プロジェクト・トリフネの続編です
※オリデジとオリキャラがメイン
※むごめのデジ虐描写があります
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飛び交う鉛玉の嵐の中、金色の光はそれをものともしない。
弾幕の中を掻い潜り、進化の光が弾けた。
「"マグナモン"ッ!」
力強く四肢を広げ、金色の装甲の輝きを見せつける。
眩しさに目を細めたピノッキモンだが、これで動揺する肝ではないようだ。
後ろに控える少女デジモンを一瞥し、すぐにハンマーを構え直してホマレへと向き直る。
「……」
「ホマレちゃん!」
「……行きます!ヨツバちゃん!」
一気に距離を詰め、握り締めた拳を放つ。
素早くハンマーの柄を短く握り直したピノッキモンは、ホマレが放つラッシュを振り払い、そのままブリットハンマーを放ち追撃していく。
弾丸を拳で弾き、拳をハンマーで払い……高速で行われる鍔迫り合いに、閃光と硝煙が激しく弾ける。
拳とハンマーが交差する最中、ホマレの赤い目がピノッキモンの不安そうな眼差しを捉えた。
「君、どうしてそんなに怯えてるの」
「……ッ!」
ハンマーの軌道がブレた。
「どうして君はあの子と一緒にいるの?友達には見えない、テイマーにしては横暴すぎる、何かあったの?」
「う、うるさい!なんだよいきなり!お前っ、なに、なんだよ!」
ホマレの言葉にあからさまに動揺し、乱れたハンマーの乱れ打ちを、敢えてあしらうように弾きつつ、言葉を続ける。
「あのね、私のテイマーのヨツバちゃんは私の事大好きって言ってくれるの。あの子も大好きって言ってくれる?」
「当たり前だろ!リデルちゃんはボクのテイマ……!」
しまった、と言う顔でピノッキモンは口を開け、目がきゅうと小さくなる。
焦燥気味にホマレの拳を思い切り押し返すと、後ろに飛び退いて距離を取った。
「ジュゼッペ」
「り、リデルちゃ、ん……」
「はやくあいつころしてよ」
「で、でも……」
静かな口調で少女デジモンがピノッキモンに命令を下すが、"ジュゼッペ"と呼ばれたピノッキモンは口ごもってしまう。
「へーえ」
「まって!ボクがんばるから!リデルちゃん!絶対あいつ倒すから……」
「殺せって言ってるの!!!!」
突然の怒声に、ピノッキモンは肩を震わせて萎縮する。
「あの程度も殺せないの!?役立たず!!木偶の坊!!ゴミ!!」
長い金髪を怒りで逆立たせた少女デジモンはピノッキモンを容赦なく罵倒し始める。
頭を抱えて蹲るも頭を踏みつけられ、こめかみを狙って鋭く蹴り飛ばされ。
泣き声に交じって「ごめんなさい」と、か細い涙声が腕の隙間から漏れた。
ホマレとヨツバは異様な光景に嫌な汗が流れる。
「リデルちゃんごめんなさい……リデルちゃん、ごめんなさい……ボク、ボク……」
「役に立たぬ木偶人形はあたしの言う事だけ聞けばいい!!」
ぎらり、と少女デジモンの胸元の鏡が妖しく煙が燻るように輝く。
「それさえできないなら、烟る鏡の糧になっちゃえ!!
にゃる!しゅたん!にゃる!がしゃんな!
