王の間
不死の王、グランドラクモンがカランコロンと結晶化したピコが入った血液入りワイングラス眺め寛いでいる
「終焉の王が愛でる小悪魔が…この若さでこんなにも歪んでいる子とはね、近くで見なきゃ分からんもんだ」
クイッとグラスに入った血液を飲み干すと、口に入ったクリスタルに閉じ込められたピコを飴玉のように舐め回す
んべっとクリスタルを吐き出し、まじまじとピコの体を眺める
「あれま、よく見るとこの子キスマークだらけじゃないか」
キレイに隠しているつもりだが、ピコのマスクの下はアポカリモンにつけられた痕だらけで、まるで幼児にボロボロにされたぬいぐるみのような状態であった
傷はすぐ治せるように改造してるクセしてこれは本人が敢えて残してる
ラブラブだねキミたち
ますます興味をそそるなぁ
目線はモニター画面越しに映るアバターアポカリモンの姿をとらえていた
「もっと足掻いてもっと傷ついて、感動の再会を、本物の愛とやらを私に見せておくれ」
ポチャンッと結晶化したピコを血が入った皿の泉に落とす
暗黒物質が滲み出たピコを楽しみながらグランドラクモンは優雅なひとときを送るのであった
ザッザッザッ
半ば強引に草むらをわけながら進む、野良のデジモンたちが慌ててアポカリモンを避けながら逃げていく
ダークエリアへ侵入することが出来る能力を持つデジモンを頼りに歩きを進めるアポカリモン
しかし体はグランドラクモンの技で傷つき、更にピコという精神の拠り所を失った彼は疲労困憊に陥っていた
「ダークえりア…ピコ…待ッ…ていロ…」
ボタリボタリと血を流しながらうわ言漏らしながらピコを求める
普段冷静さを保っているアポカリモン
本体とエネルギーを経由し回復するのも忘れ、ひたすら目的地へ足を引きずりながら歩いている
デジタルワールドの樹海の奥
誰も寄り付かない不気味なオーラを放つ巨木にアポカリモンは話しかける
「ジュレイモン、ヤツに会いたい、そこを通せ」
その掛け声に応じるように何の変哲もなかった樹木がデジモンの姿へと変わる
そのデジモンの名はジュレイモン
長寿デジモンであり万単位で生きるアポカリモンと共にデジタルワールドの先の未来について語り合う数少ないデジモンであり弟弟子でもある
「アポカリモン様!?その傷はどうしたのです!ピコゃんはどこへ…」
「話は後だ、オグドモンに会わせろ」
「オグドモン様は読書中でして…あっいえ、どうぞお通りください」
オグドモン
全ての罪を内包し全ての罪を贖罪できるという謎の化身体
ほんの僅かに悪意ある者がオグドモンに近づけば相殺されてしまう恐ろしいデジモン
大昔、怨念たちを成仏させる方法を探すべく長い旅をした際、オグドモンという存在に辿り着いた
しかし当時のオグドモンには感情は愚か意思疎通さえ難しい状態であったが、アポカリモンは長い交友の末、会話をするまで成長、気が向けば連絡し合う良き話し相手となっていた
現在は人目の届かない樹海にて知識人であるジュレイモンと話し相手として知識を共有し合う日々を送っている
ジュレイモンの背後にある小さな亜空間に入るとそこには七つの目、七つの脚の巨大なデジモンがそびえ立っている
アポカリモンに気がついたオグドモンは、身の内に宿す目をギョロギョロ動かしながら長い脚を折り屈む
『旧友よ、久しいな。今しばし''かわちい"を読んでいたところだ』
「オグドモン、お前の力でダークエリアを開けないか?急ぎなんだ」
オグドモンは七つの大罪全ての力を有し
大昔X抗体で突然現れたオグドモンをアポカリモンはその身の怨念を削ってまで押さえ込み、消耗させたお陰で現在は凶暴さは無くなっている
『お前、ズタズタではないか。早く本体と繋げて回復せねば器(アバター)が死んでしまうよ』
「ピコが、ダークエリアにさらわれた…」
『なんと』
「早くしなイと…わた、ワタしの、コこが…つらイ…イダいンだ…」
激しく呼吸を繰り返し自身の胸を抱きしめてアポカリモンはその場で蹲る
こんなにも弱ったアポカリモンを見たのは初めてであった
いつも先を見据えすぎて寡黙になり、過去にオグドモンの能力を使っても尚消滅できないと知った時も平気な顔をしていた奴が…
『随分と生き物らしくなられましたね』
本来凶暴なデジモンであるオグドモンをここまで穏やかなデジモンへ改心させたのは紛れもないこの男だ
何が暗黒デジモンだ
彼ほどお人好しなデジモンはそうはいない
彼と関われば関わるほどこの世界が恨めしく思ってならない
以前遊びに来たピコちゃんの言う通り、彼ならばこの世界の神に成り代わるに相応しい
如何せん本人はこの世界を愛しているためその気にはならないようだが…
「がハッ…」
びちゃりと暗黒物質を地面に吐き出す
目から血涙が、耳からは血液が、心臓は爆発寸前にまで激しく脈動している
『待っておれ、本体と繋げてやる』
オグドモンが空間を裂き、本体のアポカリモンの背中に繋がれているコードとアバターの背中と連結させる
『楽になりましたかな』
脈々と流れ込む本体のエネルギーが身体に循環し、力がみなぎっていく
「助かった…礼はまた今度させてくれ」
『良いのです、お前にはこれ以上感謝できないくらいのことをしてもらったのですから』
アポカリモンの目の前に入口が現れる
