プライベッターに投稿していたものです。自殺をほのめかす描写があるのでご注意をば
微妙に聖騎士おじさんの話と同じ世界線の大災害が起きる前の話。
世界に選ばれてしまった天才ハッカー少年は週末に世界を滅ぼす計画を立てた。名も無き消えゆく者たちと手を取って。
「何者にもなれなかった俺たちでこんな世界を滅ぼしてしまおう」
───と。
自殺の名所、とある樹海の奥へと少年は歩いていた。誰にも見つからないように、ただただ独り、樹海を進んでいた。
どれだけ奥まで進んだだろう、森とはいえ、奥へ行けば行くほど陽の光がなくなっていく。丁度いい木が見つかったので、そこに縄をかけ少年は自らの人生に別れを告げる為、首を吊った。
走馬灯が走る。ろくでもない人生だった。そう思いながら意識を手放そうとしたその時だった。視界にノイズが走る。自分じゃない誰かの記憶…いや、夢を見た。とある世界の管理者が自分に語りかけて来たのだ。
「君は選ばれた、何よりも嘘つきで実直な君に、世界を滅ぼしてもらう」
何を言っているんだこの野郎、と少年は語りかけてきた何かを呪うように睨みつける。
「君は破滅の可能性を秘めた選ばれし者、君には対になる世界を救済する可能性を秘めた選ばれし者と戦って貰おう。どちらが勝っても私は受け入れよう、では、健闘を祈る」
クソ電脳世界の管理者め、どうせもうすぐ死ぬのだから俺には関係ない、そう思いながら少年の視界はブラックアウトした。
しかし、少年は目覚めてしまった。しっかり木に括ったはずの縄は何かが激しく揺れたのか解けてしまっていた。
死に損ねた、そう少年は舌打ちをした。
ザワザワと森が揺れる音がした。風で気が揺れるとはまた違い、木そのものが動くような音だ。
「殺してくれ、死なせてくれ」
さすがは自殺の名所、心霊現象でもあるのか?と見あげると、なんと、自分が縄をかけた木には顔があり、さくらんぼのような実がなった木の形をした異形だったのだ。枝には少年が括り付けたような縄と木の根元付近にはいくつかの人骨が落ちている。
化け物、と普通ならその木を見て怯えるが当たり前なのだろうなと少年はため息をつく。
「なんだお前、デジモンだったのか」
少年はハッカーだった。それも天性の才能を持っており、どんな電子機器でも思うがままにハッキングできてしまう。その為、監視されるような日常を送っていた。それだけでなく、電子でできた異界を認識できてしまうほどの天才だった。故にその木の異形がジュレイモンとうデジモンということも知っていたのだ。
そして、先程見た夢で語りかけて来た何者かが誰なのか、そして要件も大方察しが着いていた。要するに、どこかの別の選ばれた自分とは真逆の誰かさんとそのパートナーデジモン、そして世界の変革の為に悪役を演じろ、というそういうことらしい。
「…で、この可哀想な死にたがりが俺のパートナーってワケね」
「解放してくれ…この呪いから…殺してくれ…」
「…やなこった、お前のせいで俺は死に損ねたんだ」
そう言って少年は自分が死ぬと同時に処分しようと思っていた、自分用に改造したノートパソコンを縄と一緒に入れていたカバンから取り出す。それを起動させると、異形、もといジュレイモンにコードを差し込み高速で何かを入力し始めた。
人間の、それも生きることを諦めさせられたマイナスの思念を吸い続け、呪われてしまったジュレイモンからしかできない、とあるデジモンを作るために。
「俺と一緒に生きてもらうぞ、この世界に設定された悪役として!」
しばらくすると、眩いばかりの光とともに、ジュレイモンは一度小さなコアのようなものに圧縮された。そしてそれは徐々に人に近しい形に変化していき光が収まると、そこには木でできた人形のようなデジモンが顕現した。
「はぁ、直感でも何とか行くもんだな…死にたいとか言って自死されたらたまったもんじゃないからある程度の記憶はデリートしたが…」
「…?????」
「消しすぎたか?おーいピノッキモンだったか?俺の事わかる?人格データは残ってるか?」
