※オリジナルのデジモン&テイマーが主役です。
「今日の星座占い、1位は〜……乙女座のあなた!新しい出会いが待っているかも、ラッキーアイテムは……ラジオ!」
テレビの占いの結果に胸を弾ませ、軽やかなステップのままポシェットを掛け。
鏡と向き合い、小物入れから星の飾り次のヘアピンをさせば、彼女のオシャレは完成する。
「おはよう羽衣香!今日も幸運の星が輝いてるよー!」
ほんの少しだけ未来の世界に生きる少女、鳥船羽衣香はオシャレと星をこよなく愛する小学五年生。
趣味は星占いと天体観測。
将来の夢は宇宙飛行士かデザイナー。
素直で、心優しく、ちょっと夢見がち。
小学校は、ちょっと嫌い。
そういう少女だ。
小学校が終われば、真っ先に向かうのはプラネタリウムの図書室。
さっさと宿題を終わらせ、飽くまで本を読み漁った後は自宅に戻って夜中まで天体観測をする。日常ルーティン。
しかし、今日は特別だ。
今日はこっそり家を抜け出し、外で天体観測を計画していた。
忍び足で家から出かけ、街灯と懐中電灯を頼りに高台への階段を駆け抜けていく。
目的地の近所の公園が高台にあるため、よく星が見える。彼女の父親が教えてくれたとっておきの場所だ。
息を切らして公園まで辿り着いた彼女はベンチに腰掛けると、早速空を見上げた。
「きれーい!今日は晴天、天体観測日和!」
満天の星と、遠く見える都心の光の海。
眼前に広がる天地の星々に、羽衣香は目を細める。
『今晩はオリオン座流星群が観測できるでしょう!皆さん、お願い事なら今夜が狙い時ですよ!』
勝手に持ち出した父親の小さなラジオから朗らかな気象予報士のコメントが流れる。
スマホのニュースを確認したら、上着を羽織り直すと、再び目は星を映す。
見つめ続ける金銀の星粒輝く金青の空にすう、と須臾の白が引かれた。
「流星だ!」
興奮気味に囁く。
すう、すう、と一定間隔に流れる星に、目を離さない。
「…………」
少し冷えた空気に囁き声が消える。
「 」
流れ星にささやかな願い事。
羽衣香は願いを込め、目を閉じ、祈る。
願いを捧げる羽衣香の頭上に流星群が本格的に降り注ぎ始めた。
目を開け顔を上げると、まばゆい光が一筋、金青に消えずに空を走り続けている。
それは真っ直ぐに羽衣香の元へと向かってきていた。
「星が……」
非現実的な現象だが、羽衣香は躊躇わずに手を掲げる。
昨晩見たアニメ映画のよう。
落ちてきた星を手で受け止めて、そのまま口に含んだ男の子が魔法使いになるシーンが過ぎった。
輝く星はそのまま羽衣香の小さな手のひらに飛び込んだ。
眩すぎる光が手から溢れ出し、羽衣香は目を反射的に閉じる。
星はあたたかくて、ぱちぱちと手のひらでソーダのように弾ける感覚がする。
弾ける感触が弱まっていくと同時に、光は柔らかく弱くなるのが薄いまぶた越しにわかったところで、ゆっくりとまぶたを上げた。
手のひらには腕時計……バイタルブレスがあった。
「バイタルブレス?」
クラスの男の子がしていた形によく似た、スマートでシンプルなそれ。
さっき弾けてた星は……?と首を傾げる羽衣香の手の中、バイタルブレスが再び輝き始めると、纏っていた光が空へと飛び出した。
「な、なに?!」
「かァ"ーーーーッ!!!!」
空に浮かんだ光が弾けて、小さなぬいぐるみが姿を現す。
黄色い星のような帽子をかぶった頭に、小さな体。流れ星のような尻尾。
ぷるぷると頭を振ると、帽子の耳についていた光がホロホロと払われた。
「くぁ~ァ、なンでェ俺ァどこにいるンだ」
「か、かわいい〜♡流れ星のキラリンだ!」
定期購読している少女漫画にでてくる、2頭身の可愛らしい妖精にソックリな見た目のそれに、羽衣香は目を丸くする。
「おいおい、誰がキラリンだ?俺ァそンな安直な名前じゃァねンだよ。嬢ちゃん」
ふわ、と降りてきたそれは随分とぶっきらぼうな口調で羽衣香に話しかける。
「俺ァな、………ありゃ?俺ァ……名前忘れちまった?ンなことあるか?」
「名前、忘れちゃったの?!」
気が抜けた羽衣香は勢いよくベンチに座り込む。
無重力の中浮くようにゆらゆら揺れながらそれはうん、と頭をひねる。
