Episode.15 "誰が為の代償行為"
互いに喉元に向けた竹刀が剣先で擦れ合う。それは相手を叩くための武器であると同時に気配を探るセンサーとしての役割も担っている。
細やかな摺り足で距離を測りつつ、剣先を僅かに上下して反応を伺う。狙うのは張り詰めた集中の間に意図せず生まれる僅かな弛緩。自分よりも探るような動きは少なく、ただ静かに構えているだけの相手だからこそそれを見つけるのは難しい。
だからこそ一瞬でも隙を逃さないように眼を見開く。足運びもすぐに攻めに移れる程度には馴染んできた。後はようやく戻ってきた勘を信じて、最速且つ最短距離で竹刀を振るうだけ。重要なのはそのタイミングのみ。
糸を手繰るように細やかに揺さぶりを掛けること十秒。こちらが痺れを切らしそうになるタイミングで機は訪れた。
僅かに浮き上がる相手の剣先を目で捉えた瞬間、染みついた記憶に従って全身が稼働する。
軽く浮かした左足踵を短く跳ね上げるのに合わせて右足を踏み出す。弾丸のように速く力強いその一歩に乗せるべきはやはり速く力強い一振り。柄の末端を握った左手を軽く前に出す反動を起点に、手首のスナップを活かした鋭い軌道に乗せて剣先を振るう。
ブランクを考慮せずとも理想的な一太刀。正中線を通って面を捉えれば一本を取れただろう。
だが悲しいかな。そうはならないことを渡自身が痛感していた。面を打つべく剣先を上げようとしたその瞬間に。
自分よりも速く目的地まで迸る相手の剣先。狙っていたゴールが違う以前にそもそもスタート地点から相手が先を行っていた。
「メェェェァッ!」
「コォティァァァァッ!!」
誘われた。そう気づいた頃には渡の右小手を鋭い衝撃が襲い、最短距離を駆けていた筈の渡の剣先は空を叩いていた。
もはや下手に追撃する気も起きない。小手を叩いた後の動作もきれいに決められた一本を大事にするように油断なく丁寧で、残心という言葉のお手本と言っても過言ではないと思えた。
「わりと動けるな。このまま掛かり稽古するか?」
「もう部員じゃないので勘弁してください」
異臭を放つ防具の内側で全身汗だくになりながら棒切れで叩き合うような野蛮極まる拷問を続けることは帰宅部に慣れた渡には無理だった。
「はぁ、ふぅぅ……」
正座して面を外し、目蓋を閉じて黙想に耽る。とはいえ稽古の反省をする気もなく、ただこの苦行を強いられた経緯を追想する。
――久しぶりに稽古をつけてやる
クラス担任兼剣道部顧問の白田(しろた)秀一(しゅういち)に呼び出された渡は予想外の申し出に回答を窮した。
剣道部に所属していたのは入部してから三か月だけの話。中学校では県内大会で警戒される程度には慣らしたが、今さら青春を費やす気にはなれない。ただ言い寄られるのは自業自得だと思う根拠もある。友人の手伝いで道場の掃除や竹刀のメンテナンスをしていたのが、中途半端に関わる態度として目に余ったのだろう。
そうこう思案を巡らせたところで、黒豆のような瞳はこちらの拒否権を許さない様子。ほどほどに付き合ってみて度が過ぎれば出るところに出よう。そう覚悟を決めて道場まで引きずられたのが三十分ほど前のことで、実際に打ち合ってみて得たのは程よい疲労と分不相応な無力感だけだった。
「久しぶりにやってどうだった。悪くないだろ」
「剣道そのものは。ただ元部員を今更痛めつける神経は疑いますね。戻る気なんて起きるか」
柄にもなく達成感に満ちた顔面に竹刀を突き刺したくなる欲求をぎりぎりのところで堪える。剣道部としては三か月で縁を切って以降、今日のような暴挙に出るのは初めてだった。一年からの付き合いで人となりは分かっていたつもりだった。
無精ひげと隈の目立つ常に疲れてそうな風貌で職員室では新聞を広げている姿をよく目撃したものだ。ただ新聞は新聞でもスポーツ新聞で、読んでいるのは授業に使えそうな経済のページではなく、生活費を賭ける競馬のページ。賭けの結果で一喜一憂する様を生徒から笑われるユルさと、見た目に反して意外と親身でフレンドリーさから意外と生徒の評判も悪くない。
その一方で剣道部の連中からは慕われているというよりは畏れられていた。授業中やホームルームでは表面化しないが、放課後が近づくとひりついていくのが分かった。そもそも三か月程は自分も同じ立場だった。剣道部の稽古はそれほどにハードで、白田はそれだけ熱意を籠めて剣道部の顧問を務めていた。
要するに剣道部として関わらなければ親身な先生としての付き合いで終われる相手。辞めた身としてはまたあのひりついた感覚を味わうことになるとは思っていなかった。
「で、何がしたかったんですか?」
「あれだ。正々堂々戦えば分かり合えるってやつ」
「何言ってんですか? 実際何かわかりましたか?」
「いやー……やっぱり言葉で聞いた方が早いな」
「ふざけんな。あ、間違えた。ふざけてますか」
真意を質した渡だけが煮え切らないのならただ単純にしばかれ損だ。話し合いで済むなら竹刀を交える必要もないし、話し合う場が欲しいのなら適当な理由をつけて放課後に呼び出せばよかっただけの話だ。ただ久しぶりに稽古をつけたいというのが先に来ているのであれば、それはもう別問題で返す言葉もなくなるが。
