《前回までのあらすじ》
不死王グランドラクモンに誘拐されたピコを救出し心身ともに弱ったところを何者かによって本体アポカリモンがやられてしまう
この世界は光と闇に分かれている
生まれた瞬間俺はこう思ったのさ
全部なくなってしまえばいいのにってな
何故差別する?
何故切り捨てられる?
平等を求めてるくせに消費され忘れ去られていく生き物が多いというのに
いっそのこと誰かがこの連鎖を止めないといけない
俺の名は███モン、今はケラモンと名乗ろう
現在、成長期デジモンにしてはあまりにも邪悪なオーラに溢れ生まれた瞬間から世界を恨む為に生まれたデジモン
何処かの誰かさんが世界を滅ぼさず責任放棄しているから俺は生まれた、いわばこの世界の真の破壊者、それが俺ケラモンこと███モンだ。
「ムカつくんだよなぁ…世界を無にする力があるのに世界平和だの死ぬ方法を探すだの偽善者ぶりやがって」
ぐちゃり、とウイルスをたっぷり仕込んだ邪悪な触手型の剣を深く、意識を失っているアポカリモンに何度も何度も突き刺す
構成したデータを破壊し消し去る『イレイズシックル』この技を使ってアポカリモンの体を何度も即死状態にしながら洗脳ウイルスを流し込み続けている
しかし流石終焉の王だ、即死技を毎秒食らっても再生が早すぎて消滅しないとは恐れ入った
お陰で更に強いウイルスを作らねばいづれにしても抗体ができてしまう
だが次第に効かなくなってくるだろうよ
例えば肉体は無限に再生しても精神は確実に削っている
廃人になれさえすればアポカリモンの体は思うがまま操れる、だからずっと監視しその機会を伺っていた
なのにコイツは何万年も正気を保った状態で怨念を受け入れ続けながら生きていやがる、なんて変態なんだ
そんな中、俺はある一つの計画を立てた
アポカリモンの精神を手っ取り早く廃人にする方法だ
生き物は誰しも心を許せる者、安心して生活出来ることを願う、例えどんな悪であろうと"こんな自分でも受け入れてくれる特別な存在" が現れればその分裏切られた瞬間の心のダメージはデカイ
だから俺は"現れるのをずっと待っていた"
それがまさかよりによってコイツ、ピコとは恐れ入ったよ
「人生何が起きるか分からんな」
触手を用いてアポカリモンの精神に接続する
本体を乗っ取り彼の核に触れようとすると辛うじて意識を取り戻したアポカリモンが必死の抵抗をしている
やつの精神世界はこの世の地獄を再現したような場所だ
底に溜まる怨念が常にアポカリモンの中で耳障りな声を粗げ群衆のように溢れかえっている
ケラモンの足元から、ごぽりと顔と体のみ形作られた精神世界のアポカリモンが現れる
「おま…え、何故こんなことを…?」
「何故って?ハハハッ!地獄を誰よりも理解しているアンタが己自身の使命をまっとうしないのが悪いんだぜ」
「黙れ!!ここまでするとは、余程消滅したいようだな」
ブシュブシュと今なお即死技を喰らいながら精神世界のアポカリモンは平然とケラモンに話しかけている
これがどんなに異常なことか
はぁーありえねぇ
常人ならあまりの激痛で体が起きることすら不可能なのに。考えてみればアポカリモンはこんな苦痛、常時の範囲なのだろう
「かれこれ一時間は即死食らっててまだ気力残ってるのかよ!これは一筋縄ではいかないな」
「命が欲しければすぐに我の体から出ていけ!」
周囲からアポカリモンの巨大な手が出現しケラモンを捕らえる
そのまま握り潰せばたちまち"死んでしまう"
「ひぃっ!!た、頼む!命だけは、助けてくれ!!!」
アポカリモンの手の中で潰される恐怖で怯えだし見苦しくも命乞いをする
「愚かな、そもそも我とやり合うなどハナから間違いであったのだ!我はなんびとたりとも誰の支配もされない」
ギチィと手に力が入る
ぐぇ…締め付けられる
後ほんの少しすれば体は崩れてしまうだろう
だがケラモンには秘策があった
「そうか…それならさ…」
お前が愛したピコデビモンの姿になってもそのセリフ言える?
