※オリデジとオリテイマーが主役です
「どワァッ!!!!」
凄まじい爆音が鳴り響いてすぐ、ガラス張りのビルに一瞬で細やかなヒビが入り木っ端微塵に砕け散る。
砕けた鋭いガラスの雨に混じり、満身創痍のミカモンが地面へと叩きつけられた。
「ミカモン!!!」
逃げ惑う人々の波と喧騒に押し流されないのが精一杯で、羽衣香は壁際から離れられない。
ただ今日は2人で街でやっている宇宙写真展示会を見に行こうと計画してやってきただけなのに。
「ミカモーン!ミカモン!今行くから!ミカモーン!」
喧騒を抜け出て、羽衣香がミカモンの元へと駆け出す。戦闘に巻き込まれてすっかり足元が悪くなった道路には、めちゃくちゃに潰れた車や落ちて粉々になった看板が散乱している。
「羽衣香ァ!来るんじゃねえーッ!」
「Ithaqua─────!」
立ち上がろうとするミカモンだが、上から全体重をかけて抑え込まれてしまう。
巨大なデジモンはミカモンの尾を掴みそのまま乱暴に地面へと叩きつけ始める。
現場に駆けつけた羽衣香だが、突きつけられた光景はあまりにも衝撃的でいとも簡単に腰を抜かしてしまった。
死の恐怖が体に駆け巡り、膝に力が入らない。
ミカモンが死にそうなのに、でもあんな巨大なデジモンにはかなわない。しぬ。
「み、みかもん……」
「俺ァ平気、だから逃げッ、ガァッ!!」
「みかもん……だ、だめ……たてない……」
ミカモンは必死に腕にしがみつき、技を放つが全く相手に効いていないようで、呆気なく殴り飛ばされてしまう。
羽衣香を連れて逃げたい、しかし自分も巨大なデジモンの相手で手一杯で、すっかり恐怖にやられてしまい動けなくなった羽衣香を連れて逃げる力もない。
再び柱に叩きつけられ、ペチャリと地面に落ちたミカモンを確認してから、巨大なデジモンは視線を羽衣香へと移す。
ぼんやりとした目が、羽衣香をとらえた。
ずん、ずん、と足がこちらに向かう度に地面が揺れる。
恐怖のあまり声も出ず、足も動かない。
迫り来る死の風に、ボロボロ涙を零しながら震えることしか羽衣香はできなかった。
「みかも……」
目の前についにやってきた巨大なデジモンが腕を振り上げた。
「"雷撃踵"!!」
悲鳴を上げて頭を庇う羽衣香だが、腕の衝撃の代わりに耳をつんざく雷鳴のような爆音が突き刺さる。
反射的に顔を上げると、巨大なデジモンは羽衣香から離れた真横のビルの壁にめり込んでいる。
代わりに背の高い派手な格好をした男……?が細やかなステップを踏みながらそこにいた。
そして周りを見渡すと、周りのビルや道路には草木が生い茂り、少々朽ちた様子となっていた。
「大丈夫か?」
「あ、……ぁ」
「怪我はないか?もう大丈夫だよ」
「バウトモン、来るぞ。行け」
「合点!」
後ろから呼びかけられた声に反応して、バウトモンと呼ばれた男……デジモンが一瞬で相手に向かって飛び出していく。
飛び出していったバウトモンの代わりに、髪の長い女が靴音を鳴らして羽衣香の元へと歩み寄ってきた。
「アレはウェンディモン。成熟期、ウイルス種。あそこまで気が立ってる状態は初めて見た」
座り込んだ羽衣香の隣にガニ股でしゃがみ込んだ女は、プカプカと煙草を蒸かして冷静に解説を始める。
「君のデジモンはまだ成長期だろう。気が立ってるウェンディモン相手になかなか頑張ってはいたが、やはり実力不足だ。君もだ。弱い」
突然投げかけられた言葉に、羽衣香はポカ……と口を開ける。
「デジモンと人間は一心同体みたいなもの、自分の心を映す鏡とも言うな。君が敵に脅えていたら、デジモンにもそれが伝わる。特に負けるかも、死ぬかもなんて不信はデジモンにも悪い影響を与える。テイマーの覚悟が無いなら君はデジモンのパートナーに相応しくない。君が強くならなければ、パートナーのデジモンは死ぬ」
女はハァ、と紫煙を吐き出し立ち上がると、腰から提げていた携帯灰皿に吸殻を押し込む。
女が羽衣香に話しかけてる間にも、バウトモンはウェンディモンも激しく拮抗しており、弾ける雷撃と吹き荒ぶ風が羽衣香と女の髪の毛を乱した。
ウェンディモンを吹き飛ばしたバウトモンは素早く駆け出すと、瓦礫の中に倒れていたミカモンを抱き上げ羽衣香と女の元へと軽やかに滑り込んだ。
「バウトモン、遊ぶな」
