【第二話:むかしむかし】
木漏れ日揺れる村のはずれ。
バス停横の公衆電話キャビネットに寄りかかりながらガンクゥモンは調査を依頼してきたドゥフトモンに進捗報告の連絡を入れていた。
「とりあえずわかりました。ただ、その現地民の協力者である子どもに肩入れしすぎないように」
「わかってるって、じゃあ切るぞ」
そう言いガンクゥモンは受話器を置き、公衆電話からテレカを回収した。
「はぁ……帰ったら怒られる…」
公衆電話キャビネットに寄りかかり頭を抱えるガンクゥモン。
「おっさん、公衆電話が可哀想だぞ」
バス停のベンチに腰掛けながら話しかけてきたのは、現地民の少年『一軸ヨウ』。
彼はこの村の神主の息子で、ガンクゥモンの調べている案件の協力者であり重要参考人である。
「お?あ、やべっ」
人の姿に化けていたとしてもガンクゥモンはガタイのいい大男である。公衆電話キャビネットは悲鳴を上げるかのように斜めに傾いていた。
「いやはや、長電話になると立ちん坊も疲れるんでなぁ」
そう言いながらガンクゥモンは公衆電話キャビネットから離れ、テレカを返そうとベンチに座っているヨウに差し出した。
「はいはいわかったよ……一枚目のテレカはおっさんが持っていていいぞ」
ヨウは呆れたように溜息をつきながら立ち上がるとガンクゥモンの差し出した手を緩やかに払った。
「いいのか?」
「……残りのテレカを持ってるのは俺だ。そうしろと言ったのはおっさんだし、あとさっきみたいな長電話じゃあそれ一枚であと一回くらいしか連絡出来ないだろ」
この少年は本当によく他人を観察していると感心するガンクゥモン。
「それで、俺の捜し物も協力してくれるんだな?」
「あぁ、男に二言は無い、改めてよろしくな坊主」
そう言ってガンクゥモンはヨウに握手を求めた。
時は遡り小一時間ほど前。
ヨウの秘密基地にてガンクゥモンが彼に事情を説明した後、彼にある取引を持ちかけられた。
機材を謎のウィルスに破壊されロイヤルナイツに連絡の取れなくなったガンクゥモンに未使用のテレカを条件として、自分の姉を探すのを手伝って欲しいというものだった。
「お姉さんが巫女さんだったのか…!」
「先代巫女は叔母だったけど早死したし、姉さんは神主の娘だからな……形式上ってだけだったんだが、姉さんは数年前の大地震で神社で化け物にさらわれたんだ」
ヨウが言うには大災害の日、姉とふたりで神社で遊んでいたところ、突如祠の方からツタのような触手が現れ、彼の姉を連れ去ったのだとか。
「祠を確認したが跡形もなく姉も触手もいなくなっていた……その後あの神社はすぐに封鎖されたんだ」
苦々しげに食いしばり、今にも溢れ出そうな程の怒りと憎しみを噛み殺すヨウ。深くため息をつくとボソリと心底嫌そうに言葉を吐いた。
「…………祭りの日のあとみたいにな、その間は柘榴の収穫時期が来るまで神社へは立ち入り禁止になる、特に男はな」
「……まさか!いやでも今は土砂崩れでって聞いたが…」
「なんだ、ちょっとは調べて来たんだな。土砂崩れは部外者を寄せ付けない方弁に決まってんだろ。」
弟子のハックモンを連れていかなかった理由にこの村には昔、人身供養の儀式があったとされていた。というのは建前で問題はその後の人身供養に差し出されるのが若い女であり、『豊穣の実を産んでもらう』という内容が解釈によってはまだちょっと早い思っていたからだ。
「人身供養でもあり、婚姻の儀式とその、あ、アレなのか…?その、夜のジョグレスというかマトリックスエボリューションというか……」
「……ジョグレス?マト…?まぁ、ぼかしたいのはわかったが、身代わり人形の何処に木の実を詰めてるか知ってるか?」
否、はらのわたである。
弟子とそんなに歳の変わらない少年にそこまで言わせてしまったことに罪悪感を覚えるガンクゥモン。それに彼の姉が巫女と来た。ここまで地元の伝承を調べ尽くしているのだから、一体この少年はどれほどこの村の風習に嫌悪感を覚えているのだろうか。
