火があった。家が燃えていた。
けたたましいサイレンの音が彼の人間より優れた聴覚に突き刺さるようで不快だった。
「ありがとう」
そう言って女は縞模様の毛皮をかぶったその生き物をそっと抱きしめた。
「いい、んだよ……ね?」
自分を抱きしめる腕をそっとつかみながら、その生き物は女に聞いた。すると、少し抱きしめる手がきつくなって、震えていることがわかった。
「火事は消防士さん達が止めてくれるよ」
細くて白い女の手が毛皮の上からその生き物の首に巻きついていく。それがその生き物には少し息苦しかった。
「それとも、私の言うことが信じられない?」
直感的にはうなずいたらいけない気がするのに、その声には甘い魔力があった。彼は抗えず、そのささやきにうなずいた。
「大好きだよ、君がパートナーで本当によかった」
女のその声に、最悪な気分なのにどうしようもなく嬉しくもなっている自分を感じて、彼はやはり彼女のパートナーなのだと自覚した。
☆
デジタルモンスター、通称デジモン。生き物のように成長した人工知能を持つコンピューターウィルス、あるいはデジタルワールドと呼ばれる異世界に住むデジタル生命体。そんな設定を持つ携帯玩具から始まりアニメにゲーム、漫画、小説と広く様々な媒体で展開する有名コンテンツ。というのが去年までの世間の認識だった。
そのデジモンが実在の存在だというニュースが流れたのだ。デジモンの実在を隠したい者達による工作が、デジモンコンテンツを提供していた諸々の会社にも秘密裏に行われていたのが報じられた。
そのさらに少し前から、世界各地にゲートと呼ばれるデジモン達の世界と人間の世界を繋ぐ穴が偶発的に開くようになっていたのがきっかけ。もはや世間に隠し通せなくなった為に公表に至ったと、そう全世界に報じられた。
とはいえ、そんなことは大抵の人にとっては関係なく、姉崎彩華にとってもその日までは画面越しの存在だった。近所で起きているありきたりな犯罪のニュースの方がまだ身近で、意識することもないものだった。
「アヤカ!」
誰かに大きな声で名前を呼ばれて、彩華はスーパーで値引きシールのついた惣菜パンを探す手を止めた。
「……私に話しかけてるの、かな?」
彼女は割引シールが貼られたホットドッグを棚に戻し、少し離れたところにいたその生き物にそう聞いた。その毛皮をかぶり角が特徴的な生き物がデジモンだろうという事はすぐにわかったが、名前を呼ばれた意味がわからなかった。
「初めましてアヤカ。僕はサイケモン。君のパートナーだよ」
パートナーと言われて彩華は困った。パートナーは恋人や伴侶、あるいはビジネス面に友人関係にも使われることがある多義語。さらに、スポーツなどでも二人一組であれば専門用語としてパートナーという言葉が使われることもある。
心当たりは全くないものの、デジモン関連の専門用語として自分の知らないパートナーがあり、それに該当する可能性を否定できなかった。
「私が姉崎彩華だけど。その、私はペアで行う何かに申し込んだ覚えはないのだけれど」
「……僕もそんなのはないけど?」
人違いではと遠回しに伝えたつもりが、サイケモンはなんの話と言わんばかりに首を傾げた。
彩華にデジモンに関しての知識はほとんどない。一年前のニュースもそのきっかけとなった事件もSNSで騒がれていたのをちらちら見る程度だった。真っ当に考慮するのも難しい。
「君には悪いが私には心当たりがない。なんのパートナーの話をしているのか教えてもらっていいか?」
「……パートナーはパートナーだけど?」
彩華は回答に、サイケモンは返答に、お互いに困惑し、沈黙が生まれる。
やっと彩華にパートナーの意味が通じていないのを感じ取って、サイケモンも少し悩むような顔をした後改めて口を開いた。
「えっと、デジモンの中には、生まれつき人間のパートナーがいるデジモンがいるんだよ。で、なんとなく会えばパートナーだってわかる」
どういう理屈なんだそれはと、口に出しかけた疑問をぐっと飲み込む。デジモンは超自然的な存在だという事は彩華も知らないわけではないし、理屈がわからないままに利用しているものは人間社会にもあふれている。
「……パートナーっていうのは双子の片割れみたいなもの、という事?」
否定したい気持ちを抑えながらなんとか飲み込もうと頭をひねる。
「生まれつき決まっているっていう点では多分そんな感じ」
「多分そんな感じ、か」
サイケモンもよく知らないのだろう。であるならば、これ以上話を深掘りしても何も出てこないと彩華は判断した。
それよりも今彩華にとって大切なのは、このパートナーだというデジモンは何者で自分に何が求められるのかということ。
「……で、サイケモンはパートナーだという私に会って何を?」
「えと……何も。その、声かけただけ」
少し気まずそうにサイケモンは目を逸らし、そのままじゃあ僕はこれでと去って行こうとする。
それがなんとなく彩華は気に食わなかった。特に何も要求もされなかった以上何かを失うわけでもないのだが、生まれつきの縁にしては淡泊すぎる。
「サイケモンさ、今ってどこに住んでいるの?」
「特に決まってはないけど、この辺りの橋の下とかで眠れそうなところをぶらぶらと」
「じゃあ、今晩からうちに泊まる?」
彼女がそう言うと、サイケモンは大きく目を見開いた。
「……嬉しいけど、いいの?」
「もちろん。パートナーかなんか知らないけど、そこら辺で寝ていると聞くと流石にね」
あと、と彩華はその場で一度すんすんとにおいをかいで、顔をしかめた。
「え、もしかして僕におう?」
サイケモンはそう言って手を鼻先に持っていく。
「くさくはないけど、とりあえずはお風呂だね」
「それってやっぱりにおうってことじゃない?」
「いや、違う。えーっと、ノミとかダニとか気にしてるだけだから」
それはそれで傷つくとサイケモンは抗議したが、彩華は曖昧に微笑むだけだった。
☆
『また熱中症で倒れる方が出ています。昨日よりもやや涼しく感じるかもしれませんが、十分気をつけて水分塩分、適切な休息を――』
彩華が朝のニュース番組を音楽の代わりに聞きながら、参考書とノートに向かっていると、廊下をぺたぺたと歩く音が聞こえてきた。
「おはよう、彩華」
「朝早いね、サイケモン。ちゃんと眠れた?」
彩華の言葉に、サイケモンはすこし眠そうに目をしばしばさせた。
「橋の下より快適になりすぎて逆に落ち着かなくてさ、ちょっと眠いかも」
贅沢なやつめと呟きつつ、彩華は参考書とノートを片付けると、野菜ジュースをなみなみとグラスについでサイケモンに差し出した。
「ばあちゃんの布団、大分使ってなかったんだけどかびくさくなかったか?」
サイケモンは首を横に振ってグラスを両手で持って口に運んだ。
「なかったけど、おばあさんと二人で住んでいるの?」
サイケモンはそう言って、がらんとした家の中を見回した。昨日から家の中に彩華以外の人間は見ていなかった。
「いや、今は一人暮らし。じいちゃんとばあちゃんの住んでいた家なんだけど、ばあちゃんが死んでじいちゃんも叔父さんと暮らすことになったからから、今年の春から私が管理してる」
「そうなんだ……ごめん」
「私が勝手に話したんだからあやまらなくてもいいさ」
うなずきはしたもののいまだに申し訳なさげなサイケモンに、彩華はこっちに来いと隣の部屋におかれた仏壇の前に誘導した。
「これがばあちゃんの仏壇。仏壇はわかる?」
わからないとサイケモンは首を傾げた。
「まぁ……色々かいつまむと、死んだばあちゃんになんか報告とかある時に代わりに拝むやつ。私に続いてまねしてみろ」
そう言うと、彩華は線香に火をつけて供えると、おりんを鳴らして手を合わせた。
「ばあちゃん、いろいろあってこのサイケモンという家なしを拾いました。ばあちゃんのものいろいろ使わせてもらいます」
さらに一礼すると、彩華は線香に火をつけてサイケモンに渡した。
「ばあちゃんはあいさつにきびしいんだ。ほれ」
サイケモンはおっかなびっくり線香を受け取って供えると、ぎこちなくおりんを鳴らして手を合わせた。
「えと、昨日はお布団ありがとうございました。しばらくお世話になります。その、これからよろしくお願いします」
頭をぺこりと下げたあと、サイケモンはこれでいいのかなと彩華を見る。
「ばあちゃんがもし見ていたら、ちゃんと筋通したんだから変に遠慮すんなって」
わかったと答えてサイケモンはぎこちなく笑った。
「で、とりあえず今日はこれからどうするかだな。ペットなら保健所だけど、デジモンの場合はどこに何を届け出ればいいのか」
彩華の周りにデジモンがいたことはない。デジモンといるとかデジモンに詳しいという知り合いにもあいにく心当たりがなかった。
どうするべきかと考えていると、不意に玄関の呼び鈴が鳴った。
玄関の外にはスーツの男女が立っていた。
「外務省電脳界局電人共生支援室の新井です。そしてこちらは部下の黒木」
新井と名乗った身だしなみを綺麗に整えた七三分けの男がそう笑顔で挨拶をする横で、銀髪に十字型の瞳孔をしたスーツに着られている様な女が愛想悪く小さく会釈する。
「……外務省って銀髪にカラコンでもいいんですね」
彩華の言葉に、新井はきょとんとした顔をしたあと黒木の顔を見た後にあははと笑った。
「いや、実際あまりよろしくはないのですけどね。本来人前に出ない役職なのを無理やり連れてきたもので」
新井がそう言うと、黒木はまた小さく会釈した。
「まぁ、かくいう私もそれほど人前に出る仕事ではないのですが、こちらにデジモンがいるとなれば話は別です」
新井はそう言って笑みを深め、視線を素早く家の中へと走らせた。
「……デジモンと一緒にいるのは、何か手続きとか要るってことですか」
「基本、一緒にいること自体あまりよろしくないです。彼等は不法入国に近いですからね、話が通じるならなおさら。特に暴れたりされなければ送還まで私共もちゃんと面倒も見ます、ひどい目に合わせることもありません」
