「今日も世界を救ったのか」
久しぶりだな、オメガモン
敵の返り血を浴びたオメガモンの足元から終末の王、アポカリモンが現れる
かつてお互い殺り合い、話し合いで和解した2人。
人々の願いから生まれたオメガモン
人々の怨念から生まれたアポカリモン
人がデジモンが願い続ける限り2人は死ねない。永遠を生きざるを得ない
オメガモンは世界を救うために永遠に転生し続け、アポカリモンは世界を滅ぼすまで永遠の死はない
この世界になくてはならない惨いシステムだ
「久しぶりだと?あれ以来どれだけの時間が経った?」
毎度世界を救う度にあらゆる時代、世界に呼ばれるため時間感覚がおかしくなっていた。オメガモンの感覚だとアポカリモンと対話したのはつい先週の感覚であった
実際には500年経っている。アポカリモンは知らない、認知できていない世界でオメガモンは数きれないほど敵と戦ったのだろう。
たった独りで
ひび割れたグレイソード、今にも砕け散りそうなガルルキャノンがそれを物語っている。それなのにオメガモンは涼しい顔をして次の仕事はまだかと空の先を見つめている
焼け焦げてボロボロとなったマント、白い体に付いた数多の傷と血飛沫。いつ砕けてもおかしくないガタガタの肉体
再生能力で傷がたちまち癒えてしまうアポカリモンにとってオメガモンの戦いの傷跡は勲章に見えたが、本人の前でそれは言わない方がいい
「我が治してやろうか?」
「不要だ、私はただ与えられた粛清を全うするのみ」
「…そうか、与えられた使命を全うするまで癒えない肉体なのか」
アポカリモンはオメガモンを憐れむ
なんとも無慈悲な使命だな。お前は転生しない限り、肉体はボロボロのまま回復をさせてくれない。朽ちるか、消滅するか、敵に殺されるかしか選択肢がないのか。それはなんもと辛いな
「憐れむ目で見るな、お前こそ…」
オメガモンはアポカリモンの在り方に同情する
赤い爪から漂う血の臭い。アポカリモンは恐らく痛覚も嗅覚も麻痺している。
オメガモンが人々の救済を願われ、平和を願う者の声に応える存在なら、アポカリモンは常に恨み辛みを嘆く無念の魂に「殺せ」「もっと苦しめ」「死んでしまえ」と言われ続けるのだろう。平和を願うお前のことだ。紛らわすために全身を掻きむしり、喉を潰し、心臓を潰す。体に傷はないが心は私より遥かにズタズタではないか
「今の我にできることはないのか?」
「…もうしてるよ、こうして私の話し相手になってくれたことだ」
「なんだと?500年ぶりだぞ?もっと我に頼れ。それとも他に満足することはないのか」
「私の生き方、在り方といった内面の事情を理解する者がこの世で少なからずお前しかいない。そう言って貰えるだけでだいぶ楽だ」
「それに…」ふらりとオメガモンの体がアポカリモンに倒れかかり胸に顔を埋めて静かに瞳を閉じる
「ほんの少し、休ませてくれ」
彼から寝息が聞こえる。使命、使命と唱え、与えられた仕事を即座に実行するオメガモン。
よほど疲れたのだろう。己の限界を迎えヘトヘトになるまで世界のために身を粉にしたんだ。誰だって弱音を吐きたくなるのだろう。なのに今までそれが出来なかったのだ。知らなかったのではない。寄り添える相手が、安心出来る存在がいなかっただけなのだ。
それを理解した上でアポカリモンはオメガモンを受け入れる。アポカリモンは優しくオメガモンの背中を撫で、自らのマントの半分をを肩にかける。人間の母親が子を寝かしつけるように子守唄を歌い、安心させるために抱きしめる
「いくらでも頼れ、いつでも胸を貸すぞ…」
「…感謝する」
この借りは必ず返す
サラサラとオメガモンの体が少しづつ砂になっていく。肉体の損傷が激しく限界がきたのだろう。
転生したくない。彼らは言葉を発せずともお互い体を強く抱きしめ合う
普段、弱みを見せないオメガモンも今回ばかりは消えたくないと訴える様にアポカリモンにしがみつく
この空間で2人の邪魔をする者はどこにもいない。ただ時間が惜しい。もっとお前といたい。使命を放棄したい。この肉体を捨ててデジタルワールドで生まれ、お前と穏やかに過ごせたのなら…
願ってはいけない。我々はこの世界の執行人。世界を生かす者と世界を滅ぼす者。夢を持ってはいけない。願ってはいけない。けど、けれどもしも叶うのであれば…!
「また会おう兄弟」
「!」
頭部だけを残し、消えかかっているオメガモンの顔がアポカリモンの腕の中で微かに笑った様に感じた
「ああ…またな兄弟」
体が完全に消滅し、お互い孤独という果てしない時間が与えられる。意識がまどろみの中を浮かぶ
誰かが助けを平和を求める時まで漂い続ける何も無い空間でオメガモンの魂だけが存在する
本当はずっと彼に抱かれていたかった。きっと彼は今頃一人寂しく自虐行為を繰り返しながらこれからも生きていかねばならない絶望に打ちひしがるのだろう。私もそれは同じ
(…早く会いたい)
アポカリモンから死刑執行人としてお願いされたとはいえ、彼と出会ったことで心が芽生えた。以前よりも世界のために戦いたいと思えなくなってきた。
そう、お前にまた会えると思えるからこそ私は戦える
(兄弟か…我ながら、らしくないことを…)
だがもしも、お前が私を兄弟と認めてくれたなら?果たしてどっちが兄で弟なのだろう?次会う時まで覚えていられるのだろうか?
彼を求める手はないけれど虚空の中手を伸ばす
どうか、次の転生先は穏やかな気持ちで彼と対面できる機会が巡ってきますように
【完】
サロン全体でアポカリモンが人気すぎることもあって感慨深くなっている、夏P(ナッピー)です。
やはりオメガモンとアポカリモンといえば、どちらも最後(黙示録)を意味する名前からもわかる通りある種の同一存在とでも呼ぶべきなのか。オメガモンは勿論ウォーグレイモンとメタルガルルモンの合体ですが、アポカリモンは最初に出たカードではそれと対を成すダークマスターズ同士のジョグレスで生まれるデジモンでしたからね。そうした意味合いを加味しても“兄弟”という括りで称されることも必然。
しかし何度だって転生を繰り返す中、両者の間にあるのは戦いではなくて親近感のようなものなのでしょうか。デジモンに家族や血縁関係はないとは言いますが、世界に果たす役目が表裏一体である彼らは確かに兄弟。
サラサラと灰になったオメガモンを看取った(敢えてこう断言)アポカリモンの願いが、遠い未来、いやもしかしたら近いのかもですが、叶いますように。
それでは今回はこの辺りで感想とさせて頂きます。