「ガールズトークは長いだろう、少し間を稼いでいただけ。ちっちゃい子に言い方キツイぞ」
「甘くはしないからな」
「もー。君のデジモン、気絶してるだけだから大丈夫だ。後は俺たちに任せて」
傷ついたミカモンを羽衣香の腕の中に優しく渡したバウトモンは再びウェンディモンへと向き直り駆け出していく。
鮮やかな連撃に押されるウェンディモンは防御で手一杯らしい。
「ミカモン、大丈夫?」
「チィィィ……情けねェったらありゃしねぇ……」
ハンカチで汚れを拭ったことで気がついたミカモンは真っ先に悔しげに言葉を漏らす。
眉間に深く谷を作り、鋭い歯をぐ、と噛み締めたミカモンの姿に羽衣香の胸が締め付けられるように痛む。
バウトモンのパートナーだろう女の言葉が更に羽衣香の胸の痛みを更に深いものにしていた。
「ミカモンはよわくないもん……ミカモンは羽衣香を助けてくれたもん……」
傷だらけでジリジリとノイズが走るミカモンの姿がじゅわり、と滲んだ。
「ミカモン、ごめんなさい、ごめんなさい……怖くてたまらなかったよ……ミカモンが戦ってくれてるのに……ごめんなさい……」
表面張力に負けた涙がミカモンの顔や体にぼちゃぼちゃとこぼれ落ちる。
「羽衣香、泣くなよォ、羽衣香は悪くねえンだ、俺がしくじっただけだからよう、羽衣香は危ない中俺のところまで来てくれたじゃねえか」
「でもミカモン、羽衣香助けられてばっかりだよ。もう傷つくミカモン見たくないよお……羽衣香も、強くなりたい……!」
「ムッ!この感覚」
伸びた稲妻前髪がビビビ、と小刻みに揺れる。
何かを感じとったバウトモンがウェンディモンを蹴り飛ばしてすぐ、一旦攻撃の手を緩め、振り返る。
……もう1体のウェンディモンが停車していたバスを握り締め、不意をついてバウトモンにそれを叩きつけたのは同時であった。
バウトモンは反射的に腕を交差させなんとかガードの体勢は取ったものの、隙を突かれたことで踏ん張りも効かず、叩きつけられた勢いで身体は呆気なく数百メートル先の交通標識に叩きつけられた。
「上手いこと大気に紛れて気配を消していやがったな、バウトモンを出し抜くとは大した奴だ」
女は羽衣香を庇うように前に出ると腰に提げた拳銃を躊躇いなく抜き、ウェンディモンへと銃口を向ける。
「私の拳銃は特殊だ、お前達デジモンの身体のデータ構造を破壊するプログラムが組み込まれた代物。子供に手を出してみろ、お前の額をぶち抜く」
淡々とした口調のまま、冷静に女は近づくウェンディモンへ狙いを定める。
「フツコ!お嬢ちゃん!逃げろ!俺が間に合わない!」
再び立ち上がってきたウェンディモンの脳天に破壊的な一撃を放ち、データ消滅させたバウトモンは地面を一気に蹴り上げ走り出す。
離れた距離だ、バウトモンの言う通り彼の拳がウェンディモンをとらえるより先にウェンディモンの一撃がパートナーの女の命を奪うだろう。
バウトモンは手を伸ばす。
ウェンディモンの腕が振り上げられた。
瞬間。
「ウオオオオ"オ"オ"ーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!」
地を揺らす咆哮と雷光よりも鋭く眩い光が周りに弾ける。
バウトモンの駆け寄る脚も、ウェンディモンの振り上げた腕も、引き金を引こうとした指も、光に全て圧倒され皆が動きを止めた。
「み、ミカモン!あつい……!」
左腕に着けたデジヴァイスと腕の中で抱えていたミカモンが激しく輝き始め、羽衣香は仰け反りながら目を細める。出会った時に受け止めた星の光よりもはるかに強い光。先程感じていた恐怖の時とは違う、胸の高まりを耳元で感じる。
「ミカモン、どうしたの?ミカモンっ……」
「大丈夫だ!羽衣香!俺ァお前の誠意に応えなきゃならねえ!俺を思うその気持ち、他の為に心から強くなりてぇと願うその気持ちが何よりも俺を支えてくれる、強くしてくれるんだ!!行くぜェェェェーーーーーーッ!!!!!!」
キュゥン!とデジヴァイスからアラームが鳴ったと同時に、強い光を纏ったミカモンは弾けるように羽衣香の腕の中から飛び出す。
『ミカモンッ"!!進ッ化ァァ"ァ"ーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!』
眩すぎる輝きの中、星の妖精の姿が宙で変化を始める。
