出し抜けると思ったかよ」 「お前を安く見たつもりは毛頭ない。」 「なら観ていくか? ……神まで行かずとも真に〝雷〟となったオレ。いやワタシをかな?」 そう言うとドナは、見せつける様に手のひらを掲げた。するとその指先から閃光が発せられ、次第にその電光は腕まで及んだ。やがて発光する腕は、完全に電気(プラズマ)と化す。ドナは、自らの体を電気に変質させることができる。その身体は〝雷〟そのものだった。 レザードは、遥か昔にデジタルワールドに現着した当時にも、この現象を目撃していた。それを久方ぶりに目にした今、現在ドナと名乗っている〝異世界トンデモ変貌を遂げた人間が原因の頭痛〟に悩まされていた過去をレザードは、思い出していた。 「なあ君から観て、俺はどうだ。人間か? それともカイブツにみえるのかなぁレザード博士?」 「……それは生態的な話か? それとも精神の話か?」 その問いを聞いたレザードは、明確な呆れを声色に乗せる。しかし面倒ではあったが学者として真面目な気質の彼は、質問には答えるべきと考えて律儀に続けた。 「このデジタル世界においては、人間もデジモンも電子で構成された生物だ。機能的な違いはあれど、肉体というテクスチャを持ち、電子信号で動き、思考する生物という意味では、人間とデジモンに大差は無い。それぞれに生物的な能力的差異があるのは当然だとしても……私的には、愚問だよ。ならば精神の話と言うことになるかな。だけれど、それは専門外だ。…少なくとも私の同胞は、バケモノでは無かったさ」 このやりとりに意味は無い。あくまで雑談の延長線だ。 「ハ、相も変わらずお堅くつまらん野郎だなレザード君。数百年も年期が入れば少しは面白い男になるかと思ったんだがな?」 「誰であれ、お前には負ける」 「口減らずは、相変わらずの様だ」 「そう怒るなよ。怒りの熱がこちらにも伝わってくるようだぞ」 レザードの頑なな態度にドナは、呆れた様な諦めたような表情を浮かべ、フッと息を吐く。 「言いたいことはそれだけか…〝FETCH(取り出す)〟」 ドナの呟きに応じて、その正面の何も無かった空間からアサルトライフルが出現し、〝元々の彼の腕〟よりずっと細い腕に抱えられた。 「オレの自発電気のみで動く、所謂スマートガンの様な仕様でな。故にオレ以外には、扱えない特別性という訳だ。 良い銃(オモチャ)だろう?」 「なるほど。しかし流石にレーザーガン、とはいかなかったようだな」 「電圧に耐えられる素材が手に入らなくてな、クロン…デジ? ……まあいいか。今なら申し開きを受け入れよう」 「結構だ」 「そうかよ」 レザードが断ると同時にドナは、銃口を男に向け、胴体に向けて数発発砲。だがドナが立ち塞がった時点で交戦状態になるだろうということは、既にその場の共通認識となっていた。 銃弾は、男が脱ぎ捨てたコートのみに穴を開け、本体は回避して建物の壁に張り付き移動している。 「!?」 壁を這う標的にドナは一瞬、目を疑った。そのシルエットが大きく変化しており、それは〝子どもの様に小さいトカゲの歩兵の姿〟をしていたのだ。 「コマンドラモン…!?」 ドナは驚愕する。それもそのはずだ。コマンドラモンは、軍所属の軍で管理されたデジモンであるため野生には存在せず、実際に使役され始めたのはレザードが行方知れずになった後である。レザードがなんらかの方法で要塞内部及び、軍内部の情報を知っていたとしても、そのデータを盗み出すことは彼一人では不可能かつデータを有効化するための十分な設備の用意も難しいためだ。 「レックス、少々予定外があったがミッション続行だ」 「了解した」 コマンドラモンことレックスは、壁から突き出たパイプや窓の縁、要所の凹凸などを利用してアスレチックの様に移動する。 「ウチのヤツ…じゃ無いな。……どういう訳かわからんが、下っ端に任せてテメェは安全なところで指示出しとは良いご身分だなぁ!」 コマンドラモンに向かって発砲を続けるが、レックスは地上と遜色無い移動速度で、壁を蹴り機敏に不規則に動くことで回避しつつ前方上へと移動していく。その獣の様な動きにドナは、レックスが唯の兵卒では無いことを察する。ならば〝もっと上の世代〟として対処した方が良いだろうと判断する。 「面倒だ…FETCH」 ドナはライフルを投げ捨て、マシンガン2丁持ちへと切り替え、レックスの逃げ場を無くすように前後の壁を削る勢いで銃弾を容赦なく打ち込む。 「ぐっ…」 跳弾を恐れる様子がない弾丸の連射にレックスは堪らず、近くのガラスの取れた窓から落ちる様に建物内部へと転がり込む。 「誤ったな! …此処いらの建物は、見掛け倒しのハリボテだと流石に知らなかったか」 プラズマと化した身体で一足飛びに、レックスが侵入した窓に足を掛けて建物内を覗き込む。