桜の花弁が舞い散る季節。
家族で出掛けた帰り道、町外れにぽつんと生えた桜の木の下にダンボールが置いてあるのを見かけた。
何となく気になって中を覗いてみると、そこには小さな赤色の丸い体につぶらな瞳、耳のような羽のようなものを頭から生やした可愛らしい生き物と目が合った。
「ぴゃあ?」
きょとりとした表情でこちらを見上げて鳴いた生き物に思わず手を伸ばして触れれば、ふわふわと柔らかくて暖かい。
普段町の中で見かける犬や猫、鳥とも似つかない不思議な生き物。
撫でてみれば嬉しそうに目を細めてもっと、もっとと強請るように身を寄せ、すりすりと手のひらに体を押し付けて来る。
少しくすぐったいけれど、そんな可愛らしい仕草にふにゃりと笑みが浮かんで、ついつい声を掛けていた。
「うちにくる?」
言葉を理解出来た訳ではないと思う。
だけど、確かにその生き物はこちらを見てぴゃ!と笑って頷いた。
それが、後に紅桜(べにざくら)と呼ばれることになるメギドラモン……当時ジャリモンだった子との出会いだった。
ーー最も、メギドラモンになった今も彼女はその生き物のことをよく知らないのだけど。
日本のどこかにある都心から離れた小さな町・ひなた町。
この町には紅桜と呼ばれるメギドラモンが居る。
そのメギドラモン……紅桜はいつも1人の少女にべったりだ。
ぎゃうぎゃうと鳴きながら尻尾を少女に巻きつけたり、両腕で抱きしめたり、撫でてと言わんばかりにぐりぐりと頭を押し付けたり。
凶悪な顔つきの所為で側から見ると少女が紅桜に襲われているようにしか見えないが、ひなた町の住人達は慌てず騒がず少女と紅桜をいつも微笑ましく見守っている。
紅桜は幼年期、まだジャリモンだった頃に少女……日野都音(ひのとおん)に拾われた。
そのまま家族として迎え入れられ、それ以降どこへ行く時も少女と一緒だったのを見ていた彼らにとっては姿こそ昔と違えど昔と変わらずペットの紅桜が主人である都音に甘えて、戯れついているようにしか見えないからである。
そして紅桜はジャリモンの頃から、メギドラモンになった今でも町の住人達のアイドル・マスコットだ。
都音が紅桜を連れて帰った当時。
可愛らしい容姿からあっという間に町の住人達のアイドル、マスコットとなったのである。
その結果、町を歩けば住人達に声を掛けられて可愛がられ、ご飯を与えられ、撫でられーー兎に角町の住人達総出で甘やかされまくっていた。
それを知った都音の両親は紅桜がわがままな子にならないか、紅桜ばかり可愛がられて娘が妬いてしまわないかと色々と心配したものだが彼らの心配を余所に都音は紅桜を大事な家族として受け入れて愛し、紅桜は都音によく懐いていた。
お互いを受け入れ愛し合い、寄り添う姿は種族は違えどまるで本当の姉妹のようで。いつも一緒に行動している仲睦まじい様子の2人を見ては町の住人達は微笑ましそうにしたものだった。
それは都音が成長するのに合わせるように大きく、時には姿形すら変えて紅桜が成長していってからも同じことだった。
都音、彼女の両親、そしてひなた町の住人達は紅桜がデジタルモンスター、縮めてデジモンと呼ばれる種族であることを知らなかった。
この世界ではデジモンの存在があちこちで確認されており、悪い人間によって犯罪に使われたり、暴れて町を滅ぼしたりしている事件なども幾つも報道されていたが……都心から遠く離れ、観光客なども訪れることのない小さく平和で穏やかな町で知ることが出来る情報など限られている。
故に紅桜の姿形が変わるのは成長ではなく進化と呼ばれるものであることも、彼女がデジモンという生き物であることも、進化するデジモンが凶悪と恐れられるデジモンであることも、当然知らず。
少し顔つき怖くなったかな?