オグドモンは七つの大罪の力を内包しているのでダークエリアへの入口を開くことが出来る
『さぁ、おゆきなさい。今度来る時はピコちゃんも一緒にこの世の未来を語り明かしましょう』
「あぁ…助かった」
可愛げに手(?)を振るオグドモン
アポカリモンはゲートをくぐり抜け、ダークエリアの沼地地帯に出る
ここを越えればグランドラクモンのいる城が見えてくるはずだ
「簡単には通させないか…」
ダークエリアのデジモンたちは常に弱者を糧に強者を集団で襲うならず者たちで溢れている
堕とされた命、デジタルワールドから排除された異物たち、しかし彼らに恨みはなくそれを本望とし生きている
「これこれ、お前たちが束になって相手にできるヤワな奴じゃないわよ」
ファングモンとサングルゥモンといった魔獣型デジモンの群れを掻き分けながら魔人型デジモンがアポカリモンの元へ近づく
「はじめまして、あなたのことはデジタルワールドに降り立った時から観ておりました。ボルトバウタモンでございます。以後お見知りおきを」
優雅な身のこなしで現れた魔人
ボルトバウタモン
魅惑なオーラに周りにいた魔獣型デジモンは恐れをなして逃げ出していく
「ここから先に行かれるのなら、あたくしと踊ってもらえませんか」
腰に携えた剣を構えアポカリモンに向け攻撃を仕掛ける
「そこをどけ」
「んふふ、その鋭い眼差し最高ですね。本体ならまだしもこうして弱体化したあなたと一戦交え、あたくしの手でどんな苦痛の顔になるのか楽しみですわ」
ロイヤルナイツのデュークモンと戦うあなたの苦痛の姿に思わず興奮してしまったのよね
あたしだったらもっとぐちゃぐちゃにしてあげられるのに…
「最近生まれたばかりのダークエリアの怨のエネルギーか、先代は頭はおかしいが話の分かるやつだったぞ」
「先代と比べないでくださいまし、あんな不味いの食べちゃいましたから」
ボルトバウタモンはダークエリアの怨のデータから生まれた魔を根源とするデジモン
世界を闇に浸食させ、目論み光の根絶を掲げている
「ほらほら、あたくしを楽しませてくださいよ!」
ズドーンッ
装備していた二丁拳銃でアポカリモンの脚、腕を射止め、埋まった弾丸が内部で暴れ回り細胞をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる
あまりの痛みにアポカリモンはその場で動けなくなる
「もっと痛がって、もっと泣き喚いて、あなたを食べてあたしはもっと強くなるんだから」
地に伏し、苦痛の顔をうかべるアポカリモン
しかしその顔にはまだ余裕が残っていた
「先代から何も聞かされてないようで助かったよ。お前はもうすでに負けている」
「なっ!?何よ!全身麻痺と毒に犯されて強がってんじゃないわ!」
「強がりでは無い、たった今お前はボルトバウタモンを止める、いや、退化する」
「はぁ?」
ボルトバウタモンの足元をよく見ると禍々しいオーラを放った術式が展開され、地面からアポカリモンの触手がボルトバウタモンの身体を捕える
「あなた最初からこの為に!?」
「退化して出直してこい、まぁ、その時まで生きていればの話だがな」
「畜生っっっっっ!!!!!!」
彷徨に近い声を上げボルトバウタモンは退化する
ボルトバウタモンへの進化条件はピエモンとヴァンデモンのジョグレス進化であるため、退化したことで意識不明のピエモンとヴァンデモンが地面に転がる
「くっ…」
麻痺と毒のせいで体が上手く動かない
流石に2匹相手は分が悪い
どちらか目覚める前に逃げなくては…
「ぅぅ…ここは?ハッ!あなたがやってくれたのですか!?」
ヴァンデモンの方が早くも意識を取り戻し、状態異常で動けずにいるアポカリモンへ駆け寄る
「あなたは私の救世主です、私かれこれ25年奴の中にいまして…とりあえずお体を治します!!」
「なに?」
慣れた手つきでアポカリモンの状態異常を治し、ズタズタになった衣服を素早く縫い止めていく
「何故この私を助ける?」
「言った通りですよ!私あのピエモンが大嫌いでして、生まれたばかりの私をパートナーから引き離しそれはそれはもぉ、酷い扱いをされましたので、さぁさぁ!早くピエモンが起きる前にここを立ち去りましょう! 」
「あぁ…すまないな」
ヴァンデモンはアポカリモンの肩を支えながら歩き出す
このヴァンデモン、信用ならんが傷を癒したところを見るに悪い奴では無さそうだ
だが、いずれにせよ触手を召喚するのにも時間がかかるとならばこの体では容易に殺られてしまう
「ヴァンデモン、私を不死の王の城まで連れて行ってくれないか?礼は必ずする」
「えっ?礼なんてそんな…んーと、そうですね…今後新居を買おうとしてましてたので家政婦一人雇いたいなぁー…って」
「わかった」
「それにあなた何者です?ボルトバウタモンになってる時意識はなかったのですがとてもお強いのですね」
「知らない方が身のためだ」
「あっ、はい…それに不死の王の城なんて物騒な場所に何しに行くのです?カチコミ?郵便配達人か何かですか?」
「ピコが…私の眷属がさらわれた」
「はぁ…お、お気の毒に…」
気まづっ!!!理由を聞いて、はいそうですか、さようなら!って言うタイミングを逃してしまった!!
