作者を3か月にわたって苦しめた一話はこちら
「溺死だった」
ぴかぴかのセダンのエンジンを駆けながら、野間哲也は言った。私は助手席にいるのが落ち着かず、シートベルトをおっかなびっくりに締めた。
「数日前、海水浴場でね。岩場を隔てた人気のないビーチに倒れていたらしい。近くを通りすがったカップルが異変に気づいて、救急車も呼ばれたんだけど、ダメだった」
「海水浴?」
自分が狙われているとメッセージを残すほどに危機感を抱いている状況で、そんな場所に行くものだろうか。あるいは、逃れられない死を覚悟していたのか。
「泳いでいた?」
「そうらしい。でも水着にはなってなくて、体も濡れていなかった」
「一人だったんですか」
「俺もそれが変だと思ったんだ。連れはいなかった。少なくとも、誰も名乗り出なかった」
「……」
私は駄菓子屋で一週間分を買い占めたソフトマドロスをくわえて、窓の外を流れていく景色を眺めた。口の中に広がる甘ったるい味わいは、当時の家の人達には少し不評だったっけ。名探偵アヤタカのキャラ付けに使われていたから、昼夜を問わず食べていても許されていたのだ。
「警察の話では、最寄りの駅で一人でいる太陽を見かけた人がいたらしい。誰かと待ち合わせていたのかもしれない、って言ってた」
「警察ですか?」私は眉をあげる。
「事故って話でしたよね」
「それでも、俺が変だっていったら、小庄司警部が調べてくれたんだ。警察にとっても君たちの代の『選ばれし子ども』は特別だからって」
「“小庄司警部”? ドクターペッパーが、警部?」
「うん。アヤタカのイメージ工作が露呈して、しばらく苦労はしたらしいんだけど、あのひと、もともとエリートだからね。今は捜査一課で活躍してるらしいんだ」
小庄司博士(こしょうじ・ひろし)。コショウのハカセだからドクターペッパー。虚構の探偵・アヤタカを作り上げる計画には警察も全面的に協力しており、当時警部補だった小庄司が私たちと直に接するメッセンジャーだった。彼は私たちに接する大人の中でも若く、みんなから──丁度若い教育実習の先生がそうやって迎えられるように──からかわれていたっけ。今思えば、若くしてあんな機密計画の一端にいたんだから相当のエリートに決まっているのだ。
「ダイイングメッセージのことは?」
「まだ言っていない。告別式前に見つけて、そのまま君のところまで来たから。話した方がいいと思う?」
「あとあと隠してたことがバレる方が面倒。告別式に来るんなら、私から話します」
「ありがとう。もう向かうかい? 流石に兄の僕が告別式に遅れるのは……」
「逆。お兄さんが来ないうちは式も始められない。それならその間は待たせられるってことです。」
それはそうなんだけど、と哲也は気まずそうにごにょごにょと呟く。
「大丈夫です。そんなに時間はかけない。告別式で皆に会う前に、どうしても判断しておきたい問題があるんですよ」
「それは──」
こちらを見てくる哲也の視線を感じて、私は口から駄菓子を離し、ちゃんと前見て、と言った。
「私と太陽を除いた3人の元『選ばれし子ども』、そしてその関係者。皆を疑う必要があるか、です」
「そもそも、暗号の答えなんて、いくらでもこじつけられます。過不足のないフェアな過程を経て“しっくりくる”答えを出せたとしたら、それは暗号じゃなくてなぞなぞです」
そう呟きながら太陽の部屋の椅子のキャスターを転がした。
「でも、太陽は私に当ててメッセージを残した。だとしたら、私なら、私だから解けるようになっているはず」
「あの、悠鷹ちゃん。そろそろ式が……」
「太陽は、大学に?」
哲也の言葉を遮り尋ねる。先ほどから彼のスマホが何度も鳴っているのには気づいていたが、私だっていい気分で捜査をしているわけではない。スマホの通知きるか部屋から出ていてもらえますかと言えば、彼は汗をかきながらも、マナーモードを入れてくれた。
「ああ、スポーツ系の推薦で大学に進学して、将来はインストラクターになるって言ってた」
「昔は、教師になりたいって言ってた。やっぱり、アヤタカの件で信用がなくなったから?」
「単に子どものころから夢が変わっただけだよ」
哲也はそう言ってくれたけれど、テレビの取材に、選ばれし子どもとしての経験を活かして未来の子どもたちの手本になりたい、と答えていた太陽を思い出し、私の心は暗くなった。すぐに首をふって思考を謎解きに集中させる。
「……ゴミ箱は机の横、暗号は机に向かって考えたはず」
そう言いながら、私は彼の机を見回す。一番目立つのはデスクトップパソコン。大きなキーボードは使い込まれていたが、ほこりなどもなく綺麗に手入れされている。それに大学のレジュメが丁寧に綴じられたファイルが数冊に、細かく取られたノート。品行方正で真面目なところは昔から少しも変わっていなかった、ということだ。