ドナが想定した通り、扉も窓も抜け穴も無い、一面コンクリートの空間。しかし、そこに標的は愚か気配、痕跡すら無い。 「? …どこへ……、……!?」 一瞬標的を見失ったかと錯覚するが、自分の真横に磁場の微弱な違和感を知覚し、ドナは即座に銃弾を浴びせる。 がしかし手応えは無い。だが居た。 標的は、たしかにそこに居た。しかしレックスは、既に外、先程ドナが居た箇所よりもさらに先を駆けていた。 「……逃すかトカゲ野郎」 ――おそらく〝光化学迷彩〟ってヤツか。噂でしか聞いたことはないが、レザードに化けていたのもその同じ理屈かねぇ? しかし…回り込まれたな。奴が透明になれるなら無闇にやたらに追いかけ回してもこっちが消耗して逃げられる……積極的には、頼りたくは無いんだが背に腹は変えられん。 ドナは、ホルスターに備えていたハンドガンを取り出すと、赫い稲妻となり地面を蹴り、一瞬の内に高速で移動するレックスに光の速さで追いつかんとした。 「接近してくるぞ! 近づかせるな!」 「おう」 レックスは背負っていたアサルトライフルを構えてドナに向かって打ち込む。 ドナは、全身のプラズマ状態が解ける前に飛び上がり、近くの看板だったモノを引っこ抜き、それを盾にして、レックスの進行方向にハンドガンを構えて弾を打ち出し、それをレックスが寸でのところで回避し、再び発砲しようとしたーーそしてドナは、指示する。 「――〝ガトリング・アーム〟」 「後ろだレックス!!」 ハンドガンの球が飛んだ方角には、長い耳にジーンズ、丸い印象の一見愛らしく感じる見た目だが、両腕にはガトリングガンという凶悪かつ巨体の〝黒い〟獣人型デジモンが出現していた。そのガトリングガンは正に今放たれようとしている。 「バイバイ」 弾丸の雨がレックス諸共、周囲を更地にせんと絶え間なく浴びせられる 「いつも通り容赦なしか、あの馬鹿犬……」 ガトリング・アームの射程内にいたドナは、咄嗟に近くの建物内部へ避難していた。音が止み、外を見てみれば発砲を辞めて腕を下ろしている黒いデジモンーーブラックガルゴモンがいた。しかし敵を仕留めた後にしては、余りにもブラックガルゴモンの様子に変化が無いことをドナは、妙に思い近づく。 「どうした何、突っ立ってんだ?」 「アイツ…消滅してない」 「! ブラフか…いやレザードが何か仕込んだ……か?」 どちらにせよガトリング・アームの銃撃は当たっていない。周囲を確認するが、それらしい気配は無かった。もうどこかに身を隠したか、先に行ってしまったのだろう。 「……〝STORE(格納)〟」 先程、投げ捨てられ放置されていた銃は、再びクラウドデータとなり、消失する。 「逃げられたなジジー。耄碌したのかー?」 「チッもういい飽きた…行くぞクソガキ」 とドナは、無気力を口にする。しかし眉間にシワを寄せ口端を歪めたそれは、おおよそ少女が浮かべる表情ではなかった。 「今更、何を変えようと手遅れだろうさ……HD! 居るよな?」 「アイアイサー! 今日も勇ましく華麗なお姿バッチリ録画しておりますとも! やっぱ少女×ミリタリーは、サイコーですわ〜〜、Fuぅ〜!!」 どこからか煙と共に現れたのは、ハイビジョンモニタモンだ。ドナは、長いのでHDと呼んでいる。 「感想は聞いとらん。伝令だ。伝令! 映像は……いつも通り。好きにしろ」 「ぃやったー! 〜これは100万回再生は固いですな! ムフフフ」 ……出来れば、サーがもう少し協力的だと編集の手間が少なくなって有難いんだけどな〜(チラチラ)ああ〜そういえば! 登場シーンのアレ! アレ良かったぁ〜!! ひゃっほーぅ!!!! 「なーなんか言ってんぞ?」 「ほっとけ、いつもの病気だ」 「ジジー…本当にアイツ、探さないのかー?」 「もう報告義務は果たしたからな。探さね〜」 「えー、まじぃー…?」 × 「……侵入成功したよ。レザード」 「ああ流石だ。……この先は人目も増える、さらに慎重に行こうか」 周囲はすっかり都会の真っ只中といったところ。中心部に近くなる程、複雑かつ仰々しい建物が群を成し、互いに高さを競い合っているのだ。しかしそれらは、全て一から製図して土台から組んで建っている訳ではない。百年以上建築を続けている建築物のように複雑そうにみえるビルでさえ、一瞬で建つ。此処はそういう世界だった。しかしだからといって、あまり見栄を張りすぎるとバグも生じやすい。そういう物好きの建築物以外は、ほぼ現実世界と差異が無いというのは、割と理にかなっているのだろう。 レックスは、なるべく元来のコマンドラモンという種族が備えている〝体表を変化させる迷彩パターン〟を用い、建物上部の遮蔽物が多く、ネオンサインなどで視覚情報の多い場所などを利用しながら壁伝いに移動していた。