「なんか……悩みとかないか?」
「質問下手すぎません?」
防具なしでもう一戦交えようか。負け戦に挑みたくなるほどに沸騰しそうな感情をなんとか抑える。本人は至って真面目で親身になって聴いているのだ。そう言い聞かせて冷静になったところで別の問題が浮上する。
渡が抱えている一番の悩み。それは自分が未来にやらかして人類をモンスターの危機に晒して荒廃した世界に変えてしまうというXの証言だ。
所詮は敵対者の発言。あのタイミングで口にしたという点では他の連中をレジスタンスに勧誘するため仲間割れを誘導したという面もあるだろう。だが信じるに値しないと割り切るには奴の言葉や態度は真に迫っていた。何より渡自身がそうなりえると思ってしまう程度には根拠を持ってしまっていた。
当然すべての内容を話すことはできない。そもそも質問に対して答える義務もない。そう、義務はないのだ。
「分かりましたよ。話せることは少ないですけど」
ただ、権利はある。正直言えば誰かに打ち明けたい欲求はあった。それがかなり主題をぼやかした抽象的な説明でしかできないとしても、一片でも抱えているものを共有できる相手は欲しかった。
「例えばの話です。もし未来人が来て、『お前は未来で人類を脅かす大罪を犯す。だから今のうちに死んでおけ』と言われたらどうします」
要点を押さえた結果、口にした問いは想定より直球なものになった。ただ内容が内容だけに額面通りに受け止められるとも思えない。
「んー……自殺志願者なら違うことをこっちから聞くことになるが?」
「死にたがりに見えますか?」
「幸いまだ死にたくないように見える」
生憎まだ人並みの生存欲求は残っている。死にたくない。というよりはまだ死ねない。やりたいことは山ほどあるし、やらねばならないことは潰されそうなほどある。借りや恩義は出来る限り返さなければならない。それが何に対するものであっても。
「俺の目が間違っていなければ、最初から答えは一つだろう。死にたくないなら死なないようにすればいい」
そのために足掻くことを白田は肯定した。教師の立場として生徒に「死ね」とは言えないだろうが、その建前が無くとも同じ答えを口にすることは間違いないと思える程にその視線はまっすぐ渡を見据えていた。
「言葉を無視しろと」
「私からすればその未来人の言葉より弟切の今まで行動の方が信用に値するが」
「俺の……?」
ただ自分を肯定されることが今の渡にとっては寧ろ苦痛だった。白田が信用に値すると言った自分の本質は渡自身が今最も忌むべきものなのだから。
「先生って案外人を見る目ありませんね」
「俺を裏切る予定でもあるのか?」
「全人類に対してなら」
「大きく出たな。だがそれは未来人とやらの発言だろう」
「その未来人の言う通りの人間なんですよ、俺は」
強がってニヒルに笑っては見たものの、薄っぺらい仮面はいつ剥がれるかわからない。正面から向けられる視線はそんな胸中を見透かすようで、次に白田が口を開くとき自分が爆発することは容易に想像できた。
「そこまで言うだけの根拠はあるんだな」
「あるから困ってるんですよ!!」
結局のところ、問題の根幹はそこにある。未来人――Xの言葉を信用に足ると感じる程度に渡は自分が歪みを抱えていることを理解していた。
「なら、それを潰せばいいだけの話じゃないのか?」
「簡単に言ってくれますね」
「それくらい単純でなければ他の要因を考えるべきだろう」
「言わんとすることは俺だって分かります。……でも俺が抱えている根拠は多分簡単だけど根深いんですよ」
それが出来れば苦労はない。その言葉を口にする資格を得るには本当の意味で胸の内を明かさなければならないが、そこまで開き直れていれば白田に察されるまで抱えることもなかっただろう。
「具体的なことは言えないんだな」
「まあ、理解されることでもないでしょうし」
「拗ねられるとこちらも言えることが無くなるんだが」
「拗ねてませんよ。必要なくなっただけです」
結局のところ、納得いくまで自分と向き合って答えを出すしかない。幸いそのために必要な情報源には心当たりがある。自分の過去と未来が世界の未来に繋がるという戯言を信用できてしまうのなら、敢えてこちらからその裏付けを取るのも悪くない。
「まあ生きてればそのうち割り切れるだろう。命あっての物種だ」
「そんなものですかね」
「そうあれたらいいと思う。何がそのきっかけになるかも分からんからな」
結果として反証できる根拠が手に入れば御の字。絶望的な事実しか残らなかったとしても、今よりは晴れ晴れとした気持ちで結論を出すことが出来るだろう。
「ありがとうございました。少しは足掻いてみようと思います」
「それでいい。まあ、どうしようもなくなったら手を貸してやる」
「そうならないように頑張りますよ」
お節介なクラス担任との無駄話はこれで終わり。そそくさと借りものの防具を片付け、胴着をサブバッグに突っ込んで道場を後にする。
「割り切れなければどん詰まるだけだ」
去り際に白田が口にした独り言が何故かやけに耳に残った。
