こちらのお話はTwitterで不定期連載中の小説『宅飲み道化』のまとめとなります。
1話3000字前後ほどなので、よろしければちょっとつまんでいってください。
以下、本編です。
1.ブランデーとガトーショコラ
「そういえば、今のブランデーって手の平で温めないのが普通らしいぞ。逆に香りが飛ぶだとかで」
長く白い指でグラスのステムを挟み、琥珀色の液体を優雅に揺らす同僚の姿があまりにもサマになっているのが癪に触って、ついつい余計なひとことが口をつく。
最も、皮張りのアンティークチェア等なら兎も角、彼が腰を下ろしているのはすっかり綿の弱ったクッションの上。背もたれは狭い部屋の壁ときている。
役者が良くてもセットがこれじゃあ、なんて自嘲込みの掛け合いを済ませたのは、もうどのくらい前の出来事になるのだろう。
同僚ーーピエモンは、女性客に見せるような艶っぽい笑みとはまるで逆、小馬鹿にしたように赤い唇を尖らせた。
「あなたはご存知無いのでしょうが、私のようないわゆる暗黒系に属するデジモンは、人間よりもずっと体温が低いのですよ。そもそも安酒ですから、コレ。むしろ昔々と同じように、温めた方がいいレベルの」
安月給の身は辛いですねぇとピエモンは肩から伸びる空色の飾り布を揺らしながら笑ったが、今日の酒担当はコイツなので、つまりはお互い様だった。多分、業◯スーパーで特売品を買っておいたのだろう。
職場(サーカス)じゃ人間の姿に化けている状態でも漂う只者じゃ無い感や道化とは思えない程品のある振る舞いがウケて「ジェスター(宮廷道化師)」なんて呼ばれているものの、コイツの上司は王侯貴族じゃなくて、俺と一緒であの小太りでケチな座長なワケで。
だから、なんというか。
自嘲と愚痴で、五分五分といったところか。
「まあ」
そしてその切ないジョークは俺にも効くので、酒の席だが、お茶を濁す。
「つまるところ、安い酒をおいしく飲むには工夫次第、ってこったな」
そっと、切り分けた今日のおつまみをピエモンの方に差し出した。
「おっ、今日はガトーショコラですか。手間がかかったでしょう」
「チョコの湯煎さえ済めばあとは混ぜて焼くだけだから、大したことねーよ」
ブランデーのおつまみといえばチョコレートが定番らしい。
別に板チョコをそのまま出して齧らせても良かったのだが、「これがあなたのバレンタイン思い出の味なんですねぇ」だの鼻で笑われたら多分泣いちゃうので(何せ反論できない)、手間だけは見栄を張った形だ。
細長い型で焼き、薄く切ったガトーショコラは、しっとりとツヤのある断面も相まってケーキというより黒いチーズのようだ。甘い物なのに、なかなかどうして、おつまみらしい。
「これで食器が紙皿とつまようじで無ければねぇ」
「うっせ」
余計なひとことは先程の意趣返しだと言わんばかりに意味深な微笑みを湛え、グラスを置いたピエモンがガトーショコラの一切れを、一口。
……今度は、自然と綻んだような表情だった。
「舌触りが滑らかですね。甘過ぎず、苦過ぎず。有り体な感想しか言えず申し訳ないのですが、ふふっ、おいしいですよ」
「ふっ、そうかよ」
「きっとレシピが良いのでしょう」
「俺の腕だよ!!」
全くコイツは、油断すると……!
