デジタルワールドに『世界を崩壊に導く災厄の魔王』が現れてから一年が経過した。
世界の神(システム管理者)『ホメオスタシス』は、魔王を滅ぼし世界に平和を取り戻すため現実世界から人間の少年少女を送り込んだ。『テイマー』と呼ばれるその人間達は、各々パートナーデジモンと呼ばれる存在と共に広大な大地と海を旅し、戦うための力をつけていった。
しかし、未だ魔王を打ち倒した者は現れない。世界は依然として、不安と恐怖を体現するような暗雲が包み込んでいた……。
「おお、ようやく目覚めたかのう」
デジタルワールドのとある地域に存在する集落『はじまりの町』。そこに住むデジモンたちをまとめる長老たる『ジジモン』が、自宅のベッドから起き上がったデジモンに声をかけた。
「ここは……?」
朦朧とした意識でデジモンが問いかける。
「ここははじまりの町じゃ。お前さん、かつて人間のパートナーと共にここから冒険の旅へ出たのではなかったか?」
あごにたっぷりと蓄えた髭を撫でながら、ジジモンが答えた。起き上がったデジモンは、苦虫を嚙み潰したような表情で頭を抱えた。
「人間とパートナー……? 俺が……?」
「何も覚えておらんのか。ボロボロの状態で一人帰ってきたときは何事かと思ったぞ」
ジジモンは椅子に腰かけた。
「見たところ……お主の種族は寿命が極端に長い故、代謝を行う際に古い記憶を『種』として残していく性質があると聞く。記憶の種を拾いつつ、パートナーを探すのが最も効率の良い方法じゃろうて」
「記憶を……」
「気の遠くなるほど長い旅になるじゃろう。危険も伴う。じゃが、お主の種族は簡単に死にはせん。お主が何者か思い出したいのであれば……行くがよい、『ザッソーモン』」
ジジモンの言葉が最後まで彼に届くことはなかった。ザッソーモンは瞬く間に駆け出し、ジジモンの家を飛び出していった。
ベッドの上には、彼のものと思わしき記憶の種が転がっていた。
勢いのままに町を飛び出したザッソーモン。彼が最初に目指したのは、町の近くを流れる川の先にある集落だった。
手がかりが無いのなら、事情を知っている可能性のあるデジモンに聞いて回るのが最も手っ取り早い。それに水辺を通っていけば、少なくとも植物型である自分が野垂れ死ぬことはないだろうと考えたのだった。
早朝に町を出発したザッソーモンは、陽が直上に昇るころには集落へ到着した。はじまりの町のすぐそばにわざわざ作られた集落のためか、住民の数は僅かなこじんまりとした集落だった。
ザッソーモンが足を踏み入れた瞬間、村民と思しきデジモン達が彼の前に続々と立ちはだかった。
「待て、何の用だ」
「……手厚い歓迎だな。ここに探し物がないか聞きに来ただけだ」
ザッソーモンの返答に、村民は次々と肩をすくめた。その中から代表と見られるケンタルモンが前に出てきた。
「お前、この辺りの生まれではないのか? ここに外部の者を受け入れる余裕などない。なけなしの食料も『災厄の魔王』に奪われ、俺たちが満足に生活するのも困難な状況だ」
「『災厄の魔王』……? 魔王がこんな辺境に来るのか?」
「……立ち話で良ければ少しだけこの辺りのことを話してやる。茶を出す余裕もないから、聞いたらすぐにここを出ていくのだな」
ケンタルモンに案内され、ザッソーモンは集落の広場の中央へやって来た。村のデジモン達が、ザッソーモンに不審の目を向ける。
「みんな、随分と気が立っているんだな」
「魔王さえ来なければ、はじまりの町ほどではないにせよここもそれなりに住みやすいところではあったんだがな」
ケンタルモンはため息と共にそう呟き、ザッソーモンにデジタケを一つ投げてよこした。
「食べながら話そう。肉の一つも用意できなくて悪いな」
「それもさっきから話に出てくる、その『魔王』ってやつが原因か。軍でも率いて攻めてくるのか?」
「いや、奴はいつも一人でここを訪れるんだ。この辺りを放浪しているらしくてな、腹が減ると決まってここにやって来る。バカみたいに食う奴だから俺達も困っているんだ」
「……客人にこんなこと言われるのも癪だろうが、抵抗もせずに差し出したのか?」
「もちろん断ったさ。……前の村長がな」
ケンタルモンが忌々しげにデジタケを握りしめた。
「究極体に進化したばかりで気が大きくなっていたんだ。事情を聴こうともせず力で追い返そうとして……そして、喰われた」
デジタケをかじるザッソーモンの手が止まった。
「喰われたって……その村長が、か?」
「魔王はとにかく腹が減ってたんだ……! デジモンを倒してデータを取り込む光景は何度も見てきたが、生きてる奴を直接喰ってるのを見たのは初めてだった! ……それでみんな、抵抗する気力が削がれてしまったんだ」
デジタケを握るケンタルモンの手が震える。その異常なまでの恐怖を抱いた様子に、ザッソーモンも思わず生唾を飲み込んだ。
「……それで、お前さんが繰り上げでこの集落の代表になったってわけか」
ザッソーモンが凍り付いた空気に一石を投じた。正気を取り戻したケンタルモンが頷く。
「俺より世代が上のデジモンはみんな恐れをなしてここを出て行った。奴がまた襲いに来るかも分からないここより、厳しい野生の方が幾分かマシだったんだろうな。残った俺達は近くの森で食料をかき集めて、何とか今まで食いつないできたんだ」
ザッソーモンはデジタケの残りを口に放り込んだ。
「……どうやら、本当に大変な時に来ちまったみたいだな。話してくれてありがとう。俺はそろそろ失礼するよ」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
ケンタルモンがザッソーモンを呼び止める。その手の上には、植物の球根のようなものがあった。
「さっき探し物をしていると言っていたな。お前が求めているものかはわからないが、昨日森でこんなものを見つけたんだ。食料にはならなさそうだったからこの後捨てようと思っていたんだが……」
球根のように見えるそれは、一種の記憶媒体だった。芽のように突き出した部分が端子の形状をしている。
「……どこでこれを?」
「最近、別の世界から魔王討伐の名目で人間共がやって来るようになっただろう? そいつらのキャンプ跡に落ちていたんだ。あいつらがさっさと魔王を倒してくれれば、俺達もこんな苦労をせずに済むのにな……」
ケンタルモンが苦虫を嚙み潰したような表情を見せる。それとは対称的に、ザッソーモンの口元からは高揚感が漏れ出ていた。
「ひとまず俺が受け取っておこう。探し物のヒントになるかもしれない」
集落の淀んだ雰囲気にはあまりにも不釣り合いなザッソーモンの笑みは、しかし幸いにも眼前のケンタルモンに気づかれることはなかった。
「これが記憶の種……」
集落を出たザッソーモンは、触手に握りしめた球根型の記憶媒体を睨みつけた。
「……本当に記憶の種か? これが」
実際、彼に確証はなかった。
ジジモンに聞くまでは、自分たちの種族にそのような特性があるなどとは知る由もなかった。そもそもそれ以前に記憶を完全に失っているのだから、これまでの旅の記憶を各所に置いてきたことなどどうして気づくことができようか。
「……試してみるしかないか」
額の黄色い三角模様の真ん中を開き、記憶媒体の端子を差し込んだ。瞬間、封じられていた情報がザッソーモンの全身を駆け巡る――――
――――――――――
人間が二人、川に沿って並んで歩いている。自分の左隣には、クリーム色をした四つ足のデジモンが短い足で並走していた。
「ね、ねぇ田中君。後ろの……デジモン? が、私たちのパートナーって本当?」
「あのおじいちゃんはそう言ってたよね。モンスターと一緒に不思議な世界を旅するなんて、まるでゲームみたいだ……!」
「なんでちょっと楽しそうなの田中君……」
「え、山ノ内さんはテンション上がらない? こんな体験めったにできないよ!」
「それはそうだけど……」
人間二人が会話をしている。並びから見て、声の高い方のパートナーデジモンが横の小動物なのだろう。すると俺のパートナーは、消去法で前を歩く黄色い服の人間ということになる。
「おじいちゃんじゃなくってジジモンだよ! そしてアタシはプロットモン! ヒナタのパートナーなの!」
甲高い声でプロットモンがまくし立てる。
「えええ、なんで私の名前まで知ってるの……」