彩華はちらりと背後を見た。
隠れているつもりがあるのかないのか、柱の影から目立つ紫色の角をはみ出させているサイケモンは、顔も見てないのに不安そうに見えた。
「本人がここにいることを望んでいる場合でも、送還以外ないんですか?」
「姉崎さんは、彼がこちらの世界に来た目的を聞いているのですね?」
何も聞いていない。引きとめて無理やり泊めた。でももしそう言ったならば、サイケモンがここに残りたがっているという前提に突っこまれるだろう。
「……パートナーの私に会いに」
「パートナー、でしたか。パートナーとして何を要求されました? 安全な寝床、十分な食事、人間界の娯楽なんかもありますか?」
そう言われるのを待っていたかのように新井は即座に言葉を返した。その調子がなんだか粘っこく感じて、彩華は気分が悪かった。
「いやなにも要求されてません。私が引きとめて、気が合って一緒にいたいと二人共思っている。それだけです」
なるほどと新井は納得したように相槌をうっていたが、その視線からは納得していないのがわかった。
「……なにか気になりますか?」
「姉崎さんは、自然発生するゲートの仕組みをご存じですか?」
ゲート、異世界とこの世界をつなぐ自然現象らしきもの。それ以上のことを彩華は何も知らない。
「アレはですね。入るまでどこに出るかわからないのですよ。大空の上や火口の中、高速道路のただなかだってあり得ない話ではありません。ただでさえ勝手が違う世界な上に、ゲートを通るだけでさえ命の保証がない。どんな場所でもどうにかなるほど強靭なデジモンもいるにはいますが、あの可愛らしい隠れ方を見るとそんな風には見えませんしね」
新井の言葉に彩華は内心動揺したが、それがどうしたんですかと手で新井に話の続きをうながした。
「それに、姉崎さんは一緒に暮らしたいという話ですが、デジモンの危険性はちゃんと把握していらっしゃいますか?」
そう言って、新井は飲み物の缶を二つ取り出した。
「小柄なデジモンの様ですが、意外と力が強かったりするものですよ。そこにいる君!」
そう言って、新井は缶を一つサイケモンに向けて放り投げた。
くぐもった音を立てて転がった缶を、サイケモンが拾う。
「……やっぱりサイケモン、成長期データ種のデジモンですね」
黒木が缶を拾いに姿を見せたサイケモンの姿を見てそう呟いた。
「君はその缶をにぎりつぶすぐらいはできるはずだ」
新井の言葉に、サイケモンは戸惑ったまま彩華を見た。
「……やる必要ないぞ、サイケモン」
「ちゃんと君の能力を知ってもらうためだよ。人間の大人でもできるようなことで比較しないとなかなかわかりにくいからね」
そう言って、新井はもう一つ手の中に残ったアルミ缶を手で握りつぶしてサイケモンに笑いかけた。
それを見てサイケモンは何気なく缶を拾い、手に力を入れた。
「うぇっ?」
サイケモンの手の中で潰れた缶からブシュッと音を立てて中から黒い液体が噴き出し、サイケモンの顔や床を濡らしていく。
「私がつぶしたのは中身のないアルミ缶で、成人男性どころか姉崎さんでも十分つぶせるでしょう。ですが、未開封のスチール缶は普通にきたえた人間程度ではまずにぎりつぶせないものです」
サイケモンがあっけに取られた様な顔をし、新井は人当たりの良さそうな笑みのまま彩華を見る。
彩華は、深々とため息を吐いた。そして、だまって家の中に入っていきタオルを持って戻ってくると、黒木にそれを渡した。
「他人の家でコーヒーぶちまけさせて、拭くのもこっちはおかしいでしょ」
黒木は新井の方を冷めた目で見ると、受け取ったタオルを突き出した。
「あなたは悪くないけど、私はその人を家に上げたくない」
「……お気持ち、わかります」
彩華の言葉に突き出した手を引っ込めると黒木は新井のきれいな革靴を上から踏みつけ、念入りに地面に押しつけたあと、玄関に上がってサイケモンのところまで歩いて行く。
「えと、ごめんなさい」
「……こんなはずじゃなかったのに」
小さくつぶやいて、黒木はサイケモンの身体と床を拭いていく。
「騙すような形になったのは謝罪しますが、あのサイケモンも何気なくそれぐらいのことができてしまう危険な存在だということはおわかりいただけたかと思うのですが」
なおも微笑んでいる新井に彩華は眉間にしわを寄せたまま、頭を軽くかいた。
「よく言われる話ですけれど、刃物が危険なのか刃物を他人に向けるやつが危険なのかって話じゃないですか? そして、サイケモンのその点を私は信じています」
缶をつぶすのをサイケモンは最初ためらった。彩華がやらなくていいと言った、それを受け止めたからだ。
「姉崎さんのおっしゃることは正しいです。ですが、その力をそそのかされて簡単にふるってしまった点はどうですか? そしてあなたにその責任が取れますか?」
新井の視線が彩華を値踏みする様に動く。
「デジモン達の世界にも人間界の情報は入りますが偏りはある。缶の中に液体が入っているとわからなかった今のもそう、もしそれが人命に関わることだったら? 私達の世界には私達にとって常識だから便利だからで置かれている危険なものはいくらでもありますよねぇ……」
向こうのほうが知識があって、自分との付き合いは一日に満たなくてもサイケモンを悪いように言われて反論するのにためらいはなかった。
「少し事前に調べました。大学に落ちたそうですね? 浪人生で一人暮らし、意外と忙しない生活ではありませんか? その中であなたは彼にどこまで時間を使えますか?」
さらに言葉を並べていく新井に、彩華は思わず生唾をのみこんだ。
自分が他人の責任を背負えるのかと考えると反論はいくらでも思いつくのにそれが口から出てこなくなった。
「新井さん、帰りましょう」
彩華をかばうように黒木が割って入り、新井の胸元にサイケモンのつぶした缶を押し当てた。
「……黒木くん、しかしね」
「すみません。似たケースで死者が出たこともないわけではないので、新井さんも熱が入りすぎてしまったみたいで」
新井を外に追いやりながら、黒木はそう言って頭を下げた。
「……言い分はもっともなとこあるので」
「……特に予定ないようでしたら、手続きに関しての書類とかまとめてまた明日の早朝に来ます。私情で手続きを取らせないのはコンプラ的にもアウトなので」
黒木の言葉に新井は勝手なことをと咎めるような視線を向けたが、黒木はすんとしてその視線を無視した。
「黒木さん、でしたっけ。ありがとうございます」
そう彩華が言うと、黒木は奥歯に物が挟まった様な顔をした後、急いで笑顔をとりつくった。
「……パートナー、なので」
二人が去ると、彩華はしっかりと玄関の鍵をかけた。
そして、サイケモンのところまで歩いていくと汚れたタオルを受け取った。
「ひとまず、コーヒーの色が染み付く前に洗わないとな。このタオルも、サイケモンの毛皮も」
「えっ、毛皮も……?」
「あぁ、実を言うと昨日から気になってたんだ。風呂には入れたけど、毛皮にノミとかダニとかついてたらどうしようって」
☆
ごうんごうんと一昔前のドラム型洗濯乾燥機の回る音が家の中に響き渡る。サイケモンは毛皮の代わりに毛布にくるまって顔を隠し、回る毛皮を見ていた。
彩華は考える。
サイケモンのことを自分は何も知らない。新井が実は正しかったりするのかもしれない。それを知る為にもサイケモンには話を聞くべきだ。
しかし、少なくとも、サイケモンにとってそれは、命を賭ける価値があるものらしい。それを、親のスネをかじりながら何かと周囲に噛みつく財力も協調性もない浪人生である自分に背負えるのか。
「……彩華、何も言えなくてごめんね」
「サイケモンは悪くない。それに、勝手にサイケモンがここにいたい前提で話した。本当は嫌だったりしないか?」
そんなことはないとサイケモンは首を横にブンブン振った。
「僕、こんなによくしてもらったのに彩華に何も言ってない。何しに来たのかも、本当は僕がパートナーじゃないことも」
サイケモンの言葉に、彩華は少し黙った。
「……それで、なにをしに来たんだ?」
嘘を吐かれた事には触れなかった。冷静に受け止めるには少し時間がかかりそうだった。
「親友を探しているんだ。ガブモンっていう、僕とそっくりのデジモン。ガブモンは僕と違ってパートナーのいるデジモンで、時々その名前を聞いた」
だからかと彩華は昨日、サイケモンと出会った時のことを思い出した。
「……そのパートナーの名前が、『アヤカ』なのか」
サイケモンは彩華に呼びかけたんじゃなかったのだ。人がいるところで、親友のパートナーの名前を呼んでいた。理由は考えるまでもない。
「うん。アヤカのところにきっとガブモンは行ったんだと思った。ガブモンは会わなくてもパートナーの事を感じるって言ってた。だから、ガブモンのパートナーのアヤカを見つけて自分がパートナーだって嘘を言ったら、自分のパートナーは他にいるって言ってくれると思った」
サイケモンにとって彩華はハズレのアヤカだった。だから何も求めなかったし、求める情報がそもそもなかった。それで、次のアヤカを探しに行こうとしたら引き留められたという形だったわけだ。
「つまり、私はガブモンのパートナーの偽物で、サイケモンは私のパートナーの偽物ってわけだ」
彩華はそう口にした。
「だまっていて、嘘も吐いて、ごめんなさい」
くるまっていた毛布から顔を出してサイケモンが頭を下げる。その顔は、彩華の想像よりも地味だった。
「何も謝る必要はないさ。人探しなら新井が危険視するようなこともまぁからまないだろう。それに、嘘のままにしなくてもいい」
彩華の言葉にサイケモンは首を傾げた。パートナーというのは生まれつき決まっているものだからダメな気がした。
「人間の口にするパートナーは意味が多いし、サイケモンと私はルームシェアのパートナー。それなら嘘じゃない」