今しがた少年が作り上げた木の人形のようなデジモン、ピノッキモンがあまりにもぼんやりしているので、少年はピノッキモンの顔を覗き込むように声をかけた。すると、先程まで意志を感じなかったピノッキモンが少年を確認するとパチリと瞬きをし、瞳に光が宿った。
「…パパ!」
「なんて?」
「パパでしょ!?パパだよね!だってオイラ作ったの君でしょ!」
「いや、おい、待て待て待てどうしてそうなった」
「だってオイラの事ピノッキモンって言ったじゃん!」
「いや、まあ…ジュレイモンをピノッキモンとして作ったのは間違っちゃいないけど…」
「じゃあパパだ!パパ!」
そう言ってピノッキモンは赤い目をキラキラさせながら、力いっぱい少年に抱きついてきた。
「い゙っ!折れる!折れる!」
「え?」
生まれたばかりとはいえ、ピノッキモンは究極体だ。思い切り抱きしめれば人間の骨のひとつやふたつへし折ることくらい容易だろう。
「たんま、ちょっと待て、ちょっと離してくれ…」
「なんで?パパはオイラのこと嫌いなの…?」
不安げに少年を見つめるピノッキモン。拒絶されたショックで今にも泣き出しそうな顔をしている。
少年はため息をつくとピノッキモンとしっかりと向かい合い、目を合わせてなるべく優しい言葉を選びながら、ゆっくりと諭すように語りかけた。
「違う、お前が嫌なんじゃない、俺の元に生まれてきたことは感謝してるよ」
「じゃあなんで?」
「さっきは凄く痛かったんだ」
「痛かったの?じゃあ、オイラどうすればいいの?一生パパとギュってできないの…?」
再び泣きそうになるピノッキモンに少し呆れながら、少年はピノッキモンの頭をポスポスと撫でながら続けた。
「できる、優しくすればいいんだ、ほら」
そう言って少年はピノッキモンを優しく抱きしめた。ピノッキモンはどうすればいいかわからず、タジタジしている。
「こんなに弱くないとダメなの?オイラ思いっきり好きーってしたいのに」
「それだけ人間は弱くて、お前が強いんだ。ほらこんな力加減で抱き返してみな」
そう言われたので、怖々となるべく弱く抱き返してみるピノッキモン。できるじゃないか、と少年が言うとピノッキモンは照れくさそうにはにかんだ。少年は子供をあやす様にトントンと優しくピノッキモンの背中を叩いていた。
「なぁ、ピノッキモン」
「なあに、パパ」
「俺たち、最凶のワルガキ目指さないか?世界を滅ぼしちゃうくらいの」
「何それかっこいい!楽しそう!」
「よし、それじゃあリアルワールド基準の今週末にでも世界、ぶっ壊そう」
「けってーい!パパが言うならオイラどこまでもついて行くよ!」
「………そうか、頼りにしてる」
こうして悪童たちの世界滅亡計画が始まった。
一日目、ダークエリアにて
ふたりは荒れ果てた大地を、隠れるように旅をした。
「パパ」
「なんだ?」
「どうしてパパはオイラに今にも死にそうなデジモンばかりロードさせるの?」
「みんな、お前の中で生きたいって世界を見たいって言ってただろ?お前を作った時にそいつらが暮らせる分の空き容量を作っておいたんだ」
「そうなんだ!パパってすごいね!でもそれじゃあワルガキになれないよ?」
「馬鹿だな、そんな優しいやつが世界滅ぼそうとしてたら最高に極悪非道だろ?」
「確かに!救世の選ばれし者も躊躇いなくオイラたちを攻撃できないね!」
「わかってるじゃないか、賢い賢い」
そう言ってピノッキモンの頭をポスポスと軽く叩くように撫でる少年。
「えへへ〜オイラ賢い!」
悪童たちに名も無き者達が加わった。
二日目、少年とピノッキモンの拠点にて
「パパ、またやるの?」
「あぁ、お前の中に取り込んだ奴ら全員と対話するつもりだからな」
少年はピノッキモンに溜め込んだ、名も無き者たちと対話をしていた。これも全て世界を滅ぼす同意と協力を得るためなんだとか。
「なんで?終わった後パパ辛そうだよ?」
「…必要なことだからな」
「…うん、ねえたまにはオイラともお話してね」
「……そうだな、今日話すやつと話し終えたらな」
「えへ、楽しみにしてるね」
「あぁ、俺の意識、そっちに送るぞ」
「うん、おやすみ、パパ」
その日、少年は淘汰されてしまった者達と対話を始めた。ひとりひとりしっかりと向き合って。少年はただ一人、データ達の怨嗟の声を背負って彼らと対話を続けた。