しなやかに逞しく伸びる獣の四肢。
紫の札飾りが混じる白銀の毛並み。
仮面の下から覗く、鋭い獣の瞳。
長く伸びる尾に刻まれた星図。
「『ミブモン』ッ!!!」
狼のような姿になったミカモン……
星の光を振り切ったミブモンが力強く名乗りを上げる。
軽やかに宙返りを披露すると、その余韻を振り払って、着地と同時に大地を力強く踏みしめる。そのまま輝く星と光を纏いながら目にも止まらぬ速さでウェンディモンに突進を繰り出した。
「"シリウスライナー"ッ!」
突進をノーガードで食らったウェンディモンは軽々と突き飛ばされ、無防備な様子に追い打ちをかけるように輝く星が猟犬の如く真っ直ぐにその巨体を追って突き刺さる。
突進の反動を使って再び羽衣香の元にとんぼ返りしたミブモンは呆然とする羽衣香の頬に顔を擦り寄せた。
「ミカモン……?」
「応!今はミカモンではなくミブモンだ。羽衣香が強くなりたいと願った力が、俺を進化させたんだ」
「……すごい……。本当にミカモンなんだ!ミブモン、すごい!」
「羽衣香、まだウェンディモンは倒れてないぞ。俺と共に戦ってくれ!」
「うん!」
よろけながらも立ち上がるウェンディモンと対峙する。恐怖に打ち勝ち、立ち上がった羽衣香が隣に立ったのを横目で確認したミブモンは笑みを浮かべ、直ぐに敵に向き直る。
「ミブモン!頑張って!!」
「やってやんよ!!!」
掛け声と同時にミブモンは流星のように目にも止まらぬ速さで走り出す。振り回される剛腕と必殺技を華麗に躱して翻弄していく。
「おっそーい!お前の風は俺より断然だよ!」
走り抜けた後に涼しい風が吹き抜ける。
急停止したミブモンが大きく口を開け、次の攻撃に備え始めると、口先に風が集まっていく。
「"アステリズムウィンド"!!」
フウ!と集まった風の弾を撃ち放ち、ウェンディモンの胴体へと風の弾を食らわせる。圧縮した風の弾をもろに食らい、ウェンディモンが膝を着いたところで、ミブモンは高く空へと飛び上がる。
宙に留まるミブモンが再び大きく口を開くと、鋭い牙に光を纏い始めた。
「ミブモンいっけぇーーーーっ!」
「"天狼噛"!!!」
羽衣香の掛け声を合図に、牙をガチリと鳴らし再び口を思い切り開けた瞬間に牙に宿っていた光がそのまま牙の軌跡が放たれた。
勝ちを確信したミブモンは バウ!と低く吠える。
鋭い牙の光はウェンディモンの左半身をぞぶりと齧り取ると、凄まじい光を伴い爆発してそのままウェンディモンの肉体をデータごと吹き飛ばした。
反動を借りてアクロバットに地面に着地したミブモン。羽衣香の方を振り返ると、得意げな表情を浮かべた後、朽ちた都市中に響きそうな程の大きな遠吠えで勝鬨を上げた。
「ミブモンーー!ミブモンすごい!ミブモンすごいよーー!」
ミブモンに駆け寄った羽衣香は、ふわふわの毛並みを持つ体躯を抱きしめ、頭や首をわしわしと撫で回す。
ミブモンの戦いを見守っていたバウトモンはパートナーの女とお互いの顔を見合わせ爽やかに笑顔を浮かべる。
女は表情筋を動かす気もないのか、ふ、と短く息を吐いて羽衣香とミブモンをみやった。
「あの時攻撃をとめたのはこの事か」
「いいバイタルを感じたからな。胸にグーッときた。昔のフツコみたいで気になって」
「だからと言って油断して一般市民を危険に晒しかけたのはあってはならない事だ。反省しろ」
「はーい」
バウトモンの胸板にドンと一撃を食らわせた女は、靴音を鳴らしながら羽衣香とミブモンの元へと歩み寄る。
「今回はたまたま進化ができたから倒せたが、毎度そうとはいかない。危なっかしい事には首を突っ込むなよ」
「……あ、あの、でもね、さっきのデジモン、いきなり襲ってきたから……」
「そうだ。……だが俺はもう負けない。弱いとは言わさない」
鋭い目線を寄越すミブモンを睨み返して、女はスーツのポケットからスマートフォンと2つ折りの手帳のようなものを取り出す。
「……改めて、私は香取経津子。警視庁特別捜査班ホログラムゴースト案件担当だ。こっちはパートナーのバウトモン。何か怪しいことがあれば直ぐに連絡してほしい。連絡先を教えるからスマホを出しなさい」
開かれた警察手帳を見て、羽衣香はミブモンと顔を見合せる。
「お姉さん警察なの?」
「顔と口調は怖いけどなかなか頼りになるぜ」