「そんなのジョーシキよ! だってアタシはヒナタと出会うために生まれてきたんだもん!」
「うーん、可愛いけど流石にちょっと重いかも……」
左の人間がげんなりした様子で項垂れる。右の人間はそれを見て、自分の方に振り返ってきた。
「ってことは、君も俺のこと知ってるの?」
記憶の中の俺はよほどシャイなのだろう、顔を熱くしながら俯いてぼそぼそと話し始めた。
「……うん、シゲルのことはよく知ってる」
「俺はまだ君のこと知らないからなぁ、名前はなんていうの?」
「……アルラウモン」
「アルラウモン、かぁ。なかなか呼びづらい名前だけど、頑張って覚えるね!」
「……! うん、ありがとうシゲル!」
茂が一音一音ゆっくりと復唱するのを見て、記憶の中の俺は目を輝かせた。
「よーし! それじゃ、まずはこのまま川沿いの先にある『つづきの村』へ向かうわよ!」
プロットモンが音頭を取り、俺を含めた他の者も若干の困惑を見せながらそれに応じる。どうやら俺たちの冒険の旅は、こうして締まらない調子で幕を開けたようだ。
――――――――――
それからしばらく雑談を繰り返しながら歩いたところで、保存されていた映像の再生が終了した。
ザッソーモンは記憶の種を自身の額から外し、ふうと大きく息を吐くと、脳裏に映された映像を噛みしめるように目を閉じ空を仰いだ。
「世のザッソーモンは苦労してんな。こんな大事な記憶を置いてきぼりにして生きてるとは。……いや違うか、忘れるからこそヘラヘラ生き延びているんだろうな、俺達は」
口角の吊り上がりを抑えられないザッソーモンは、絞り出すように自嘲した。
春の訪れを感じさせるような柔らかな風が吹く平原に、似つかわしくないエンジンの音が鳴り響く。黒曜石のような色合いのライダースーツに身を包んだ人型のデジモンが、二つのタイヤが付いたマシンに跨り平原を走り回っていた。
ふと、デジモンがマシンの足を止める。彼が見上げる先には、一言で『悪魔』と称するのが最もふさわしいデジモンが数十の軍勢となって飛翔していた。
悪魔は彼の姿を補足すると、一斉にその前で着地した。
「これはこれは、『災厄の魔王』様ではありませんか」
軍勢の先頭に立つ隊長と思しきデジモンが、マシンから降りた黒いデジモンに対して恭しく頭を下げる。『災厄の魔王』と呼ばれた彼は、それに対し一切の反応も示さなかった。
「……誰だ」
長い沈黙の後、魔王はたった一言それだけを問いかけた。
「おおっと失礼、自己紹介がまだでしたね」
悪魔はわざとらしく驚いたような反応を見せると、手にした杖を地面に置いて自身の胸に手を添えた。
「ワタクシ、『スカルサタモン』と申します。世代は完全体でございます。我らが主から、貴方様を城へお招きするよう仰せつかっております」
魔王は相も変わらず一切の反応を示さない。踵を返し、マシンに乗って再び走り出した。
「おいおい……無視すんなよ。こちとら手段を選ぶなって言われてるんだぜ?」
スカルサタモンが手を下に翳し、杖を引き寄せながら呟く。先刻までの紳士的な佇まいは、もはや影も形もなかった。
「殺れ」
走り去らんとするマシンに向けてスカルサタモンが指を指すと、背後に待機していた悪魔デジモン達が一斉に飛び立った。最高速に達するまでにタイムラグのあるマシンに対し、素早く羽ばたく悪魔たちが瞬く間に追いつき取り囲んだ。
ある者は禍々しいエネルギー弾を放ち、ある者は鋭い鉤爪の付いた腕を伸ばし、ある者は耳を劈くような悍ましい叫び声を発する。魔王に向けて全方向から、あらゆる攻撃が雨のように降り注いだ。攻撃の激しさを物語る土煙が巻き上がり、中から断末魔が上がる。
「わざわざこのためにうちの軍を総動員してるんだ。究極体こそいないが、この数なら……!?」
戦闘領域の後方で腕を組み眺めていたスカルサタモンの笑みが、次の瞬間には消え去った。土煙の中から、魔王が乗っていたマシンが獣のような唸り声を上げながら飛び出してきたのだ。予想だにしていない展開に、スカルサタモンは回避行動すら取れずマシンと激突した。
「ぐはッ……!」
骨ばった身体から絞り出された空気が、口から漏れ出す。
先程の断末魔が魔王のものではなく、反撃を受けた悪魔が土煙の奥から発したものだと気づいたのは、魔王が無傷で煙の中から悠々と歩いてきた時だった。
「言い忘れていたが……俺の『ベヒーモス』は加減ができない。それと……」
激突の際に落とした杖を拾い上げ、魔王がスカルサタモンに鋭い眼光を向けた。
「今の俺は腹が減っていて機嫌が悪い。次に邪魔をするのなら……喰われるのはお前自身だ」
そう告げると、魔王はスカルサタモンの杖を、まるで木の枝でもかじるかのようにバリバリと音を立てて食い荒らした。スカルサタモンの顔色が、恐怖の一色に染まる。
「て……撤収! 撤収だッ!」
かろうじて軍勢に呼びかけ、満身創痍の悪魔達は平原を離脱した。
「話には聴いていたが……空腹であの強さだと!? 恐るべき災厄の魔王……いや、『ベルゼブモン』……!」
スカルサタモンは魔王をねめつけ、そう呟いて飛び去った。
魔王は杖を完食すると、軍勢が飛び去った方を見据えて言い放った。
「貴様の城には向かうのは俺の飢えが満たされた後だ。借りは必ず返す」
そうして魔王が駆るマシンの雄叫びは、地平線の奥へと掻き消えていった。
平原の終点、森の入り口となっているこの場所には、目印であるかのように色とりどりの花畑が広がっている。
多様なデジモンが比較的温和に暮らすこの場所で、親切なデジモンが拾ってくれていた二番目の記憶の種を、ザッソーモンは今まさに再生しようとしていた。
――――――――――
「待てー!」
プロットモンの甲高い声が響き渡る。
新たに発見した記憶の種の映像で、当時の俺達は『つづきの村』の売り物を盗んだデジモンを追いかけていた。
「うるせー! 置いてあったんだから持っていこうが俺の勝手だろー!」
「値札が掛けてあるものを勝手に取るなー!」
茂が正論を放ち、犯人のゴブリモンを追い詰める。ゴブリモンは前方を切り立った岸壁に、そして後方を俺達に挟まれ、完全に逃げ場を失っていた。
「クッソー、こうなりゃヤケだ!」
ゴブリモンは開き直って、振り向くとともに手にした棍棒の先から火球を生じさせ、こちらに向かって放り投げた。弾丸の如く飛ぶそれは、俺達より背の高い茂と日向の方へ飛んでいく。
「「危ない!」」
俺とプロットモンが同時に飛び出す。その体が眩い光に包まれ、威力が相殺された火球は霧散した。
「あ、あれ? なんだこれ……」
「ちょ、ちょっと! アンタ、ザッソーモンになってるわ!」
「そ、そういうお前こそテイルモンになってるぞ……!」
進化した俺と元プロットモンが、互いに相手の変わりようを指摘する。一難去ってまた一難、茂と日向はパートナーの様変わりを目前にして平常心を失っていた。
「アルラウモン……? なんだその姿は!」
「わ……ワンちゃんがネコちゃんになっちゃった!」
パートナーは慌てふためいているが、デジモンである俺達のするべきことは変わらない。テイルモンと共にパートナーを庇うように前に立ち、ゴブリモンを睨みつけた。
「あ……あ……」
俺達が進化したことはゴブリモンにとっても想定外だったようで、口をあんぐりと開けて青い顔をしていた。盗んだ商品と棍棒を地面に置き、額を擦り付けるように跪いた。
「ま、参りました」
「なんか、思ったよりあっさり取り戻せたね」
ゴブリモンから取り返した商品を抱えながら茂が呟く。
「ふふん、アタシたちにかかればざっとこんなもんよ!」
「ネ……ネコちゃんがワンちゃんに戻っちゃった」
プロットモンが得意げに胸を張る。先の戦闘(?)の後、テイルモンは元のプロットモンに姿が戻っていた。
一方の俺はというと――――
「アルラウモン……じゃなかった、ザッソーモン? はそのままなんだね」
「そ、そうみたい……」
そう、俺だけは進化したまま元に戻らなくなっていた。これがザッソーモンという種族の特性か、はたまた俺が特別な個体なのかはわからない。ただ一つ言えるのは……
「でも『進化』ってつまりは強くなることでしょ? ならザッソーモンは常に強いままでいられるってことじゃん! スゴイや!」
茂は目を輝かせた。あくまで記憶の中の俺に対してだが、パートナーからこうして羨望の眼差しを向けられるのは悪くない気分だ。
