黒いキャップ、黒い服をまとった男がデジタルワールドに降り立つ
アポカリモンはその場にいるだけでデジタルワールドを歪ませてしまうほどのパワーを持つ、自身の精神だけをアバターに移すことで存在を誤魔化すことが可能だ
本体はまるで夢を見ているような居心地でアバターを操作している
夢にみたデジタルワールド
暗黒世界に出られなかったアポカリモンにとって手の届かなかった夢の楽園
風に揺れる草原、雲ひとつない青空、流れる川の音、デジモンたちの笑い声
全てが生を謳歌し、輝いてる
あぁ…なんてここは
吐き気がするのだろう
あまりにもここは光に満ち溢れている
ここには闇がない
陽のあたる場所に一歩出れば太陽の日差しが眼球と肌の表面を焦がす
アポカリモンは帽子を深く被り前髪で目を隠す、目的地であるはじまりの街を目指して歩き出すが一歩ずつ歩く度に太陽の明るさに目眩がする
そうだ、ここは我々がいてはいけない場所、しかし会い行かなければ、この私を消してくれなければ怨念の苦しみを永遠に味わなければならないならばならないのだ、この苦痛もなんてことはない
この体は本体と離れすぎるとエネルギーが消耗してしまう
これから出会う選ばれし子供に不審な目を向けられてしまわないよう対策を講じなければならない
そして普通の人間として振る舞い、普通の人間として接しなければ
しかし今まで孤独に暗黒世界で息をしていただけであったアポカリモンは対人にどう接すればいいのか分かっていない
試しに幼いデジモンでも口にできる🍎を食べるふりをしてみる
木に実っていた🍎をもぎ取りそのままガブリと丸かじりする
シャリシャリと音をたてよく噛み砕きながらゴクリと飲み込む
そう、ここまではよかった
「ヴェッ…アガッ…」
生まれて始めて外界で食べた🍎
新鮮で噛めば鼻をつまむほど甘酸っぱい味と香りが口内を満たす、通常のデジモンや人間ならば美味しいと評するであろう
しかしアポカリモンが飲み込むと、胃袋が固形物を受け付けず、そのまま逆流し地面に胃液をぶちまける
アポカリモンは血と汗と涙の味しか知らない
激しく息をしながら頭を抱える
「これは食べられない…すまんな」
アポカリモンは手で地面に穴を掘り、食べかけの🍎を埋め綺麗に土を被せる
「私はどうせ死ぬんだ、お前ら成長して私以上に長生きしろよ」
埋めた🍎の地面に結界を張る
この力は世界を滅ぼす為にある、しかしそれは使う本人次第だ
こんな姿を他の次元のアポカリモンに見られたりしたら笑われるだろうな
その場を立ち去ろうとするとアポカリモンの手に、つぅーと一筋の水滴が垂れ落ちる
土を掘ってる最中ガラスの破片に当たったのだろうか、掌から血が出ていた
アバターとはいえ本物の人間によく似せて作ったもの
本来、アポカリモンは自己再生能力ですぐ回復する
だがこのアバターはアポカリモンの精神が入っているだけなので、今の彼は能力は使えるが成長期のデジモンにも負ける普通の人間なのだ
「人間は血が出た時どう対処すればいいんだ?」
ドクドクと溢れる血
大概の生き物は出血多量で死ぬと理解している、この程度の傷なら問題ないがこれから治癒能力をもつデジモンの同行が必要となるであろう
例えアバターが死んでもまた複製すればいい話だがそんな事をすれば子供たちやロイヤルナイツに怪しまれる
これ以上面倒なことが起きぬように、都合のいいデジモンを捕まえ、眷属として運用できるようにすれば…
おいしそうな血の匂いがする
アポカリモンの近くに一匹のピコデビモンは餓死寸前で倒れていた
ピコデビモンは瞳の色が黒い理由で仲間外れされ、狩りもできず、ここ数日生まれ偶然にも成長期まで進化してしまった小悪魔デジモンである
血の匂いを嗅いだ途端抑えていた空腹が蘇る
這う力すら残ってない、無理もない進化してから全く何も食べていないのだから
視界がボヤけ爪先から感覚が無くなり体を構成するデータが消失していく
ヤダ、怖い、死にたくない!!
