※本作品は、2019年2月24日開催のデジモン二次創作イベント「DIGIコレ8」にて有斗(@nanashinoarito)様主催のオリジナルデジモン小説アンソロジー「ラーナモンの読書日和」に参加させていただいた際の作品です。
これは小説だ……。
誰が何と言おうが小説なんだ……。
**************************************************************
「デジタルワールド」。
それは争いが絶えることのない弱肉強食の世界。この世界で生きるモンスター達は、「勝利」の二文字を得るために戦い続ける。
そんな果てない闘争の先、彼らを待ち受ける結末は希望の光か、はたまた深淵の闇か。そして今日も頂点を決めるための仁義なき戦いが、太陽の光降り注ぐ星の砂浜で始まろうとしていた。
「さあやって参りました! デジタルワールド最強の胃袋を決める食の殿堂! 『第一回DW大食い選手権withZasso肉』! 即席の特設会場には大勢の観客が詰めかけています。会場の熱気と合わせて灼熱に照らされるビーチが、今日の戦いの激しさを予感させます! 実況はこの私、『先日、観光気分でリアルワールドを訪れたら焼鳥になりかけて帰って来たオウム』、デジタルワールドの三枚舌ことパロットモンがお送りします! 隣には今大会の協賛兼解説を担当いたします、ザッソーモンのゼットさんにお越しいただきました。ゼットさん、今日はよろしくお願いします!」
「俺別に解説するなんて言ってないんだけど」
「本日ゼットさんに用意していただいたZasso肉、その数なんと肉畑収穫限度数の二百個! これから五人の選手にその肉を四十個ずつ割り振り、一番最初に残さず食べ終えた選手を優勝とします! 制限時間は無制限、まさに無限地獄のデスマッチがもう間もなく始まろうとしています!」
「せめて美味しく食べてほしい」
「おっと、たかが四十個と侮るなかれ! Zasso肉は、一つ食べればあのtri.アグモンでさえ腹を満たすと言われています! その肉を四十個も食べるのは、みぞおちにボディーブローを喰らい続けるようなものでしょう! じりじりと効いてくる脂の猛攻に、果たして選手は耐えられるのでしょうか!? それではここで、お待ちかねの選手紹介と参ります!」
「宣伝ありがとうございます」
「まずはエントリーナンバー一番! 三大天使代表の参戦となります、ケルビモン選手です! 膨らんだ下腹部がZasso肉を優しく包み込みます! ではケルビモン選手、意気込みをどうぞ!」
「おいしいお肉が食べられると聞いて飛んで来ました。今日は満腹になるまで帰りません!」
「仕事しろよ」
「続いてエントリーナンバー二番! ジエスモン選手です! 彼はロイヤルナイツ代表の参戦! 聖騎士としての誇りを見せつけてくれるでしょう! さらに応援には彼の師であるガンクゥモンとシスタモン姉妹が駆けつけています!」
「ハックちゃん頑張って~!」
「負けたらブレスファイア千発飲ませるからね!」
「師匠、なんで僕はこんなところに……?」
「すまん、ノワールが勝手に申し込んだ」
「さあさあどんどん行きましょう! エントリーナンバー三番!オリンポス十二神族を代表しての参戦となりました、メルクリモン選手です! デジタルワールドを神速で駆け巡ると言われる彼も、今日ばかりは堂々と鎮座し戦いに望もうとしています!」
「いっぱい走るとお腹空いちゃうんだよね」
「喋り方に威厳を感じられない……」
「次は十闘士代表のエントリーナンバー四番! ラーナモン選手です! 可憐な外見と小柄な体型から、一体どのような大食いぶりを見せてくれるのでしょうか!?」
「「「ラーナモン様~!今日もかわいいです~!」」」
「そしてラーナモン選手いるところに彼らあり! ファンクラブ会員のハニービーモン達がここぞとばかりに声援を送っております!」
「ハーイ! みんなありがとう! 最後まで応援よろしくね!」
(フフフ、フェアリモンばっかりにいいカッコはさせないわよ! 今回の大会で優勝して、大食いキャラであるアイツの持ち味を潰してやるんだから!)