ーーそれというのも透明化は、此処ぞという場所での使用の為にレザードがレックスに搭載した能力(プログラム)で、その使用には限界があるのだ。確実なミッション遂行の為に使用が必須の場面でのみ運用すべきとレザードは定めていた。 突如、サイレンが鳴り響く。 ――緊急事態発生、住民の皆様にお知らせいたします。現在、都市内部に侵入者アリ。住民の皆様におかれましては、より詳細な情報を専用のネットワーク上でご確認の上、夜間の外出をお控え頂き、よりセキュリティーレベルの高い施設への避難を推奨いたします。繰り返しお伝えします……―― サイレンと共に、侵入者を警告する内容のアナウンスが要塞都市内部に広く響き渡る。この侵入者というのは、間違いなくレックスのことだろう。 「……情報の伝達が思っていたより早いな」 「さっきの…レザードの知り合いの女の子の男の人? の仕業?」 「……十中八九そうだろうな。長引けば、そのうちカーゴドラモンが投入されるのも時間の問題だろう」 身を隠しつつビル壁から眼下を見やれば、コマンドラモン数体と兵卒らしき軍人が住民に声がけなどをしながら見回っている様子が見てとれた。 「急ぐかレックス。私たちがたどり着くべき場所DAL(デジタル・アーセナル・ラボラトリー)は、すぐそこだ。」 「施設内部へ侵入する為に研究員の認証システムを使うんだろう? そのためにDALへ出入りできる研究員一人を確保する」 「そのとおりだ。……目的のターゲットは、ここから前方2ブロック、さらに右に2ブロック先の50階立てビルの27階の左から3つめの部屋を住居としている男だ」 「ターゲットが外出中という可能性は無い?」 「調べた限りでは、よほどの気まぐれを起こしていない限りは無いだろう。その人物の研究は、在宅ワークがメインらしい」 「ずっと部屋で研究……って、できるもんなの? レザードは、頻繁に出かけていたろ?」 「私の場合は、全て個人で行なっているという特殊ケースだが……研究というよりは、分析や開発プログラミングを行なっているのだろう。…よほど人格に問題のある人間という可能性は、なくは無いが。いや、それよりも先程アレから逃れる時に〝透過〟をしたが使用に支障ないか?」 「大丈夫。あと数回使う程度なら、まだいけるよ」 レザードがレックスに搭載した透明化能力(トランスパレント)は、光化学迷彩と似通ってはいるが、表面的なテクスチャーを透明化するステルス機能だけでは無い。障害物を実際に透過し、擦り抜ける事を可能とする〝ハッキングプログラム〟なのだ。セキュリティレベルの高い場所……今回の目的地である要塞の中心部かつ中心核……DAL(デジタル・アーセナル・ラボラトリー)に直接進入することは不可能ではあるが、一般的な職員住居のセキュリティレベルであれば進入は可能なのである。 レックスは、雨のおかげもあってか危なげなく目的のビルまで辿りつくことができる。そこは比較的シンプルなビジネスホテルに近い外観だ。住人は、住居にあまり拘りが無い者が多いのだろう。目的の部屋の窓から中を覗いてみれば、内装も至ってシンプルな作業部屋といったところだ。ターゲットの男は、予想通り在室しており、デスクでデュアルディスプレイを使用し、キーボードを叩いている。今、まさにPC作業中の様子だ。 サッと確認を終えて〝透過〟を使い、部屋に侵入する。そして、とんとん。とレックスは椅子に座っている男の肩を叩く。 「〜っっ!! うるさいなぁ! 作業の邪魔するなって言っただ…イ゛デデでぇ!!?」 レックスは、イライラして振り返った男の手首を捻り、銃口を突きつける。痛みに堪えられずに男は、なし崩しに椅子から膝から崩れ落ちてしまう。 「痛痛゛痛゛! イタイぃて゛ぇ!!!」 「両手を挙げて大人しくしろ、抵抗しなければ危害は加えない」 「分かっ…分かったっ!! だから、手を離っっ…!」 男が片手を挙げて抵抗の意思が無いことを確認するとレックスは男の腕から手を離し、強く銃口を男の胴体に押し付けた 「ヒぃ何、なんだおま、お前? 軍…警備、のトカゲ…??」 「? レザード、こいつ……」 「ああ知らないようだな。外は、ずいぶん賑やかだと言うのに…全く、作業に熱を上げて没頭できる研究とは羨ましい限りだよ」 「そ、外ぉ?」 窓の外では、先程と同じ注意喚起アナウンスが繰り返されおり、室内に居てもハッキリ聞きとる事が容易にできた。次第に男の顔がみるみる青ざめていく。   「侵入者…お前が……!?」 「自分の状況は、理解できたようだな。」 「何が目的…まさかオレの、いのっ」 「DALの内部に行きたい。その為にお前の生体認証で私たちを施設内部へ招いてほしい」 「ででDAL内部だと!? 