史香「本性。」
現実界でもこの掛け声から始まる。
空間からの返事。
怖気づいた。
右肩だ。
擬態した右肩の感情だ。
右肩は死霊の音だ!
このままでいいかな…平和に過ごせて遊べればいいか…なんていう砂糖菓子の様に脆く甘い感情。
ふざけるなよ、そんなわけ無いだろ?
この後に地獄が待ってるのに決まっているだろう?
こんな所に間髪を入れずに右肩の攻撃を食らったらどんな人間でも皆駄目になるに決まっている。
自立するほんのつかの間の休息にこんな邪魔が入られてはたまらない。
またこれだ、私はやる事をやったのに彼らは本当に何もやっていないのだ。
逃げ出した臆病者たちが私の右肩に縋る。
たいがいにしてほしい。
ほんの休息の間をこんな形で駄目にされてはたまらない。
これはまた鳥居をくぐらなければならない。
奴らは怖気づく癖に退屈してやらなければならないところで逃げだす。
悪いがそんな子供時代は飽きた。
いつまで私はそんな奴らに構わなければならないのだろう。
やっと精神的に自立してご飯が食べられるようになった矢先にこれだ。
本当にうんざりする。
史香「ち! またデジタルフィールド!!」
見えたのはムシャモンだ。
フィールド上を彷徨っている。
人間の本性を持つデジモンほど厄介なものはない。
何故ならば人間の本性を持つデジモンは究極体のインペリアルドラモンパラディンモードの攻撃をまともに食らおうが、七大魔王のデットリーロールを食らおうが、デクスモンのプロセスOをかまそうが消滅しない。
ロイヤルナイツだろうが七大魔王だろうがオリンポス十二神だろうが普通のデジモンの攻撃だろうと無意味だ。
しかも成熟期ときた。
裏の意味はいいおとなの男だ。
要するに大人の死霊。
人間の本性を持つデジモンの消滅しない理由は元々の正体が人間だからである。
史香「ドラクモン!」
ドラクモン「冒険を終わらせたんじゃなかったのか?」
「史香?」
ドラクモンが姿を現す。
こいつは中学時代から一緒に居る私のパートナーデジモンだ。
史香「壮大な冒険は終わったが厄介事は終わりそうにない、サポートして、ドラクモン。」
ドラクモンはにんまりと笑う。
ドラクモンは目のある手でぱちんと指を打った。
ドラクモンの手の目から赤い光が発せられて特定の空間が出来上がる。
アイオブザナイトメアという技を応用したもので相手を見極める空間が出来上がるのだ。
私とこのデジモンはかれこれ中学生からの付き合いで歴史が古い。
ドラクモン「はい、どうぞ?」
私は腹を据えてムシャモンに向き合う。
史香「本性!!」
お決まりの掛け声がその場にこだまする。
超音波の様にその音はムシャモンにあたり、空間の音となって跳ね返ってくる。
かえしはこうだった。
怖気づいた。
紫ルートのデジモン、ムシャモン、成熟期。
この空間に本性を持つデジモンが出現すると私の体調が悪くなるから非常に困るのだ。
史香「現実界ではこの後進路を選ばなければならない地獄が待ってるつうのに!!」
「こんちくしょうが!!」
ドラクモン「はいはい、史香。」
「罵詈雑言をありったけ吐こうが何しようが人間の本性を持つデジモンは簡単に消えねぇぞ。」
「どうすんだ?」
ドラクモンは楽しむように笑った。
人間の本性を持つデジモンは放っておいたら聖書で言う黙示録のグリムモンを連れてくるから放っておくことが出来ないのだ。
グリムモンが来ると大抵世界の終りのような感覚を味わう。
そして私は過去に一度それで死にかけている。
右肩デジモンが居る、特定の空間から発せられるいらない苦しみに私は苦しむ体質をしている。
ドラクモン「どうやら俺らは一生お前からお役目ごめんにならなそうにないなぁ?」
「お前何歳だよ?」
史香「もう28歳越えてます。」
ドラクモン「おっかしーな?」
「冒険は、たった、この間、終わらせたはずじゃなかったのか?」