それから何冊かのスポーツ雑誌、それ以外の本は、と部屋の反対、ベッド近くの本棚に目を向けて、私は口元を緩めた。
「クリスティ全集、今でも読んでたんですね」
「ああ、僕は全然だったから、太陽が親父の本棚からいつのまにか自分の部屋に移してたんだ」
名探偵アヤタカは明らかにシャーロック・ホームズをモチーフにしていたが、私と太陽は親の影響でどちらも筋金入りのポアロ派だった。ポアロかポワロどちらの書き方が正しいかで、お互い大泣きするまでけんかしたこともある。
そんな私たちの魂をかけたおおげんかの原因にもなったポアロのことを、アガサ・クリスティーはずっと嫌いだったそうで、もっと早く捨てておけばよかった、とぐちぐち言っていたそうだ。
思えばコナン・ドイルもそうだ。ホームズを滝に突き落として殺した。そうならなかっただけ、名探偵アヤタカは幸福だったのかもしれない。
時々、自分がずっと名探偵アヤタカだったら、と考える。私は鼻持ちならないイタい女の子のまま大人になって、ある朝、自分を助けてくれていたみんなから捨てられるのだ。代わりに事件を解いてくれる先輩も警察ももういない。私は泣くだろうか、もしかしたら自殺するかもしれない。どっちでもいい、そんな女の子を、今の私は好きになってあげられそうもない。あわれんでやるのだってごめんだ。
そんなことを考えながら、不機嫌な推理小説書きの女の足跡とにらめっこをする。本棚を見つめていると、段々それが千々にちぎれて、蛹の中身みたいにぐちゃぐちゃになっていく気がした。
「悠鷹ちゃん、そろそろ」
「静かに!」
ぱん、と手を叩いて哲也の言葉を止め、私は本棚を見つめ続ける。そうしていると、そこにあったぐずぐずが、やがて一つの形になった。手が勝手にスマートフォンをポケットから取り出し、いくつかのキーワードを検索する。海外の通販サイト、ナントカペディア、電卓、それに普通の検索。
「……悠鷹ちゃん?」
「行きましょう」
「え?」
「もう大丈夫です。行きましょう」
「それは、つまり、暗号が」
「昔出たテレビのプロデューサーに言われたんですけど」
私はソフトマドロスをくわえて言った。
「探偵って、思い付いた推理をすぐに話しちゃいけないそうですよ」
「……それでも、思わせぶりにヒントをつぶやいたりするものだ」
もう、とうんざりしたことを隠さずに声を出し、私は振り返った。
「35リットルのクーラー・ボックス」
「え?」
「35リットルのクーラー・ボックスですよ。それがヒントです」
告別式は最悪だった。太陽の遺体はきれいで、顔は安らかに整えられていて、私にはそれがとても太陽だとは思えなかった。あんなものはただの死体だった。みんなが彼の“選ばれし子ども”としての経歴を離すたびに、奥歯に何かが引っ掛かったような物言いをしていた。誰かのすすり泣きが聞こえるたびに、私はそいつを殴りつけてやりたくなった。
私にはすっかり太陽を殺した犯人が、少なくとも、あの暗号の指す人名が分かってしまっていた。暗号ってものの最低なところは、それがただ名前だけを指して、ほかの「どうして」には何も答えてくれないところだ。おまけに告別式で駄菓子をくわえるわけにもいかず、思考力も大いに制限された。私が覚えているのは、かつては大事な人たちだった容疑者との、対話の一部分だけだった。ここに、それを残しておこうと思う。
警視庁捜査一課警部 小庄司博士(こしょうじ・ひろし)
「悠鷹くん、お久しぶりです」
「ドクターペッパー、それ、あいさつのつもり?」
ここが告別式の席であることも、向こうが刑事であることも分かっていたはずなのに、私の口は、驚くほど自然に舐めた口を利いた。私もびっくりしたが、相手はもっとびっくりしていた。当然だ。彼は「名探偵アヤタカ」のプロジェクトにかかわったおとなの一人だ。優しい顔をして私たちやその親と関わり、そのせいで私たちの人生はめちゃくちゃになった。負い目、というのはいささか控えめな表現だろう。事実、周囲は皆彼に白い目を向けていて、彼もそれをわかった上で、肩身が狭そうにしていた。
それでも彼は太陽の棺の前で、たっぷり数分間、深い礼をして微動だにしなかった。
「……驚いたよ。他の子どもたちは口もきいてくれなかった。君はそれ以上にわたしを……」
「恨んでいる? そう考えるのももっともだけど、私はそもそもここに、太陽とのお別れのために来たんじゃない」
私がそういえば、彼は表情を変え、声を低くした。
「それじゃあ、太陽くんから話を? 警察がでも出来る限りの調査をしたが、まさか君を頼るとは」
「ええ、こんな偽物の探偵を頼るなんてね」
「それは……」
「謝罪はもういいです。これを見てください」
私は太陽の遺書を彼に見せる。彼は目を細めてその遺書を三度繰り返して読むと、眉間を抑えて首をふった。
「どういうことだ。さっぱり分からない」