「親御さんは……?」
「親父は風習に従い、お袋は頭がおかしくなって遠くの病院に入院中だ」
吐き捨てるようにヨウはそう言った。
「その状況下でお前さん、姉を見つけたいと?」
「姉って言っても双子だからな、片割れみたいなもんだったんだ……」
なにか諦めているかにも見える自虐的で困ったような笑顔で「だから見つけないと」とヨウは答える。
「坊主……お前さん、苦労してきたんだな」
「同情はいらない」
そう言ってヨウはガンクゥモンに向き直り、深く頭を下げた。
「おっさんが協力してくれたら俺もおっさんの調査に協力する、姉さんさえ助けられればこの村だって燃やしてやる」
「おいおい……」
ヨウの話を聞く限り確かに村を燃やして、ロイヤルナイツで神社をガサ入れしてしまうのが一番手っ取り早いとガンクゥモンも薄々感じていた。というか主たるイグドラシルの方針だとそうするだろうという確信もあった。
だがガンクゥモン個人、よくRWに修行に行く身としてはそれは避けたい事態であった。人間の文化は良くも悪くも歴史のある素晴らしいデータだと思っているからだ。
今回の異変だってしっかり調べて知ればいいものとして転用できるかもしれないし、次が起きないように対策することだってできる。
「だから、頼む」
それに目の前にいる、憎しみと怒りに身を焦がしながらも愛する人の為に動くこの少年に何より好感が持てた。
「……わかった、坊主の提案を飲もう」
「じゃあ!」
「ただし、テレカはわしが連絡する時に渡してくれ、もしわしがバックれたら困るのは坊主だろう?」
自分が不利になる条件を提示したガンクゥモンにヨウは訝しげな顔をする。
「正直なところ、坊主の言った通り村を燃やしてわしの同僚を呼び神社をガサ入れした方が楽だし早いんだ。何も考えなくていいからな。
だがそれじゃあ根本的解決にならん、でも面倒臭いという気持ちもある……うっかり口を滑らせてガサ入れの指示を出さないように坊主に見張っていて欲しいんだ」
「ははっ、俺がどうにもできないことをあっさり言うなぁ……やっぱり人じゃないんだな、アンタも……」
寂しそうに俯くヨウ。
血筋の影響か気配で何となくガンクゥモンが人間では無いことをわかる彼だが、やはりガンクゥモンは人に化けているので、まだ少し人間の大人として見たかった気持ちもあったらしい。
無理もない、おそらく初めて頼るであろう大人が人間ではなく、彼が忌み嫌う人ならざるものなのだから。
「……おっさんは俺に信用して欲しくてそう言ってるんだろ?わかった、その条件でいこう」
観念したかのように困ったように笑いながらヨウはテレカの入った封筒を懐にしまい込んだ。
そんなヨウの様子を見てガンクゥモンはもっと純粋に他人を信じてもいい年齢だろうに、本当に歳以上に聡く、他人をよく見る子供だなと少し悲しく思っていたのだった。
───ということがありガンクゥモンはヨウに握手を求めたのだが、彼は握手を求めたガンクゥモンの大きな手を真顔でまじまじと見つめていた。
「ぼ、坊主?」
「あ、あぁ……よろしく、おっさん」
少し慌ててヨウはガンクゥモンの握手に応じた。
「さてさて、わし宿チェックインしちゃったんだけどどうすっかねぇ」
「泊まらなかったら泊まらなかったで怪しまれるだろ」
「いんや、そっちじゃなくて旅館の飯だよ……件の柘榴入ってたらヤダなぁって、寄生されるのは生理的に無理……」
ハリガネムシの話を思い出し背中にゾワゾワと悪寒が走るガンクゥモン。どことなく臀部を引き締めているようにも見える。
おそらくそんなガンクゥモンの様子を見て何を思い出していたのかを勘づいたのだろう。ヨウは呆れたように溜息をついた。
「そっちかよ……あの宿、野菜メインの飯は出るけど柘榴は出さないぞ?この村じゃ柘榴は神子の肉だとか何とかで扱いが果物じゃないんだ」