目的地までは不自然な程にすんなり辿り着けた。時間を超えての渡航直後の待ち伏せもなければ、道中には野良のモンスターにすら遭遇しなかった。見覚えのある民家の残骸の脇に回って地下への蓋をめくり上げても反応する者はおらず、留守番を命じたカインも呑気に欠伸ができるくらいには戦闘の気配は遠い。警戒心から生まれる当然の疑問は渡の祖父自慢のシェルターに再度足を踏み入れた瞬間に答え合わせができた。
既に用済みだった。一言でまとめるならばそれが敵の気配がない最大の理由だろう。中央に鎮座していたデスクトップパソコンは跡形もなく消え失せており、生活雑貨の類も強欲な泥棒に潜り込まれたのか明らかに使えないゴミしか残っていない。別の拠点に引っ越す直前と言っても過言ではないほどに、記憶上では存在していた筈の物が視界には存在しなかった。
実際のところ、盗みに入られたのだろう。初めてこのシェルターに入ったのは、コミュニティに所属して初めての渡航。真魚に案内するかたちで入ったものの、乱入した黒木場秋人との戦いで中断させられた。おそらくはあの乱入も意図してのものだ。扉を開けたまま地上に戻って戦闘に集中している間、このシェルターは無防備だった。裏で潜入するための仕込みをする隙ならば腐る程あっただろう。何せレジスタンス(あちら)の言う人類の敵のプライベートな足跡が残っている領域なのだから。
「……お?」
目ぼしいものはもう残っていない。溜息をついたところで視線はパソコンが鎮座していた場所に代わりに置かれた小さな缶を捉える。最初はゴミ箱か何かかと思ったが、真魚と訪れたときに手に取った記憶があった。そして、その中身に思いを馳せた瞬間に疑問符が過る。
中に入っていたものは確かこの未来の研究者のメモや日記が纏められたファイル。モンスターは電子生命体にセルというナノマシンで肉体を与えた存在である。モンスターの本質を示すその情報を持ち帰った際、かつての仲間たちに褒められたのを憶えている。
そして、今ならその資料の作成者の名前が弟切渡だと確信できる。時間経過があったとしても自分の字だから真魚には難解なメモでも解読できたのだろう。
未来の自分が遺した情報だからこそ、敵意を持った盗人がこれを放置しているのは不可解だ。罠と考えるのが自然だろうがカインとの契約が継続している以上、大抵の物理的な衝撃には耐えられる。最悪なのはシェルターを倒壊させるレベルの衝撃を与えるもの。ただ蓋は既に開いており、その上から確認できる範囲では不自然さはない。
恐る恐る缶に触れて軽く揺らしてみる。手に伝わる振動も耳に入る内容物との軽い衝突音も真魚に見せたときの記憶とほとんど一致している。強いて違いがあるとすれば、あの時より僅かに軽い程度だろう。
改めて内容物を確認してみればゴミ箱という錯覚もあながち間違ってはないと気づく。何せ研究で使ったであろうメモや資料については悉く抜き取られており、残っていたのは個人的な心情を綴った日記や考察には役に立たない紙切れだけだった。
「当てつけか。……でも、ありがたい」
盗人にとっては不要どころか不潔なものだったのだろう。わざと残したのも、弟切渡がどんな思想を持って人類の敵と化すのかを見せつけるための嫌がらせに過ぎない。ただ、今の渡にとってはこの記録こそがどんな情報よりも必要なものだった。
今までの自分が持つ記憶とこの未来で自分が辿った記録。両方絡めて咀嚼すれば、腑に落ちる答えを得ることが出来るだろう。
大前提として、渡がドルモンというモンスターと遭遇したのはカインが初めてではない。
六年前、渡の手引きで警察に目を付けられた父親――弟切蔵太は逆上して渡を絞め殺そうとしたあの時に、同じ種を目撃している。
――義理は返すもので約束は守るもの。そうやって信用される人になれ
父親がくれたその言葉を信じた行動は彼自身の退路を断ち、明確な殺意となって渡に襲いかかった。その瞬間に渡の中で父親という存在は死んだものとなり、この末路を導いた言葉だけが弟切蔵太という存在に意識を割くための呪文と化した。いや、本来ならばその呪文も抱えたまま死んでいた筈なのだ。
渡が生き残った理由はただ一つ。その場にドルモンというモンスターが現れ、父親だった男を喰い殺したから。セルが人工的に作られていない過去に出現した理由は今の渡にも分からない。食事を終えてすぐにドルモンの姿は霧のように描き消えたため、その後の足跡も分からない。
渡は警察には見たままの事実を話したが、死の間際に見た幻覚だと見做され、蔵太は不審な点を残したまま自殺として処理された。渡自身もドルモンのことは幻覚か何かだろうと思おうとした。だが、記憶に焼き付いた生々しく鮮烈な情報は薄れることなく、今でも事実として存在感を維持している。そして、それは父親だった男が遺した言葉を体現するべき相手という認識も伴っていた。
このときから弟切渡という人間はいかれてしまったのだ。洗浄されることなく残った染みは高校生になった現在では人格を形成する模様と化し、きっかけを与えられた未来の自分にとっては抑えがたい衝動となった。
二〇四五年、後に「神の触手」と讃えられる存在を人類は知覚し、弟切渡は道を踏み外す一歩を踏み出した。