立てた目くじらから赤い瞳を逸らして、わざとらしいくらいニコニコしながら、ピエモンは改めてブランデーのグラスを手に取る。
と、ふと視線を下げると、彼はボウル部分を手のひらに乗せるではなく、ステムを指でつまむように持っていた。
……再び上げた目線の先には、もはや見慣れた白黒の仮面。その下の頬が、僅かに、赤い。
「酔ったのか?」
「お陰で少し身体が温まったようで」
ピエモンは俺と目を合わせなかったので、軽く肩だけ竦めて、それ以上は何も言わなかった。
デジモンとしてはかなり強い方らしいが、だからといって人間の世界に対する知識が力の強さで変わるわけでも無いし、そもそも俺だって、コイツに出会わなきゃ、デジモンの中にも酒の好きな種族がいるなんて、考えもしなかっただろう。
だから、これ以上はただの野暮、それこそ酒が不味くなるだけだ。
俺もブランデーを口に含む。
舌の上で転がした琥珀色は、この後つまむガトーショコラにまで、その芳醇な香りを教えてくれそうで、つまるところ、今の俺たちには充分な酒だった。
あとがき
ほろよいのはちみつレモンとアイスティーサワーの缶を間違えて購入した事があるアカウントはこちら、快晴です。
と、いうわけでこんにちは。Twitter不定期連載小説『宅飲み道化』(投稿当初の仮タイトルは『スナック『楽屋裏』』)の1〜7話までのまとめをご覧いただき、ありがとうございます。
最初は自企画用の短編を想定していたのですが、推しと酒を飲む小説を書きたい欲が爆発した結果こうなりました。何故。
1〜7話は誤字脱字の修正こそあれ基本的にTwitterにメモのスクショで上げていたものと同じ内容ですが、おまけの番外編が読めるのはデジモン創作サロンだけとなります。
逆にTwitterでしか読めない話も現時点で1つあるから、よかったら覗いてみてくれよな!(クソ宣伝)
今後も投稿はTwitterでやって、話が溜まったらこちらにまとめを投げる予定です。季節の節目とかに何か書けたらなと。
多少不穏香る事はあっても基本平和路線のまま行くので、他の連載の息抜きにでも使ってもらえたら嬉しいです。
まあこんな適当にぼちぼちやる話ではありますが、またお付き合いいただければ、幸いです。
デジモン創作サロンおまけ
ビールとバターチキンカレーとチーズナン?/ローズティーとホットケーキ
「なあピエモン。これ何に見える?」
「いわゆるホットケーキというやつに見えますね」
「俺もそう思う」
しかも、ちょっと焦げている。
やってしまったと、俺は皿にひっくり返した、若干黒寄りの茶色になるまで焼けた、ホットケーキにしか見えないものを前に頭を抱えた。
「ホットケーキミックスで作れるチーズナン」というヤツに挑戦したのだが、どうやらホットケーキミックスを焼くと、ナンではなくホットケーキが出来上がるらしい。
「まあ、摂理ですね。……それはさておき、あなたが料理に失敗するなんて珍しい」
「うーん、昔からどうにもホットケーキを作るのが下手でな……」
「ガトーショコラを手作りできる男の「ホットケーキを作るのが下手」はもはや何かのバグでしょう」
「いうてガトーショコラ焼くのは俺じゃなくてオーブンだし……」
原因、というか言い訳が、脳裏を過らなかった訳では無い。
ーーママに作ってもらったこと無いの?
小学校の頃の家庭科の授業だったか。
ちょうどいい焼き加減がわからず、コレよりもひどく焦がした俺のホットケーキを見て、同じ班の女の子が心底不思議そうにそう呟いたのが、胸をチクリと刺したことをなんとなしに覚えている。
自然食と眉唾の健康志向を拗らせた母が用意するおやつと言えば、全粒粉のクラッカーかナッツの類が精々で。
お手本を見た事が無い、が理由になるというなら他の料理にしたってそうなってもよさそうなものなので、きっと原因では無いのだろうが。
あれ以来、ホットケーキに苦手意識を抱いているというのは事実だった。
「しかし苦手というなら、どうして作ろうと思ったんです?」
「チーズナンが食いたかったんだよ……チーズナンが滅茶苦茶食いたかったんだ……そしたらホットケーキミックスで作れるってレシピが出てきたから……」
「まあそんなに凹みなさんなよ」
言いながら、ピエモンが出してあったナイフでチーズナンにしたかった何かを1切れ切り出した。
とろーり糸を引く……予定だったチーズは、生地の表面の配分を間違えたがために今裏になっている面でカリカリのコーティングになってしまっている。
そんな、何から何まで、もどきにすらなれなかった失敗作を、ピエモンはひょいと手に取って口に運んだ。
「ふむ。まあチーズナンではありませんが、これはこれで美味しいですよ。焼きチーズの乗ったホットケーキみたいで」
「それ以外の何でもないんだよな」
「ナンだけに」
「……」
「ナンだけに!」
「…………」
「笑いなさいよ」
「ホラー映画の話の通じないピエロみたいなムーブやめろ」
とはいえ、少しだけ元気は出た。
一丁前に気は使ってくれたのだろうが、お世辞で料理を褒めるようなやつでもない。
ナンではなくても、食えるモノではあってくれたらしい。……まあ、ホットケーキミックスという商品の完成度の高さが成せる技には違いないが。
「さあ、冷めない内に食べましょう。きっとカレーとビールにも合いますよ」
カレーといっても、バターで炒めた玉ねぎのみじん切りと鶏肉をトマト缶で煮込んでカレー粉とコンソメで味付けしたばかりのものなのだが、シンプルな料理同士、味で喧嘩にはなる事はあるまい。
それに最悪、ビールはただそれだけで美味いものなので。
「ああそうだ」
と、よそったカレーを運びながら、ふとピエモンが口を開く。
「?」
「作るのが苦手なだけで、嫌いではないのなら。今度私が作ってあげてもいいですよ、ホットケーキ」
「お前が?」
「これでも故郷ではホットケーキ名人として名を馳せていたものです。私の作ったホットケーキを食べれば、あなたにもホットケーキの何たるかを理解できる筈でしょう。ナンだけに」
