怒号と共に周囲に砂埃と瓦礫が散乱する
廃墟と化した街が広がる戦争跡地で
今日もオメガモンは世界を救うために戦う
例え相手が別個体のアポカリモンであろうとも
「貴様の攻撃は全て無意味だ!」
アポカリモンの触手を引きちぎりヤツの腸や顔面をグレイソードで串刺しにする
「俺は其の程度で死なん!」
体の殆どが半壊し再生が追いついていない状態であろうとこのアポカリモンは強気だ
何より厄介なのが一向に諦める兆しがない
オメガモンのステータスが全て99999とカンストしていることを知ったなら多少絶望感があったがそれでも抵抗を続ける
無知とは恐ろしいものである
「再生できないほど攻撃を続けよう」
「やってみろ、俺はこの星の戦争で散ったデジモン達の魂の集合体だ」
ここは廃墟と化した混沌の星
大昔はヒトもデジモンも仲良く暮らしていた楽園であった
崩れた建物のデザイン、落ちている看板の文字
見覚えのある
何故ならオメガモンがこの世界に呼ばれるのは15回目だ
上手く共生したかに見えたが実は裏でデジモンの能力を道具のように使い、デジモン達を苦しめる社会に変貌した。遂にはデジモンを投入した戦争を引き起こした
長い年月をかけてこの世界の人間達に葬り去られたデジモン達の怨念がアポカリモンを生み出したのだ
「お前の技構成が全てヒトの手で殺されたであろう鈍器や毒ガスといった兵器とはな」
哀れだ
「黙れ!全ては俺達を殺した人間に復讐するためだ!俺達が苦しんだ痛みを!報いを受けるべきなんだ!!!」
ヤツの触手から繰り出される
銃、ミサイル、レーザー、小型ナイフと言った殺戮兵器から一般家庭でも入手可能な武器
特に触手から放たれた中で多かったのは何処にでも落ちている"小石"だった
これら全ての物を人間がデジモンに向けて投げ入れられ、向けられた思うと無表情のオメガモンでさえ怒りと悲しみが込み上げてくる
だが
「もうこの世界に人間は一人もいない」
この世界の人間はもうすでに報いを受けた
核ミサイルで原子爆弾で放射線で
皆死んでしまったんだ
更にこの世界はデジモンも人間も住めない星になってしまった
生きている生物はお前と放射能に抗体がある私だけだよ
「もう戦わなくていい、戦争は終わったんだ」
「うるさい!
俺が生きている限り戦争は終わらない!!」
刀を取り出しオメガモンに斬りかかる
オメガモンはその攻撃を受け止め、ヤツの顔を見て絶句する
近くで見るとヤツの目は赤く晴らし、唇は噛み切った跡や全身引っ掻いた爪痕が残っている
自傷した痕だけが再生せずにいる
体力も精神も限界を超えているはずなのに
何処からそんな力が湧いてくるのか
やはり怨恨は恐ろしい
この連鎖を断ち切らなければ最終的に滅亡した世界となるのだ
「私がお前達を解放してやる」
オメガモンはガルルキャノンのみを純白の色、マーシフルモードに変化させ雅琉々砲(がるるほう)を放つ
絶対零度で凍ったまま地にひれ伏したアポカリモンを見下ろす
オメガモンの技を受けたアポカリモンの体が消えかかっている
いや、正確には消滅ではなく退化している
「そうか…お前の正体は…」
オメガモンがアポカリモンだったその子を優しく抱き寄せる
彼の正体は幼年期デジモン
プカモンだったのだ
「どうして…」
息絶えたプカモンを抱きしめる
様々な打撃にも耐えた体が心が一瞬で崩れ落ちる
何故この子がデジモン達の怨念を背負わねばならなかったのか
オメガモンにできることは何も無い
世界の救済?
この子の世界は何度過ちを犯してきた?
オメガモンが救済しても一時の平穏を作ったとしても再びヒトはデジモンは間違った方へと進んでしまう
「どうすればよかったんだ?」
ふと友の顔が思い浮かぶ
彼がこの現状を見たらどう思う?
この世界を無にするのか?
私だったらそうしただろう
けれど今の私にはソレをする資格がない
「この世界を生きながらせた結果がコレか…」
救済しない方がよかったのではないのか?
無念に打ちひしがれるオメガモン
無情にも次の世界を救え!助けろ!という声が聞こえる
そしてオメガモンの目の前でゲートが開く
「……」
プカモンの亡骸を土に埋めて
ズルズルと歩きだす
ふと空を眺めると辺りはまるで皆既日食にもなったかのように暗くなっていた
そしてそこに見覚えのある五角形キューブの姿が
「ここは我に任せろ」
ゲートをくぐろうとしたオメガモンの背後で懐かしい声がした
「アポカリモン…!」
振り返ると上空に巨大な暗黒(ダークネスゾーン)を放とうとしているオメガモンの友であり兄弟と呼ぶアポカリモンの姿があった
「この世界を無かったことにするのではない
これ以上苦しまぬようにするのだ」
「!」
彼は彼なりのやり方で平和な世界を目指している
救済とは良くも悪くも身勝手なものだ
私一人で全てを救っていた気になっていた
希望を与えるのも
絶望を与えるのも
どちらも必要なんだ
私の場合この世界の生物達に希望を与えすぎたんだ
デジモンは人間達の味方
オメガモンが助ける度に人間達の中で
デジモンはいつも助けてくれる
不思議な力を持つ便利な存在という楽観的なイメージを与えてしまったのだ
「イグドラシルはもう当てにならないな」
「今更気づいたのか」
「ああ…千年万年経ってようやくな」
フフッとお互い鼻で笑う
世界が滅亡するというのに二人の間に穏やかな空気が流れる
「私ではこの世界は救えない」
「分かっている」
「この世界の無念の魂がお前に蓄積されることを許してくれ」
「皆の想いを一人一人受け止めるのが
我の唯一の存在意義だからな」
当然のことだ!
強がった姿勢を見せるアポカリモン
「真面目すぎだろ」
「お前もな」
二カリと無理矢理作りの笑顔をオメガモン見せる
そういえば笑顔を見るのはいつぶりだろう
「次会った時はお前が笑えよ兄弟」
暗黒(ダークネスゾーン)を放つ
触れればたちまち跡形も無くなる技
「その時まで練習しとくよ」
オメガモンはゲートをくぐりこの世界から消える
数刻前まで絶望していた彼の顔は吹っ切れていた
それはアポカリモンも同様
今まで通りやっていても変わらないのなら
コチラ側が変わるのだ
確かに救済しても何も変わらないというなら
先を見据えた改善策を立てればいい
正しかった、悪かったとは後になって気づくのだ
世界は今この瞬間も破壊と発展を繰り返しながら進化していく
それと同時に彼らもヒトとデジモンと共に成長していくことを忘れないでほしい
オメガモン
平和で穏やかな世界が好きだ
/世界を汚染する生物が嫌い
アポカリモン
生物の営みが好き
/生物を踏みにじる世界が嫌い