「ま、まあね。鍛え方が違うんだよ」
「ぷー! アタシだってもーっと強くなって見せるんだから!」
――――――――――
ザッソーモンが精一杯の虚勢を張りながらプロットモンを横目で見たところで、記憶の再生が終了した。
記憶の種を額から外したザッソーモンは、苦い顔を浮かべた。彼は記憶の中の自分も、自身のデジコアから発せられるエネルギーの違和感で気づいていたのだろうと確信した。
この進化は強くなるものなんかではない、永遠に解けない呪いを背負わされただけに過ぎないということに――――
この世界の空は、とある一地点に向かっていくにつれて暗雲が強く覆うようになる。
デジタルワールド北部に悠然とそびえる西洋風の城。悪魔の影が常に周囲を徘徊するその城にこそ、全てのテイマーが打ち倒さんとする『災厄の魔王』が存在すると考え向かう者も多く見られる。誰一人として帰ってくるものがいない事実もまた、城を異質たらしめんとする要素であった。
一体の悪魔が、穴だらけの翼をせわしなく羽ばたかせながら城の内部へと入っていく。大粒の冷や汗を流しながら玉座にたどり着き跪いたのは、魔王に杖を食い破られたスカルサタモンであった。
「ま、魔王様! ご報告が……ッ!」
顔を上げたスカルサタモンは驚愕した。目の前では、人間の子供とそのパートナーデジモンが玉座に座るデジモンに相対していた。
白く長い髭を蓄えたデジモンは、指先で持ち上げた何かの装置を恍惚の表情で眺めている。玉座の周囲には大小様々な宝石が無数に転がっているが、それらには一切目もくれなかった。
「なんじゃ、騒々しい。来客がある時の儂の呼び方は以前にも教えたはずじゃがな」
玉座に腰かけるデジモンは、装置に向ける視線を決して逸らさずに応えた。
「魔王……! ってことは、やっぱりお前が『災厄の魔王』か!」
「ほうらバレちった。せっかく今の世界には『魔王』が二人いるというのに、これではこ奴を始末するしかなくなったではないか」
「なめやがって……! 俺のデジヴァイス返せ!」
人間は奥歯をギリギリと噛みしめ、パートナーに攻撃を指示した。だがデジヴァイスを奪われ進化できないパートナーが繰り出す炎は、せいぜい魔王のローブの裾を軽く舐める程度であった。
お返しと言わんばかりに魔王が空いている方の手を一振りすると、金の装飾が施された赤い絨毯に置かれた杖が、先端の宝玉から一筋の閃光を放った。
「ガ……ガブモーンッ!」
パートナーデジモンの胸元を閃光が貫く。今際の際に言い残す言葉すら絞り出せず、ガブモンはデータの塵となって消滅した。
後悔と無力感に覆いつくされた人間にできることは、ただただ恐怖と敗北感に打ちひしがれへたれ込むのみであった。
「ほれ、デジモンが死んだのじゃからお前もさっさと帰れ、帰れ」
魔王が追い払うように手を振ると、人間の体も眩い光に包まれ、その場から姿を消した。
一連の光景を、スカルサタモンはただ茫然と見守る事しかできなかった。魔王は相も変わらず、人間が『デジヴァイス』と呼称した装置に悦の眼差しを向けている。
「美しいのう」
「はッ……!?」
魔王がため息と共に発した一言で、スカルサタモンは我に返った。
「人間とデジモンの絆とやらが生み出すこの機械の輝きは、いかなる宝石を以てしても代えられん。そうは思わんか?」
「えっ!? それ、は……」
言葉を濁すスカルサタモンに対し、魔王は不敵に口角を吊り上げた。
「こうして魔王の座に就くとな、人間との信頼関係などというものは、どんなに強く願っても手に入らない代物と化すのじゃ」
魔王が弄ぶように指先でデジヴァイスをこねくり回すと、その液晶画面から発せられる光は徐々に弱まっていく。
「じゃが儂は知っての通り『強欲の魔王』。例えそれが煌めく宝石の一欠片であっても、どんなに小さな光であっても――――」
光が完全に途絶える。魔王は装置を掌に収め、粉々になるまで握りしめた。
「手に入れねば気が済まんッ!」
「ひっ!」
しわがれた手からは想像もできない力強さに、スカルサタモンの顔から血の気が引いた。魔王の言動は、まるで任務に失敗した自分が次はこうなる番だと死刑宣告をされたとまでに思えるものだった。
「……蠅の小僧はまだこちらには来ないようじゃな」
「へっ……? は、はい。部隊を引き連れて連行を試みましたが、これが予想以上に手強く……」
震えながら作戦結果を報告するスカルサタモンだったが、対して魔王の反応は存外小さなものだった。
「じゃろうな。あ奴の飢えが満たされるにはまだ早い」
魔王は掌に残ったデジヴァイスの欠片にふうと息を吹きかけ、ゆっくりと立ち上がった。硬い靴の音を鳴らしながら、右手を翳して杖を引き寄せる。
「そこの塵を片しておけ。次は儂があ奴を呼んでやろう」
スカルサタモンの表情が驚愕の一色に染まる。
「バルバモン様自らが……!? そ、そこまでお手を煩わせることは……」
「なに、大したことはせんよ。腐肉をぶら下げてさえおけば、蠅は自ずと集るもの」
『バルバモン』と呼ばれた魔王は、金色の仮面の奥で深紅の輝きを放つ目を弧状に歪めた。
「さあ……貴様の持つ『輝き』を全て、この儂に捧げてもらうとしよう」
平原を後にしたザッソーモンは、森を抜け、荒野を渡り、砂漠を越え、孤独な旅路をひたすらに続けていた。無論、それは平坦な道のりではなかった。
ザッソーモンは、闘争本能に満ちた野生のデジモンとの闘いに身を投じなければならなかった。
パートナーの人間を失ったデジモンの力は、野生のそれよりも遥かに劣る。持ち前の生命力のおかげで命に別状こそないものの、一戦終えるたびに彼の体はボロボロになった。
彼を襲ったのは野生のデジモンだけではない。森では鋭い葉を持つ藪が、荒野では鋭利にとがった岩が、砂漠では乾燥と直射日光が彼の身体に突き刺さった。
毎日瀕死の状態で外敵に怯えながら過ごす日々が、かれこれ一週間は続いた。
「ああ……クソッ」
ザッソーモンが毒づく。それは、決してこの旅の中で出会う敵や環境に向けられているものではない。彼は森から砂漠までの旅路で手に入れた、三つの記憶の種で確認したビジョンを思い出していた。
――――――――――
三つ目の記憶は、いきなり戦闘の光景から始まった。
目の前にいるのは、外れたような顎と三日月形の目が特徴的な悪魔型のデジモン『イビルモン』が二体。ちょうど、俺とテイルモンが攻撃を繰り出そうとしているところだった。
「ザッソーモン、右のヤツはアタシがやるわ!」
テイルモンが飛び出す。俺はイビルモンの動きを止めるべく、両の触手を伸ばした。
「分かった! スクイーズバイン!」
「ネコパ……キャッ!」
テイルモンの前に触手を伸ばしてしまったため、勢い余ったテイルモンを躓かせてしまった。目論見通りイビルモンの束縛には成功したものの、それも長くは続かなかった。
「ギャハッ! コイツの力、てんで弱いぜ!」
「こっちの弱そうなヤツから狙えー!」
イビルモンはあっという間に触手を引きちぎり、俺の方に向かってきた。鋭い爪で執拗に俺の身体を引っ搔いてくる。
再び生えてくるとはいえ一時的に触手を失った俺は、身を守る手段も無くただ体を縮こませる事しかできなかった。
「ザッソーモン!」
「ギシャシャシャ! ほれどうしたどうした!」
「ヒャハハッ! このままデリートしちまおうゼ!」
背後から届く茂の呼びかけも、イビルモンが発する叫び声にかき消されてしまう。
「テイルモン! 起き上がって!」
「言われなくても……!」
日向もパートナーに声掛けし、起き上がったテイルモンが戦線に復帰する。
「キャッツアイッ!」
テイルモンの目からドーナツ状の衝撃波が放たれる。テイルモンが有する聖なる力を纏ったそれは、イビルモンの体表(テクスチャ)を焼き焦がした。
「ギャアアアッ!」
「チッ、聖輪(ホーリーリング)か!?」
体内の核(デジコア)まで損傷が及んだ手前のイビルモンが、悲鳴を上げながら消滅する。残った個体は攻撃の手を止め、逃げるようにその場から飛び去った。
息を切らして倒れこむ俺の元に、仲間達が慌てた様子で名前を呼びながら駆け寄る。俺の意識は一旦途切れたようで、記憶の種が再生する映像もそこで終了した。
――――――――――
