「ただいま、トラさん」
「“トラファマドール”と呼びたまえ。“ドクター”でも“ドクトル”でもいいよ」
「トラさん」
「まったく、君に衣食住を提供しているボクに、もう少し敬意を持ってくれてもいいと思うんだがねェ」
「わたしが頼んだわけじゃない。それに、こうしてトラさんの頼み聞いてるんだから貸し借りはナシのはず。ハルキくんのこと、助けてきたよ」
「ご苦労だったね」
「もうひどくってさ、背中がらあきで拷問してるの。見てられなかった。なんだってあの人を助けなくちゃいけないわけ?」
「重要なんだ。説明は難しいけどね。6次元領域の生物の繁殖活動が密接に関わっている」
「テキトー言うな」
「おや、お見通しか」
「ふん、言っておくけど、これからもわたしの力をこんな風に都合よく使えるとは思わないで。わたしが殺すのは、わたしが狙う相手だけ」
「分かっているとも……おや、何をするんだい」
「制服、さっきビルのフェンスでひっかけちゃったから、直すの」
「食事はいいのかい、ヒナノ」
「わたし、殺しの仕事の直後なんですけど」
「殺したと言っても、もともと死んでいたようなゴーストだろう?」
「……」
「おや、気を悪くしたかい?」
「……たしかに。どうせもともとユーレイか。トラさん、わたしマルカメのぶっかけうどんがいい」
「やれやれ、もう少し欲を出してもいいのに」
「じゃあほかのどこにあのうどんとトリ天ぷらがあるのさ。行こう」
「ああ、いいとも」
「──といいな」
「何か言ったかい?」
「え、ああ、独り言」
明日は、殺せるといいな、天使。
”塔”のほど近くの道路は、そこまで車通りが多くなかった。時折”カンパニー”の研究所に何かを運ぶデジモンが通るくらいで、それもガードロモン程度の大きさで事足りてしまう。道は元々あったビルと新しく建てられたビルが奇妙に混在していて、その隙間を縫うように道路があった。道路が先にあって、それに沿って建物が建てられたのだとはとても思えなかった。道路の方でもそう思っているようで、信号機から縁石の一つに至るまで、どこか肩身が狭そうだった。
そんな道路をこちらに走ってくるタクシー車両は、まるでだまし絵のパーツのようによく目立った。車体は緑に白のストライプ。持ち主はいい加減塗り替えたいと言っているのだが、僕が説得してそのままにさせている。町中を調査するのにタクシーは目立たなくていい。
僕はジャケットのポケットに入れていた右手をタクシーに向けてあげる。車は僕の目の前で停まり、運転席の窓がゆっくりと開いて、真っ赤な悪魔の顔をさらに赤くしたブギーモンが顔を出した。彼はいつもそうだ。飛ばしているのは車のスピードだけなのに、まるで自分が200メートルを走った後のように顔を真赤にする。
「どうだった?」
「どうだった、も何もありませんや。旦那。こういうのはもうナシにしろってまさに今日……」
「で、どうだった」
有無を言わさぬ僕の問いかけにため息をつくと、ブギーモンは首を振った。
「どうもこうも、ダメでしたよ。無理もねえ。向こうはビルの上から上へぴょんぴょん飛び移ってやがる。建物を無視して斜めに走れば最短距離、っていうのを地でいってんだから、こっちがどんなにぶっ飛ばしたって無駄なことです」
「君には立派な翼があるじゃないか。悪魔としての矜持はどうした」
「おれは文明的に生きるって決めたのさ。不満があるならお給金を今の5倍にしてください。バット・モービルを買いますから」
相当頭にきている様子のブギーモンに捲し立てられ、僕はため息を付いた。とはいえ、彼は数秒でも”あれ”を目視したのだ。それならば──。
「何度見ても、少女だった? アンティラモンではなく?」
「いくらおれの目が節穴だからって、その2つを見間違ったりしませんよ。どう見たって人間に見えました。セーラー服着た、女の子ですよ。きっちり後方にも注意を払ってましたけど、後からうさぎが飛び出してきたなんてこともありませんや。」
「ふむ……」
僕は顎に手を当ててうなった。
「そもそも、アンティラモンは機械でも悪魔でもない。そんな完全体がこっちの世界に来たなら、少なからず噂になってそうなもんだ」
「もっともだ。と、すると、単に僕が白昼夢でも見ただけかな」
冗談めかしてそう言っては見たが、その言葉は空虚に秋の空に浮かんでいくだけだった。あれは幻覚でもなんでもない。僕自信が一番、それを分かっている。
「そうだ」僕はジャケットから1枚の写真を取り出した。女の死体が持っていた写真。ビル群に浮かぶぼやけたうさぎのシルエット。
「ブギーモン、これはどう。今日君が見たものと、同じだったりしないか?」
ブギーモンは窓から首を伸ばし、目をこすりながら何度もその写真をまじまじと見た後、いった。
「ええ、これです。おれが追った女の子も、こんな感じでした」
「なんだって?」
「えーと、旦那、これがうさぎに見えるんですかい?」
疑いの言葉を差し挟む間もなく、ブギーモンが怪訝そうな顔で見てくるものだから、僕は思わず口をつぐんでしまった。
その時、僕のスマートフォンのアラームが鳴る。あ、悪い、そう言ってそのぴりりりという音の連なりを止める僕に、ブギーモンは首を傾げた。
「なんの時間です?」
「死体発見から30分、そろそろ通報しないとまずい」
「死体!」
ブギーモンが素っ頓狂な声を上げた。
「聞いてませんよ、旦那」
「僕だって死体を拾いに行くつもりで君に仕事を頼んだんじゃない。依頼人に会いに行ったんだ。そして、依頼人ってやつは、普通の人よりも死体になる確率が全員少しばかり高いんだな。それだけだよ」
「冗談にもならねえよ。おまけに旦那、『通報する』ですって?」
信じられない、という言葉が、その口ぶりに十分すぎるほどに込められていた。
「旦那、悪いことは言わねえ。やめておいたほうがいいですよ。逃げましょう」
「僕は国民の義務を果たそうっていうんだぞ」
「もう一回いいますよ。冗談じゃないんです」
ブギーモンが真剣な口ぶりで言った。その目に嘘はなく、僕の身を本気で案じていることが伝わってくる。
「旦那が警察のあしらいがうまいのは知ってる。取調室に入れられても顔色ひとつ変えないくらいタフなのも知ってるよ。でも、悪いがここら一帯はほとんど日本じゃねえ。”カンパニー”の膝下なんだ。来るのは旦那の馴染みの警官じゃない。”カンパニー”のオイルまみれの金を握らされた連中だ」
「そうして僕は101号室に入れられる。ってわけだ」
僕はへらりと笑った。
「大丈夫。覚悟はしてる。”カンパニー”の影響下の警官たちが、この事件をどう扱うのかが知りたいのさ。それに、逃げたってどうせ無駄だ。往来にはカメラもあるしね」
そういいながら、僕はポケットから分厚い封筒を取り出し、うさぎの写真を入れると、タクシーの後部座席に放り込んだ。
「なんですか、今の」