「でも、何の意味もなく残される文章じゃない。太陽の死に、本当に不可解な点はなかったんですか?」
そう言ってじっと見つめれば、彼は首をふった。昔から変わらない。こうやって頼まれると、ドクターペッパーは断れない。
「……不可解な点はないよ。事故だ。誰かに押さえつけられたり、抵抗してもがいたりしたような跡もない。僕が子供の頃のドラマだったら、これで十分不可能犯罪のプロットになった」
「でも?」
「これを見てくれ」
そう言って彼が渡してきたファイルに目を通し、私は眉をあげる。
「類似の事故が?」
「ああ、市民プールや海水浴場での溺死。オマケに周期的だ」
「偶然でしょ。悲劇だけど珍しくない。ただ意味ありげに並べただけ」
「被害者の名前を見るといい」
私は興味なさげにその名前を上から順番に読んで、固まった。
「……先輩たち?」
「そうだ。君たちの先代、先々代の“選ばれし子ども”が、ここ最近、多く死んでいる。同じ死因。似た状況で」
「でも、どれも事故なんでしょ? 殺人だと示す証拠はなかった」
「ああ、不可能だと言えたらいいんだが。デジモンが絡んでからこっち、犯罪に不可能は無くなったからな」
「そんなこと」私は混乱して声をあげた。
「そんなこと、20年前から分かっていた話。だから私たちは、ゲートを閉じたの」
私たちが冒険の最後に戦った“大天使”の目的は、デジタルワールドと人間界の間のゲートを大きく開くことだった。開かれた交流の先に彼がどんな理想郷を見ていたのか、私には分からない。
ただ、いくらあの天使が人間に好意的でも、あの時点でのゲートの開通は人類にとっては存亡にかかわる問題だった。人間はあまりにもろく、デジモンたちは私たちに、文字通りどんなことでもできてしまう。不可能犯罪の多発、軍事利用、デジモンによる一方的な虐殺。それを予見して、世界の安定を望む意志は“選ばれし子ども”システムを発動したのだ。
そして私たちはその意思の通り、ゲートを閉じて世界を救った。そもそもの始まりから、私たちは理想を殺して現実を取るためにいたのだった。
「そして、後処理はあなたたちがした。今人間界にいるデジモンたちも、 “選ばれし子ども”が司法の側で監視している、とアピールするキャンペーン。それが“名探偵アヤタカ”だった」
「そうだ。警察はもっと誠実な手段を使うべきだった。しかし時間がなかった」
「私には言い訳しなくていいですよ」
「すまない」
私は息をついて立ち上がった。その背中に声がかかる。
「悠鷹くん、君はさっきの暗号を」
「解けると思う? 私はさ、あなたたちのついた嘘なんだよ」
「いいや」ドクターペッパーは首をふる。
「私は何度も君が謎を解くのを見た。君の推理が我々の書いた台本を越えるのは、決して時々の偶然じゃなかった。探偵としての君は決して、操り人形じゃなかった」
「そんなの、全部嘘」
「いいや」ドクターペッパーは立ち上がった。
「アヤタカは、確かに名探偵だったよ」
私は返事をしないで、彼のもとを去った。葬儀屋の床は、うんざりするほどに真っ白だった。
元“選ばれし子ども” 赤牛つばさ(あかうし・つばさ)
つばさは私の同期の子どもたちの一人だった。太っちょのおどけた男の子だった記憶が強かったから、すらりとした長身の青年が目の前に立った時、私はそれが彼だとすぐには分からなかった。
「悠鷹」
「……うそ、つばさくん?」
「うそ、はひどいな」
彼はくすり、と笑った。その目元は赤い。泣き虫なところは変わっていないのだ。
「……ドクネモンは?」
「デジタマのまま。ツカイモンもそうでしょ?」
「ああ、五年前からな」
五年前、私たちのパートナーは急にデジタマになった。いや、急に、じゃない。そのまえからあの子たちには異常が生じていた。
昔は当たり前のようにしていた進化がうまくできなかったり、昨日したばかりの話をところどころ忘れていたり。
「何があったのか、なんであんなことになったのか、今でも分からない。おれたち誰も、調べようともしなかった」
彼がぽつりとつぶやく。
「いいや、ちがうな。調べようともしなかったのは俺だ。太陽は、調べようとしてた」
「太陽が?」私は驚いて目を開く。
「5年前、ツカイモンたちがデジタマになってすぐ、太陽からメールが来たんだよ。原因を探ろうって、あの頃みたいに、自分達ならできるって」
「そんなの、知らない」
「あのころは中学生だ。ユタカのまわり、まだ酷かったろ。おれたちのメールにだって、一つも返信なかった。太陽も気を使ったんだ」
「言われてみれば」
あのころ、私がどんなだったか、正直覚えていない。でもメールなんか、取材依頼やら中傷やらで見る気もしなかったし、他の選ばれし子どもとも縁が切れたと思っていた。だから見逃してしまったのだろう。
「俺は断った。正直、ツカイモンがそばにいなくて、何かができる気なんてしなかったんだ」