"マッドネス・ティーパーティー"!!!」
鏡が歪み、どろりととろけ、中心から盛れ出した瘴気が繁華街に立ち込めた。
そして、鏡の中心から、名状し難い禍々しい触手がピノッキモン目掛けて飛びついた。
「"プラズマ・シュート"!」
激しい閃光を食らった痛みで、手の形によく似た触手が、まるでつついたミミズかのように激しく脈打ち悶えて鏡の中へと引っ込む。
ピノッキモンを抱えたホマレがヨツバのすぐ側へと飛び退くと、直ぐにピノッキモンを降ろして少女デジモンへと視線を戻した。
「気に入らないわね」
憎悪を目に宿した少女デジモンが、低い声で唸る。
ヨツバは身体を震わせるピノッキモンに駆け寄り、ダメージ等のステータス異常の確認の為にスマホを翳した。
「ジュゼッペに触らないでッ!」
「さっき殺そうとしたものの発言か?発言がチグハグすぎるよ。情緒不安定か?」
「うるさいうるさいッ!生意気、生意気、生意気ッ!刎ねる!刎ねてやる!首を!首を!首をッ!!!!」
ホマレの言葉に激昂した少女デジモンは、顔を真っ赤にしてその場で地団駄を踏む。
異様な姿に、ピノッキモンが不安そうに身を縮めるのを見て、ヨツバはピノッキモンを庇うように抱きしめた。
胸元の鏡から立ち込める赤い煙を少女デジモンを包む。
青いワンピースが血のような赤に滲み。
こめかみから生えた、金と紫の縞模様の巨大な角。
生っ白くか細い腕に白い包帯が巻き付き、指先が血に染る。
深い紫の王冠と、禍々しい視線を感じるウジャト眼のイヤリング。
長い金髪を靡かせ、頭を抱えていた少女が深淵をたたえる青い目を再び上げた。
「我が名は"アリスモン"。赤の女王。鏡の国のファラオ。……裏切り者と、その共犯者に死を。首を刎ねてやる」
禍々しい瘴気を放ちながらゆったりと血に染った指先を向け、処刑を宣告する。
「リデルちゃん……!」
「やっぱりあの子デジモンだったんだ……」
「リデルちゃん違うの、ボク……!」
「もう話が通じる相手じゃない!君も死ぬぞ!ホマレちゃん、援軍はもう少しだよ、守って!」
「極めて了解ッ!」
装甲から光を放ち、再びプラズマシュートを放つ。
アリスモンは胸元の鏡を取り外すと、向かってくる閃光へと向けた。
閃光は鏡に吸収され、眩い光は鏡内を激しく駆け回り、鏡面が先程よりも強く輝き。
「"アヴェンジ・テスカトリポカ"」
静かな声音と同時に、鏡面から先程よりも比にならない、激しい閃光が放たれた。
スピードも桁違いだ、回避も間に合わない。このままなら、後ろにいるヨツバとピノッキモンも巻き添えになる。
ホマレに考える時間もない。
「私は、ヨツバちゃんを守る……!」
金の装甲を輝かせて強度を上げ、2人の盾になる為に前へと手をかざした。
「ホマレちゃん!!」
悲鳴をあげるヨツバの横顔を見て、ピノッキモンの目に涙が滲んだ。
激しい光が、繁華街に爆ぜた。
耳を劈く爆音。
爆風がビルのガラスを割り、看板を吹き飛ばす。
目を固く瞑っていたホマレが、目を開ける。
激しい痛みもない。
生きている。
「大丈夫?!よかった、間に合って!」
アリスモンは眉根を不愉快そうに寄せた。
ホマレとヨツバ達を包むように張られた結界に沿って、爆風が流れていく。
両隣でバリアを張った2体のデジモンに、ホマレは目を丸くした。
「あなたは……?」
「私はアステリアーモン!おまたせ!」
「よそ見してる暇はないぞッ!」
ウインクで返事をするアステリアーモンの横を掠めて、シャナモンがアリスモンへと飛びかかる。
「"マッドネス・ティーパーティー"」
「おっそーい!"八星跳"!」
「"クェイル・シューティー"!」
レアモン等に近い不定形の有象無象が鏡の中から現れるが、それに臆することなくシャナモンは圧倒的なスピードで刀を奮い、アステリアーモンは輝く鳥型の光弾を放ち、有象無象を消し飛ばしていく。
心強い味方に、ヨツバはピノッキモンを再度強く抱き締めながら安堵のため息を深く吐き出す。
「よかったぁぁぁ〜〜マジで死ぬかと思ったよ〜〜ラッキー……」
「おい!ヨツバ!健在か!」
後ろからヨウコモンに乗ったヤスナも駆けつけ、安心感にヨツバは瞳をうるませた。
「せんぱぁぁぁぁ〜い!死ぬかと思いましたよぉ〜〜〜」
「安心すんな!ヨウコモン進化!」
「あいわかった!」
