※最初に※
これは、とあるデジタルワールドで暮らすとあるディルビットモンのお話です。
公式アニメと図鑑準拠の性格で書きましたが、アニメの二次創作ではございません。ご了承ください。
「春眠夢心地、空は澄み、大地萌ゆる。柔らかな日常のなんと尊いことか」
自然豊かなこの大地は住処としている獣型デジモンたちにとって、掛け替えのない場所だ。デジタルワールドの神によってプログラミングされた気候は、急激に変化することはない。しかし、その安寧こそが己が守護すべきもの。とディルビットモンは、今日とて守るべき大地を巡回していた。
「ソコノ! 黄色い騎士!」
凪いだ草原に甲高い声が響き、同時にマントに何かがぶつかる。ディルビットモンが驚き見ればデジモンが張り付いていた。
「今ならこのスーパーエカキモンのモデルにしてやるぞ!」
硬質的な鉛筆の体を持ち、色彩鮮やかで主張が強い。しかし、どこか素朴な印象を与えるデジモン。
「君は、エカキモン……かい?」
「違う、スーパーエカキモンだ! ただのエカキモンではなく、ワタシわぁーッ、エカキモンとして大成するのだァー!
所謂バズを狙っているのであるぞっ」
「スーパー……?」
ディルビットモンのマントに張り付いたまま喚くエカキモン。ディルビットモンの困惑をよそに、そのまま徐に話を続けた。
「絵のモデルは、華やかなデジモンが良いとワタシは考えた。バエる騎士型デジモンは、人気だ。出来ればロイヤルナイツがベストで
あるのだが〜……」
途端に力を無くしたようにエカキモンがマントを滑り降りていくので、合わせるようにディルビットモンは、屈んで手を添えた。
「だが、ロイヤルナイツには歯牙にも掛けては貰えなんだ……。なんなら眼中にも入れて貰えな゛い゛」
「それで私に声をかけた(掴み掛かった)という訳だったのか」
「断れば、未来の大きな損失だぞ! あと断ったらワタシは泣くからな」
迫力に圧され、いつの間にか正座で話を聞いていたディルビットモンは、自称インフルエンサー志望のエカキモンの哀願を聞き、
手を差し伸べて微笑んだ。その姿は誰が見ても理想の騎士そのものであっただろう。
「私でよければ微力ながら協力しよう。可能であれば、絵が完成したら拝見したい。いいだろうか?」
「いいとも! ワタシの作品を一番に拝観する権利をやろう」
と、手を取ったエカキモンは宣うが、今までまともに取り合ったデジモンはディルビットモンだけであった。エカキモンは張り切って、ウィットに富んだポージングをディルビットモンに指示した。数時間も経つと二体の周りは、草原に出現した花畑のように色取り取りの賑やかさを形成していく。そこを通りすがるデジモン達の反応もまた、千差万別である。
「ウォーグレイモンのガイア・フォースのようなイメージで……はっ! と、そこで剣を!」
「こう! ……だろうか」
「むむ〜。やはり、別の角度から〜……」
「しかしこれは、なかなか大変だ……あっ」
ディルビットモンが声を上げると、身体からボンヤリと光の粒子が漏れ出し、そのスタイリッシュな見た目をマイルドなフワフワボディに変貌させた。
「ヌあ~!! モデルは、動くなと言ったであろう! 退化など尚更だぞ!」
「ごめん……」
長く究極体でいた為にエネルギーを使い果たし、ディルビットモンはアンゴラモンに退化してしまったのだ。
「モデルがいないのであれば、仕方あるまい。暫くは休憩にするのだ」
ぐぅ~
「……腹ごなしも済ませるか」
「手間を取らせてしまうね」
※
「ゴテゴテした装備は、ぬぁんなのだ! 一体何頭身あるんだ!? この作画コストめ!」
エビバーガモンの店で買ってきたバーガーを片手にエカキモンは、アンゴラモン相手にボヤいていた。アンゴラモンの前に山と積まれたバーガーは、必要経費と称したエカキモンの奢りである。
「サクガコスト?」
「ワタシにとって超えねばならぬ壁の一つだ! しかし、越えてみせるとも!