「わかるよ、それ」私は適当に言った。わかる、の言葉に嘘はなかったが、彼の無念に同調できる気はしなかった。
「太陽、他の子どもには連絡してた?」
「知らない。でも、メールの文面からして、チャオやイミズのとこには連絡いってたかもな」
「そっか。ありがとう」
「なあユタカ」
椅子に腰かけたまま、つばさはどこかを見ていた。
「俺たち、なんでいつまでもああやって冒険してられなかったんだろうな」
私は返事をしなかった。その答えは彼が一番知っているのだ。
元“選ばれし子ども” 直石いみず(なおいし・いみず)
「待って、悠鷹ちゃん」
いみずに声をかけられて、私は少し顔をしかめた。もちろん彼女にも聞き取りをする予定だったが、それは彼女の母親がいないところでしたかったのだ。
いみずはバレエ教室に通う内気な女の子だった。でも私たち“選ばれし子どもたち”の中でも一番の美人で、おどおどしたところも、彼女にかかると美少女の儚さという美徳になった。
彼女は綺麗だったから、私たちがデジタルワールドから帰ってくると、メディアは彼女を真ん中にした写真を取りたがった。単独の取材が多いのも彼女だった。
それが彼女の母親をおかしくした。もとより多分にステージ・ママの気はあったけれど、いやがるいみずをあちこちの取材に連れ回して、自慢げにしていた。だから、名探偵に選ばれたのが私だった時、彼女は勝手にわたしを目の敵にして、いみずと会わせなくなった。
私も子ども心にそういう嫌な人間関係は感じ取っていて、いみずが私と友達のままでいたいと思っていてくれているのも分かっていた。でも、私は何もしなかった。
嫌味の一つや二つは覚悟していたのに、彼女の母親の対応は驚くほどにあっさりしていた。自分の子どもが、私によって滅茶苦茶にされた人生を今まさに歩んでいるというのに、この人の中では私への「いい気味」が勝ってしまうのかもしれない。私は吐きそうになるのを抑えながら、社交辞令の社の字だけを適当にこなした。
「それじゃ、お母さんは、先行ってて」
いみずが言う。母は少し心配そうに、彼女の腕をつかむ。
「いいから、あっち行ってて」
いみずがそう言って母の手を振り払ったものだから、私は驚いてしまった。母親はそれ以上にショックを受けたようで、色のない目で彼女を睨むと、足早に駐車場へ向かっていった。
「ごめんね、あの人、ずっとああなの」
「……」
「えっと、ひさしぶり、だね、悠鷹ちゃん」
「久しぶり」
「……元気にしてた?」
「全然」
「そう、だよね。こんな日、だもんね」
選ばれし子どもたちと連絡を絶って7年、いみずの母が私を娘から遠ざけて、もう10年はたつ。面と向かって話すのが余りに久しぶり過ぎて、私は、彼女にどう話せばいいのかまるで分からなかった。
「調べてるんでしょ、太陽くんのこと」
「……どうして、そう思うわけ?」
「太陽くんなら、悠鷹ちゃんに頼むし、悠鷹ちゃんなら、頼まれれば断らないかなって」
「なにそれ」
私は呆れて息をついた。どうも私のそういうところは、昔かららしい。
「じゃあ聞くけど、ここ最近太陽と会った?」
いみずは首をふった。
「5年前に連絡は? 私たちの、パートナーがデジタマになった時」
「あった。調べようって。私たちがもう一度力を合わせれば、またみんなに会えるって」
「なんて返したの?」
「ごめん、って。わたしはゴツモンがいなくなって、立ち直れてなかったし、その、アヤタカのこともうまくいかなかったでしょ? もう、わたしたちに何かができるなんて、信じられなくなってたの」
そしていまも。あの日から、私たちはずっとそうだ。
「ありがとう。何かあったらまた連絡するから」
「あ、あのね、悠鷹ちゃん」
話を切り上げて立ち上がる私の袖を、彼女がつかんだ。
「何?」
「もう一つあるの。太陽くんの死に何かあると思った理由」
「……どういうこと?」
彼女はびくびくと、あたりを見回し、それから、もともと小さい声をさらに潜めた。
「式に“アリナミン”が来てた」
「アリナミン・チオビターニ? 国際電子生物対策機構の?」
予想外の名前に、私は素っ頓狂な声をあげる。アリナミン・チオビターニ。数を増やすデジモンへの対応を任された国連の組織のエージェントで、デジタルワールドから帰還したわたしたちに聴取を行った男だ。黒服に身を包んだ、表情と隙の無いその佇まいが、子ども心に不気味だったのを覚えている。
「どうして」
「わからない。でも、あの人がいるってことはただ事じゃない、よね」
少なくとも、追悼に来るほどに私たちへの思い入れはないはずだ。
「聞かせてくれてありがとう。もしかしたら大きな事件かもしれない。いみずも気を付けて」
「う、うん。……悠鷹ちゃん。よければまた、会いたいな」
私はそれに曖昧な返事を返し、彼女の元から逃げるように去った。