「被害者が持っていた写真だ。哀れな吐かせ屋くんが彼女の遺体から持ち去ったおかげで扱いは遺失物になっている。僕が拾い、交番に届けようとしたはいいが、明日の髭剃りのことを考えていた間にタクシーに置き忘れてしまったんだ」
「国民の義務が聞いて呆れるってもんだ」ブギーモンが笑った。
「警察に捕まったら今の口上をそっくり話して、そのまま渡しちまいますよ。おれは機械どものリンチなんかごめんなんでね」
「そうするといいさ」
「警察署に迎えはいりますか」
「いらない、トレイル・ラインを使うか、留置所で一泊してくるよ」
ブギーモンはもう一度笑って、軽くクラクションを鳴らして走り去った。
駆け足で路地裏に戻ってみれば、既にそこには警告用のテープが張られていた。なんのことはない、黄色いホログラムで、僕はそれを飛び越える。おそらく現場の責任者に警報がいくだろうが、僕としてはそのほうが話が早かった。
現場では大勢のエスピモンが捜査に当たっている。青く透明なカプセルに玩具の戦闘機の翼と熊の顔をあてがったようなモンスターで、どう見たって殺人現場よりも、となかいの夢を見る少年の枕元の方が似合っている。それでも彼ら一体一体が、熟練の刑事を凌ぐほどの捜査力と分析力の持ち主なのだ。
「そこでとまれ」
ごみ箱の中の遺体を見ていたエスピモンの一体が機械的な音声が僕に警告する。すぐに、冗談のような甲高い浮遊音とともに、おそらく彼らの上司なのだろう、ホバーエスピモンが飛んでくる。
「そこで止まれ、何者だ」
「ブルース・ウェイン」
僕は両手を頭の上に上げて言った。
取り調べでは殴られることは無かった。どこまでも穏当な取り調べで、僕はどこまでも穏当な嘘をついてそれを切り抜けた。ただ、取り調べという呪術的な儀礼が持つ性質そのもののせいで、調書を確認して電子署名を記す頃には、時刻はすっかり夜で、僕もくたびれきっていた。
警察の受付で解放され、僕は腕をぐるぐると回す。固い椅子に背を預けていたせいか、小宇宙が破裂するようなぱきぱきという音がした。
「あら、お疲れ?」
ロビーを出たところで、聞き覚えのある声をかけられ、僕は肩を落とす。振り返れば、そこにはタイトなスーツに身を包み、濡れ羽色の髪を伸ばした眼鏡の女性が立っていた。
「今日はどの刑事とも話す気になれないんだけど」
「あら、ブルース・ウェインにしては随分気弱じゃない。エピスモンにふざけた名前を名乗った人がいると思って来てみたら、やっぱりあなたね、染野君。」
「耳が速いね。もうそんなに偉くなったのか、日浦?」
僕の問いに日浦風吹(ヒウラ・フブキ)は皮肉気に唇を吊り上げた。昔以上に鋭い雰囲気を纏っている。そんな雰囲気のために美人だが誰も寄り付かないことを昔は愚痴っぽく嘆いていたものだが、今の彼女はその鋭さを誇りにしているようだった。昔は徹夜で勉強を続け、その疲れが格好にも出ていたものだが、今の服装には一分の隙もない。とはいえ彼女が疲れを隠す術を身につけただけで、眠りを削ることをやめたわけではないということは、顔のそこかしこに小さく刻まれていた
それでもその皮肉っぽい話し方は変わらず、僕は喉の奥で笑いを漏らす。
「何がおかしいの」
「いいや、何も。ただ僕は、あの場所で起きる事件に関わる奴らは皆汚職警官だって聞いてたものだから」
──そんなに話さなくていいんじゃない。その子、昔からハルキのこと好きだよ。
耳元で声が響く。風吹が僕に好意を抱いていたのは確かだろうけど、頭の中のつばめにこんなことを言わせる僕の方が何倍も気持ちが悪い。
「誰が言ったかしらないけど、あの土地と”カンパニー”にまつわる陰謀論に踊らされるなんて、バカね。染野君は、私のこともそんなふうに思っているのかしら」
余裕ぶった言葉と裏腹に、風吹の声は驚くほどに不安そうで、僕は思わずため息をつく。昔からそういうことが気になってしまうやつなのだ。清廉潔白で厳格なやつだけれど、彼女の周囲からの評価を気にしすぎる。本人がそれを悪徳だと認識しているからこそ、余計そういう面が目立つ。時代が変わっても警察組織の中での女性の立場は厳しいもので、そんな環境での気負いもあるだろう。完璧でありたがっているしその素質はあるが、完璧の基準を己の中に持てるほどには強くないのだ。
だから、彼女が完璧の基準を、私腹を肥やす警察のおえらいさんからの評価にでもおいてしまったら、言われるがまま”カンパニー”に便宜を図ることもあり得るだろう、と僕は思った。
「まさか、僕だって人でなしじゃないんだ。警察学校時代からの友人を疑ったりしない」
僕のその言葉に、彼女は自信を取り戻したようで、目の前にいるのが現場に無許可で踏み入った参考人であることを思い出したようだった
「あら、そう。ま、私の方では疑わせてもらうけどね。殺人現場に立ち入るなんて、どんなつもりよ。いつもいつも警察をバカにしてくるけど、今回のはちょっと論外だわ」
「なぜ殺人現場にって、殺人現場だからに決まっているだろ。あそこが下着泥棒の現場だったら僕だってわざわざ戻ったりしない」
「それじゃあ、染野君は、全てさっきの供述どおりだと言い張るわけね」
「取調室で嘘をつくかよ」と僕は嘘をついて、それから眉をひそめた。
「取り調べを聞いてた?」
「当然、あんな面白いもの見逃がせるわけないでしょ」
「言ってくれよ。そうしたら、タキシードを着て、髪をセットして取り調べに応じてた」
──気のあるふりをしないで! がるる。
「あら、素敵。そうして同じ嘘を吐く、と」
彼女はポケットからメモを出すと、朗々と読み上げる。
「依頼人に指定された場所に行ってみたところ依頼人はおらず、不審に思ってあたりを調べたところ、死体を二つ発見した。誰かが立ち去る気配がして追いかけたが見失い、通報のため現場に戻った。それだけ? 男の方に心当たりはないと?」
「ないよ。でもそばに麻薬煙草が落ちてたし目は血走ってたから、ジャンキーだ。ラリって彼女を殺したってとこだろ」
「ただのジャンキーじゃない」
そんなこと知っているでしょうとでもいいたげに、日浦はメモを叩いた。
「しっかり警察のファイルに載ってる吐かせ屋よ。人を痛めつけるのは好きだけど人殺しになる勇気はない、クズね」
「人を痛めつけるのが好きだと思い込まないと、生きていけなかったんだろう」
「”悪いのは社会”? まあいいわ。とにかくあなたの依頼人は何かを握ってた。そして、それを得るためには拷問も人殺しもするやつがいるの。知ってることがあるなら、今言うのがあなたの身のためにもなるわ」
「本当に知らない。彼女が何を知っていたにしろ、僕はそれをまだ聞いてなかったんだ。厳密には彼女は僕の依頼人ですらなかった」
「知らないならなおさら、知ろうとしたはず」日浦は粘った。
「あなたはそういう人よ、染野君」
「君が僕の何を知ってる」
