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へりこにあん
2021年6月30日

Threads of D 第十二話 シェイプシフター

カテゴリー: デジモン創作サロン




ドラゴンにグラビモンの足止めを任せて、七美を連れて尾池は走った。でもすぐに普通に走っても間に合わないなと思ってバスに乗った。


『この世界は人間の世界でもデジモンの世界でもない第三の世界である』


この事実を尾池が知るにはグラビモンの存在が不可欠だった。


それはグラビモンに寄生されることでそれまでの体質に変化が生じるから。少なくとも尾池はそう思った。だとすれば、同じ様に気付けるかもしれない人間は尾池が知る限り数人いる。


一人は野沢、今年の三月にドウモン達が来たならば、アイズモンも当然その時期であろうし、そのアイズモンと同調しデジモン化してそれまでから大幅な変化が起きているのは想像できる。一人はメリー、今年の三月に来た個体ではないにせよ、同じ様に同調しデジモン化している。


ただ、この二人にはあまり期待できないとも尾池は思っていた。ドウモンやスプラッシュモンによる調整がこの二人には入る。


魔王と関係が深い現象であることを踏まえれば、彼等の言う調整には、本人達が自覚しているしていないに関わらず、変化を気づかないままにする効果があってもおかしくない。


尾池の最後の心当たりは、幽谷だ。そして、幽谷は他の二人と違ってスプラッシュモンやドウモンによって調整されていない。


それに加えて、尾池が知っているこの世界が第三の世界であるならば、まずあり得ないことをしている人のことを知っている。


尾池は高校に着くと、まず旧校舎に走った。


尾池が思い切り扉を開くと、二見は旧校舎の理科準備室でのんびりと塩大福を食べていた。


「どうしたの尾池ちゃん?」


食べる? と渡された塩大福に齧り付こうとして、尾池はゲホゲホとむせた。


「いや、本当にどうしたの尾池ちゃん……」


二見はそう言って心配そうに尾池の顔を覗き込んだ。


「部長が……まだ来ていない様でよかったです」


「……幽谷さんが、どうかしたの?」


「いえ、この世界で一番どうかしてるのは……二見先生です」


尾池の言葉に二見は目を丸くした。


「私が?」


「先生は今年の三月に東京から来た。そうですよね?」


「そうだけど」


そう尾池がお茶を一口飲んで尋ねると、二見はこくりと頷いた。


「それはできないんです。この世界の中にはこの県しかないんですから」


「……どういうこと?」


困惑した様子で二見は尾池にそう尋ねた。


「去年の三月、色々な場所で失踪事件が起きています。まだちゃんと確かめてませんけど……いなくなった人はある瞬間に県外に行っていた人、本来ならすぐに帰ってくるはずだった人達です」


「……まるでこの県だけ隔離されているみたいね」


二見の言葉に尾池は首を横に振った。


「いえ、それも多分違います。この県が隔離されたんじゃなくて、その瞬間に県内にいた人達がこの世界に、人間の世界でもデジモンの世界でもない第三の世界。この世界に作られた県のレプリカへと連れてこられたんです」


「……根拠は、あるの? 私にはむしろ東京から来た私の存在が反証になる様に思うんだけど」


「あります」


尾池は力強くそう言った。


「私は、リリスモンがこの世界に今年の三月に送り込んだ監査役のデジモンと話をしました。そのデジモンは、この学校で起こった洗脳……いえ、洗脳に見えたものについて、解決する必要が無いと言っていました」


「洗脳はリリスモン側の意図したことだったってこと?」


「ええ、そうです。事件後の今年三月に来た監査役が知っているということ、そしてメリーや水虎将軍が知らなかったこと、これを踏まえると、これは去年の九月にこの世界の外側からリリスモン側が起こしたものだったんです」


「……世界の、外側から」


二見はよくわからないとこめかみを軽く抑えた。


「そして、これにあることを踏まえて考えると、リリスモンがこの世界を作り出したのだということに繋がるんです。」


あることとはと二見が促すと、尾池はさらに続けた。


「リリスモン達側は簡単に観測できて介入できているのに、聖騎士達側の、来る筈だった第二陣が来れてないんです。人間の世界への行き方は確立しているのに。これは、人間の世界への行き方ではこの世界へ来れない証明になります」