浜辺の岩に腰を下ろし、ザッソーモンが今日何度目かも分からないため息を吐いた。スポーツ選手が前の試合を振り返って改善点を見出すように、記憶の種の戦闘風景を思い出しながら一人反省に耽っていた。
「テイルモンが走り出したんだから近接技に決まってんだろ、なんでよりにもよって動きを阻害するようなことしてやがるんだ……? っつーか二体同時に足止めしようとか考えてんじゃねえよ、お前のパワーじゃそんなこと不可能だって気づけよバカ野郎……!」
独り言は、寄せては返す波の音に虚しくかき消される。わざわざ彼が今更振り返らなくとも、四つ目の記憶の種が見せた映像で、進化以降の戦闘内容について既にテイルモンから何度も叱られていた。
自分の攻撃の邪魔になる、敵にまともなダメージを与えられない、無駄に体力が多いせいで回復アイテムが足りなくなる、そのくせしっかり戦闘には参加しているから分け前は半分になる、エトセトラエトセトラ……。
無限にも感じられる愚痴と叱咤の嵐が吹き荒れる。記憶の中のザッソーモンは、特に言い返すでもなく申し訳なさそうに目を伏せながらひたすら小声で謝っていた。テイルモンの鬼気迫る迫力に、茂と日向も口出しできずに見守る他なかった。
記憶を取り込んだせいか、彼の頭の中では今でもテイルモンの怒鳴り声が反響しているように思えた。しつこい罵倒を振り払うように、ザッソーモンは手近な平たい貝殻をフリスビーのように投げ飛ばした。
「うるせぇぇぇ!」
しかし、鬱憤を晴らすように投げられたそれは、近くのヤシの木が跳ね返しザッソーモンの頭の葉っぱを切り飛ばした。
「……」
感情を表に出す気力すら無くなったのか、ザッソーモンはその場に倒れこみ沈黙した。手触りの良い砂地に体を埋めて眠りに就こうとしたその時、砂の感触が砂漠で見つけた五つ目の記憶の種の存在を想起させた。今日一日におけるザッソーモンの不機嫌の最も大きな要因は、まさにその記憶の種の内容だったのだ。
眠ろうにも眠れないザッソーモンは、星に手を伸ばすように触手を夜空へと向けた。星はおろか月すらも厚い雲に覆われた空は、彼の今後の旅路も同様に深い靄に包まれていることを示しているようだった。
――――――――――
「ねえねえ、そこのキミ」
聴き慣れたパートナーの声で、記憶の中の俺は目を覚ました。それが自分以外の誰かに向けられたものであることは、声の発信地が自分のいる場所からかなり遠ざかっていることから分かった。
「茂……? どこにいるの?」
寝起き特有の浮遊感の中、重たい瞼を擦ろうとして気づいた。
俺の触手が、背後で何かに縛られている。急いで振り返ってみると、大木の幹に俺の触手が巻き付けられていた。先程まで感じていた浮遊感も、寝起きだからではなく本当に高いところで結び付けられていたからであった。
「茂……! 助けて、触手が樹に結び付けられてるんだ!」
必死になってパートナーに訴えかけるが、奴はこちらを見向きもしない。
どうやら茂は、野生のパタモンに声をかけているように見えた。その様子を見て、記憶の中の俺が、昨夜寝付くときにふと聞こえた会話を思い出した。
(プロットモン、本当にやるのか?)
(アタシだって、本当ならこんなこと言いたくなかったわ。でもこの調子で足を引っ張られ続けたら、いつまで経っても魔王に挑めないでしょ?)
(ひ、日向はどう思う?)
(……私もプロットモンに賛成かな。元々私達って、魔王を倒すためにこの世界に来たでしょ? だったらもっと強くなるデジモンをパートナーにした方が、絶対目的に近づけると思うの)
(それは、そうかもだけど……)
(シゲルだって、いつまでもアタシ達に尻ぬぐいされるのはイヤでしょ? アイツがザッソーモンに進化してから、何だか元気なくなっちゃったみたいに見えるわよ)
(これは、茂君のためにも提案してるんだよ? 私、魔王を倒すなら茂君と一緒がいいの。茂君とは、お互いに背中を預けられる仲間になりたいの……!)
(……分かったよ、日向、プロットモン)
背筋に悪寒が走り、嫌な汗が噴き出していた。
微睡の中で聞こえた幻聴だと思っていた。仮に本当に話していたとして、茂がそんなことをするはずは絶対に無いと思っていた。
「魔王をやっつけるの……? ボクにできるかなぁ?」
「できるよ! 君は強力な光のデジモンに進化するソシツ……みたいなものがあるんだって! ね、プロットモン?」
傍らのプロットモンが自信満々に頷いた。同じ光の属性を持つパタモンに声をかけたのも、おそらく奴のアイデアだろう。
……これが現実だ。俺は無様に樹に縛られ、相棒だと思っていた人間はあっさり他のデジモンに鞍替えした。
これまでの記憶で何となく想像はついていたが、改めて目の当たりにするとなかなか応えるものがある。
「茂……? 待ってよ茂! ボク、これからも茂と一緒にいたいよ! 茂と一緒に、魔王をやっつけるんだ!」
やめとけやめとけ。もう今のアイツに何を言っても聴きゃしねぇよ。……まあ、そんな俺の傍観者視点のアドバイスこそ、記憶の中の俺には届かないんだがな。
「? どうしたのニンゲン、顔色が悪いよ?」
「え、ああ、何でもないよ。それから、俺の名前は茂だよ。これからはちゃんと名前で呼んでね」
おーおー、茂の奴、露骨にこっちから目を逸らそうとしてやがる。毎日聴いてきた元パートナーの声なんて、嫌でも耳に入るだろうに。
「茂! ボクの何がいけなかったの!? ボク、茂の為に一生懸命闘ったんだよ!?」
そんで記憶の中の俺もしつこいもんだ。
『何がいけないか』だって? それを理解してないからテメエは捨てられたんだよ。
「んあ……朝からうるさいのう。ワシの眠りを妨げるのは誰じゃ」
背後からしわがれた声が聞こえる。どうやら俺が結び付けられていた樹というのは、樹木にそっくりな『ジュレイモン』のことだったらしい。
「なんじゃ、このデジモンは。ううむ、固結びしおって。マッシュモン達にほどいてもらうとするか」
ジュレイモンは全身から霧を放ち、森の奥の方へ向かって悠々と歩きだした。
縄張りを天敵に悟られないようにするための工夫なのだろうが、記憶の中の俺にとっては茂の姿が一瞬で見えなくなる悲劇的な別れの演出以上の意味を成さなかった。
「うわあああ! 茂ッ! 助けて、茂ーーーッ!」
甲高く喚き散らす愚かな俺の叫び声は、霧がどこまでも残酷に包み込む。見かねたジュレイモンの頭部から、赤い木の実が一つ落ちてきた。そしてそれは、俺の眼前で眩い閃光と爆風に変わり――――
――――――――――
無意識のうちに伸ばし続けていた触手が、重力に耐え切れずザッソーモンの顔面に落ちてきた。星に手を伸ばしても届かないように、失った絆もまた、どんなに伸びる彼の触手でも掴むことはできなかった。
これまでの辛く苦しい旅路と、記憶の種で取り戻した思い出を天秤にかけ、ザッソーモンは自身の中で一つの結論に至った。
「何の意味もねぇじゃねえか、こんな旅……」
城の内部は厳戒態勢をとっていた。
玉座にはバルバモンが笑みを浮かべて腰かけ、その周りを手下たる無数の悪魔型・堕天使型・魔獣型デジモンが囲っている。城門は固く閉ざされ、城内へ繋がる跳ね橋も揚げられた。
城全体に漂う緊張感は、いつにも増して何人たりとも近づけさせない雰囲気を醸していた。
玉座の間に繋がる扉が、爆音と共に吹き飛ばされた。煙の中から一台の黒いマシンが飛び出し、バルバモンの前で横向きに急停車する。
「来たか、蠅の小僧」
バルバモンは玉座から立ち上がり、口角をさらに吊り上げた。ベルゼブモンはベヒーモスに跨ったまま、脚に備え付けられたホルスターからショットガンを抜き出し、それをバルバモンに向けた。
「どういうつもりだ、バルバモン」
「どう、とは?」
バルバモンは笑みを絶やさず、徐に階段を下り始める。
ベルゼブモンが向けたショットガンの引き金を引いた。二つの口径から放たれた弾丸は、バルバモンの眼前に突如現れた紫色の魔方陣に弾かれた。跳弾は周囲の悪魔デジモンの一体に当たり、鈍い呻き声と共にそれを絶命させた。
「惚けるな。俺の前に友里の幻影を出し、俺の頭の中に友里の声を反響させ続けたのは貴様だろう」
「ほう、そんなことが……。その幻影は何と言っていたのじゃ?」
(お願いインプモン、私たちのデジヴァイスを取り返して……! もう一度、アナタに会いたいの……!)
