※オリデジとオリテイマーが主役です
「俺が覚えていたのはお前の名前と顔、後は何かしらあって俺はそれに巻き込まれた……ッてとこだなァ」
「ミカモンってクッキー食べれる?」
羽衣香の部屋の小さな机に胡座で座り込んだミカモンは自分が辿れるだけの記憶を思い出し整理していた。
星型のクッキーを盛り付けた小さな器をもって、羽衣香も着座する。
「食わなきゃ分かンねえな……うま!もっとくれよ」
「くれ、はお行儀が悪いよ。ちょうだい」
「ちょうだい」
「あとね、いただきますとごちそうさま」
「わ、わかったからよう!もっとクッキーちょうだい!ちょうだい!」
ミカモンがやってきて2日。
家族に見つからないように連れて帰ったが、多分羽衣香の部屋にいれば見つかることもないだろうと踏んで、自分の部屋では好きにしていいと約束して今に至る。
サクサクとクッキーを食べ進める様子を見るとえらく気に入ったようだ。
「ミカモンが忘れちゃった記憶ってなんだろう。どうしたら思い出せるかな」
「どォだろうなァ……その辺に落っこちてンなら捜せばイイってモンだが。誰かに拾われてンなら……まあそンな都合のいいこたねェか」
クッキーを食べ終えたミカモンはクッションの上で胡座をかいて座り込んだ。
「じゃあさ、外にお散歩に行ってみて探してみる?もしかしたら見つかるかも!」
「お気楽だなァ羽衣香は……まッ、部屋の中に居るよか断然イイね」
「じゃあ行こ!あ、ミカモン……」
尻尾をヒラヒラさせるミカモンを見て、羽衣香はなにかに気づいた様な顔の後に少し困った表情を浮かべる。
「……ミカモン、空飛んでたら……かわいすぎてみんなびっくりしちゃうかも……。キラボシ☆プリキュ〜ティみたいになっちゃうかも……エヘヘ」
「ぷりきゅ……?」
つまり、羽衣香は世間へのデジモンばれを気にしている。
ミカモンをリュックにつめるか、ボストンバッグにつめるか……どちらがかわいいか羽衣香は首を傾げながら思考をめぐらせはじめるが、羽衣香の心配を把握したミカモンはパチンと膝(の部分にあたる場所)を叩いた。
「あー、俺がこのままうろちょろするのがな。問題ねえよ。ほれ、デジヴァイスのボタンを……こことここ……カチカチしてみ」
「カチカチしたらいいんだね」
「そしたら……ほれ!」
指示に従いボタンを操作すれば、デジヴァイスの甲高いアラームと共に、ミカモンはあっという間に街で見るホログラムのように半透明になった。
「わぁ!ミカモン半透明になっちゃった」
「羽衣香には見えるけど、これで気にならねェ。さ、行こうぜ」
ホログラムの残光をキラキラと残しながら、ミカモンは羽衣香の周りを飛び回り、扉をすり抜けていった。
***
「随分賑やかな場所だな」
「ミカモンショッピングモール知らない?」
「行ったことねェや」
買い物やデートで人々が行き交い、AIホログラムが楽しげに商品説明や案内をしている大きなショッピングモール。
可愛い小物や気になる服に目移りしながら歩く羽衣香を見守りながら、ミカモンはチラチラと周りの様子を伺っていた。
「あ!ミカモン見て!ガチャある」
「ガチャぁ?」
「前スマホで見た!めちゃかわアニマルヘアピン欲しかったんだ〜」
「へーえ。……ちょいと俺周りぶらァっと見てくら。すぐ戻るからそこから動くなよお」
「はーい」
ミカモンが飛び去って、早速ポシェットから財布を取りだすと、躊躇いなくガチャマシンに小銭を入れてハンドルを回す。
出てきたカプセルを捻れば、中から可愛いしましまねこのラバーヘアピンだ。
「かわいい〜!もっかいやろ!羽衣香まんまるうさぎのヘアピンが欲しいんだ〜」
続けて回せば、中身は羽衣香の希望通りまんまるうさぎのヘアピン。
希望通りの結果に、羽衣香はヘアピンを握りしめて嬉しさを抑えきれない様子だ。
「やった〜!かわいい!……ん?」
視線を感じ、ふと、顔を上げる。
視線の主はそこにいた。
金髪色白で、可愛らしい水色のエプロンワンピースを着た同い歳くらいの少女だ。
「……あ、あの……」