「なに?」
ケラモンの形がアポカリモンがこよなく愛する愛嬌あるピコデビモンに変化する
「っ!」
ここは精神世界
肉体がない分本人が思い描いた通りの姿になれる
コイツは偽物と頭で理解してた、認識もしてた
ところが、今のアポカリモンにとってピコはかけがえのないもの存在、唯一無二の心の拠り所となっていた、いや、"成ってしまった"
まさかこんなに熟愛していたとは本人も無自覚であった
だからなのだろう、最初に考えたことはピコを抱きしめたい穏やかな気持ちになった
一瞬警戒も緊張も解かれ、手に納まっていたケラモンが素早く抜け出す
「あ」
隙が出来た瞬間をケラモンは自身の腕を鋭い針に変化させ、アポカリモンの脳に位置する部分に幻覚症状を引き起こすウイルスをズブリと突き刺す
データを破壊し、二度と復元出来ぬよう全て"無"にする
「あ゛あっ!!!」
精神体であるアポカリモンの体は激しく痙攣し、やがてクタリと意識を失う
「やった、ついに…アポカリモンを手中に!」
ケラモンは口から暗黒の糸を吐き出す
操り人形の様にアポカリモンの体の隅々に糸を繋げると、指の動きに合わせてダラリとしたアポカリモンの腕が同じ様に動き出す
おお!アポカリモンの体を指先一つで動かせる!
思い通りにできる!そして何より…この体はなんて強く、美しい体のだろう
終焉の王の肉体、こんなにも俺と相性が良い、そして何より魂が馴染む
なんて晴れやかな気分なのだろう、こんな気持ち生まれて初めてた
「ああ…これで、ようやくこの世界をぶっ壊せるんだ!!!そうだ!まずはあの忌々しい人間世界から消してやろう、ケケケ」
不気味な笑みで高笑いするケラモン
早速操るアポカリモンの体を使ってゲートを開きデジタルワールドへ侵攻を開始しようとしたその時!
「うお!?なんだこれ!!」
アポカリモンの全身を覆うほど巨大な魔法陣が現れ、檻のように周囲を囲み、内部からも外部からも全て遮断され閉じ込められてしまう
これは封印の結界。アポカリモンがいつか自分自身の身に何かあった時に備えて置いた自殺装置
この檻の中ではなんびとたりとも傷をつけることも出入りすることも出来ず、例えアポカリモンの自滅技『グランデスビックバン』を発動してもこの封印の檻の中でなら外部に影響が無い、誰にも迷惑がかからない、いつでも消滅しても良い用にとずっと残しておいた唯一彼が救われる希望の装置
出られぬことを悟ったケラモンの体がピタリと動かなくなる
「あー、こりゃまいったな。こいつ、保険かけてたのかよ」
アポカリモン自身がもしも洗脳された時に備えて置いたトラップか…
封印の檻の中は時間と空間が曖昧な動きをしている。恐らくこれはクロックモンの対象の時を遅くする技と防御力が高いデジモンたちの遺伝子が何億もの束ねられた代物
そう簡単に破れる結界ではないことは確かだ
「詰んだー!…つっても時間はある限りまぁなんとかできるだろう」
かなりの時間はかかるがどちらにせよ脱出は可能だ
その時ついにこの世界は終わるのだ
寧ろ無性にわくわくする
生きているという実感が湧いてくる
ああ、楽しみだ、たのしみだなぁ
ニチャリと不気味に笑を零すケラモンの皮を被ったソレはアポカリモンの負のデータを吸収し肥大化させる
そしてケラモンは██モンに進化し、精神世界を禍々しいオーラで満たす
