あーあ、なんでこんなことに…
私は吸血鬼に捕まっている
普段はOL、休日はコスプレ衣装の製作と推し活をしている
この日は際どい吸血鬼コスしてハロウィンコスパーティーに参加した帰り道、突然自宅の前に待ち構えていた吸血鬼に「貴方を待っておりました」と私の手を引いてここ、デジタルワールドの貴族の館に連れてこられてしまった
情けないけど今は自分の命より明日の仕事のことで頭がいっぱい
課長やみんな困ってないといいけど
風呂上がりタオルで濡れた体を拭いていると突然ドアが開く
「やぁ、お湯加減は如何かな?」
「ちょっ!?いきなり入ってこないでよ変態!!!バシャッ」
連れてこられて早々狭い風呂場の湯船に入れられた
正直ここの洗顔フォーム肌に合わない
自宅のシャンプーじゃないのキツイし、コンディショナーすらないなんて最悪なんだけど
夕食はまだだったからこの後食事を用意しているんだとかアイツ言ってたような
「あー…バイトちゃん見てよこれ、ビショビショになってしまった…」
「主さんは女性に対してデリカシーなさすぎ!ボクだって怒りますよ」
彼らはデジタルモンスター
吸血鬼の方は完全体ヴァンデモン
バイトちゃんと呼んでる子は成長期のピコデビモンらしい(スマホで調べた)
「あのさ、ここドライヤーないの?」
「どらいやぁ?何それ、バイトちゃんそれは和菓子か何かな?」
「ここはボクにまかせて主さんはあっちにいって!!!」
バイトちゃんのピコデビモンにめちゃくちゃ怒られ沈む吸血鬼
それにしても私はどうしてここに連れてこられたのだろう
ピコデビモンがバスローブ姿の私に大きなタオルを渡すと「乾かしてあげる」と言って最新式のマイナスイオンヘアードライヤー取り出し器用な手(?)つきで私の髪を乾かしだす
「ピコデビモン、よね?あの吸血鬼が私をここに連れてきた理由知ってる?」
「ピコでいいよ、あとごめんね、びっくりしたよね、あんなのに突然連れてこられて。ボク、バイトでここで働き出して間もないからうまく説明できないけど、お姉さんは主さんの運命の人らしいよ」
運命の人って、私はあの吸血鬼のパートナーってこと?(wi〇i検索)
「ボクから見ても主さんとお姉さんは不思議な繋がりを感じるよ」
「不思議な繋がり?」
「うん!よく分からないけど主さん心からお姉さんに会えて喜んでたよ」
喜んでた?あれで?
今にも噛み付いてきそうな牙を出しながら不気味に微笑んでるアイツが?
「デジモンと人間のパートナーって基本的に何するの?まさか血がほしいとか世界征服とか手伝えって言うんじゃないでしょうね」
「それは知らないよ、ボクは部外者だもん」
ピコちゃんに聞いても仕方ないか…でもなんでアイツは私をデジタルワールドに連れてきたの?これじゃ犯罪、拉致監禁をよ
「はい、髪乾かすの終わったよ」
「乾かすの早っ!ピコちゃん上手ね」
「えへ、実はボクにも運命の人がいて…」
「おい!お喋りしてないで早く来てくれないか、料理が冷めてしまう」
ドア越しに吸血鬼が食事の用意ができたことを伝えに来たらしい
ピコちゃん以外バイトの子いないのかな
私は用意された肩出しの黒いドレスを着せられ大広間まで案内される。大広間の真ん中には大きなテーブルクロスがかけられた長机が置いてあり、その上には高級料理店に出てきそうなスープと焼きたての小分けされたステーキ肉が置かれていた
席に腰かけると「君のために作ってみたんだ、気に入ってくれたかな?」と吸血鬼がドヤ顔でこちらを見つめている、いや、そうじゃなくて!
「パートナーだかなんだか知らないけど明日仕事あるから私を家に帰してよ!!!」
完全体だかなんだか知らないけどこっちだって人間様舐めんなよ!
バンッと威嚇のつもりで机を叩いて訴えると吸血鬼は突然席を立ち
「そう!それだ!!それが今の君を悪くしている!」と怒りの表情をあらわにし拳を握りながら突然熱く語り出す
「私は君の幸せを願っている!何せ同じ時、同じ日に生まれた運命の花嫁だからね!君が今不幸なのは人間世界の仕事、そして環境のせいなんだ!だから私は麗しの君の為に仕事のないノーストレスのこのデジタルワールドへ連れてきたというわけだ!!」
はぁ?ノーストレス?
もうすでにアンタのせいでストレスマッハなんだけど?
