何処までも続く果てしない闇
冷たく淀んだ空間の中をその身に大勢の怨念を抱え込んだ者がただ呼吸をしながら集まる負の感情を吸収し、いつか来る終焉の時を待っているのであった
夢を抱いて生まれたのに夢を叶えられずに息絶えた生命(データ)
人間のパートナーに会いたかった生命(データ)
世界から生まれたことすら拒まれるように即闇に投げ捨てられた生命(データ)
愛を知らず、誰からも覚えてもらえずに消滅した生命(データ)…
流れてくる見るに耐えない絶望の記憶
その耐え難き重い感情に歯を食いしばり、流す涙さえも乾き果てる
こんな絶望に満ち溢れた世界に救いはあるのか?
悲しみで構築された泉のデータから生まれでる黒いデジモン
名はアポカリモン
無念に死んでいったデジモン達の悲しみの集合体
生まれた彼は自身を掻き抱きながらこの世の全てに対して怨みを嘆く
救われなかった生命(データ)をまるで最初からいなかったかのように扱うこの世界は果たして存在するに値するものなのか?
こんな不平等を!こんな理不尽を!我々にだけ押し付けのうのうと楽しく生きている者がいるなどあってはならないのだ
この恨み、この憎しみ、悲しみを…晴らさねばなるまい
だから簡単にはこの世界は壊さない
じっくり時間をかけ、自分たちが当たり前に生まれ息をしていることの意味を、自分たちだけが特別だと考える奴らを絶望させるまで…!!!
けど本当は、この世界を壊したくない
本当はもっと、この世界を生きたい
自傷し血まみれになった己の手を見つめ、彼は自分自身に対して怯えだす
こんな事をするために生まれてきたのではないと…
ただ皆に知ってほしいんだ
誰かの犠牲で君たちは幸せに暮らせるんだと
アポカリモンの中は後悔と絶望を抱いて死んだデジモンの生命(データ)で溢れかえっている
けれど本当は彼らを楽にさせたい、解放してまた新たな生命に転生し今度こそ楽しい人生を歩んで欲しい
しかしアポカリモンの超再生能力は凄まじく自死ができない
外界に出ようにも息をするだけで吐き気がし、太陽の光を浴びるだけで立ちくらみが起き、目も開くことができずこの暗黒空間から出ることができない
現実世界とデジタルワールドを干渉できるアポカリモンは最近、デジモン達の間で人間を模したアバターを作成し、アバターの姿で出歩くことが流行っているようだ
これはチャンスかもしれない
アバターを作り、外界で活動できれば、いずれデジタルワールドの危機で呼ばれるであろう選ばれし子供とそのパートナーデジモンがこの私を消滅させてくれることを
どんな手を使ってもいい
彼らがアポカリモンを倒すまでに成長し、消滅させる力を身につけるまで
どこからどう見ても全身黒を纏った人間がデジタルワールドのはじまりの街付近に降り立つ
「さぁ選ばれし子供達よ、君達に倒してほしいデジモンがいる」
そいつを倒す為に力を貸してくれないか?
これは終焉のデジモン、アポカリモンが死ぬための短い旅路のお話
つづく
初めまして、夏P(ナッピー)と申します。
遅くなり申し訳ございませんが、拝読させて頂きましたので感想を書かせて頂ければと思います。
アポカリモン、元々はデジモンアドベンチャーのラスボスとして作られた(でいいのかな?)デジモンですが、結果的にデジモンクロニクル的に言えば増え過ぎて世界から溢れてしまった数多のデジモンの代弁者と言える存在。その内面を詩的な文章と表現で描かれていると感じました。
恨み憎しみ悲しみ、デジアドでは敵として処断されなければならなかった存在ですが、道半ばで果てた者達のそれらの感情はどこかで救ってあげてもいいのではないかと思えるもので、けれど同時にどこかで打ち捨てて楽にしてあげるべきものでもあって。その先に新たな生命(データ)としての転生があるのなら、確かにそうしてあげるのが一番なのでしょう。
自死はできず、されど自らの破滅を望んで選ばれし子供を待つ。ある種のダークヒーロー……!
おみそれしました。新鮮な観点でアポカリモンを見ることが出来た気がします。
……何!?
つづく!?
また追って参ります。