冗談じゃない! そんな事をすればオレ自身どうなるか……ヒッ」 アサルトライフルの銃口が鼻先に付き、研究員は身を固くする。恐怖の余りあわあわと口が閉じられないようだ。 「わ、かったぞ…! 通信しているヤツは、お俺の地位が羨ましいんだろ! 研究に参加出来ないから。だ、だからバケモノを使って俺たちの研究を滅茶苦茶にしてやろうって魂胆なんだろ! そうだろ!! 大体、レザルド? なんて、名前聞いたこともねぇよ! 妙な名前名乗りやがって……どうせ助手止まりの下っ端だろうが」 「レザードを悪く言うな……!」 「レックス」 レザードが静止するもレックスは低く唸り、喚く男を睨みつける。 この世で、レックスだけが知っている。誰に知られずともレザードは、一人戦っていたことを。苦しんでいたことを。レックスは、それを手伝いたくとも手伝うすべが無かった。レックスは兵士として戦う為に生み出されたから。……できることならば共に戦いたかった。でも出来たことといえば傍に居たことだけ。不安になりながらも帰りを待っていたこともあった。「お前は、もうすでにパートナーとして私の力になってくれているよ」レザードは、そう言ってくれてもパートナーとしてデジモンとして、彼の役に立ちたかったのだ。……だから今回のミッションは、レザードの最初で最後の頼み事。それを叶えたい気持ちは同じだった。 「ワープ装置まで、黙ってテキパキ、動け…良いな?」 「バ、バケモノ共め…ただじゃ済まないからな…!」 デジタルワールドは電子で構成された世界である為、あらゆる物を転送できる〝ワープ技術〟を可能としている。大型荷物の運搬はもちろんのこと、自宅と勤務先をワープ装置で繋いで、外出することなく移動することが可能なのである。この研究員も例に漏れず自宅にワープ装置を備えており、DALに出向く際に利用していた。 ワープ装置を使い、研究員の男にDAL施設内部の案内をさせて進んでいくと、一段と大きく分厚い扉が存在感を醸し出していた。恐らく決まった関係者のみが入れるレベルの扉なのだろう。 「お俺が入れるのは、ここまでだからな……へへ、どう足掻いてもこの扉は開きはしな…」 扉の前に立つと、不意にピーと言う電子音が鳴る。すると扉の横のセキュリティーランプが赤から青に変わり、徐に目の前の自動扉がスライドして通れる様になる。随分あらか様だ、とレザードは思う。 ーー招かれている。罠の可能性は高いが…… 「ななんでっ最重要システムの扉が、開いて…あっ、おいちょっとぉ〜?」 混乱する研究員をよそにレックスは、扉の奥へ、奥へ…と進んでいく。すると部屋というには広大な空間に辿り着いた。内部は、奥行きが目視で確認できないほど広く、戦車がいくつも格納できそうな格納庫の様相をしていた。主要なコンピューターと思われるスパコンや大画面の操作盤なども備え付けてあるようだ。 「お待ちしていました。レザード博士」 上の階層(ギャラリー)では、やや痩せぎすの見た目は若く見える男がフェンスに手をかけて、たった今入ってきた侵入者をしゃくしゃくと見下ろしていた。 「君、まさか……テイラーか?」 「……そのとおり。ですが、貴方が仰っているのは父の事でしょう? 私はその子供で、随分前に父よりテイラーを引き継ぎました」 テイラーというのは、レザードと共にデジタルワールドへ来た時のチームの一研究員で、レザードの助手だった男だ。今、レックスを見下ろしているのは、その息子だという。 「彼は、消えたのか?」 「消えた? ええ、行方知れずです。突然、やるべき研究を放置して消えてしまいました。お陰で息子の私が苦労する羽目になりまして……今は、むしろ感謝していますがね」 「……」 「そんなことより! ああ…、お会いできて光栄ですレザード博士……! 貴方のことは、父の資料で拝見しておりました」 急にテイラーは、大声を張り上げたかと思えば、話す口調に熱が入り出す。そんな自称テイラーの息子の様子にレザードは、淡々と返す。 「私など、大昔の化石の様なものだろうに」 「いーえー? 貴方は先駆者だ。デジタルワールド調査チームの第一人者たるレザード博士。父も度々、実質のリーダーは貴方だったと言っていましたよ。……あの暴君等ではなくてね」 「軍人が嫌いなのに軍に協力しているのか?」 「研究とは、そういうものでしょう? ああ貴方ほどのお人ならば話は別でしょうが。報告にあった〝透明化〟も気になりですが。そのコマンドラモンの銃は、通常の〝M16アサシン〟とは違いますよね。興味深いな……、他にどんな改造をソイツに施したんです? 強さの秘訣とか教えてくださいよぉ」 「……なぜ私たちを内部に入れた? 君の立場ならば告発すべきだろうに」 「その質問に答えれば貴方も教えてくださいますかね? 