「滑ったネタを自分で擦るな。てか、それ本当なのか?」
「いやまあ嘘ですが」
「だと思ったわ」
「ただ、炎の魔術のクラスは主席で卒業しましたからね。火加減の類は得意ですよ」
得意げにウィンクして見せるピエモンに不安はむしろ深まったが……まあ、たまには趣向を変えて、というのも悪くは無いだろう。
……思い出が塗り変わって苦手意識が薄れれば、なんやかんやでコイツが一番得する流れになる訳だし。
「酒飲み同士でそんな機会作るか微妙だけど……ま、考えとくよ」
照れ隠しの咳払い代わりにカシュ、とビール缶のプルタブを引く。
失敗だとしても、準備はこれひとつで整う訳で。
「いただきます」
俺とピエモンは、チーズナンになれなかった何かへと、真っ先に手を伸ばすのだった。
/
「ホットケーキミックス、牛乳、卵。備考「その内友人にホットケーキを振る舞うので練習用に」」
提出された購入物のリストの内容をわざわざ読み上げた我が上司・ロードナイトモン様は、ぷるぷると肩を震わせた後、ふぅー、とでかでか長々とした息をお吐きになられました。
派手派手ピンクスーツお兄さんの姿をしていても、苛立たしげな仕草でも、今日も今日とてなんだかんだとサマになっておられます。流石はロードナイトモン様。
「奴は……奴には己れが究極体デジモンであるという自覚が無いのか? デジモンが親しみやすく戯けた存在であると軽視されれば、後に被害を被るのはニンゲンの方なのだぞ」
「貴方様がいる限りそのような心配は無用でしょう。むしろピエモンさんは規定に従って毎回律儀に購入品のリストを提出してくださっている分、大分セーフなお方かと」
「規定に従うのは当たり前の事だ。ルールを守った上で模範たるのが我々究極の位に至ったデジモンの責務だろう」
全く、と。眉間に寄る皺さえ絵になるロードナイトモン様。
己れにも他のデジモンにも厳しいその姿勢は、人間世界においてナイトモンどころか全てのデジモンの頂点に立つ者であるが故に。それこそ皆の模範となる、素晴らしいお方だと。今更疑いようなどありますまい。
とはいえ。
「しかしロードナイトモン様。ピエモンさんの行為を道化の戯れだと断じるのは、それもまた早計であるかと」
拙者の言葉にロードナイトモン様の指がぴくりと神経質に動き、射抜くように鋭い眼差しがこちらへと向けられました。
はぁ〜顔良。
「どういう意味だ?」
「いかんせん、我々は『ホットケーキ』なるものがもたらす効能を、知識としては有していても、体験としては理解しておりません。実際にニンゲンと食事を共にした際に得られる情報に関しては、ピエモン様の方が多く所持しておられると見て間違い無く」
「……」
「というか向こうの圧勝です」
ロードナイトモン様の顔の良さは周知の事実なのでいちいち報告するような真似はせず、淡々と所感を述べたところ、ロードナイトモン様にある程度は納得いただけたのか、彼はふむ、と口元に細く長い指を添えるのでした。
優美。
「貴様の言にも一理ある。確かにホットケーキおよびパンケーキに関する味覚情報は有してはいない」
そもそも嗜好品の類には疎いロードナイトモン様です。美しいものを美しいと愛でる優れた感性は存在するものの、食事についてはあくまで生命維持のための行為と判断している節があって。
「で、あれば。ロードナイトモン様も一度召し上がってみるのがよろしいかと」
「私に道化の真似事をしろと」
「ピエモンさんだけでなく、ホットケーキは幅広い世代のデジモン・ニンゲンに支持されるオーソドックスな甘味。少なくとも、知っておいて損をする事は無いと思われます」
「……」
ふぅ、と今度は艶やかに息を吐いて、ロードナイトモン様は腕を机に下ろされました。
「我が右腕たる貴様がそこまで言うのなら、ホットケーキとやら、試してみようではないか」
用意できるか、とお尋ねになるロードナイトモン様の前に、拙者は跪くのでした。
「このフウマモンにお任せあれ」
*
ホットケーキミックスに、牛乳と卵。
箱に記載された説明通りに材料をボウルに入れ、混ぜ合わせます。
「あまり混ぜ過ぎないように、と……」
軽くダマが残るくらいでいい、という説明書きを信じて指示に従いさっくりと混ぜ、事前に一度熱したセラミック加工のフライパンに生地をおたまひとすくい分。まあるくなるよう、流し入れていきます。
ふつふつと表面に泡が湧き上がってきたあたりでひっくり返せば、焼け目はお手本のように綺麗な狐色。
反対側も同じように焼き上げましたら、ホットケーキの完成です。
しかしこれだけで終わらないのがロードナイトモン様の右腕というもの。
こんな事もあろうかと事前に給仕室に仕込んでおいた、この薔薇の模様に切り抜いたシートをホットケーキの上に敷いて、粉砂糖を奮えばあら不思議。甘い大地に白薔薇が咲き誇りました。
さらにさらに、隣にホイップクリームと薄切りしたリンゴで拵えた薔薇、あと本物の薔薇の蕾を添えれば、フウマモンの『ロードナイトモン様に捧げる薔薇のパンケーキ』の完成です。
真っ白な陶器の器に注いだハニーシロップと、完成前にガラスのポットで蒸らしておいた紅いローズティーを並べて、スマートフォンで写真を1枚、ぱしゃり。
良い画です。いずれ造られるであろうロードナイトモン様とのコラボカフェのメニューで、是非参考にするよう伝えなければ。
ロードナイトモン様の右腕たるもの、常に主の躍進を支えるべく先手を打っておくものです。
とはいえ、まずは目先のことを。
写真撮影を一発で決めて、冷めない内にホットケーキとローズティーを、ロードナイトモン様の元へとお給仕します。
「む、ご苦労であったな」
執務室に戻ると、書類と判子を一度置いたロードナイトモン様は立ち上がり、来客用の机とソファの方に移動なさいました。
擬態した姿とはいえ、やはりロードナイトモン様のそれは、そもそものセンスが違いますね。足なっが。ほっそ。美。
「こちらが手作りホットケーキとなります」
「ふむ、なかなか美しい装飾が施されている。見事だ」
やったあ褒めていただいた!