これは硯石の発言からわかること。リリスモン側にはやたらと都合が良く、聖騎士側にはなにかと都合が悪い。不公平さがある。


「確かに……」


「リリスモンがこの学校にした洗脳は、洗脳ではなく、自分の作り出した異界だからできる、『ルールの押し付け』だったんです」


「『ルールの押し付け』って?」


「そうです。level5のドウモンが身一つであっても、入り口はあるのに決して出られない世界を作れるみたいでした。そういう、理屈じゃないあり得ないことを神様みたいな広い範囲に押し付けるなんて事をlevelも上で権力や設備も整っているリリスモンならできるかもしれません」


そう言って、尾池は二見の黒い髪を見た。


「先生の髪は、普通の日本人らしい黒髪です。でも私達はカラフルな髪になっている。それはそういうルールを押し付けられたからで……」


尾池はそう言って、自分の携帯から三年前の写真を選んで二見に見せた。


それは水族館の水槽を撮った写真だったが、そのガラスに反射して、

黒い髪の尾池が映り込んでいた。


「私の本当の地毛は黒なんです」


二見はその写真と尾池を見比べて、こめかみを抑えたままではあるが、確かにと呟いた。


「……話を聞くと、そうかもって気にはなるわね」


「はい、そうなんです」


「でも、なら私は何者なの?」


尾池に対して、二見はそう問いかけた。その問いは尾池も予想していた問いであり、答えは既に用意していた。


「先生は……多分、リリスモンです」


間の抜けた声が二見の口から漏れた。


「私が……リリスモン?」


「そうです。正確には……多分、リリスモンの中に残された人間部分のコピー、みたいなものだと思います」


「待って……ちょっと頭が追いつかないわ」


尾池の言葉に、二見は困惑して整理しようとしたが、尾池は構わず続けて喋り出した。


「リリスモンは、元人間です。そして、人間らしさを失ってしまうことを恐れている。そこで、二つの目標を持って今回の事件を計画したんです」


「……どういうこと?」


「一つ目は、デジモンとして生きる今のリリスモンに対して人間らしい家族を用意すること。二つ目は、リリスモン自身が人間として生きられる様にすること」


「……一つ目は、わかるけど」


それは先に聞いたリリスモンの目的だから二見にもわかる。でも二つ目はわからなかった。


「えぇ、一つ目のそれは前にも言った様に人間からデジモンへ……自分と同じような過程を経て家族を作ろうとした。でも、それだけならこの第三の世界にロードナイトモンを呼び込む理由がないんです」


「どういうこと?」


「ロードナイトモンは、この世界にデジタマがばら撒かれたのを追ってこの世界に来ている。でも、二回目の今年の三月の時には聖騎士側は誰も後を追ってきていない……おそらく、デジモンの世界と人間の世界を行き来する場合ならば、探知できるけれどデジモンの世界とこの世界、そしてこの世界と人間の世界を繋ぐ場合は探知できない。最初のそれは、わざと探知できる形でこの世界に卵をばら撒いたんです」


確かに、知られなければ妨害もされない、妨害されないならば騒ぎの原因となった多過ぎる卵のばら撒きもする必要がない。


「……じゃあ、そのわざと呼び込んだ理由は何?」


「解決してもらうことです。この世界が第三の世界であると看破し、攫われた人間達を人間の世界へと帰す。それに伴って、ただの人間としてこの世界で生きているリリスモンの一部も人間の世界へと送り込まれる……しかも、その時には既に家族を作りたいという目的も看破されているので、さらに別の目的は探られにくく、先生の存在は見過ごされやすい。そういう計画なんだと思います」


確かに二見は普通に人間として生きている。もしもこの世界が第三の世界だとして、元の世界に戻ろうとなれば二見は自然と人間の世界を選ぶだろう。


そこまで考えて、ふと二見はあることに思い当たった。


「もしかして、この学校で起きた失踪事件のそれも……」


「はい、この学校に先生が赴任する予定だったから、対応しようとしたんです。先生にデジモンと関わる機会を与えたくなかった」


「……でも、それなら私が赴任した後、そういうのがないのは……」


「部長と副部長がいたからです。外から手を加えたせいでむしろ変に疑って学校全体でやばいやつと扱われながらデジモンを探し回る部長。ロードナイトモンと繋がっている副部長。対応がわかりやすく裏目に出ています。実際、新任という学校内で弱い立場の先生はそれで部長のいる科学部の臨時顧問にまでされてしまった」