元“選ばれし子ども” 大井ちゃお(おおい・ちゃお)
「あら、ユタカ、あなたも来たのね」
「げ……大井」
大井ちゃお、このバカみたいな名前の女は、元“選ばれし子ども”のなかで、私が唯一苗字で呼ぶ相手だ。別に何かがあったわけじゃない。初めてファイル島で出会った時から気は合わなかったが、向こうがやたらと私を目の敵にしてきたのだ。
それでも冒険の間は、いみずが仲を取り持ってくれたりしてそれなりにうまくやっていた。ひどいのは帰ってから、私が特に太陽と仲が良かったのが気に入らなかったのだろう。会うたびに対抗心を隠しもせず、名探偵アヤタカに呼応して、自分もあとから探偵を名乗った。
決め台詞は「困ったときの合言葉! お~い! チャオ!」
ダサすぎる。
そういうわけで、7年ぶりに会った彼女は、相変わらず腹の立つドヤ顔で、私の前で仁王立ちをしてきた。私とは対照的に、背が低く、いまでも中学生と間違えそうだ。さすがに今は長い髪をおろしているが、前に見た探偵社の宣材写真では昔から変わらぬツインテールだった。見苦しいにもほどがある。
そこは私が休憩のために逃れてきた葬儀場の裏の第二駐車場だったから、どう考えてもわたしの後を追ってきたのだ。私がソフトマドロスをくわえているのを見ると、彼女もこれ見よがしにポケットからココアシガレットを取りだした。言うまでもなく、アヤタカの二番煎じのキャラ付けだ。
「来るよ。昔の仲間の告別式だからね」
「嘘。あんた、式なんてどうでもいいと思ってる」
「なんでそう、決めつけるように話すわけ」
「私がいうことは100%正しいからよ」
「馬鹿みたい」私は駄菓子を口から話した。
「私は太陽の思い出を話したいだけ。5年前に来たメール、覚えてる?」
「え? ああ、あのメール……」
分かりやすすぎるくらいのカマかけだったが、ちゃおは故人を思い出して泣きそうな顔になる。そう、この女、ちょろくてバカで熱血なのだ
「あのときはあんたも大変だったもんね……」
見ている間にも、当時の私に感情移入して泣きそうになっている。頼むから質問に答えてくれ。
「それで、メールは」
「ええ。きたわ! ルナモン達がデジタマに戻った理由を探るために、この名探偵チャオさまの力が必要って話だったわね」
「じゃあ、話に乗ったの?」
「ええ、つい数か月前も、調査報告のために会ったばかりだったわ」
私は驚いて声も出せなかった。
「え、まだ調べてたの? あなたも太陽も?」
「そりゃあ、まだ答えが出ていないから」
「5年だよ?」
「な、なによ! 時間がかかっているのは認めるけれど、前進はしてるんだから!」
……ああ、この女が苦手な理由、やっと分かったかも。私はため息をついた。
「最後にあった時、太陽に変わった様子は?」
「ほら、やっぱり調べてるんじゃない」
「それで? 変わった様子は?」
彼女は少し表情を暗くした。
「落ち込んでたわ。でも、不思議なことじゃなかった。あの時に出た調査結果を思えばね」
「どういうこと?」
「本当に聞きたい? きっとショックだと……」
「教えて」
「……相変わらずね、それじゃあ言うけど。私たち、デジタマの件であちこちの研究機関に調査を依頼してたの、そして分かったんだけど」
彼女は、ひどく絶望したように言った。
「あの子たちが、ルナモン達がデジタマ化したのは、ゲートが閉じたことによって、デジタルワールドからのデータ流入が少なくなったせい。あの子たちの力は強いけど、それはデジタルワールドの安定を望む者とのつながりによるものだった。そのつながりが断たれれば、体を維持するだけのデータを保持できない」
「……じゃあ、私たちのせいってこと?」
「そう。私たちは対処法を探したわ。でも、人間界のデータは代替物にならない。唯一、あの子たちを戻す術があるとしたら──」
彼女は深く息を吐いた。
「他のデジモンを殺して、そのデータを与えること」
読者への挑戦
事件の関係者の供述は以上となります。以下が回答編となりますので、もし自力で暗号を解きたい時は、ここで一度立ち止まることをおすすめします。でもぶっちゃけ、一話の暗号に答えをこじつけただけのグロテスクな謎解きになっていますので、怒りたくない方、がっかりしたくない方はそのまま読み進めちゃってください。
フェアであるために付け加えると、暗号の回答は、犯人の名前を導けるもの、になっています。連想できるもの、とかではなく割とストレートです。アヤタカちゃんと同じ過程を踏むことで、皆さんも答えに辿り着くことが可能です。
そして犯人は、明確に描写されたドクターペッパー、レッドブル、おいしい水、お~いお茶の四人のうち一人になっています。
少しスクロールしたところに、ヒント(というか暗号の前段階の解読)を載せています。
「これ」
わたしはチャオに、太陽の暗号を突きつけた。単に反応を見たかったし、彼女の探偵としての実力も知りたかったのだ。