不死の王関連となると面倒事になるに決まってる!
ならばこの際無理矢理おさらばするしかない
「あの、私人間のパートナーを待たせてるのでここいらで失礼し…」
「ゲホッゲホッ!!!」
「わぁっ!?状態異常治したのに…まさか持病持ちで!?」
口を元を抑えながらコクリとアポカリモンが頷く
参ったなぁ…ますます離れられなくなってきたぞ
「ハァハァ…ヴァンデモン、お前の進化系列を見せろ…」
「系列?は、はぁ…なんの事か分かりませんがどうぞ…ってイッタァ!?!?」
アポカリモンの細い触手がヴァンデモンの背中を貫く
ズブズブと沈む触手からヴァンデモンのデータを読み取るとアポカリモンはニタリと蔓延の笑みを浮かべヴァンデモンから触手を引き抜く
「えっ、なに?私の身体に何をしたのです??」
「すまんな、助けて貰って悪いがほんの少し退化しくれ、頼む」
「えっ、ちょっ、まって!何この触手!?一体何をし…ピッ!??!?!」
触手に挟まれ完全体ヴァンデモンから成熟期、成長期まで退化される
「ちょっと…いきなり何をし…って!?何だこれ!?」
丸々ボディにフサフサの毛、可愛らしい見た目の成長期のピコデビモンに退化した元ヴァンデモン
ピコデビモンの姿を見たアポカリモンはワナワナと震え立ち尽くす
慌てふためくピコデビモンをソッと持ち上げ喜びの声を上げた
「ピコ…ピコ!」
「も、戻してください!!こんな弱い姿じゃダークエリアを出ることは…え?」
アポカリモンにギュッと抱きしめられ元ヴァンデモンは困惑する
それと同時にヴァンデモン自身の遠い記憶にあった離れ離れになったパートナーに抱きしめられた時の感覚を呼び起こし、パートナーとの思い出の顔が脳内でフラッシュバックする
『だぁだぁ…』
そうだ、そうだった
彼女はもう大人になってるに違いない
私のことを覚えていないかもしれない
あぁ…どんなお姿に成長したのだろう
会いたいな
こんな感じで抱きしめてもらいたいな
顔も声も忘れかけていた彼女を思い出しぐすん、と元ヴァンデモンことピコデビモンはアポカリモンの胸の中で啜り泣く
「すまん苦しかったか?」
「平気ですよ、あなたは私の恩人ですから。好きなだけ抱きしめてください…私もこのままでいい…」
お言葉に甘えるぞと、スゥー…とピコデビモンの後頭部に顔を埋め安堵するアポカリモン
ピコとは違う匂い、だがそれでもとても落ち着く…
スンスンと嗅ぎまくられたり、腹周りを撫で撫でされたりとこちらとて随分と不快な気分だが、この男のピコデビモンはそれほど気を許し合っているのか
マイハニーと再会できたら私もこれくらいのスキンシップが出来ると思うと…これはこれで良いなぁ/////
「ふぁ…ちょっと休みません?目覚めたばかりとはいえまだこの体不慣れでして…」
「そう、だな…私も、少し…休むとするか…」
それぞれの思いや夢を抱き2人は寝いってしまう
こうして不思議な出逢いで2人は図らずしも共闘し、この先を進まねばならない
まだかな?まだかな?
早く暗黒の王の肉の食いたい!貪りたい!
王がすきにしていいって言ってた!
じゃあさ、じゃあさ、みんなで分けて食べよ!
そーしよ!そーしよ!
キャッキャッと笑う悪魔たち
その正体はジュルリとヨダレを垂らすアンデットや魔獣、魔人デジモン
奥地にはまだまだ凶悪なデジモンが彼らを待ち伏せている
果たしてピコがいる不死の王の城まで辿り着くことが出来るのか?
ここは夜の空けることの無いダークエリア
獣たちの鳴き声、血の香り漂う真っ暗な世界
身に宿す怨念たちの力が増大し、アバターの身が持たなくなるのも時間の問題であることをアポカリモンは知らない
つづく