「ボクの贈る『対価』が少しでも君の抱えている『憂い』を取りはらえればいいな」
ヘクセブラウモンは軽く顔を傾けて微笑みながら、デュナスモンの方に目を向ける
「どういうことだ?」
「言い方を変えれば『君が愛した者』達のこれからの行く末を【視た】ボクからそれぞれに一つ贈り物をしようってことだね」
そんなことが可能なのか?―そうデュナスモンが尋ねる
ヘクセブラウモンは続ける
「可能だよ。やれることは限られているけれどね」
驚いている客人を余所に、ヘクセブラウモンは準備に取り掛かり始めた。少し顎を天に向けて傾け、そっと目を刹那閉じる。そしてゆっくりと開く。その僅かな時間で一体どれだけのモノを【視た】のかデュナスモンには想像も出来なかっただろう。そんな中、ヘクセブラウモンが語り始める
〇夏Pさんへの返信〇
これはいつもお世話になってますー!
そうなんです、ここら辺りは更新速度が自分ですごいなって思ってまして(笑)
た、確かに希少なデジモンがそれくらい居ればもうそこはドラゴンズロアといってもいいですね! それぞれの道という点と、燃え上がる~の所はニヤリとして頂いたようでガッツポーズですね☆
今回の作品ではこうがっちり倒しあったりというのがないのもコンセプトの一つでした。そこも感じていただけるとは感謝感激です。
そう、残滓……
いつも感想ありがとうございました!
8話まで読ませて頂きました、夏P(ナッピー)です。
というか投稿スピード早ッ!
かつてのデュナスモンの村はドラゴンズロアと言うべきなのかというぐらい希少なドラモンが多いようで。ブイドラモン兄弟にそれぞれ別の道が与えられたのはなかなか興味深かったです。燃え上がる勇気ととどろく友情には思わずニヤリ。デジモンと言えば基本的に戦って殺されての凄惨なイメージが強いですが、作品全体を通して(凄惨な世界を描写しつつも)2体の理性あるデジモンによる対話という形で話が進んでいくのはなかなかに新鮮で興味深く思います。
友って……目の前にいるのは飽く迄も残滓なのに……。
また近々、最終話まで感想を書かせて頂きます。
※あとがき※
どうも、おでんなドルモンです! はい、第八話になります!
ヘクセブラウモンがそれぞれに贈った対価、色々ありましたね。
そして二体の中に生まれた何かは形となって永久に―
対価は支払うもの、ですが今作では贈るという表現にしてます
作者の趣味というか性癖というかあれですね笑
さてそれでは次回第九話でお会いしましょう ではでは~
「ねえ、デュナスモン……白き竜の君よ」
なんだ?―立ち上がりこちらに声をかける者を見上げ、微かな笑みを添えながらデュナスモンは問う
「ボクから一つお願いを聞いて欲しいのだけれどね」
「ああ、なんでも言ってくれ」
うん、ありがとう―そう言いながら続きの言葉を語る
「ヘクセブラウモンとしての、そして『青の魔法使い』のボクにとっての『最初の友』になってはくれないだろうか」
椅子に腰をかけていたデュナスモンに向けてそっと右手が伸ばされる
それを見てデュナスモンは言葉をかける
「オレにお前の願いを断る理由などないだろう」
そしてヘクセブラウモン同様、腰かけた椅子から立ち上がりテーブルの横で片膝をつく。それは騎士である者の矜持とでもいうのだろうか。そして―誓いの言葉が交わされる
「我は白き竜、名をデュナスモン。青の魔法使いの友であることを此処に誓おう……永久に―」
騎士の誓いを目の当たりにしたヘクセブラウモンは瞳を一度細め、そしてしっかりと見開き感謝の言葉を口にした
「ありがとう、デュナスモン」
それはこちらの台詞だ―そういうような眼差しをデュナスモンは相手に向けていた。そして立ち上がり、遠回しに伸ばされていたかつて自分が願ったことへの返答を求めたのだった。その表情はまさしく騎士のものだった
「我が友よ、そろそろ『答え』を聞かせて欲しい」
「ああ、そうだね。その時が来たようだ……それじゃあ、ボクの『答え』を今ここに示そう―」
次回「青の魔法使いと白き竜」
「……ヘクセブラウモン、さっきエアロブイドラモンの姿になってわかったことがある。……この空間は『仮想の世界』なのだな」
浮かべていた笑みは自然になくなっていき、落ち着いたであろうタイミングでデュナスモンの言葉をヘクセブラウモンは耳にする。そして、また凛とした雰囲気を出してその返答に応える
「よく気づいたね……ああ、そうだよ。ここは現実の世界じゃない。ボクが作り出した意識領域のデータだけで会話を可能にした仮想世界さ」
先程までとは異なる、ひりつくような雰囲気が漂っていた。切り出したのはヘクセブラウモンだった。一連のことを説明するためだ。