ヤスナが縋り付くヨツバを払い除け、羽衣香をヨウコモンから下ろしてすぐ、デジヴァイスを翳す。
直ぐに放たれた光に包まれ、ヨウコモンは走りながらその姿をドウモンへと変わかり、無数の札を袖から飛ばしてシャナモン、アステリアーモン、ホマレを援護する。
「ありゃなんだ!見たことないデジモンだにゃ」
「アリスモンです、先程までは普通の女の子と変わらない姿でした」
「見る限り、かなり複合データで構成されてるようですなぁ!ンッン、分析しがいがありますね!」
「シャナモン!アステリアーモン!頑張ってー!……?」
ヤスナのニットを握りしめながら、声援を送る羽衣香の言葉が止まる。
完全体3体、アーマー体1体を相手に、互角の戦いを繰り広げるアリスモンの額。
身につけた金と赤、紫のアクセサリーに不釣り合いなそれだ。
「……しましまねこちゃんの……ヘアピン……?」
それは数ヶ月前。
ショッピングモールで出会った名前も知らないあの子にあげた。
アリスモンはその子にそっくりで。
ひゅう、と肺に抜ける呼吸が冷たくなった。
「や、やめて!やめてよー!シャナモン!アステリアーモン!やめてー!」
突然叫び出した羽衣香の声に、シャナモンの手が止まる。
「羽衣香!どうした?!」
「やめて!その子は人間!人間なの!デジモンじゃない!やめてよぉー!」
「あァンだってェ?!どういうことだ?!」
「羽衣香、来てくれたの」
場にそぐわぬ甘い声音の直後、4体が鏡から突き出したバルムンクに振り払われた悲鳴が響く。
「シャナモン!アステリアーモン!」
「羽衣香、羽衣香、まってたわ!わたしずっとずっとまってたわ!」
軽やかな足取り。小さくスキップしながら、飛びかかってくるデジモン達を振り払い、脇目も振らずに羽衣香の元へと向かってくる。
ピノッキモンにすら目を向けぬまま、まるで道端の石ころを避けるように、ピノッキモンごとヨツバを蹴り飛ばす。
ごぁ、と潰れた呻き声と同時に、道に赤が散る。
「おっとォ!待ちたまえ鏡の君!羽衣香くんと知り合いなのか!?」
「邪魔」
羽衣香の前に出て、盾になったヤスナすら障壁にならない。
べこ、と鈍い音が耳に届く頃には、ヤスナはアリスモンの腕の一撃によってすぐそばの喫茶店のガラス窓を突きぬけ、壁に叩きつけられていた。
「あ、あ」
「羽衣香!羽ー衣香!わたしのトモダチ、いちばんのトモダチ!だってねこちゃんのヘアピンくれたもんね、ねっ」
庇うものもいない、無防備で抵抗力もない。アリスモンの金髪の向こう、体力を消耗してすっかり退化してしまったデジモン達が蹲り、顔面蒼白で体が動かない羽衣香の小さな手を、血染めしたような手が握る。
「羽衣香、遊びに行きましょ、お屋敷でね、お人形さん遊びするの。羽衣香もきっと楽しいわ。ずーっとわたしと遊ぼうね!だって羽衣香はパパとママいないし独りぼっちでしょ?死んじゃったもんね!アリスが一緒にいてあげる!」
思考停止した頭が静かに冷えていく。
こういう言葉を受けた時に本来なら感じる全てが、抜け落ちていく。
膝から崩れ落ち、声も出ないまま。出てくるのは堰き止められなくなった涙だ。
「羽衣香泣かないでよ、泣いたら楽しくないわ。泣かないで、泣き止んでよ。アリスが泣かせたみたいじゃない。泣き止んで?泣くな」
頭上から浴びせ掛けられた理不尽で冷たい言葉すら、羽衣香の停止した心に深く突き刺さる。
羽衣香を守る人間は誰もいない。
ぼた、と地面に涙がこぼれ落ちた。
にゃる、しゅたん、にゃる、がしゃんな、にゃる、しゅたん、にゃる、がしゃんな
頭の中でぐるぐる回る呪文に、頭が一気に軽くなっていく。どうでもいい。この苦痛から、辛さから離れたい。
ああ、ああ、偉大なる神よ、偉大なる……
「テメゴラふっざけんなァ!!俺の羽衣香泣かせンじゃねェーッ!!!」
突き抜けた怒声と共に、アリスモンの頭がグラリと揺れ、羽衣香から手が離れた。
頭の中に回る呪文は消え去り、頭の中がクリアになる。
傷だらけのミカモンは鋭い歯を剥き出しにして、荒く呼吸を繰り返しアリスモンを威嚇した。
「うるせーンだよクソジャリガキがよォ!お前羽衣香とトモダチならよ!羽衣香泣かすんじゃねェよ!お前が誰であろうと俺が許さねえンな!!!」
ミカモンの激しい言葉に、羽衣香の心に光が点る。