三日目、DWの荒野にて
「パパ、このカラスのぬいぐるみ、デジコアがあるよ!」
ピノッキモンがボロボロにくたびれきった、カラスのぬいぐるみのような何かを見つけた。
「カラスのぬいぐるみじゃなくて、ノヘモンだ。しかしなんで案山子も持たずにこんなところに?」
「…農場が焼かれたんだよ、天使達にね」
「うわっ喋った!」
「…ダークエリアの一角の村に食料を送ってたんだな?」
「あぁ…あの子達は何も悪さをしていない、力もない幼いデジモンたちだった…そんな彼らに食料を送っていたんだ…なのに…」
「存在そのものが穢れ、ってことか…悪いがその村は数日前に滅んだよ、現地民と天使の紛争に巻き込まれてな」
「あの子たちが何をしたって言うんだ…!どうして生まれた土地のせいで滅びなきゃいけないんだ!なんの罪があったって言うんだ!!」
そう叫ぶノヘモン。少年はそれによく似た、どうして自分がこんな目に会わなきゃいけないのだ、という悲鳴を毎日聞いていた。そのせいか他人の悲劇に心を痛められる優しい彼に、つい手を差し伸べてしまった。
「……なぁ、ノヘモン一緒に来ないか?この世界を滅ぼしに」
「滅ぼす…?この世界を?どうやって?」
「俺に着いてくればわかるさ、俺の肩を貸してやる、一緒に終末を見届けてみないか?」
「パパの肩!いいなぁ!!」
「…いいとも、特等席で君の行先を見届けさせてもらうよ」
悪童の仲間にカラスが加わった。
四日目、妖精の天空城にて
「貴様ら…!どうやってわらわの演算を掻い潜ってここに来た!わらわに見えぬ未来などないはずないのに!」
「あるさ、妖精妃クオンタモン、それが俺たちだったってだけ」
「パーパ!コイツ殺していい?」
「だーめ、コイツの未来演算は利用させてもらうからね…さてさて自分の頭だけで演算してる訳ないだろうからラークのどっかにシュミレーションルームがあるはず…そこをちょちょいといじればまぁ何とかなるでしょ」
「…!貴様、まさか破滅の選ばれし者か!」
「妖精妃サマは物知りだね〜それなのに俺たちを演算から取り逃がしたのかい?随分と節穴な演算だなぁ…自分の城の道化師が裏切ると思ってすらいなかったみたいだな」
「ピエモンのことか…?なぜじゃ!なぜやつがわらわを裏切った!何を吹き込んだ!」
「…別に何も、あんたは少数をを切り捨てすぎたのさ、多数の為に切り捨てた少数がどれだけの数か考えたことあるかい?」
そう言いながら、少年はクオンタモンにあるデータチップを差し込んだ。苦しそうに呻くクオンタモンを冷めた目で見下ろしながら少年は続けた。
「それに心を痛めるデジモンがいると考えたことは?その少数に部下の故郷があったと考えたことはあるか?」
「世界を守るためには他人の心なんぞ知ってはいけないのじゃ…知ってしまえばわらわは…」
「…はぁ、ノヘモン、コイツの身体操れる?」
「ピノッキモンが全く動けないレベルに痛めつけてたからそれくらいはできるよ、それに君の作ったウィルスのおかげもあって彼女のスペックそのままで操れるね」
「よし、演算記録を見といてほしい、世界に見捨てられた少数を見つけたらマークしておくように、ピノ、昨日ロードしたヤツらと話すからこっちに来て」
「はーい!」
「わかったよ、全く君は「何者」を作る気なんだか」
その日、天空都市は落とされた。
道化師は己が主に復讐を終え、少年たちに連れて行って欲しいと自決した。コアはピノッキモンの中に収容された。
少年曰く、ウィルス種らしからぬ心優しい道化師だったそうだ。
五日目
「パパ、パパ!」
「ぁ、悪い居眠りしてた」
「お話終わった?」
「あぁ、みんな俺たちに着いてきてくれるってさ、世界に復讐しようって」
「うん!きっと世界、滅ぼそうね!生きたくても殺されて、死にたくても生かされるこんな世界!」
「お前…同化が…」
「パパ?」
「いいや、なんでもないよ、お前も疲れてるだろ?もう寝ろ」
「うん、おやすみ!」
「……ノヘモン」
「あぁ、わかってるよ」
「時間が無い、ピノと俺の肉体を任せた」
「大丈夫さ、きっと、君を演じきってみせる」
「俺の肉体が死ぬまで、な」