あと、とさらに尾池は加えた。


「先生には監視役、お世話役が多分ついています」


「え、今?」


「そうでふ。今もです。そして、多分それは……水虎将軍のオリジナル、少なくとも他の個体より強い水虎将軍です。そう考えれば納得がいきます」


「何に、でしょうか」


ふと、天井裏からそんな声が聞こえてきた。木造校舎の屋根の隙間から、とろりとろりと液体が垂れてくると、それは尾池の予想通り水虎将軍の姿を取った。


「最初に担当役として用意されたのが水虎将軍ばかりだった事です。数が用意しやすいから、というのも一因でしょうけれど……土神将軍の様な別のデジモンも混ぜた方が対応できる事態は増える、筈です」


でもそうしなかったと、尾池はさらに続けた。


「その理由は目立たない為です。仮に目撃されても、運悪く聖騎士と遭遇しても、一体の水虎将軍だけが特別だとは思われない。強さと記憶のバラつきが作られていたのもそうです。一体だけ他より強くても他と目的が違うとは捉えられない」


ぱちぱちぱちと水虎将軍は手を叩いた。


「感服しました。確かにその通り。しかしどうします? それだけわかっていて、なぜ真っ向から確かめにきてしまったのですか? あなたのお友達では私には敵わない。そのお守りに入った聖騎士の欠片を全て使ったとて、凡百のlevel6になるだけに過ぎません。簡単に捻り潰せます」


そう言いながら顔をぐっと尾池の前に出した。その距離は今にもその前髪が尾池の顔にかかりそうな程で、意地の悪い吊り目と牙がよく見えた。


「……それは、私がさせない」


水虎将軍の顔を二見は横からばしゃんと平手で叩いた。


「尾池ちゃんは、私の生徒。私が人間として生きられる様にっていうのがあなたの仕事なら……尾池ちゃんは守る対象にはなっても排除する対象じゃない」


二見の言葉に、出過ぎた真似をしましたと水虎将軍は数歩後退して頭を深く下げた。


すると、尾池はえっとと少し躊躇うように話し始めた。


「私は、この世界から、私に気付いてって言われたんです。自分が人間の世界でもデジモンの世界でもない私という第三の世界なんだってことに……」


そして、と尾池は口角を上げ、笑みを浮かべながら続きを言った。


「それはつまり、この世界は無理矢理この県の格好をさせられていなければ、その二つの世界のどちらでもない生き物が生まれるかもしれないということ。その片鱗は既に出ています、グラビモンは想定していたよりもデジモンが急速に育つと言いました。これは、この世界が人間の世界を模倣し切れていないせいです」


「待って待って……えと、尾池ちゃんは誰の味方で、何がしたいの?」


二見に言われて、すんと尾池は落ち着いて当たり前のことをというテンションで話し始めた。


「私は、リリスモンの味方でもロードナイトモンの味方でもなく、この第三の世界の味方です。リリスモンに作られ、今回の事件が終わったら処分されるかもしれないこの世界を助けたいんです」


だからここに来ましたと尾池は続ける。


それを聞いて、二見はうんと頷いた。


「私には方法がわかりません。どうしたら残せるのか、どうしたら残す能力のある誰かに託せるのか。とりあえず、今の私が目的を果たすには二つ必要なものがあると思ったんです」


「……それは?」


「一つは、戦力です。とりあえず話を聞いてもらう為には力がいると思います。なので、先生に付いてるデジモンがいれば、今考えられる一番私に味方してくれそうな強いデジモンです」


「……うーん、尾池ちゃんは、完全に私が敵になる想定はしてなかったのね厚かましい」


笑いながら二見が頭をわしわしっとすると、えへへと尾池は笑った。


「ちなみに、先生はなんか能力とかありそうですか?」


「いや、全然」


二見は急に落ち着いて首を横に振った。


「えぇ、王……いえ、先生にはその様な力はありません。リリスモン様な中に残った人間の部分だけのコピーです。今回の計画で一番技術的に難しく、それでいて不可欠だったのがデジモンの部分を残さないこと……そうすれば、薔薇騎士ならば、もしバレても見逃してもらえるかもと考えたのです」