「……無理やりじゃない?」
サイケモンは少しほっとしたような呆れた様な顔だった。
「でも、嘘にはならない。親友のことだまってるのもまだ会ってたった一日なんだから仕方ないことだ。私も、同じ立場だったら多分親友の事をどこまで話すか悩むと思う」
「彩華にも親友いるの?」
「いるさ、地元の東京にもこっちにもいる。こっちの親友は物心つく前からの付き合いで、いなくなったら私もサイケモンみたいに探すと思う。明日、黒木さんに相談しよう」
「聞いてくれるかな?」
サイケモンは心配そうな顔をした。
「わからないけど、聞いてくれたら話は早いんじゃないか? デジモン達がみんな手続きしてこの世界にいるなら、外務省には名簿もあるだろうし実際に知ってる可能性もある」
実際のところはコンプライアンス的に教えてくれないだろうと思ったが、口にはしなかった。
でも、アヤカという名前から日本国内を探せば良さそうな気はするし、ガブモンという名前もわかっている。探す方法自体はきっとある。
「ところで、ガブモンはどんな感じのデジモン? なんか恐竜みたいなのとか機械みたいなのとか色々いるって聞くけど」
見た目がわかればさらに探しやすい筈と彩華が言うと、サイケモンは自分自身を指差した。
「さっきも言ったけど、大体の形はサイケモンとガブモンは同じだよ。角が黄色くて、毛皮のしまが青っぽくて、肌が黄色でお腹のマークが水色と赤」
「そんな色だけ違う種とかいるの?」
「こっちにもいるでしょ? 彩華は髪の色黒いけど、茶色い人とか、赤い人とか、青とか緑の人も見かけたよ」
少なくとも青と緑は染めているだろうなと彩華は思ったが、確かに言われてみればそんなに驚くことでもないのかもしれない。犬なんか兄弟でも違う毛色だったりするしそんな感覚なのかもしれない。
「あと、サイケモンはカラフルな電気を出す種だけど、ガブモンは青い火を吐くよ」
それは臓器とかから違いそうだと感じたが、サイケモンの顔を見て、やはり大した違いではないらしいと彩華は悟った。
でも、人間界ではそれも大きな違いであるし、似ているということはサイケモンの写真を加工したりすれば簡単に似顔絵が作れるということでもある。
「なんとかなりそうな気がしてきた」
彩華が呟くと、ちょうどよく洗濯乾燥機が乾燥終了のブザーを鳴らした。
☆
『この三回の犯行は、昼の住宅街で行われました。目撃者もなく周辺監視カメラは機械トラブルを起こし、着火剤の痕跡はなく外壁が直接発火したとしか思えない奇怪な燃え方、犯人はなぜこんなことを?』
『わかりませんねぇ。木造家屋であっても外壁材は簡単に燃える素材ではありません。さらに火種の痕跡が見つかってないというのが本当ならば、内部が焼けるまでバーナーを当て続ける様な手間がかかる方法を取ったことになります。窓ガラスを割って火種でも投げ入れた方がよほど簡単で早くすみ足がつきません。自身の技術や犯罪を目立たせたい愉快犯の可能性も……』
「彩華、このニュースの事件って結構近所じゃない?」
サイケモンは野菜ジュースを飲みながらそう言うと、彩華はテレビをちらりと見て首を傾げた。
「……かなぁ」
「わからないの?」
彩華はサイケモンから目を逸らした。
「まだ隣町とか名前あんま把握できてない。逆にサイケモンはなんでわかんの?」
「近くの電柱に書いてあった文字と同じ文字が画面に出たから」
「……馬鹿そうでちゃんと周り見てるよな、サイケモン」
「そういう彩華が実は抜けてるだけじゃない? 僕がパートナーって言ったのもすんなり信じてたし……」
「騙した方が言うことか?」
「えへへ」
「誤魔化し方適当じゃないか?」
彩華の言葉にサイケモンはごちそうさまと空になったグラスを流し台に置いて答えなかった。
「……黒木さん来る前に準備するか」
彩華も野菜ジュースを飲み干すと、時計をチラリと見た。
「……名簿は、見せられません。こちらから伝えることもできません。でも、こういう新しいことへの支援は民間が早くてですね。デジモンと一緒に住む人間同士の助け合いを目的としたNPOなんかで話を聞けば知ってる人もいるかもしれませんね」
サイケモンの目的を伝えると新井の態度は隣の黒木が思わず嫌な顔をするほどに軟化した。
うさんくさい新井の笑顔に彩華が黒木を見ると、黒木は数秒新井の方を見た後、大丈夫ですと答えた。
では本題にと、新井は手続き用の書類を取り出した。
「とりあえず、姉崎さんはこちらのデジタルモンスター身元引受人証明書と、デジタルモンスター保護経緯確認書(身元引受人側)に記入してもらいます。で、サイケモンの方も保護経緯確認書(デジタルモンスター側)と、デジタルモンスター滞在申請書があるので、黒木に聞き取りを任せます。一応決まりなのでそれぞれ別室で」
「サイケモン、居間に黒木さんを案内してくれ。私は玄関でやってるから」
彩華に言われて、サイケモンは黒木を居間に案内した。
「じゃあまずは、こっちの世界に来てどれくらいですか?」
「一ヶ月ぐらい前、だと思う」
サイケモンは少し自信なさげに答えた。カレンダーを見ていたわけでもないから、感覚だけが頼りだった。
「……それから、彼女に会うまでは何を?」
「野宿したりしながら.ガブモンを探してた」
「ガブモンとは、同じゲートを?」
「え、うん」
不意に来た思わぬ質問に、サイケモンは少し戸惑いながらそう答えた。
「一緒にゲートに飛び込んだ?」
「いや、ガブモンが飛び込んでいって、僕は最初、怖くて、でも、深呼吸してすぐ飛び込んだ」
「その時はまだ一緒に?」
「いや……もういなかった」
「……ゲートの中は時間や空間が歪んでいるって話がありますから、息を整えている間にガブモンはその場を離れたんでしょうね」
黒木はそう残念そうに呟いた。
「あの、なんでガブモンのことを?」
サイケモンにそう問われて、黒木はペンで頭をカリカリとかいた。
「……正直に言うとあなたの手続きは私たちにとっておまけなんです」
「え?」
「ここ一月ほどの間、この近辺で放火をしたデジモンの捜索というのが私達の本来の仕事なんです。ニュースとかで見ませんでしたか、普通に考えると不可解な手口の放火事件」
サイケモンはさっき彩華と近所だと話していた火事のことを思い出した。
「何かと出てくる目撃証言が、しま模様と赤いが燃え上がる前に見られた異なる色の光」
カラフルな電気を出す。サイケモンは自身の特徴を思い出して思わず固まった。
「じゃあ、昨日は僕を疑って……」
「でも、昨晩はこの家を見張っていたのにも関わらず、同じ手口の犯罪が起きました。君が友達のガブモンを探しているって話を聞きました。ガブモンが青い火を出すのはコンテンツのデジモンを知っている人間ならみんな知っています」
「僕の知っているガブモンは、そんなこと……」
「昨日、コーヒーの缶握りつぶしましたよね?」
黒木がそう口にしたのを聞いて、サイケモンは何も言えなくなった。
「壊すと彩華が困るってわからなかった。そもそもそれを知らなかったからそそのかされて壊してしまった。人間の背中に隠れて何も言えない臆病なあなたでさえ、そんなことをしてしまった。そうでしょう?」
何も否定できなかった。サイケモンは人間のことをあまりに知らないし、ガブモンならわかるかもとは一緒にいたからこそ思えなかった。
「別にガブモンが嫌なやつだとか言ってないんですよ。むしろ被害者。パートナーに望まれたことをパートナーデジモンはまず断れないし」
そう言って黒木は少し遠い目をした。
「……まぁ、とはいえこの国にデジモンを罪に問う法律はないですからね、大人しく捕まれば多分送還されるだけでしょう」
「……大人しく、捕まらなかったら?」
「罪に問う法律がないから留置所とかも使えない。無理やり捕まえて置けるような施設もない。ですが、人の安全を最優先するこの国の機関が単に野放しにすることは絶対ない。ということはお伝えしておきます」
捕まえられない、でも野放しにもしない。サイケモンの脳裏に浮かんだのは、命を失いデータの塵になって消えていくガブモンの姿だった。
「……さて、納得いただけたところで書類も作りましょうか。こっちの世界でガブモンが何をしてそうかに関しては知らないわけですもんね?」
そう言う黒木に対して、サイケモンは弱々しくうなずいた。
「あ、そうそうガブモンを見つけたらすぐに連絡してくださいね。やっていてもやっていなくても登録が必要なことに変わりはないので隠したりしないでください」
その念押しにもただうなずくしかできなかった。
☆
新井と黒木が帰って、サイケモンは彩華に黒木から聞いた話を打ち明けた。
「まぁ安全を取るなら、探すこと自体やめるべきだろうな。そっちのアヤカ次第では、私達を犯人に仕立てようなんてしてくる危険もあるかもだし」
彩華はそう言って、サイケモンの顔を見た。
「……ガブモンはいいやつなんだ。デジタマから生まれたばかりの時から、ずっと一緒だったから知ってる」
サイケモンはそう呟いた。
「それで? ガブモンがいいやつで騙されてても、大学に落ちた浪人生の私とスーパーで名前叫ぶしか探し方を思いつかなかったサイケモン、私達に何ができる? それに、今日二人にアヤカの名前が伝わったんだから捕まるのもそう遠い話でもないだろう。黒木さん達を信じるしかない」
彩華の厳しい言葉に、サイケモンはうんとうなずいた。
「……それでも、僕がガブモンを見つけて説得するよ。泊めてくれてありがとう、僕は巻き込まないよう出ていくよ」
彩華はそうかとうなずいて、立ち上がった。
「じゃあ、一緒にガブモンぶん殴って事件起こしてごめんなさいさせに行くか」
「どうして?」
「いや、なんかこのまま大人しくしてるのって気に食わないだろ? 新井が床にコーヒーぶちまけさせたのも、推定犯人の私にボロ出させようと色々してたのかもだけど、ばあちゃんなら、彩華ァ! 外務省への正式な抗議文の出し方を調べなァッ! ってキレてるとこだ」
