※普段はオリデジとオリテイマーが主役ですが、今回は大人がだべってるだけです
「つまりぃ、何らかのデータ管理システム、デジヴァイスとかあの辺りを介さずにリアライズしている来訪神……ケモノガミがいる。ウチらの世界とケモノガミの世界、それを隔てているはずの境界を超える手伝いをしている境の神がいる……ってことかにゃ」
「あくまで憶測だ。別の街でもホログラムゴースト関連の事件が多々起きているが、私達の街に関しては多少違うニオイがする。何かが1枚噛んでいる」
鼻に通る煙の臭いが部屋の空気を満たす。
換気扇の音が延々空気を循環させる中、静かな空気を振り払うようにピイ、とやかんの湯が湧く甲高い音が鳴り響いた。
すっかり合皮が剥げかかったソファに腰掛け、フツコは深く紫煙混じりのため息をつく。
「セキュリティという結界を破ってやってくる来訪神、だなんてロマンあるにゃ〜」
「厄介なだけだ」
「あ!そーいえばさぁ!フツコ例の星っ子ちゃんのデータ取れた?てか写真ある?見せてよ〜」
「例外処理のことか」
「酷〜まあその通りなんだけど。あの星っ子ちゃん、あちらの世界で生まれた訳じゃないっぽいよね。かといって今確認されるデジモン達とはなんか違うよねえ。なにもんにゃ〜?」
「ますたぁ〜?角砂糖、おいくつ?」
「2個!ミルクいっぱい!」
「フツコ様、お砂糖は?」
「フツコはブラック、ぼくはあまくてミルクいっぱいのやつ」
「かしこまり」
給湯用の小さなキッチンからふさふさと尻尾が覗く。
フツコの膝の上。柔らかなまるい肉体を揉まれていたドキモンは規則正しく身体を震わせ続ける。バイタルは安定だ。
しばらくすると、香ばしいコーヒーの香りが空気にまじり始めた。
「おかしいですなぁ、わたくし最近夜中に歪みがないかどうか、夜のお散歩がてら見に行っているのですがねえ。天才陰陽師のわたくし、そうこのわたくしが!結界の歪みを見ているにも関わらず!奇妙奇天烈摩訶不思議ハチャメチャワチャモチャでございまするなあ」
キッチンから現れたドウモンは芝居がかったような言い回しをしながらトレーにのせたコーヒーとカフェオレを資料で散らばるテーブルの隙間にねじ込む。
「人間がリアライズの手引きをしているのであれば、どこかしらに大きな施設なり機材があるはず。磁場、結界の歪みもすぐ見つかりましょう。彼岸と此岸が交わるマヨヒガがどこかに発露もするかもしれませぬ。テイマーがいればバイタルブレスの機能でリアライズはできますが、しかしここまで人間の痕跡がないと……わたくしの見解、デジモンが境の神だと考えておりまする」
「一理あんねー流石天才陰陽師ドウモン様だにゃ〜」
「ええ!わたくし天才陰陽師ですので!これくらいは容易い!当然ですとも!ええ!ええ!」
分かりやすいくらいに尻尾を振り喜ぶドウモンに、「分かりやすいねえ」とドキモンが呟く。
「んで、フツコ。ウチさふと思ったんだけど」
「なんだ」
「リアライズするデジモン。1ヶ月前のウェンディモン、最近だとクロックモン、パンプモン……。なんか引っかかるんだよね。なんかさぁ〜あ〜喉まで来てんの、喉まで」
「何かしら法則性があるということか」
「そ!その法則性が何かが分からないんだけどさ……うーん!気がついたらすぐ言うわ。でもこれに絶対なんかあるはずなんだよね。それに、フツコが出動した時、必ず星っ子ちゃん達がいたんでしょ?」
カフェオレの入ったマグの中身が半分に減る。
「標的、星っ子ちゃん達かもね」
「やはりか」
「フツコも薄々思ってたっしょ。人間とデジモンのコンビであれば誰でもいいって訳じゃない、リアライズするデジモン達は星っ子ちゃん達を狙って来てるんだ。例外処理を消す為かにゃ?フツコ、目を離さない方がいいかも」
「ああ」
コーヒーを飲み干し、スマホを確認したフツコは上着を羽織るとデジヴァイスを起動させる。
ソファの上にとろけていたドキモンだったが、直ぐに丸い体を軽く弾ませ進化の光に包まれた。
「行くぞ、ピストモン」
「あいよー!」
「早速?報告よろしくね」
「ヤスナも頼むぞ」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
フツコが後ろに立ち乗りしたのを確認して、ピストモンはドアをぶち開けて部屋から飛び出していく。
「やれやれ、フツコって鉄砲玉というか一番槍というか」
「ますたぁ、いつもの人間の記憶いじるやつやっときます?」
「シャース」
「承知」
廊下から悲鳴が悲鳴が聞こえると同時に、ドウモンは影に解けて消え去っていった。
1人残された女……信太森保名は空になったマグを流し台に置いて定位置であるパソコンの前へと陣取る。
複数のデジモンのデータや事件の場所を纏めたファイルを起動し、キーボード前に置かれた民俗学の本と手帳を開けば、彼女のバトルは始まる。
「ウチらが塞の神、なんつってにゃ」