「さぁ…終焉を奏でようではないか!」
デジタルワールド全体が不吉な空に覆われ、ビュービューと冷たい風が吹き荒れる
更に常に天候が悪いここダークエリアにもその影響を受けていた
ロイヤルナイツや七大魔王、様々な強者たち、守護者、管理者たちが警戒している中、遥か天空に飛翔し続ける不死王グランドラクモンも同様不吉な予感を感じとっていた
数時間前
不死王はアバターアポカリモンは倒れ伏せ後、自身の寝室に運ばせ治療を行っていた
しかし想像以上の事態に不死王の余裕はあらず怒りと不安に震えながらアバターアポカリモンとモニター画面に映る本体のアポカリモンの様子を見て更に驚愕する
遠隔で本体と接続を試みるも、外部からの通信や侵入を拒む結界が張られてしまい流石のお手上げであった
「アポ…!」
自分は呼吸を止めたアバターにただ寄り添うことしかできないのか
ピコの頭の中で"死"という恐ろしいワードが浮かび上がる
「アポは死んじゃうの?」
「死なせてやるもんか!」
怒りのあまりデスクに八つ当たりする
拳から血が流れようとお構い無しに殴る
これもう一刻の猶予もないとピコも不死王の臣下も悟った
「…もしかしてボクのせいで?」
「ピコ様大丈夫ですよ。不死身ですのでそう簡単に消滅することはありませんし、我が王の手にかかればデジタルワールドを掻き回すことなど造作もないですし…あーお忙しいところ悪いのですが王よ、あれはどうしますか?」
机を殴る不死王の手が止まる
「うっさいな…あれとはなんだ?」
臣下が指を指す先にはグッタリと疲労困憊で倒れ伏せているヴァンデモンが床に転がっていた
「彼はアポカリモン様と共にピコ様を助けに来た仲間ですね」
「え、そうなの!?」
「自ら囮となってアポカリモン様をこの城までお送りしたのですよ、しかし我が王が仕向けた刺客たちを全員ねじ伏せてくるとは流石ですね」
ヴァンデモンの姿を目にした時ゾクリと鳥肌が立った
忘れるはずもない
彼は我が友の生き写しでありこの手で造った不死身(アンデッド)第一号なのだから
「そうか…お前が私の部下たちを…」
「どうします?」と臣下が聞く束の間、不死王グランドラクモンは逞しい手を伸ばし気絶しているヴァンデモンを抱え、愛おしく優しい頬擦りをしだしたではないか
王の下半身の獣も聞いた事のない声で喉を鳴らし気絶したヴァンデモンの体に頭を擦り付けていた
「おや、王は彼とは初対面なのでは…?」
「ああ…初対面だ、こんな形でまた会えるとは…」
卵の時以来だね、我が息子よ
お前が生まれる条件は"親離れ"
だから生まれる為に仕方なく手放さねばなかなかった
「おかえり」チュッと頬にキスをすると意識を失っていたヴァンデモンが目を覚ます
「う…あ…ここは…?」
あれ?私は黒い人間と別れて究極体と完全体デジモンを相手に囮になって、確か最後は束になってかかってきたヴェノムヴァンデモンを倒してそのまま力尽きたはず…
「もふもふした赤毛と…懐かしい香り?」
目の前に映ったのは逞しい腕と温かい毛
何が何やら分からぬまま視線を上へ向けると、そこに一番嫌いな奴の顔がこちらを見つめていた
「親のキスで目覚める気分は如何かな?」
「う゛ぇっ!?!?グランドラクモン!!?」
巨体すぎて気が付かなかった
私はコイツとは会いたくなかった
今すぐ逃げねば!!!