おばあさんの声真似らしいしゃがれ声で怒鳴る彩華に、サイケモンは思わず声を失った。
「……あと、多分黒木さんのサイケモンへの態度も私のせいな気もして、責任を感じている」
サイケモンは首をかしげたが、彩華は勘違いかもしれないと付け加えた。
「とりあえず、ばあちゃんに報告したら詳しそうなやつのところ行くぞ」
「彩華、デジモンに詳しい知り合いなんていたの?」
さっきまで話にも出てこなかったのにとサイケモンが言うと、彩華は首を横に振った。
「デジモンにじゃない、この辺に詳しいやつだ。私は地元の人間じゃないけど、じいちゃんが地元の人間だし夏休みはよく来てたから、夏季限定幼馴染が何人かいる。例のアヤカと知り合いだったら先にたどり着ける可能性も出てくる」
「もし、知らなかったら?」
「……それは、まぁ……ほぼ手詰まり。一緒にとにかく人が多いところとか行ってガブモンに呼びかけながらじいちゃん家の住所とか配って、ガブモンからの接触待ちになる」
それはさせたくないなとサイケモンは思った。見つけて会いに行くなら準備ができるけれど、接触される側になると害意を持たれた場合に対応が遅れる。
ただでさえ巻き込んでいるのに、さらに危険な方向に進むのは抵抗があった。
☆
「急にどうしたの⁉ なんも用意してないよ⁉」
彩華が訪ねたのは彩華より頭一つ小さい、小柄なボブカットの女性のところだった。
「そんな気を使わなくていいよフミちゃん、というか急に来てごめんね? 大丈夫?」
そう彩華が口にすると、フミちゃんと言われた女性は首をぶんぶんと横に振った。
「ハナちゃん来るのに迷惑なわけないじゃん!」
彼女は彩華をハナちゃんと呼び、上がってと家に招き入れた。
「で、どうしたの? こっち来たってうわさは聞いてたけど、同時に大学落ちたって話も聞いてたから心配してたんだよ?」
全然大丈夫そうだけど、と言いながら彼女は冷蔵庫から麦茶を二人分持って来て、彩華とサイケモンに渡した。
「大学落ちたのはもう全然気にしなくていいよ。会場行くまでに痴漢捕まえて駅員に引き渡そうとしたら逃げ出されて突き飛ばされて頭打って病院担ぎ込まれて試験自体受けらんなかっただけ。私自身あんま落ちた気がしてないんだよね」
「絶対流しちゃいけないようなことをさらっと言わないでよ。ハナちゃんはいつもそう、ハナちゃんが思っているよりも私はハナちゃんのこと考えてるからね?」
そう言いながら、さらに贈答用の缶に入ったクッキーを皿の上に並べて持ってくる。
「まぁ特に大事にはなんなかったからそれはそれでいいんだけど、今こいつの親友を探してるんだよ」
彩華はサイケモンの頭をぽんぽんと叩きながらそう言った。
「どんな子? その子もデジモン?」
「見た目はほぼサイケモンの色違いらしくて、アヤカって名前の人間と一緒にいるみたいなんだ」
「そう、あとどうやらそいつがここ最近ここらへんで起きてる放火の犯人らしい」
サイケモンと彩華の言葉に彼女も目を丸くした。
「……え、怖いんだけど」
彼女の口から出たその言葉には強い困惑が見て取れた。
「まぁ、私達も聞いただけなんだけど。フミちゃんならこの辺でアヤカって人何人か知ってるかなって」
そういうことと彼女はうなずいて、サイケモン彩華の顔をまじまじと見た。
「……えと、他の手がかりは?」
「私達はこれだけ。でも、なんか公的な対デジモン専門の人達も動いてるし、そっちはもっとちゃんと調査してるっぽい」
「じゃあ、ハナちゃん達はやめた方がいいんじゃない? 危ないかもしれないし」
そう言われて、彩華はサイケモンを見た。
「その人達はガブモンを止めるためなら最悪の場合は殺してもいいって考えみたいだから、僕は先に止めたい」
サイケモンはよどみなくそう答えた。
それを見て、彼女は少し目を細め笑みを深めた。
「とても大切な友達なんだね」
そう言って、彼女は中学校の卒業アルバムを持って来た。
「私の知り合いでは思いつかないけど、卒業アルバムを見れば一人ぐらいはアヤカいるかも」
「高校のは?」
「……火事の現場はうちやハナちゃんちの近所だし、高校はちょっと離れているから」
多分いたとして関係ないと思うなと彼女はいって、アルバムを開いた。
「クラスは二つか、学年に三桁いないんだな」
名簿のページを開いて彩華はそう呟いた。サイケモンも一応覗き込んでいたが、文字が読めていないらしかった。
「ハナちゃんの地元みたいに都会じゃないからね。でも、見る感じアヤカはいないね」
そう言いながら、彼女は困ったような顔をした。
「あ、これ髪長いけどフミちゃん?」
サイケモンが指差したのは、嶋田文歌という名前が書かれた長髪の女子の写真だった。
「うん、そう。四年前ぐらいかな」
「一昨年の夏に会った時はまだ長かったよね。綺麗な黒髪だったのにもったいない」
彩華にそう言われて、文歌は肩につくかつかないかの髪先を触った。
「ハナちゃん、いつもそう言ってくれたよね。でもほら、今はアヤカ探しでしょ? サイケモンは文字読めないみたいだし私達がちゃんと見なきゃ」
それもそうかと彩華はアルバムをにらむが、それで今のっていない誰かの写真が追加されるわけでもない。サイケモンの方をちらと見ても、やはりいいアイディアが出てくるわけでもない。
「あー……町内の回覧板とかない?」
「今はないね。昨日回したばかり」
文歌は申し訳なさそうにそう答えた。
「……力になりたいけど、私じゃこれ以上は難しいかな。みっちゃんに連絡するよ。今、大学院でデジモンの研究しているし私と違って交友関係も広いから」
「みっちゃんって誰だったっけ」
「小学生ぐらいの頃、ハナちゃんがこっちに来ててちょっと遠くに行く時とかに付き添ってくれてたの、覚えていない?」
目を細めながら、覚えているようないないようなと彩華は呟いた。
「みっちゃん、近所の総合病院の息子だから被害者の情報も入るかもしれないし、人脈も広いんだよ」
まだ思い出せないのか、微妙な顔のまま彩華はうなずいた。
「今日は大学かもだけど、ハナちゃんのおじいちゃんちに行くよう連絡するよ」
「……ありがたい、ありがたいんだけど、マジで思い出せないからフミちゃんもうちに一緒にいてくれない?」
私もサイケモンも知らない相手会うのちょっと怖いと彩華が続けると、文歌はくすくすと笑った。
「ごめんね、この後ちょっと用事があるんだ。それに、犯人と比べたら昔遊んでもらったお兄さんなんて怖くないでしょ?」
否定はできないけどと彩華がサイケモンの方を見ると、サイケモンは何を言ってるんだろうと首をかしげていた。
「……彩華に怖いものとかあるの? 自分より大きな人間にも結構強気だったと思ったけど」
とぼけた顔でそう言うサイケモンとうなる彩華を文歌は笑みを浮かべてじっとみていた。
文歌は彩華のそういうところを見るのが好きだった。なんにでも反抗して親からも怖いもの知らずと勘違いされている彩華が弱さを見せて頼ってくる。強い彩華に頼られる時、自分も強いような気がしてくる。
「ほら、もうみっちゃんにメッセージ送っちゃったから、早く家で待ってないと」
そう言って、文歌は彩華とサイケモンを帰らせた。
そして、自分のスマートフォンを取り出すとそこに映っている角の生えたデジモンを見た。
「……ガブモン、聞いてた?」
『アヤカ、なんで打ち明けなかったの。今、自分から出ていけば……』
「うん、そうだね。でもさ、中途半端はよくないもの」
嶋田文歌(シマダ アヤカ)はそう言いながら、自分の不本意に短い髪先を軽くいじくった。
☆
「なかなかみっちゃん? 来ないし、ガブモンがどんなやつかって話、聞いていい?」
彩華の言葉に、サイケモンは話し出した。
「僕達は物心ついた頃には一緒にいた。最初は二人ともツノモンってデジモンで、それからサイケモンとガブモンに進化したんだ」
薄々察してはいたものの、サイケモンとかガブモンって個人名じゃないのかなと彩華は思いつつ、口は出さなかった。
「サイケモンとガブモンに進化して、最初はそれぞれサイケモン達やガブモン達、同じ種が集まってる集落に行ってみたんだけど、あんまり合わなかった。他のサイケモン達は陽気にさわぐのが好きだったけど僕はみんなほど好きじゃなくて、ガブモンも同じ感じだった」
仲間外れにされたエピソードとも言えるのに、それを話すサイケモンは、とても楽しい事を思い出しているように見えた。
「僕はガブモンと一緒ならなんでもいい気がしていたけど、ガブモンはたびたびパートナーの話をした。名前しかわからない、でも確かにその存在を感じている。だから、他のガブモンみたいに臆病にもさびしがり屋にもならないんだって。そんなガブモンといると、僕も強くなったような気がして勇気が出た」
「二人で、どんなことしたの?」
よほど好きなんだろうなと思いながら、彩華は詳しい話をねだった。
「例えば、僕達の住む町にオーガモンっていうでっかい鬼みたいなデジモンが肉泥棒に来たことがあったんだけど、いつも目を光らせているケンタルモンもいなくて僕達は戦うこともできなかった。持ち去るでもなくゆうゆうと肉を食べられるぐらいだった。でも不意に油断したオーガモンが肉をより多く持つために武器の棍棒を置いたんだ。それを見てガブモンは行こうって言った」
サイケモンは熱のこもった身振りを交えながらそう語る。それに彩華はいいねと微笑んだ。
「僕が棍棒を奪って、ガブモンはオーガモンに火を吹きかけた」
「おぉ」
「僕はケンタルモンが向かったはずの別の街の方向へ走った。後ろで、ガブモンがオーガモンの足にかじりついたりして少しでも時間稼いでいるのがわかってハラハラしたけど、十分に町から引き離した。そこで捕まりかけたけど、追いついてきたガブモンが僕の手から棍棒を受け取って、近くの川へ向けて投げすてた!」