ベルゼブモンは、先ほどまで頭の中に聞こえていたかつてのパートナーの声を思い出した。しかしバルバモンの問いには答えず、無言で引き金を引き続ける。
「大方お前はその声に導かれてここまで来たのじゃろう。推測通り、お前に幻覚を見せ幻聴を聴かせ、ここまで連れてきたのは儂じゃ。そろそろ頃合いかと思ってのう」
問答の間にも、銃弾と魔方陣が幾度もぶつかり合い無差別に周囲へ放たれる。自分たちの周りで悪魔達の阿鼻叫喚が繰り広げられていることなど、二体の魔王は気にも留めなかった。
「本当に、貴様が友里のデジヴァイスを持っているのか」
「もちろんだとも、ほうれ」
バルバモンが袖に手を入れ、中から桃色の小型電子機器を取り出す。かつてパートナーが持っていたデジヴァイスを目の当たりにしたことで、ベルゼブモンの銃撃が止まった。三つのボタンと液晶画面がついたそれは、魔王の手の中から溢れるほどの光を放っていた。
「刮目せよ! この留まることの知らぬ輝きを! あの時お前を葬り去った後、確かにパートナーの小娘はこの世界から姿を消した。しかし、お前の意思は死してなお現世に残り続けたのじゃ」
ベルゼブモンが口元を強く噛みしめる。バルバモンは続けた。
「『もっと強くなりたい』、『誰よりも強くなって、二度と大切なものを奪われないようになる』……と、強さを欲する飢えにもがき続けておった。その強い感情に魔王の素質を見出した儂が、お前を死の淵から引き上げてやったという訳じゃ」
「貴様が、俺を……」
「あとは知っての通りじゃ。お前は強くなることを『飢え』と称し、この世界で放浪を続けた。お前が『災厄の魔王』と呼ばれ、テイマー共に追われてくれたおかげで、儂の負担もずいぶんと軽くなったもんじゃわい」
嘲るバルバモンに向かって、ベルゼブモンが跳びかかる。銃撃は効かないと判断したのか、ショットガンをホルスターにしまい両手の鉤爪を交差させるように振りぬいた。だがそれすらも、バルバモンの杖から生み出された魔方陣が容易く止めてみせた。
「ほほう、怒るか。儂はお前を生き返らせてやった、いわば『闇よりの救い手』なのじゃぞ。その命の恩人に牙を剥くとは……嘆かわしい」
ため息と共に紡がれた言葉とは裏腹に、バルバモンの不敵な笑みは消えていなかった。
「黙れ。手駒として使い走らされたことに微塵の恩も感じてたまるものか」
ベルゼブモンが静かな語気と振るう爪の中に、秘めた怒りを乗せる。
防戦一方かと思われたバルバモンだが、相対する魔王の攻撃が怒りで大振りになったことを見逃さなかった。僅かに隙の大きい一撃を杖で直接受け止め、掴まれた杖ごと放ってベルゼブモンとの距離を離す。
「得物を失ったな。これで終わりだ」
奪った杖を投げ捨て、ベルゼブモンが再びショットガンを構える。両の脚からそれぞれ取り出されたそれは、『ベレンヘーナ』と名付けられた至高の業物。本来二丁同時での使用を想定された銃を、彼は今ここで初めて同時に引き抜いた。
「得物を手にしたな。これで終わりじゃ」
バルバモンが遺した、自身の言葉を真似るような発言。それに一瞬の違和感を覚えつつも、ベルゼブモンは引き金を力強く引いた。
「……ッ!?」
引き金を引いた、はずだった。
撃ち抜かれていたのは眼前のバルバモンではなく、自身の脇腹。雷を纏った矢が深々と突き刺さっていた。
振り向いた先にいたのは、単眼の悪魔のような究極体『デスモン』。その両手に埋まった目からは矢を放った痕跡として、電撃が迸っているのが見てとれた。先の弾丸が当たっていたのか、荒い息を吐くその個体は間もなくベルゼブモンによって撃ち抜かれた。
「敵の本拠地に殴り込むとはこういう事じゃ」
耳元で囁くような声が聞こえ、振り向いた時には遅かった。
バルバモンの杖が至近距離まで迫り、ベルゼブモンの身体を巨大な魔方陣で包んだ。体内にデータとして収納されていた二つのデジヴァイスが、物質となって彼の身体から切り取られていく。杖を振り払おうとした手は、握りしめたショットガンごと固定され身動きが取れなかった。
「貴様ッ! デジヴァイスを……!」
「儂のデータを分け与えて蘇らせた甲斐があったわい。テイマー共からしっかりと戦利品を集めてくれたようじゃな、感心感心」
ベルゼブモンが屈辱に顔を歪ませる。
「儂とお前の違いを教えてやろう。それは、最も大切なものを最後まで手放さずにいられるか、という事じゃ。真の『強欲』とは、最後の最後に全てを手にする者のことぞ」
バルバモンが指を鳴らし、ベルゼブモンを拘束していた魔方陣が解除された。ベルゼブモンは、急激に体の力を失ったように膝から崩れ落ちた。
「返、せ……」
震える腕でショットガンを構えるが、最早引き金を引く力すら残されていない。
バルバモンは歯をむき出した笑みを一層強め、杖の先からこれまでとは比較にならないほどの大きさの魔方陣を作り出した。
「もっと強くなりたいのじゃろう? せっかく与えてやった命を奪いはせんから安心せい」
バルバモンが呪文を唱え始めた。魔方陣に込められたエネルギーが膨れ上がり、今にも解き放たれそうな勢いで黒色の稲妻を纏う。
「もう一度、出直して来い。『パンデモニウムロスト』」
あまりにも膨大な爆発が城全体、ひいてはその外部数キロメートルの空気をも揺るがした。轟音は数分間もの間鳴り続けた。無論、それが鳴り止む頃にはベルゼブモンの姿は城内にはなかった。
玉座の間が再び静まり返る。空間内の器物で破損していたのは、ベヒーモスによって強引に破壊された扉と踏み荒らされた絨毯のみ。跳弾は全て配下のデジモンが意図せずその身を挺し、壁や天井に飾られた数百の宝石には傷一つ付かなかった。
城の警備を担当していたデジモン達が、主の無事を確かめるべく玉座の間に集まって来る。
「流石に魔王同士の戦闘で無傷という訳にはいかんのう」
バルバモンはそう零しつつ、満足げな表情で『戦利品』を眺め始めた。デジヴァイスが発する光は大小あれど、そのいずれもバルバモンにとっては価値あるものだった。
普段と変わらない主の様子を確認した配下達は、バルバモンの発した『無傷』の意味を察すると、すぐに扉と絨毯の修繕に取り掛かった。
――――――――――
鉛色の空と鈍色の大地が地平線まで覆いつくす空間に、緊張が走る。
二人の人間とそのパートナーが、大型の人型デジモンと対峙していた。二体のパートナーは、向き合うデジモンが発する強大な闇のオーラに対抗するように、全身から発する光のエネルギーを一層強めた。
重苦しい雰囲気の中、萌黄色のデジヴァイスを握りしめた少年が口を開く。
「アイツが、『災厄の魔王』……」
「ああ。この距離からでも感じる闇の力、大罪の波動……間違いない」
少年の前に立つ、六枚の翼を持った天使が応じた。
「このデジモンを倒せば、世界は救われるのね?」
「ええ。これが正真正銘、最後の戦いよ……!」
少年の横に立つ少女も象牙色のデジヴァイスを構え、その足元の真っ白な体毛を持つネコ型の聖獣がそれに答えた。
「貴様等は……俺の飢えを満たしてくれるのか」
『災厄の魔王』と呼ばれたデジモンが発した言葉は、彼らに問いかけているようにも自身に期待を抱かせているようにも見えた。
いずれにせよそれは、戦闘の予感が生み出すアドレナリンに支配された彼らの耳には届かない。戦いの火蓋は、今にも切って落とされようとしていた。