「羽衣香には俺がいる。ばぁちゃんじいちゃんおじちゃんにカトリ。みんな羽衣香の事を励まして、共に悲しみを背負って、時には道を間違えかけたら正してくれンだよ。お前はそンなこと出来ねぇだろ。自分本位のヤツなンざァトモダチがいてもトモダチ傷つけるだけだ」
「ゴミがうるさいなあ。さっきお前らが羽衣香の言葉に耳貸したからそんなボロボロになったんじゃない」
「それはお前のことを羽衣香が覚えてたからだ、羽衣香はお前を傷つけたくねェからそう言ったンだ。俺も羽衣香を悲しませたくなかったからよ。羽衣香はな、優しいンだよ。この恩知らずがよ」
禍々しい空気を纏うアリスモンに、ミカモンは一歩も引かない。
両者睨み合う中、しゃがみこんでいた羽衣香が顔を上げた。
ミカモンの言葉は暗く冷たくなっていた羽衣香の心に、あたたかく道標の星光を灯し続ける。
「どんなに羽衣香が辛くたって、絶対傍に俺がいる。俺は羽衣香の北極星だからな」
ポラリスに、光が灯った。
「生意気、生意気!……羽衣香、ね、行こ」
「……行かない……。羽衣香、行かない!」
アリスモンの手を振り払い、ミカモンに駆け寄り抱きしめる。
羽衣香の突然の言葉に驚いたのか、アリスモンは呆然と見つめ、脚が止まった。
「羽衣香にはミカモンがいるから。
……私、酷いこと言う子大っ嫌い!あなたなんて同じクラスの坂下くんと同じ!パパが死んだ時にあの子羽衣香に『お前パパ死んじゃったもんな〜!』って言ったんだよ!あなたも!本当に本当に嫌い!大っ嫌い!」
ミカモンを抱きしめながら、羽衣香が今まで内に秘めていた言葉を吐き出す。
今までずっとできなかった、でもミカモンが腕を抱きしめてくれているから。
激しい怒りを、悲しみを。
「あなたとなんて絶対に友達になんてならないもん!!!!」
強く言い切り、肩で呼吸を繰り返す。
腕の中のミカモンが胸に優しく寄りかかり、安心させるように柔らかな光を放つ。
「羽衣香、イイ啖呵切ったなァ」
「ミカモンがいてくれたからだよ、ありがとう」
お互いの目を合わせ、強く抱きしめ合う。
再びアリスモンへと視線を戻すと、彼女は心底不愉快そうに目を細めた。
「そう。じゃあいいわ。羽衣香なんていらない」
乱雑に外されたラバーヘアピンが、地面に叩きつけられ、じゅう、とゴムが焼ける嫌なにおいが広がる。
「ッ!羽衣香!危ねェッ!!」
突如弾くように腕から飛び出したミカモン。
それを掴む真っ黒な手。
握り潰さんばかりの力で握りしめられたミカモンに、咄嗟に伸ばした手を、小さな手が払う。
「じゃあ代わりにコイツ貰うから。そこの木偶人形あげる。じゃあね」
「羽衣香!ッ、ぐ、俺ァ大丈夫だ、絶対戻ってくるから!心配すンなよォ!」
手の中で藻掻くミカモンごと、アリスモンは鏡に身を投じて姿を消した。
あっという間の出来事であった。
残ったのは、羽衣香と、満身創痍のデジモン達と、重傷の大人2人。
「ミカモン」
地面についた膝に、血が滲む。
胸の中にあったぬくもりが風にさらわれ消えていく。
遠くでサイレンの音が聞こえる。
心臓の音だけが、耳元でうるさかった。
「羽衣香ッ、大丈夫か、羽衣香ッ」
肩を掴まれ、顔を上げる。
「フツコさん」
「羽衣香、怪我はないか。よかった。君が無事で」
温かい。抱きしめたフツコの腕の中は、遠くに煙草のにおいがする。
フツコに会うたびに覚えていったそのにおいに、羽衣香は酷く安心を覚えた。
背中に手を回し、パリッと伸ばされたスーツを躊躇いなく握りしめる。
「遅かったか」
「申し訳ありません、……ジュゼッペ!何故ここに!ジュゼッペ、お嬢さん、しっかり」
「敵はもうおらぬようだな、……酷い有様だ」
ピエロのような男が、倒れ込んだヨツバとピノッキモンに駆け寄り。
鎧をまとった巨大なドラゴンが、周りを警戒するように特殊な形の刃を握りしめ。
まるで夢みたいで。
でも、現実で。
「フツコさん、羽衣香、ね、」
「なあに、羽衣香」
「……ミカモンを守れなかったよ……親友、で、いつも守ってもらってたのに……」
胸に顔を埋め、ふるふると肩を震わせる。
これは、現実だ。
「ミカモン、ミカモぉん…………」
聞こえ始めた静かな慟哭。
フツコは腕の中の小さく弱い、優しい少女を抱きしめることしか出来なかった。
オマケ
とある少女とデジモンの記念写真