「警察学校を優等で卒業した後、雲隠れしてフィリップ・マーロウのまねごとを始めたバカ野郎。探れるものは、たとえそれが下水の底だろうと探らずにはいられない。何か間違ってる?」
図星も図星だったが、彼女の口ぶりが気に入らなかった。
「もういいかい。僕は取り調べに真摯に答えた。調書にサインもした。引き止めておくことはできないはずだ」
「まだよ、これ」
そう言って彼女は僕に鞄を投げ渡す。署に来た時に持っていたもので、重みからして銃も取り上げられてはいない。
「銃なんてふりまわすの、やめたら」
「2023年の銃刀法の改正内容を読み上げてやろうか」
「別にいちゃもんで逮捕するつもりはないったら」
「でも、銃を調べただろう」
「調べたに決まってるでしょ。でも発砲の形跡はなかったし、事件には銃は絡んでいない」
「じゃあ問題ないだろ」
「形跡がないのはあくまで実弾の発砲の痕跡」
僕は息をつく。彼女は相変わらず優秀だ。ちょっとばかり優秀過ぎる。
「デジモンたちのように、データを弾のように射出したと? そんな技術はない。少なくとも、銃に装填できるような高濃度のデータ結晶は作れない。不可能だよ」
「あら、そうだったかな。私、デジモン共が跋扈するこの塔京で刑事をするにあたって、“不可能”なんて言葉は捨ててきたのよ」
「もういいだろう、帰る」
「アンドロモンが悲しむわよ、染野君」
背中にそんな声をかけられて、僕は思わず立ち止まった。
「あんどろさんはいつだって悲しそうだよ」
「それを分かってるなら、こんなことやめたら」
「やめるさ。そもそも僕にとって、この事件は事件ですらない。僕が依頼を受ける前にことは全部終わったんだ」
「それじゃない。“天使殺し”のことよ。まだ躍起になって調べてるんでしょ」
僕はわざとらしく大きなあくびを返した。
「警察の見解じゃ、そんな事件はないんじゃなかったかい」
「殺人だと断定していないだけ。人が行方不明になって、最後に目撃された場所の付近に、決まって白い羽がある。流行りのカルトのどこかが絡んだ儀式の可能性だってある」
「僕は断定してる」
「アンドロモンの見解は違ったわ」
「あのひとだって、内心は殺しだと思ってるさ」
風吹の表情が凍る。その言葉が彼女を怒らせると分かって、僕は敢えてそれを口にしたのだ。
「染野君、あの人は私の師匠でもあるの。これ以上あの人に──」
彼女は張り合っているだけなのだ。自分が尊敬するアンドロモンが、警察としてのキャリアからドロップ・アウトした僕に今でもかまっているのが気に食わないのだ。彼女からすれば敬愛する師が問題児ばかりを構うことに嫉妬する優等生の気分なのだろうが、アンドロモンが僕を気にかける理由はそこにはない。自分の知らない過去があると分かるからこそ、彼女はみっともなく僕を目の敵にしているのだ。
──それはハルキもだよ。好きなひと2人が、知らない秘密を一緒に話してるのが気にくわないの。だから、ね。
「話はそれだけか。帰るよ」
──よろしい。
怒りの言葉を気のない返事で遮られ、彼女は大きくため息をついた。幾度となくしてきたレプリカントをめぐる僕との痴話喧嘩を、今さら繰り返しても仕方ないということに思い当たったらしい。
「もう遅いでしょ。帰りは?」
「トレイル・ラインだよ。免許は2年前に失効した」
「バカね。……私も上がったとこなの。送ってくわよ」
「僕の家、知らないだろ」
「令状を取って乗り込むわ」
──ふしゃー!
「悪いけど遠慮しておくよ。来てくれてももてなせるものがない」
「あら、もてなしてくれる気はあるのね」
僕は肩をすくめるが、風吹は真剣な顔のまま続けた。
「染野君、気を付けることね」
「何に、ビッグ・ブラザー?」
「冗談じゃなくて」
そういう彼女は確かに、冗談を言っているようには見えなかった。もっとも、彼女はいつでもそうだったけれど。
「“選友会”も前の選挙で大躍進して、各業界へのパイプを一層太くしてる。教組の才原善鬼(サイハラ・ゼンキ)がいる会本部の建物も、近々より大きく、都心に近い建物に移転するそうよ。警察にも会員らしき人間が増えてきたわ。染野君、ずっとあそこのこと気にしてたでしょう」
「“コレクティブ”の後ろ盾頼りの成長だろう」
「バカにしたように言うけれど、それはこの国で最強の後ろ盾よ」
僕は肩をすくめたが、風吹の言葉は胸に突き刺さった。頭のどこかであの田舎カルトがまさか、と考えている。それでも今、彼らはきっとやろうと思えば何でもできるだけの力を持っているのだ。
「だから、警察の方では“カンパニー”に便宜を図る。バランス・ゲームは苦手だ」
「必要悪よ」
「それは彼らにとっての君たちのことだろう」
「だから、警察を目指すのをやめたの?」
「違うよ。僕にはこれしかなかったんだ」
風吹があまりに悲しげな顔をしたので、僕は息をついて踵を返した。
「ねえ、私たちに任せなさい。染野君。あなたは一度、東京を離れたほうがいい。家族のところにでも帰ったら?」
「うさぎだよ」
「なに?」
「うさぎなんだ」
僕はもう歩みを止めなかった。気が狂ったと思われるのなら、それはそれでよかった。
通りに出ると、秋だというのに生ぬるい夜風が肌を撫でた。街の灯りと賑わいはとうに夜を征服し尽くし、その猥雑さは九年前に僕がこの都市にやってきたよりも、きっとひどくなっていた。何もかもを奪われて、人にはもう夜くらいしか犯せるものがなかったのだ。空には三日月が、宮廷を追われた第三王子のように所在なげに、淡い光の孤を描いていた。実際、それだけがこの景色の中で、しんに光と呼びうるものだった。
しかし、驚くべきことに、未だに夜は誰のものでもなかった。暴かれきったその暗闇は、あのソーネチカのように汚れていて、そして高潔だった。
「それなのに」僕は呟いた。「誰も彼女に罪を明かさない」
家に帰りたい気分ではなかった。時刻は10時を過ぎている。トレイル・ラインは日付が変わる頃まで運行しているし、帰ろうと思えば1時間もかからない。けれど、今夜はそれが、とても間違ったことのように思えた。隊列をなす喧騒に混ざり、夜を犯す精液の一滴になるのが嫌だったのだ。
ひどい気分だった。何よりひどいのは、死んだ女の依頼を、僕がすっかり受けた気になっていることだった。
「あれは天使殺しとは関係ないでしょう。きっとカンパニーの機密を漏洩しようとして殺されただけ、彼女が死んで世界は変わらないし、多分事件を解決しても、何も変わらない。あなたにはこれ以上面倒ごとを背負い込む余裕はない」
僕は脳の中のつばめのまねをして言ってみた。数人の通行人が怪訝そうにこちらを振り返った。
いつのまにか彼女の声は聞こえなくなっていた。彼女は気まぐれで、ほんとうにつばめが口をはさんできそうな時にしか声を聞かせてくれない。彼女の声が聞こえないなら、つばめは僕のこの愚かな行いを、ひとまずは黙認してくれるのだろう。