恐るべし地元民……もとい神主の息子情報。
こんなにも早く準安全地帯を見つけることが出来るとは思わなかった。というかしれっと恐ろしい情報が出た気がする。
「心強すぎる……」
「まぁ期待してるぜ、おっさん」
そういうと、ヨウは来た道を戻り始めた。
今度は途中で道から外れた雑木林には入らず村の方へまっすぐ向かっているようだった。
「一応言っておくが俺と一緒に行動してたら怪しまれるぞ、この村じゃ俺は不信心者で忌み子だからな。一緒に行動するなら夜から早朝にかけてだ。」
「……坊主、お前さん本当に苦労してきたんだなァ」
ガンクゥモンが少し悲しそうにそういうと、巫女の双子の弟なんてそんなものだとヨウは切り捨てた。
「俺の使ってた秘密基地は好きに使ってくれて構わない、あそこには俺の調べた情報全部置いてるから役に立つといいな、じゃあな」
そう言うとヨウは軽快に山道を駆けて行った。
「悲しい子だ……差別されることに慣れてしまっている。ある意味ハックモンを連れてこなくて正解だったかもしれん。」
ヨウの抱えている事情は大人から見ても深刻であり、不用意に触れて同情でもすればプライドの高い彼を怒らせかねない。
まだそのあたりの線引きが難しいハックモンやお目付け役のシスタモン、特にブランを連れていけばヨウの事情や村での立場を知って「可哀想」なんて言ってしまい、協力関係になるのはもっと先になっただろう。
それにしてもヨウの身のこなしは非常に身軽なもので、やはり忍者か何かではないかとガンクゥモンは思っていた。
それからガンクゥモンは宿に戻り、随分と開けていたので宿の女将さんに心配されたが、携帯が圏外で電話のできる場所を探していたと伝えるとそういう観光客が多いのか納得していた。
タクシーの運転手に勧められた精進料理だが、ヨウの言った通り柘榴は入っていなかったので安心して楽しんだのだった。
そして次の日、ガンクゥモンは観光の森林浴を称しながらヨウの秘密基地に来ていた。
普通ならば分からないような目印だが、よく見ると緑色のリボンを木の枝に巻き付けてあったので難なくたどり着くことができた。昨日はなかったと記憶しているのでヨウが気を使ってつけてくれたのだろう。
そして秘密基地にはヨウがおり、積み上げていただけの本の整頓をしていた。
「あ…………」
ヨウはガンクゥモンがこんなに早く来ると思っていなかったのか、少し気まずそうに持っていた本を置いた。
「おう坊主、早速資料を見に来たぞ」
「早速すぎだ!もう少し日中に村の地形の確認とかやることあるだろ!!」
「あーいや、その辺坊主がわかるから後でもいいかなって思って……」
ボリボリと頭を搔くガンクゥモン。
「ったく……いまさっき整頓がほぼ終わったからいいけどさ…伝承と植物、あと俺ん家の家系図で分けといた。地図もそこに張り出してるから好きに見てくれ。」
そういうとヨウは立ち上がり、秘密基地を出ていこうとする。
「坊主はどうするんだ?」
「俺は俺で調べ物がある……神社に通じる隠し通路がどうしても見つからなくてな」
「……坊主、この村は古来からデジモンが関わってる可能性が高い。わしの目線からでしか見つけられないものもあるだろう、手伝うぞ」
「ガタイのいいおっさんがどうやって目立たずに探すんだ?」
「わしらデジモンはこっちの世界では実体化するのにリアライズという工程が必要だ。現に今、わしはリアライズをすることによって実体を持っているんだが……実体化をせずにこっちの世界にいると適性のあるヤツじゃない限り見えなくなっちまうのさ」
そうガンクゥモンが説明するとヨウは少し考えたあと、戻ってきてガンクゥモンのそばにドカッと座り込んだ。
「……確かに村の探索はその状態でした方がいいな。ただ、神主直系の俺や親父には見えちまうだろうから探索はやっぱり夜がいい」