「行くぞ、エンジェモン!」
「ああ、茂!」
「テイルモン、絶対勝つよ!」
「もちろんよ、日向!」
二組のパートナーが互いを鼓舞する、それが戦闘開始のゴングとなった。
エンジェモンは翼で飛翔し空中から、テイルモンは四つ足を活かして地上から接近を試みる。一切の戦闘行動をとろうともしない魔王に対し、二体のデジモンはそれぞれ己が拳に黄金の光を纏わせる。
「ヘブンズナックルッ!」
「ネコパンチ!」
牽制などは一切考慮に入れない、全身全霊を込めた一発。初撃から放たれるそれは、最終決戦という言葉と空気が彼らの冷静な判断力を奪っていることの表れでもあった。
人間は突然不思議な世界に連れてこられ、デジモンは異世界から訪れた未知の生物と運命を共にする。
ファンタジーとして一見魅力的に思えるそれらの要素も、旅を続ける中で徐々に膨らんでくる『元の日常へ戻りたい』という想いが募るごとに、現状を突き付けるストレス要因として彼らの中でくすぶり続けていたのだ。
『この一撃で、全てを終わらせる』
二体が放った拳には、良くも悪くもそのような熱意が込められていた。
「「いっけえええぇぇぇ!」」
二人の声援にも熱がこもる。
拳が衝突した勢いで周囲の大地が抉れ、土煙が巻き上がった。
「え……!?」
「そんな……嘘でしょ!」
煙が晴れた先の光景を見て、二人の目が見開かれた。
魔王の左右から挟み込むように放たれた拳は、いつの間にその場から消えた魔王の代わりにお互いをぶつけ合っていた。一拍遅れて手応えの正体に気づいた二体のデジモンも、互いに顔を見合わせ絶句する。
「その程度の攻撃……」
背後から声が聞こえ、二人の背筋に悪寒が走る。慌てて振り返る頃にはその体躯は遥か上空、魔王は既に地を蹴って宙を舞っていた。
「受けきるのは容易い、だが……」
今度は二体の背後に着地した魔王が、交差させた両手の人差し指と中指を立てる。
「その光は目障りだ」
魔王が腕を振りぬく、そのたったワンアクションのみで、二体が起こしたものより遥かに大きな爆風が巻き起こった。崩壊した大地が二体のデジモンを押し上げ、小高い丘のような形を形成した。天使と聖獣はどちらも衝撃で気絶し、無防備な姿を魔王の眼前に晒した。
「食事の光景は見せないでおいてやる」
肩を震わせる二人が見つめる丘の上から、想像に耐えがたい異音が聞こえてきた。
関節を逆方向に折る音、爪と牙が乱暴に肉を引き裂く音、骨が噛み砕かれる音、そして行儀の悪い咀嚼音――――
不意に二人の前に、丘の上からあるものが投げ捨てられた。それは、聖獣が尾に着けていた聖輪(ホーリーリング)だった。闇を打ち払う聖なる光のエネルギーが込められた神具を、魔王はまるで果物の種でも吐き出すかのように捨てたのである。そしてそれは、自分たちのパートナーが魔王の血肉と化したことを何よりも裏付けるものであった。
「いっ、嫌ぁ……テイルモン……!」
力なくパートナーの名を口にした少女の姿が、徐々に薄れていく。
パートナーが完全に絶命し、対応する人間がこの世界にいる意味を成さなくなったことに気づいた少年は、ガチガチと歯を鳴らしながら姿の見えない魔王に向かって訴えかけた。
「やめろ……もう、やめろぉ……!」
縋るような声をようやく振り絞る間にも、魔王は食事を進めていく。遂には少女の姿は完全に見えなくなり、跡には彼女が握りしめていたデジヴァイスだけが乾いた落下音を残した。
静まり返った空間に、魔王の晩餐だけが虚しく響き渡る。ただ一人残された少年の頭の中は、後悔と絶望に満たされた。
旅の中で親密になった仲間を失い、新たにパートナーとなった強力なデジモンを失い、長い戦いが終わるという希望を失い、元の世界に帰る保証を失った。
自分たちは、この世界に送られた他の人間達とは違うと思っていた。鮮やかに魔王を倒し、この世界に光をもたらすことが出来ると信じていた。勇者となってデジモン達に見送られ、傍らの少女とこれから過ごすであろう青春の日々に思いを馳せていた。
だが現実は、そんな無力な自分の幻想を薄い硝子のように易々と打ち砕いていった。無残に食い散らかされ一枚、また一枚と錐揉みしながら落ちてくる天使の羽が視界に映る。
ああ、いっそこの真っ白な羽が自分を天国に運んでいってくれればいいのに。考えることに脳のリソースを割けなくなった少年は朧げにそんな空想を抱き、間もなく仰向けに崩れ落ちた。
力の抜けた手から離れたデジヴァイスが、少女のデジヴァイスのすぐそばまで転がっていく。魔王の影がそこに近づき、デジヴァイスに向けて鉤爪のついた手が伸ばされた。
――――――――――
「……ッ!」
全身から冷や汗を流しながら、ベルゼブモンは目覚めた。バルバモンとの戦いに敗れた彼は、最後に放たれた大技によって城から遥か離れた荒野まで吹き飛ばされていた。
自分が気を失っている間に、一体何度太陽と月が交互に空を駆け巡ったのだろう。考えても仕方のないことだと踏ん切りをつけるには、まだ若干の時間を要した。
「……」
彼は目覚める直前に見ていた夢を思い出した。そこに映っていたのは、魔王としての肉体を手に入れたばかりのかつての自分。二人の人間に戦いを挑まれ、飢えを凌ぐために彼らのパートナーを喰らっていた。
片方は姿をくらまし、片方は意識を失った人間達が落としたデジヴァイスを、彼は『戦利品』として回収していた。その時はかつてのパートナーとの思い出に感化されたのだろうと思っていた。
だが実際は、自身を魔王として蘇らせたバルバモンによって既に『強欲』という大罪の一部を担わされていたのだろう。自分の中に燃える復讐心すらもバルバモンの思惑通りだったことを悟り、ベルゼブモンは放心した。
一体、自分がこれまでしてきたことに何の意味があったのだろう。友里のパートナーとなってデジタルワールドを旅し、中途半端に力をつけ、無残に敗北した結果がこれだ。
魔王となって究極の強さこそ手に入れたが、結局はさらに格上の魔王の操り人形となって罪を背負わされただけではないか。
自責の念に囚われたベルゼブモンだが、『友里のデジヴァイスを取り返す』という当初の目的までもが強欲の大罪によるものではないと、そう信じていた。内に燃える復讐心は今なお篝火となって、彼の進むべき道を照らしていたのだ。
「傷は治っていないか」
デスモンによって撃ち抜かれた脇腹は、未だ自然治癒が完了していなかった。命に関わる損傷ではないものの、武装に関するデータが欠損した影響でショットガンやマシンを召喚することが出来ない。
本当ならば今すぐにでもバルバモンにリベンジを挑みたかったが、それがどのような結果をもたらすことになるのかを今の彼は理解していた。
冷静さを取り戻し自分が置かれた状況を顧みたことで、不意に強烈な空腹感に襲われた。元々『暴食』の大罪を司る魔王であり、その上現在の負傷状況である。飢えを満たせ、失ったデータを取り戻せと、全身から悲鳴が上がってくるような感覚に見舞われた。
「見つけたぜ、災厄の魔王」
その言葉だけが幻聴ではなく明瞭な言語として自分の耳に届き、ベルゼブモンは振り返った。そこにいたのは一体のザッソーモン。手元には、球根型の記憶媒体を握りしめていた。
「俺を捨てた奴のことなんざもうどうでもいいが、デジヴァイスとかいう絆の結晶だけは俺の手で壊さねえと気が済まねえ。仲間の分もついでに返してもらうぜ」