なら、僕はあの依頼を受けたのだ。死人がカードを混ぜ、僕がエースを引いたのだ。昔からこんな賭けばかりをしている。掛け金はいつでも、どんな額でも、どれだけ負け続けても。夜がツケにしてくれる。いつかそのツケを払えなくなった時、僕は夜から帰れなくなるのだろう。
そう考えると、いくらか胸がすっとした。とにかく仕事なのだ。いつもと何も変わらない。道行く人もデジモンも片っ端から捕まえて、あのうさぎの写真を見せてやろうかと思った。ポケットに手を入れて、他の写真と一緒にブギーモンに預けてしまったことを思い出した。
僕はやり場を失った手をポケットに突っ込んだまま、一つのビルの前で止まった。一階にはシーシャバーがあり、そろって柄物のシャツを着た大学生らしい若者たちが、コンテンポラリー・ジャズのミュージシャンの話をしていた。
僕が店の中に入れば、彼らはちらりと僕のことを見た。どんな印象を抱いたのかは判別できない。ここ数年。僕は自分が人からどんなふうに見えるのか、まるで分からなくなってしまっていた。
僕は彼らの頭を飛び越え、カウンターでグラスを拭いている店員に目をやった。会うたびに髪の色が変わるのが特徴で、今日は短髪を淡いブルーに染めて逆立てている。
「下の店だ。通るよ」
僕の言葉はきっと店内の喧騒で聞こえなかっただろうが、彼の方でも僕の顔を覚えてくれていたのか、笑って会釈を返してくれた。その拍子に、唇と耳につけたピアスがきらりと光った。
店を通り抜け、奥にひっそりとある階段を降りる。一段一段降りるごとに、上階の喧騒が消えていくようだった。
足元にある古ぼけた看板には「国のない男」という店名が書かれ、淡い電飾がついたり消えたりを繰り返し、昔ながらの押し戸にはプレートがかけられている。
「For Human」
と印刷されたプレートには大きなバツ印が書かれ、その脇に
「扉さえぶち破らなきゃ誰でも入りな」
と乱暴な字で書かれていた。
扉を押し開ければ、からからとウェルカムベルの澄んだ音がする。煙草臭い店内では昔ながらのステレオが「カウガール・イン・ザ・サンド」を流していた。
テーブル席に客が数人。カウンターには、ぱりっとしたジャケットを着た品の良い男が座って、ちびちびとウィスキーのオン・ザ・ロックをやっていた。
「よう、染野」
カウンターからハスキーな女性の声が響く。
「日が沈んでから来るなんて珍しいね。酒は飲むと決めた日に一日かけて飲むもの、とか前言ってなかったかい?」
「人は変わるものだよ。クララ」僕は肩をすくめて返した。
「今日は実にいろんなことが会った日で、一日の締めくくりに全部を飲んで忘れたくなったんだ」
でっぷり太ったその女は、げらげらとわらった。うるさく大笑いしたわけではない。彼女のかすれた笑い声は、げらげら、としか表現のしようがないのだ。どんなに控えめに笑うときでも、彼女はそうだった。
「そういう台詞は、もっとまともに働いているやつが言うもんさ。注文は」
「ウィスキー・アンド・ソーダ」
「ウィスキーはどれにするんだい」
「一番安いやつ」
はいはい。そういってクララは棚の瓶に手をかけた。
クララ・マツモト、というのが本名かどうか僕は知らない。客の誰も知らないが、皆彼女をクララと呼んでいる。
塔京が東京だった頃から彼女はこのバーの店主で、さる警察の重鎮の愛人だったらしい。その人物は、対デジタル・モンスター強硬派の筆頭で、”カンパニー”による警察への人材・技術供与に強く反対し、デジモンへの差別的な言動を繰り返していた。彼女もそれに同調し、いつの間にかこの店は、対デジモン抵抗運動の拠点の一つになった。「For Human」のプレートがかけられ、終末を認められず、差別主義と排他的な人類愛にかられた若い警察官が集まったという。
クララは彼らに対して、実際以上に年が離れているように振る舞った。老女のような態度で予言者めいた言動を繰り返していたらしい。
「昔のアイツを知るやつは、ついにクララがおかしくなった、って言ってたけどさ」
当時を知る常連客から聞いたことがある
「あいつは単に『マトリックス』のオラクルの役をやりたかったんだ。ただのごっこ遊びだよ」
それでよかった。彼女の言葉を聞いた若い警官は、自分がネオだと思うことができた。あのスーサイド・ファンクラブと同じ。すべてはごっこ遊びだったのだ。
けれど、ごっこ遊びではすまない者もいた。やがて怪しげな人物が出入りするようになり、若者たちは店を使って公然と武器の売買やテロの計画をするようになっていた。汝は救世主なり、では満足できなかったのだ。
若者たちの方も、クララから離れていった。彼女が仕事中に飲む酒の量は加速度的に増えていた。社会にとってなにか意味のあることをしているという高揚感と、その裏のごくごく小市民的な不安が理由だった。オラクルのふりをするだけなら適当にあしらっておけば済む話だったが、酒に酔った彼女は、若者たちのトリニティの役もやりたがった。
そんな中で、特に急進的な若者たちが結託して警察署への立てこもりを計画し、それは過激な計画に足踏みをした味方の密告によって実行前に失敗に終わった。重火器を用いた彼らの最後の抵抗も、デジタル・モンスターの警官の活躍によって、敵味方に一人の死者も出さずに終わり、彼らは全員収監された。
尋問において、彼らはクララを巻き込むような証言はしなかったらしい。過激な馬鹿ほど義理堅いものさ、と彼女は言った。
トップにいた警察の重鎮はと言えば、デジタル・モンスターに対する強硬な発言で世間の注目を集めた挙句、クララ以外にも多くの愛人がいたのを週刊誌に書き立てられて、ひっそり立場を追われたという。
そしてクララはといえば──。
「クラモンは元気にしてるかい」
僕が尋ねれば、クララはよく聞いてくれたわねと言わんばかりにだらしなく顔をほころばせた。
「ええ、そりゃもうかわいくてかわいくてねえ。もう寝ちゃったけど……」
彼女がそう呟くのと同時に、ぷよ、という音がして、僕の手元に一つ目のクラゲのようなデジタル・モンスターがあらわれる。
「あら、あんたに挨拶したくて起きてきたってよ? おはようクラちゃん。染野のクソガキが生意気にもお疲れだっていうのよ~。あいさつしたげて!」
でれでれとした声で話す彼女に、僕は苦笑して、クラモンを撫でる。ひんやりとした軟体動物のような感触は、イカでも触っているみたいで正直あまり好きではなかったが、きゅう、と鳴いて気持ちよさそうに目を閉じるクラモンは確かにかわいらしかった。
たまたま出会ったデジモンが連れてきたもののやり場に困っていたというこの幼年期デジモンに出会ってからというもの、クララは反デジモン思想を完全にどこかに放り出してしまったようだった。もとより借り物の思想だったから、捨て去る時もきれいなものだったのだろう。幼いデジモンをペット扱いする人間は問題になっているが、少なくとも蔵らにはそういうところは無く、この店でもクラモンは自由に振る舞っていた。。