いいぞいいぞと彩華ははやしたてた。
「でも、やり過ぎたみたいで棍棒を回収することよりも僕とガブモンに向かってオーガモンは襲いかかってきた」
「やばいじゃん」
「ところが、オーガモンに向かって光る弾が飛んできて吹っ飛ばした。もう結構街の近くまで来てたみたいで、さわぎを聞きつけてケンタルモンが助けてくれて、無茶し過ぎた事を怒られつつ、僕達は街に帰ったんだよ」
彩華が拍手すると、サイケモンは照れくさそうに顔を手でおおった。
「……サイケモンにとってガブモンは相棒だったわけだ」
彩華の言葉に、サイケモンは小さくうなずいた。
「……ところで、フミちゃんはどういう子なの?」
「なんでフミちゃん?」
「僕、彩華のフミちゃん以外の友達知らないし。僕だけ話すのはズルいよ」
ズルくはないと彩華は思ったが、まだみっちゃんが来る気配もないので、文歌の話をすることにした。
「まず、私のばぁちゃんとフミちゃんのばあちゃんが確か親友なんだよ。フミちゃんはずっとこっちに住んでて、私は基本は東京に住んでる。で、小さい頃からこっちに来ると両親は私の扱いに困ってた」
「なんで?」
「まぁ、普段会えない親戚に挨拶したり色々忙しかったんだよ。そこで子供同士で遊んでもらおうと、ばあちゃんがフミちゃんのばあちゃんに声をかけた。フミちゃんは大人しくてあまり友達と遊んでいるところを見たことがないって事情もあったみたい」
彩華の覚えているその姿は、卒業アルバムのそれより小さく、腰の辺りまで伸びた黒髪がとても綺麗な子だった。
「覚えているフミちゃんは賢い子だったかな。昔の私はとりあえず反抗する子供だったんだ。夜に外に出るなといわれても川は危ないから行くなと言われてもとりあえずフミちゃんの手をつかんで外に出ようとするクソガキだった」
今とあんまり変わってない気がするとサイケモンは思ったが言わないことにした。
「フミちゃんは、私の思いつきにもっともな理由をつけて大人に付き添いさせたり、付き添いしてくれる大人をどこからか連れて……あ!」
不意に彩華が大声を出した。
「みっちゃんてフミちゃんがどこかから連れてきた付き添いしてくれる大人三号だ。三号だからみっちゃん、私が言い出したんだったわ」
「えっ? 俺、ずっと慕われてると思って喜んでたんだけど」
そう口にしながら、一人の青年が居間の扉を開けて入ってくると、机の上に何かがどっさり入ったビニール袋を置いた。
「みっちゃん。もしかして鍵開いてた?」
彩華の言葉に、みっちゃんと呼ばれた青年は首を横に振った。
「お前のじいちゃんが一人暮らししてた時、時々様子見に来てくれって鍵渡されてたんだよ。元気だったから全然使ってなくて返すのどころか存在も忘れてたんだけどさ」
みっちゃんは、これうちがおすそ分けでもらった野菜のさらにおすそ分けなと、ビニール袋の中を彩華に見せた。
「野菜はありがたいけど、チャイム鳴らさず入ってくるのやめよ?」
「鳴らしたけど出てこなかったし、というかなんでデジモンと一緒にいるの? どこから? どういう経緯で?」
だからって今は女の一人暮らし、そんな家に勝手に入ってくるかと彩華は思ったが、とりあえず置いておくことにした。
「それはいいとしてみっちゃん。私達、このサイケモンの親友のガブモンを探してるんだけど」
なるほどとうなずいて、みっちゃんはスマホを少しいじるとサイケモンと色が違うだけのデジモンのイラストを彩華達に見せた。
「ガブモンってこのデジモン?」
「そうだけど、これって……ガブモンのこと知ってる誰かが?」
サイケモンがそう言ってスマホをつかむと、みっちゃんは落ち着けとサイケモンの手をつかんで引きはがした。
「コンテンツとしてのデジモンの図鑑だよ、ネットで検索すればすぐ出てくる」
「……それ、当てになるの?」
コンテンツとしてのデジモンに関して、彩華は詳しくないものの、それなりの歴史があるのは知っている。
今現在目の前に現れた本物のデジモンと昔からある図鑑が一致してるとは思えなかった。
「ある程度当てになるよ。現実においては設定というかどこかの研究者が推測まじりに書いた文章、ぐらいのイメージだね」
「ガブモンだとどんなの?」
彩華は半信半疑でそう聞いた。
「毛皮を被っているが、れっきとした爬虫類型デジモン。とても臆病で恥ずかしがりやな性格でいつもガルルモンが残していったデータをかき集めて毛皮状にしてかぶっている。他のデジモンから恐れられているガルルモンの毛皮をかぶっているため、身を守るための保護の役目もしている。毛皮をかぶると性格が180°変わってしまう。必殺技は『プチファイアー』。って、書いてあるね。ガルルモンのデータかき集めるのとか今までどのコンテンツでも見たことないんだけど、実際どうなのかな?」
「進化した時からついてきてたよ」
サイケモンの探しているガブモンはしかも性格も勇敢だという話だし当てにならなそうだと彩華とサイケモンは思った。
「まぁ、でも似顔絵代わりにはなる。で、俺はなんで呼ばれたの? 大学院で研究してるっていっても、特定の誰かを探すのにはあんま役に立てる気しないんだけど」
みっちゃんはそう言いながらキッチンに向かうと、野菜を冷蔵庫にしまいだす。
彩華は少しどこまで話すか迷った。文歌は彩華にとっては友達で対等だったが、みっちゃんの彩華に向ける目は子供を見る保護者の目、そこまでいかなくても兄貴分としての目線。危ないことに関係あると話したら、ちゃんと話を聞いてもらえるかわからない。
「……この近所でアヤカって名前の人、知らない?」
彩華の問いかけに、みっちゃんはまず彩華を指差した。その指をはたき落として、私以外にと彩華は付け加える。
「ハナちゃん以外はいいとして……フミちゃんもなし?」
思わぬ言葉に、彩華とサイケモンの時間が止まる。文歌は全くそんなことは言わなかった。なにより、彩花の記憶の中ではずっとみんなフミちゃんと呼んでいたのだ。
「フミちゃんって、フミカじゃないの?」
「ハナちゃんもアヤハナじゃないでしょ? フミちゃん、二人とも同じ名前でややこしいからって俺がつけたあだ名なんだけど、忘れた?」
言われても全く彩華は思い出せなかったが、思い返せば文歌はサイケモンの存在に驚く素振りが全くなかった。
といっても明確に怪しいとは言えない。アヤカという名前を出されて名前を改めて口にしなかったのも知らないと思わなかったから、驚かなかったのもそれだけ彩華のことを信用しているからで一応の説明できる。
だから、話を聞いた彩華がアヤカはフミちゃんだと確信してしまったことに論理的な根拠はなかった。
「……みっちゃん、デジモンにおけるパートナーってどんな存在?」
「パートナーの鏡写し、みたいな関係が多いかな。最近のおもちゃだと脈拍とか参照する仕組みになってたし、コンテンツがそうなのを反映して現実のパートナー関係もそういう人間側の情報が反映される傾向がある」
人探しのヒントになるような情報は持ってないかなとみっちゃんは続けたが、彩華はそんなことが聞きたいわけじゃなかった。
「みっちゃんさ、最近この辺りで起きた放火された家にどんな人達が住んでたかって知ってる?」
「……まぁハナちゃんが住んでた東京に比べたら狭いコミュニティだし、家族構成とかぐらいは知ってるけど。これ、なんの話?」
サイケモンも真意を測りかねているのは同じようで、彩華の次の言葉を待っていた。
「放火された全部の家にフミちゃんの高校の同級生とかいる?」
「いるけど。でも……この辺りから通える高校なんてそうないんだから、珍しいことではないよ?」
みっちゃんの表情で彩華はそれが嘘だとわかった。同じ高校に通っていただけならまだしも、同級生であるというところまで行くと偶然と片付けるのは厳しいのだろう。
「フミちゃんから口止めされてたら、ごめんなさいなんだけど、フミちゃんってもしかして高校卒業してなかったりしない?」
彩華がそう言うとみっちゃんは明らかに険しい顔をした。
「……サイケモンの友達のガブモンを探すんじゃなかったの? それ関係あるの?」
みっちゃんはそう語気を強め、彩華の考えを否定したが、彩華はそれに動じることはなかった。
むしろその否定っぷりを肯定と捉え、さっき高校の卒業アルバムは出さなかったんだとつぶやいた。
「みっちゃん。言ってなかったけど、ガブモンは放火の実行犯かもしれないんだよ。フミちゃんがもう一人狙うとしたらどこの誰か、知ってたら教えて」
文歌が犯人だとした場合、逃げ切ろうとしていないのはみっちゃんと会わせた時点でほぼ間違いない。
では、彩華に隠す気がないならばなぜその場で明かさなかったか。彩華には一つしか思いつかなかった。
「ハナちゃん。フミちゃんがそうだって証拠とかはないんだよね? だったら……」
「そうだったら私の考え過ぎでいい。ミステリじゃないんだしさ、考え過ぎじゃなかったら最悪の場合死者が出る。フミちゃんは人殺しになる」
彩華自身根拠がないのはわかっている。動機も曖昧で名前と直感だけしかない。
「……過去三件の被害にあった家には、この辺りでは悪質ないじめっこだって有名な奴らが住んでた」
「で、そいつらとつるんでる四人目は?」
「口で説明してもわからないだろうし、バイク出すよ」
みっちゃんはそう言って立ち上がった。
「全員乗れなくない?」
「デジモンはある程度の容量があればスマホの中なんかも入れるはずだよ」
彩華がダメ元でスマホをサイケモンに近づけると、一瞬強い光を発してサイケモンの姿が消え、画面にその姿が映るようになっていた。
「……サイケモン、状況によってはサイケモンだけが頼りだから」
『うん。ガブモンは僕が止める』
それを聞いて、彩華はみっちゃんの手からヘルメットを受け取ると力強くかぶった。
☆
高三の春、髪を切られて焼かれた。彩華がよく褒めてくれていたロングヘアだった。
高三の夏、彩華は受験勉強の為にこの町を訪れなかった。