ムシャモンから発せられる気は、いい大人のくせしてやるべきことから逃げた臆病者の大人の匂いがした。
ドラクモンの煽りとムシャモンへの怒りで私の頭は沸騰した。
史香「厄介事が私のフィールドに舞い込むなら君らはお役目ごめんにはならない。」
「悪いけど、ドラクモンには地の果て地獄の果てまで付き合ってもらう!!」
ドラクモン「望むところだ。」
私はデジヴァイスであるDアークを構えてドラクモンを成熟期のサングルゥモンに進化させた。
サングルゥモンはムシャモンと向き合って相手を威嚇した。
ムシャモン「オオオオオオ!! テメェ如きに…!!」
現実界でも本当に聞こえた声だ。
右肩の特徴だ。
奴らは傲慢であるものが見えない。
怖気づくくせして生きている人間に対してはとことん傲慢だ。
憑依してデジタルフィールドを作っては人間の感情を阻害する。
サングルゥモンはムシャモンの場所まで走って行って相手をステッカーブレイドで攻撃した。
ステッカーブレイドは鈍い音を立ててムシャモンの刃物を跳ね返してちらばった。
媒体は何でもいいのかもしれないがデジモンの方が都合がいいのだ。
何故ならば、私はパートナーデジモンが傍に居るからだ。
サングルゥモン「責任を持てよ、史香。」
「冒険を終えても俺らは消えねぇよ。」
「ちゃんと飯を食え、それから人間としての役割を果たすんだ。」
史香「お前、最終進化形態が何体も天使をフォールダウンさせたグランドラクモンのくせしてよく言う。」
サングルゥモン「パートナーデジモンならどのデジモンでも人間に対してそう言うだろう。」
「もっとも、Triの様に俺らは最終進化を果たしたら消える存在じゃねぇことは確かだ。」
サングルゥモンは自らの技のブラックマインドを発動させた。
サングルゥモンのデータは戻ってきてしまった。
サングルゥモン「不発か! さすがは本性が人間のデジモンだぜ、こちらの攻撃が聞きやしねぇ。」
私のデジヴァイスはDアークという代物でパートナーデジモンをカードで強化できる。
私はデータのカードを漁る。
毎回、本性のあるデジモンと戦っている時に味わう感覚はこれ以上先が無いような感覚だ。
現実界では壁に擬態した蛾のような感情と戦う。
そしてそれにシンクロする呼び水の様に私の感情にロックが掛かる。
私がこれからやらなければならない事は永久にこの現実のまま留まる事じゃない。
面と向かって社会と向き合って働かなければならないのだ。
半端であれば目の前のムシャモンのような本性が人間の右肩デジモンといちいちエンカウントして戦わなくてはいけない。
右肩デジモンは決して味方になりえることはない。
現在、現実世界では私は本当に生きる道を決めなければならない岐路に立たされかけている。
こんな所に怖気づいた右肩デジモンのムシャモンの邪魔が入ったらたまったものではない。
ムシャモンの攻撃が入る。
サングルゥモンが攻撃を受けとめる。
サングルゥモンが感じ取ったものとシンクロして私の頭に陳腐なゲームミュージックが流れた。
ムシャモン 真実の口…。
サングルゥモンはムシャモンの技の切り捨て御免をステッカーブレイドで受け止める。
私の頭の中に呪いのとある言葉が浮かぶ。
どうせ母親からは逃れられない。
紛れもない、紛れもなく私の声だ。
そう、だから、だから私は母親に対して卑怯な手段を取ってはいけないのだ。
この親子喧嘩の有様は私の子供時代の最後のあがきなのだ。
本当に小さな子供としての最後の輝きとあがきなのだ。
本当に分別のある子どもとしての最後のあがきだ。
だらしのない人間になりきる前に、私は自分と母親の全てを否定する必要があったのだ。
だから、私は母親に対して最も言ってはいけない事を口にする必要と拒絶する必要があった。
酷い言葉ごめんな。
本当は私は経理の仕事でもっとちゃんとしたいんだ。