「女っ気がないのはあきらめたとして、あんたも誰かと住めばいいのにね。人間との共同生活を望んでるデジタル・モンスターは大勢いる」
「“ランダマイザ”との交流を通しての進化を求めて、だろ。僕には操作できない見返りを求めて同居されてもね」
そういう形でのパートナーシップは、近頃急速に増えているようだった。人間はデジモンとの同居による安全を、デジモンは人間との共生による進化の可能性を得られる、という触れ込みらしい。
デジタル・モンスターの“進化”と言うのがどういうものなのか、僕は実際に見たことがないから分からないが、アンドロモンの話を聞いたところによれば、僕たちの言う“進化”とは在り方からしてまったく違うらしい。
「ン、今ではもうめったに見られない光景だがね。我々の望みだ。渇望と言ってもいい。我々は皆、求めているんだ。自分の世界を貫いてくれる乱数を」
人間に対するランダマイザ手術の名目は、デジモンにはない複雑な情緒のデータ化による高精度の暗号化技術の実現とかそのあたりだったろうか。当然嘘だ。彼らが期待したのは、自分を次のステージに持ち上げるキーだった。人間は皆、そのための資源でしかなかった。人類はそのことに気づきながら、それを受け入れたのだ。
「“あなたたちは全てにおいて我々に劣るが、その豊かな感情だけは我々にないものだ”」
ほい、と目の前に置かれたグラスを一息に空にして、僕は呟いた。
「きっとそれは、全ての尊厳を奪われた人間が、一番欲しかった言葉だろう。見事だね。力も文明も人に勝るデジタル・モンスターは、そのどれでもなく、言葉で人類を終わらせてみせた」
「ベイリかい? 私も数年前までは熱心に読んでたものだけどね。ただの泣き言だよ」
「泣き言以外に、僕たちに何が許されてる?」
「愛さ」
「泣けるね」
「本気だよ」
臆面もなくそう言い切って、クララはクラモンを撫でた。
「“天使の日”が来た時、この店でさ、世界の終わりのパーティをしたんだ」
「センチメンタルだね」
茶化すなよ、と彼女は唇を尖らせる。
「とにかく、あの時はそれがいいと思ったのさ。とにかく、いつ死ぬか分かるって言うのは、なによりいいことだと思ったんだ」
「わかるよ」
「あのころ、あんたはまだがきんちょだったろ」
「でも、わかるんだ」
「……とにかく、私たちはパーティをした。酒場三日三晩ぶっ続けで開けて、誰でも入って、誰かに別れを言うことができた、誰かに愛しているということができた。てめえだけじゃそれができない奴らがみんなで集まって、考えられることは何でもした」
「楽しかった?」
「ぜんぜん」
クララはげらげらとわらった。
「最悪だったよ。おまけに私たちは一人も死ななかった。みんなからっぽになって、それを埋める者をさがして、随分バカなことに首を突っ込んだ。結局私たちは、好きでもない奴と愛してるを言い合っただけ」
でもね、と彼女は言いながら、新しいグラスを僕に差し出した。
「愛してる、ってのはやっぱり、いいもんだ」
だからねー、愛してるよーと言いながら、彼女はクラモンを抱き上げて、そのつるりとした表皮に頬ずりをした。特に気分が晴れたわけではなかったが、僕も自然と笑った。
「その子、ここに住んでるんですか? かわいいですね」
と、カウンターにいたもう一人の男が、そう言ってこちらに笑いかけてくる。黒髪短髪に細い目の美男子で、人好きのする笑みをたたえているが、それよりも何よりも頬についた一筋の傷跡が目を引いた。そうなのよ、とクラモンへの愛を語るクララと二言三言交わし、彼はグラスを持ち上げて立ち上がった。
「隣、いいですか? “染野さん”」
「……!」
「あら、知り合い?」
「……どうだったかな」
首をかしげるクララに、僕は表情のない声で返す。
「忘れるなんてひどいな。まあ昔の知り合いだから、無理ないけれど。俺ですよ。──市ではお世話になったでしょう」
それはどこか異国の言語のように聞こえたが、確かに僕が生まれ育った街の名前だった。僕は視線をその男に向けたまま、ゆっくりと頷く。
「そうだったね。クララ」
そう言って彼女を呼べば。あい、といい加減な返事が返ってくる。何か知らんが、面倒ごとはよしてくれと言いたげなその温度が、かえって僕を安心させた。
「悪いんだけど、僕たちはテーブルに移って話そうと思う。彼にいま飲んでいるのをもう一杯作ってやってくれ。僕にも同じものを」
そうしてテーブル席に移ると、男はにこやかに笑いかけた。彼の笑顔は頬の筋肉を大きく動かすもので、それに伴って頬の傷跡が歪むのが、妙なアンバランスさを感じさせた。
「初めまして。染野春樹さん」
「どうして僕の名前を知ってる。出身地まで」
「聞いたからですよ」
そうして彼はケースから取り出した一枚の名刺を、ゆっくりとテーブルの上には知らせた。
「俺は才原夜鷹(サイハラ・ヨダカ)。その節は、妹が──つばめがお世話になりました」
目を大きく見開いたぼくの前で、彼は仰々しく頭を下げて見せた。
──もちろんわたしは兄さんなんて知らないよ。わたしはハルキが知ってるつばめだけでできたわたしだから。
脳の裏側で聞こえる声に、そんな事は知ってるよ、と返す。
夜鷹、と名乗った目の前の男はあいも変わらずにこやかな笑みを浮かべ、僕のことをまっすぐに見ていた。
「一応、言っておきますが、血縁はありませんよ。つばめと俺のことです」
「知ってる。”選友会”のコロニーで生まれた人間はみんな教祖の姓を名乗る」
「俺たちの会について詳しいのは聞いていますよ」
「君たちの教義にも詳しいよ。飲酒は禁止されているはずだ」
「こんなに美味しいのに?」
夜鷹はいたずらっぽく笑い、グラスにわずかに残ったウィスキーを一息に流し込むと、いかにもうまそうに息をついた。
「ここに通っているのは知っていました。警察署で相当絞られたようでしたから、酒でも飲みたくなるだろうと、ここで待っていたんです」
「僕を尾けてた?」
不謹慎で面白くない冗談を聞いたときのように、夜鷹は首をふるふると振った。
「まさか、そんなことをしたら、あなたを尾行している他の勢力に気づかれてしまう」
「他の勢力だって?」
アンドロモンの教えのお陰で、大抵の尾行は見破れるつもりだった僕には、それはいささかショックな言葉だった。
「失言でした。とはいえ、あなたの生活習慣さえ押さえておけば、来る場所を予測して待つことは可能です。簡単でしたよ。あなたはもう少し生活に彩りと新鮮さをもったほうがいい」
「山奥のコロニーで『ソラリス』を回し読みする日曜学校が、君の言うところの”彩り”なのかな」
「皮肉屋だ」
彼は嬉しそうな表情を浮かべる。それはメジャーリーガーと握手した子どもを僕に想起させた
「つばめが言っていたとおりです。『わたしは世界を知らないけれど、世界じゅう探したってきっと、あんなひねくれ屋さんはいないと思うな』と、俺に話してくれていました」
