幕間
「ヤッホォーホヅミ君、元気ぃ?」
「んん~? アンタよりは元気じゃねえなあ、キョウヤマじーさん」
「なんでい、若いのにだっらしねえなぁ~。まあいいや、聞いてくれよホヅミ君。セラたんの事はもう聞いた?」
「あー、ありゃひでえよ。顔面崩壊ってああいう事を言うんだろうな。見れたもんじゃないぜ。焼いて潰したなら、まだしもな?」
「おめーの方が程度は酷いけどな! ……しかし息子にも困ったもんじゃ。セラたんはウチの職員の中でもさいかわ! あんなにボコボコにされるとは、十闘士の面汚しかっこ物理かっことじるよ!」
「よく言うぜ、人間の見た目なんてこれっぽっちも気にしてないくせに」
「いや、しとるよ? ヒトにせよデジモンにせよ、美しい存在というのは、そこにいるだけで士気が上がるからのう。我が同胞にも……そうじゃなあ、古代風の闘士と古代水の闘士は、お前たち人間の感覚からしても、相当に美しい姿をしておったよ。そして古代闇の闘士――エンシェントスフィンクモンの美しさは、筆舌に尽くしがたいものがあった」
「へえ! そいつらはどのくらい好く焼けそうだった?」
「……」
「凶い凶い、冗談さ。ほら、俺とアンタじゃ美しさの基準が違うんだよ」
「あー、ごっめーん! ワシってば怖い顔してた!? すまんすまんホヅミ君。今のは忘れてくれ。……我も忘れてやるから」
「……スミマセンデシタ」
「うむ、解ればいいんじゃよ解れば! ……で? なんじゃったっけ? ああ、そうそう。セラたんとモリツ君がやられちゃったのね。流石におイタが過ぎるもんじゃから、アルボルモンに届けてもらったんじゃよ、例のボイスレター」
「そういやそんなん録ったな。……ウンノ カンナも、俺の美しい思い出を聞いてくれたかなぁ?」
「まあ間違いなく聞いたじゃろうな。ゲーゲー吐いたんじゃねーの? はっ、汚物デジモンのパートナーにはそれがお似合いじゃ」
「ん~? しかしメッセージが届いたとなると、「その後」ももちろん、入ってるんだよな?」
「あれね、コウキにあの女を殺して来いっていう」
「……嫌だなぁ。それは好くないなぁ。せっかく運命に惹かれた恋人同士だったんだから、最期は俺が燃やしてやらないと、可愛そうじゃないかキョウヤマじーさん」
「あー、それは心配いらんぞホヅミ君。ほら、もう1日経ったけど、あいつ、帰って来とらんじゃろ? 残念、夏休みに浮かれる幼心なんてワシ、あいつにやってないんじゃよね。殺す気があるならもう昨日の夜の時点でワシの手元にピンク髪届いとるし、そうでなくても帰ってくる気があるなら、今日の昼くらいには戻って来とったじゃろうな」
「という事は?」
「性懲りも無く、ウンノ カンナに協力する道を選んだのじゃろう。返り討ちにされたという線も無いでは無いが……いや、無いな。単純な逃亡に関しては、デジタルワールドでならともかく、リアルワールドでならコウキの方がワシより上手い。ウンノ カンナの殺害に失敗しての逃亡なら、あいつは迷わず「勝てない」とワシに報告に来る。誠実ではないが正直ではあるワシの性質を、悲しいほどに継いどるからなぁ」
「という事は、という事は! ウンノ カンナは死んでないんだなキョウヤマじーさん!」
「その可能性が高いじゃろう」
「じゃあ俺が焼く! 俺が焼くからな!? 前みたいにハタシマに行かせるのはナシだかんな!?」
「ワシも約束しちまったから、1ヶ月はお預けじゃぞ? ……その後は、好きにするが良い。ハタシマ君は他に獲物が出来たみたいじゃし、ウンノ カンナは、お前のものじゃ」
「やったね! ウンノ カンナもクリバラ センキチと同じように、左腕だけ残して好く焼いてやるんだ! いや、その前にパートナーだ。クロンデジゾイドは、チーズみたいに溶けるのかな? 楽しみだな、楽しみだなぁ。最後はあのピンク色の髪に一気に火を点けて、花火みたいに焼いてやるんだ……!」
「わー、たのしそー。焼肉パーリィじゃのー」
「キョウヤマじーさんも一緒にどうだ!? 日頃の感謝の気持ちを込めて、特大の炎を披露するぜ?」
「全力でのーさんきゅー。……ワシからの話は以上じゃ。さっきも言ったが、この1ヶ月は大人しくしとるんじゃぞ?」
「了解! へへ、待ち遠しいぜ」
*
「イヤッホォー! セラたん! 元気無いのは知ってる!」
「う、うううう……!」
「きょ、キョウヤマ博士、あまり大声では……」
「あー、すまんすまん。あ、モリツ君はそこそこ元気そうね。鼻が残念な事になっちゃってるけど、ビジュアル面ではセラたん程のダメージは無いじゃろう?」
「単純にとても痛い」