「今の君はデクスと化したモノのデジコアからボクがサルベージし、この空間につれてきた『デュナスモンの意識の残滓』だ。―今にも消えそうなくらい小さく弱いデータの欠片だよ。……すまないね、黙っていて」
デュナスモンは間髪いれずに首を左右にゆっくりと振る
「いや、礼をいうのはこちらだ。これまでの時間を作ってくれたのはお前だ。そしてその時間ももう終わりが近づいている……そうだろう?」
「ああ、もう時間はそんなに残されてないね」
そう言ってヘクセブラウモンは立ち上がり、それと同時に先ほどまで掛けていた椅子が消えていく。そしてデュナスモンの近くへゆっくりと歩いていく。そして言葉を紡ぐ
「魔法……そうか、魔法!それはとても良いねっ!確かにボクも自分の力のことを『高級プログラム言語による事象への干渉』、なんて言葉で認識しているのは格好悪いと思っていたんだよね」
うんうん、と自分で相槌を打ちながら何かを考えている素振りをみせた
考えがまとまったのか、勢いよく口を開いた
「ならボクの呼称は『青の魔法使い』っていうのはどうだろう。似会うかな?」
瞳を輝かせた子供のようにデュナスモンに聞いてくるその様子をみて微笑ましかったのだろうか。含み笑いをしながらデュナスモンがその提案に同意していた
「ああ、よく似合っているよ」
そうだよね―自分の身体の前で両手を合わせながらヘクセブラウモンは上機嫌とばかりに喜んでいた。しばしテーブル上で談笑がなされていた。そしてそれが落ち着いた頃だっただろうか。姿勢を正したデュナスモンが口を開く
「これでボクから贈る対価は全てだよ。あとはそれぞれの想いや行動次第だから、見守るとしようか」
「本当に感謝している、ヘクセブラウモン」
ただただ、デュナスモンは感謝の言葉を口にしていた。その言葉を向けられた者は微かに首を左右に振る
「いいんだよ、『対価』っていうのは自分が貰ったモノと同等でなければいけないからね。それだけのモノをボクは君から貰ったということだよ」
感謝しつつ、デュナスモンは今自分の目の前でヘクセブラウモンが行った行為、行動、事象について深く考察していた。だが、それをどう表現していいのかはわからないようだった。しかし、ふと過去に耳にした言葉が口から自然に出てきたのだった
「それにしてもやはりすごいな……まるで『魔法』のようだった」
デュナスモンの放った一言に反応した際に青い鎧から音が響く。興味があるという確固たる声色で尋ねてきた
「……魔法?」
尋ねられたデュナスモンはその『魔法』という言葉を聞いた経緯を語り出した
「以前デュークモンが言っていたんだ。何でもリアルワールドで人間に読んでもらった本に記載されていた言葉らしい。それを題材にしたゲームというものもあったと言っていたな。総じて、ありえないようなことが起きるといったような力だそうだ」
デュナスモンの話を聞いていたヘクセブラウモンは最初よりも興奮した息遣いをしていた。まるで欲しかったおもちゃを手に入れた子供のような反応だった
「ボクが一時的に君をそのデジモンの意識領域に送る。そこで渡せばいい。そうすれば『翼』はその者に委ねられる」
ちなみに君が元のデジタルワールドで一番信頼していたのは誰かな?―そう言葉が続く。デュナスモンは考えることもせず、口を開いた
「組織の長であるゴッドドラモンだ。入隊した頃からの縁だった。渡すとすれば奴以外にいないだろうな」
「なら今から君を少しの間だけれど、ゴッドドラモンの意識領域へと送る。本当に僅かな時間だけれど、事を成すには十分な時間だと思う」
「ああ、わかった」
ヘクセブラウモンがゆっくりと右腕の掌をデュナスモンに向ける。同時に優しい声で目を閉じるように促した。もはや疑いなど持ちはしないデュナスモンはそれに従い静かに目を閉じる。次の瞬間、エアロブイドラモンとなったデュナスモンの姿が光となって消える。
―そしてしばらくの後、気づくと対面した椅子にデュナスモンがいつの間にか腰かけていた。その表情に驚きなどなく、ただ穏やかな表情と雰囲気を纏っていた―
「渡せたようだね」
「ああ、言葉も交わせた。色々と小言を言われたよ」
バツが悪いようにデュナスモンが語る。それを見て、ヘクセブラウモンも微笑を浮かべる
「それはよかった。それじゃあ、これで彼の仔の目が醒めることを期待しよう。」
「ああ、そうだな。きっと上手くいくだろう……」
そうだね、と相槌が打たれる。しばらくの余韻の後、ヘクセブラウモンが言葉を紡ぐ
「そして最後は君を慕ってくれていたというウイングドラモンに。彼は今、失意の底に沈み空を見上げることを忘れてしまっている」
「……そうか。そうだろうな」
あれほど慕っていたウイングドラモンのことだ、恨まれているのだろうなという想定は出来ていた様子でデュナスモンは深く息をつきヘクセブラウモンの方を向き直す