「な、なによ唐突に」
「これ、見覚えある?」
「ない。……もしかして、太陽の?」
「そう。選ばれたのは私、ってわけ」
う、「なによう、それ。……で、あなたは解けたの?」
「うん」
「だったら私にも解けるはずね! 見てなさい」
そうして彼女はしばらく暗号とにらめっこをして、それからスマホを取りだした。
「検索に頼るわけ?」
「悪い? 自分の知識だけで解こうとするほうが浅はかよ」
なんだ、結構わかってる。
さらにしばらく、彼女が口にくわえたココア・シガレットを、ばきり、とかみ砕いた。
「キーボード暗号ね。キーボードのかな入力とアルファベットを対応させるやつ。かな入力で『あやたか』を入れると、その位置にある文字は……「37QT」になるわ」
「意味のない文字列に思える」
「私にもそう思えたから検索したのよ。これ、QTは海外でつかわれてる単位の「クォート」ね。37QTはおよそ35リットル、クーラー・ボックスの規格としてメジャーみたいね。検索するだけでいっぱい出てくるわ」
「それで?」
「……まだあるの?」
「私はそう考えてる」
彼女は汗がにじむほど考えた後に、首をふった。降参、らしい。
「まあ、そうだよね。あとは私じゃないと思いつけない」
「きーーー! なによそれ」
「そんな顔しないで。思いついたって、大してうれしくないから」
真実って、そんなもんだよと、私は言った。
以下解答編
『アヤタカ』はキーボード暗号で『37QT』を示す。QTはヤード・ポンド法で体積を示す単位。
調べてみると、どうやら1QTは0.946352946Lらしい。あとは電卓の仕事。
1QT=0.946352946L なら
37QT=35.015059002L になる
35.015059002という数の列を見ると、0がまるで数字と数字を区切るみたいに間に挟まっている。
そう考えれば 35 15 59 02 これでどうににも解読出来そうなくらいには整理できた。あとはどの鍵でこの扉を開けるか。
太陽は私に暗号を残した。私と太陽の共通点。クリスティ好きだ。あの性悪ミステリ女は60をゆうに超える著作数を誇っている。長編に限って刊行順に並べてみよう。ネットの百科事典を参考にするならば。
第35作「死が最後にやってくる」
第15作「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」
第59作「親指の疼き」
第 2作「秘密機関」
平仮名にして並べれば。
しがさいごにやってくる
なぜ、えゔぁんずにたのまなかったのか
おやゆびのうずき
ひみつきかん
頭文字をとると「し な お ひ」。意味が通らない? いや、タイトルをよく見ればわかる。
「『し』が最後にやってくる」のだ。
「『し』を最後にしてならべかえると、「なおひし」……なおいし。あなたの苗字だよ。いみず」
葬儀場の駐車場。私は直石いみずに言った。彼女は黙ってうつむいたままだ。
「海の事故、でしょ。太陽くん。わたしにそんなこと」
「ゴツモンにならできる。あの子が進化する。あのデジモンになら」
「……! ひどいよ。ゴツモンはもうデジタマに……」
「孵したんでしょ? 他のデジモンを殺して。それしか手がないって、太陽から聞いたんでしょ?」
「……」
「選ばれし子どもが死ねば、そのパートナーもデータになって消える。デジモンは殺せないけど、人は殺せる。最初の一回はあなたがやった。それからはゴツモンが」
「……たのに」
彼女がぽつりと話し出す。
「わたしたち、世界を救ったのに! みんな、わたしたちの敵になった。悠鷹ちゃんならわかるでしょ? どいつも、こいつも、利用するだけして、持ち上げるだけ持ち上げて、簡単に捨てた! そんな中、ゴツモンまでいなくなって、わたしが泣いてたら、お母さんなんて言ったと思う? 『いい機会よ、いい加減大人になりなさい』って! わたしたち、もうこれから一生どこにいっても、何をしても、選ばれし“子ども”なのに!」
それで分かった。彼女はそれで、最初の一線を越えたのだ。
「いみず、あんた」
私の声を、足音が遮る。現れたのは彼女の母だ。いや、違った。もう彼女の母はいないのだ。いみずに殺された。だから嫌味も言わない、探偵を前にしたいみずを心配する。何もないところで、標的を溺れさせることができる。
「あの冒険で、ゴツモンは完全体まで進化した。アイスモンになって、それから──」
瞬間、ばしゃり、と音がして、いみずの母が溶けた。夏空の下にぶちまけられた液体から、新たに大きな人影が立ちあがる。
「──スプラッシュモン」
「先輩たちが死んだのを知ってすぐ、太陽くん、気づいたみたい。わたしを海に呼び出して、自首するように説得してきた。ほら、わたしたち、冒険の最初、砂浜に流れ着いたでしょ」
「思い出の場所」