「恐縮です。このように元がシンプルである分、トッピングを始めとした様々なアレンジを施す事が出来るのも人気の要因のひとつかと」
「なるほど、留意しておこう。……では、実食だ」
いただきます、と、すっと両脇に添えておいたナイフとフォークを手に取って、ホットケーキを切り分けるロードナイトモン様。
一番端を一口大だけカットする事によって、薔薇の模様は依然そのままです。
嗚呼〜〜、そういうところ〜〜〜〜。
「……ふっ、悪くない」
はわぁ〜! 笑ってくださった〜!! しゅき〜〜〜〜!!
「生地そのものが充分に甘いのだな。そして柔らかい。何か混ぜたのか」
「いえ、卵と牛乳の他には。ホットケーキミックスに、既に必要なものが含まれているのです」
「つまり誰が作っても比較的同一のものが出来上がりやすい、という訳か。幼な子でも成熟した者との格差が発生しづらい以上、成長体験を感じさせるという意味でもうってつけの教材となり得るのだろう」
ホットケーキをひとくち召し上がっただけでこの考察! 聡明〜!!
「とはいえ、ある程度は作り手の腕があってこそだろう。この焼き加減は、評価に値するぞフウマモン」
「過分な評価、恐れ入ります」
普段は厳しいのに褒める時は素直に褒めて伸ばす〜!! そんな事していただかなくてもどこまでも着いて行きますよ我が主〜!!
そうしていくらかホットケーキを食べ進めてから、ロードナイトモン様はローズティーを一口。
ティーカップの似合うデジモンは何をしてもかっこいい。フウマの秘伝の忍術書にもそう書いてあります。書きました。
「ローズティーにもよく合うな」
「茶菓子、という単語もあるくらいです。お茶を嗜む際に菓子を楽しむというのも、ひとつの風情なのでしょう」
つきましては、と。外側の表情も一層に引き締めて、拙者はロードナイトモン様へと向き直りました。
「今後業務の合間に、菓子休憩、いわゆる「おやつの時間」を挟む事を推奨したいのですが、いかがでしょうか」
「……フウマモン、本気で言っているのか」
すぅ、と細まるロードナイトモン様の飴色の瞳。とっても切れ長。
……頂点に立つ騎士の鋭利さを持つ視線は、歴戦の忍者であるこのフウマモンさえすくみ上がらせる迫力がありますが、拙者の方もここまで来ればもうひと押し。引き下がる訳にはいきますまい。
「このフウマモン、ロードナイトモン様に冗談など申し上げません。適度な甘味の摂取は作業中のストレスを緩和する効果有りとの論文を拝見しました。デジモンにも適応可であるか、一考の価値はありましょう」
「……」
「加えて、恐れながら。ただの一度の体験で嗜好品を摂取する価値を判断するのは、それこそ早計かと。大衆と同じように習慣化してこそ、同様の思考に至る事が出来るのでは」
細めていた目に瞼を落として(まつ毛長ぁい)しばし沈黙した後、納得した訳ではないと表情に残しつつも、ロードナイトモン様は改めて、拙者の方を見やりました。
「他ならぬ貴様がそこまで言うのなら、試験的な導入を検討しよう」
「では僭越ながら、発案者として間食の調理は、拙者が責任を持って請け負いましょう。勿論他の業務にも支障はきたしますまい」
「当然だ。……しかし貴様が役目を受け持つのであれば、私も要らぬ心配を抱く必要が無い。今後も働きに期待しているぞ、フウマモン」
「はっ、勿体無きお言葉です」
その後、ロードナイトモン様が完食完飲なさったホットケーキとローズティーの食器を下げ、再び給仕室に戻った拙者は
「い〜よっしゃ〜っ!!」
誰を見ていない事を確認してからガッツポーズをかましました。
やった。やりましたぜ。拙者が忍者のデジタマ、略して忍タマだった当時から憧れのロードナイトモン様にお仕えし始めて早十数年。ようやく、ようやくここまで上り詰めました。
ロードナイトモン様。
強く、気高く、美しく。そして厳しく、恐ろしく。……こんな口実でも挟まなければひと休みも出来ない、不器用な方。
遠くで眺めていた時よりも、もっとずっと魅力的に感じるようになってしまったこのお方を、あらゆる手を尽くして影よりお支えするのが我が務め。
……別に、大好きなロードナイトモン様に手作りのお菓子を毎日お納めしたいだとか、そんなやましい気持ちなど微塵も抱いておりません。