「……」
「……あ、の、このガチャ、やる?」
「……」
羽衣香がぎこちなく話しかけるが、少女は押し黙ったまま。
少々の気まずさに羽衣香は目を若干逸らす。
「……かわいいね。……ねこちゃん」
立ち上がってガチャマシンの前から引こうとした羽衣香に、少女は遂に口を開く。
静かすぎる一言に、きょとん、と羽衣香は面食らうが、指を刺された手に握ったしましまねこのヘアピンを見て、その意味を理解した。
「……ねこちゃんすき?」
「……うん」
「……あの、よかったらどうぞ!」
「……いいの?」
羽衣香の一言に、少女は驚いた表情を浮かべる。
「あのね、羽衣香はうさぎさんが一番欲しかったんだ。もちろんねこちゃんも好きだけど……絶対ねこちゃんはねこちゃんが好きな君がつけた方が、すっごく嬉しいと思う!」
羽衣香はしましまねこのヘアピンをぱかりと開いて、きっちりと整えられた髪の右側面に差し込んでやる。
しましまねこのヘアピンは物静かな彼女にぴったりだ。
「……かわいい〜!似合ってる!ねこちゃんも嬉しそう!」
「………ありがとう……」
少し照れたように俯いて、少女ははにかんだような笑顔を見せる。
羽衣香もまんまるうさぎのヘアピンを付ければ、かわいい2人の出来上がりだ。
「私ね、羽衣香って言うの!君は……」
「おーい、羽衣香ァ」
少女に名を聞くより早く、背後から声をかけられた羽衣香は反射的にそちらへと振り向く。
チラチラとホログラムの残光を散らすミカモンだ。
「随分広いとこだったぜ、飛んで回っても忙しかったよ。……誰かいるのか?」
「おかえりミカモン!……あ!紹介するね、羽衣香の友達のミ……」
羽衣香は再び少女の方へと振り返る。
が、そこには誰もいない。
振り返ったたった一瞬でいなくなってしまった。
羽衣香は不思議そうに首を傾げる。
「あれ?……さっきまでいたのに……」
「……誰かと一緒にいたのかい?ン、まあ、また会えるんじゃねェか?」
「……う、うん……」
「もうちょい散歩しようぜ羽衣香、行くぜ」
もしかしたらお母さんに呼ばれて行ってしまったのだろうか。夢、という訳はないはず……。
軽やかに飛んでいくミカモンの後ろ、羽衣香は釈然としない様子で追った。
***
「見つからなかったね」
「普通に散歩しただけだったな……ん?」
目的の収穫もなく帰り道を歩いている中、ミカモンはフワリと立ち止まる。
視線の先には小さな神社。
鳥居の向こうに少し古びた社があり、掛けられた注連縄も解れて寂れた雰囲気だ。
「……ありゃなんだい」
「神社だよ。神様のおうち」
「カミサマねえ」
「パパとママとよく来てたんだ。星の神様なんだって」
「へーえ」
「……星の神様だから、ミカモンの記憶が戻りますようにーってお願いしよっか!」
鳥居をくぐり、賽銭箱に小銭を投げ入れるとカラリと心地よい音が響く。
色が抜け気味の縄を揺らし、鈴を鳴らしたら羽衣香は手を合わせる。
まるで星に祈るかのように。
「……よし!お参りしたから絶対見つかるね!」
「あー、そうだな」
「ミカモンどうしたの?ねえ待って」
「なンでもねえさ、行くぞ」
飛んでいくミカモンの後ろを追いかけて羽衣香が走れば、伸びた2人の影は神社から遠く離れていく。
「ねーえーミカモーン!」
「なーんでもねーっつってんだろー!」
****
「……星の子か」
カラカラと笑いながら走り去っていった1人と1体の後ろ。
紫煙くゆる車内、雨で煤けたフロントガラス越しに、2人の影を睨むように女が見つめる。
「あのね、タバコすいすぎ」
「1本や2本変わらねえよ」
「ふくりゅうえんのほうがからだにわるいんだよ〜」
「チッ」
片付けられていない車内灰皿に煙草を押し付ければ、隣の席のデジモンはニコリと笑みを浮かべる。
「ね、どうするの」
「……暫く様子見。お前を出すには早い」
「ぼくはいつでもじゅんびオッケーだよ」
「……」
稲妻型の触角をプルルと揺らすデジモン。
女は2人の走った先から目をそらすことなく、デジモンの丸い体を鷲掴みした。