跳ね起きたヴァンデモンを不死王は逃げ出さぬようミチミチッと体が潰れる力で彼を握り潰す
「痛い痛い痛いッ!!!うぅ…こんな扱いされるの分かってたからずっと関わらないでいたのにぃ…」
「何故逃げるんだ息子よ、どうせ私たちは不死!別に骨を折られようと真っ二つになろうと元に戻るんだ。何をそんなに怖がる」
更に手に力が入る
ボキボキッと背骨と腕の骨が砕かれる音が響く
「いだだだっ!!!私は!あなたを親だなんて認めてない!いいから離せ!!これから25年振りにハニーに逢いに行くんだ!!!」
「はにー?…ああ!あの時生まれたばかりの人間の赤ちゃんのことか!」
不死王とヴァンデモンが話で盛り上がっているとアバターアポカリモンは小さく呻き声を上げる
ピコは泣きながらアポカリモンの体を必死に揺らすがその後彼は声を発することは無かった
状況を理解できていないヴァンデモンでさえも事の深刻さに思わず叫んでいた口を閉じる
そして彼の目に写ったアポカリモンのアバターは出会った時の轟々と燃えていた炎とは違い、今にも燃えつきる弱々しい灯火のようだ
「あの方どうしたのです?見たところ魂が汚染されてもう助からないのでは?」
「魂?待てよ!ヴァンデモン、お前は魔眼持ちだよね?」
「え」
「つまり君の魔眼を使えば魂を繋げることも可能かい?」
一旦俯き考え込むヴァンデモン「確かにできなくはないけど…」とブツブツ呟いているとグランドラクモンに再び持ち上げられる
「そうこなくちゃ!早く私を送っておくれ!」
「待ってください!アナタの魂は大きすぎて流石の私でも送れませんよ」
なんだよ、ちぇー
ヴァンデモンをアバターアポカリモンの本へ下ろしじっくり観察させる
彼の魂の繋がりは小さくなっている
繋げるには小さな魂でないと送ることは出来ない
そう、例えば成長期の丸々とした子が適任だ
「じゃあ、ボクを送って」
「君が?」
「ボク、アポのためなら死んでもいい!それくらい大切なんだ!」
「自己犠牲は大変素晴らしいことだが他にも条件がある、繋がりだ。この人とキミはどれほど強い繋がりを持ってるんだ?このままキミの魂を飛ばしても送る先が遠く更に暗い深淵なら迷わず届ける保証はないんだ。離しなさいお嬢さん」
「ボクとアポ、繋がりならあるよ!」
「ほら!」とピコは覆面をめくりヴァンデモンたちに見せる
「こ、これは!?」
ピコの覆面の下から現れたのは黒々とした肌とズルズルと額には触手らしきものが蠢いていた
ピコはアポカリモンの備品と化したもの
彼に血を与え、ピコもまた彼の血を飲む
こうして繰り返していくうちにピコ自身半分がアポカリモン化していたのだ
「ボクはもうピコデビモンでもない、体のほとんどがアポの一部なの」
「これなら行けるでしょ」と振り払われたマントに飛びつく。深淵に近い黒い瞳がヴァンデモンを見つめる
ああ…この瞳に見覚えがある
昔の私に似てる
幼年期だった頃連れ去られ、毎日地獄の様な扱いを受けていた無力な私、無知だった私
パートナーと引き離され毎日帰りたいと泣いていた幼い頃の私のように…
「了解した。すぐに送ろう」
「ほんと!?」
「だけどね、例え大切な人の為だろうと安易に命を捧げようとするんじゃない。私は今までそういうやつを大勢見てきた…」
「それでも行く?」と確認をとるとピコは笑を零す
この行動に迷いもない
これを逃したら一生後悔するだろう
「危ないと思ったら私が引っ張りあげるから」
「うん」とピコが頷く
「それじゃあ、はじめるとしよう」
ヴァンデモンは魔術を込めた人差し指でピコの胸を突きくと彼女の魂を掴む様に取り除く
ピコの体はポテッと地に伏せ動かなくなってしまう
「おや?この子の体は死んでしまったのかな?」
不死王がピコの体を持ち上げると力無く翼が垂れ下がる
ピコの心臓の音は辛うじて動いているもののその音は弱々しく止まるのは時間の問題であった
「違う、とも言えないしあながち間違ってないが軽い仮死状態だ。」