──言いそう。
言いそう、と僕は思った。
「それで? まさかつばめの思い出話に来たわけじゃないだろう。僕を殺せと命じられて、”塔京”を9年さまよい歩いてたのか?」
「まさか。あなたを殺そうなんて、誰も考えてません」
「なぜ? 僕が彼女を連れて逃げたことは”先生”が見ている。そのあと、彼女の死だって知ったはずだ。”塔京”の霊園に墓なんか立てて」
「知っていたんですね。そこでも待っていました。あなたが来るかと思っていましたが」
「教団の私有地に立ち入るほど馬鹿じゃないよ。それに、そんなところにつばめはいない」
──もうどこにもわたしはいない。
「考え方、ですね」
「僕はつばめを君たちから奪った。君たちの会の教義に殉じて幸せに眠るはずだったつばめを連れ出して、おまけに彼女を死なせた」
「宗教の本質は赦しですよ」
「カルトは違うだろう。少なくとも、あそこまで追ってきていた”先生”があれ以降追っ手の一つも差し向けてこないのはどういうわけだ」
その問いにすぐに返事をせずに、夜鷹は琥珀色の液体をゆっくりと舐めた。
「”先生”は烈火のごとく怒っていた、それを父が諌めたんですよ」
「君たちの父」
「才原善鬼会長です」
才原善鬼、選友会の教祖。つばめや夜鷹の苗字は、もともとみんな彼のものだった。
「自分を神とも神の子とも呼んでいないが、会の中での彼の言葉はそれに等しい。あの時も彼の言いつけは厳格に守られました。この9年間、あなたに”選友会”からの接触がありましたか?」
僕は椅子に深く腰掛け、ゆっくりと息をつく。僕もアンドロモンもずっと警戒してきたが、そんなことは一度もありはしなかった。教祖の鶴の一声で、僕がしたことは不問になったというのだ。痛い腹を探られるよりは握りつぶした方がマシだと思ったのか。それとも、あそこでつばめが死んだことで、”選友会”としての目的は果たされたのか。
「そもそも会員の多くは、つばめが死んだことすら知らされていません。”先生”があのコロニーにいた幹部に話し、会本部の”父”にお伺いを立て、”父”は放置することを臨んだ。つばめは”父”の考えにより施設を移動したことになりました。施設替えはよくあることだったので、皆驚きはしたが疑いもしなかった」
「君を、除いて」
僕の言葉に、彼は胸の前でぱちぱちと拍手をした。
「素晴らしい。頭がいい、と言うのは本当でしたね」
「無駄口はよせよ」
僕がそう口を挟めば、彼はぱちぱちと動かしていた手を止め、そのまま右手と左手の指を絡ませた。
「つばめを妹だ、と言ったでしょう。あれは比喩じゃない。あの教団の庭にいた人たちはみな家族でしたが、彼女は特別だった。年も近くて、わずかに俺の方が先に生まれていたので、何かと気に掛けていました」
「そんな特別な存在が居たなんて、知らなかった」
僕は慎重に言葉を選びながら口を開く。この9年間で、誰かがつばめについて僕の知らないことを語るのは、初めてのことだった。
「庭の皆が好き、とは話していたけれど、特別な家族が居たんだったら、その人のことをつばめは言ったはずだ」
代わりに彼女が心残りとして話したのは、夜更けに自分の部屋に現れるという、誰にも見えない少女のことだった。
「傷つきますね。でも、つばめらしい」
夜鷹は肩をすくめた。
「誰かを愛するよりも、誰かに愛される方がずっと得意な子だった。つばめは俺たちみんなのことを本心から好きだと言ってくれていました。でもきっと、あの子に”特別”はなかった。いいや、あそこで暮らしていた俺たちみんなに、”特別”はなかった。そんなもの、教えて貰っていなかった。仮にあったとしても、気付いていなかったんです」
「カルトの洗脳」
「先ほどから、わざと俺を怒らせようとして言葉を選んでいますね」
「分かっているなら怒ってくれ。何で君が僕を前にそうにこやかに話を進めたがるのか、さっきから考えてもまるで分からないんだ」
「事実を聞いても、人は怒りませんよ。あなたの言うとおり、あれはまさしくカルトの洗脳だった。ありふれていて、陳腐で、でも効果はてきめん。この世に特別はない、あるとすれば教えと救いだけ」
「クソだ」
「ええ」
「その自覚があるとすると、君は背教者なのか?既に教団を辞めたとか」
「いいえ」
それ以上の質問を避けるように、彼はまたグラスに口を付け、うまそうに喉を鳴らした。
「きっとつばめに”特別”を教えたのは、あなたなんでしょう。春樹さん。そしてつばめが、自分の不在、と言う形で俺たちにそれを教えてくれた。あの子のいなくなった庭の寂しいことといったら、俺たちみんな、気が狂いそうだった」
つばめが楽園のように語った”庭”の景色の話を、僕は思い出す。つばめは美しい世界を見て、それをたどたどしくもまっすぐに伝えていた。でも他の人間にはきっと、世界は彼女が見るほどに美しくはなかったのだ。
「だから、教えに背いて真相を探った?」
「そこまでドラマチックじゃない。つばめが居なくなって数日して、弟の一人が大人たちの会話を聞いてしまった、そこで彼女に起きたことを知ったんです。外の人間に連れ出され、そして死んでしまった、と」
「……」
「つばめはよくあなたのことを話してくれていました。最初は染野くん、と語っていたのが春樹君、になり、ハルキになった。だから彼女がでていったと知って、連れ出したのはあなただと、みんなすぐに気付きました」
「なら、なおさら分からない。なぜ僕を放っておく?」
それには返事をせずに、夜鷹は指でグラスの縁をなぞった。
「その弟はつばめの話にショックを受けながらも聞き耳を立て続けました。そしたら一人が言ったそうです。『なににせよ、対応を変える必要が無いのは良かった。いきさつこそ悲劇だけれど、つばめがいなくなるのは決まっていたことだ』と」
ぴりり、と、背中に電気が走った気がした。
「それを聞いて俺たちは調べました。たしかに全てがおかしかった。クリスマスの夜につばめが帰ってこなかった。俺たちが彼女が施設を移った知らされたのは夕食の席です。大した時間は無かったはずなのに、大人たちの対応は妙にすらすらとしていました。彼女が消えたのは大人にも予想外だったはずなのに。一週間前から作っていたはずの家事や作業の当番表からも、つばめの名前は消えていた」
夜鷹の口調がだんだんと怒りを含む。それで僕は、彼のにこやかな表情が虚飾だと知った。僕と同じで、彼にはそれは過去のことではないのだ。
「それで俺たちは知った。俺たちが今こんな悲しみを抱えているのは、染野なにがしのせいじゃない。会の大人たちのせいだ。それにどんな意味があることであっても、彼らは俺たちからつばめを奪おうとしていた。この喪失を、予定通りだと言い切った」
「そうして、教義に平気で背く今の君が出来上がったと」
僕の言葉に、自分が熱くなっていることに気付いたのか、夜鷹は少し恥ずかしそうに咳払いをした。