「バウトモン」
「最近ホログラムゴースト……デジモンが関係する事件が多発しているから、俺達がこうやって出動してるんだ。でも1人と1匹で事件全てを発見、把握するのは難しい。だって幽霊みたいに普通なら見えない存在だからね。君ならその子を連れてるいわゆるテイマーだし、直接デジモンを見つけることが出来る。お願い!目撃情報だけでも凄くありがたいんだ!」
バウトモンが勢いよく手を合わせて頭を下げるものだから、羽衣香は少し間を開けたものの、ポーチからスマホを取り出した。
「……あの……」
「フツコでいーよ」
「バウトモン」
「ンアアア〜ッ尻尾痛いってフツコぉ」
「……あ、の、経津子さん、羽衣香頑張って強くなります!経津子さんみたいに強くなりたいから……あの、がんばります!お願いします!」
バウトモンが口笛を吹いて経津子を茶化すが、軽く肘鉄を食らわせてからスマホのバーコードを読み取る。
お互いに連絡先を交換したところで、経津子はデジヴァイスのボタンを押して元の世界へとレイヤーを替えて、2人と2体は戦線を離脱した。
先程ウェンディモンが暴れていた痕跡はあれども、切り替えた以降、それ以上被害はでていないようだ。
「1人で帰れるか?」
「はい!ミブモンもいるから大丈夫……あ、ミカモンになってる」
「疲れたぁ〜……俺ァもうダメだァ……すまねぇ……」
元の姿に戻ったミカモンはフラフラとしながら羽衣香の腕の中へと収まる。
すっかり疲れてしまったようで、すぐにくうくうと寝息を立て始めてしまった。
「……ミカモンがんばったもんね。宇宙写真展示展、また来週にしよっか」
「……後片付けは別のヤツに適当に任せるか。家まで送っていってやるから車に乗れ」
「おいフツコ、乗れったって車片付いてないじゃねえか。待っててちょっと片付けてくるから……」
「バウトモン」
「ンアアア〜ッ尻尾引っ張るのヤメテェ!」
***
「誰がうさぎをころしたの
星の落とし子ころしたの
誰がうさぎをころしたの
かなめの神がころしたの
死の風ちらして星の風
歩む死けしとぶ稲光」
暗い路地にか細い童謡が響く。
黒いドレスシューズの軽やかな靴音を鳴らして、少女は暗い路地を往く。
「♪uhssemahs uhssemahs……」
金髪が揺れて、かげにとけた。
はじめまして。
ご返信が遅くなり、大変申し訳ございません。
オリジナル混じりの作品をまともに出したことが初めてで、身内以外の方からこのようにありがたいコメント頂けて、とても嬉しい気持ちです。
ミカモン→ミブモンの名前の考察も頂けて大変ありがたいです。
ミカモンのモチーフを星以外に「歴史上の人物・団体」を設定しているので、ミブモンは壬生浪士組(新撰組)から来ています。ミカモンの名前の由来はまたいずれお話の中で出すことが出来たら……と思っています。
新参者ではありますが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
初めまして、こちらで感想を書かせて頂くことを生業としている夏P(ナッピー)と申します。遅くなりまして大変申し訳ございませんが、感想を記させて頂ければと存じます。
久々に完全オリデジ主人公のデジモン小説を拝読致しました。ミカモン……三日月からなのかしら? いやでもそうなるとミブモンがわかんないな……三日月だと思っていたので、進化したら上弦か下弦のどっちかになるなと鬼滅の刃みたいなことを考えていましたが少し外したようです。オリジナルデジモンということですが、スターモンが「お前みたいなデジモンは見たことない」と言っていたことからして何か意味があるっぽいですが……?
羽衣香ちゃんは小5ということですが大分純真なようで。えー、その一方で3話に登場したフツコさんは理知的な大人という点では対照的で、というかバウトモンいい奴過ぎる。多分こっから胃痛枠になるに違いない。バウトモンでハッとさせられましたが、バイタルブレス=デジヴァイスなのですね。そしてバウトモンが「いいバイタルを感じた」とか言っていたので、さては羽衣香ちゃんこの戦いまでにトロフィーと運動をキチンとこなしてたな……ウェンディモン1話で2人死んだ! 無念!
それでは、遅くなりまして申し訳ございませんが、今後も宜しくお願い致します。