「馬鹿だよ。そんなの何の意味もない。わたしはゴツモンとの思い出を守るためにやったんだもの。あなたも馬鹿だよ。悠鷹ちゃん。わたしがもう人殺しだって分かってるのに、こんな人気のないところに来るなんて」
その言葉と同時に、いみずが目くばせをする。スプラッシュモンが、私に向けて手を伸ばした。
「やめて、いみず!」
「ごめんね。悠鷹ちゃん。もう手遅れなの。わたしたち、みんな」
「悠鷹ちゃん!」
声がする。見れば哲也が、ドクネモン──私のパートナーのデジタマを抱えてこちらに走ってきていた。
「さがしたよ! 車に置いていた君のデジタマが、急に熱くなって、もしかして何かしちゃったのかって」
「来ちゃダメ!」
わたしが叫んでももう遅い、スプラッシュモンが私に伸ばしたのとは逆の手で哲也をはたき、彼はそのまま気絶した。倒れた彼の手から、デジタマがころころと転がる。
「殺さないよ。理由がないもの。でも、デジタマのデータは、貰っていこうかな。」
「いみず、あんた」
「そうだよ。一緒に冒険したドクネモンにも、わたしはそれができる。コロナモンも、もう、わたしたちの餌にしちゃったもの」
意外だ。私は怒っている。目の前にいるのがもう昔のいみずではないと、分かっている。でもなぜだろう。こんなにも悲しいのは。
「いみず」
「──感心しないわね、自分に嘘をつくのは」
今度は、逆の方向から声がした。見れば、大井ちゃおが腕を組んで仁王立ちをしていた。横では大荷物を抱えた赤牛つばさが肩で息をしている。
35リットルの、クーラー・ボックス。
「いみず、あんた、コロナモンのこと、吸収させてない。友達をそうするのはやっぱり嫌だった? データになって消えていく卵を見て、昔沢山見た、デジモンたちの死を思い出した?」
「……そんなこと!」
「だからあなたは、デジタマの分解を止めた。アイスモンの力を使って。ほんとうに……バカ」
つばさがクーラーボックスを開き、中のものを掲げる。それは、消えかけで氷漬けにされた、コロナモンのデジタマだった。
けれど不思議だ。今、分厚い氷の中で、それは燃えている。氷が急速に溶けていくのは、決して夏の暑さのせいだけではない。
ばきり、氷が割れ、デジタマが燃える。その炎からデータの粒子が飛び、それは天に昇って消える代わりに、ドクネモンのデジタマを取り巻いた。
ぱきりと、デジタマが割れて、光に包まれる。気がつけばそこには幼年期をすっ飛ばして、ドクネモンがいた。
「ドクネモン……」
彼は私の方を見て、頷いた。
私のポケットで、何かが熱を持つ。いや、何かなんてわかっている。
私はデジヴァイスを取りだし、天に掲げた。言うべき言葉は、自然と頭に浮かんでくる。
「ドクネモン────超進化!」
それは、かつての彼の進化とは違う姿。
古代日本で、“太陽”の化身とされた、漆黒の烏。
「────ヤタガラモン!」
「……なによ、なんなのよ、それ!」
いみずがヒステリックに叫ぶ。
「なんで、そんな、まるでヒーローみたいな、なんで、いつも、悠鷹ちゃんばっかり!!!」
その声が、不意に、ぞっとするほど、低くなる。
「いいよ、殺して、スプラッシュモン」
けれど、スプラッシュモンはそれに、ただ首をふっただけだった。
「え……?」
呆然とするいみず。スプラッシュモンはこちらをみて、ゆっくりと頷いた。ヤタガラモンも頷き返し、彼の爪に黒いオーラが集まっていく。
「どうして、よけて! スプラッシュモン!」
「いみず」
「うるさい! 悠鷹ちゃんは、悠鷹ちゃんばっかり! なんでいっつも、選ばれるのよ!」
「なんでだろう」
────ミカフツノカミ
ヤタガラモンの爪から放たれたエネルギーが、スプラッシュモンを貫く。その不定形の身体は衝撃を受けても水に戻るだけで、本来物理攻撃は通じない。けれど、その黒いエネルギーは、彼の身体を、水の分子よりも細かな、0と1へと分解していく。
「私たち、みんな選ばれた、主人公だったはずなのにね」
崩れ落ちるいみずをまえに、わたしは呟いた。
つばさたちが小庄司警部を呼んで、いみずは逮捕された。彼女はもう何の抵抗もしなかった。
つばさは泣かなかった。ただ茫然としていた。ちゃおはいみずの頬を一発はたいて、ぐちゃぐちゃに泣いた。
私は、何も言えなかった。
ただ、パトカーに乗せられる直前、いみずは私の方を向いた。
「ねえ、悠鷹ちゃん」
「やめて、何も聞きたくない」
「……ちがう。聞いて“アヤタカ”」
私は顔をあげた。
「太陽くんから話聞いて、私、最初、アプモンを殺したの。デジモンと似ているなら、データを取れるんじゃないかって、でも、ダメだった。アプモンのデータは、ゴツモンの身体には受け付けなかった」
「それが?」
「ちゃんと聞いて! わたし、調べたの。アプモンのデータ組成はデジモンと一緒。でも、そこには細かく、『人工のコードが刻まれていた』」