ワタシは、スーパーエカキモンなのだからな!」
「ふむ。強敵……なんだね。楽な道などなく、真髄に近づきたくば難敵多し。ーーかな」
「お、おお?」
「フフフ♪」
――作品の完成は、一朝一夕とはいかない。日々、大地を見回るディルビットモン。エカキモンはその後を着いて回り、作品作りを続けている。
「ワタシは暫くの間、構想を練ることにする」
海岸の見える眺めの良い丘は、ディルビットモン御用達だ。運が良ければ、深海から浮上してくるホエーモンの姿を見ることができる。最近はエカキモンと訪れては、バーガーを食べたり、夕日を眺めて精神を落ち着けているのだ。
そしてエカキモンとサクガコストなる怨敵との死闘も極まっていた。一人精神を統一する時間も必要であろうと、ディルビットモンは邪魔にならないようその場を離れていた。
一方エカキモンは構想を練りながら、かの騎士のことを考えていた。
大地の守護者とは言うがディルビットモンは、毎日デジモン達と他愛のないおしゃべりを繰り返しているだけだ。腹が空いてアンゴラモンに戻ってしまえば、唯のぬいぐるみ同然ではないか。騎士らしいのは、見た目ばかりである。もう少し騎士然とした姿が見たいのだが……
「貴様がエカキモンだな」
「違う! ワタシはスーぴゃァア?!」
返答を待たずに斬撃がエカキモンの数センチ上を飛ぶ。
「問答無用」
自身に向けられる冷たい目線。それと共に振り上げられる刃。――エカキモンをデリートせんとする存在が其処にいる。
「ヤメロ! 辞め、ぅあ、辞めてくれぇええ!」
ガキン。と金属音がエカキモンの眼前で響く。が、エカキモンには傷一つない。
「邪魔立てするなら、貴様も処断するぞ〝守護者〟」
「ディルビットモン~!!」
ディルビットモンの剣が刃を防いだのだ。
相対する全身を覆う冷たい銀色は、金色とは異色。その様相は、騎士ともいえるウォーリアではあるのに正しく〝兇器〟だ。主命に忠実な天使、スラッシュエンジェモン。通常のデジモンならば、逃げる。――でなければ決死の覚悟で戦うか。
まず、話し合いは諦める。がディルビットモンは、違った。デジモン同士、分かり合えない者は無いと考えていた。
「エカキモンが何をした。彼は、ただ絵を描いていただけだぞ。」
「デジモン……のな。それが問題なのだ。事が起こっては遅い。醜悪なデマゴキーを広める可能性があるデジモンとして処断する」
「彼はそんな事はしない!」
「能天気なガーディアンの言葉など信用ならんな! ただでさえ、最近はパブリモンなる不届なデジモンが出現しているのだ!
覚えておけ……、無用なゴシップは拡散される前に潰すものだっ!!」
スラッシュエンジェモンは、エカキモンに向かって突進する。
「ヘブンズリッパー!」
「っ! バックストラッシュ」
スラッシュエンジェモンの激流のように襲いくる全身の刃。それをディルビットモンの残像が、火花を散らしつつ受け止めていく。
「チッ!」
「私がいる限り、我が朋友に手出しはさせん!」
「あくまでも、楯突くか……ならばこのスラッシュエンジェモンが総じて粛清するのみ」
金と銀。二刀流と二刀流。一方が刃を構えれば、もう一方も刃を構えた。スラッシュエンジェモンが腕を振れば、斬撃が飛び。ディルビットモンがそれをいなす。
「ホーリーエスパーダ!」
「ボルジャーグ!」
無数の刃に無涯の剣。どちらも譲らぬ絶技のぶつかり合いが繰り広げられる。
「ならば、これでどうだ! 我が渾身の、ヘブンズ……リッパーッ!!」
空に飛び距離をとるスラッシュエンジェモン。全身の刃を体の中心に集めると、縦回転させてディルビットモン目掛け、猛突進していく。
「――迎え打つぞ! モラルタ! ベガルタ!」
ディルビットモンの二本の剣が燃えるようなオーラを纏う。
今のスラッシュエンジェモンは巨大な凶刃と化し、標的はおろか大地までも粉砕し尽くすことは想像に難く無い。
「む、無理だ! 逃げろ!」
エカキモンは、叫ぶ。
――友を。この大地を、守る!
ディルビットモンは、二対の剣を正面で構え、跳ぶ。
バックストラッシュ!
一瞬で残像がスラッシュエンジェモンを取り囲む。
――トラスゲイン!
