前回(https://www.digimonsalon.com/top/dezimonchuang-zuo-saron/puroziekuto-torihune-8-ming-xing-noming)
前話の数日前のお話。
大人組がだべってます。
◇
展望台に1人、黒髪が夜風に靡く。
満天の星々を見上げているその横顔、歪に口角が歪んだ。
「よく見えるか」
後ろから問いかけた言葉に振り向きもしないが、錫杖が揺れる音を返事の代わりとした。
「ええ、ええ。よぉく見えまする。今まで何故見えなかったのか分からないくらいに、よぉく見えまするとも」
恍惚を宿した声音。
あまりにも感情が篭もる言葉に、思わず溜め息が零れる。
空を見上げるクズハモンを横目に、まだ仄かに暖かいカフェオレのキャップを捻りながら、冷えたベンチにフツコは腰掛けた。
「だいぶ馴染んできたようだな」
「ンン、そうですねェ。本当にピッタリ、日が経てば経つほど、どんどんニンゲンの血肉……肉体データに馴染んでいって、……フフ、もはやニンゲンかもしれませぬなぁ」
「とんだ化け狐だな」
「ンンフフ!」
錫杖が揺れて、澄んだ金属音が響く。
「魔女の星が境を越え、こちらに参りまする。天かける船が神剣を携え、極星の子を目指すとき、深い地獄に通づる三叉路に迷わぬように導く星となりましょう」
澱みなく言葉を紡ぐ。
紫を引いた口元が、穏やかに笑みを浮かべた。
「予言か」
「ンンフフ!フフフフ!ああ面白い、星をよみ、未来が見えるのはこんなにも面白い!……ヤスナもさぞ、面白がるでしょうな!」
フツコに背を向けたまま、クズハモンは狐面を静かに外す。
ただ静かに空を見つめるその背中に、フツコは何も言わず甘いカフェオレを啜った。
「事が起こる時期は分かるのか」
「2日後ですな」
「流石天才陰陽師」
「ンンフフフフ!褒めても何も出ませんぞっ!ンン〜フフフフフフ」
仮面を再び被ったクズハモンは、上機嫌に笑いながら振り返る。
フツコは手に握りしめた紙包装のタバコから1本だけ取り出し、静かにライターに火をつける。
一瞬、ふわりと漂うタバコの臭いにクズハモンは顔をしかめるが、強く吹いた夜風が紫煙をかき消した。
靡いた茶髪の向こう、タバコをくわえ俯いた横顔の様子を伺うことは出来ない。
クズハモンはスンと鼻を鳴らした。
「我らが塞ノ神。でしょう?」
「……分かってるさ」
ふ、と少ない紫煙を口から吐き出すと、直ぐにポケットの中に入っていた携帯灰皿を取り出す。
まだ火をつけてすぐのロングサイズのタバコを無理やり小さな灰皿にねじ込み、口直しとばかりに残りの冷えきった甘ったるいカフェオレを飲み干した。
口に残るタバコの煙く苦い味と、甘いカフェオレの不協和音。口内が不快感に塗り潰される。
「……苦い」
眉間に皺を寄せたまま、空のペットボトルをヤケのようにゴミ箱へとねじ込んだ。