ちょいホラー短編です。
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デジモンには個体差がある、無論、その個体特有の癖というものもある。
幼年期から成長期にかけて、その癖が見られることが多い。長い耳や尻尾を抱きしめるものや、人間と同じように指をしゃぶる、爪を噛む等……。癖をやめさせる育成ハウツー本も出ている程に身近な出来事だ。
矯正や時間経過で癖が治ることがほとんどだが、それがデジモンの精神的なストレスを表している場合もあるため、見逃さないようにするのも大切だ。
そんな中、テイマー達の中でまことしやかに語られる都市伝説がある。
「尻尾をしゃぶる癖のあるインプモンは災いそのものになる」
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インプモン自体は個体差あれど、肉厚な耳を撫でる、腕組み、尻尾を握るなどの癖がよく見受けられる。
ヤーモンから進化して生えた尻尾を物珍しくとらえて口に含むこともあるが、尻尾の違和感がなくなると自然と関心は薄れてその仕草をしなくなる。
だが、その都市伝説で語られるのは、「ずっと尻尾を口に咥えた上に、しばらくすると、テイマーの呼び掛けにも応えず、ニヤニヤと笑いながらその場でぐるぐると回り続ける」、……癖どころか、ほぼ奇行に近いインプモンが語られる。
そのインプモンのテイマーは、その奇行をやめさせようと尽力したが、それを矯正することは出来ず。進化もせず、昼夜問わず奇行を続けるインプモンにじわじわと精神的に追い詰められていった。
デジモンの育成に詳しい友人にテイマーは相談を重ねていた、そんなある日の晩に、友人のスマホに、テイマーから電話がかかった。
その不可解な内容に友人は首を傾げた。
ざわめくノイズしか聞こえぬ通話。
何度呼びかけても返事もなく、切ろうとしたその時だった。
「助けて……!お願いはやくきて、お願い、やめて、あ、やだ、やだやだやだやだやだやだ、たすけてたすけてたすけてたすけて!」
絶叫に近い声に、友人は何度も呼びかけるが、返事は無い。
「やめて、ごめんなさい、ごめんなさい、お願いやめて、お願いやさしくするから、もうたたかない、もういたいことしないから、お願いたすけて、ゆるしてゆるして、あ」
テイマーの悲鳴と何かが潰れる生々しい音、歪むノイズに混ざり、誰かが囁いた言葉がハッキリと耳に届いた。
「 シ チ キョゥ ニ 死 ス 」
電話が切れてすぐ。友人が警察に通報し、テイマーの家へと向かうがそこは悲惨なものであった。
巨大なものが暴れたかのような部屋の荒れ具合。
壁、床、家具に飛び散った血液。
そして、酷く損傷したテイマーの遺体がそこにあった。
特に頭部の状況が酷く、目、鼻、口、耳の7箇所が抉られており、原型をギリギリ留めてはいたが、顔でテイマー本人と判別することは不可能に近かった。
例の、奇行を繰り返すインプモンの姿はどこにもなく、血糊が染みたカラスの羽のようなものだけがそこに残されていた。
尻尾を咥えるインプモンの行方は、誰も知らない。
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個人的な見解であるが、インプモンの奇行が中国に伝わる「帝江(又は渾沌)」のものとよく似ており、テイマーの死因となった頭部への損傷が、故事成語「渾沌、七竅に死す」のエピソードに似ている。もしかしたらインプモンは、テイマーから受けた理不尽な躾から、今まで確認されている進化とはまた違う、新しい進化を遂げたのだろう。
仮に、「帝江」の名を取り、「ディージャンモン」と私は名付けた。
……あのインプモンはどこへ行ったのか。
今度、ダークエリア支部へ調査を依頼してみようと思う。
ケース:XXX 「四凶の予兆」
あれ、一瞬オリデジかと思いましたかどっかで聞いた名前だな……と思ったらデジモン新世紀のあれ! 夏P(ナッピー)です。
四凶と題されている通り、渾沌を思わせるお話し。デジモン新世紀自体は全然知らなくてディージャンモンも見た目しか把握しておりませんでしたが、インプモンと繋がるデジモンだったのでしょうか。烏の翼という表現があったのでベルゼブモンを否が応でも想起させられましたが全然違ったようで。
アイ&マコじゃありませんが、インプモンと言えば悪戯好きの寂しがり屋な奴を想像してしまうので、まさしくテイマーに牙を剥くような話を不意打ちで提示されると怖ェ! ちゃんと断末魔でテイマーが謝罪していたので、執拗な躾があったのは事実であったらしいですが、最後の最後にモロに故事成語の題目を喋ってたんですな……。
余談ながらインプモンに尻尾あるのを今日認識したのは内緒。
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。