「え、花嫁?どういうことよ」
「私と君はね、同じ時間、同じ日に生まれたデジモンなんだよ」
遡ること25年前
母が私を産んだ時デジタマも一緒にベットにあらわれ私の産声と共にそれも孵化したと聞いた
赤ん坊の私が抱っこ移動する度に幼年期デジモンもついて回り片時も離れようとはしなかったらしい
まだデジモンがあまり世間からよく思われてなかった時代だったので不気味に思った家族や病院の看護婦さんたちは密かにデジモンを廃棄処分した
ところが何度も何度も切り刻んで燃やしても土に埋めてもボロボロになりながら戻って来るデジモンに恐怖を覚えた父は蒸発、母は鬱病、家族みんなバラバラになってしまった
数ヶ月経って親戚に引き取られることが決まり別の病院に移される前日、事件が起こる
ネットワークに侵入したウイルス種デジモンが病院の端末からバグで実体化し院内で暴れだしたのだ
運良くその場に他のテイマーが居合わせたお陰で怪我人はでなかったが、私はその時襲ってきたデジモンが負傷した際に出血した血溜まりの中発見された
指に小さな針を指したような傷以外どこも怪我もないのにも関わらず赤ん坊の私はただただずっと片時も離れなかった幼年期デジモンを探すように泣いていたという
現在
「その時の幼年期デジモンがこの私!ヴァンデモンだ。君と離れ離れになってからもずっと見守り続けていた闇の貴公子」
「見守ってた!?」
「そうだとも!君のその小指の歯型がその証!君が生まて間もない時私が付けたもの、マーキングというやつさ」
「えっ、これ生まれつきの痣じゃなかったの!」
左手小指を見つめると細い線のようなものが痕がクッキリと残っている
それを見て吸血鬼ヴァンデモンは「あぁっ!」と突然色っぽい声を上げ私の元まで駆け寄りその場で膝を着く
「ずっとこの時を待っていたんだ、ごめんよ、私のせいで君の家族を引き裂いてしまったこと、君を独りにしてしまったこと…」
心から謝るよ、とヴァンデモンは私の手をとりキスを落とす
「私が君を幸せにしてみせる…ここで一緒に住もう、好きな物も沢山用意する!だから、だがら゛ぁ…ゔぅ…」
あんなに恐ろしいと思ってた吸血鬼が私の前でぐすんっぐすんっと情けなく泣き出している
触れる彼の手は所々傷だらけで冷んやりと冷たかった
よく見ると身なりは整えてるくせに屋敷は埃と蜘蛛の巣だらけ、全然清掃が行き届いてない
ピコちゃんしかお手伝いさんを雇えていないところを見るに屋敷を購入したのはつい最近だろう
それまで彼は私を向かい入れるためにとても苦労したことが伺える
流石の私も怒る気がなくなり膝を着くヴァンデモンの頭を撫でよしよしとあやしてあげると彼は泣き止む
「見苦しいところを見せてしまいすまない、けどね私はこう見えてもそこら辺のデジモンとは比較にならないくらい強いんだ、ほんとうだよ?これからずっと君を守るよ、約束しよう」
「あー…ヴァンデ…モン?ちょっと私の頼みを聞いてくれる?」
「君の頼みなら何でもする!どうか言ってくれ!!!」
「じゃあさ、いい加減家に帰してくれる?」
「ブッw」と後ろで聞いていたピコちゃんが思わず吹き出す
「な、なんでぇ!?私の何か不満でもあるの??」
「ありまくりじゃコラァ!!!!!」
この屋敷ハウスダストと虫だらけだわ、浴場にシャンプーしかないってありえない!せめてリンスと化粧落としくらい置いとけや、推しのコスプレならともかく女性に黒いドレス着させるなんて趣味悪いわ!ノープランで私を拐うの犯罪だし、まだ独身を謳歌したいの!結婚の申し込みなんてクソ喰らえよ!等々…
言いたいことを全て言うとヴァンデモンはどんよりとその場で体育座りで落ち込んでいた
見かねたピコちゃんがパタパタと俯いてるヴァンデモンの頭に止まる
「まぁまぁ、お姉さんそこら辺にしといて、主さんも分かってるはずだから」
許してあげて、とピコちゃんはキュルンとした黒い瞳で見つめてくる
「分かった、けど結婚も同居もなし!明日は大事な仕事があるから、ねっ!」
ピコちゃんに背中を叩かれながらヴァンデモンはよろよろと立ち上がり「仰せのままに…マイハニー」と敬礼
時計がゴーンゴーンと鳴る
0時を過ぎようとしていた
「あ」とピコちゃんが声を上げ着ていたエプロンを脱ぐと「そろそろ定時なので上がらせてもらいます」と飛び去っていった
「待ってピコちゃん!」
私はヴァンデモンをほっといてピコちゃんを玄関前まで見送リに行く
残されたヴァンデモンもトボトボと力無い足取りで後に続く
「色々とありがとうね、ところでピコちゃん一人で帰れるの?」
「ううん、お迎えが来てるの」
ほら、と玄関のドアが重くギギギと開くと禍々しい黒いオーラを身にまとった全身黒服の男性が立っていた
男性の黄色い瞳と目が合うと蛇に睨まれた蛙のような威圧感に鳥肌がたつ
一瞬お化けかと思った、なんなのこの人!?