高三の秋から、文歌は学校に通わなくなった。
翌年の春、彩華が同じ町に来た。会いに行くには勇気がなかった。
同じ夏、ガブモンが文歌の前に現れた。話しているだけで自己嫌悪で肌が泡立った。
☆
「……みっちゃん、ここまででいいよ。家の前まで行ってバイクのなんか壊れたら困るし」
目的の家がまだ見えない路上でバイクを停めさせ、彩華はへるめっとを脱いでマホを取り出した。
画面から出てきたサイケモンが最初に気づいたのは空気に混じる燃える匂い。
「彩華」
「見えてるよ、サイケモン。みっちゃん、目的の家ってあの細い煙が出てるあたりだよね?」
彩華はスマホを握りしめながら逆の手で空を指差しそう言った。たまたまタイミングが合ったなんてありえない。疑惑は確信に変わってしまった。
「みっちゃん、もう大体わかったから道案内はここまでで大丈夫。通報お願い」
「……いいのかい?」
「フミちゃんを人殺しにする方が大事にするより悪い。サイケモン、行くよ」
そう口にして、彩華はサイケモンを連れて、煙の方へと歩き始めた。
「待って、ハナちゃん達はなんでまだ行こうとしているの? もう帰ったかもしれないじゃん」
みっちゃんの言葉にサイケモンは違うよと答えた。
「きっとガブモンとフミちゃんはそこで待ってるよ。そんな気がする」
何言ってるのとみっちゃんは彩華の方を見たが、目を見れば彩華も同じ考えだとわかった。
「根拠はあんまりないけどさ、フミちゃんはみっちゃんと話せば私なら可能性に気づくとおもった。だからみっちゃんに連絡して私に気づかせて、気づいた私がここに来るだろうと思って、そこで待ってる。そういう考え方をする」
みっちゃんはもう止めなかった。
「危ないと思ったら逃げてきていいからね?」
彩華はスマホをしまいながら、わかったと返した。
日差しと熱されたアスファルトが上からも下からも彩華とサイケモンをじりじりと焼く。
「……いなければいいのに」
ふとサイケモンがそう呟いた。彩華は肯定もできなかったが、自分もそう思っていたから否定もできなかった。
二人の願いは届かず、煙が出ている根元の家まで行くと、文歌とガブモンが玄関前に立っていた。
「フミちゃん、自首しよう?」
「いいよ。もう終わるから」
文歌がそう答えるのとほぼ同時に、家の中からどんどんと何かを叩く様な音がした。まだ人が中にいる、それを察して彩華は血の気が引いていくのを感じた。
「一人じゃ逃げられない様にしたの」
そう言った文歌の笑顔は彩華の知るそれと同じ笑顔で、胸が締め付けられる様だった。
「……助けに行く」
家の中へと彩華が急ごうとすると、ガブモンが口から火を吐いてさえぎった。
「なら、戦わなきゃね」
「なんで?」
「ハナちゃんが思ってるよりも私にとってハナちゃんって特別だから、かな」
前のやり取りと一見つながらない言葉を彩華は数秒咀嚼した。そして、思い当たってまさかと息を呑む顔を見て、文歌は笑みを深めた。
「……放火殺人の方が手段で、目的は、私?」
彩華の言葉に、文歌は顔を赤らめ興奮をあらわにする。
「そう! ハナちゃんの一生の傷になる為に私は今こうしてるの。そういう意味では、誰でもよかったし、放火でなくてもよかった」
その言葉を聞いて、ガブモンはくちびるを軽く噛んだ。
「そんなことでこんなことを……?」
「うん。めちゃくちゃだよね、私もそう思うもん」
彩華はちらりと後ろを見た。まだ通報してから一分も経っていないのだから当たり前だが、消防はまだ来ていない。
「見殺しにしたいなら消防を待つのもアリかもね」
開いた瞳孔は獣の様で、彩華は文歌が自分の知らない誰かになってしまった様な気がして、思考がまとまらなくなっていくのを感じた。
ふと、ズボンを引っ張られた彩華の視線がサイケモンに向いた。その大きな瞳を見ていると、彩華は考えが落ち着いていくのがわかった。
「ガブモン、パートナーの言うことだからってこんなので戦ってもなんにもなんないよ!」
サイケモンはそう言って腕を振り上げ一歩前に出た。
「わかっててやめられたら、こうなってないんだよ!」
ガブモンはそう叫ぶと、青い炎をサイケモンに向けて吹きかけた。それに対してサイケモンは目をつむって炎をかぶりながらガブモンに飛びかかった。
「でもやめろよ! ただ言いなりになるのがパートナーかよ!」
馬乗りになってガブモンを押さえつけながらサイケモンはそう叱りつけた。
その隙にと彩華が家に向けて走り出すと、文歌がナイフを持って立ちふさがった。
「ハナちゃん、頑張っているパートナーを置き去りなんてひどくない?」
「……サイケモンと私は、親友を人殺しにしたくないで一致しているから」
舗装された道路には石さえろくに落ちていない。ナイフ相手になす術がなかった。
「私達も別に、一致してないわけじゃないよ。ね、ガブモン」
文歌の言葉が終わると、ガブモンの身体が強く青く光りだす。
「え?」
膨らんでいくガブモンの身体に弾き飛ばされてサイケモンが地面に転がる。
「ハナちゃん、ガブモンの図鑑ってみっちゃんから見せてもらった?」
「……サイケモンのなら」
答えながら様子をうかがうものの、ナイフの切先は常に彩華から離れない。
「ガブモンも同じだよ、丈夫な毛皮にすがって弱い自分を誤魔化すデジモン。私のガブモンはそれが顔も知らない私だった。私はこのハナちゃんがほめてくれた髪がそうだった」
そう言いながら、文歌はナイフを持つ手と逆の手で自身の髪を触った。
彩華は癖毛だからストレートロングがちょっとうらやましかった。ほめた理由なんて、それ以上でもそれ以下でもなかった。そんな言葉にすがっていたなんて思っていなかった。
周囲を包み込む光の奔流が収まると、ガブモンのいたところには巨大な狼がいた。人の身体ほどの頭を持ち、ガブモンのかぶっていた毛皮と同じ青みがかった白に藍色のしま柄の毛皮で覆われた巨大な狼。
「進化についてもみっちゃんからは聞いてないかな? デジモンはこういう成長の仕方をするんだよ。人間で言うなら小学生から瞬間的に大人になるみたいな感じかな。さらに、パートナーがいれば好きなタイミングで進化したり戻したりできる」
「……めちゃくちゃだ」
「本当にね。これでガブモンはガルルモンになった。ハナちゃんに私が勝てることはまずないけど、パートナーと出会ってからの長さの分だけ、これは有利かな」
文歌はサイケモンがパートナーだと思い込んでいる。それを確認して彩華は周りを見回した。何か利用できるものが欲しかった。
「……彩華、これ使って」
立ち上がったサイケモンは、脱いだ毛皮を彩華に差し出した。
「これは」
「丈夫だよ、フミちゃんが持ってるナイフぐらいなら刃も立たない筈」
それは当然、サイケモンの身を守るものでもある。毛皮を持つ手が少し震えているのを見て、彩華はサイケモンに被せ直した。
「……デジモンは成長に伴って進化するってのは本当か?」
「そうだけど、そう都合よくタイミングを操作できるものじゃ……」
「そんなことないさ。ガブモンがパートナーの存在に後押しされて進化できるなら、ずっと一緒にいた幼馴染のお前も、何か後押しがあればできておかしくないはずだ」
彩華はサイケモンの目をまっすぐ見た。
「そんなこと、できるわけ……」
「多分、ばあちゃんも生きてたらきっとできるって言ったね」
「……おばあちゃん、諦めたら怒る人だった?」
「多分、説教するために夢枕に立ってくるね。ばあちゃんの説教は長いぞ」
少しサイケモンの口元がゆるむ。それを見て彩華もにやりと笑ってその背中を思い切りたたいた。
そして、サイケモンの身体は光りだした。
まばゆい光が収まった時。サイケモンの姿は、ガルルモンと瓜二つの巨狼に変わっていた。縞模様に色味が薄く白黒に近かったのと、爪の色が暗いぐらいしか違いもない。
「で、名前はなんて言うのさ」
「今の僕の名前はグルルモン」
ほぼ同じに見えるその姿を見てグルルモンの名前を聞いて、ガルルモンは怒りに顔をしかめた。
「お前さ、お前さぁ!」
そう叫んで、ガルルモンはグルルモンに向けて牙を剥き飛びかかった。
グルルモンもただ噛みつかれるままにはならない。頭を低くして内に入り組みつく。
互いに上半身が浮く様になりながら爪を立て合い、唯一残った頭を打ちつけ合う。強くぶつかり合う為に地面に深く突き立てた後ろ脚の爪は泥でもはねるようにアスファルトをえぐって飛び散らかした。
「グルルモンってなんだよ。なんでも真似して、俺のこと馬鹿にしてるのか⁉」
ガルルモンはすでにぶつかっている額を思い切り押しながらそう叫んだ。
「馬鹿にしてなんかない、ずっと君のことを尊敬してる! 馬鹿にしてたらこんなところまで追ってくるわけないだろ!」
グルルモンも押し返しながら叫び返す。
「そういうところが馬鹿にしているんだよ! 俺はお前に勝てるところなんてないのに、尊敬してるとか、すごいとか言ってくるのが!」
ガルルモンの言葉に、グルルモンと彩華は困惑したが、文歌は彩華に向けた目を少し細め、軽く唇を噛んだ。
戸惑った隙にガルルモンは前脚でグルルモンの頬を思いっきり叩いた。
立ち上がった様な不安定な体勢からさらに無理して叩いた側、不意を突かれた側、どちらも体勢は維持できない。
体勢を立て直し改めて向き合うと、互いに助走をつけてまた正面からひたいをぶつけ合った。
「オーガモンを追い払った時、一番に飛び出そうって言ったのは君だっただろ! そういう勇気ある君を、僕は――」
「避けろ! グルルモン!」
反論するグルルモンに向け、彩華が叫ぶ。ほぼ同時に、ガルルモンは押し付けていた頭を引いて、首を横にひねりグルルモンの顔の横側で青い炎で満たされた口を大きく開いた。
吹き出した炎がグルルモンの顔を焼く。飛び散った火花がアスファルトに落ちると、そこだけ溶けて穴が開いた。
