これで何度目だろう
デジタマから孵り目を開けた生まれたての幼年期デジモンは深いため息をする
恐らくこのまま進化するとまた自分はウイルス種になるだろうな、バブバブと嘆きながら重たい殻を落とし地面に横たわる
デジモンは死んだらデジタマに戻る
卵に戻る際、生前の記憶、悪意は切り捨てられ真っさら無垢な命に生まれ変わる
それなのにどうしていつも自分は…
ここは光が差さないダークエリア
闇のデジモンたちの巣窟
時折誰かの断末魔や悲鳴が聴こえ、小型から大型のデジモンがそこらじゅう徘徊し縄張り争いを繰り広げている
至る所にある血の跡
データの残骸に群がる獣
不死王や魔王を倒すことだけを希望に生きるアンデッドデジモンたち
相変わらずここは変わってないな
黒い雲を眺めながら前世の自分を思い出す
最初はヴェノムヴァンデモン
次はベリアルヴァンデモン
その次はボルトバウタモンにダンデビモン
どれに進化しても結果は敗北
何度生まれ変わってもここに生まれここで死ぬ
ダークエリアを良くしようとデジタルワールドを闇で覆って平等にしようとしたが天使に討ち取られ死亡
次は用意周到に行動し大勢の部下たちを引連れて縄張り争いに身を投じても結局最後はその部下たちに裏切られる
闇を糧に力をつけて世界を滅亡させようとしてみたが選ばれし子供たちによって長いこと封印され結局自死したり、他のデジモンに取り付いて悪事を働いたり、何度も何度も異空間に追放されたり散々だった
どうせ今回も酷い目にあう
全ての記憶を思い出せば思い出すほど、前世の自分たちが、お前は生きる資格のない永遠に悪を演じ切らねばならない宿命なのだ!と突きつけてくる
嫌だな
怖いな
苦しいのは嫌だな
これからまた苦しむのならいっそ…
幼年期デジモンはそばに落ちていた枝を持ち上げ己の中心部の皮膚に突き立てる
グリグリとねじ込むと内部をぐちゃぐちゃ音たてながら貫通させる
いたいっ!……痛い?
そうか、痛みってこんな感覚なんだ…
長いことアンデッドデジモンになっていたせいか痛みの感覚すら忘れていたよ
ゲロッと口から中身が飛び出でる
意識が遠のく中、薄らと自らの名を呼ぶ声が聞こえる
しかし、今の自分はその名じゃない
その名になったことなどない
でもなんでか何か大切なことを忘れているような…
目に光が失うと幼年期デジモンはその場から二度と動くことはなかった
魂(データ)が天秤にかけられる
悪性は下に沈み、善性は上へと上がる
死んだデジモンを一体ずつ隅々まで悪と善に選別するのはダークエリアを守護・監視をしている神人型デジモン、アヌビモン
悪きデータは永遠の闇閉じ込め、良きデータであれば再度デジタマへと還元する能力を持っているデジモン
「この魂(データ)は…!」
追先程デジタマに還元したばかりのデータが再びアヌビモンの手に戻ってきたのだ
大戦中であれば生まれてすぐデジタマが割れたり運悪く事故で幼年期デジモンが死亡する事例はあったが、アヌビモンはこのデータを調べてみるに生まれてすぐ自殺したものだと理解した
「お主、何故自殺などしたのだ」
アヌビモンはそんなばかな…と幼年期デジモンの記憶ベースを見て驚く
「このデータは記憶を持ち続けたまま生まれ変わっておったのか!?」
どうやらこのデータは初めからデジタマになると自然にダークエリアで生まれ落ちるように設定されていた
「私が気付かぬ古いプログラム!?何世紀以上もこの私を欺いていたというのか!?」
このプログラムはダークエリアという闇の世界に必ず誕生することを条件に前世の記憶が蘇るように仕組み、必ず悪事を働くように何者かの手により強制的に意識操作されていたのだ
一体誰が何のために?
「いずれにせよ、これでお前は前世のしがらみもなく生を謳歌できよう」
古いプログラムを取り除きデジタマに還元
悪性がない真っさらデジタマとなった卵をアヌビモンはダークエリアでない場所へ丁重に送る
「おゆきなさい」
優しく転がしてあげるとパカリと卵から大きな黒目を持った幼年期デジモンがケロリとした顔で誕生する
前世の記憶を思い出す素振りも見せないのを確認し安堵したアヌビモンが立ち去ると、生まれたばかりの幼年期デジモンはピコデビモンへと進化を遂げる
お腹を好かせピーピー鳴きながら同じピコデビモンの群れの元へと走り去っていった
その後アヌビモンは再び別のデータをデジタマに還元していると突如暗黒空間に歪みが生じるのを感じた
「やつが、終焉が動く…!!!」
ここ何世紀も動かなかったやつが自ら動くとは 、ロイヤルナイツは一体何をしているのだ!?
モニター画面を映し出しやつの監視をする
しばらくすると暗黒空間からやつが空間をこじ開け侵入するが、それはとても小規模であることに首を傾げる
本体は動かず沈黙を続けていた終焉の者がどういうわけかアバターを用いてデジタルワールドに降り立つ
やつはいったい何をする気だ?
しかしどうせろくなことではないことは確かだ
このままでは多くのデジモンがデジタマに還元せず消滅してしまう
やつの技、暗黒(ダークネスゾーン)は全ての命を無にしてしまう、それ即ちデジモンがその技を喰らえばデジタマに還元されない
やつは恐ろしい
本来ダークエリアを監視している身だがやつの監視もしておかねば…
アヌビモンは動かす手を止めず死んでいったデジモンたちのデータをデジタマに還元し続ける
しかし、本当にこれでいいのだろうか?
これから生まれるデジモンたちは終焉の者の手によって消されるために送っているのではないのだろうか
複雑な気持ちでデジタマを抱くアヌビモン
その傍らモニター画面には人に化けた終焉の者が成長期デジモンを眷属にしはじまりの街へ歩みを進めているのであった