ボクが一体何をしたというんだ…!
もっと生きたいよ…誰か助けて…!!
この姿になったせいで大好きなオヤツのクッキー、美味しく感じなくなった、食べられる物全然なくなってしまった、どうして進化してしまったのだろう、ここでボク死んじゃうの?
ピコデビモンは死の恐怖に怯えながら目を閉じる
あぁ…なんでボクなんだ
意識を手放したピコデビモンをアポカリモンのアバターが優しく抱き上げる
「それ以上考えるな、お前の感情が流れてくる」
こいつは都合がいい
歓喜に満ちた顔でピコデビモンを見つめる
「お前を生かす代わりに私の眷属になってもらう、私の目的が達成するまでの間私のバックアップとなれ」
アポカリモンは一時的に本体との空間を接続する
ざわざわと森が大地が黒く染まり、アバターの足元から暗黒空間の入口が開き、大量のケーブルと染色体型の触手が現れピコデビモンの体あちこちにズブズブと触手を張り巡らせ本体のデータを流す
みるみるうちに彼の体は健康な状態に回復し、データの消滅は避けられた
そして能力を譲渡することで今後も多少の怪我であろう
ピコデビモンがいる限り回復することができるように内部データを改造する
ついでにパートナーデジモンとしてつれ歩けば選ばれし子供たちに怪しまれずに人間として潜入するのとも可能となるであろう
ピコデビモンの呻き声
アポカリモンは触手を匠に操る
ピコデビモンの進化先、能力、データ全てを強化し、体に負担のかからぬ程度にアポカリモンの自己再生能力を付与する
「んぅ…何これ」
触手を通じて流れてくるドス黒い何かが自分の中で脈動する度に力が湧いてくる
「変な気分…」
まるでボクがボクじゃないみたい
強い暗黒エネルギーがピコデビモンというデジモンを瞬く間に化け物へと作り替えていく
デジコアがアポカリモンと同一のモノとなりピコデビモンの中にセーブポイントを埋め込む
これで多少の怪我で倒れたとしてもピコデビモンがいる限りその場で復活する
改造が終わるとアポカリモンは上手く同調しているか試しに自己再生能力を試すために吸血行為を行う
ピコデビモンの翼に唇を押し付け鋭い歯を立て、思いっきり皮膚を食いちぎる
グジュッ
「びぃっ…..!?」
ビクビクするピコデビモン、しかし血が吸われているのにも関わらず痛みがあまり感じられない
それどころか食いちぎられた皮膚がたちまち元通り治っていく
「ボクの体に何したの?」
ゴクリと血を飲み込む
乾いていた体の隅々まで潤わせ、全身を満たす
これならエネルギー補給に困ることは無いだろう
「私のデータをお前に植え付けた、これでお前は究極体に踏み潰されようとすぐ蘇る」
アバターの髪に隠れたランランと光を放つ瞳がピコデビモンを見つめる
するとピコデビモンからぐぅぅぅーと大きなお腹の音が響き渡る
「ボクも血が飲みたい…」
「血か…今は私のしかないが、まあいい」
そういうとアポカリモンは先程怪我をした手をピコデビモンの口元に運ぶ
ピコデビモンは素早く傷口に食らいつき、ちゅうちゅう彼の血を飲み始める
暫くして満足し吸い終わるとぺろぺろと傷口を舐めとる
するとアポカリモンのアバターの傷口がみるみる塞がって元通りになる
「成功した…!どうやらお前は本体と上手く適応できたようだな」
「なんだか分からないけど、アナタは命の恩人、アナタの為ならボクなんでもするよ」
そういうとピコデビモンは彼の肩に飛び乗り優しく頬ずりすのであった
こうして血とデータで繋がれた終焉のデジモンと小悪魔デジモン唯一無二の2体のデジモンの旅が始まる
しかしデジタルワールドはこの2体を異物として認識するまでにそう時間はかからない
アポカリモンは死ぬために、ピコデビモンは彼のためにはじまりの街入口を超えていくのであった
つづく