「……何の話だ」
「居たんだよ、そして見ていたんだよ。あの時お前らが戦っていた光景を、俺も!」
「何の話だと聞いている」
ベルゼブモンの問いには答えず、ザッソーモンは手元の記憶媒体を突き出した。
「六つ目の記憶の種が教えてくれたんだ! 俺の名はザッソーモン、お前が倒した人間の元パートナーだ! 腐れ切った関係性を、今ここで断ち切らせてもらうぜ!」
「がふッ!」
地に伏したザッソーモンが気を失い、ベルゼブモンは最後の記憶の種にかぶりついた。
ザッソーモンはベルゼブモンに戦いを挑み、自身がこれまで手に入れた記憶の種をアンティとした。
ベルゼブモンに指示したアンティは茂と日向のデジヴァイス。それらはバルバモンに奪われていたことをベルゼブモンは話していなかったが、彼は勝負に応じた。
(パートナーを失った成熟期のデジモン如きに、俺が負けるはずがない)
慢心などではない、明確な実力差を以てしての結論だった。装備を失い手負いの状態とはいえ、素手での攻撃もザッソーモンにダメージを与えるには十分である。
だがいつまで経っても消滅しない対戦相手にしびれを切らした彼は、ザッソーモンが気を失った時点で『勝利』と判断して記憶の種を一つ喰らい、ザッソーモンが起き上がるとすぐさま攻撃を再開しまた気絶させた。律儀に一つずつ喰らっていったのは、自身の中に未だ渦巻く『強欲』の大罪の一部に抗う意味もあったのだろう。初めは一度気絶させるのにも三十分ほどの時間を要したが、喰らったデータで自身の機能を補修させていく度に、その時間は加速度的に早まっていった。
最後の種を喰らったことで、ベルゼブモンは装備の召喚が再び可能になったことを認識した。城へ戻ろうと踵を返した、その時である。
「待て……!」
全身に爪で引き裂かれた跡が残るザッソーモンが、ベルゼブモンの前に躍り出た。その触手には、喰らいつくしたはずの記憶の種が握りしめられていた。
「なんでお前の前に立ちはだかったのか、よくわかんねえ! お前に勝って何をしたいのかもよく覚えてねえ!」
息も絶え絶えに、ザッソーモンが叫ぶ。
「……だけど俺に賭けられるものが残ってるから、俺はお前に挑まなきゃならない気がした! これが最後の勝負だ、俺と戦え!」
くだらない、と一蹴することはできなかった。
ベルゼブモンの頭の中には、散々喰らってなお『飢えを満たせ』と嘆きかけてくる声が続いていたからだ。そして、今自分の目の前でパートナーのデジヴァイスを取り戻そうと足掻いているデジモンの姿が、自分自身と重なったからだった。
「……来い!」
人間世界には『食育』という言葉がある。食に関する正しい知識と理解を深め、食べることの重要性を確認する教育方針である。そして食べることが自身を形作ることに繋がるのは、人間もデジモンも同様である。
ベルゼブモンはバルバモンに敗北してから、頭の片隅で考え続けていた。奴と俺が大罪を担う魔王であることに変わりないのであれば、俺と奴の差は何なのか。喰らっても喰らっても飢えが満たされないのは、本当に暴食の大罪を背負っていることだけが原因なのか、と。
「……そういうことか」
ザッソーモンの記憶を完食したことで、ベルゼブモンは全てを理解した。
インプモンの残留思念から復活・進化させられた自分は、魔王としての地位こそ持ちながら決定的に不足していたものがあった。
それは『経験』であった。
暴食の魔王は、未だ未完成の器であった。
テイルモンとエンジェモンを喰らって得たデータの『ルーツ』を、彼は記憶の種から吸収していたのだ。食物のルーツを知り、その経験全てを糧としたベルゼブモンは、もう以前の彼ではなかった。
「俺はまだ強くなれる」
復讐心に燃えていた深紅の瞳は、最後まで自分に抗い続けた好敵手の体色と同じ深碧に染まった。
背中からは天使のそれと反するような漆黒の翼がはためく。
右腕には、獣の顎に似た形状の銃口を持つ大砲が一体化し、邪悪なるものだけでなくあらゆるものを消滅させることが可能となっていた。
これまで食い荒らしてきた全てを背負うことを心に決め、彼は『災厄の魔王』が待つ城へと一直線に飛び立った。
城内はいつにも増して緊張感に包まれていた。
玉座の間で、バルバモンの御前に一体の成長期デジモンが跪いている。バルバモンは普段の怪しげな笑みを湛えてはおらず、口元からはギリギリと歯ぎしりの音が聞こえてくる。
「答えよドラクモン。儂の宝石の輝きを奪ったな?」
「は……はい……」
震えながら答えるドラクモンの手には、ピンク色の油性ペンが握られていた。ドラクモンは城内に飾られていたダイヤモンドの一つをペンで塗りつぶし、ピンクダイヤモンドにして差し上げたと皆に嘯いていたのだ。
「その罪、貴様の命を以て償え!」
激昂し立ち上がったバルバモンが掌を向けると、そこから射出された漆黒のエネルギー球体が一瞬のうちにドラクモンを貫いた。
怒りのあまり戦慄くバルバモンに共鳴するように、城内の配下が一斉に戦慄する。
「何をしておる!? 我が宝石につけられた下衆な染みをさっさと消し去れ! そこの汚らしい亡骸も片付けてしまえ!」
バルバモンが言い終わらぬうちに、配下が慌ただしく動き始めた。
バルバモンは玉座に座り直し、食いしばった歯の隙間から息を漏らした。気を取り直すように袖の中から『戦利品』を取り出すと、先ほどまでの怒りに上塗りするように恍惚の表情を作り上げた。
「蠅の小僧、次はどれだけのデジヴァイスを持ってくるかのう……?」
突如、城全体に地響きが走った。城内は騒然とし、皆蜘蛛の子を散らすように地響きの原因を探り始めた。城の外を観測していた配下のデジモンが一体、バルバモンの元に飛来した。
「たっ、大変です! 城の上空に奴が、ベルゼブモンの姿が――――」
配下のデジモンの言葉は、城が崩壊し瓦礫と化していく音にかき消された。バルバモンの頭上からも無数の瓦礫と、城を崩壊させた原因である膨大な闇のエネルギーが土石流のように降り注いだ。
「むうッ!」
バルバモンは咄嗟の判断で、上空に魔方陣を展開し自分の身体を覆った。雨のように弾かれた瓦礫と闇の波動が四散し、周囲を埋め尽くしていく。
やがて城は完全に崩壊し、周辺一帯は瓦礫と城のデジモン達の亡骸、そして輝きを失った宝石の欠片が山のように積もった。
瓦礫を消し飛ばし、全身を魔方陣で包んだバルバモンが鬼のような形相で浮き上がってくる。翼を携えたベルゼブモンも上空から降り立ち、瓦礫の上で二人の魔王が相対した。
「小僧……どういうつもりじゃ」
「言われた通り出直してきた」
「ほざけ! 儂の宝石を一つ残らず汚したその罪、例え二度や三度転生を繰り返したところで決して贖いきれるものではないぞ……!」
顔面に青筋を走らせ、バルバモンが杖を構える。歯ぎしりし目元をひくつかせるその表情に、以前までの余裕は微塵も感じられない。
「よく口が回るようになったな」
「ほざけと言っておるッ!」
自身の周囲に展開させていた魔方陣を全てベルゼブモンに向け、それらから高弾速の火炎弾を発射する。機関銃のように放たれるそれは、一発でも掠れば爛れた火傷跡が全身に広がり命を奪う呪われし鬼火。だがベルゼブモンはそれを、右腕の陽電子砲から発射する紫炎の弾丸で一つ残らず撃ち落とした。