「心の声が丸聞こえなんだが」
「さて最後に紹介いたします、エントリーナンバー五番! 本大会の大本命! 七大魔王代表のリヴァイアモン選手~! ネットの海にその半身を浸け、始まりの時を今か今かと待ち構えています!」
「フン……たかが二百個の肉などワシ一人で食べきれるわ! せいぜい貴様らは指をくわえて見ているんだな!」
「リヴァイアモン選手、ここで挑発だ~! 余裕綽々といったその佇まいは大魔王を名乗るにふさわしい! おっと、さらにここでラーナモン選手に目をつけた!」
「そこの小娘ェ! お前のような小者がなぜここにいる? 浅瀬でちやほやされているような雑魚が、深海を統べる王たるワシに挑もうなどとは片腹痛いわ!」
「魔王めっちゃ喋るな……」
「さぁ、リヴァイアモン選手の煽動に対し、ラーナモン選手は……」
「「「ラーナモン様~!」」」
「はーい、サインは順番に書くから一列に並んでね~!」
「なんと! リヴァイアモン選手をガン無視して勝手にサイン会を始めています! これにはさすがのリヴァイアモン選手も唖然としています!」
「嘘、ワシの存在感、薄すぎ……?」
「リヴァイアモン選手、ショックのあまりネットの海最深部に帰ってしまったぁ~! まさかの大波乱! 優勝間違いなしと言われた強豪が、ここで脱落だぁ~!」
「ガラスのハートすぎるだろ」
「なお、他の選手もリヴァイアモン選手の煽りには耳も貸さず目前の肉とにらめっこしています! どの道リヴァイアモン選手の精神には大ダメージだったと予想されます!」
「よく考えたら大御所ばっかりだもんな」
「予期せぬ緊急事態に、ここでルール変更! 一人あたりのZassoノルマを五十個へ増量します!」
「残さず食べてね」
「会場の皆さん、そしてモニタモンの前の皆さん、長らくお待たせしました! 選手の紹介も終わりましたので、いよいよ大食い選手権の開始となります! 開始の合図はベルゼブモンのベレンヘーナで行います!」
「俺も参加したかったのにリヴァイアモンの奴、勝手に脱落しやがって……。クソ、あの時ジャンケンで勝っていれば……」
「ジャンケンで決めたのか……」
「おらテメェら! 準備はいいか! 始めるぞ!」
パァン!
「やや投げやりなベルゼブモンの台詞と共に、今スタートの合図! 四人の選手が一斉にZasso肉へかぶりついて……あれ?」
「「「ラーナモン様~!」」」
「ウフフ、キレイに撮ってよね!」
「あぁ~! 今度は撮影会だぁ~! これでラーナモン選手は実質脱落か!? 山盛りのZasso肉には見向きもしません!」
「もう帰れよ……」
「残り三人の選手は順調な滑り出し! 特にケルビモン選手は早くも一個目を食べ終えようとしています!」
「モグモグ……思っていた以上のおいしさですね! これならいくらでも食べられます!」
「さぁ、ではここで応援メッセージが届いておりますので読み上げさせていただきます。ケルビモン選手宛に、同僚であるオファニモンから直筆のお手紙です。『ケルビモン、今日は大食い大会でしたね。残念ながらそちらに行くことはできませんが、心の中で応援しています。朗報と共に帰ってくることを楽しみにしています』」
「オファニモン……! やはり彼女は私の女神だ!」
「……おっと、もう一通セラフィモンから番組宛にデジラインが届いていました!」
「……は?」
「『こんにちは、いつも楽しく番組観ています。今度、バラの明星でウィルスバスターズ親睦パーティーを開くので、よかったら取材に来てください。P.S.ケルビモン頑張ってね。オファニモンと一緒にテレビの前で応援してるよ』」
「あの野郎! 俺をついでみたいな扱いにしやがって! しかもなに二人でイチャイチャしてやがるんだ!?」
「ケルビモン選手、ぶちギレております! 今にも堕天(フォールダウン)しそうな勢いです!」
「これはさすがに怒るわな」
「ぶちのめしてやる! ……うっぷ」
「あーっと! ケルビモン選手、ストレスで胃が縮まったか!? 食が一行に進みません!」
「もう……無理……おろろろろ」
「わー! ストップストップ!」
~自主規制~
「大変失礼しました。先ほど不適切な映像と音声が流れたため、番組上の都合で差し替えさせていただきました」
「ケルビモンテメェゴラァ! 最後まで食べろや!」
「ゼットさんが激しく怒っております! しかし残念ながらケルビモン選手は脱落! 残り三人となりました!」
「「「ラーナモン様~!」」」
「はーい! チケットをお持ちの方はこちらに一列で並んでね~!」