「……っ! それって……!」
すぐにその意味を察した私に、いみずは頷く。
「アプモンは自然発生したんじゃないの。人工のもの。だれか人間が、デジモンを改造して、自分たちに便利なように無理やり作り替えたもの」
「そんなのって……!」
「もしそんなことが行われているとしたら、デジモンと人の間には、深い溝が生まれちゃう。わたしたちが冒険の最後に一緒に見た、人とデジモンが深くつながれる社会も、無くなっちゃう。それどころか、人とデジモンの戦争だって起こり……」
「マチナサイ」
片言の日本語が響いた。見れば、黒服にサングラスの男たちの一団がやってきて、パトカーを囲むように立つ。そいつらの先頭に立つ男を、わたしたちは知っていた。
「アリナミン……!」
「ソノ犯罪者ノ身柄ハ、コチラで預カロウ」
「はぁ? 何言ってるんだ、そんなバカなことが」
声を荒げる小庄司警部に、アリナミン・チオビターニは一枚の書類を突きつける。それを見て、小庄司は絶句した。
「分カッタカ。コレは国家間の協定に基づく命令だ。君たちの国の警視総監も承認シテイル」
「最悪」いみずが小さく呟いた。
「国連が、デジモンの改造を進めてるんだ」
「……だとしても」小庄司警部はチオビターニを睨む。
「何の説明もなしに、いみずちゃんを渡すなんて真似はできない」
「実力行使はシタクナイ」
「脅しか、やれるものならやってみろ。俺が相手になる」
「ドクターペッパー……」
私たちを庇うように立つ小庄司に、思わず声が漏れる。けれど、その背中に、いみずが声をかけた。
「大丈夫。ドクターペッパー、わたし、平気だから」
「いみずちゃん! でも……!」
「大丈夫」
一歩前に出たいみずの腕を、チオビターニが強引につかむ。彼女の唇は青く染まり、震えている。
「大丈夫。名探偵アヤタカが、なんとかしてくれる、でしょ?」
「……! あんた……!」
「わたしとゴツモンも、出来るだけのことはする」
そう言いながら、彼女は黒い高級車へのせられる。
「だからお願い! もう一度、世界を救って!」
いみずのその声が、いつまでも耳の奥で反響していた。
「実家から連絡がきた。ツカイモン、デジタマから孵ったって」
「ルナモンも、あの子ったら、相変わらずマイペースで、もう寝ちゃったわ」
つばさとちゃおが、そう言って、私の横に座った。
「……ゴツモンが、データをくれたのね」
「ああ、きっとそうだ」
「国連が、陰でデジモンにひどいことしてるなんて、見過ごせないわ」
「ああ、そうだ。でも、俺たちに何ができる」
「何かはできるでしょう!」
「でも、警察のお偉いさんだって敵なんだぜ? 下手に動いたら握りつぶされるだけだ」
「だからって……!」
ぱん、私は手を叩いて、加速する二人の口論を止めると、立ち上がった。
「ユタカ……」
「私だって、正直知らないフリしたいよ。でも、もう選ばれちゃったから」
「やるのね?」ちゃおがにやりと唇を吊り上げる。へたくそな笑顔だ。悲しみの中で、彼女なりに無理をしているのだ。
「うん。やる」
「できるのか?」不安な顔で、つばさが尋ねる。
こういうときに、根拠もないのに確信をもってできる、と言うのが私は嫌いだ。でも、太陽ならきっとそうしただろうな、とも思う。深呼吸して口を開く。
「できるよ。でも、二人が必要、もちろんルナモンに、ツカイモンも」
私は夕日に向かって数歩歩き、ポケットから出したソフトマドロスを加えると、振り返った。
「私たちは、世界を救った子どもたち、なんだから」
(とりあえず、おわり)
Xの方でも散々騒ぎ倒したのですが、アヤタカに二話目を書いて頂きありがとうございます!
やっぱりこういう重めな世界観とマダラさんの書き方の相性は抜群ですね。真実ってそんなもんだよと私は言った。の辺りなんて逆立ちしたって私からは出てこないような語彙なので、話の流れはシリアスなのについ読みながらにこにこしてました。
Xでは散々命名が最高という話をしたのですが、全体の構成から巧みだなと思います。読み返せば読み返すほど、先にちゃんと調べてクーラ―ボックスが出ている画面を見ているし、クリスティ派であることもちゃんと言及済、しかも、ちゃんと現場に本棚がおいてある。
会話の雰囲気の良さやテンポで読ませながら、ちゃんと推理できるだけのヒントを提示して、一話で私が意味深になんか雰囲気だけで出してた世界観も拾って三話へ以降への導線も作って……ちょっと怖いぐらいですよね。
推理ものとして他の人に暗号の読み方を考えてねと投げ捨てた一話だったのに対して、赤文字や太字を効果的に使いヒント編も用意してってところもじゃあ推理してみようかなって気になれてすごく読んでて楽しかったです。
同期の子達もみんな魅力的でパートナーの進化ルートまでしっかりしていて……
本当、第二話書いて頂きありがとうございました!