「だが、それは彼自身にも問題がある。君だけが原因ではないのさ。盲目になってしまった彼の目を醒まさせる必要がある。それには必要なモノがある」
必要なもの―軽く頭をデュナスモンが傾げる
「君がかつてエアロブイドラモンであった時に携えていた『翼』だよ。憧れに執着しすぎた迷い仔はずっと駄々をこねて生きていくしかない。だからその目は誰かが醒まさなければいけない。そして彼自身もそれに自ら気づかなければいけないからね。少々痛みを伴う荒療治になるだろうけど……きっとその子にはそれが一番効くと思うんだ」
微笑を浮かべながらヘクセブラウモンは見覚えのある仕草をしてみせる。そう、右手の中指と親指をパチンと鳴らしたのだった。するとデュナスモンの姿が一瞬でエアロブイドラモンの姿に変わっていた。これには驚いたようでデュナスモン……いや今はエアロブイドラモンなのだが狼狽している様子を見せていた。思えば、最初もこんな場面があったような気がするね―そうヘクセブラウモンは口に片手を当てながら笑っていた
「……ちゃんと説明してくれ」
流石に説明不足なことは否めないね、そうヘクセブラウモンは詫びの言葉のような一言を口にしてまた本題へと移る
「『翼』は君が元いた世界で一番信頼している者に手渡すことで、ある『プログラム』に変化する。それをきたるべき時まで保管してもらって欲しいんだ」
手渡す、という言葉を聞いてデュナスモンが刹那で言葉を返してきた
「渡すといってもオレはもう元の世界に戻ることは出来ないのだが……」
ああ、それも説明するね―ヘクセブラウモンが続ける
「さて次はブイモンだね。確かに彼の仔は成長期以降に進化する因子が欠落しているね。そのことで悩み苦しみ、自分の生まれてきた意味さえこのままでは見失ってしまう未来が【視えた】」
「では、どうしたらいい?」
デュナスモンの言葉にふっと笑顔でヘクセブラウモンは返す
「大丈夫。彼の仔の『心の強さ』は他の誰よりも本来は強い。ならば、その支えになる『心』を贈ろうと思う」
「『心』……?」
「ああ、そうさ。デュナスモン、君の心は誰よりも強い。そして一際輝いているモノがその心の中に二つ【視えて】いるんだよ」
「それは……一体」
「それはね。愚かだという己と向き合う『勇気』、そして友を想う『友情』の心だ。ボクは君のその二つの心を実体化させた『器』を二つ、彼の仔の手に渡るようにしよう」
対面しているデュナスモンの方へ差し出されたヘクセブラウモンの右手に赤い炎が、左手には青い雷が現れる
「だが彼の仔がそれを真に受け継ぐための道のりは遠く険しい。辿りつけるかは、まだわからない。だが、そこに至った時それまでに培われた彼の心に芽生えた想いがきっと大切な者達を護る力へと繋がるだろう」
デュナスモンはああ、そうだな―と静かに頷いた
「燃え上がる勇気と轟きし友情の光が黄金へと至りますように―」
先程と同じように、そして呟く言葉はまるで祝詞のようだった。二つの『心の器』はらせんをえがくように天へと昇っていき、そして消えた。それを見送ると三度ヘクセブラウモンは言葉を続ける
「まずブイドラモンだね。……彼はこの先、自分の運命の袋小路に迷い込む。それはどんなに足掻こうと決して抜け出せない迷路だ。苦しみの末に彼は闇の中に囚われてしまうかもしれない」
その事実を聞いたデュナスモンは声を刹那失いかけたように見えた。だが、ヘクセブラウモンの語ることを聞くために己を奮い立たせているのだろうか。テーブルに掛けた手に力が入る
「だからボクは彼の仔に『新しい可能性』を贈ろう」
「新しい可能性……?」
「この先、迷い込むであろう苦しみの迷路から抜け出せる一つの可能性さ」
ヘクセブラウモンが両手を前にそっとひろげると大きな光の球体が現れる。ソレはとても綺麗な淡い光を纏い、ゆっくりと浮かび続けていた
「でもボクは可能性を与えるだけ。それを掴めるかはこの先の彼にかかっている。将来彼には沢山の仲間が出来る。その仲間達とならきっとボクが贈る可能性に辿りついてくれるだろう。そうボクは信じている。だからデュナスモン、君も信じていて欲しい」
球体をもった両手がテーブルに乗せられる。それによって両者の顔が見えるようになる。互いの目が合い、意志が疎通したのかデュナスモンには安堵の表情が浮かんでいた
「ああ、わかった。信じよう―その可能性を」
「彼の仔の未来に無限の可能性がありますように―」
ヘクセブラウモンが一言呟くと、その光の球体は意志を持ったかのように両手を離れゆっくりと天へと昇って行く。二体がそれを追うように目で追っていく。ある程度の高さになるとどこかの次元へと消えたのだろう。球体の姿はなくなったのだった。それを確認するとヘクセブラウモンはまた語りだす