まるで指揮者が音楽を奏でるようなリズミカルな拍子で魂を掴んだ手をゆっくり振るわせる
「さぁ、行ってきなさい」
ヴァンデモンのエメラルド色の魔眼が覚醒する。アバターアポカリモンの魂に小さなピコの魂を埋め込み、本体である魂の元までヴァンデモンの手引きで1本の電線のような目印を頼りにピコはそこへ向かって吸い込まれて行った
「彼女、無事行けたかな?」
「行けることを祈るしかな…い…な…」
ヴァンデモンは魔眼を使うと体力が大幅に消耗する。その場で倒れ瞼から大量の血涙が流れ出る
「祈るしかない…か」
不死王は倒れたヴァンデモンを介抱し、臣下に預けると城を出る準備を始める
「どちらにお出かけへ?」
玄関入口に向かう不死王の後を慌てて追いかける
不死王の目線は真っ暗な空へ向けていた
「この世界の命運を見届けに」
翼を広げ、砂埃が舞う
臣下が次に見た時には既に王は空高くへ飛翔していた
ゲートを通らず不死王がダークエリアの上空を飛ぶ
これは不吉だ
何かよからぬ事が起きるぞと下界にいるデジモンたちが恐怖する中、不死王の心は燃えたぎる怒りの感情に満ちていた
長い時が経ったような気がした
魂のデータとなったピコは朧気ながらアポカリモン本体へと続くトンネルを抜けるとそこはかつて夢で見た深淵の闇が広がっていた
「痛い」
「苦しい」
「疲れた」
闇の中から聞こえてきたのはアポカリモンの自虐の音と自らの喉を絞める音
声を枯らし口から大量の血を吐くも開いた傷口は瞬く間に閉じて治っていく
「死にたい…消えたい…」
ガリガリと鋭い爪で首を斬り落とす
グリグリと眼球を潰し、顔面をぐしゃぐしゃに引っ掻く
デロ、とドス黒い怨念の血にまみれその行為を何度も繰り返す
気持ち悪い
全ての生き物は望まれて生まれやがて終わりがあり、誰もが死んでいく
私にはない
永遠に等しいこの体から抜け出さぬ限り解放されることは無い
この世界から拒絶される身体などいらない
愛される資格がない
光の世界の住人になれるはずがない
私みたいな醜い生き物に母なんて存在しない
今度こそ再生しないことを切に願いながら自殺を繰り返し…いや
ああ…いっそのこと
『こんな世界なくなってしまえ』
██モンの雑念とアポカリモンの意識が重なり合った声が近づくにつれて大きくなっていく
声を頼りに飛び回るピコは遂にアポカリモン本体の精神を見つける
アバターの姿とは違うが常に一緒にいたこともあり人目見ただけで彼だと気がつく
「アポ、ボクが来たよ!」
朧気だった意識がアポカリモンの姿を目にした瞬間、丸々とした魂がピコデビモンへと姿を変える
「一緒に帰ろう!」とピコが翼を伸ばし彼の額に触れようとする
血にまみれた彼がコチラの存在に気づく。
自虐行為を止め、ピコに焦点を合わせる
そして腹の底からおどろおどろしい声で発する
「おまえは━━━━━━━」
ダれダ?
「え」
次の瞬間ピコの翼が切断される
「は?」
切断された翼がハラリと闇の中転がり落ちる
殺ったのはアポ、いや違う、そんなはずはない
呆けた顔で「なんで?」と言葉を発した時アポカリモンの背後からケラモンの姿を模した何かがピコを見て笑い、たくさんの目と触手がピコに殺到し体全身串刺しにする
「いッ!?!?」
グザリと貫通した何本もの触手がピコの体を吸収し始める
データの魂とはいえこのままでは消滅してしまう
「ゲホッ」
なんとか意識を保っているが気が緩むと消えてしまいそうであった
ケラモン(?)はそんなピコを見下ろす
「わざわざ魂になってまで来て悪いね!そしてご苦労さまでした。残念だがここでお前はさよならだ」
「お前、アポに何かしたの?」
「ああ?アポカリモンからお前の記憶を"消去"しただけだ」
「!?」
アポはとても強いデジモンだぞ
コイツ、ケラモンはそんなアポの記憶データを消去できたというのか?
それに本当に消したというの?
アポからボクと一緒にいた日々を、大切な記憶を!
