番外編・ミカモンと羽衣香の日常回2本立て短編です
『ガラス瓶のエトワール』
青と紫のグラデーションに透き通るガラス瓶の中を、ミカモンは興味深そうに覗き込んでいた。
手に取り、少し揺すれば中に入った白や青、紫、黄色……色とりどりの小さなつぶがからころと軽く音を立てる。
「可愛いでしょ、ミカモンみたいにキラキラで可愛いから、おばあちゃんに買ってもらったんだ〜」
下からすくうようにガラス瓶を手に取った羽衣香に、ミカモンは目を丸くする。
「羽衣香ァ、なンだいコリャ。キラキラしてるし甘い匂いする、食いモンか?」
「そうだよ。金平糖って言うんだよ、あまくてカリカリしてて美味しいんだよ」
ガラス瓶の蓋を開ける涼やかな音のすぐ、ふわりと甘さが香る。
開け口を覗き込むミカモンの様子に微笑みながら、かろかろと音を立てて皿へと金平糖をうつした。
小粒の金平糖を指先でつまんで口に放り込めば、羽衣香の口からカリカリポリポリと子気味良い音が零れる。
「オ〜」
「ミカモンもどうぞ、おいしいよ」
「おう……!ご馳走になるぜ」
小さな手が青の金平糖を掴み、目の前でまろく照る様子をじっくりと眺めてから、おそるおそる口へと含んだ。
かり、こり、ぽり、と金平糖を噛む毎に、ミカモンの目がきゅるる、と丸く輝きはじめる。
「……うンまい!」
「えへへ、美味しいよね」
「うまっ!羽衣香、もっと食べていいか?!ちょうだい、ちょうだい!」
「お皿分だけだよ、無くなったらまた明日ね」
「うん!」
小さな両手で金平糖を掴み、次々と金平糖を口に放り込む。
可愛らしい咀嚼音が、静かなキッチンに響く。
星空のようなガラス瓶を抱えながら金平糖を食べる、嬉しそうなミカモンに、羽衣香の顔がほころぶ。
「お星様がお星様食べてる」
「ンぉ!確かに、金平糖って星みてぇだな……かわいい俺みたいか?」
「うん、ミカモンみたいにかわいい」
「そっかよ、ヘヘ」
……
「あらま、羽衣香ちゃん。一昨日買ってきた金平糖もう全部食べちゃったの?食べすぎたらダメよ」
「う、うん!おいしくっていっぱい食べちゃった……気をつけるね!ガラス瓶、小物入れにしていい?」
◇◇◇◇◇◇
『星を織る糸』
クッションに埋もれたミカモンの視線の先。
座椅子に腰掛けた羽衣香、テーブルの上に広がる色鮮やかな糸、魔法のように動く指先。
羽衣香の指先に伸びていく色鮮やかな糸たちが、器用に動く細い指によってどんどん1本に編み込まれていく。
「羽衣香、羽衣香ァ、何作ってンだ?」
「んー……」
生返事をしつつ、羽衣香は編み込む糸にまろい星型の小さなビーズも編み込む。
集中している時に悪い、とミカモンはビーズクッションに身体を預け、その様子を眺めることに徹した。
細い糸が星のビーズを巻き込んで紡がれる。金と銀が織り込まれ、さながら星空のような平たい形をした紐が織りあがっていく。
ビーズクッションにうもれたミカモンの静かな寝息と、紐が擦れる僅かな音しか、そこにはなかった。
…………
「……できた〜!可愛い!」
30分後、羽衣香が歓喜の声を上げると同時にミカモンは長い尻尾をボワワと震わせて飛び起きた。
「見て見てミカモン、可愛いでしょ、お星様のミサンガだよ!」
そう言って翳した手のひらには、キラキラとラメがちらつくビーズ付きのミサンガが2本。紫と青のグラデーションに細やかな違いがある色違い。
完成度の高さに、ミカモンは感心の声を上げる。
「すっげェな羽衣香!こんな綺麗なモン作れちまうンだな」
「えへへ!羽衣香ね、手芸得意なんだ〜。今日のミサンガはね、特別なんだよ。羽衣香とミカモンの分だから!おそろい!」
ミサンガの1本を手に取り、ミカモンを眺めて結ぶ場所を探し……
まるでネックレスをつけるかのように首へと優しく結びつけた。
首元でキラ、と輝くビーズ。
フワリと飛びあがり、鏡を覗き込んだミカモンはによ、と口元を緩ませる。
「ありがとよ羽衣香ァ、大切にする!」
「ありがと!でもねミカモン、ミサンガは切れた方がいいんだよ」
「えー!なんでだよォ、勿体ねェじゃねェか」
「あのね、ミサンガはね、お願い事をして、ミサンガが切れた時そのお願い事が叶うんだよ」
自身の左手にミサンガを結びつけ、きらめくビーズをみつめる。
「ミカモンが、記憶を取り戻しますようにーって、羽衣香お願いしながら作ったんだ。あとね、ミカモンとずーっと一緒にいられますようにーってお願いもしたんだよ」
ミカモンを抱きしめ、ミサンガの結び目を撫でる。
羽衣香のバイタルを穏やかに感じ、ミカモンは心地良さげに目を細める。
「へへ、星が編物に願掛けってのも悪かねェな。ありがとう羽衣香。
……きっとお前の願い、叶うよ」
羽衣香の体に体重を預け、まるで言い聞かせるようにミカモンは囁いた。