「命とヒューマンスピリットを取られんかっただけマシじゃったと思っとけ。条件によっては最悪今頃行方不明者のリスト入り――ああ、お前らはもう入ってるんじゃっけか。ワシとしたことが、忘れとったわ」
「この命と力はキョウヤマ博士に新たに授けられたもの。その点に関して、俺は感謝している」
「いい子じゃなぁモリツ君は。ワシの息子にも見習わせたいくらいじゃ」
「う、うう、ううううう……!」
「! セラ、落ち着――」
「殺す……殺す殺す殺す……! メルキューレモンの奴、あたしを散々虚仮にしやがって……! 殺してやる……!!」
「はいはい、出来もしない事を軽々しく言うんじゃありません。スピリット両方とられちゃってもおー」
「う、うう……」
「でもほら、そう落ち込みなさんな! 代わりの力は用意してあげるから、ね? セラたん」
「!」
「あ、でもコウキを殺すのは無しね。それは困るから」
「そんな――」
「代わりにさぁ、ほら、本当に玩具にするつもりだった方で、遊んでいいから」
「……!」
「それに、殺しちゃダメじゃけど、それ以外の事をしちゃダメとは言っとらんし? そこは自己判断で頼むよぉセラたん。……出来る事なら、コウキの目の前で殺してやれ。どぉ?」
「……」
「そうかそうか! しかしまずはある程度身体をね? もう少し良くなったら力は提供してやるから、その時まで、お楽しみに~」
「……わかった」
「じゃあお前も怪我してるところ悪いけど、セラたんの看病は頼むよモリツ君」
「了解した」
「じゃ~あのぉ~う」
*
「……さて。2人に釘は刺したし、カドマ君はもう行かせたし……あとはセラたん改造計画の準備と――」
「キョウヤマ博士」
「ワォ! びっくりした! んもう、いきなり出てこないでよハタシマ君! スピリットのせいで虫属性がついてるのは解るけど、ゴキブリロールプレイとか誰得じゃよ!?」
「出立前のカドマに聞いた。……奴との再戦は、1ヶ月後という事でいいのか」
「お? 耳が早いのうハタシマ君。ふん、そうは言うても、まともにやり合う気など無いクセに」
「……」
「かぁ~わいそうにのぉ~、あの娘らも! ウンノ カンナと関わったばっかりに!」
「……」
「ちょっとは受け答えしてよぉハタシマ君」
「キョウヤマ博士。何故そう鋼の闘士にこだわる。1ヶ月も待つ必要など、無いのだろう」
「うん、お前のその、自分の気になってる事だけ積極的に聞いていくスタイル、別に好きでも嫌いでもない」
「……」
「コウキにこだわる理由? ……人間であるお前に、わざわざ答える義理はないんじゃが……まあ、ハタシマ君は人にぺらぺら言いふらすタイプじゃないし、ちょこっとだけ、教えてやるよ」
「……」
「強いて言うなら――許せんのじゃよ。奴の戦力が必要だとか、ワシ自身の後継機じゃから愛着があるとか、そういうのは、全く、無い。……ホメオスタシスの介入があったとはいえ、ワシの遺骸が、ワシ自身がワシに逆らう不快感! そしてそれを理解できてしまう不愉快さ! ……許せぬ。許すわけにはいかぬ。それでは我が同胞が浮かばれぬ……!」
「……」
「故に、奴の事は折る。もう二度と逆らえぬほど、徹底的に折らねばならん。そのために――しばらくは猶予を与えてやるのだ。「1ヶ月あったのに、何もできなかった」。そうやって、完全に屈服させる。仮初の家族として与えたあの娘も、あやつの協力者となったあの女も、最後には奪い取ってやる。そうして、奴に教えてやるのだ。お前さんは、デジタルワールドの守護者でも何でもなく、我らの遺志を継ぐ道具なのじゃよ、と」
「そうか。つまり俺は、あんたのワガママのせいで待たされるのか」
「……。お前、ほんと酷い奴じゃのう。お前らに好き放題させる代わりにこっちの要望はちゃんと聞くってのがワシとの約束じゃろう?」
「約束は守る。だが、待たされて良い気分はしないとは伝える」
「どっこまでも自分に正直じゃのう。……流石にテロリストやってただけはある」
「……」
「まあワシは、お前のそういうところを評価してはいる。頼むよぉ? ハタシマ君。待たせちまうのは悪いと思うが――その分、好きにやっておくれ」
「言われなくてもそうさせてもらう」
「そうかい」
「ヴァンデモンは、俺が殺す」
*
「さて」
「対戦カードはだいたい組み終わったかのう」
「あとはカドマ君がどうなるか……あるいは、なったかじゃが」
「まあ、それはそんなに、関係無い、か」
「……ふっ」
「「待たされて良い気分はしない」、か」
「随分と、待たせてしまったが――あと1ヶ月」
「数千年の内の1ヶ月」
「後はそれだけの辛抱じゃ、我が同胞達よ」
「あとそれだけで――」
「『ユミル計画』は、実を結ぶ」