「あ、ちなみに疑問なんだけど、私のこの幼少期の記憶って……」


二見が水虎将軍に尋ねると、水虎将軍はご安心下さいと話し出した。


「それは本物です。王は、東京よりこの県に向かうその日に、時空と世界を超えて千年の過去より伸ばされたある魔王の手に拉致されたのです。百余年かけて魔王へと上り詰め、人間の世界を垣間見ることができる様になった王は、ひどく驚くと共に今回のことを、失われた人生を歩み直すことを計画したのです。そして、その最中、人間性を取り出してもデジモンの部分だけで独立してしまうとわかってからは、人間性を持ったデジモンの家族を求める様になり、こちらに送り込むのも人間性そのものから人間性のコピーへと変わりました。先生の記憶に手を加えたのは東京から移動するその日のみ。本来拐われた時間から、新居に辿り着いて荷解きもせずにソファで眠りこけるまでの間です」


「荷解きしないで寝ちゃったんですか?」


尾池に言われて二見は少しバツの悪そうな顔をした。


「……まぁ、それよりも尾池ちゃんが必要だと考えている二つ目のものの方が私は気になるかな」


「それは、部長です」


「え?」


二見は予想外のそれに思わず首を傾げた。


「方法も何も全然わからないので、部長に相談したいんです。なんなら戦力が必要なのも、真相にたどり着いて二見先生を襲いに来る部長を止めて落ち着かせる為です」


「幽谷さんもどっちもそんなすぐにはわからないと思うけど……」


というか私でよくないかなと二見が言うと、尾池はきょとんとした顔をした。


「私がカンニングして辿り着ける答えなら……生き物に関することならともかく、こういうことなら部長は多分独力で辿り着きます。部長の人間性はともかく頭脳は多分私の知る誰より上ですもん」


「そう、かしら……」


二見はあまり納得がいかなかった。仮にも教師なのに部長の方が望まれるってどういうことなのと思った。


「とりあえず、部長が安易に手を出せない様黒松さんを呼びましょう。副部長達も呼んで、部長が来たら副部長達と協力してデジモン部分を分離させて……」


「硯石くん呼ぶならメリーさんとか呼んでもいいんじゃない? そういえば岩海苔は?」


「メリーさんは先生に襲いかかってくる動機もありますし、岩海苔は嘘吐き岩海苔なので、ゴーレムドラゴンに地面に埋めてもらいました」


尾池達が旧校舎で話している今、土神将軍は地中にいた。土神将軍の得意技は重力を減らしたり高めたりするものであるが、ドラゴンはグラビモンに噛み付いたまま地中へと潜っていったのだ。


重力を高めても元が土塊のドラゴンは身の破滅を無視して地面を掘り続ける上、掘ってきた道が埋まって自分が生き埋めになるだけ、重力を軽くしたってマイナスにできないから浮き上がる訳でもない。核を寄生させても元が土の塊だからかうまく根付きさえせず、グラビモンはドラゴンと共にどんどんと深く地中に潜っていた。


「……そう」


「流石ですね。私にはよくわかりませんでしたが……」


「わからないのは私もだけど、説明する気がないから聞いても無駄なんだと思う」


二見がそう言うと、そういう懐が深いところ私は好きですよと水虎将軍はそれも肯定した。それを聞いて二見はこいつリリスモンの言うことならなんでもいいんだなと思ったが口には出さなかった。


自分のあり得た未来の姿、しかしその未来の自分のしたことを思えばとてもいい様には受け止められない。


黒松と硯石に向けて、尾池は少し願う様な気持ちを込めてメッセージを送った。







家にいても家の外でも母の日の話題が何かとメリーの目に入った。それがメリーは嫌だった、捨てられたと思っているしもう大嫌いなのに、自分がどれだけ傷ついているかを自覚する度、両親が好きだともわかってしまう。


メリーがいるのは去年までは人がいた小さな遊園地の跡。今は誰もいない、立ち入り禁止の看板の内側ならば、チラシの色は褪せてもチラシの種類は変わらない。この遊園地に母の日はやってこない。


「私と同じ、置いていかれた場所……」


動かないメリーゴーランドの馬の上で、メリーはそう言って目を閉じながらぐったりと寝ていた。どこにも行けず、どこにも行かず、ただぐるぐると回るだけ。一年前のあの日からメリーの姿形は変わっても、ずっとメリーは止まったままだった。自分を捨てた誰かを探し、愛してくれる誰かを探して彷徨っている。