「終末で会おう」
「あぁ…俺も焼きが回ったかな…」
「ふふっそうかもね、おやすみ、誰よりも嘘つきで優しいニンゲン」
少年は、人間であることを辞めた。
六日目、決戦の日
「追い詰めたわ!この世界を滅ぼさせやしない!」
「来たか、救世の選ばれし者とそのパートナー」
「ラークを落としたからと言って世界を滅ぼせると思っていたのか?それにお前が連れているデジモンは繋がりのないピノッキモンとノヘモンだけなのに」
「…お前たちは本当に何も俺たちのことを知ろうとはしないんだなぁ…」
少年の肩の上で身震いするカラスのぬいぐるみ。強い敵意と怒りを持ってぬいぐるみは、救世の選ばれし者とそのデジモン達を睨みつけた。
「パパ!こいつらぶっ殺すね!オイラの中のデータ達がそいつらを殺せって怒ってるよ!」
「あぁ、やれ」
七日目、終末の日
「ピノ…」
「わかってるよパパ…オイラ、あいつらに負けちゃったから、これから大きな流れとひとつになるんだね…」
「……」
「パパ?」
「ごめん、ピノッキモン、私は君に嘘をつけないみたいだ」
「…!ノヘモン、パパは?そういえば、オイラの中にいた、たくさんの子達は?」
「……そこにいるだろ、今、目の前で選ばれし者と戦ってるバカでかい黒いのだよ」
そこには巨大な正十二面体から、人に近しい上半身と多くの触手がある異形。まるで負の感情の思念の塊のような禍々しさを放ち、この世全てを呪ってやると言わんばかりに咆哮をあげる。
しかし、それをよく知るピノッキモンやノヘモンからは、親しい彼の波長も感じ取っていた。
「待って、オイラ聞いてない、オイラが終末の中心になるんじゃなかったの?パパは!?だって、パパの身体はここにあって…!」
「それを私が預かってる、彼は…人間の可能性を最大限に活かして、君の中に溜め込ませていた淘汰された者たちをまとめ上げたんだ…だから今の彼は人間じゃない、今の彼は…」
アポカリモン、終末、大災害の名を冠するデジモン。少年は終末と共に歩むのではなく、自らが破壊するものと化す道を選んだ。
「パパ!パパ!!ダメだよ!死んじゃうよ!!なんで、オイラがそれになるはずじゃ!」
「ピノッキモン、ダメだ!巻き込まれる!」
少年の肉体で、アポカリモンに駆け寄ろうとするピノッキモンを止めるノヘモン。
「パパの身体で止めないでノヘモン!パパの身体、傷つけちゃう!パパ!!戻ってきて!死んじゃ嫌だ!パパ!!」
───────────────────
全てと対話を終えた少年は、とある終わりの一部となりて対話した全てにこう言った。
「何者にもなれなかった俺たちで、こんな世界滅ぼしてやろう、滅ぼせなくても俺たちで世界に大きな傷跡を残すんだ」
───と。
「今こそ無念を晴らすとき」
「きっと何も残せなかった私たち」
「素敵な出会いが欲しかった、その前に死んじゃったけど」
「でも、今のひとりであってひとりじゃない私たちならきっとできる」
「壊してしまおう!そして我々も消えていなくなるんだ!」
「…ありがとう、さぁ!泣いても笑っても、世界を滅びようが俺たちが倒されようが、これが最後!世界をめちゃくちゃにしてやろう!」
虚空に歓声が上がる。
「……我々に向き合い、対話し、正しい終わりへ導いてくれた人間の君へ
明るい最後をありがとう───」
名も無き者たちは、終末という形をとるさ中、少年にそう言った。
「よせよ、俺はただ、自由に" 死にたかった《生きたかった》"だけだ、ただ、それが出来なかった、お前らも同じだろ?」
最後のピース、全てを背負う自我として、少年は暗黒に溶けた。
少年が最後に見た光景は、倒すべき救世の選ばれし者とそのデジモン、そして自分に駆け寄ろうとするボロボロの相棒とそれを止める自分の肉体だったものを動かす親友の姿だった。
────────────────────
週明け、世界は救済された。
───かくして、ふたりの選ばれし者の戦いは終わりを告げた。
あれから数ヶ月
あの戦いの直後、アポカリモンが倒されたと同時に世界は大災害に見舞われた、世界は大混乱に陥り、各地でホログラムゴーストという都市伝説が謳われるようになった。DWとRWの境界線があやふやな場所が多く出現したからだ。