「……お前が、オーガモンが棍棒を置いたって言うまで、俺は戦うことなんて考えてさえなかった。お前が、お前がそう言って俺を見たんだ。君もそうだよなって目で」
青い炎に顔が包まれ呼吸がうまくできなくなっているグルルモンを見下ろしながら、ガルルモンはそう口にした。
大好きな友達を幻滅させたくなくて、あまり向いてないなと気づいてからもパートナーの存在にすがりながら勇敢に振る舞った。
「俺は、アヤカに会うためだけにゲートをくぐったんじゃない。幻滅される前に、お前の前からいなくなりたかった」
だから文歌のところにひっそりと居たかった。でも、それももうできないと彩華とサイケモンが文歌を訪ねてきた時に知った。
だったらせめて一生残る大きな傷になりたいという文歌のそれに乗る事にした。幻滅されたくもなかったが、忘れられるのはもっと嫌だった。二人は同じ気持ちだった。
顔の周りから火が消えてもぐったりとするグルルモンは痛ましく、自分でやったのにガルルモンは直視していられなかった。
思わず顔ごと背けると、強い衝撃がガルルモンの顎を下から突き上げた。
「言ってくれなきゃわかるわけないだろ! 好き勝手言って君達の方こそ僕達のことなんだと思ってるんだ!」
そう叫んだグルルモンの口の中いっぱいに紫色の炎が溜められ、吐き出される。ガルルモンも体勢を戻しながら口の中に青い炎を溜めて吐き出す。
二色の炎がお互いに一歩で埋められる距離でぶつかり合い、お互いに返って毛先を焼く。
先に準備できていた分、紫色の炎が強かった。青い炎も飲み込んで紫色の炎がガルルモンの全身を包む。
それが決着にならないのをグルルモンは身をもって知っている。火が弱くなり、ガルルモンが立ち上がるのを確認して、グルルモンは飛びついた。
ガルルモンは飛びつきを受け止めきれず、熱で柔らかくなったアスファルトの上を滑り転がり、グルルモンとガルルモンが上を取り合いながら引っかき合い噛みつき合う。
「フミちゃん、もう通してくれないならそれでいいよ」
彩華は汗でぐしょ濡れのシャツを脱ぎ、肌着姿になると脱いだシャツを左腕にぐるぐると巻きつけた。
戦いの余波で気温は上がり、ただでさえ暑い日だったこともあって、ただ立っているだけでも体力は失われていく。疲れてからいってもただ道連れになりかねない。
「……そんなのでナイフが防げるの?」
「殺す気で刺してきたなら防げないと思うよ。でも、私の傷になりたいって目的なら、私を殺せないでしょ?」
どんな理屈があったとしても刃物をむけられて怖くない訳がない。元からかいていた汗なのか恐怖からくる冷や汗なのかわからなかったものの、彩華は足を止めない理由だけ考えることにした。
文歌の犯行動機はわからないしわかりたくもなかったが、冷静に考えると、文歌が楽しんだりしていないのはわかった。どうしてこうなってしまう理由はわからなかったが、だとしたら明らかにおかしいこともあった。
「私をもっと確実に傷つけたいなら、最初から人を殺そうとすればよかった」
平日の昼間、多くの人は仕事や学校に出ている時間。怪我人が出たのは三件目だけで、みっちゃんが家族構成は把握していると言っていたぐらいだから、調べようと思えば文歌も当然調べられたはずだった。
「放火を選んだのは、自分の手で直接人を傷つけたりしない中で一番刑が重くなると思ったから。つまり、殺人や暴行を避けていたからだとすれば辻褄が合う」
彩華がついにナイフがあと少しで届く距離に入ると、文歌はナイフを胸の高さまで持ち上げた。
「……目をつむってこのままハナちゃんに体当たりしかけるぐらいは、できるよ?」
もし胸元に数センチ刺されば人は死ぬ。それに、怪我した手足では人命救助も難しい。
彩華は心理的に追い詰めて怪我せずにナイフを取り上げなければならいが、文歌は少しでも怪我させればそれでいい。破滅するつもりで動いている文歌に失うものはない。
目をつむり、前に走り出せばいい。
わかっているのにそれだけのことができない。彩華が近づく度に手の震えが大きくなっていく気さえする。
「じゃあ、もらうね」
シャツ越しに彩華はナイフをつかんだ。少し引っ張ると文歌の震える手は簡単にナイフから離れた。
「……ふみちゃんが思うほど、ふみちゃんはどうしようもなくないよ」
取り上げたナイフをシャツで包んで捨て、家へと歩みを進めようとすると、急に視界がぐにゃりとゆがんだ。
極度の緊張からの緩和、暑すぎる気温、やや荒れ気味の一人暮らし生活、めまいの原因に心当たりはいくらでもあるのに今からそれを回避する方法は一つも思い浮かばない。
「……あ」
前に歩こうとするも歪んだ視界でまっすぐは歩けない。数歩ふらふらと歩いたところでついに膝から力が抜けた。
熱されたアスファルトで肌が焼ける感覚はあるのに、立ち上がる為に力を入れることができない。
「ハナちゃん……?」
文歌はその姿を見ても動けなかった。どうしたらいいかもわからなかったし、そもそもナイフを取り上げた側の彩華がなんで倒れるのかがわからなくて、その場で膝をついた。
「警告したのに無茶して……」
彩華の頭の上から女性の声がして、彩華の身体をフリルの袖から出てきた白い手が持ち上げた。
ゴスロリ風に修道服の様なものを着た黒木が、小脇に縛られ煤けた服を着た女を一人抱えた上に、彩華も持ち上げて抱えた。
「救急車も消防車も影も形もないうちから着くと思ってなかった……」
「まぁデジモンなのでネット回線とか通ろうと思えば通れますし」
「グルル……サイケモンのことも、お願い……」
そう言って彩華は意識を失った。少しその顔を見た後、黒木はグルルモン達の方を見た。グルルモンは疲れ切ってこそいたが、ぐったりとしたガブモンをくわえて黒木の方へと歩いてきていた。
「一応聞きますが、手助けは要りますか?」
「いらない、と思うけど。というか黒木さん、デジモンだったの?」
「ぼやぼや話し込んでいい状況ではないです。こんな熱い地面に寝かせたら人間は火傷します。とりあえず、車に案内してください。消防車と救急車が来るまで少しでも涼しいところに連れて行かないと」
あなたもと、黒木は立ち尽くしている文歌をにらみつけた。
「……ハナちゃんが、私に会いに来る前に通報していると思わなかった」
文歌はにらみつけられたことは意に介さず、ただ、自分達だけで解決しに来なかったのが意外だったと口にした。
「通報は、されてないといえばされてないですね。パートナーとして助けを求められたので」
「グルルモン、じゃなくて?」
文歌がグルルモンを見ると、グルルモンも目を丸くしていた。
「確かに僕はパートナーじゃないけど、そうだったの? というか、来ることさえ知らなかったんだけど」
グルルモンの返答に、黒木は不満げに舌を鳴らした。
「……説明は彩華からで。ここからいろいろなところへの言い訳しなきゃいけないので」
☆
「みっちゃんに通報を頼んだ時、住所をメッセージで黒木さんに送ったんだ」
「先に言っといて欲しかった……」
「まさか、既に火をつけるところまでやってるほどフミちゃんの手際いいと思ってなくてさ。私達で説得してから黒木さんにメッセージ送信するつもりでいたから」
「それで、パートナーだっていうのはどこから?」
「二回目に黒木さんが来た時の話聞いてからかな」
それがどう繋がるのかわからないとサイケモンは首を傾げた。
「まず、サイケモンを犯人だとマークしてたって聞いて最初の訪問が変だなって思った。既に二件の放火が発生していたあの日、早朝に来たということは、私もいるタイミングを狙ったということ。サイケモンが犯人だと思ってるなら、私の安全がないがしろにされてる感あるだろ?」
確かに、サイケモンは最初の訪問の前日に彩華と出会っている。元からサイケモンをマークできていたなら、会って間もないのだし事件に関係してないということはわかりそうではある。
「私もいなければいけない理由、サイケモンに人質に取られたりしないと考える理由は共犯者と疑われていたからで説明がつく。でも、スーパーでのやり取りを見ていたら、初対面だとわかるし、スーパーから帰った後はあの日外出もしてない。本当にたまたまあの日スーパーから帰る私達を見つけたとかでないと、サイケモンから考えるとあまりに早すぎる。けれど、ピンポイントにもほどがあるだろう?」
「それはそうかもしれないけど、それがどう黒木さんがパートナーだって話に繋がるの?」
サイケモンはそう首を傾げた。
「まぁものには順序があるんだ。私に対してサイケモンから辿り着いたと考えるには無理があるし私はあの二人には隠し事があると考えた。私がマークされていたとすれば、スーパーでのやり取りは見ずに私の家にサイケモンを入れるところだけ見たことに必然性が出てくる。私が浪人生だとかの情報を言わずとも知っていたのもそれを裏付けている。でも、それだけじゃ私がなぜマークされてるかの理由はわからなかった」
「そのマークしてた理由が……」
「私が黒木さんのパートナーだからだとすればスッキリする。事件の捜査の為にこっちに来てたから、私の近況をある程度把握してはいても、常に監視してたわけじゃなかった。もしかすると本来は会わせたら駄目だったりするかもしれない。でも近くまで来たからとのぞいて見たらサイケモンがいた。そんなところだろう」
「マークされてた話はともかく、いきなり黒木さんがパートナーかもが出てきた気がするんだけど」
「黒木さんが初日に、色々ありがとうって私が言った時に変な間でパートナーですからって言ったんだ。最初は、新井の仕事仲間だからという意味だと思っていたが、今言った理由を踏まえると私『あなたのパートナーですから助けました』って意味になるって気づいた」
「……いや、それでも黒木さんがデジモンだってわかってないとおかしくない?」
サイケモンは僕はわからなかったんだけどと言った。
