※3,800字前後でサクッと読める短編です。最近文章書いてないのでリハビリがてら思いついたものを書きました。
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「死狂いの吸血鬼に振り回され、こんなところに隠れ住む羽目になるなんて、貴方も可哀想ね」
自らの巨体を隠しきれる洞窟に足を踏み入れてきたそれは、こちらの姿を見るや否やそう言った。我が身に起きている事情を察して、全てを見透かすように。険しい山脈が連なり、並のデジモンでは生きていくことすら敵わぬ過酷な環境など無かったかのように。この巨体と比べれば、吹けば飛ぶ埃のような小さき人型が。
「何がわかる……」
これまでもこのあたりに生息する竜や獣タイプのデジモンが縄張りを奪わんと訪れることはあった。しかし、その中に話しかけてくるような存在は皆無と言ってよく、この物珍しい訪問者に対し、思わず口を開く。
「わかるわよ、私はずっと貴方という存在を探していたのだから」
その言葉に思わずそれへと目線を向ける。あまりに小さいからと、ロクに姿を意識しようとしなかったそれに。ソレは、黒き髪のヒト。頭から角を生やし、蝙蝠が如き羽を持つその者は、魔に連なるモノ。それでいてこの環境に一切害されることなくここまで訪れているそれは、魔王と呼ばれる存在に違いなく。
「七大魔王が俺に何を求める? 言っておくが宝など保有してはいないし、配下に加わる気はないぞ」
「……? ……っ、ぷっ、あはははは」
返答に対してきょとんとした顔を浮かべたかと思えば、すぐにそれは吹き出し笑う。無邪気な子どものように。人型やそうでなくてもそこらのデジモンならば魅了されるであろう魔の美貌にそぐわぬ純粋な笑みを。
「何がおかしい?」
「宝なんて持ってないでしょ貴方。そんな余裕もないことはわかっているの。私をそこら辺の有象無象と同じように扱うのが面白くて」
意識して低く凄みを聴かせて問い掛ければ、笑うことをやめてそれは言う。また、わかっていると来た。本当にこちらの事情を少なからず理解しているようだと、意識を改めざるを得ない。
「……死にかけの竜に何を望むというんだ」
「あら、ようやく私と向き合ってくれるのね? 契約をして欲しいだけ、簡単なことよ」
魔王はそう言って、今度はその容貌に相応しい笑みを浮かべる。悪魔との契約は身の破滅をもたらす、幸せなど見せかけ、未来永劫続きはしない。そう頭の片隅で警告するもう一人の自分がいようとも、思わず聞き返さずにはいられない。この身体は、そもそも未来がないのだから。
「契約?」
「私の為の剣となってもらう、その竜の姿を捨てる契約」
眼前に淡く緑に輝く紋章を展開し、それは楽しそうに続ける。
「探し求めていたのよ、貴方という存在を。不在の聖騎士の役割を奪い、その器たり得る存在。それは、希少なプロトタイプデジモンの中でも、究極の敵の化身ともいうべき姿にまで至ったモノ以外あり得ない」
ドルシリーズと言われるデジモン群、かつてはイグドラシルの実験体にも用いられたと噂のあるそれの生息は、発展し続けるデジタルワールドに置いても未だ希少。完全体であるドルグレモンに至る個体も少なければ、デジコアの空想とも言うべき、究極竜なぞ伝説も伝説。滅多に現れることのないイレギュラー。だからこそ、探し求めていたと魔王は言う。見つけた時には既に、別の思惑に利用されそうとなり密かに苛立ちを募らせていたとも。
「それでこの身が『死のX進化』に侵されていることを知っていたと?」
「えぇ、貴方の自我が失われてからでは遅いもの。骸に興味はないし、それはもはや別の存在。私の計画の駒になり得ない」
魔王の展開する紋章は複数個に増え、あたりを覆う。この巨体の真下にも浮かび、今か今かと発動の時を待っている。
「貴方にとってもメリットのある提案だと思うのだけど? 骸竜になんてなりたくないでしょう? 死狂いと違って意思なき化け物を求めてないもの私」
くるりと踊りを舞うかのように、手足を動かし魔王は、更に作業を続ける。
「苦労したのよ、自我なき化け物に成り果て無為に死を振りまくまいとこんなところに隠れ住む道を選んだ貴方を再度見つけるのに。その労力も貴方が私のモノになるなら、安いモノだけど」
黄金の毒手ではなく、人と変わらぬ素手をこちらに差し出し、魔王は誘う。私と共に来い、と。既に自分の周りは魔王の術式で溢れかえっている。仮に断ったとして、魔王は何かしらのことをするだろう。従わぬ意識を消し去ってきたとすれば、抗い続けている『死のX進化』で魔王を巻き込んであたり一体に死を振り向くことになると思うが、それすらも考慮はしてあると認識する。
「今一度言うわ。我が剣、我が盾となる騎士になりなさい、ドルゴラモン」
魔王の手先となるか、電脳核捕食者となるか、選べ。最悪の二択を押しつけているというのに、それはこちらの気なぞ一切気にしてはいないだろう。否、そもそも魔の王が、他者を思いやることなどある訳がない。自らの欲の為に、『死のX進化』を押しつけてきたあの吸血鬼王がそうなのだから。両者ともに何も変わらない。自分を求めていると言っても、どちらも自分の欲望の為に欲しているに違いなく。死を振りまく化け物か、駒か。どちらもクソ喰らえ、普通ならそう思い、せめてもの抵抗を見せるかもしれない。だが、そもそも俺は。
「いいだろう結ぶぞ、その契約」