「まずは礼を言うぜ。アポカリモンに弱点を作ってくれてありがとう。かつての大罪人のお前がまさか巡り巡って俺の手助けをしてくれるとは思ってもみなかったな」
「大罪?…どういうこと?」
「あーどうせ最後だから良いことを教えてやろう」
ピコ、お前は大昔に大罪を犯した女神デジモンの生まれ変わりだ
「え」
「俺は知ってる、何故なら"当時のお前を見てた"からな」
お前にかけられた罰は"無限回廊"
転生しても永久に記憶を引き続けながら必ず環境最悪のダークエリアに生まれ続ける呪い。かけられたのはデジタルワールドが出来て間もない時期だから何億年昔のことだ
記憶を引き継いだまま転生を100や200繰り返せば記憶データはパンクし廃人になっちまうだろうし、楽になりたくても永久にダークエリアに生まれ続けるんだ
かつて高貴な女神だったやつにとっては屈辱的なバツだよな
「ボクが…?でもボクにはそんな記憶は…」
「ああ、流石の大昔の呪いも前回の転生でセキュリティが緩んですぐアヌビモンにバレちまったらしいな」
「そんな…お前は最初から知ってたの?知ってて、ボクを、アポに会わせて…」
「ちげーよ、今回はたまたま偶然だし、そもそもアポカリモンに近寄ろうとしたのは"一番最初のお前"が望んだことだよ」
「?」
おや?
まだ分からないの?
アポカリモンの負のデータのほとんどが"前世のお前たち"の怨念で構成されてるぜ
「お前たち?」
「そうそう!そういう反応になるよな!!けど考えてみろ、おかしいと思わないか?アポカリモンは何故お前を熟愛する?何故お前のことを命にかえても守ろうとする?」
「まさか…」
全て最初のボク自身の手によって仕組まれていたというの?
「いや…そんな筈は…」
「教えてやるよ。女神が犯した罪、この世の全てのデジモンに"堕落性"を振りまき負のデータを悪性を最初に作った!つまりお前がアポカリモンを生んだ張本人だ!!」
「そんなのウソだ!!!!」
「じゃあ見てみる?アポカリモンの中身に居座るかつてのお前を」
目の前にぐちゃりとアポカリモンの腹が開かれる
中からかつてのピコの前世だった大勢の無念のデータ残滓がアポカリモンの血肉、細胞の隅々まで埋めつくしておりそれぞれ異なった自虐行為を繰り返しながら蠢いていた
そして皆がピコに向かって口を揃えてこう言う
『お前も早く此方に来い』
その言葉に過去全ての出来事がフラッシュバックする
かつて彼らだった頃の記憶がピコの脳内で蘇る
堕ちた女神の計画
それはアポカリモンを育て、世界に復讐するために自らの憎悪を焚べる
必ず悪魔に転生し続け、惨い最後を迎える様に自らをプログラムし、確実にアポカリモンに怨念が集まる様に…
『同胞よ、共にこの世界を無にしよう』
「やだ…」
アポはこの世界を無にすることを拒んでる
愛が溢れるこの世界を消したくないと願っている
なのに、幸せになってほしいと願った彼を陥れていたのはボクだなんて
「あああ…」
知っている
いや、知っていた
アポと一緒にいる時から
血を飲んだ時から
夢でアポの精神世界に入った時から
気づいていたんだ
アポの体、全部ボクでできる、って
だから血が美味しかったんだ、って
本当は奥底に隠している巨大な憎悪を、本心を大好きなアポに知られたくなかった
何故ならボクは…
大好きなキミを苦しませた元凶なのだから
絶望し涙を流しながらピコの肉体は崩壊し魂が全て吸収されていく
それを見届けたケラモンはピコだったデータの残りカスを開いたアポカリモンの腹の中へ注ぎ込む
「バイバイ、大好きなアポカリモンの中で溶けちまいな」
ピコを取り込んた瞬間、アポカリモンを囲っていた結界の解読の終了を告げる音が鳴り響く
「さぁ、改めまして無念の魂及び、世界から排斥された皆々様方!!」
バサリと、ケラモンという皮を脱ぎ捨てる
現れたのは全身ギョロギョロした眼球が埋め込まれた、まるでオメガモンを思わせる様な体型
その姿の名はアバドモン コア
「お待ちかねの、最悪な終末のはじまりだ」
この日、世界は無に帰した
続く