光の球体のような形態で現れたその本質は電子的なもので、個性が存在しないが故にある個体に対して手を加えた瞬間、全個体に最初からそうであったかのように反映される特性を持つという。物質世界における振る舞いも含めたその存在は製作者も不明どころか設計思想からして人類の記録にも存在しない。今人類が知覚している次元とは異なる次元から現れた存在だという説も騒がれた。
自己組織化ロボットをテーマに掲げていた渡も物質世界における振る舞いに着目して研究を進める中でその説を支持すると同時に、長年抱えていた衝動の根源に対しての仮説を立てた。幼い頃に見たドルモン――モンスターも同様に電子的な存在が仮初めの肉体を得た姿だったのではないかという説だ。
元々奇特な存在に対する研究だったこともあり、奇特な発想を持つ研究者も多かった。何せ時間軸すら無視する特性から過去改変という発想に跳躍してタイムマシンを作ろうと考えた女傑すら現れたくらいだ。気の狂った連中が集まっては長い時間を掛けて論争と研究を繰り返し、おかしな妄想でしかなかったはずの事象を一つずつ証明していき、夢物語だったはずのテクノロジーは次第に現実見を帯びていった。
研究に費やした時間は十五年。その間に別次元に住まうモンスターの存在に確信を得て、自分がかつて遭遇したドルモンも十五年前の「神の触手」と同様に何らかの偶然で実体化したモンスターであると突き止めた。そして、今度は自らの手でセルという物質的な肉体を与えられる手段を確立した。ひと時の偶然ではなく永遠の必然として、彼らと接触する術を作り上げてしまったのだ。
モンスターの実体化が何を招いたかは今の渡がいる未来が示す通り。スタートは恩義か憧れか。いずれにせよ一人の男の妄執によって、人類の未来に最悪の脅威が実体化したのだ。
「本当に頭おかしいんだな、俺って」
この世界で自分が辿った考えを整理した上で初めて出た言葉は納得に似た諦観だった。一度死にかけたあの時からずっと自我の根底にはその記憶が燻っている。それが何一つ幻覚ではないと証明できたうえでもう一度あのドルモンという存在に会える手段を確立できるのなら、今ここに立つ自分も同じような末路を選ぶであろう確信がある。寧ろ手順を知ってしまったからこそ、今更安易に道をずれようと思えない自分が居ることを自覚してしまった。
「こんな状況に陥る訳だ」
父親だった男の死の間際の呪いはその時に救ってくれた相手に対する意識として最も深く根付いている。カインと初めて会った時に迷うことなく契約に至ったのも、その時の記憶とリンクしたのも一つの要因だと今では思う。
ドルモンという同種ではあれど同一個体ではないことは渡自身も頭では分かっている。そもそもあの時のドルモンが今同じ姿で存命しているかも怪しい。それでも一種の代償行為としてあの時の渡はカインという名を与えてともに生き抜こうとしたのだ。
「おかしいなりに道理を通すしかない、か」
そう、代償行為だ。渡自身、カインをもうあのドルモンと同一視していないとは自信を持って言うことはできない。それでもカインの死に様は見たくはないし、可能な限り生き延びて欲しいと本心から思っている。その思いの重さがゴブリモンとの一戦の分だけではないことは自信を持って断言できてしまう。他の重さに少しでもあのドルモンに対する代償行為が含まれているのであれば、自分自身のおかしな精神性がいい方向に作用するだろう。
「やってやるよ、X。俺はお前の敵として戦い抜いてやる」
カインにこの戦いの勝者という名誉と安寧を与える。そのためにすべてを捧げ、根底に刻まれた呪いをドルモンという種に対する代償行為として発散させる。今の渡にとって、自分が生きていいと納得するための理屈はこれくらいしか組み上げられない。それでも、未来の人類の仇となった男として、一人のトラベラーとして、戦って生き残るための覚悟を固めるには十分だった。缶の底に残った自分以外の筆跡が残る唯一の紙切れも、今の自分であれば有効に活用することができるだろう。
「貴重なお時間を頂き、ありがとうございます」
カラオケボックスに不釣り合いな言葉で渡は口火を切った。夏根市の駅近くに複数あるカラオケボックスの中でも遠い方の店を選んだのは高校生の財政事情を踏まえた涙ぐましい警戒態勢によるもの。できる限りの準備を整えるのは招聘した者としての役目だ。
「ホストだからといって畏まり過ぎだ。気楽にするといい」
「巽さんがそれを言うと皮肉にしか聞こえませんよ」
恭介の店――喫茶パトリモワーヌを貸し切って使うことはもうないだろう。最初からスパイだった二人が盗聴器の類が仕掛けていた疑念も拭えないが、それ以上に彼らと過ごした思い出が紐づいてしまっている。正義を振りかざして向かってくる彼らと戦う覚悟が鈍りうる要素は排除しておきたい。いや、大半はそういうかたちで心を揺さぶられたくないという単純な感情的な問題だ。
「まだ俺みたいなのを仲間と思ってくれてる相手を無碍に扱えませんって」
「随分と卑屈なんだね。悪役には慣れていないのなら私が振る舞いを教えてあげようか?」
「これでも真っ当に生きてきてつもりだったんだよ、鈴音さん。――でも腹は決まった」
