「ダークエリアというエリアはない! という仮説を提示しよう。 聞きたまえシャオたろう」
「ガオモンです。氷龍寺教授」
大きな紙を机に広げ、そこにインクをボトりと落とす。
真っ白な紙を黒い点がじわりと侵食していく様を見ながら、老人は告げる。
「これがダークエリアの一旦だよ、分かるかね? シャオたろう?」
「端的すぎてわかりません、あとガオモンです」
「この黒い点は世界を侵食するのだよ、ウィルス種の特性、環境の改竄によってね」
じわりとインクが滲んだ紙を放置し、教授はホワイトボードの前に立ち、ペンで図を描く
「ある程度の変化、世界にとっても望ましい多様性だ。しかし一定を越えた変化、たとえば、人間界に例えれば物理法則をファンタジーなものに変えるだとか、原始地球に巻き戻すなどといった致命の変化がなされるとする」
マルを書き示し、そこに棒人間の様なものを立たせ、翼を書いてはバツを入れる。
「しかし、これは世界の恒常性が許さないだろう」
横に何本もの線を入れ、そこに1本の縦線を1つの線を貫く程度に濃く塗りつぶす。
「実例を上げれば、いわゆる火の壁と呼ばれる世界間を阻む防壁に無理矢理穴を開けようとしたプロジェクトが昔あったそうだが、その時はミネルヴァモンという特殊なデジモンが、ディノレクスモンというデジモンに乗って現れ、プロジェクトチームは襲撃を受けたそうだ」
ホワイトボードから離れるように歩きだし、元々いた机の前まで戻って広げられた紙を指さす。
「ではこの黒い点を世界はどうするか?」
白衣の内側からカッターを取り出し、インクで黒くなった紙に4つの線を入れる。
「こうするのさ」
黒くなった紙をキリトリ、またどこからか取り出した透明なプラスチック製のコップに入れる。
「こうして、積み重なった隔離領域をダークエリアと呼ぶのでは? と私は考える」
一連の奇行を突っ立て見ていた青い2足歩行のマスコット枠……シャオたろうと呼ばれるガオモンは、赤いグローブのような腕を顔の前で組み考える。
「なるほど、しかし氷龍寺教授、それではエリアではない、と繋がらないのではないでしょうか」
「うむ、これだけではデジタルワールドの層型構造、小世界と変わらない、一種のゾーン、エリアといえるだろう」
「だが、この空間はおそらくほかの小世界のように接続がなされていない。それはまるでコンピューターにおけるセキュリティソフトの仕組みのような」
「あーーーーーーーーー!!!!!!!!」
唐突に部屋の四隅で置物のように三角座りしていた女性が頭を掻きむしり叫ぶ。
「どうしたのだね、牧駒くん」
「そんな! こと! より! この状況から帰れる方法考えてください教授!」
牧駒と呼ばれた女子生徒は、立ち上がり教室の扉を開ける。
扉の奥は草原、そこには数メートルの赤い鳥が草むらを啄む光景が目に入る。
「あ……オジャマシマシタ」
そっと扉を閉じた牧駒は、ため息をつく。
「ふむ、それに関しては我々が出来ることは生きること以外にないよ。こんな設備じゃ次元に穴を穿つのは不可能だし、ほつれを探して練り歩くのもいいが、その先が我々の人間界とは限らない。探査隊が近くを通りかかる幸運がくるまで、サバイバルと研究といこうじゃないか?」
だだをこねる牧駒を横目に、それでだねとガオモンに話を振りなおす教授を誰かが見ていた。
「いやぁ、狂ってるね」
いつの間にか、いたそれはフードを被った子供のような、ちっちゃいおっさんのような……
紺色のパーカーから除く黄色い体は明らかに人間ではない。
「ガオモン!」
「はっ!」
牧駒の叫びに呼応してガオモンが動く。
研究室の机に飛び乗り、一気にパーカーデジモンへと接近。
体をねじり回転させ打撃をパーカーデジモンへと入れる前に、空中に現れた半透明の板に阻まれ弾かれる。
「おいおいいきなりだな。死に急ぎすぎだぜ?」
跳ね返されたガオモンはすぐに起き上がり拳を振るう。
半透明の板がまたしても攻撃を阻害し、1つまた1つと周囲に同じ板が出現してゆく。
その一つをパーカーデジモンが掴み、まるで新聞紙のように丸めてガオモンをしばく。
「ぐっ……」
大したダメージじゃないようですぐに起き上がりすぐさま拳を握りしめる。
「待ちたまえ、シャオたろう」
氷龍寺教授が声を荒げてガオモンを止める。
「突然攻撃した非礼を詫びよう我々も切羽詰まっていてね、よければ武装を収めて名前を教えてはもらえないか?」
氷龍寺教授はゆっくりとパーカーデジモンに両手をあげて少しずつ近づく。
「いいぜ? 急に現れて悪かったね。 オイラは……そうだなぁレビューモンと名乗ろうか」
「ではレビューモン君、君はなぜここに?」
レビューモンは半透明の板を1つずつ消しながら、その場に胡坐をかき始める。
「オイラはデジタルワールドの記者でね。いろんなデジモンを取材して配信してるのさ、これは人間界の建造物だろ? こんなオモシロいことほっとけないね」
最後の1つになった半透明の板を優しく氷龍寺教授に向けて押し出し、ゆっくりと氷龍寺教授の目の前まで飛んで行く。
板らしきそれは仮装モニタであり、そこにはゴシップ誌のような見出しでゴリ押したかのような記事がいつくも並べられている。
「あんたらの名前も教えてくれよ、取材がしたいんだ」