でも、今は少しここから離れられるかもとメリーは思っていた。


瞼の裏に尾池の顔が浮かぶ。面白ければ誰にでも優しいのかもしれないけれど、温かいのかもしれないけれど、訳もわからず置いていかれることはない。


「礼奈ちゃん……今日が母の日じゃなければ助けに行ったのに……」


そう呟いていると、ふとメリーの耳がずるりと何かを引きずる様な音を聞き取った。


「……こんにちは、部長さん」


馬の上に座り直して、そう音がした方を向くと、音の主である幽谷もこんにちはと挨拶を返した。


幽谷の隣にいるのは火夜ではあったが、前に見た大蛇の姿ではなく、どんな虫とも言い難い虫の姿をしていた。


オレンジ色の翅は十六枚、全身を紫の甲殻で覆い、頭らしい場所はワニの様に長い。肩から伸びた大きな手にはクワガタのアゴの様なものまでついている不思議な姿。


「この前はごめんね。家族仲が悪くてね……つい、君のことを慮る余裕を無くしてしまった」


「……そう、ですか。よかった。礼奈ちゃんの先輩が嫌な人じゃなくて」


「それでね、君に話したいことがある。尾池くんには……できない話だ」


「なんで礼奈ちゃんにできない話が私だとできるんですか?」


「君の顔から名前を割り出して、県の失踪者リストを調べたんだ。君の両親は去年の三月に失踪している」


「……それが、どうかしたんですか」


メリーは今にも襲いかかりそうな顔をしていた。


「君の両親は事件に巻き込まれたんだ。君は悪くない」


「……へ?」


「私達はその事件の犯人を知っている。そう、リリスモン」


「えと、なに?どういうこと?」


「この世界は私達人間の世界じゃない。君が生まれた時、両親からもらった髪の色は水色だったかな?」


「それは……えと、でも、それはおかしなことじゃ……いや、なんでおかしなことじゃないなんて思ったの……?」


「この世界がリリスモンの世界だからだよ。そうじゃないと説明がつかないし……私は県外に出る道を幾つか確かめてみた。あるところを境に濃霧に包まれ、しばらくすると元の道に戻ってくる。陸は県境で切れてる、海や空は確かめていないけれど……きっと同じだろうね。人間の手には余る箱庭だ」


「えと、つまり……どういうこと?」


「失踪したのは私達の方なんだよ。その時この県内にいた全員がリリスモンの箱庭に拉致されたんだ。だから、君の両親はきっと君を待っている。一年間全く音沙汰のない娘を待っている……私達、人間の世界でね」


メリーは頭に手を持っていくと、ガリガリと引っ掻き出した。何かを堪える様にガリガリガリガリと。


ふと、その手が止まってメリーはその手を口元に持っていった。指先についた血を一度舐めて、ふーと深く息を吐いた。


「……リリスモンがやったのは、間違いないんですか?」


「まず間違いないね、そもそも他の誰かにとって都合のいいことはまずない」


「じゃあ、私はお父さんとお母さんと引き離したやつの家族になろうとしてたってこと、ですか?」


「そういうことになるね。その為に私達は元来の自分の身体を失って人間でなくなろうとしている」


「……将くんは、知ってたんでしょうか?」


「水虎将軍のことかな? それはわからない、どの程度情報を統制していたか……魔王に敵対する存在を考えると、その情報は与えず、県境を越えるなと命令していたというあたりじゃないかな。人間の世界に詳しい訳もないデジモン達ならば、人間界はそういうものなのだと受け入れてしまうことは難しくないだろうからね」


「そう……ですか。よかった……少なくとも将くんには裏切られていなくて……」


「そうだね。でも、君が裏切ることにはなるかもしれない。そうだろう? その水虎将軍は裏切ってなくても大元は裏切っていたも同然なんだ」


こくりとメリーは頷いた。


「一つの県だけ取り上げれば、当然うまくいかないところは出てくる。そこもなにかしら調整自体はして社会が維持できる様にはしていそうだが……君の様に家族を失う人間は出てくる。会社が潰れたりもしている。孤独になる人間が一体どれだけ出たのかわからない、その中に素質のある人間がいれば、その素質のある人間が卵を拾えばと……そういうことだろうね。最終的に数人残ればリリスモンにとっては大成功って訳」