ゆくゆくはロードナイトモン様が直接ニンゲンと交流する機会を設け、そうしてニンゲンにロードナイトモン様への畏敬の念を抱かせればそのうちロードナイトモン様グッズ等が製作されるだろうという目論見など全く立てておりません。
断じて。
断じて。
「……」
そしてこの先、ニンゲンの文化を建前にロードナイトモン様にお寛ぎいただく手段を増やしていくためにも、格好のサンプルケースとしてあのピエモンとニンゲンには今後も良好な関係でいてもらわねば。
忍者らしく、陰ながら応援しておりますし……何より、あれでいて。ロードナイトモン様も、あの者たちには期待していらっしゃるのですから。
「本当に、不器用なお方」
皿に付着したクリームを洗い流しながら、ロードナイトモン様がピエモンの言う「友人」と会って帰ってきた日の事を思い出して、拙者は思わず笑ってしまうのでした。
さあて、洗い物が済んだら残りの業務を片付けて、そしたら、明日のおやつを考えましょうか。
7.鍋の買い出し
「お待たせしました」
近くの公園のベンチに腰掛けていた俺の下に、ジェスター……人間形態のピエモンが駆けてくる。
事情が事情なので到着が遅れたのは仕方ないし、構わないのだが、顔の良い男が仕立ての良いダッフルコートを着込んでいる絵面は、その、シンプルに腹立つな。
「お前も大変だな。で、何だったんだ? 用事って」
2人して職場であるサーカス運営会社の事務所を出ようとしたその時、ピエモンだけが座長に呼び止められて、俺が先に目的地に向かう運びとなったのである。
「お察しの通り、むしろ用事があったのはあなたの方みたいですよ。究極体の足止めを任されるなんて、座長も気の毒に」
「……」
ピエモンは肩を竦めるが、気の毒なのは大した理由もなく引き止められていたコイツの方だろう。座長は究極体の「管理」と引き換えに、そこそこの補助金を国から支給されている訳だし。
「で、何か言ってましたか? ロードナイトモン」
ロードナイトモン。こっちに来たデジモンが問題を起こした際、その「処理」を行う機関のトップだと聞いている。
デジモンに襲われる確率が交通事故に遭う確率を遥かに下回っているこの国の現状は、彼の存在という抑止力が大きいんだとか、なんだとか。
で、そのロードナイトモンとやらが、先程ピエモンの現状を聞くためだけに、俺を訪ねて来ていたのである。
「小難しい話ばっかりだったよ。デジモンがお前みたいに面白い奴ばっかりじゃない、ってのだけはよーくわかった」
「向こうが退屈なデジモンなんじゃなくて、あなたがとびきりの面白人間なんですよ」
そうかもなと笑い合ってから、それよりも、と俺たちはスーパーに歩みを進め始めた。
全く、これで今日の特売品が売り切れていたら、国に賠償請求してやろう。
自動ドアを抜けた先の野菜売り場で、真っ先に目的のものを回収に向かう。
国の名誉は守られたようだ。ひと玉250円の白菜は、目立つところにまだ堂々と鎮座していて。
「よっしゃ。これで今日は予定通り鍋だな」
「やりましたね」
遅れてピエモンが持ってきた買い物カートに、白菜を転がす。
小ぶりではあるが、持った感じ中身はしっかり詰まっていそうだ。半分使ったとしても、今週いっぱい、何かと献立に回せるだろう。
と、俺が明日以降の献立に思いを馳せていると、ふいにピエモンが、妙に複雑そうな顔でこちらを覗き込む。
「ん?」
「火鍋ではないですよね?」
「……当分辛い料理は出さないから安心しろって」
前回の麻婆豆腐がよほど衝撃的だったようだ。「そうなんですか……安心したような、ちょっと残念なような……」と、ピエモンは道化にあるまじき曖昧な表情を浮かべている。
美味しかったけれどあの辛さはヤバい、というのが後日冷静さを取り戻したピエモンからの改めての感想で、それは辛党への第一歩なような気もするのだが、まあ、それこそ無理強いする事ではないので。
「今朝から鍋に昆布入れてあるからな。今日は水炊きだ」
「それはいいですね! して、主材の方は」
「とりもも肉も安くで出てた筈だから、今日はそれで……あったあった」
今日のお買い得品を確保してから、家にストックの無い食材を買い足す。
一番温めたいのは身体よりも懐な暮らしをしているとはいえ、鍋にはやはり、彩りが欲しいところだ。
個人的に外せないのはえのきだろうか。ポン酢に絡めたあの白くて細いきのこを啜るのは、麺類とはまた違った風情がある。水炊き以外にもあればとりあえず1品作れるので、アレは野菜室の常連だ。