「普通の外務省の職員は瞳孔が十字になるカラコンを職務中は流石にしない。人間界の常識的に。あとは新井がすごく挑発的だったからかな。例えば自分達もデジモンと一緒にいるからサイケモンが逆上してきてもなんとかなるとかはあると思ってて、サイケモンと一対一の一番人間なら恐い時におどしをかけられたあたり黒木さんがそうなんだろうって確信した」
私とサイケモン相手で態度違うのとかもあったけどと彩華は口にした。
「結構あやふやじゃない? パートナーだからって言ったのが最初思った通りの意味だったらどうしたの?」
「……まぁ、デジモンでなくてもパートナーでなくても、ガブモンにサイケモンが負けて疲れ切ったところを警察に射殺されたり火事から逃げ遅れてサイケモン達も私達も死ぬみたいなのが一番嫌なわけだからさ。もう放火が起きちゃってるってわかった時点で、新井さんでも呼んだ方がいいと思ったんだ」
「失礼します。姉崎さん、面会の方ですよ」
看護師のノックの後、流石に笑みを失った新井と不機嫌そうにまたスーツを着た黒木が入ってきた。
「……何をやられたかの自覚はありますか?」
「すぐに通報せず、でしゃばりまくりました。やっぱり何かしら罪に問われる様な行為含まれてましたか?」
「迷惑をかけたのは自覚してるんですね。残念ながら警察の人達曰く、ガブモン達の取っ組み合いで道路がボロボロになったのは人命救助の為に必要だった。緊急避難で罪に問われることはないだろうとの事です。ガブモンの処遇も、結果的に人命救うのに繋がってるということ考えると、強制送還されることはないでしょうし、我々ができることは警告ぐらいです。次はないとおもってください」
個人的には納得いきませんが、と新井は付け加えた。
彩華自身、これだけ引っかき回してほぼお咎めなしは流石に申し訳ないという気持ちが勝る。
「一方の新井さんは、彩華のことを疑ったのに応援を呼ばずにパートナーである私を関わらせた時点でワンアウト、その私が注意喚起の為とはいえ事件の情報を漏らしてツーアウト、情報を聞いた彩華が事件に関与して熱中症と軽度の火傷で一日寝込み検査入院まででスリーアウト、左遷(チェンジ)の危機。懲戒解雇(ゲームセット)も見えています」
「……嫌なことを活き活きと、普段はもう少し無口でしたよね?」
「誰かさんがパートナーと会わせてくれない時間が長かったから、解放的なのかもしれませんわね」
黒木は意地悪くそう笑った。
「……フミちゃんとガブモンは?」
「まぁ人が住んでいる家屋への放火は悪質ですから、彼女にはかなり重い実刑は下ると思いますが、人が死んでいないので死刑を避けることぐらいはできるかもしれません」
彩華はそれを聞いて胸を撫で下ろした。やった罪とは向き合って欲しいが、その向き合い方が死刑という形であっては欲しくなかった。
「ガブモンは……今はおとなしくしてますからね。裁判が終われば強制送還というところかと。デジモンを裁く法律はないので、それ以上の罰を与えられないという言い方もできますね」
「よかった……」
ガブモンも殺されることはないと知ってサイケモンは安堵のため息を吐いた。
ふと、新井の懐でバイブレーション音がなりだした。
「……呼び出しですか?」
「ですね。楽しい楽しいお説教の時間ですよ黒木さん」
黒木がはぁとため息を吐くと、被害者面しないで下さいと新井は苦々しげにつぶやいた。
「じゃあ彩華、今日はこれで。こっちの番号がプライベート用なので基本こっちにかけてください。すぐ行きます」
「せめて仕事中はやめてくださいね?」
黒木から電話番号のメモを受け取り、いがみ合いながら去っていく新井と黒木を見る。
彩華は本人にとっては不本意かもしれないがなんだかんだ仲良いんだろうなと思った。そうしていると、ふとサイケモンの視線が彩華へと向けられていることに気づいた。
「……彩華、僕はガブモンを見つけるっていう目的は果たしちゃったわけだけど」
「帰るとか言うなよ? 少なくとも三月までは私もまだ浪人生だし……」
「だし?」
「パートナーと開き直った黒木さんの距離の詰めかたがちょっと怖い。見た目人間に近いからなんか、こう、よろしくない」
「なにそれ」
サイケモンはへらと笑った。
「それに、僕はまだ帰る気はないよ。少なくともガブモンが強制送還されるのは見届けないといけないし、僕もガブモンに囚われ過ぎてた。何かやりたいこととか探したいんだ」
「いいね。なにする?」
「とりあえずデジモンのおもちゃとかゲームとかやってみたいかな。人間のデジモンのイメージはそこから来てるんでしょ?」
「いいじゃん、私も知る必要ありそうだし、今日検査で明日退院だから帰りにでも買いに行こうか」
彩華はそう言って、開いた手をサイケモンに向けて突き出した。それを見て、サイケモンはにっと笑ってハイタッチした。
こんにちは。読了しましたので足跡をつけていきます。失礼します。
タイトルどおり、人間とデジモンの関係にフォーカスした内容なんですね。
リアルワールドが舞台で、個人的に拝見した中では珍しいなぁと思いながらも、そういえばへりこにあんさんは「ドレのこ」を書いておられるかた・・・そうか、つながった!!(お前は何を言っている?)
サイケモンやグルルモンを主役側に置いたところ、亜種っていいですよね?と、
うざいオタクみたいに詰め寄りたくなりました。
すみません、ブラックテイルモン推しである自分の悪い癖が・・・
「文歌」と出た瞬間、あぁそういうことね!と察してしまうあたり、自分はなんだか素直に作品を読めなくなっているなぁという気にもなりましたが、割とあっさりネタばらしもされているところを見ると、読者には隠す気なんてなかったんでしょうか?
変な安心感があります。安心していいのかなぁ・・・?
そして黒木さん!奇抜な公務員だなぁと思っていたら、なんか最後全部もっていた感じも受けました。
え、正体に気づいていなかったのは自分だけ!?
リアルワールドで人間とデジモンが共生しつつある世界とは、夢のある話ですよね。
貴作はその中で、起こりうるトラブルをコンパクトにまとめた作品になっていたかと。
この手のお話は自分もいずれ書きたいなぁと思っていたジャンルでして、少し背中を押してもらった感じがします。
勝手ながらお礼を。ありがとうございます。
それではこのあたりで。コンペお疲れ様でした!
ノベコンお疲れさまでした!
感想を配信で喋らせていただきましたので、リンクを下に貼っておきます!
https://youtube.com/live/07wVSPzblj0
(42:10~感想になります)
ノベコンお疲れ様でした。夏P(ナッピー)です。
そういえば企画だけされてへりこさん自身の作品が来ないなと思っていたら真打参上。
また黒木、何と言っても黒木。
この時点で割と噴き出しかけていましたが、終わってみれば「お、重ォ-ッ!」となることこの上ない作品でした。ハナちゃん以外、いやまあミッちゃんもか、それ以外のあらゆる人物があらゆる人物へ向ける感情が全て重い。冒頭の放火魔の描写からして「あ、これ主人公が犯人の奴だ」と思っていたら物の見事に騙されたのでした。朝のニュース辺りまではそう思っていたのですが、直後に訪問してきた黒木の名を持つ者が「一晩見張っていた」といやむしろ怖いななことを言ってきたので、早々に容疑者からハナちゃんは外れてしまいました。何故だ!!
実はおつコンだけで複数回見かけているので、結構な人気デジモンだったのかもしれないサイケモン。時かけで(一応)主役側だった実績は伊達ではないということか。
ガブモンとの対比で使われることが多いデジモンですが、作中での扱いがサイケモン>ガブモンなのは珍しいなーと思ったり。グルルモンへの進化後もガルルモンより普通に強いという扱いはレア、そしてサイケモンの知るガブモンは勇敢だけど、図鑑のガブモンは臆病という齟齬が展開に生きているのもお見事でございました。
ハナちゃん19歳女子大生だ! 萌える! と初っ端ちょっと喜びましたが、いや待てこれミスリードでどこかで「男性の貴方には不可能な犯行ではありません」的な実は男だったと言及される展開を警戒して地の文を読み進めましたが、ちゃんと女子と明言されて安心。浪人してる理由が華の10代女子にしては荒々しい経緯過ぎて思わず噴き出しかけましたが。死んだバアちゃん強キャラっぽく、さては自分は気付きませんでしたがへりこさんの他作品の登場キャラだったりするな!?
フミちゃん激重過ぎて戦慄にして驚愕。己の漢字からしてバレんだろということまで見越して卒アルも難なく見せる天才ですが、これで世を儚んで~とかではなくガブモンと共に加害者側に回るぜというロックな女。近場に越してきた女子の為にここまでするとはまさしく狂気。しかしやられたことは匂わせ程度に留められておりましたが、それなら仕方ないと思えるぐらい酷いものだったようで。
いや見ず知らずの相手、しかもいじめっ子を火の手から救うべく何ら迷い無く上着脱ぎ捨ててインナー姿で突撃しようとするハナちゃん見れば、あまりにヒーロー過ぎて脳が焼かれるのも致し方ないと言える。しかもその後、黒木の者の正体から何まで全て見抜いている、これは探偵。
そして当然ながら乱入してきた黒木も激重。
我々は重力100倍の空間にいるのか!?
これには新井さんも辛いです……と笑みを失うのも必然。実はハナちゃんとサイケモンの軽妙な掛け合いこそが一番健全なパートナー関係なのではと思う程度に、重苦しい女達が乱舞してくるうううううううううう!
フミちゃんとガブモン、情状酌量の余地も無く罪を背負って生きざるを得なくなりましたが、そこもキチンと向き合って欲しいと言えるハナちゃんはどこまでも正義の人。これは惚れる、浪人生だけど。
一つの放火事件を追う話として完結に纏まっている作品でございました。
それでは改めましてノベコンお疲れ様でした。
この辺りで感想とさせて頂きます。