ため息混じりにそう言うとヨウは机の下に入れていた古びた毛布を取り出した。
「やることなくなっちまった、隠し通路があるとしたら俺ん家の中か裏になる。なるべく夜に行動したいから俺は寝るぞ。」
そう言ってヨウは毛布に包まり横になると静かに寝始めた。
身体を縮こませるように丸まり、まるでなにかから身を守るような寝相だ。
「……あぁ、おやすみ」
複雑な気持ちでそうヨウに言うと、ガンクゥモンはヨウの集めた資料を読み始めた。
むかしむかし
あるところに女がおりました。
赤い瞳をもった、心のつよい女でした。
女は むらびとから たいそうきらわれており、そこにいれば石をなげられ、村八分にされていました。
それでも女は むらびとを うらむことはありませんでした。
そんなあるときです。
女は村のちかくの山で化け物とであいます。
化け物はひとの形をしておらず、しょくぶつの芽のような形をしています。
化け物はとてもおとなしく、ひとをおそったりはしませんでした。
女はこころのよりどころがなく、化け物とよりそうように共にすごしていました。
しだいにふたりはなかよくなり、化け物は女と形をあわせるように、ひとの形になりました。
そう、化け物はカミサマだったのです。
なかよくなったふたりはいつしかめおととなり、山の中でしずかに暮らしておりました。
いっぽうそのころ、村ではききんがおきており、さくもつはそだたず、むらびとはうえにくるしんでおりました。
あるものはいいます。
『こんなにくるしいのは、あの女のせいだ。』
だれかがかげでいいました。
『あの女がカミサマを怒らせたのだ。』
そして村のひとたちは、ぐうぜんかえってきていた女をとらえると、女を殺してしまいました。
するとどういうことでしょう、女のなきがらからは大きな木が生え、りっぱなザクロの実がなったのです。
むらびとたちはしょくりょうにたいそうよろこび、皆でわけあい、うえをしのぎました。
カミサマはつまである女が かえってこないことをふしぎにおもい、山からおりてきました。
するとどういうことでしょう、つまはむらびとに殺され、なきがらからは大きなザクロの木になっていたのです。
カミサマは木のこえをきくことができます。
『むらびとたちをうらまないでほしい』
木からはあいするつまからのこえがのこされておりました。
そしてよく見るとあるザクロの実の中から、人間の赤子が生まれました。
そう、女はカミサマとの子を身ごもっていたのです。
カミサマはむらびとたちにいいました。
『わたしとわたしのつまを山で祀りなさい、そうすれば五穀豊穣をやくそくしてやろう。そしてこの子を村で守りそだてなさい』
と。
むらびとは女のやさしさからたいそうはんせいして、カミサマとカミサマのつまである女を巫女とし、山で祀り上げ、子供をだいじにだいじにそだてました。
ザクロの木はカミサマの子です。
カミサマと女の血と肉をわけた子なのです。
大切に、大切にしなければいけません。
しばらく経過しガンクゥモンはある程度資料を読み終え、大きな欠伸をしながら身体を伸ばした。長時間狭い場所で同じ姿勢をしていたため、節々からはパキパキと音がする。
「……」
隣ではヨウが寝息を立てて眠っている。
彼の顔をよく見てみると目のクマは酷く表情は強張り、身体はとても力んでいる。これでは疲れなんて取れたものでは無いだろう。
「本当に苦労してきたんだな、坊主……」
ヨウが集めた村の歴史の情報はガンクゥモンが求めていた、例のデジモンを受肉させる果実の情報が想像以上に求めていた情報そのものだった。
「どうしたってこんな子供にこんな…」
先ず、この村にある自生する柘榴自体は普通の柘榴であり食べても問題はないこと。
そして例の受肉させる果実がこの村の『豊穣の実』と同一ならば、この土地の特殊な場所で取れるということがはっきりした。