今日も当然家にはあるのだが、買っておこう。
「〆はうどんと米どっちにする?」
「今日はお米の気分ですかね。ただそれはそれとして、くずきり買いません?」
「おう買っとけ買っとけ。……あ、そうだ。柚子胡椒も買っとこう」
「あー、いいですね。柚子胡椒と言えば、以前作ってもらった……」
談笑しつつ店内を一周して、最後にお買い得セットになっているビール缶をカゴへ。
支払いは一旦ピエモン持ちだ。帰宅後に半額を支払う事になっている。
会計を済ませて外に出ると、30分も経っていない筈なのに、あたりはすっかり暗くなり、気温はぐっと冷え込んで、絶好の鍋日和だ。
「うー、さっむ」
「また風邪引かないでくださいよ?」
「俺だって好きで引いたりしねーよ。はぁ〜、お前はいいよな、あったかそうな格好で」
ピエモンはふんと鼻を鳴らす。
「これ、見た目を変えているだけなので、別に暖かくはないんです」
「そうなんだ……」
「寒さには強い方なので、今はまだこれで大丈夫なのですが……ただ、人間の世界の底冷え感はまた質が違うので。今、割と真面目にこたつの購入を検討しています」
「安いの見つかるといいな」
吐き出した息が、俺の方は白くて、ピエモンのはそうじゃない。
体温は低いと、そういや前に言ってたっけか。
と、
「ロードナイトモン」
ふいに、ピエモンが俺に会いに来ていた究極体デジモンの名前を口にする。
「なんだよ藪から棒に」
「あなたに尋ねたんじゃないんですか? デジモンと親しくする上での、リスクについて」
「……」
ーー親しくするのは貴様の勝手だ。
ーーだが、万一奴が何らか事情で力を振るった際に、貴様は以降も、それまでと同じようにピエモンと接せられるか?
ーー貴様との友好関係が崩壊したピエモンが暴走するような事があったら。貴様は、軽率な情の責任が取れるのか?
今時芸人でも着ないような派手なピンクのスーツがおっっっそろしくよく似合う長身痩躯のイケメンに化けたロードナイトモンは、あんまりに長い股下に呆気に取られる俺に、高圧的な口調でそんな事を問いかけてきたのだった。
「あまり悪く思わないであげて下さい。実質汚れ仕事の担当なので、そういう事例も嫌という程見てきたのでしょうから。それに」
ーー奴の相手は、この私でも、骨が折れる。
「私、強いですからねぇ。警戒されるのは、仕方の無い事なので」
ピエモンは足を止め、ジェスターの顔の上に、いつもの白黒の面だけを出現させて、こちらに向き直る。
「おいしいものを食べる前に、胸のつかえは取っておきたいんです。……彼に何と答えたか、正直に話してもらえますか?」
仮面越しの赤い瞳は、彼が人間とは全く異なる生き物である事を、いつもよりも強く主張しているようだった。
「俺は」
……案外
「「知らん」っつった」
気にするタイプなんだなぁ。
「……はい?」
「大体、お前がデジモンじゃなくて人間だったとしても。例えば、包丁持って暴れ出したりしたら。普通にドン引きするし、事情によっては縁切るっつーの」
……その、言われてみればそれはそう、と言わんばかりの顔、俺はさっきも別のデジモンで見た訳なのだが。
「それに……そうだな、ええっと」
良さそうな例えを思いついて、俺は手に下げた袋から、買ったばかりの白菜を取り出した。
「知ってるか? 白菜って、時々黒い斑点がついてるんだけど。……これは無いけどまあいいか。兎も角、その斑点はいわば、糖度が高い証なんだ」
何故俺が急に白菜の話をし始めたのか理解できず、ピエモンは怪訝そうな顔をしていたが、黙って聞いてはくれているので、俺は構わずに話を続ける。
「でも確かに、知らなかったら傷んでるように見えるから、嫌がる奴も多いんだとさ」
「……それは、勿体ない話ですね」
「ん。……で、何を言いたいのかと言うとだな」
白菜を仕舞い直して、改めて。
俺はピエモンと向き合った。
「俺はお前が強いデジモンだってのは一般常識として知ってるし、だけど他の奴と違って、酒好きな事も知ってるんだ。……そこを知ってるか知らないかで、だいぶ印象が違うっていうのもな」
「……」
だから、と。言葉は紡ぎつつ、だんだん照れ臭くなってきて、俺はさっとピエモンに背を向けた。
「もし俺がお前にドン引きしたり怖がるような事があったら、暴走する前に、俺が納得するまで事情を説明してくれ」