「……確か……み、ーー……ミカ……あーークソッ、めんどうだな……。ミカモンでいいや。分からねえもん今すぐ思い出すなンて時間の無駄だからなァ。俺ァミカモン。星の子のデジモンでェ」
それ……ミカモンはサッパリと割り切り名乗る。
「俺は名乗ったぜ。出会った縁だ、嬢ちゃんも名乗りな」
「……羽衣香。わたし羽衣香っていうの!ミカモンはデジモンなんだね?……デジモンって何?AIホログラム?」
羽衣香が首を傾げ問えば、ミカモンは顎に小さな指を当てて少々考え込む。
「ま、知らなくて当然だ。俺ァ嬢ちゃんの住んでる世界とは違う世界、デジタルワールドってとこに住んでた生命体……だったと思う」
「へー!なんだかよく分からないけどすごーい!」
「……まあそれでイイんだけどよ。で、自分の名前も忘れちまった俺だが、これだけは確かだ」
降りてきたミカモンは羽衣香と目を合わせ見つめる。
「羽衣香、俺ァお前の為にここに来た」
「羽衣香のために……?」
「うーんなんてェかよ、目的も忘れっちまって情けねえンだが、それだけは覚えてたンだよ」
ミカモンの真っ直ぐな視線に、羽衣香は照れたように微笑む。
「……なんだかとっても運命的だね」
「なんか、そう言われるとこそばゆいな……まあ、違っちゃいねェな」
「しかも流星群の夜、とってもロマンチックだね」
「随分ロマンチストな嬢ちゃんだな」
照れくさそうに視線をそらしたミカモンはふわりと空に舞い上がり、柔らかい光を纏う。
「羽衣香、俺との出会いを運命って言ってくれたンならよ。俺のテイマーになってくれよ。そのバイタルブレスはデジヴァイスとかいうモンでよ、俺とお前を繋いでくれるそれなんだ」
「へーえ。カッコイイね。すごくすてき」
華奢な手首にバイタルブレスを巻けば、指先が温まるような心地良さが染み渡る。
「俺ァ、羽衣香のために何かを思い出さなきゃいけねェ……そんな感じするからよ。羽衣香、悪ィがその手伝いをしてくれねえか?危ない目に合いそうなら、俺が絶対守ってやる。星に誓って」
小さな拳で左胸をとん、と叩くミカモンは見た目とは裏腹に凛々しい。
「やだー!かわいい〜!」
「……そォかい」
ギャップに羽衣香の胸がときめく様子は、ミカモン的には不本意らしく不満げに目を細めた。
「よろしくね、ミカモン」
「よろしく頼んだぜェ、羽衣香」
突き出された小さな拳に応えるように、羽衣香の拳が軽くぶつかる。
クラスの男子とか、アニメで見たような仕草を実際にやるなんて。羽衣香はにひ、と笑みをこぼす。
「さァて、羽衣香!早速なんか訳の分かンねえやつが来たぜ」
がさ!と羽衣香の後ろ……公園の木々の後ろから物音が立つ。
懐中電灯を当て凝視すると、複数の影が木々の間を飛び回っているのが分かった。
「なんかいるよ!」
「コソコソ隠れてねェで出てきな!羽衣香、デジモンってのは戦う生命体だァ。危ねェから俺の後ろに来なァ」
後ずさりする羽衣香にかわって、ミカモンが勇ましく前へと出る。
ミカモンが小さな手を前にかざすと、そこからキラキラと光が溢れ出し始めた。
「"プレヤデスシャワー"!」
目が眩む程の光がミカモンの手から放たれる。
光は六筋、流星のように飛び出すと木々の間を飛び回る「訳の分かンねえやつ」目掛けて鋭く向かっていく。
「ミ゜!」
星にぶつかったか、木々の影が一瞬明るく輝き悲鳴が複数上がる。
「今ので4体、まァ悪かねェ命中率だ。羽衣香、大丈夫か?」
「ねえ!プレヤデスシャワー……ってプレアデス星団のこと?!カッコイイ〜!本当に星が6つ出てたもんね!すご〜い!本当にミカモンって星の子なんだね!」
後ろで飛び跳ね喜ぶ羽衣香に、ミカモンは拍子抜けしたように目を細めぎこちなく笑う。心配はしたがこの少女はかなりのマイペース気質なのだろう、と把握した。
「まだあと3体いたからな、油断するなよ。羽衣香、テイマーってのはデジモンのサポートも役目ってモンだ。頼むぜェ!」
「わかった!……ミカモン、木の間にもういない!上にいったよ!」
「よっしゃ!」
ミカモンは舞い上がると同時に"プレヤデスシャワー"を放ち、残りの2体を華麗に撃ち抜く。
残るは1体。親玉だ。
