ヘクセブラウモンの言葉にデュナスモンはゆっくりと、そして深く頷いた―
「そうだ、オレはお前の言うとおり『自らの死』を願っている。今のオレはデクスの因子に飲み込まれ、もはや【デクス】そのものに成り果てた。そんな状態になってしまってはもうその願いを自ら叶えることは出来ない……」
デュナスモンは言葉を続ける
「本来であれば我が主であるイグドラシルに処断を下して頂きたかったが、未だ我が主は沈黙したままだ。そして【捕食者】となって幾多の世界を彷徨っても『粛清』という命を受けた他のロイヤルナイツでさえ誰も現れなかった……我が主には何か深いお考えがあるのだろう、そう思ったオレは残った自分のデータ領域を使って内部から出来る限りの信号を送り【デクス】の因子へと働きかけることにしたのだ」
黙って聞いていたヘクセブラウモンが一言口を開いた
「……どういうことかな?」
「我が主も、そしてロイヤルナイツにも自らの『粛清』を望めないというのなら『オレよりも力を持つ者と戦い、命を奪ってもらう他ない』とオレは考えた……【デクス】の因子に働きかけることで奴の干渉する箱庭に条件を追加することに何とか成功した。【強きデジコアを多く有する世界に干渉する】というものだ。だが、終ぞオレの命を奪えるデジモンに会えはしなかった―」
やれやれ―そういった素振りを見せながら再び言葉は返された
※あとがき※
はい、こんにちわこんばんわ おでんなドルモンです!さて第六話となりました。物語はいよいよ中盤から終盤にかけてといったところに差し掛かっているとかいないとか。今回は二つ目までの問い、そしてヘクセブラウモンが特異点として『視た』事実などを踏まえてのデュナスモンの抱える願いについてのお話になってますね。その中でみえてくる両者の動きなども文章の中から読み取って頂けるとちょっと更に(?)お話が面白くなるのかなーなんて思っているボクです。
さて七話ではデュナスモンから何が語られるのでしょうか。では次回またお会いしましょ~
ヘクセブラウモンの度々の切り替えしに我慢できずにデュナスモンが声を荒げる
「そんなもの、ここまで来て最早意味などないだろう!?」
そんな声に動じずに対面した青い鎧の主は言葉を発した
「意味があるか、ないかはボクが決めることであって君じゃあない。それに自分の望みは無理を通そうとしておいて、相手側を無視するなんて野暮なことを主に仕える騎士様はしないだろう?」
「―っ! ……わかった」
飄々とした言葉を受けて冷静になったのか、静かに了承の意の言葉をデュナスモンは返す
「何度も上げた腰を戻してもらって申し訳ないね、ありがとう。君が真面目な性格で良かったよ」
軽く笑いながらヘクセブラウモンは続ける。思う所があるデュナスモンはむくれたような雰囲気を出していた。どうも相手はまともに応じる気がないのではないか、そんな気さえするような不完全な燃え方をして『ばつ』が悪くなっているデュナスモンであった。それを余所にヘクセブラウモンは三度同じ姿勢を取りながら口を開くのだった
「さてさて、ではボクからの三つ目の問いだよ―デュナスモン、『君にやり残したことはあるかい?』
次回「三つ目の問い」
しばらくの間の後、ため息と共にヘクセブラウモンは自分の右手をじっと見つめ言葉を漏らすように発した
「『デジモン』というモノは……なんて儚いんだろうね」
「ヘクセブラウモン……?」
そんな様子の彼の者に客人から声がかけられた。すると先程までの雰囲気が嘘のように、ヘクセブラウモンは飄々とデュナスモンに言葉をかけてきた
「はぁ……取りあえず君の『願い』はわかった。どうするかは、ひとまず『保留』にしておこうか」
「どういうことだ? 出来るというのなら今すぐにでも―」
「やれやれ、相変わらず気が早いな君は。確かに客人のいう事には耳を傾けるのは大事なことだ。でもね、ボクからの『問い』はまだ終わっていないんだよ、デュナスモン。タイミングはずれてしまったけれど、これがボクからの『最後の問い』になる」
―ブルコモン……私……まだ死にたくないよ……もっとブルコモンといっしょに―
忘れかけていた言葉がヘクセブラウモンの脳裏に浮かんできていた。深い、深い、場所から―
「ヘクセブラウモン、お前はオレを裁く者は現れないと言ったな」