それから、ヨウには解読できなかった部分をガンクゥモンが解読すると、その果実を食して特殊な状態になるのはデジモンだけでなく、人間も含まれることがわかった。人間は爆発的に身体能力が飛躍するのだとか。その代わりやはりと言うべきかこの村では『ひゃくめ様』と呼ばれているケモノガミの眷属にされてしまうらしい。
そして、とある事情からヨウはそれを食べても支配されることはないことがわかった。
「…………」
ガンクゥモンはそれをヨウに伝えるべきか決めあぐねていた。
まさかRWの歴史にも残る、とある伝説が本当だったかもしれないとはガンクゥモンも思いもしなかったからだ。そしてヨウがそれを知れば酷く傷つくことになるだろうと言うことが目に見えていた。
正直に言って、かなり胸糞悪い。
それ以外にも、この案件は村を燃やしてガサ入れしたくなるレベルの腐敗っぷりに頭を抱えていた。
「ヒトもデジモンも皆ケモノ……ってか?」
これらの得た情報と自分の知識から、この案件は二体のデジモンが関わっているとガンクゥモンは考えた。しかし確証はないのでこれに関しては頭のキレるドゥフトモンの見解を聞きたいところだ。
「どうすりゃあいいもんかねぇ」
軽くストレッチをしながら凝った身体を伸ばすガンクゥモン。
少し外の空気を吸うついでにドゥフトモンに連絡を入れよう。そう思い、ヨウを起こさないように立ち上がる。
「なんだおっさん、進捗報告か?」
「おっと、起こしてしまったか」
ガンクゥモンはだいぶ気配を殺して立ち上がったつもりなのだが、ヨウは目を覚ましてしまったようだ。
「まぁな、こっそり連絡に行くつもりだったみたいだな」
「ははは、坊主には適わんなぁ……随分と気持ちよさそうに寝てたからついな」
「村を燃やさないように見張って欲しいって言ったのはどこのどいつだ?まぁ、いいけど……いつもより眠れたからさ」
資料を読み終えた影響で、目を擦りながら起き上がる少年にどんな顔をすればいいか分からない。
「すまん、必ず戻ってくると約束するから、この連絡だけは着いてこないで欲しい……後で纏まったことを伝えるから」
「いいよ別に、協力してくれたらテレカは全部渡すつもりだったからさ。それにおっさんが裏切るようなやつじゃないのは何となくわかってる」
ガンクゥモンに、さっさと行けと言わんばかりにヨウはシッシッと手を振る。
「なぁ坊主、確かにお前さんは周りの大人を頼ることができない環境で育った。だが、どうしてそこまでわしを信じることができる?昨日出会ったばかりの、お前さんが酷く憎んでいる化け物の仲間かもしれない男を……」
背を向けながらガンクゥモンはヨウに問うた。
「あ?ほら、村の連中から助けてくれただろ?それに、おっさんは俺を対等に扱ってくれたからさ」
たったそれだけなのかとガンクゥモンは胸が苦しくなった。
「あとそうだなぁ……俺のこと可哀想って言わなかったからかな」
そう言いながらヨウは身体を伸ばすと、懐にしまっていたスリングショットを机に起き、手入れを始めた。
「……あと俺はおっさんにそんなに期待とかしてないぜ?途中で帰っちまっても仕方ないと思ってるからさ。ただ無理ならはっきりそう言ってくれ、俺は嘘が大嫌いなんだ。」
スリングショットを分解し「さっさと行けよ」と少し笑いながらヨウが言うのでガンクゥモンは一言謝ると秘密基地を出た。
村はずれのバス停のベンチに腰掛け、ガンクゥモンはどこまでドゥフトモンに報告するかを考えていた。
イグドラシル式に従うならば、この村を即燃やすことになるだろう。この村はデジモンにも人間にも癌になりかねない村である。
「どうするかなぁホント……」
しかしドゥフトモンにあまり肩入れするなと言われたのにも関わらず、ヨウのことを気に入ってしまったガンクゥモンは本当にこの村を燃やす前にせめて被害者となった者だけでも逃がしてやりたく思っていた。ヨウとその姉もそのひとつだ。