「ラーナモン選手、今度は握手会を始めました! なお、握手会に必要なチケットは彼女のニューシングル『Curl my run』の初回限定版にのみ封入されています。夏の海と乙女の淡い恋心を唄った軽快なナンバー!まだ購入していない方はお早めに!」
「宣伝お疲れ様です」
「さぁ、実質一騎討ちとなった今大会! 勝つのはロイヤルナイツのジエスモンか!? それともオリンポス十二神族のメルクリモンか!?」
「モグモグ。しあわせ~」
「メルクリモン選手は二桁に突入! 一方ジエスモン選手はようやく三個目に手をかけました! シスタモン姉妹の声援にも熱が入る!」
「負けないで!」
「コラッ! しっかりしなさいよ!」
「くっ! ここで負けては師匠に恥をかかせてしまう!」
「いやワシは別に……。ジエスモン、無理しなくていいぞ?」
「いえ! このジエスモン、挑んだ勝負は全力で臨みます!」
「ジエスモン選手、師匠の制止を振り切って再び食べ始めた! 俺は逃げない、最後まで戦い抜くと言わんばかりの姿勢です! それでこそ勇者! それでこそ史上最強の弟子! 会場の盛り上がりは最高潮! 視聴率もうなぎ登りでございます!」
「それ言っちゃダメなやつ」
「確かに状況は劣勢。だがこの技を使えば!」
───アウスジェネリクス!
「出ました! ジエスモン最強の技『アウスジェネリクス』! これによってジエスモン選手は一時的に限界を超えた身体能力を得ます!」
「当然胃袋も限界突破さ! いくらでも食べられるよ!」
「ここに来てジエスモン選手が怒涛の追い上げ! 瞬く間に十個以上を平らげてしまいました!」
「すごーい。よーし、僕も頑張るぞー!」
───サウザンドフィスト!
「メルクリモン選手、対抗するかごとく肉を掴んだ拳を恐るべき速さで口へ運んでいます! そちらが搦め手を使うならば、こちらは己が実力のみで勝利しよう! 『左を制する者は世界を制す』とはまさにこの事! なおも諦めないジエスモン選手に、純粋なる食欲の差というものを見せつけようとしています! 会場の歓声沸き立つ中で、相見える二人の闘士は静かなる闘志を胸に閑静な食事を続けています!」
「誰がうまいことを言えと」
「ゼットさん、この二人の戦い方をどう判断しますか?」
「この大会は実質早食い対決でもあるわけだからな。味わってほしいのはもちろんだが、勝つために手段を選ばないのは理にかなっていると言えるな」
「ようやくゼットさんのまともな解説が入りました! おや? ジエスモン選手の様子が……」
「痛だだだだだだ!」
「ジエスモン選手、お腹を押さえて悶え苦しんでいます! これは一体?」
「時間切れだな。自身のデータを書き換える都合上、アウスジェネリクスは一定時間しか効果が表れない。まだ完全にはあの技を使いこなせなかったようだな」
「解説ありがとうございます! ジエスモン選手、痛みのあまり気を失ってしまいました! 観客席の師匠が頭を抱えております、これにてジエスモン選手は脱落!」
「いや、よく見な」
「フガ! モガフガ!」
「詰まってる~!? どうやらメルクリモン選手、手の動きに口の動きが追いつかず渋滞を起こしてしまったようです! 胃はまだ満たされていないにも関わらず、口元が先にオーバーフロー!」
「しかも窒息で段々動きが鈍くなってるな」
「あーっと! メルクリモン選手も気を失ってしまった~! たまらず救護班のキュートモン部隊が駆けつけます! 一方のジエスモン選手は師匠に背負われ会場を後にしました!」
「どうすんだこれ」
「数十分前までは五人いた選手が一人残らず消えてしまいました。残念ながら今大会は優勝者なしということで……」
「ちょっと待った~!」
「あ、ラーナモンだ」
「私は脱落した覚えはないわ! ライバルがいなくなった今こそ私の独壇場よ!」
「「「ラーナモン様~!」」」
「会場の皆さん、そして全ラーナモンファンの皆さん、お待たせしました! ラーナモン・オン・ステージ!」
「なんだこの茶番」
「残ったZasso肉は自身のノルマ五十個に加え、ケルビモン選手が残した四十五個、ジエスモン選手とメルクリモン選手がそれぞれ残した三十八個を合わせた百六十六個となっております!」
「どんだけ残ってんだよ!」
「心配ご無用! 私は水の闘士よ、どんなものでも水に流せるんだから! さぁみんな出番よ、おいで!」
「こっ、これは! 会場すぐそばの海から多数の水棲系デジモンが姿を現しました! オタマモン、ポヨモン、ゴマモン、ギザモン、チャップモン、シーラモン、シャコモン、シードラモン、ゲコモン……たくさん居て数えきれません!」
「いや見りゃわかるでしょ」
「おいしいお肉をお届けよ!」
───レインストリーム!