「……じゃあ、私に起こったことも、あくまで何にも関係なくただ起きただけになっててもおかしくなかった。そういうこと?」


「そうだね。実際そういう人もいるだろうね。でも、私はデジモンにただ翻弄されるだけの存在でいたくない。この箱庭を破壊してリリスモンを殺してやりたい」


幽谷はそう言って、メリーの方を見た。


「君はどうしたい?魔王に敵対する側に保護を求めてもいいとは思うけれど」


「私も……何かしたい。こんな身体でお父さんとお母さんの前にもう出れるとは思わないけれど、引き離されている人達がまた会える様にしたい」


「じゃあ、行こうか。心当たりがあるんだ。この世界にいる訳のない、それでいてリリスモンの計画に与している様子もない人間が一人いるんだ」


幽谷が火夜に目配せをすると、辺りの虫が一斉に飛び立って黒い雲の様になった。


「あとは尾池君だ。あの子はデジモンと出会い過ぎる。尾池君の持っている情報は私の持っているそれよりはるかに多いだろう。尾池君の持つ情報を全て引き出せれば、見えてないものが見える筈だ」


その言葉が終わると、黒い雲は一斉に散らばって消えていった。

3件のコメント
へりこにあん
2021年6月30日

あとがき


どうも、今回は短く終わりましたね。へりこです。


シェイプシフターとはドッペルゲンガーなどの人に化けて何かと入れ替わる存在の総称みたいなアレですね。もちろん、今回のそれは二見先生を指しているわけです。


今回は全体の種明かし回ですので、事件を起こすと複雑過ぎる……というか事件を起こさなくても複雑過ぎると、土神将軍の戦闘はオールカットになりました。


まぁ今回の内容を要約すると、

尾池ちゃんは第三の世界を守る為にも、事件を解決しなくてはならない。でもその為の勝利条件がわからないので、二見先生を餌に部長を釣ろうとしている。しかし当の部長の怒りや憎しみはリリスモンだけでなくこの第三の世界にも向いていて……?という感じです。


二見先生がリリスモンだからって二見先生のステータスは変わらないので、基本的な役割は餌と、スペシャル水虎将軍のコントローラーです。


一つ謝罪するならば、多分新キャラは出ませんと言ったことですね。水虎将軍は種族なので、新水虎将軍が出てくるのは新キャラ登場と言って間違いないと思います。


火夜の究極体はみんな大好きタイラントなあの子です。土神将軍はグラウンドラモンに拉致されて地下です。


二見先生の胸が大きいのは、リリスモンだからなんですね。仕方ないですね、リリスモンなんですもん。大体二見先生描く時は先にリリスモンで同じポーズ描いてから体型なぞってます。元データ紛失したので貼れないのが残念なのですが……ブログの方のみで載せていた四話のリリスモンのイラストと五話の二見先生のイラストなんかはぴったり重なります。これに気付いている人がいたら尊敬しかありませんが、流石にないでしょうね。気づくと思ってないから置いてるわけですし。


では、次回十三話、メリーさんの電話でまた会いましょう。



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夏P(ナッピー)
2021年7月08日

 グラビモン特に見せ場なく沈められたのかァ! というわけで夏P(ナッピー)です。


 なんとまあ最終ネタばらし回! 全ては箱庭だったんかこの世界! ところで唐突に「そうでふ」とか言い出した尾池クンはいや何いきなり大福食い出してんねん結局貰ったのかよと思いましたがこれは単なる誤字かしら。あと胸の大きさの序列にも意味があったのは燃えるぜ! 萌えるではなく燃える!

 興味のあることにはガンガン突っ込んでいくとはいえ、ヒントありにしても自力で回答に辿り着いた尾池クン凄いな。そして彼女自身、自分の上位互換認識している部長もまた同時刻に世界の理に気付いて……というか、やたらカラフルな髪の色にすら意味があったとは。それを踏まえて最初から読み返すとまた違った印象を受けるのかもしれません。ラブテリオン登場に俺歓喜。

 メリーさんどうなるんだこれ……次回のタイトル込みで不穏過ぎる。


 それではまた次回をお待ちしております。

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へりこにあん
2021年7月08日

感想ありがとうございます。


正直なところ誤字でしたが、結局食べてる方が尾池ちゃんぽいので、多分食べています。


胸の大きさはリリスモンより大きいはないなというところは気を付けてはいましたね。一応。


部長は尾池ちゃんの数分の一の情報で辿り着いていますからマジでやばいですが、尾池ちゃんは尾池ちゃんで普通よりも頭いい子ではあります。ぜひ一度最初から読み返して欲しい、と言いたいのですが、粗もありそうなので完結してからの方がいいかもしれないですね。


次回のメリーさん決着編もどうぞお楽しみに……

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