(オリデジ)天使型デジモンが謎のデジモンがしかけた理不尽な魔女裁判にかけられる話です
「ち、ちがう……ゴボッ、けほっ、わたしはまじょじゃない……ゲッ、ゴボッ、わたしはてんし……!ほこりたかき、てんし……!」
水を含み乱れた赤いターバンから柔らかな金髪がこぼれ落ちる。
骨から折られた無惨な羽は濡れそぼって、力なく地面に垂れ下がりみすぼらしい。
冷たい水槽から解放され、その場に倒れ伏すダルクモンを、冷たい碧眼が眺めている。
「なまいきな目」
不機嫌そうに吐き捨てた瞬間、傍に控えるバステモンとピエモンが肩を震わせ緊張に張りつめた。
「わたしは貴様になんか屈しない、私は……誇り高き正義の天使だから!」
「あのね。さっきの"魔女"はすぐに根を上げたよ。あなたも"魔女"だと自白したの」
ほら、と指さした先を追い、ダルクモンは目を見開いて言葉を失う。
脚に真っ赤な釘を無数に打ちつけられたエンジェウーモン。
長い金髪を引き摺られて、乱雑にダルクモンの目の前へと投げ捨てられた。
「え、エンジェウーモンさま……」
「ごべん、なざいっ……ダルクモン、ごべんなざいぃ……」
割れかけた仮面からボタボタと涙を流し泣きじゃくる先輩天使の姿に、ダルクモンの肩が震える。
「貴様ァーッ!おのれ悪魔!よくもエンジェウーモンさまを!」
「あのね。こいつ、もう痛めつけられたくないから貴方を売ったの。そんなことも分からないの。……はーあ」
退屈そうに溜息をついた少女が玉座から立ち上がる。
「ファラオ」
「あのね、うるさい」
思わず声をかけたバステモンの首に、瞬時に首枷がかかる。
「に"ゃッ?」
わけも分からぬまま、バステモンが一声鳴いた瞬間。そのままストンと軽快な音が響き、階段からバステモンの頭が転がり落ちていく。
とさり、と胴体が崩れ落ちた。
「き、きさま、側近を……なんて惨い……」
「まだなまいき?あのね、うざい。だから魔女は嫌いなの。おまえはこう」
パチン。
指を弾く音と同時に火が爆ぜた。
「ギャアァァァアアアーッ!!!!!」
腹の底から絞り出した絶叫に、蹲ったエンジェウーモンが顔を上げ、わなわなと戦慄が止まらない。
激しい火炎に身を包まれたダルクモンの苦しみ悶えるデータは、黒煙を上げて焼失していく。
「きゃはは!きゃはははっ!綺麗事言う口からきたない悲鳴!きゃはは!あのね、面白い!」
まるで面白いアニメを見ているかのようにはしゃぎ笑う少女。
凄まじい火の勢いと絶叫は徐々に小さくなり、しばらくして、すっかり小さく削げた影が倒れふすと同時に火の粉と煤が控えめに舞った。
「あーあつまんない、もうおしまい」
「ダルクモン……あああ……!ご、めんなざぃ……ごめんなざいぃ……」
蹲り泣き咽ぶエンジェウーモンに、碧眼が冷たく向けられた。
「うるさい。"ミラー・オブ・ニトクリス"」
少女の冠に掲げられた鏡が怪しく輝き出す。
薄紫の煙がエンジェウーモンの周りを包み込むと、悲鳴をあげる須臾もないままその場から消え、鏡の向こう側へと姿を移す。
「おまえは完全体だからー……おやつ程度にはなるかな」
その言葉を聞く前に、鏡に張り付き叩くエンジェウーモンを無数の手が襲い掛かり、あっという間に闇煙る鏡の奥へと引きずり込まれていった。
少女とピエモン。静まり返った玉座の間。
はあ、と退屈そうにため息をひとつ。
「███ちゃん」
重たい闇の中から呼びかけられ、少女は振り返る。
不安そうな顔をしたピノッキモンを目視し、無表情だった顔に笑みが浮かんだ。
急いでピノッキモンへと駆け寄ると、すかさず彼の手を取った。
「ジュゼッペ!魔女の処刑してたから。遊ぶ約束、おくれてごめんね」
「……う、うん。いいよ。███ちゃん忙しいから……」
「ありがとうジュゼッペ。わたし優しいジュゼッペだいすきよ。さ、いきましょ。……ピエモン、チェシャの死体と魔女の煤片付けお願い」
恭しく頭を下げるピエモン。
そんな様子を見届ける前に、少女は縞柄の猫のヘアクリップを付け直して身繕いする。
「そのヘアクリップなあに?」
「可愛いでしょ?ウイカって子からもらったの。今度ジュゼッペにも会わせてあげるね。あのね、はやくいこ!お花畑にいるデジモン、どれだけたくさん殺せるか競走だよ」
ピノッキモンの手を掴み、歩き出す少女は上機嫌。
「♪uhssemahs uhssemahs……」
軽やかな靴音と、重い木靴の足音が響いた。