悩んでいても仕方がないので、ガンクゥモンはドゥフトモンに連絡を入れることにした。
「もしもし、ドゥフトモン?」
「悪いなガンクゥモン、彼は今休暇中だ」
しかし電話に出たのはドゥフトモンではなく、偽の警察手帳をくれたオメガモンだった。
「休日なら先に言ってくれよアイツ……」
「そちらとこちらでは時間の流れが違うのと、君が備品をまた壊したと怒っていたからな、わざと送らなかったんだろう」
「ありゃ村のせいで壊れたんだ!わしのせいじゃないのに……」
しかしオメガモンが出たおかげでドゥフトモンの小言を聞かずに済んだとガンクゥモンは少し安心していた。
「悩みがあるような声だなガンクゥモン」
さすがオメガモン。仕事の鬼とも言われている彼だが、ナイツ内での歴は一番長い上に、かなりの人格者だ。普段任務に明け暮れているように見えるが、主たるイグドラシルと騎士との間の緩和剤として動くこともそれなりにあり、そういった他の騎士の悩みも声で察してしまうようだ。
「ははっ、やはりバレたか」
「普段より喋る速度が遅いのと覇気がない。
……例の協力者の少年のことか?」
「まぁそれもそうなんだが、先に報告をいいだろうか」
「構わない、続けてくれ」
それからガンクゥモンはヨウの秘密基地で得た情報をオメガモンに報告し始めた。
「先ず、この村は根本から腐ってる正直燃やしたい」
「……君にそこまで言わせるなんて珍しいな」
「そして件の果実なんだがここが産地で間違いないだろう。それからこの異変の黒幕と原因に目星が着いた……『百々芽村』、『ひゃくめ様』とかいう名前で変だとは思っていたのだが、おそらく集合神格だな。わしは二体のデジモンが関わっていると見てる。」
「『百々芽村』に『ひゃくめ様』か……百目鬼とかいう目が沢山ある妖怪が日本にはいるそうだが、そういったタイプのデジモンか?」
歴が長い為か、そういったRWに対する考察もオメガモンは鋭いなとガンクゥモンは感じていた。
「ははっさすがだなぁ……片方……いや、多角的に見ればどちらもそういうタイプのデジモンだな。と言っても古い文献を見ただけだから確証はないし、正直に言って件の果実のデータを採取し成分を調査せんとわからん。」
「君が端末を壊さなければ、その実を採取した後こちらの鑑識に回せたのに……とドゥフトモンなら言っただろうな」
冗談っぽくオメガモンがそういうので、「勘弁してくれ」とガンクゥモンは頭を搔きながら公衆電話キャビネットに寄りかかる。
「それから……協力者の少年なんだが、混血児かもしれん。下手したらこちら側寄りに隔世遺伝をしてる可能性が高い。」
続く
二話投稿お疲れ様でした。夏P(ナッピー)です。
例によっての因習村、そして昔話が怖い! ゲ謎というよりひぐらし的なアレだったので、鬼狩柳桜みたいなポン刀でカミサマを倒した……みたいな逸話が出てきそう。ヨウ君は一話から続いてひねくれているだけで普通にいい子ではありますが、それだけに途中で死んでしまいそうな恐怖に駆られる。ヨウ君が村人達にデビルマンな目に遭ったところで、ガンクゥモン氏がキレて「外道! 貴様らこそ悪魔だ!」的な展開……。
ドゥフトモン休暇ってお前。ロイヤルナイツは福利厚生もしっかりされているのですなぁ。でも結果的ではありますが、ドゥフトモンではなくオメガモンが応対してくれたからこそスムーズに話が進んだ面もありそうですね。ちゃんと“ひゃくめむら”の名前についても触れてくれましたが、二体のデジモンとは何なのでしょう。そして柘榴ってそんなに重要アイテムだったの!?
昔話通りなら村長の家系は混血、しかもデジモン寄りに隔世遺伝しているとは……魔族大隔世!?
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。