※オリデジとオリテイマーが主役です
「鳥船羽衣香ちゃんだね?この度はお悔やみ申し上げます」
式場の祭壇の目の前に佇む羽衣香が振り返ると、喪服に身を包んだ背の高い女が頭を下げる。
黒髪をアシンメトリーボブに切り揃え、眼鏡をかけた女は羽衣香の知る限り親族にはいないはず。警戒心を顕にする羽衣香に、女は顎に手を当て撫でた。
「……悪い!紹介がまだだったね。私は信太森保名。ヤスナお姉さん。フツコの同僚」
「フツコさん……?」
「そ!すまないね。本来ならフツコが来るのが筋なんだが、アイツ今体調崩しててね。代わりに私がやってきたんだ。私も羽衣香ちゃんと"星の子"ちゃんの事件を担当しているからね」
フツコの知り合いときいた瞬間に羽衣香の警戒が解け、ヤスナは竦めていた肩をおろす。
「……お母様が亡くなって辛いところで悪いんだが、終わったら少しお話があるんだ。お爺様お婆様にもお話はつけてあ……」
「……ママは死んでないよ……ママ、ここにいないもん……星になっただけだもん……」
俯き絞り出した涙声。
中身のない死出の船を前にした悲痛な言葉に、ヤスナの饒舌な口は止まってしまう。
「……そうさ、きっとそうさ。すまないね」
「羽衣香ちゃん」
名を呼ぶ低い声に、2人は顔を上げる。
髪を綺麗に整えた、紳士的な雰囲気を漂わせる背の高い男。
羽衣香と目を合わせると、沈痛な面持ちで目を伏せ、頭を下げた。
「ユリシおじさん」
「羽衣香ちゃん、この度は本当に……」
「ユリシおじさん」と呼ばれた男は、言葉を紡ぎ終わる前に顔を多い、涙で言葉を詰まらせた。
「(ユリシーズ・ネロ・オーウェン……確か宇宙研究の先鋭とか報道されてたな)」
身内に近い話と判断し、少し距離をとったヤスナは記憶を引きずり出し、眼鏡に組み込んだ検索プログラムを起動する。
ユリシーズ・ネロ・オーウェン。
宇宙研究、特に宇宙観測プログラム等の開発も手がける研究者だ。
今回サテライト・デーロスの事故で犠牲になった羽衣香の母も同じく宇宙観測プログラムや人工衛星運営プログラムを手がけており、職務を共にしていた。
「(宇宙ブラザーならぬ、宇宙親子だった訳だ羽衣香ちゃんは……)」
「まさか彼女まで!日本の宇宙研究は本当に惜しい人を失った……!それに羽衣香ちゃんのことを考えると、私は胸が張り裂けそうだよ……!」
「ユリシおじさん……わたし……わぁぁ……」
「羽衣香ちゃん、大丈夫。これからは私が君を支えるよ。つらいが……共に乗り越えていこう……!」
悲しみに震えるお互いは固く抱き合い、悲痛を分かち合った。
……
数日後。
ヤスナに呼び出された羽衣香は重たい足取りで待ち合わせ場所へと向かっていた。
「君に会わせたいものがいるのさ、来てくれるかにゃ?」
その言葉を深くは考える思考力は悲しみで鈍っていた。とにかく向かうしかないと、そのような足取りだ。
「羽衣香、大丈夫かァ」
「うん……平気……」
「……フツコの知り合いなら信用に値するがよォ、なんかあったら俺が絶対守ってやるから。な?」
小さな手が羽衣香の手を取り、優しく先導を始める。
「俺もなんだかよう、胸がズキズキするんだァ。羽衣香のママに会ったことないはずなのによォ。これって、羽衣香の気持ちでいう"悲しい"って奴だよなァ……?」
「……そうかも」
「じゃあ、羽衣香とお揃いだな。胸がズキズキ痛えけどよォ、羽衣香と手を繋いだらひとりぼっちじゃないだろ?ちょっと胸、痛くなくなるンだァ。羽衣香の悲しいとは比べられねえけど……」
くりくりの黒目を細め笑うミカモンの言う通り、柔らかな手の感覚を感じれば自分の心のモヤモヤが多少晴れるような気分になる。
重く曇っていた表情に、少しだけ晴れ間が差すように笑顔が浮かぶ。
「ありがとうミカモン。……ミカモンと一緒なら羽衣香、大丈夫みたい。安心するよ。ミカモン、大好き」
「辛かったら早く言えよォ、俺も大好きだぜ」
少しだけ軽くなった足取りで、2人は街並みを駆けていく。