そのまま、我が家に向けて、歩き始める。
「お前がそれをしてくれる奴だっていうのは、少なくとも、知ってるからさ」
……。
ちょっと。いや、だいぶ恥ずかしくなってきたな。
「……ありがとう、ございます」
後ろのアイツが、笑って言ってくれていれば良いのだが。
どうだろう。ロードナイトモンは、呆れている風にしか見えなかったけれど。
なんて思っている内に、中身はデジモンの道化が隣に並ぶ。
「さ、早く帰ってお鍋にしましょう。そろそろ私も身体が冷えてきました」
「お前が足止めたんだろ? 全くよ〜」
結局俺たちは、お互いの顔を伺ったりはしなかった。
同じ鍋をつつくときに、どうせ向かい合わせる顔だ。
俺たちは残りの夜道を急ぐ。
今日の酒も、きっと美味しく、飲める筈だ。
6.ハイボールと麻婆豆腐
「そういえば、あなたの得意料理は何なのですか? それを食べたいのですが」
問いかけに俺が固まったのを見て、人間姿のピエモンは怪訝そうに眉を寄せる。
この前の礼、とまでは言わなかったが、奇をてらわずに食べたいものをコイツに尋ねたところ、返ってきたのがこの疑問。
別に質問を質問で返すのは云々等とは言わないが、礼儀に関係の無いところで、俺の得意料理にはちょっとした問題があって。
「お前の返答によっては」
しばらく悩んだ後、俺はつたなく言葉を選ぶ。
「俺の答えは変わる事になる」
「初めて見ました。返答によって得意料理が変わる人」
いやそりゃまあ普通変わらんし、俺だって本当に変わる訳じゃないんだが。
「お前、辛いものって、イケるクチか?」
*
微塵切りにした生姜とニンニク。それから長葱。
どれもこれも平時ならチューブやパックのもので済ませるところだが、今回は俺も本気を出さねばならんので、潔く材料は揃えてある。
多めに引いたごま油にしっかりと香りを移してから、合い挽き肉を投入。軽くほぐして塩胡椒、最初の花椒を少々。半ば揚げ焼きのようにして、肉の表面がカリカリになるまで火を通す。
この工程がちょっと長くかかるのだが、こうする事で肉の旨味が引き立つのと、食感にメリハリを楽しめるようになるのだ。
「うわぁ、既にいい匂いがする……」
「気持ちはわかるけど味見は厳禁だからな。後で入れる片栗粉は、唾液の成分でとろみがつかなくなるんだ」
リスクは避けたいからな、と肉が焦げ付かないよう、しかし弄り過ぎないよう神経を尖らせる俺に、心なしかピエモンは引き気味である。
「ニンゲンが趣味の料理を拗らせる時って、大概ラーメンかカレーと聞いたのですが」
その知識はその知識で、どこで拾ってきたんだ。
「まあ両方手ぇ出した事あるけど」
「あるんですか」
「どっちも光熱費がかさむし、何より何時間も手間暇かけたやつよりレトルトの方が遥かに美味くてだな」
「まあ……真理でしょうね」
何時間も、とは言うが、企業はその何百倍、何千倍もの時間をかけて商品を開発している訳であって。
ちょっと休日を割いた程度で敵うと考えるのも、なかなかにおこがましい話だ。
「ただ麻婆豆腐はほら、好みの辛さってなると結局自分で調整する事になるから。レトルトでもひき肉は炒めるやつがほとんどだし、その辺を拘っていたらあれよあれよと……」
「なるほど」
それで、と。ピエモンは出入り口の際からフライパンを見下ろす。
「あなた好みの辛さというのが、俗に言う激辛の部類なのだと」
正直「激辛」とまで言われてもぴんと来ないのだが、辛党の「辛い」とそうじゃない奴の「辛い」に程度の差がある事くらいは知っている。
市販品の辛口より辛いんだったら、それは激辛に分類されるのだろう。
「もう一回聞いとくけど」
そろそろ肉が理想の焼き加減になってきたので、俺は調味料一式を調理台に並べつつ、ピエモンの方を見やる。
「本当に辛いの、大丈夫なんだな? 今ならまだ間に合うぞ」
「辛味って、つまるところは痛覚でしょう? 以前片足が吹き飛んだ時は思ったより耐えられたので、多分大丈夫だと思うのですが」
「ごめんちょっとその理屈というか感覚俺わかんない」
「まず熱い、という感覚が先に来てですね」
「あ、説明もいいデス」
というか、デジモンって手足が吹き飛んでも生えてくるものなのか。
まあ普段も見た目を変えて生活している訳だし、そういうのの応用でできちゃったりするのだろう。多分。
