「俺も、狼はカッコよくて好きだ」
キミがそう言ったから、ボクはもっともっとあの姿に憧れるようになった。
借り物の毛皮じゃなく、本物のミスリルの毛を纏う狼に
ボクはなりたい。
見て!
こんな事できるようになったよ!
こんな技出せるようになったよ!
ねぇ!
同じ成長期の仲間と特訓したよ!ボク勝ったよ!
もう独り立ちできるかな?!
進化したらね、今よりもっと速く走れるようになるんだ!キミより速いんだよ!ボク、キミを背中に乗せてあげるね!
お前が憧れる、なりたい姿なのだと知ったから。
ガブモンというのは皆ガルルモンに憧れるものなのだと聞いた。皆といっても個人差があるだろうに、といつも隣にいるガブモンに問うと、単語を出しただけで目を輝かせるから。
「俺も、狼はかっこよくて好きだ」
あんまり嬉しそうに笑うから、応援せざるを得なくなった。本当の事を言うと、あまり戦い…つまり殺し合いなんて目の前で見たくはない。けれどこれはデジモンの本能なのだと思うから。戦って経験を積んで強くなって、進化する事。それがお前の望みなら、俺はお前を応援するよ。
ごめん、
負けちゃってごめんね。
僕、カッコ悪かったね。ガルルモンに成るって言ったのに、本物のガルルモンに負けちゃった。
あぁ、超えたかったな。
かっこいいとこ見せたかったな。
キミにかっこいいって思って貰いたかったな。
パートナーになりたいって思って貰えるくらい、かっこよく成りたかったな。
ごめん、
生きてさえいれば良いと思ったんだ。
怖かった。俺もお前も殺されるんじゃないかと思うと、怖くて堪らなかった。
俺達は戦線を離脱した。逃げたんだ。戦いたがってるお前を無理矢理連れて。
最後まで牙をむいて戦おうとしていたお前を。
最後まで俺を守ってくれたお前を。
俺が。無理矢理。
お前を傷つけたのにまだ、お互い生きてて良かっただなんて甘い事を思ってしまう。怪我は治せるし特訓もまたやればいい、なんて。
こんな覚悟じゃ、お前のパートナーになりたいなんてとても言えない。
俺だって強くなりたかったさ。物語の主人公みたいに。
お前みたいに。
隣にいるのに遠く感じる。
焦れて、焦がれて、要らない熱が籠って、ジリジリ痛む。
まるで低温火傷。
体の奥、怪我とは違う処が苦しい。息が上手くできない。
ねぇ、これはどうすれば治るの?
どうすればキミに伝わるの?
隣にいるのに届かない、
まだ狼でないボクの、真似事の遠吠えは。
心に狼を宿すお前の啼き声は。
啼音、妬けど
(ていおん やけど)