「私は、氷龍寺 研。人間界でデジタルワールド研究をしている者だ。こちらは生徒の牧駒 マキ君とそのパートナーデジモンのシャオ……失礼、ガオモンだ」
「教授、ちゃんとガオモンって言えたんだ」
「ナルホドナルホド? んでどうして人間界の研究者サマが建造物ごとデジタルワールドの表層に?」
「それが分かれば苦労しないのよぉ」
「ん? 帰る方法がないとはいったが、原因が分からないとはいっていない、1つ仮説がある」
牧駒は教授のその言葉に耳を疑った。
「おそらく先日この研究室に持ち込まれた鎖掛けデジタマがなんらかの現象を起こしたのでは? とは私は考えている」
「腐りかけ?」
「......レビューモン君、この話をしてもよいかね?」
「フムフム、続けてくれ。オイラは聞いたことを記事にしたいんだ」
返答を聞くと部屋の奥の棚から箱を1つ取りだしてくる。
鍵を差し込み箱を開くと、そこには培養液のようなものに入った小さな生物が眠っていた。
「おや、生まれているね」
デジタマの殻を引っ付けたままの
「シャオたろう、レビューモン君、このデジモンのことを知っているかね?」
「ガオモンです、いえ……存じ上げないですね」
「オイラもだ、だがこの情報圧……こいつほんとに生まれかけか?」
えーカワイイからきっと幼年期だよととのたまう牧駒を横目に、教授はふむと考え込む。
「たしか高世代がデジタマから生まれる事象は数件だが人間界でも確認されている、その為この個体が幼年期や成長期であると断定することはできない」
最初に気づいたのはガオモンだった。
一瞬世界がズレたかのような違和感を感じた。
だがすぐにそれは縦揺れの振動を起こし、現実を改変した。
「え!? 地震!?」
「つかまってマイプリンセス!」
すぐさまガオモンは牧駒を掴み近くの机の下に避難するよう押し込む。
「地面が揺れるなんて人間界の構造上の欠陥だろ!? ここはデジタルワールドだぜ!?」
ほいよっと半透明なモニターを出現させ教授の頭上に展開する。
「ありがとう。地震というよりはこの建物になにかされた可能性の方が高い。揺れが収まり次第外を確認したほうがいいかもしれん」
数秒立って、浮遊感が残るものの揺れは収まり静けさが残る。
教授が扉に向かおうとすると、その後ろをレビューモンもついていく
扉を開けると飴色のガラスのような壁が見えその先の景色は空を写していた。
「なっ」
「おー次から次へとトラブルに巻き込まれていくねキミタチ」
「……失礼。唖然としてしまった、まずは調べなければ」
教授は白衣からボールペンを取り出し投げる。
固い音がなり、数回バウンドして奥へと転がる。
それを見つめた後、教授は外への第一歩を踏み出した。
「ふむ、実体はあるようだ。どうやら正方形ではなく四角錐のような構造に我々は閉じ込めらたようだ」
見上げた空には、青いなにか。
3方向に伸びたそれは先端が黒く鋭くなっており、丁度その真下が研究室を物理的に囲う四角錐の頂点のうち3つとY座標が重なる。
「影がないな」
少し遅れて扉まで歩いてきた牧駒とガオモンは外の景色を見て驚く。
「氷龍寺教授! それ触れて大丈夫なんですか!? ってえぇ!? なにこれUFO!?」
教授に続いて外に出たレビューモンは、空を見上げて震えた声で呟いた。
「いや、これは……デジモンの腕だ」
続く?
もしやこちらで感想を書かせて頂くのは初めてでしたでしょうか。夏P(ナッピー)です。
タイトルからして未来世界に飛ばされてそうですが、牧駒さんは教授の助手とか同じ目的を持ってるとかではなく純粋に巻き込ま…名前の由来これかぁ!! マイプリンセスだけあってユウちゃんみたく唯一現代世界に帰れたりする奴に違いない。シャオモンはラブラモンの幼年期というのは覚えていたので、そっからガオモンとはなかなか珍しい進化ルートをと思ったら >シャオモンになったことはない で腹筋を破壊され再起不能となったのでした。いやでも後書きで空の腕=アヌビモンの腕ということなので、シャオたろうという名前と何か関係が……?
レビューモンというからにはアプモンのアイツか、しかしアイツそんな器用な能力持ってたかな……と考えていたらパブリモンの偽名だった。こやつ有能っぽいですな。
ダークエリアがそもそもエリアではないという要素はどう繋げるべきなのかと考えています。アヌビモンの腕、ダークエリアとやっぱ関係があるとすべきなのか……。
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。
雑設定
氷龍寺 研 教授 犬系デジモンをシャオたろうと呼ぶ癖がある。
牧駒 マキ 素直な巻き込まれ女子生徒。あれこれ考えないので、一番視点がクリア
ガオモン 教授にシャオたろうと呼ばれるが、シャオモンになったことはない。マキのパートナーデジモンで、マキのことをマイプリンセスと呼ぶ。よく教授の聞き手になってる。
パブリモン 偽名レビューモン。公式設定パブリモンなやつ。
ベルフェモンスリープモード 元凶。絶対につかまりたくないので封じられながらも抵抗している
空の腕 アヌビモンの腕。複数のデジモンの技により超遠隔でピラミッドパワーを使っている。