ああ、言ったね―呆れるほどのことを言ってのけた客人を見ながらヘクセブラウモンが応えた。
「『特異点』であるお前ならば、オレを……いや【捕食者】である邪まな竜をこの世界から消し去ることが出来るのではないか?」
再び青い鎧が音を鳴らす。先ほどまでの呆れたような表情はどこかへ去り―ああ、やはりそうなるのか―そういった表情がデュナスモンに向けられた
「……つまり『ボクに君を殺せ』―そう言いたいということであっているかな?」
刹那、二体の両の瞳の朱が交わるように見つめ合う―
「ああ、そうだ」
デュナスモンの言葉に、三度呆れたような仕草をヘクセブラウモンはとりながら返した
「ボクは理解に苦しむよ……どうしてそんなことが言えるのか……わからないよ」
その返しにすぐ言葉がついてきた。静かに、そして力強く―
「……オレはただ、『デジモン』として自分の『生』を終わらせたいんだ」
その言葉を語る瞳は炎のように揺れて見えていたのだろうか。ヘクセブラウモンの青い鎧から先ほどよりも大きな音が響いたのだった。
「いや……それが事実ならオレは受け入れよう」
その時ヘクセブラウモンが微動し、鎧同士が重なって出来た音が微かに響く。そして組んだ両手の上に顎を当てるように前傾になりながら言葉をかけた
「……どうしてそう言えるんだい?」
「我が主が決めたことだ。オレはロイヤルナイツとしてそれに従おう」
「ここまで話せばわかるだろう?君が空けた席にはいずれ『誰か』が代わりになって座るんだよ? それでも君はまだイグドラシルのことを主と言うのかい?」
言葉の投げかけは続けられた。そこまで聞いたデュナスモンは上体を起こして曇りの無い瞳で相手をじっと見つめながら口を開いた
「一度騎士の誓いを立てたのだ……それが最後となったとしてもロイヤルナイツであるデュナスモンは主の剣であろう」
その言葉を聞いてしばらく見つめ合った後に勢いをつけてヘクセブラウモンは再び背もたれに背中をつけて頭に軽く左手を乗せ、天を仰ぐような仕草を見せた
「これだけ言っても、意志は変わらない……か。本当に君は真っ直ぐすぎるよ、それに頑固……いや傲慢に近いね」
それがオレというデジモンだからな―そうデュナスモンは返し、さらに続けて言葉を掛けてきた
「君が主と呼ぶイグドラシルは『X抗体』がデジモンの感情によって【デクス】の存在を己の中に発現させたレアケースである―デュナスモン、君を新たな調査、監視対象に指定したからさ」
「……!」
「つまりイグドラシルは君の為に動くようなことはない。そして君以外のロイヤルナイツへは君への接触・戦闘その他全てを禁止事項としている。だから一体たりとも君の前には現れないというわけさ。―これがボクの【視た】事実だよ」
テーブルに両腕をつき、デュナスモンの上半身は力が抜けたかのように前よりに傾く。そして小さく声が漏れた
「そういう……ことだったのか―」
デュナスモンとは反対に椅子の背にもたれるように上半身を起こしたヘクセブラウモンはテーブルに両肘をついて丁度体の前で両手を組みながら相手に視線を向けながら呆れたような声をかける
「もはや『冷たい』の度を越しているね、これは。主に君ほど忠実だった騎士は恐らくいないだろうと思う程なのに、さ―」
だが、返ってきた言葉には動揺というものは感じられなかった
「君のその行動によって多くの箱庭にいる強いデジモン達が、強く生きようとしていたデジモン達が犠牲になることは考えなかったのかい?【捕食者】に敗れるということはその箱庭には『死』しか残らない。災いとして現れた【ソレ】に勝利することが出来なければ死ぬ、そんな死神を君は生み出してしまったのだよ?」
「罪を犯したことは承知している……だが、そこまで事が大きくなれば―我が主も沈黙を止め、オレを『粛清』の対象としてロイヤルナイツに命を授けてくれる……オレはそれに賭けるしかなかったのだ……」
デュナスモンの言葉を受けたヘクセブラウモンは大きく呆れとも取れる溜息を吐く。そして一度両の瞳を閉じる。刹那の後に閉じていた瞳を開き、自身が【視た】モノをデュナスモンに語った
「残念だけれど、幾ら世界に死をまき散らしても、君を裁く者は現れてはくれないよ」
はっとしたように鎧の音が響き、デュナスモンがこちらを見つめる―それはどういう意味かという問いと共に―