仕事の事でも分からないままじゃ嫌なんだ。
かつて見ていた背中を本当に思い出す、山のような裏紙があったのを今でも覚えている。
本当は尊敬してんだ、本当に私を食べさせてくれてありがとう、これでも感謝してんだ。
だからすべてがグダグダでだらしのない大人になる前にどうしても分別のある子供として最後に自分も貴方も拒絶する必要があったんだ。
私はこの喧嘩の日々を過ごしていて貴方のジョロウグモの生霊を見たりしたし貴方の居る方角から料理を作る音が聞こえて来ていたんだ。
正直ジョロウグモの生霊を見た時は本当に背筋が冷えた。
生霊は右肩につくんだ。
私は右肩の右耳の辺りに足が10cmはある貴方のジョロウグモの生霊を見た。
それから追い打ちをかけるようにダンスの先生に言われたが、あっちこっち手を出す人間が一つの事にまい進できるわけ無いでしょうと私は村田先生にぴしゃりと言われた。
正直あれはマジだと思うぞ。
本気で私の事を思ってくれるんだったらTACで仕事にかかわる簿記二級を勉強させてくれ。
それから俺の父親の史彦はもう死んでる人間でいない人間だ。
悪いけど死んでいる史彦でなくて生きている金田一史香を見てやってくれないか。
本当にいい歳こいて両方本当にどうかと思ってる。
私は本性が怖気づいたムシャモンに対して沸騰させた怒りを向けた。
史香「トップシークレット気どんな!!」
「怖気づいた人間に真実の口も鼻も目もあるかっつーの!!」
「せいぜいグリムモンを呼び出して死にかけるのがオチだっての!」
カンカンになった頭にシンクロするようにサングルゥモンに赤い光が包む。
私は多数のカードから一枚のカードを取り出した。
ドルグレモン メタルメテオ。
膨大な金属の技を相手にぶつける技だ。
私はDアークにそのカードをスラッシュしてサングルゥモンに力を与えた。
サングルゥモンの全身は銀色に光りムシャモンにもう突進してぶつかっていった。
ムシャモンもメタルメテオをブーストされたサングルゥモンの攻撃で向こう側に飛んだ。
史香「やったか???」
バチンと音がして右肩が飛んで行った。
現実世界では戯曲を書いたのと同時にデジタルフィールドは解除された。
つまりは退治できたのだ。
今回の試みは成功だ。
どうやらこういった戯曲を書くことで死霊の右肩の擬態感情を退治できることもあるらしい。
しかしぐずぐずしていては私はまた同じことの繰り返しだという事を悟った。
ああ、向こうの都合に寄るけどコレは本格的にそろそろ親子喧嘩終わらせないと駄目かもな。
本性が人間の右肩デジモンの相手は正直ごめんこうむりたい。
ろくでもないがたまにこんな日々を過ごしている。
私は生涯デジモンテイマーやり通すことだけは多分決まった。
しかも相手はよりにもよって親には決して認識できない一番苦手なホラー。
私は死霊に取りつかれなければ本当に正常で感情に不自由しない。
デジモンが居たから私は一人暮らしをしていても寂しげな悲鳴を上げる事ができなかったんだ。
ずっと一人暮らししていても平気で居られてしまう。
声が聞こえるし、幻聴の存在を認知できてしまうから。
幻聴は私の操るデジモンの姿をしており右肩の死霊とは別だ。
右肩の死霊は上手くいけば戯曲で退治出来ることもあるらしい。
だが一応、明日、念のため、鳥居をくぐっておくか。
この文章を提出するのを邪魔されないために。
サングルゥモン「おい、もう一体ムシャモンが居るぞ!!」
私も気が付いた。
確かにどこかからまだ半分ゲームミュージックが流れている。
死霊にも数え方があって、ガーネットのブレスレッドを使うのだ。
玉のブレスレッドであれば何でもよい。
単純に右肩を意識してブレスレッドの玉を一つ二つ、と数えればいいのだ。
空間や右肩から音がすれば大体、死霊が居る数が決まる。
あとは勘だ。
死霊が付くと人間の感情にロックが掛かるのだ、コレはフィクションでなくマジだ。