待ち合わせ場所は街中から少し外れた場所にある神社であった。
「こんにちはあ!」
「ややや!お客様が来られましたよ。ヤスナ」
「あンだテメェ?!キツネ野郎」
「ン〜ワタクシ、どちらかというと女狐でございまする」
「やあやあ待っていたよ羽衣香ちゃん、星の子ちゃん」
「ミカモンでェ」
鳥居に縋っていたヤスナが姿を見せると、狐面のデジモン……ドウモンは静かにヤスナの後ろへと下がる。
「ミルクティーとレモンティーどっちがいいにゃ」
「ミルクティーがいいです」
境内のベンチに座らされた羽衣香に少しぬるくなったミルクティーを差し出すと、片方の手に持っていたレモンティーを上着のポケットに捩じ込み、フウと深くため息をつく。
緊張しているヤスナが珍しいのか、ドウモンは狐の鋭い目をさらに細めて口角を上げた。
ヤスナは太フチのフレームを指で押しあげる。
「……来たまえ」
短くそう呟くと、社の影から1人の女が現れた。
左右対称のシニヨンから三つ編みを長く垂らした金髪。スラリと伸びた手脚。まるで星雲を捉えた写真のような紫とピンクの輝く鮮やかな瞳。スタイリッシュなワンピース姿。
"まるで魔法少女のような姿"で、フワフワと浮かびながらこちらへと距離を縮めた。
「……か、かわいい……」
羽衣香の理想の「魔法少女」のようなそれが人間でないのは明らかだ。
しかし、その見た目の美しさと可愛らしさは羽衣香の警戒心を解くのに十分であった。
首を傾げ、まるで睨むように彼女を観察するミカモン。
1人と1体の様子を交互に確認し、魔法少女は口を開いた。
「……こんにちは、はじめましてウイカ。私、アステリアーモン。……サテライト・デーロスの防衛システムだったデジモン。それと……ステラモン、久しぶりね」
魔法少女……アステリアーモンの言葉に、羽衣香とミカモンは目を見開く。
「サテライト・デーロス……ママ、ママを知っているの?!」
「ステラモン?!俺ァミカモンだ、なんだテメェ!俺の事知ってンのか?!」
1人と1体はベンチから跳ねるようにして立ち上がり、アステリアーモンに迫る。
「あのね、羽衣香ちゃん。……先日、アステリアーモンの緊急要請を受けて、フツコとバウトモンがサテライト・デーロスへと救助に向かったんだ。……未知のコンピュータウイルスが相手だった」
「私頑張って戦ったんだけど、皆を守れなかった……。オリコだけでも地球に帰してあげたかったのに……ウイカ、本当にごめんなさい……」
ポロポロと涙を零し、顔を手で覆って身体を震わせるアステリアーモン。
突然の告白に、羽衣香は呆然として言葉が出ない。
その様子を察したミカモンが素早く羽衣香の腕にしがみつき、小さな手で腕を撫でる。そうやってようやく意識がミカモンに向いた羽衣香は小さなミカモンの体を引き寄せ、ぬいぐるみのように胸の中で強く抱き締めた。
羽衣香を宥めるように、ミカモンは震える腕を撫で続ける。
「私はオリコに頼まれて、バウトモンさんにここまで連れてきてもらったの。……大切なウイカを守って、って」
「……お、おい、ソレ、俺、……うぐぐっ」
アステリアーモンの言葉を聞いたミカモンが突然頭を抱えてひらひらと地面に落ちる。
「ミカモン?!頭痛いの、大丈夫?よしよし……」
「うぐぐっ、こいつ見てたらなンか、頭超痛え……!」
「ステラモンあなた何にも覚えてないの?あの時にあなた記憶喪失しちゃったの?」
「何のことだよう?!俺ァお前みてェに誰かに羽衣香を守れって言われ……?誰……」
目を丸くして、ミカモンは自身の放った言葉に思考を巡らせ始める。
不安げな羽衣香を丸くした目で見上げ、何を言いたいか定まらない口をパクパクと開閉してしまう。
「俺ァ……ッ!」
「……ッ?!」
ドン、と地を這うような重低音と同時に大地が揺れる。
ふらつくヤスナをドウモンが支え、音の方へと目を向ければ、アステリアーモンも何かを察したかのように身構える。
鳴り響いた着メロに一瞬肩を震わせるが、ディスプレイに映る名前を確認するとすぐに耳元へとスマホを翳した。