私は、貴方ともう少しお話がしたいので。それに……せっかくの機会だ。試したいじゃあ無いですか。貴方と私……一体どちらが優れているのかを! さあさあ出て来い!」 またテイラーが叫ぶと、近くにあったワープパッドから光が立ち上り出現したのは、大人の体格と遜色のない体格を持つトカゲのような見た目をしたサイボーグ型。暗殺に特化したまさにエージェントといえるデジモン。 「! シールズドラモン……まさか、その個体は」 「!!」 「ええ。そちらのコマンドラモンは、とても懐かしいのでは無いですか?」 レックスにとって忘れられないデジモン……シールズドラモン。訓練兵だったレックスを騙し〝トラッシュの谷〟に放置し消滅寸前まで追いやったデジモン、その個体だった。シールズドラモン登場による動揺からか警戒からか、レックスの瞳孔がギュッと縮み、銃を握る手に自然と力が入る。 しかし、それもほんの僅かの間だけ。 なぜなら…… ――聞かなくても分かった。レザードが目的とは関係なく、ぼくを心配しているんだろうなって感じが伝わってきた。……大丈夫だよ、レザード。だって、ぼくには。 「今のぼくには、頼れるパートナーが居る…だから、もうお前には負けない」 レックスは、そう強く宣言し、シールズドラモンを見やった。 「パートナー…? デジモンが? っふふふハハハハ!! まさか貴方とあろう人が、そんな怪物を相棒と? またまたご冗談をフフフフフ」 「あまりレックスを、私のパートナーを侮るなよ。それと先ほどの質問に返答するなら、確かに私はレックスに武器やプログラムを持たせたが、……どんな技術よりも〝絆〟に勝る力は無かったさ」 「……本気で言ってます? 単純に考えて〝セレクション−D〟をクリアしたこのシールズドラモンに、たかだか一歩兵のコマンドラモンが本気でかなう等と……どう考えても理論が破綻していますよ!」 レザードの返答にテイラーは、笑うのを辞め少々イラついたように手弄りを始める。 「……なら試してみようか。君には到底、理解できかも知れないが」 「はあ〜、全くもって残念だ……」 シールズドラモンは、ナイフを構えて今にも獲物に襲い掛からんとしている。しかし対するレックスには、ずっと在った確かな覚悟と〝デジヴァイス〟ーーレザードが居る。 ――あの時みたいには、いかない! この試練、必ず、乗り越えるよレザード! 「――ぼくに進化は、必要ない!」                                              ――次回へ続く
【#ザビケ】Atropos −α− content media
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ルツキ
2023年9月01日
In デジモン創作サロン
『其処はきっとティル・ナ・ノーグ』の間の話のあんまり4コマじゃないシリーズ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【エビバーガモンの情熱】 ・ ・ ・ 「それはそれとして、横暴は改めるように」 「もう…しません」ぐったり
コレは…たぶんアバルの実。〜みっつめ〜〈4コマ漫画〉 content media
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ルツキ
2023年5月17日
In デジモン創作サロン
『其処はきっとティル・ナ・ノーグ』の間の話シリーズ。 【前回】 【楽園】
コレは…たぶんアバルの実。 〜ふたつめ〜〈4コマ漫画〉 content media
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ルツキ
2023年4月28日
In デジモン創作サロン
ラブリーエンジェモン&パタモン 「妙な空間に迷い込んでしまいましたね」 「ホント〜雑なテクスチャーだね? あ、あそこにカメラがあるよ〜! せっかくだし写真撮ろーよー」 「どうしてカメラがこんな所に……?」 「気にしなーい、気にしなぁーい。ハイ、ピース」 「ピ、ピース!(写真持って帰れるのかしら…?)」
【単発作品企画】ラブリーなアナタとピース!【RRA】 content media
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ルツキ
2023年3月06日
In デジモン創作サロン
『其処はきっとティル・ナ・ノーグ』の間の話。 https://www.digimonsalon.com/top/dezimonchuang-zuo-saron/qi-chu-hakitutoteirunanogu?origin=member_posts_page 【大地の声】