本当に恐い話だ。
史香「サングルゥモン、ブラックマインド!」
ブラックマインドは狼になったサングルゥモンが相手の影の中に己を溶け込ませて本性を調べる技だ。
リアルでブラックマインドを使ってサングルゥモンに本質を調べてもらった。
何処からか歌が聞こえてきた。
元ネタがある、耳障りな電子音を発するこの歌はボッテガヴェネタという歌だ。
気が向いたらこの是非とも耳障りな電子音であふれた歌を聞いて欲しい。
死霊は所詮記憶の化け物。
本人が持つ執着している嫌な記憶に憑りつくのだ。
歌になって自らの内側から聞こえる。
サングルゥモンはブラックマインドで先ほどと同じ赤い空間を作り出した。
サングルゥモン「はい、どうぞ?」
そして私は出現したデジタルフィールドと共に再びムシャモンに向き直った。
史香「本性!!」
これはリアルでも相手の性質を調べるために口から発する私の掛け声だ。
主に右肩に注意を向けて発する私からのソナーのようなものだ。
私は耳をすました。
君がいなきゃけりゃ今頃高嶺なの…。
そう、デジタルフィールドが出来る前に耳障りな電子音や歌が流れてくることがある。
それにしても分かる事だが私の母はあらゆるものから本当に妬まれている。
これは聞こえていても私の感情ではない。
これも蛾の様に私に擬態した感情だ。
あのひとががいなければ私は高嶺だったか?
確かにあの人は私の成人式でも自分の式にしてしまうぐらい自己主張が強い。
正直言って全てに関して私がわき役だったようなものだ。
いつもかなりつらかった。
私はいつも彼女の引き立て役だったかもしれないが愛していたことは確実だ。
そしてあの人の結婚式の後に若いメンバーで歌を披露したのに私だけ何もできずに役立たずだった。
あの会でも正直食事の味がしなかったのはよく覚えている。
ならデジタルモンスターで勝負だ。
なら私が中学時代から一体何の日々を送っているかこの際だからあの人に明かすことにしようか!!
トップシークレット明かさないように…。
史香「おい、出し惜しみは無しで私がどんな日々を中学時代から送ってきてるかこの際だから明かしてやんよ!」
サングルゥモンが戻って来た。
私はデジヴァイスをかざす。
史香「サングルゥモン! 一段階進化してもらえない?」
サングルゥモン「はいよ。」
史香 「私が…君がいなけりゃ高嶺だったわきゃねぇだろうが!!」
「どこ行っても同じ奴は同じ奴でおんなじことを繰り返すに決まってんだろう!!」
「私はどうせどこ行ってもデジモンテイマーだ!!」
「泣き言聞くのはもう飽きたわ!!」
「子供の歌の泣き言に恍惚感を覚えて酔っている暇があったら往生しやがれ!!」
「大体あの歌の歌詞通りに奈落の底から人を導けるわきゃねぇだろうが!!右肩デジモンめ!!」
再び沸点がピークに達する。
私がDアークをかざすとサングルゥモンは赤い光に包まれてマタドゥルモンに進化した。
民族舞踊のデータから出来たデジモンで踊りが得意なのだ。
史香「私は一生デジモンテイマーやったるわ!!」
「覚悟決まった!!」
「それを邪魔されないように経理一筋で食ってくことにするわ!!」
マタドゥルモンはムシャモンに素早く走っていって蝶絶喇叭蹴(ちょうぜつらっぱしゅう)
というすさまじい蹴りをお見舞いした。
右肩のムシャモンの顔面にもろに決まったためなかなか爽快だ。
ムシャモンはたまらず向こうへと吹き飛んだ。
戯曲を書いたのと同時に再びデジタルフィールドは解除された。
マタドゥルモン「進路決まったな、史香?」
史香「そうだね、一生デジモンテイマーやって経理で食べてくよ。」
マタドゥルモン「俺と言う存在は一体なんだ?」
史香「私の魂を分けた存在だから右肩デジモンに攻撃が効くんだろう。」
マタドゥルモンはドラクモンに退化すると手を振って姿を消した。END