注意事項。
暴力を示唆する描写があります。
女が、冷たい床に横たわっている。
床に広がる美しい髪と、艶やかな布で出来たワンピースの裾が、針で展翅板に留められた、稀少な虫の標本を連想させた。
「何故黙っている……怒っているのか……私を嫌いになってしまったのか」
私の問いかけに、彼女は答えない。ただ、目と口を閉ざし続けるだけ。
「……」
服から露出した腕を覆う傷が、痣が、あまりにも痛々しい。
彼女の体にこのようなもの作った輩を、私は決して許しはしないだろう。……だが、これは全て私が作ったものだ。
怒りと憎悪と悲しみに飲まれた私が、彼女を傷付けた証拠。決して消えない罪を、私に突き付けるもの。
「すまない……許してくれ……私は、君が自分以外の誰かのものになるのだけは、耐えられないのだ……」
私達は、テイマーとパートナーだった。
互いが唯一無二の存在だった。
笑う時も、泣いている時も、怒っている時も、いつだって私達は一緒にいた。それは、私達がどのような姿になっても変わらない。
私が太古の予言書に記された災厄——アポカリモンに進化した時も、彼女は私を見捨てないで、隣に居てくれた。
私が、彼女に恋心を抱くのに、時間も理由も存在しなかった。
彼女も同じだと、自分はいずれ選ばれるのだろうと、甘い夢に浸って、その日を心待ちにして——なのに。
「君は、私を選ばなかった」
彼女が、人間の男を好いていると知ったときの、感情と苦痛を表す言葉を、私はいまだに知らない。
「すまない……私の顔など、二度と見たくないだろうが、それでも……それでも……」
私は、君が隣で居てくれるだけで良い……私に微笑んでくれるだけで幸せだったのだ。
情けない声音のまま、意識の無い彼女に思いを告げる。
「どうか、私を選んでくれ……それだけで、良いのだ……」
返事は、無かった。
空前のアポカリモンブームが来ている!? 初めまして、夏P(ナッピー)と申します。
進化の果てに待つ、パートナーとテイマーのすれ違いのお話。
この“私”は元々そうなるべくしてなったわけではなく、進化の果てにアポカリモンに到達“してしまった”ということでしょうか。ここで物を言うのはやっぱり独占欲というのはともかくとして、そこにテイマーとパートナーとしての情愛や信頼があったとしても、テイマーが人間である以上人間と愛を育むのもまた当然の帰結といえばそう。そこは描いてしまうと明確に「大切なもの」同士に優先順位をつけてしまう行為とも言えるので、一概にアニメなどでは語れない部分ですよね。ヤマトと空が結婚した時、別に特別仲良さそうでもなかったガブモンとピヨモンはどう思ったのか……特にガブモン。
でもそういう意味で、彼女が人間の男を好いていたとしても、その彼には立ち入れない領域にアポカリモンもいたのだと考えれば救いにはなる。だってパートナーだもの、そこは人間では立てない領域で彼女を支えられる存在だから、そう考えないと救いがないのですが、意識のない彼女ってことはもう殺(や)ってしまった的な奴……!? それでは余計に救いが無いィ!
この後、幻聴でもいいのでアポカリモンに“何か”が届くことを祈る次第です。
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。