「もしもーし!ヨツバァ!今揺れたな?!」
『ヤスナ先輩!?大変です、デジモンが2体!1体は究極体!もう1体もおそらく究極体です!繁華街近くに出現しました!』
「何のデジモンか分かるか?!」
『1体はピノッキモン!もう1体は見たことないです、金髪の女の子みたいです』
「テイマーではないんだな?」
『はい!』
「分かった、私もすぐ行く!カチドキホマレはいるな?持ちこたえてくれや!」
『わかりました!お願いします!』
"ヨツバ"と名乗る電話相手にそう言い切ると、すぐにスマホをサーチモードへと切り替える。
北にある繁華街は徒歩でもすぐの距離だ。
ヤスナはドウモンとアイコンタクトを交わし、羽衣香とミカモン、アステリアーモンへと視線を戻した。
「……こんな時に申し訳ないが、究極体相手にドウモンはキツイからにゃ〜……!羽衣香ちゃん、星の子ちゃん、私たちを助けちゃくれないかい?アステリアーモンくんもね」
「……!はい!羽衣香達が力になれるなら……!ミカモン、行こう!」
羽衣香の声掛けに、ミカモンは力強く頷くと腕の中から飛び出して進化の光に包まれる。
シャナモンに進化し、羽衣香を抱き上げるとお互いに視線を交わして力強く頷いた。
「ウイカ!ムリしないで、私も守るから!行くよっ!シャナモン!」
「言われなくとも!」
「……ありがとう、アステリアーモン!」
「先に様子を見てくるわ!気をつけて!」
アステリアーモンは空高く舞い上がると、真っ直ぐ北の方角へと飛び去る。
その姿を追うように、退化したヨウコモンに跨ったヤスナとシャナモンに抱かれた羽衣香が続いた。
……
「"ドラゴンインパルス"!」
「"ブリットハンマー"!」
激しい爆発音と暴風に、繁華街の店先の商品が宙へと舞い吹き飛ばされていく。
爆風の勢いに乗って後ろに飛び退いたエアロブイドラモンに、女性警官が駆け寄ると、労わるように背中を撫で、硝煙の向こうから視線を外さない。
「ヨツバちゃん、危ないよ」
「大丈夫!ホマレちゃん大丈夫?」
「ちょっとヤバいかも、流石に究極体は伊達じゃないよ」
「……ピノッキモンの後ろにいる女の子みたいなデジモン、なんだろう……まるでテイマーみたいだけど……」
女性警官……ヨツバの視線の先。
ガラガラとハンマーから薬莢を落とすピノッキモンの後ろにいる、金髪の少女型デジモン。
後ろで手を組み、手を出すつもりもない。ピノッキモンの仲間なのは確実ではあるが、見守る様子がまるで"テイマー"のそれに近い。
「ジュゼッペ、遊ばないで。次は仕留めて」
「……わ、分かった、ごめん███ちゃん……」
「次仕留めなかったら、首を刎ねて魔女を燃やす為の薪にしてやるから」
「や、やめてよぉ……!」
「きゃはは!はやくころしちゃえ!ころしちゃえー!」
声が震えるピノッキモンに、ヨツバは違和感を抱きつつある。
テイマーみたいなデジモンとデジモン。
でも、その怯えた様子はまるで……
「まるで暴君みたい……」
「ヨツバちゃん!来るよ!」
索敵に夢中になりすぎた。
ヨツバはエアロブイドラモン……ホマレの言葉で戦場へと引き戻される。
「先輩たちが来るまで持ちこたえなきゃ……!ホマレちゃん!」
「よーし!どんとこーい!」
スマホ画面が金色に光り輝き、金色のアーマーがホマレを取り囲む。
「ホマレちゃん!デジメンタルアーップッ!!!」
「エアロブイドラモンッ!アーマー進化ァァァァーッ!!!!!!」
To Be Continued……
アステリアーモン
完全体・神人型・ワクチン種
星のデータで構成された美しい姿をしたデジモン。
夜空に輝く星のように、明るく元気な性格で生粋のアイドル気質。年頃の少女達の心に寄り添い守る心優しいヒロイン。
元々は人工衛星のプログラムに住み着いていた。
得意技は輝く鳥を飛ばす「クェイル・シューティー」。12連弾を同時に放つ「マジカル・ホロスコープ」
必殺技は星図を周りに展開し、無数の流れ星を放つ「ミラクル・スターチャート」。設定画