その心情を誰よりも自覚しているのは渡だろう。レジスタンスのために戦うと決めた連中から最もヘイトを買っているのは間違いなく渡であり、渡自身その自覚があるからこそ、今仲間である連中を今日呼び出したのだ。
「これは依頼であり、取引だ。俺は俺自身を囮にレジスタンスの連中を、その先に居るXを引きずりだす。だから、Xを殺して生き延びるのを手伝ってほしい」
頭を下げた渡の言葉に疑問符を浮かべる者はいなかった。トラベラーとして残った自分達とともに戦うために自分に課した――自分自身で割り切るために練った渡なりの理屈。悩んだ結果として、歪でもそのような答えを出さねば気が済まない堅物であることは今まで彼を見てきた仲間には分かっていた。
「死にたがりという訳ではないんだな」
「お前にそう見えているなら問題ないな、将吾。……まあ、死ねないと思ってしまうから面倒なことになるんだが」
乾いたような笑いには諦めに似た印象を与える。そんな表情を見せられれればどのような思考の過程を経たのかを探ることすら憚れる。渡の考えは簡単なことでは変わらないだろう。出来ることは彼の望み通りにレジスタンスの彼に対するヘイトを利用して、戦いを少しでも優位に進めるだけ。
「で、実際どうしろってんだ? 日取りでも決まっているのか?」
「日取りはいつでも。ただ仕掛ける場所は決まっています。……今座標を送りました。巽さんが以前ぶっ壊した地下プラント跡からざっくり二キロの地点。そこに連中の支部の一つがあるようです」
抽象的な方針の話の後は具体的な手順の話。ただ戦場として提示された場所は渡以外の面々も把握していない敵の拠点。もたらされた情報に対して不思議と渡の情報網を侮っていたとは安易に喜べなかった。
「そこを攻め落とすと?」
「先方の首領からのご指名です」
攻め落とす。恭介が敢えて選んだ言葉に動じず渡は返したが。逆に彼の返答にはこの場の面々も表情を歪めざるを得なかった。
「それってどう考えても罠だろ」
情報提供者はよりにもよって最終的な標的――X本人。情報の信憑性が発信者によって左右されるのはよくある話だが、これはその中でも最悪の部類だろう。支部があるかの真偽など最早どうでもいい。確実なのはその場所に敵の思惑が張り巡らされていること。
「おそらくは。待ち伏せされるでしょうね。でも、そこに必ず奴はくる」
それを承知で渡はその身を投じようというのだ。理由はただ一つ。標的がこの場に現れるというゆるぎない確信だけ。
決戦の場を記したのはあの地獄を作り出した研究者のファイルの代わりの置き土産。わざと残した日記を見ても自分の過ちを認められない愚か者に向けた招待状だ。
「奴は俺と相対した以上、レジスタンスを率いる長としてではなく、個人的な復讐の対象として、奴自身で俺を殺そうとして来る。――そこで奴を討つ」
言ってしまえばリスクしかない全面対決の提案。気が狂ったのかと言われればノータイムで最初から狂っていると答えそうな覚悟。そこには彼らの手を借りずとも斬り込みそうな危うささせ見えていた。
「馬鹿かおめえは! 戦力差が分からないのか?」
「分かってるつもり、ですけど」
正道の一喝にもその後の諭すような正論もあまり効果は見られない。自分達の力を過信する様子もなく、活路はあるとでも言いたげな視線を返すだけ。半ば呆れながら援護射撃を求めるように正道は恭介へと視線を逸らす。
「それなんだが……伝手ならありそうなんだ」
「は?」
だが恭介が撃ったのは援護射撃ではなくフレンドリーファイア。戦力差が埋まるような希望を与えるにしてもタイミングがあっただろう。そう恨めし気な視線を受け止めながら恭介は続ける。
「他のトラベラー達もレジスタンスと遭遇して分断されたらしい。ただ幸いと言うべきか、レジスタンスに協力する勇敢な人間が一番少なくて、大半はリタイアしたようだ。彼らの残党と共闘する話自体はついている。……特に強力な助っ人とも交渉中だ」
他のトラベラーとの共同戦線と強力な助っ人。自分達以外のトラベラーも似た状況ならばさして戦力に影響は受けないのではないかという疑念を封殺するほどには助っ人とやらには相当な自信が込められている。現状最高戦力のマメゴンを有する恭介が認める程ならばその実力は疑いようはないだろう。
「契約モンスターの数で勝っているのなら勝機はあると俺は踏んでいます。それとも皆さん今更多少群れただけのデクスに苦戦するような腑抜けだとでも」
煽るような渡の言葉に反論するほどに自分達の力量を過小評価している者はいない。基本的にデクスは対応する各成長段階のモンスターよりも戦闘能力自体は著しく落ちる。成熟期(アダルト)相当の紺色の個体が多少群れたところで捌くのに時間は経験上さほど掛からない。完全体(パーフェクト)相当の緋の個体も性能は同等のモンスターの半分程度で生産数も紺の個体が十体につき一体程度。手際よく処理できれば覆せる範疇ではある。
「なんで背中を押すような真似を」
「正直なところ私も決着は早めにつけにいった方がいいとは思うんだ。このままでもジリ貧にはなるし、慎重過ぎると取り返しのつかない状況に陥る予感がする」