コレは…たぶんアバルの実。 〜ひとつめ〜〈4コマ漫画〉 content media
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ルツキ
2023年1月28日
In デジモン創作サロン
※最初に※  これは、とあるデジタルワールドで暮らすとあるディルビットモンのお話です。 公式アニメと図鑑準拠の性格で書きましたが、アニメの二次創作ではございません。ご了承ください。 「春眠夢心地、空は澄み、大地萌ゆる。柔らかな日常のなんと尊いことか」    自然豊かなこの大地は住処としている獣型デジモンたちにとって、掛け替えのない場所だ。デジタルワールドの神によってプログラミングされた気候は、急激に変化することはない。しかし、その安寧こそが己が守護すべきもの。とディルビットモンは、今日とて守るべき大地を巡回していた。   「ソコノ! 黄色い騎士!」    凪いだ草原に甲高い声が響き、同時にマントに何かがぶつかる。ディルビットモンが驚き見ればデジモンが張り付いていた。   「今ならこのスーパーエカキモンのモデルにしてやるぞ!」  硬質的な鉛筆の体を持ち、色彩鮮やかで主張が強い。しかし、どこか素朴な印象を与えるデジモン。 「君は、エカキモン……かい?」 「違う、スーパーエカキモンだ! ただのエカキモンではなく、ワタシわぁーッ、エカキモンとして大成するのだァー!   所謂バズを狙っているのであるぞっ」 「スーパー……?」    ディルビットモンのマントに張り付いたまま喚くエカキモン。ディルビットモンの困惑をよそに、そのまま徐に話を続けた。   「絵のモデルは、華やかなデジモンが良いとワタシは考えた。バエる騎士型デジモンは、人気だ。出来ればロイヤルナイツがベストで  あるのだが〜……」    途端に力を無くしたようにエカキモンがマントを滑り降りていくので、合わせるようにディルビットモンは、屈んで手を添えた。   「だが、ロイヤルナイツには歯牙にも掛けては貰えなんだ……。なんなら眼中にも入れて貰えな゛い゛」 「それで私に声をかけた(掴み掛かった)という訳だったのか」 「断れば、未来の大きな損失だぞ! あと断ったらワタシは泣くからな」  迫力に圧され、いつの間にか正座で話を聞いていたディルビットモンは、自称インフルエンサー志望のエカキモンの哀願を聞き、 手を差し伸べて微笑んだ。その姿は誰が見ても理想の騎士そのものであっただろう。   「私でよければ微力ながら協力しよう。可能であれば、絵が完成したら拝見したい。いいだろうか?」 「いいとも! ワタシの作品を一番に拝観する権利をやろう」    と、手を取ったエカキモンは宣うが、今までまともに取り合ったデジモンはディルビットモンだけであった。エカキモンは張り切って、ウィットに富んだポージングをディルビットモンに指示した。数時間も経つと二体の周りは、草原に出現した花畑のように色取り取りの賑やかさを形成していく。そこを通りすがるデジモン達の反応もまた、千差万別である。   「ウォーグレイモンのガイア・フォースのようなイメージで……はっ! と、そこで剣を!」 「こう! ……だろうか」 「むむ〜。やはり、別の角度から〜……」 「しかしこれは、なかなか大変だ……あっ」    ディルビットモンが声を上げると、身体からボンヤリと光の粒子が漏れ出し、そのスタイリッシュな見た目をマイルドなフワフワボディに変貌させた。   「ヌあ~!! モデルは、動くなと言ったであろう! 退化など尚更だぞ!」 「ごめん……」    長く究極体でいた為にエネルギーを使い果たし、ディルビットモンはアンゴラモンに退化してしまったのだ。   「モデルがいないのであれば、仕方あるまい。暫くは休憩にするのだ」    ぐぅ~ 「……腹ごなしも済ませるか」 「手間を取らせてしまうね」     ※   「ゴテゴテした装備は、ぬぁんなのだ! 一体何頭身あるんだ!? この作画コストめ!」    エビバーガモンの店で買ってきたバーガーを片手にエカキモンは、アンゴラモン相手にボヤいていた。アンゴラモンの前に山と積まれたバーガーは、必要経費と称したエカキモンの奢りである。   「サクガコスト?」 「ワタシにとって超えねばならぬ壁の一つだ! しかし、越えてみせるとも!   ワタシは、スーパーエカキモンなのだからな!」 「ふむ。強敵……なんだね。楽な道などなく、真髄に近づきたくば難敵多し。ーーかな」 「お、おお?」 「フフフ♪」  ――作品の完成は、一朝一夕とはいかない。日々、大地を見回るディルビットモン。