きっと紅桜ちゃんも思春期なのね、複雑なお年頃なのよ。おばさんの息子も今丁度反抗期なのよね〜とのほほんとしながら、2メートルは軽く越えている赤い恐竜の姿になった紅桜が都音に頬をすり寄せ、戯れついているのを微笑ましく見守っていた。
制服を着て、髪を腰まで伸ばした都音は重いよ、と口を尖らせながらも紅桜を怖がることなく優しく頭を撫でていた。
相変わらず穏やかで暖かい空間がその町の中にはあり、紅桜はアイドルであり、マスコットとして愛でられ、都音と共に町の住人達に見守られてすくすくと健やかに育って行った。
そんな優しい人達に囲まれていたからだろうか。
大きくなったことで乱暴になったり、凶暴化したり……そうして手をつけられなくなって捨てられるペットというのは非常に多く、紅桜もまた本来であれば進化したデジモンの逸話通り、凶悪で邪悪な竜となり、本能の赴くままに暴れ回り、破壊し尽くして町の住人達から恐れられる畏怖の存在となっていた筈だったのだが。
どれだけ姿形が大きく変わろうが、都音と両親、ひなた町の住人達が変わらず紅桜を愛し続けた。
暖かく接し続けた。
その結果紅桜はメギドラモンに進化してからも幼い頃と変わらず穏やかで大人しい子のまま、町の住人達からも変わらずやはりアイドル兼マスコットとして愛されることとなった。
更に紅桜は主人の都音に似たのか歩く姿も女の子らしく、都音が学校に行っている間は邪魔にならないようにちょこんと門の端に避けて座って待つ。
ご飯を食べるときはきちんと手を合わせて綺麗に食べ、食べ終わったらごちそうさまをする……見た目は兎も角、仕草や言動は完全に躾の行き届いた良いところのお嬢様に育ち、ますます町の住人達からの評価が上がり、素敵なお嬢様だねぇと可愛がられていた。
ただ甘やかされるだけでなく、悪いことをすれば目を吊り上げた都音が怖い顔でめっ!と叱っていた、というのも大きいのだろう。
大好きな都音に怒られた紅桜はいつもしょんぼりしていたけれど、大きくなって嫌いだからではなく、悪いことをしたから叱られたのだと理解するようになってからは、一度叱られれば同じことはもうしなくなっていった。
そうすれば良い子だね、と町の住人達からは褒められ、都音も偉い偉いと頭を撫でてくれるので紅桜が本来のメギドラモンとは違う穏やかで大人しいメギドラモンへとなっていくのは当然のことであった。
大好きな主人と暖かな家族。そして優しい町の住人達に囲まれ育てられた紅桜はメギドラモンとは思えないほどに穏やかで優しく落ち着いたデジモンになったのである。
それこそメギドラモンを知るものが見れば驚いて二度見してしまうくらいの変貌ぶりである。
それもこれも紅桜が進化した後も変わらず、周りの人達が恐れず愛情を注ぎ続けて来たお陰だ。
優しい人達に囲まれ愛されるメギドラモンのお嬢様、紅桜は今日も穏やかに微笑みながらひなた町で主人の都音と共に平穏な日々を過ごしている。
「紅桜、行くよ」
「ぎゃう!」
ひゅー! 穏やか! 平和的イイイイイ! 夏P(ナッピー)です。
あまりにも色んな作品に触れすぎて、アカン絶対このままでは終わらん突然メギドラモンが暴走して大変なことにと警戒していましたが、最後までほのぼのして終わって和む。待ってくれ紅桜だぞ!? ヅラがやられて遺髪だけになったり(※死んでない)グラサンの腕が盛り上がって行くぜェ~して空中戦艦の上で決戦するのではないのかエリザベス!?
そんな濁点抜いたらジャンプが発刊禁止処分になりそうなネタはともかく、ジャリモンから育てたが故にこういったメギドラモンになった、こういったメギドラモンがいてもいいと思えるお話しでございました。メギドラモンがいい子である以前に、都音ちゃんと両親含めた街の人達がとても良い人であったか……ほ、本当の姉妹のようだと……!?
というか、もう作品全体からメギドラモン愛が溢れておりましたな……。
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。
あとがきみたいな。
ブログに投稿してたほのぼのデジモンストーリーです。
フォロワーさんに地域密着型の愛され系メギドラモンが書いてみたい!!(内容はうろ覚え)って話をして、色々お話を聞いてる内に思いついて書いた短編的なもの。
目指せ可愛くて無害なメギドラモン!え?メギドラモンの時点で無害じゃない?
可愛くてお嬢様なメギドラモンが居ても良いじゃないですか。
異論は聞かない。
・登場人物とか。
紅桜
本作の主人公。
世間知らず、箱入り娘のお嬢様なメギドラモン。
名前の由来は身体が紅かったこと、桜の木の下で出会ったことから。
ジャリモンの頃に都音に拾われ、彼女と仲良しの姉妹のように育った。
都音が大好きでいつもぴったりくっついており、戯れついている。
都音の両親や町の住人達にアイドル、マスコットとして受け入れられている。
好きなものは桜、都音と食べるおやつ。
日野都音(ひのとおん)
紅桜の主人。現在は女子高校生。
容姿の説明は一切ないけどブレザー着てて欲しい。
なんか可愛いの拾って可愛がってたら気付けば自分より家より大きく育ってしまってちょっとびっくり。
メギドラモンになってもうちの子滅茶苦茶可愛いと言い切れる親バカ。悪いことしたら叱れるタイプの親でもある。
世界観的にデジモンの認知度は高いが、デジモンのことは知らない普通の一般人。
ギルモン時代から見えるようになったデジタルハザードの事をお洒落なボディーペイントと思っている。
うちの子おっしゃれー!