正に「星型」をしたそれは、黒いサングラスを掛けてミカモンに動じず睨むように視線を向けている。
「よう、イカした姿してンなアンタ。まあ俺には負けるが」
「annaysag urayn!natuys urayn!」
「なんてェ?分かるように言えや。俺ァ気が短ェンだよ」
「annaysag urayn!」
「ダメだ話が通じねえな」
「ミカモン!がんばってー!」
「おう、やってやんよ!!」
お互いが動き始めた瞬間、激しい光が弾けた。
凄まじいスピードでお互いがぶつかり合い、飛び交う星々が花火のように弾ける。
その中、羽衣香は相手のデジモンの背中に黒い星が輝くのを見逃さなかった。
「ミカモン!あの子背中に何か刺さってる!」
「おう!良い目してンじゃねえか!ありがとよ!」
攻撃を避けながら、ミカモンは羽衣香の声を受けて不規則な直線浮遊を繰り返し、相手の目を撹乱しにかかる。
相手が目を回して動きがにぶり、ミカモンはついに背後をとった。
「"ネビュラロール"!!」
高速で身体を回転させたミカモンは短い足で相手の背に不自然に刺さる黒い星を弾き出した。弾かれた黒い星を弾かれた瞬間、デジモンは電源が切れたように力を失って地面に落ちる。
そして、黒い星は重力に負ける前にミカモンはそれを手にとり……ガリガリとかじりつき始めた。
「ギャ!黒い星、ミカモン食べちゃった!?」
「……悪くねえ味だな、んま」
「だめ~!ペッしなさい!ペッ!」
「およ?どうしちまったんだ俺様は」
羽衣香の制止を無視してミカモンが黒い星を飲み込んだところで、デジモンが口を開く。
周りを見渡した後、何も分からないとばかりに首を傾げるような様子を見せる。
「チビどももなんで……?何があったんだ?」
「覚えてねえのかよ、さっきまで派手に動き回っといて……まあいいって事だ。チビ達は気絶してるだけだからよ」
「そうか……俺様はスターモン。チビどもとこっちの街に来たまでは覚えてはいるんだが……」
「さっき俺が食っちまった星がなんか関係してンだろうな。災難だったな」
スターモンの肩?を叩き、ミカモンは頷く。
この街にプラネタリウムがあるからそこに住み着くはずだったらしいが、道中で黒い星が刺さりなんらかの作用で暴走してしまったのだろう。
「悪ぃなあ、迷惑かけた」
「どォってこたねェよ。気にすンな」
「それにしても……ミカモン?俺様達は最近までデジタルワールドに住んでいたんだが、アンタみたいなデジモン見たことないな。ま、たくさんデジモンがいる世界だからな。分からない事があれば俺様達に聞いてくれよな。お嬢ちゃんもいつでも頼ってくれ」
「ありがとう!スターモンさんっていいデジモンだね」
羽衣香の言葉にスターモンは照れたように頭を掻く。
その様子にミカモンも満足げに鼻息を吹き出して笑った。
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「羽衣香、お前結構テイマーとして筋がいいじゃねェか。助かったよ」
スターモンズを見送った後、自宅に帰る羽衣香とミカモンは暗い夜道を歩いている。
「そうかな~?あのね、パパとママに、大切なのは冷静さと周りをよく見ること……って教えてもらったの。戦うミカモンを見た時にふと思い出したんだ。……ミカモンも、すっごくかっこよかったよ!ちっちゃくて可愛いのに、すごく強いんだね」
「可愛いは余計だがよォ……よせやい」
照れくさそうに頭を掻くミカモンに、羽衣香は思わず破顔する。
「……ところで、ミカモン、さっき黒い星食べてたけど……お腹壊してない?隕石ならニッケルとか……鉄とか……デジモンって鉄食べるの?」
「あ~、さっきの黒い星はデータだな。何らかのデータが凝り固まってたンだ。……なんで俺食ったんだろうな。まあ腹は壊さねえよ。あとデジモンは色んな奴がいるから鉄を食うやつもいるし、草を食うやつもいると思うぜ」
「へぇ~デジモンって不思議だねえ」
「少しずつ知っていけばイイさ。俺も人間のことは分からねェから教えてくれや」
「うん!改めてよろしくね、ミカモン」
流星の帳の下、再び人間とデジモンはこつん、と小さな拳を合わせた。