「今の話の結果が、ささやかな飲酒だと思われるのはいささか心外ですが、まあ、その通りです。大体”選友会”は分かっていないんだ。自分たちが大人になってからスピって象徴に祭り上げる分にはサイエンス・フィクションはいいかもしれないが、それを子どもに与えるのは問題だ。俺たちは他に何もなかったけれど、聖典のSFだけはいくらでも読めた。自由と反抗を、僕たちは知っていた」
「それでも、カルトに生まれた子どもは、カルトしか知らないだろう」
「ひどい話だが、その通りです。俺たちにできる復讐は、つばめの死の真相を知る方法は、俺たちのカルトを作ることだった」
「コロニーで生まれ、”選友会”のために育てられた子ども達の、小さなカルト」
そのとおり、と彼は頷く。
「”選ばれし子ども達の会”です。皮肉が効いているでしょう」
少し自虐を含んだ笑みを浮かべる彼を見て、僕はあきれたように首を振った。
「俺たちは会内のエリートです。みな若いながら会の中で重要な役割を果たしている。俺は25歳になると同時に、会の出した国会議員の秘書を任された。おかげで比較的自由が利く。あなたに会いに来ることができる」
「僕にたどり着くのが、そんなに難しかったかい?」
「冗談じゃないんだ、染野さん。教団だってあなたを完全に忘れたわけじゃない。彼らはあなたが住んでいる場所も、今何をしているかも知っています。警察へのレールを降りて探偵を始めたことで、彼らのあなたへ警戒度はいささか上がった。だれもあなたが我々のことを忘れたとは思っていません。その中で、彼らの目を盗んであなたに会うのは至難の業だった。結局この歳を待たなければいけなかった」
「君の話は雲をつかむみたいだ」
僕はため息をついた。
「君には聞きたいことがあるはずだ。僕に会って、どうしても知りたかったことが、それをおいて、どうして身の上話なんか長々と話す?」
「あなたと、長い付き合いがしたいからですよ。染野さん。あなたに俺たちが敵じゃないと知って貰う必要があった。今日はいわばデモンストレーションです。用件を急ぐつもりはない」
「とにかく、それは終わってしまったことなのだから」
僕がそう引き継ぐと、夜鷹の目は糸よりも細くなった。
「でも、人の心は違うだろう」
「俺の心が、なんです?」
「つばめは殺された。彼女の体は白い羽になって消えた」
店の中、僕は声を潜めて早口でそれを告げた。けれど、夜の空気はその密やかな悲しみを見逃したりはしてくれなかった。僕たちのテーブルに思い沈黙が降りた。
夜鷹は、その細い目を半月くらいに開いていた。それが彼にできる最大の驚きの表現なのは、見れば明らかだった。
「……なぜです?」
なぜ死んだのか、ではない、なぜ自分にそれを話すのか、彼は問う。
「僕の視点なら簡単な理屈だ。君たち教団がつばめの死に関与しているなら、それを隠す意味は無いし、本当に死の真相を求めているなら。僕の見たことの一部を話しても大勢に影響はない。それに──」
僕は肩の力を抜いて、氷が溶けてすっかり薄くなった酒を飲み干した。
「心の問題だよ。どんな意図があろうと、君は僕の凍った時計を動かしてくれた。なら、僕もそうしようと思ったんだ」
彼は少しあっけにとられたように沈黙した後、やがて笑った。
「本当に、つばめの言うとおりだ。『理屈っぽいくせに理屈なんてどうでも良いと思っている人』と、言っていましたよ」
「つばめって、普段からそうだったのか?」
──”そう”って、どういうこと?
頭の中で聞こえる不満気な声に、おもわず笑みをこぼしそうになり、僕は表情を取り繕って、カウンターでクラモンをなでているクララの方を向いた。
「クララ、追加だ。僕と彼に──」
どん、と大きな音がして、バーの扉がはじけ飛んだ。
「よう、じゃまするぜ」
そう言って入ってきたのは、黒いシャツの上から、同じく黒いジャケットを着た筋骨隆々の男だった。髪を短く刈り上げており、右から手には冗談みたいに巨大な銃を持っている。
「対デジモングレネード・ランチャー、軍のものは入念に処分されたはずだけど、払い下げ品は裏社会にあふれてる」
僕はつぶやいた。
「当然、違法ですよね」
「代議士の秘書だろ。わかりきったことを確認するなよ」
「わかりきったことを確認すると喜ぶんですよ、彼らは」
夜鷹の言葉に喉の奥で笑いを漏らしながら、僕はその男を注意深く観察する。肉体労働に従事しているようだけど、それだけでつけた筋肉ではない。手の甲にはえぐったような傷の痕がある。日用品を加工してつくった武器で付くような傷だ。極めつけはその短い髪に入った十字のそり込み。
「反デジモン思想を掲げる刑務所マフィアのトレードマークだ。でも刑務所で守ってもらえるために入ったわけじゃないな。刑務所でも鍛え続けていたんだから。外に出たときに人でもデジモンでも、半殺しにしたい相手がいたんだろう」
そして、そういう人物がクララの店に来る、ということは──。
「よう、久々だな、クララ」
「……あんた、刑務所は出たんだね」
男は無遠慮にカウンターに手を付くと、クララに向けてその歯を見せながら笑いかけた。
「当たり前さ。理由もなしにぶちこまれたんだから、長すぎるくらいだ。酒をくれよ、いつものやつだ」
「……」
クララは黙ったまま、後ろの棚からラムの瓶をとり、グラスに注いで、乱暴に差し出す。男はグラスを丸ごと包めそうな手でそれをつかみ、一息にあおると、不快な音と共に息をついた。
「にしたって、9年ってのがこんなに長いとは思わなかったぜ。街も人もすっかり様変わりじゃねえか。どこを見たってクソみたいなバケモンが歩いてやがる。それに比べて、ここは変わんねえな。ああ、だがよ──」
そう言いながら、男は左手に持っていたプレートを床に投げ捨てた。大きなバツ印のついた「For Human」のプレートが、真っ二つに割られている。。
「いたずらがき、されてたぜ。おい。誰かしらねえが、クソな野郎だ」
「……それで、なんの用だい」
「何の用も何も、俺は行きつけの店に帰ってきただけだぜ! そこは長い務めをねぎらうところだろうがよ。おかえりなさいの一言もねえってのは、どういうことだ。……おい、いまクソの声が聞こえたな」
きゅう、と言う声は僕の耳にも聞こえた。クララが必死に背中に隠していたクラモンが、恐怖から声を上げたのだ。
「おい、クララ、何隠してやがる。どけ!」
そう言いながら、男はクララの襟首をつかみ、その上体をカウンターに引き倒した。瓶と瓶の間でおびえたように震えているクラモンの姿があらわになる。
「おい、こいつはどういうことだ。何でこの店に、しかもカウンターのそっち側にクソがいやがる、おい!」
「……してやる」
「あん?」
「その子に指一本でも触れたら、殺してやる」