回転するスラッシュエンジェモンの側面を矢継ぎ早に挟撃する。
「うおおおお!!」
側面からの猛攻にスラッシュエンジェモンは、堪らず体制を崩す。
「ぐっ、まだだ! ホーリエスパー……っ!?」
軌道がずれ、落下していくその先は崖。背中の翼は畳まれたまま。それを見たディルビットモンが叫ぶ。
「危ない!」
「それぇい!」
同時に飛び出したエカキモン。鮮やかな色彩が宙にトランポリンを描くと、スラッシュエンジェモンを跳ねるボールのように受け止めた。
「ぐぅ?!」
「エカキモン!」
辛うじて地につき、受け身を取ったスラッシュエンジェモン。エカキモンの傍にすかさずディルビットモンが駆け寄った。
「俺の負け、か……? 正義が敗れるなど……」
「まだ戦うなら相手になろう。しかし彼は、彼の信念を持って絵を描いている。我らとなんら変わりなどない正しき心を持ったデジモ
ンだ」
「其奴を信用しろと?」
懐疑的な視線に気付いたエカキモンは、震える足でジリジリと前に出る。
「ワ、ワタシは、誓ってデジモンの信用を落とす創作はせん。……エカキモンの名に誓ってしないと誓うのだ」
エカキモンは視線をだけは逸らすまいと、肩を怒らせる。それを見たスラッシュエンジェモンは少し間を置いて、その腕を下ろした。
「……これ以上は、恥の上塗りか。もう手出しはしない。が……我らは、常にお前を見ていることを夢夢忘れるなよ」
睨まれたエカキモンがヒッと声を上げる。それを見届け、スラッシュエンジェモンは飛び去っていった。
「……あんな態度だから、他のデジモンの不評を買って本末転倒な事態になるのではないか〜」
銀翼が見えなくなったのを確認してエカキモンはそう呟き、振り返ると目線より下に退化した毛玉……もといボサモンがいた。
「この考えなしめ。幼年期まで退化するほど力を使い果たすとは……さっきのヤツがまた引き返してきたら、どうするのだ」
「でも、エカキモンもスラッシュエンジェモンを助けてくれたよね」
「甘いお前に感化されてしまっただけだ。大体、お前は守護者もっとらしくしろ」
「うん。ごめん」
「悪いと思ってないであろう? 謝罪は、悪いと思っている者がするのだぞ!」
「そうだね、……ごめんね。」
「~~ッ仕方あるまい。理想は、形にしてこそだ。……作品も形にしてこそ。だな」
二体が空を見れば、ピロモンの群れに似た雲が流れていた。この大地は、もうすぐ雨が降る周期を迎えるのだろう。
「穀粒も積もれば山となり、滴もたまれば海になる。――動かぬ石の下に水は流れない」
「大河の流れも一滴の滴から……か」
たった今、思い浮かんだことではあるが、エカキモンは意を決し告げることにした。
「ボサモン。ワタシは己の腕を磨く旅に出る。バズを狙うのは保留だ。納得のいく絵が描けたら、此処に来よう。
……その時は、またモデルになってくれ」
「ああ、もちろんさ」
エカキモンが視線を彷徨わせ、緩急な動きで空間から一枚のデータを取り出す。
「それから、未完で情けないのだが……約束だからな。これはやる」
エカキモンは、一枚の絵を差し出した。〝勇ましい騎士〟ではなく〝優しい友達〟の絵を。
「わあ……! ありがとう大事にするね」
「捨ててもいいぞ」
「そんなの勿体ないよ」
ボサモンがピョンと跳ね、察したエカキモンがそのカラフルな手で耳にタッチする。
二体のデジモンの先行きは長く、これからも続いていくだろう。今日のように笑え合える保証など何処にもない。
それでもディルビットモンは、この大地を守り続ける。しかし自身は、決して特別なことをしているとは思っていない。デジモンな
らば、空も、海も、大地も――、其れ其れがそれぞれを慈しむのは、極々当然のことなのだから。
《終》
常若の国イイイイイイイイイ。夏P(ナッピー)です。
小説初投稿ということで感想を書かせて頂きに参りました。アニメの登場に合わせた形でのディルビットモン活躍の短編ということでお見事でございました。スーパーエカキモンなんて俺の知らない新種がいるのかと戦慄したのは内緒。ノリでスーパー付けるしなクロスウォーズ……!
終わってみれば二体のデジモンの友情の物語でしたね。キリッとしたディルビットモンかっけぇーと見せかけ、状況や空気に応じてアンゴラモンやボサモンに退化してのほほんとした雰囲気を作ってくれるのが良い。ひっそりとディスられるパブリモンの勇姿。デマゴギーを防ぐ為とはいえ究極体のスラッシュエンジェモンが直々に出張ってくるのは衝撃的でしたが、思えばエカキモンはロイヤルナイツにもバンバン声がけしていたというので、そやつらがキレて襲い掛かってきたとかでないだけマシでしたか。
そういえばモラルタとベガルタなので輝く貌のディルムッドオオオオオオオと型月ファン的な絶叫を上げつつ、スラッシュエンジェモンもまたしっかり強敵で究極体の力を使い切るまで踏ん張った末に撤退させるのがやっとというバランスもまた渋い。ゲイ・ジャルグとゲイボウはどこだ!?
エカキモンが最後修行の旅に出るのは想定外でしたが、それでも互いを友達として認識し合ったのでまたいずれ出会うことになるのでしょう。心地良い読後感でした。
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。
あとがきです。
小説は今回が初投稿になります。読んでくださった方ありがとうございます。
出さない後悔より出す後悔と思って投稿してしまいました。
なんでエカキモンかと言うと、趣味人(デジモン)って動かしやすいからですね。
あと私が「鎧〜! 作画コスト〜!」と、思っていたことからの派生妄想から生まれた話だからです。
碌に文章を書いたことのない者の拙作になりますが、ディルビットモンかっけ〜って、少しでも伝われば、私は、もう、……十分です。伝わってくれください。
では、乱文失礼いたしました。