エカキモンはその後を着いて回り、作品作りを続けている。   「ワタシは暫くの間、構想を練ることにする」    海岸の見える眺めの良い丘は、ディルビットモン御用達だ。運が良ければ、深海から浮上してくるホエーモンの姿を見ることができる。最近はエカキモンと訪れては、バーガーを食べたり、夕日を眺めて精神を落ち着けているのだ。  そしてエカキモンとサクガコストなる怨敵との死闘も極まっていた。一人精神を統一する時間も必要であろうと、ディルビットモンは邪魔にならないようその場を離れていた。    一方エカキモンは構想を練りながら、かの騎士のことを考えていた。 大地の守護者とは言うがディルビットモンは、毎日デジモン達と他愛のないおしゃべりを繰り返しているだけだ。腹が空いてアンゴラモンに戻ってしまえば、唯のぬいぐるみ同然ではないか。騎士らしいのは、見た目ばかりである。もう少し騎士然とした姿が見たいのだが……   「貴様がエカキモンだな」 「違う! ワタシはスーぴゃァア?!」  返答を待たずに斬撃がエカキモンの数センチ上を飛ぶ。   「問答無用」  自身に向けられる冷たい目線。それと共に振り上げられる刃。――エカキモンをデリートせんとする存在が其処にいる。   「ヤメロ! 辞め、ぅあ、辞めてくれぇええ!」    ガキン。と金属音がエカキモンの眼前で響く。が、エカキモンには傷一つない。 「邪魔立てするなら、貴様も処断するぞ〝守護者〟」 「ディルビットモン~!!」    ディルビットモンの剣が刃を防いだのだ。 相対する全身を覆う冷たい銀色は、金色とは異色。その様相は、騎士ともいえるウォーリアではあるのに正しく〝兇器〟だ。主命に忠実な天使、スラッシュエンジェモン。通常のデジモンならば、逃げる。――でなければ決死の覚悟で戦うか。    まず、話し合いは諦める。がディルビットモンは、違った。デジモン同士、分かり合えない者は無いと考えていた。   「エカキモンが何をした。彼は、ただ絵を描いていただけだぞ。」 「デジモン……のな。それが問題なのだ。事が起こっては遅い。醜悪なデマゴキーを広める可能性があるデジモンとして処断する」 「彼はそんな事はしない!」 「能天気なガーディアンの言葉など信用ならんな! ただでさえ、最近はパブリモンなる不届なデジモンが出現しているのだ!   覚えておけ……、無用なゴシップは拡散される前に潰すものだっ!!」  スラッシュエンジェモンは、エカキモンに向かって突進する。 「ヘブンズリッパー!」 「っ! バックストラッシュ」    スラッシュエンジェモンの激流のように襲いくる全身の刃。それをディルビットモンの残像が、火花を散らしつつ受け止めていく。   「チッ!」 「私がいる限り、我が朋友に手出しはさせん!」 「あくまでも、楯突くか……ならばこのスラッシュエンジェモンが総じて粛清するのみ」  金と銀。二刀流と二刀流。一方が刃を構えれば、もう一方も刃を構えた。スラッシュエンジェモンが腕を振れば、斬撃が飛び。ディルビットモンがそれをいなす。 「ホーリーエスパーダ!」 「ボルジャーグ!」  無数の刃に無涯の剣。どちらも譲らぬ絶技のぶつかり合いが繰り広げられる。   「ならば、これでどうだ! 我が渾身の、ヘブンズ……リッパーッ!!」  空に飛び距離をとるスラッシュエンジェモン。全身の刃を体の中心に集めると、縦回転させてディルビットモン目掛け、猛突進していく。   「――迎え打つぞ! モラルタ! ベガルタ!」    ディルビットモンの二本の剣が燃えるようなオーラを纏う。 今のスラッシュエンジェモンは巨大な凶刃と化し、標的はおろか大地までも粉砕し尽くすことは想像に難く無い。   「む、無理だ! 逃げろ!」  エカキモンは、叫ぶ。    ――友を。この大地を、守る!  ディルビットモンは、二対の剣を正面で構え、跳ぶ。    バックストラッシュ! 一瞬で残像がスラッシュエンジェモンを取り囲む。    ――トラスゲイン! 回転するスラッシュエンジェモンの側面を矢継ぎ早に挟撃する。 「うおおおお!!」    側面からの猛攻にスラッシュエンジェモンは、堪らず体制を崩す。   「ぐっ、まだだ! ホーリエスパー……っ!?」    軌道がずれ、落下していくその先は崖。背中の翼は畳まれたまま。それを見たディルビットモンが叫ぶ。 「危ない!」 「それぇい!」    同時に飛び出したエカキモン。鮮やかな色彩が宙にトランポリンを描くと、スラッシュエンジェモンを跳ねるボールのように受け止めた。 「ぐぅ?!」 「エカキモン!」  辛うじて地につき、受け身を取ったスラッシュエンジェモン。エカキモンの傍にすかさずディルビットモンが駆け寄った。 