「……っていうと、やっぱ、俺たちを売ったのはお前か。刑務所の中でどいつもこいつもクララのせいだって言いやがる中でよ、俺はお前を信じて、そういう連中の口をふさいでやったってのによ!」
男がばん、とカウンターを叩けば、店全体が揺れるような気がした。クラモンがまたきゅう、と声を上げる。
「指一本でも触れたら殺してやる、だあ? じゃあやってみろよ、今から先に殺してやるから、でも先にこのクソだ。クララ、お前もむかしこいつらを一緒になってクソって呼んでたろ。俺は一言一句覚えてるぜ。その時の言葉を思い出させてやる。それを聞かせながら、これを握りつぶすから、そこで見とけ」
「やめ……」
叫ぶクララの顔をカウンターに押しつけ、男はクラモンに手を伸ばした。
「やめとけよ」
僕がそう言って、背後から床に転がったプレートを男の頭にたたきつけた。そこそこの重量のある木のプレートに、しかし男はびくともせず、びりびりとしびれが走ったのは僕の腕の方だった。筋肉ダルマはこういうところが嫌いなんだ。僕は舌打ちをする。
「なんだ、てめえ」
「ここの常連だよ」
「しゃしゃんじゃねえ」
「こっちのセリフだ。動くな」
男が上体を完全にこっちに向けたタイミングで、僕は鞄から取り出した拳銃を向けた。人に撃てる銃弾は入っていない、はったりだが、それでも男はほう、と喉を鳴らす。僕の視線の先では、男の視線がそれた隙をついて、クラモンを店の奥へ逃がしている。
「お前みたいなモヤシがチャカかよ。ここも良い世界になったモンだな。やんのか?」
「打ち合いならいくらでも相手になるさ。でも君のそれ、ここで撃ったら君も死ぬだろ」
僕はあごで男の持つランチャーをしゃくる。
「だから、あー、なんだ、表に出ろ」
僕のセリフに、男はくっくとわらい、それからやがて大笑いした。
「おいおい! 良かったなクララ! お前、どこぞのタフガイがお前を助けてくれるってよ! 今のうちに逃げとくことをおすすめするぜ。まあ、逃がしゃしねえけどよ」
クララの体をカウンターの向こうに放り捨てて、男は高笑いしながら店の外へと上がっていく。その後に続いていこうとする僕を、夜鷹が呼び止めた。
「待ってください。染野さん、あれ相手にその銃で、ですか?」
「弾は入ってない。昔習ったスパイラル・アンドロイド・ケンポーで戦うさ」
そう言う僕に夜鷹はため息をついた。
「いいです。俺が引き受けます」
「君が?」
「見ててください。言ったでしょう?」
夜鷹は感情の読めない糸目のまま、にっと笑った。
「これはデモンストレーションだって」
「それで、表に出てはみたけど」
僕は息をついて、ぐしゃぐしゃになったシーシャバーの店先を見回した。男によほど怖い目に遭わされたのか、青髪の店員はカウンターの下で身をかがめてぶるぶると震えている。
「お前、デジモンが嫌いなんじゃなかったかよ」
「嫌いさ、だが、あれだろ? 家に出るきもちわりぃ蜘蛛だって、ゴキブリやら蚊やらを喰ってくれるって言うだろうよ」
僕と夜鷹を迎えたのは、巨大な建築重機の姿をしたデジタル・モンスターだった。
「ケンキモン、多少戦闘用のカスタムがされてるね、はぐれものだ」
「そのままの名前ですね」
「おいおいおいおい、余裕ぶってんじゃねえぞ! 命乞いするなら今のうちだろ! そっちのモヤシは殺すが、なんか出てきたそっちの糸目だけは生かしといてやる」
「で、デモンストレーション、なんだろ?」
「ええ」
夜鷹は、殺気を放つ巨大なデジモンにも平然として、スマートフォンを操作する。
「あひる、からす、周囲の様子は?」
と、スマートフォンから、慌てた様子の声が聞こえる。
『にいさま! だいじょうぶなの! ソメノハルキに殺されてない!?』
「この状況は彼のせいじゃないよ。あひる。からすは?」
『あひるの耳をつかんで引き留めたまま、状況を注視してる。テロリスト崩れが三人とケンキモン。ぼくらには無関係だし。兄さん、巻き込まれる前に逃げた方が……』
「そうもいかない。これは染野くんへのデモンストレーション、ということになった。あれを使う」
『本気なの? 一度使うごとにどれだけごまかさなきゃいけない書類が増えるか……』
「良いだろう。議員の方々のボディーガード用に”コレクティブ”が貸してくれてるのに、先生方は怖がって使おうとしないんだ」
『にいさま! 誰を撃てば良いの? 筋肉盛り盛りマッチョマンの変態?』
「そうだ。ただし、くれぐれも眠らせるだけにするように」
『おっけー。あひる、撃ちまーす!』
『待って、あひる、まだ合図が……』
刹那、ぱん、と音がして、僕たちの目の前で男が崩れ落ちた。
「……」
「大丈夫です。微弱な麻酔ですよ」
「……ああ、そうだね」
「そうですか、つばめは、銃で」
「そうは言ってない」
「そういう顔をしていました。我々を疑うのも良いが、それより、今は見ていてください」
そう言うと、夜鷹はスマートフォンを手早く操作する。
「からす、落ち着いて、オペレートを頼むよ」
『……はい、わかりました。トラブルはいつものこと、トラブルはいつものこと』
僕よりも先に状況を理解したのか、ケンキモンがその腕を振り上げる。それに真正面から向かい合い、夜鷹はスマートフォンを掲げた。
「ではご覧あれ、俺たち、”選ばれし子ども達の会”の力を──────来い、ネオデビモン」
闇が、目の前ではじけた。
ほーん、選友会って選ばれし子供の会に繋がるらしいぜ光子郎! 夏P(ナッピー)です。
なんかデスノートの高田清美みたいな女が現れたと思ったら警察学校の同期でした。間違いなく痛い目に遭うポジションだと思いますが、唐突にバットマン名乗られたら流石にキレるわ。直情的な女かと思いきや、マダラさんが書かれると会話する両者が気付いた時にはユーモアとウェットに富んだ台詞の応酬をするようになってしまう。家に詰めかけられてもてなす気はあるってハルキお前つまり……って、アンドロモン死んどらんかったんかワレェ! ブギーモンは真っ赤に染まるも何も最初から赤いじゃん! 選友会の名前が出てきて、断絶した感のあった『庭』と一気に話が繋がった感覚が素敵。
クララとその仲間達(元)は学生運動のような感覚で見ればいいのでしょうか。当時は若くお金が必要もとい情熱があったのです。デジモンが割と異質で人間から見て度し難い存在とされている中、純粋にマスコットとして萌えさせてくるクラモンの勇姿。というか、今回の話は怒涛の如く“過去”が押し寄せる流れになっているのでしょうか。施設側から見る流れがこんな早く来るとは……と言ってたらなんか素敵なぐらいの「あ、僕噛ませ犬です」が参上。デモンストレーションの言葉通り、これ用意された仕込みかサクラなのでは。対デジモングレネードランチャー、俺の世界にもくれ!
ん? 糸目……?
お義兄さん絶対CV石田彰。
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。