※色々注意
その瞬間、世界から全てが消失した。彼――アヴェンジキッドモンを構成する、憎悪も怒りも、その一瞬だけ消失した。
まるで、眼球が、神経が、デジコアが、魂が、不可視の弾丸に撃ち抜かれたような。視線も心も、全てそれに固定される。
ずっと目で追っていたいと、あれのことだけを考えていたいと、心が喚いていた。
暴力と表現できるほどの誘惑。何もかもを忘れて、ただただ、溺れていたい。そう思わせるほどの何か。
彼の意識を狂わせた対象――それは、人間の女だった。
パートナーデジモンも連れずに、一人で歩く女。
アの女は何者ダロウ?
背丈は、成人した人間の女という基準で言えバ、大柄な部類。
髪は、雪を想起するほどニ白い長髪。
目は、左右デ色が違っている、いわユるヘテロクロミあ。かタ目は鮮血のよウなアカ。 片メは夏の日差シを浴びた木々のようなみどリ。
……ただタだ綺麗だと思った。
泣きたくなルほどに、綺麗だと。
あァ欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。ほしいホシイホシイホシイほしい欲しいホシイほしい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しいホシイほしい欲しい欲しいホシイホシイホシイほしい欲しいホシイほしい欲しい!欲しい!欲しい!あのオんナが欲しイ!!
それは彼がこの姿になってから、久しく抱いていなかった、僧悪と怒り以外の感情。その感情の意味も名前も、彼は知らなかったが。
全てが終わった日から始まった苦痛。
変わって、壊れて、墜ちて、歪んで。
赤い影を憎んで憎んで憎んで。 それでも、生きてイキテ生きていきていきて生きて生きてイキテ生きて生きて。
そんな僧悪という底無しの闇に、突如現れた一条の光。 もたらされたのは、黒い色水に白い絵の具を混ぜるような変化。
ある意昧では、致命的な破壊。それでも彼にはそれが――彼女がひどく眩しく見える。
あの女と一緒ならば。オレはどこまでも違くまで行けるだろう。 ……きっと、空の果てまでも。 そうなれば、それは、どれだけ――。
アヴェンジキッドモンは微動だにしない。
小さくなる人影を、彼はいつまでもいつまでも見ていた。 視界から消えて無くなるまで、いつまでもいつまでも。
その日、黒き復讐者の目的が増えた。
今までにあったもの。
一つ目は復響。二つ目は破壊。
そこに新たに加わったもの。それは――――。