「俺の負け、か……? 正義が敗れるなど……」 「まだ戦うなら相手になろう。しかし彼は、彼の信念を持って絵を描いている。我らとなんら変わりなどない正しき心を持ったデジモ  ンだ」 「其奴を信用しろと?」  懐疑的な視線に気付いたエカキモンは、震える足でジリジリと前に出る。 「ワ、ワタシは、誓ってデジモンの信用を落とす創作はせん。……エカキモンの名に誓ってしないと誓うのだ」  エカキモンは視線をだけは逸らすまいと、肩を怒らせる。それを見たスラッシュエンジェモンは少し間を置いて、その腕を下ろした。 「……これ以上は、恥の上塗りか。もう手出しはしない。が……我らは、常にお前を見ていることを夢夢忘れるなよ」  睨まれたエカキモンがヒッと声を上げる。それを見届け、スラッシュエンジェモンは飛び去っていった。 「……あんな態度だから、他のデジモンの不評を買って本末転倒な事態になるのではないか〜」  銀翼が見えなくなったのを確認してエカキモンはそう呟き、振り返ると目線より下に退化した毛玉……もといボサモンがいた。   「この考えなしめ。幼年期まで退化するほど力を使い果たすとは……さっきのヤツがまた引き返してきたら、どうするのだ」 「でも、エカキモンもスラッシュエンジェモンを助けてくれたよね」 「甘いお前に感化されてしまっただけだ。大体、お前は守護者もっとらしくしろ」 「うん。ごめん」 「悪いと思ってないであろう? 謝罪は、悪いと思っている者がするのだぞ!」 「そうだね、……ごめんね。」 「~~ッ仕方あるまい。理想は、形にしてこそだ。……作品も形にしてこそ。だな」  二体が空を見れば、ピロモンの群れに似た雲が流れていた。この大地は、もうすぐ雨が降る周期を迎えるのだろう。   「穀粒も積もれば山となり、滴もたまれば海になる。――動かぬ石の下に水は流れない」 「大河の流れも一滴の滴から……か」    たった今、思い浮かんだことではあるが、エカキモンは意を決し告げることにした。 「ボサモン。ワタシは己の腕を磨く旅に出る。バズを狙うのは保留だ。納得のいく絵が描けたら、此処に来よう。  ……その時は、またモデルになってくれ」 「ああ、もちろんさ」  エカキモンが視線を彷徨わせ、緩急な動きで空間から一枚のデータを取り出す。 「それから、未完で情けないのだが……約束だからな。これはやる」  エカキモンは、一枚の絵を差し出した。〝勇ましい騎士〟ではなく〝優しい友達〟の絵を。   「わあ……! ありがとう大事にするね」 「捨ててもいいぞ」 「そんなの勿体ないよ」    ボサモンがピョンと跳ね、察したエカキモンがそのカラフルな手で耳にタッチする。 二体のデジモンの先行きは長く、これからも続いていくだろう。今日のように笑え合える保証など何処にもない。    それでもディルビットモンは、この大地を守り続ける。しかし自身は、決して特別なことをしているとは思っていない。デジモンな らば、空も、海も、大地も――、其れ其れがそれぞれを慈しむのは、極々当然のことなのだから。                                                                                                                        《終》
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ルツキ
2022年9月26日
In デジモン創作サロン
初めまして。今回が初サロン投稿になります! 素敵な企画をお見かけして、滑り込み投稿させていただきました。 お彼岸らしくマンティコアモンを描きました!!! マンティコアモンは、ウイルス種のデジコアが好物。そして彼岸花には毒があります。 毒というのは、古くから人体に異常を及ぼすモノを毒と呼ぶそうです。 さらにvirus(ウイルス)の語源は、ラテン語の毒です。 マンティコアモン自体もウイルス種であり、サソリのような尾から強酸を流し込む必殺技〝アシッドインジェクション〟を繰り出します。つまり毒を持っているのです。 群生する彼岸花にマンティコアモンが引き寄せられることも無きにしも非ず。ではないでしょうか? ……ちなみに本音は、サヴァイブにマンティコアモンが出て欲しかったという個人的欲望です。
【単発作品企画】鮮やかな毒に惹かれ【彼岸開き】 content media
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ルツキ

その他
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