そんな風に理屈をこねたところで無謀な戦いであることには変わらない。それでもこのまま後手に回ってはいけないという焦燥感を全員抱えていた。その根拠を予感や直感の類だと馬鹿には出来ない。
レジスタンスのスパイ二人が本性を現してXが表に出てトラベラーを分断したあの瞬間から、戦いのステージは次の段階に移っている。彼らが表に出たのが隠れる必要がなくなったからだとすれば、悠長ではいられないという危機感は意識せずとも生まれてしまう。
「改めて言っておきます。――俺は死ぬつもりはない。でも、囮として使い潰されるのは大歓迎だ」
渡の覚悟に乗せられつつある流れを止める者は誰もいなかった。
いくつかあるレジスタンスの地下プラント。その中でも研究に特化したプラントには半ばレジスタンスのリーダーの私室と化した部屋があり、モンスターの研究に興味のない黒木場秋人にとっても目を引くものが多かった。
衣服用のラックには空軍パイロットの装いに似た外出用の服だけでなく、研究用の白衣がいくつか並んでいるが、持ち主が袖を通した姿はあまり見たことがない。デスクには元凶のシェルターから持ち出したファイルが無造作に置かれ、その脇には現代から持ち込んだ中でも気に入った粒ガムの空きボトルが三つ転がっていた。それらの奥には二台のモニターが現在取り掛かっている研究の成果物をそれぞれ映している。
一つはこれまでデクスが捕食してきたモンスターの記録。直近で戦ってきた中で見込みのあった化け物もそこに刻まれている。
二枚目のディスプレイに映るのは試験場と銘打たれたフロアの様子。散々見慣れたデクスのカプセルも一定間隔で整列したものが一斉に中身を解放される様を眺めるのならばなかなかに壮観だ。これから起こる中身同士の食い合いを鑑賞するのも暇つぶしになるだろう。
「本当にあんたも来るのか?」
「招待状を出しておいてホスト不在は格好がつかないだろう。丁重に歓迎してやらねばな」
「そんなものはつけなくていい。あんたの分も俺が苦しませてやるからよ」
始まった同族殺しのバトルロワイアルを眺めながら、秋人はゲームマスターに語りかける。彼が最後に残った一体を伴ってプレイヤーとして本命の戦いに参戦するつもりなのは分かっている。だがあくまで彼――Xはレジスタンスのリーダーであり、結束の象徴でもあるのだ。いくら相手がこの時代の元凶だとしても、そいつに個人的な恨みがあるとしても、安易に危険な場所に身を晒す理由にはならない。
「安心しろ。別にそれだけが理由じゃない」
モニターから視線を外してXは秋人を真正面から見返す。相変わらず隈は濃いがその奥の瞳にはリーダーとしての知性と責任感が残っている。必要以上の激情も籠っていないのなら、目の前の男は秋人にとってはまだ信頼に値する人間だ。
「少しはマシな理由なんだろうな」
「寧ろあいつの契約相手の方に興味があるんだよ。推測が正しいか、直に確認しておきたい」
悪戯好きな子供のように笑ったつもりだろうが、ほくそ笑むという表現の方が適切なXの表情には意地汚い大人の邪悪さしか感じられない。
「オーケー、分かった。リーダーはあんただ。勝手にしな。俺はいつも通り暴れるだけだ」
「ああ。頼りにしてるぞ、秋人」
だからこそ、黒木場秋人はこの男とこの男が守りたいものに大した価値のない自分をすべて賭けたのだ。
>夏P さん
レジスタンス側で再序盤から出てきてたので、レジスタンス側の主人公と言っても間違いではないかもしれません。現状では。
まさか主人公の出番が年またぐ単位になるとは……本当に久々になってしまいました。実は一話に僅かに出てきてた先生。荒唐無稽な話も聞いてくれる白田秀一先生は果たして白か黒か。
一応渡の過去については、七話の真魚とガチンコした後の会話パートで、渡の告発で逆上した父親に殺されかけ、不意に現れたドルモンに食い殺されたのは回想していますが、深く掘り下げたのは今回が初ですね。
やる気スイッチか若気の至りか。わりと受動的に行動しがちだった渡が自分の本質と向き合った結果、退路を立たずにはいられなくなった感じでしょうか。前に進むしかなくなったその先は果たして安寧か地獄か。
結果については、次話の通りと言いたいところですがまだ区切りはついていないので、ギアを上げて書きたいところです。
>快晴 さん
毎度お待たせしてすみません。
実戦と呼べるほどの剣道の稽古が描けていたのなら、昔は実際に竹刀を握っていた甲斐もあったというものです。
白田先生は一見ほどよくゆるいけどそこそこ頼れる先生というイメージにしました。過去と歪みのせいか乾いた印象を与えがちな気もする渡ですが、実際は悩める男子高校生でもあるわけで。
渡の歪みの根底は何度か示した通り、父親の言葉とそれが呪いに転じるドルモンの邂逅でした。今はどこにいるかもそもそも生きているかも怪しいドルモンに固執した結果があの未来だと言う訳で……いややっぱりおかしいなこいつと作者でも正直思います。
今のカインを生かすための戦いも言ってしまえば代償行為でしかない訳で。ただ、カインとの出会いもゴブリモンを退けることができたという借りという表現が出来たために気づくこともなかった感じです。
なんだかとんでもないもの……いったい何ーターのことなんだ?