もしかして不審者!?と身構えているとピコちゃんが無邪気に「アポ!」と男性名(?)を呼びながら駆け寄って行く
「ボクいい子にしてたよ!アポ寂しくなかった?」
ピコちゃんが男性の肩に止まる
すると心做しか男性の鋭い眼孔が穏やかになった気がした
「うちのピコが世話になったな」
「世話したのはボクだよ!ねっ、主さん!!」
そう、だね…とヴァンデモンは引きつった顔で男性にお辞儀をする
「こちらこそ、貴方様のお陰でハニーとまた再会することができたんだ」
あ、こら!さりげなく肩を掴むな
「そうか、今度こそ無事に見つかって良かったな」
「ハァ…まぁ、婚姻は即拒否されてしまいましたが…」
アハハ…と申し訳なさそうな雑談
この二人一体どういう仲なのだろう
「ねぇアポ、おかえりなさいのあれやってないよ」
ああ、あれかと、男性はピコちゃんの可愛らしい唇にチュッとキスをした
「「!?」」
あまりの光景にヴァンデモンも私も思わず固まってしまう
この人ピコちゃんにキスした!?
するとピコちゃんもただいまぁと、男性の顔に覆い被さると唇にいやらしくチュチュチュッとキスをする
えっ何これ!?今のデジモンとパートナーってこんなこともしちゃえるの!?
頭が混乱していると「じゃあね二人とも!おやすみなさい〜!」と頬を赤らめたピコちゃんが男性に抱きかかえられながらバタンと屋敷を出ていってしまう
なんとも言えない空気に残された二人
「私も帰ろっかな」とヴァンデモンの方へ向くと彼は顔を抑えたまましゃがみこんでいた
「あれが…本物のキス!異性同士のキスかぁ///」とかブツブツ言いながら顔を赤くし悶えている
あっもしかしてコイツ、ウブなのかな
「さぁ!早く私を帰しなさい!この変態吸血鬼!!!」
「イタタ!や、ヤダよ!せっかくハニーのために屋敷を用意したのに…」
「だったらさ、アンタ人間世界で住めないの?昔のアンタ生まれたばかりだったといっても普通に存在できてたんだし」
その手があったか!と言わんばかりにヴァンデモンはそそくさと荷造りを始める
「そうだね!ハニーの家で同居…いや、まずはペットという形で生活しよう!!!料理なら任せたまえ!ハニーの血をサラサラ健康にしてみせるとも!」
いきなりテンション高くなったな…
ヴァンデモンは荷物をカバンに押し込むと私を抱き抱え外に待機していたデビドラモンに乗りデジタルワールドを飛び立つ
「ちょっ!?もっと他に移動方法あるでしょ!!」
誰かに見られたらどうするの!恥ずかしい…とヴァンデモンの腕の中で必死にしがみつくハニー可愛いと愛おしい気持ちでいっぱいになり強く抱きしめる
「そんなのどうでもいいことだ!ところで、今日参加したハロウィンパーティ衣装は吸血鬼だったんだよね。お揃いだね〜ニヤニヤ」
「見てたの!?…まさか着替えてるところまで見てないよね」
さぁね♪と白を切るヴァンデモン
この変態!と叫ぶも人間界へと繋ぐゲートをくぐり抜ける際吹いた夜風と共にかき消される
「さぁハニー!これからは私たちの新しい生活の幕開けだ!!」
「はぁ…マジで私の独身ライフどうなっちゃうの…」
ハハハと高笑いするヴァンデモンとその彼に抱かれた私はそのままデビドラモンから飛び降り自宅のベランダへと着地する
二人の様子をパシャリと撮る人影がいた
その画像をSNSにアップし拡散、タグを使って拡散、様々な機関に向けて拡散する
タイトルは《人間とデジモン夜の非行劇》と投稿された一枚の写真
「あんただけ幸せになってアタシは不幸なのってなんか不公平じゃないの」
撮ったばかりの写真をその場で印刷し地面に置くと大きなナイフを使って二人の顔写真をズタズタに突き刺す
「絶対っ!絶対絶対絶対絶対!絶対にぃ!
!!!許さないんだからぁ…!!!!」
ハァハァと息を切らし「アタシを捨てたこと後悔させてやる」と呟くと風の音と共に人影は消える
残されたバラバラになった写真が夜風に舞い上がる
「一緒に棺桶で寝ないのかい?」
「夜這いダメ!吸血ダメ!変なことしたら即出てってもらうから!!じゃ、おやすみ!」
「もぉ、ハニーは照れ屋なんだから///」
「ちょっと布団の中に入ってこないでよ変態!!」
自宅からワハハと外まで聞こえる二人の楽しげな声と外からは狂気の殺人鬼がジャキジャキンとナイフとナイフを擦りながら構え迫っている
君の心臓は美しいよ 〖つづく〗