自分の為に世界を壊す。友達を救ってくれなかった、親兄弟が生きれなかった、腐った醜いこの世界を。自我なき化け物に成り果てて亡ぶ世界なぞつまらない。だから引きこもっただけに過ぎない。であればこそ、世界を我が物とせん魔王の手先と成って、新たな世界を見る方がいい。秩序の維持と称して、簡単に切り捨てる聖騎士を否定できるのであれば、聖騎士の姿となっても構わない。ただそれだけだ。
「契約成立ね」
全ての魔法陣がより一層激しく光を放つ。この身を覆い包むそれがもたらすは激痛。『死のX進化』へと向かおうとする身体から生じる苦しみとはまた別のもの。内側からくる痛み・苦しみが『死のX進化』へと向かおうとする動きとすれば、外側から内側へと押し込もうとする動き。人の形に押し込もうとする変化か。
「グガァグググゲゲゲ‼!」
「世界に干渉し、現在この世界に存在しないいずれ現れる役割を引き出し強制的に上書きする術式。並大抵の身体じゃ耐えられないけれど、伝説の生き物のデータを引き出し形作った架空の存在とも言える貴方なら適合するはず……」
眩い光の中で。竜の巨体が消え去っていく。眼前の魔王は、笑みをよりいっそう深く浮かべて自分を迎え入れた。
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七大魔王が一角。色欲のリリスモンのもとに、一体の黒き騎士が加わった。結果、勢力図は大きく塗代わり、魔王も聖騎士も揃って更なる戦乱に巻き込まれる。魔王と組むはずのないその聖騎士の姿は、神話の中の存在。似非に過ぎぬと断定するには、その力はあまりにも強く、本物であると認めざるを得ず。リリスモンの陣営以外、聖騎士も魔王も、その他のどの勢力も困惑を極める中、吸血鬼王のみが苛立つ。自らの思惑の『死を振りまく者』の誕生がなされなかったことから察したグランドラクモンだけが、リリスモンとアルファモン以外で真相にたどり着けるのだから。
「抑止力だなんだと、不在を良しとするからつけ込まれるのだ、愚かな騎士どもめ。おかげで、私の可愛い玩具が、余計な役割を押し付けられ、台無しだよ」
横取りしてきた女狐にも、出し抜かれ利用された聖騎士連中にも腹を立てた吸血鬼王。彼もまた、リリスモンのもたらす戦乱への参戦を画策し、戦火は広がり続けることとなる……。
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「面倒なものだな、騎士というものも」
「あらそう?その割にはノリノリで、邪魔者を排除してくれてると思うけど」
自分には価値が分からないが、おそらくは最上級の珈琲を口に含んで主人が笑う。主君の休憩のティータイムに侵入してきた刺客たちがデータ片となって飛び交うのを鑑賞しながら、さも何事もなかったかのような振る舞いである。むしろ、その光景を茶請けの菓子とも言わんばかりに楽しんでいるまであるのは、これまでの付き合いから察せられる。
「面倒だね。このぐらいの雑魚、わざわざ俺が排除せずとも、君に傷一つつけられないだろ。守る意味がない」
「仕方のない騎士様だこと」
クスリと笑うと、残りの珈琲を一気に飲み干した主人が、こちらのカップを指差し、早く飲んでしまえ、と手振りで示してくる。大人しくそれに従う。こちらの意図を汲んでいるのだから。
「従者の我が儘を叶える良き主人として、できるだけ面白い戦場に赴くとしましょうか」
「有難い、その言葉を待っていた」
配膳係に自分の分も含めて回収を命じ、ティータイムの机や椅子を喜んで片付ける自分の姿は、忠犬や執事と大差ないだろうが、別にいいとも思う。かつての竜とは違うこの姿をそれなりに気に入っており、それをくれたことに感謝の念が少なからずあるのだから。
「……ところで、アルファモン?」
「何だ?」
「珈琲にマヨネーズとケチャップを混ぜる風変わりな飲み方は、流石にどうかと思うわよ」
「……面倒だな騎士というものは」
「騎士は関係ないわよ。元々の姿では試さなかった、調味料を用いての味付けが珍しいのはわかるけど、珈琲に入れるのは砂糖やミルクにしておきなさいな」
たわいない会話を続けながら、戦場へ向かう。魔王の騎士として。自我無き骸竜へと堕ちることに怯えず気ままに世界を壊す今を楽しみながら。
終
†一言二言だけ†
リリスモンCVゆかな
ドルゴラモン→アルファモンCV福山潤
希望します
オイ何だこの童帝っぽい台詞吐くドルゴラモンはと思ったらまんまだった。夏P(ナッピー)です。ゆかなまでゆかなじゃねーか!!
そーいやガウェイン初めて見た時アルファモンっぽいなーとか思ったっけな……なんか声が坂本真綾だった頃の記憶がありそうなアルファモンだが果たして。というか「面倒なもんだな」言いまくるのは声が高山みなみだった頃の記憶だろうか。
この流れでグランドラクモン様は若本じゃねえのかあああああああああああドルゴラモンがデクスリューションするのに「あやつ! やりおったか!」待ちしてたんじゃねえのかああああああああ。ルーチェモン辺りが「な、何だこれは!?」とシュナイゼル殿下みたいなことやってる。
当初、宝を持ってる(持ってない)と言ってたのと剣となれと言われたのでオウリュウモンもしくは宝玉持ってるヒシャリュウモンなのかなと思いましたがそんなことは無かった。多分お前はスザクなんだろう。
それではこの辺で感想とさせて頂きます。