現在、人間とデジモンが世界の管理者を介さずに、手を取り合っている光景が稀にだが目撃されている。大災害の傷は次元と種族の壁をほんの少し破壊したのかもしれない。
世界を救った救世の選ばれし者とそのパートナーは世界を救ったと同時に姿を消したと噂されている。
「ぐすん、パパぁ…どこぉ…瓦礫重いよぅ」
そんな変化のあった世界の昼下がり、復興の終わってない、人の寄り付かない大災害の中心地。ピノッキモンと肩にカラスのぬいぐるみを乗せた少年が瓦礫を漁りながら何かを探していた。
「探せば見つかるさ、アポカリモンとは言えどデジモンだ、どこかにデジコアかデジタマが残ってるはずだ…人間の魂を混ぜ込んだ特殊なデジコアなんだからそう簡単に壊れてたまるか」
「オイラも生きてる」
「あぁ、もし魂が消滅していればこの肉体も死んでいるからね」
終末を目指した悪童ふたり、探していたのはその中心だった終末の異形と化した人間の少年の魂を持ったデジコアだった。
「パパ…なんで黙って人間やめちゃったの…」
「…ここだけの話な、最初は手筈通りにお前をアポカリモンのコアにするつもりだったらしい」
「まぁ、普通そうだよね…」
「でも、すぐに気が変わったんだって、お前のこと可愛くなったんだってさ」
「えぇ…ほんとにパパって嘘つき!最後の最後までオイラを中心にするって言ってたのに!」
「な?私たちが出会ったのも納得だ」
そういえばオイラ達全員嘘つきだ!と笑うピノッキモン。ここにいない少年含め、彼らには嘘つきと、与えられた役割を演じた者しかいない。
「っていうか、ノヘモンはいつまでパパの身体使ってるの?」
「それがさぁ…この肉体が死ぬまでって約束なんだよね」
「は!?何それ!絶対に嫌なんですけど!」
「じゃあ早く彼を見つけないとな…彼を演じるのも中々大変なんだ…」
「でもオイラ言われるまで気づかなかったよ〜!パパまんまだった!」
「ははっ!そりゃいいね!彼への自慢話になりそうだ!」
そう作業を進めながら、悪態をつきつつも楽しげに話すふたり。自分たちのリーダーを探して粉塵とホコリにまみれて今日も瓦礫の山を探索する。
「あ、ノヘモン!これ!」
キラリと光る実体化しているデータの塊の結晶を見つけたピノッキモン、急いでノヘモンに駆け寄りそのデータを鑑定してもらう。
「違いない、肉体の鼓動が勝手に早くなってる」
「パパの魂入りのコアだ!」
「あぁ、ようやく見つけた…どうやら彼がまとめ上げたデータ達が守っていてくれたんだね」
データの塊をよく見ると、外側からポロポロと結晶に綻びが生じている。しかし絶対に中心を守ろうとするようにヒビが入ることなく外側から少しづつ欠けていっているようだった。
「みんなとお話して仲良くなってたからね、オイラちょっとヤキモチ妬いたもん」
「同感、君が寝たあとすぐにいつも彼らのこと話してた」
「早く起こそう!ノヘモン!」
「わかったよ、よし…コアをこの肉体の…どこから入れよう…」
「普通に口でいいから早く!」
「え、飲み込むのこれ…窒息しないかな…まあいいや」
少年の肉体を操り、少年にコアを飲み込ませるノヘモン。飲み込んだ瞬間、ドクンと少年の肉体鼓動が強くなった気がした。
しかし…
「起きないね」
「ね、魂と肉体の癒着に時間がかかるのかも」
「えー!またしばらくパパのフリしたノヘモンなの!?やだぁ…」
「なんでだよ!そっくりなんだろ!?」
「そっくりすぎて、本当にパパが目覚めた時に気付けないのやだぁ…」
「…大丈夫だよ、きっと毎日話しかけてたらそのうち目を覚ますさ」
「その時は教えてね」
「あぁ、必ず伝えるよ。さ、帰ろう、ピノッキモン」
こうして、悪童たちの世界滅亡計画は失敗に終わった。
リアルワールド時間にして1週間と数ヶ月、長いようで短い、彼らの冒険は幕を閉じた。
世界を滅ぼし損ねた少年の名は、後に、「三門ヨルハ」と名前を偽り、肩にカラスのぬいぐるみを乗せた風変わりのクラッカー職の一般人として、世の中に溶け込んで行ったのだった。
彼が目を覚ましたのかどうか、それを知るのはあの時の悪童しか知らない。