「水流でZasso肉が飛ばされた! 次々と海に落ちていきます!」
「ま、まさか」
「なんとラーナモン選手、Zasso肉を海の仲間にお裾分けだ~! ゼットさん、残さず食べるという点では反則ではないように思えますが……」
「仕方ないな、大目に見てやろう。だがそうなるとこの大会はおじゃんに」
「ならないわ!」
「なんとラーナモン選手、一つだけ肉を手元に残している!」
「お肉を食べきったデジモンが優勝でしょ? 他の子はリタイアしちゃったから、私がこの一つを食べれば優勝ね!」
「なんという強かさ! だてに芸能界を勝ち残ってはいないか、さすがはデジタルワールドのトップアイドル! ですがゼットさん、これだと大食い大会としては些か盛り上がりに欠けるような……」
「ただ食べるだけじゃ面白くないわ。だ・か・ら、食レポも一緒にしまーす!」
「いいぞもっとやれ!!」
「ゼットさんが珍しくテンション上がっております! ラーナモン選手のアイドルとしての貪欲な向上心が、この番組を危機から救うことになろうとは誰が想像できたでしょうか! さぁラーナモン選手、いや本日のゲストラーナモン! ナイフとフォークを用いた美しい所作でゆっくりとZasso肉を口に運んでいきます! その様子はさながら絵画の如し! 会場の誰もが、彼女の細やかな動作一つ一つに釘付けとなっています!」
「口に含んだ瞬間スッと融けていきます! けど決して脂っこくはない、軽やかな口当たりです! 喉の奥をまるで私のレインストリームみたいに流れて、すぐに次の一口が欲しくなる! それなのに欠片ほどの量で満足感は充分! 満たされてもまだ足りない……あぁん、クセになっちゃう!」
「よっしゃあ!!」
「ゼットさんがここで迫真のガッツポーズ! 周りの目を気にすることなく喜びを露にしています! 生産者も納得のグルメレポートに、観客席からよだれを啜る音が今にも聞こえてきそうです!」
「こんなの食べたらもう今までのお肉には戻れないかも? Zasso肉のお求めは、ここから徒歩十分のウィード畑まで! 皆さんもぜひ一度ご賞味あれ!」
「ラーナモンさん、完璧な宣伝ありがとうございました! そしてここで大食い大会も決着! 優勝を手にしたのは、ネットの海出身のアイドル、十闘士代表のラーナモン選手! おめでとうございます!」
「「「ラーナモン様~!」」」
「みんなー! 応援ありがとう! 感謝の気持ちを込めて、優勝記念に新曲を歌わせていただきます!」
「なんと!? ここでゲリラライブ! これぞアイドルの真骨頂! 次々飛び足すアドリブとサプライズに、私の鳩胸が高鳴っております! オウムですが!」
「奇遇だな。俺も今日を境にラーナモンのファンになりそうだ……!」
「それでは聴いてください! 『Curl my run』」
こうして、灼熱のビーチを舞台に白熱の戦いは幕を下ろした。だが、これで戦いへの執着が完全に消え去ったわけではない。今日も明日も明後日も、どこかでこれに勝るとも劣らない戦いが繰り広げられているのだ。そう、ここはデジタルワールド。デジモン達が生きる限り、新たな戦いは生まれ続ける……。
FIN