全く気にならないと言えば嘘になるが、まずは、今日の料理に集中だ。
トマトケチャップ、蜂蜜、オイスターソース、醤油。そしてシナモンをほんの、ほんの微量ずつ。それから花椒と一味唐辛子をお好みで振って、肉に馴染ませる。
「……入れて大丈夫なもの入れてますよね?」
「ぶっちゃけ前半の調味料はみんな大好き自己満足隠し味の類だが安心しろ。市販の麻婆にも入ってるもんだ。あ、ただシナモンはガチだぞ。完成時の香りが良くなるんだ」
「どうして1人暮らしの男の冷蔵庫にシナモンが置いてあるのかずっと疑問だったのですが、これ専用だったので?」
「昔は同じ理由でクミンも置いてたんだけど、あれ、ちょっと入れるだけで全部カレーの匂いになるから、麻婆には使わなくなったんだよな」
「知りませんよ」
俺の言葉数が増えるとピエモンがツッコミに回るらしい。下っ端サーカス団員同士の掛け合いは、普段とは役割があべこべになっていた。
俺は鶏がらスープの素をフライパンに振り入れる。
「あ、そこはそれなんですね」
「それこそ長時間煮込んだ鶏がらスープも、あとホタテとか海老の出汁も試したんだけど、やっぱりこれが一番美味しかったんだよな……」
まあ、真理でしょうね。と、ピエモンは先と同じセリフを繰り返した。
料理酒と水を肉が浸るくらいまで入れて、沸騰したら火を止める。
赤味噌、甜麺醤、豆板醤を溶けば少し濃いめの肉味噌スープといった様相だ。豆腐を入れれば良い塩梅だろう。
再び沸騰させてから水溶き片栗粉を回し入れ、とろみがつき始めたのを確認してから、あらかじめ大きめに切った絹ごし豆腐を塩茹でしておいたものを入れる。
煮立ったところにラー油と追い花椒をミルで挽いて、完成だ。
「待って」
ゴリゴリ
「待ってください」
ゴリゴリゴリゴリ
「さっきもそこそこの量入れてましたよね? まだかけるんです?」
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
「ねえ、ちょっと」
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ
*
「昔こういう必殺技を出してくるデジモンと戦った事があるような気がします」
鉢によそった特製麻婆豆腐を見下ろして、ピエモンが一言。
何故か今日は正座である。別に構わないのだが、ただでさえでかい身体が更に嵩高い。
「でも香りは無茶苦茶いいんですよねぇ」
「と、いうわけで。今日の酒は麻婆豆腐の風味を邪魔しないハイボールだ」
うちで一番大きなガラスのコップにからんからんと氷を入れて、黄金の酒が描かれた缶と共に運ぶ。
中身を注げば、準備は完了だ。
「いただきます」
と、言いつつ、俺は麻婆とハイボール、そのどちらにも手をつけずピエモンの様子を伺う。
言い出しっぺはコイツの方なので、早々に腹を括ったのだろう。恐る恐る、スプーンで一口。
「……あれ? 思ったよりは辛くないんですね。しっかりと味に奥行きがあって、普通に美味しげほっ! げほげほげほっ!?」
山椒の痺れるような辛さは、後からくる。
一口目の印象に油断して運んだ二口目が喉に効いたのだろう。ピエモンはお手本のように咳き込みながら身悶えし始めた。
その様子をBGMに、俺も自家製麻婆豆腐を一口。
あー、これだ。この辛さだ。鼻に抜ける花椒の香りと舌の痺れに、風邪の時とはまた別の熱が、カッと全身を駆け巡る。
辛さだけじゃなく、味の方も上々。あんに絡めた後でもしっかりと火を通した挽肉には歯応えがあって、混ぜてある赤味噌の風味が親しみやすいコクをプラスしてくれている。
「でももうちょい山椒足してもいいかな」
「嘘でしょう……?」
一度席を立ってキッチンスペースから花椒を持ち帰ると、既にピエモンの顎からは汗が滴っていた。
グラスを持つ手がぷるぷると震えている。
「おさけまでさんしょうのあじがひゅる……さわやかでおいひいですね……」
いい酒飲んだ時以外もバグるんだなぁと思いつつ、ティッシュの箱を差し出すと、ピエモンは白黒の仮面を外して目元にティッシュを当てる。
着脱可なんだ。
「大丈夫か? キツいなら卵取ってくるぞ」
とはいえ、多少申し訳なくはなってきた。
足が千切れても大丈夫なら山椒の痺れも大丈夫だろうと完全に自分の好みで作ってしまったのだが、口の中は割合デリケートだったらしい。