流石に裏切者が出ている以上は大っぴらに今までの場所は使えない訳で、実質的なコミュニティの解体を示す一番のファクターはやはりそれになります。
見守る大人も今のところは大人らしい体面を保てていますが、今後どうなるかはなんとも言い難いところです。
未来の自分を知って、今の渡がどんな選択をするのか。その一端と待ち受ける結果の一例が次の戦いになるかもしれません。
誘い出した以上はレジスタンス側も思惑はあるわけで。特に首謀者たるXが並々ならぬ思いを抱いていることは次回を見ていただければお判りいただけたかと思います。
この戦いの決着まではなんとか早く書き上げたいところですがなんとも。
> ユキサーン
遅筆とはいえ、そこそこ話数と文字数があるなか読み直していただきありがとうございます。わりと普通の名前なのも埋没しやすい原因かもしれませんが、今更なのでどうしようもないですね。
将吾は理由がドシンプルな上に助けたい相手の妹との絡みも見込めるので、分かりやすいですよね。というかX抗体御三家残り二体の担当の性格がアレ過ぎるので猶更かと。
結局は今のカインとのパートナー関係も未来の自分がしでかしたことも、あのドルモンに対して義理を果たせていたかというと……どうでしょうか。少なくとも、今の行動は自分でも認める代償行為でしかない訳で。呪いに関しては、士郎とケリィの影響を自分なりに出力した結果なので仕方ないです。女の子が酷い目に会うのは辛いですが、屈強な男の精神をベキベキに痛めつけるのはジャンプ作品などの大人気漫画のトレンドでもあるので何も問題ないかと。
数回の出番とはいえ拠点が使えなくなるのは、否が応でも事態が次の状況に移ったことを思い知らされます。南極のカルデア……。
レジスタンス側に行った人間の思惑もそれぞれで晴彦みたいな過激派もいれば、真魚にしたようにリタイアさせる手段があるならそれを使えばええやんみたいな救済者志望もいますんで。……それはそれとして、レジスタンスとして下手に未来人と接触すると思い入れってできますよね。
今回の渡は完全に退路がないので地獄に突っ込むのは仕方ないです。
外からの意見が案外的を射たりすることも無きにしも非ずな訳で。抽象的な例えを出されるとまあ当たり前の結論が出る訳ですが。
次の全面戦争で然るべき決着は着きます。なおさらギアを上げないと。
アハトが実質デジモン化かどうかは……ま……まああんたほどの実力者がそう言うのなら……
まとめてになりましたが、改めて感想ありがとうございました。
どうも、アメブロの方で読ませていただいていたのに色々ある内に途中途中の話とか人物名とか記憶から抜け落ちて思い出す一環で1話から最新話まで一気に読み直してたら割と色々死んでてぐえー! となったユキサーンです。漢字の人物名覚えるのむずかしい……(日本人なのに)。
とりあえず最初に個人的な推しを述べさせてもらうと、やっぱりまぁ将吾くん。トラベラーとして戦う理由がシンプルなだけあって感情移入もしやすくて、主人公である弟切渡くんの友人としても色々と心強い。いやほんと数話前のあれこれとかよく持ち堪えてくれたわ……。
実の父親に殺されかけてそれを結果的に助けてくれたドルモンに義理を返した……返すためにやることやっただけなのに未来がこんな事になるとか正直言って渡くんが可哀想すぎるというか代償デカすぎんだろというか……いやまぁ巻き込まれた側からすればたまったもんじゃないでしょうけど。なんかこれ結局は結果として呪いとなる言葉を遺した所も含めてお父さんマジクソじゃねーかとなる……。『メモリーズ』とは違う形ですが相変わらずパラレルさん宅の主人公の境遇いろいろ悲惨すぎィ!!!!!
パトリモワーヌからも離れてカラオケボックスで作戦会議する所はもうなんというか事情とか加味してもハカメモで元々の拠点がドゴォした後の状況とかとも重なって思い起こされてつらい。もう元通りになる事は絶対に有り得ないんだもの……。
レジスタンス側の理由も解りはする一方で、それはそれとしてだから渡くん死ね!! 他のトラベラーも消えろ!! は色々と納得できねぇー!! 破ァー!!!!! なのでマジで渡くん達が幸せになる可能性はあると信じたい……まぁ明らかに渡くんの方から地獄に頭突っ込んでるんですけど……!!
白田先生の言葉が色々と重くきててやばい。当たり前のことを当たり前に言ってくれる人ってのは本当にこういう時貴重なんやなって……。
契約相手のデジモンの空腹を満たさないと喰われてしまうため戦い続けなければならず、デジモンの方もまた人間を食べると人語を喋れるようになったり、色々と好みな設定というか作風をしているお話も一つの終局へ。トラベラー達とレジスタンス達の行く末はどうなるのか、将吾くんの願いは叶うのか、色々気になることだらけのX-Traveler、次の話も楽しみにお待ちしております。
PS お姉さん食べたワスプモンがお姉さんのデータを獲得して喋り方まで似始めている……これは、実質デジモン化なのでは?(そうかなぁ?)
こんにちは、快晴です。
楽しみにしていた『X-Traveler』最新話。期待以上の高揚感と共に読ませてもらいました。拙いながら、感想をば。
いきなり実戦、それも人間同士のものが始まり、最初っから度肝を抜かれるばかりでした。パラレル様と言えば緊迫感のあるハードな戦闘シーンというイメージを勝手ながら抱かせてもらっているのですが、人間の剣道の試合シーンまで書けるとは……。心に一本決められた気分です。
担任兼剣道部の顧問の白田先生も、なんだか「いそう」な感じでいいですね。というか、このところ戦闘&驚きの展開が立て続けに起こっていた事もあって、渡さんの学生生活シーンというのはなんだか新鮮でした。そうか、そうだった。彼はまだ高校生だった……。
そしてついに明かされる弟切 渡という男のオリジンであり未来。
過去にドルモンの介入があった事自体はこれまでもにおわされてきましたし、父親の一件は以前に明かされてはいましたが、こうやって詳細を聞くとあまりにもハードで、その全てが渡さんに深く深く刻み込まれたというのも、納得の説得力です。
全人類に牙を剥いた、渡さんのドルモンという種への恩返し--代償行為。動機自体は理解できなくはないけれど、人類にとってはまさしく人智を超えた災害だったのでしょうね。何を……何をどうすれば正しかったんだ……。
あとさらっと、なんだかとんでもないものが出現していましたね。未来コワイ。
覚悟を決めた渡さんと、彼の覚悟に乗るトラベラーの面々。カラオケボックスでの作戦会議というのは定番のシチュエーションではありますが、パトリモワーヌからすら彼らが離れてしまったと思うと、地の分で書かれた事実も相まって、やはり一抹の寂しさがあります。
ただ、Twitterでも呟いたのですが、冒頭の白田先生を含め、渡さんの周りに大人がいる光景は、本人の心情はまた別としても、一読者としては奇妙な安心感を覚える部分もあったり。
未来の渡さんと現在の渡さんの辿る道や出会う人々が、現時点で大きく変わっている可能性を思うと、まだ希望はあるのではないかと、勝手に推測--いや、祈るばかりです。
そしてレジスタンス陣営の動向にもわくわくしてきましたね……!
Xさんの思惑にも黒木場秋人の活躍にも目が離せない……恭介さんの持つ伝手も含めての正面衝突という事で、次回はどんな展開が待ち受けているのか、ハラハラドキドキ、楽しみにお待ちしつつ、以上を今回の感想とさせていただきます。
うーん、そういえば今まで散々、秋人を主人公と認識した感想を書いてしまっていた気がする夏P(ナッピー)だぞ!
というわけで、主人公がすげー久々に登場! この先公、地の文の割にすげー出来た大人な気がしますが、事情知らないのにすげー親身になってくれるもんでむしろ怪しくて敵なのではと警戒してしまうのは今までの作風や展開ゆえか。あれ? 過去に何か背負ってる感は度々描写されてきた気がしましたが、実の父親に殺されかけた上、そこをドルモン(別個体)に助けられたって明言されたの今回が初か!?
そこから割とスマートに、しかし同時になんだか危うい感じで決戦への道程が敷かれた感じですが大丈夫かこれ……なんか罠ごと食い千切ってやるぐらいの意気込みはいいがそれ以上に地獄に自分から突っ込んでいる感じが。
それでは吹っ切れた結果を早めに明かされる機会を待たせて頂きます。
一年半ぶりに主人公が出てきました。週刊連載の長編でしたっけ? おかしいなぁ……。
その分、主人公こと弟切渡の本質と過去にフォーカスが当たった説明回という感じになりました。自分がずれているということを理解し、ずれているが故に起きる被害を受け止め、それでも戦うためにずれているなりの理屈をこねる。その吹っ切れた結果がどうなるかは次なる決戦で明かされるかもしれません。