大仰な武装からは想像もできない速射性にバルバモンは一瞬唖然としたが、すぐに我を取り戻しとある呪文を唱え始めた。それは、以前ベルゼブモンを遥か彼方まで吹き飛ばしたバルバモンの最終奥義が繰り出される合図。
眼前に展開された五つの魔方陣にエネルギーが集中し、黒色の稲妻を纏う。
「まさか、あの一発が儂の全力だったとは思っておるまい? 小僧、お前が賢者ならば慄き、愚者ならば後悔せよ。儂の最大魔力を以て、お前を完膚なきまでに消し去ってくれるわ!」
前回とは比較にならない力の集まりように、ベルゼブモンも自らの全魔力を陽電子砲に集中させた。砲の先端に集まる紫色の光で、五芒星を上下反対に描き魔方陣を形成する。
「恐れも悔いもしない。今の俺は挑戦者だ」
両者の熱量の高まりが最大限に達した。
「『パンデモニウムロスト』」
「『カオスフレア』」
ほぼ同時に必殺技が放たれた。
片や敵対者を喰らわんと無限に膨張を続ける極大爆発。
片や城を崩壊せしめた濁流の如き暗黒波動。
相殺を続けながら互いを喰い合う勢いで浸蝕する二つのエネルギーは、行き場を無くし大気や大地にまで広がっていく。やがて二人の魔王の周囲には、何人たりとも立ち入ることの叶わない巨大な力場が形成された。
「……!」
両者がエネルギーを出し切らんとするその時、異変が起きた。ベルゼブモンの陽電子砲が、ぶつかり合う攻撃の威力に耐え切れず自己崩壊したのだ。
一方、バルバモンも展開していた全ての魔方陣を破壊こそされたものの、手にした杖にはヒビ一つ入っていなかった。
勝利を確信したバルバモンが、高笑いを上げた。
「小僧ォ! お前の挑戦とやらもここまでじゃな! 慄き、悔い、そして死んでゆけ!」
バルバモンが杖の先から紫電を放ち、愚かな挑戦者にとどめを刺しにかかる。だがベルゼブモンはそれを防ぐことも躱すこともせず、雷鳴の中を羽ばたき突っ込んでいった。
紫電が翼を焼き、ショットガンを叩き落してもなお、ベルゼブモンの勢いは止まらない。
「なッ、何故!? 小僧のどこにそこまでの余力が!?」
「言ったはずだ、俺は恐れも悔いもしないと」
ベルゼブモンが握りしめた拳に光が宿り、獅子の形となって発現した。
それは、ベルゼブモンが喰らったデータのルーツ。忌み嫌っていた光と聖なる力が一つになり、糧となって魔王に新たな技を授けた。
「……『獣王拳』!」
眩く輝く獅子の牙が、バルバモンの身体に風穴を開けた。奪われていたデジヴァイスのデータをも獅子が喰らい尽くし、元の装置の形状を取り戻して持ち主の下へと返ってきた。
「おお……!」
全身が先端から塵となって消滅し始めているにも係わらず、バルバモンは歓喜の声を上げた。ベルゼブモンの手に渡った桃色のデジヴァイスが、これまでで最も力強い輝きを放っていたのだ。
「なんと美しい……! やはりデジヴァイスとは至極の宝、その輝きを、今こそ我が手に――――」
最後まで言葉を発することなく、バルバモンの身体は完全に消滅した。残った黄金の仮面にも無数のヒビが入り、やがて粉々に砕け散った。
ベルゼブモンは、強欲の権化としての矜持を最期の瞬間まで失わなかったバルバモンの散り様を、深碧の瞳で見届けた。
「……今の俺に『強欲』の欠片はない。最も大切なものは手に入れた、今は満たされている」
傷ついた翼を奮い立たせ、ベルゼブモンは崩れた城の跡を飛び去った。
暗雲の切れ間から陽光が差し込み、散りばめられた宝石の欠片に反射して七色に輝いていた。
デジタルワールドのとある地域に存在する集落『はじまりの町』。そこに住むデジモンたちをまとめる長老たる『ジジモン』が、自宅のベッドから起き上がった人間の子供に声をかけた。
「ここは……?」
朦朧とした意識で少年が問いかける。
「ここははじまりの町じゃ。お前さん、かつてデジモンのパートナーと共にここから冒険の旅へ出たのではなかったか?」
あごにたっぷりと蓄えた髭を撫でながら、ジジモンが答えた。ベッドの縁に座った少年は、血の気の引いたような表情で頭を抱えた。
「そうだ、俺はあの時『災厄の魔王』に負けた……! そしてエンジェモンを、日向を……!」
「そう、お主は戦いに敗れ、ここに戻ってきた。しかし日向君は現実世界へと戻されたのに、お主はまだここにいる。なぜじゃろうな?」
全てを見透かすような調子で問うたジジモンに見据えられ、少年は顔に影を落とした。
「……今更俺にどうしろって言うんだ。俺はアイツを捨てたんだ、もうパートナー関係には戻れない」
ジジモンは黙って少年を見据え続ける。
「そもそも俺とアイツだけじゃ、到底魔王を倒すことなんてできやしないんだ。わかったら早く俺を元の世界に――――」
「たわけ!」
これまで見ることのなかったジジモンの気迫に圧倒され、少年は口をつぐんだ。ジジモンは懐から球根型の記憶媒体を取り出し、少年の手に握らせた。
「それを部屋のパソコンに差し込めば、保存されている映像を見ることが出来る。それを観た上でお主が賢者ならば悔い、愚者ならば諦めよ」
少年に言い残し、ジジモンは部屋を出て行った。一人残された少年はジジモンの言葉に従い、早速映像を再生させた。
――――――――――
「茂……しっかりして、茂!」
映像は、とあるデジモンの視点で始まった。そのデジモンは、自身が持つ緑色の触手を、目の前で倒れているパートナーの少年に向けて伸ばしている。
触手のデジモンが大声で呼びかけ続けたことで、声を聞きつけた野生のデジモンが集まってきた。
「待ってて、必ずジジモンのところへ連れて行くから!」
触手のデジモンは少年を背負い、引きずるようにして運び始めた。
野生のデジモン達が、格好の獲物に次々と攻撃を放つ。だが触手のデジモンは自身の触手を伸ばせるだけ伸ばし、少年に攻撃が届かないようグルグルと囲んでいた。
「ぐっ! ……ぐうっ!」
攻撃が当たる度に、触手のデジモンから呻き声が上がる。だがどんなにダメージを受けても、触手のデジモンは決してパートナーを手放さず、また歩みも止めなかった。
息を切らしながら、触手のデジモンは町までのマラソンを続けた。
「ボク、茂が魔王と戦ってるのをずっと見てたんだ。……ゴメンね、一緒に戦ってあげられなくて」
野生のデジモンは次々に仲間を呼び、その攻撃は次第に苛烈になっていった。
触手のデジモンは自分の触手を切られてもその度にまた伸ばし、繭のようにパートナーを包み込んでいく。
「ずっと考えてたんだ。なんでボクはこんなに弱い姿なのに、元の姿にも戻れないままなんだろうって。その答えが、今分かったんだ」
全身をズタズタに切り刻まれ、頭から生える葉が焼き尽くされても、触手のデジモンはパートナーに語りかけ続けた。
「きっと、ボクの役目はキミをちゃんとお家まで送り届けることだったんだと思う。これは、ボク以外の誰にもできないことだから……」
地平線の端に、はじまりの町の一端が姿を現し始めた。触手のデジモンは、何度も倒れそうになる体を奮い立たせ、歩みを進めた。
「もしキミがまた新しいパートナーと一緒に旅をして、それでもまた魔王に勝てなかったとしても心配しないで。ボクが必ず、キミをお家まで送り届けてあげるからね」
野生のデジモン達が、獲物への攻撃を諦めて去っていく。
触手のデジモンは遂にジジモンの家の前まで辿り着くと、玄関先にパートナーの身体をそっと下ろし、眠るようにその場へ倒れこんだ。
――――――――――
映像の再生が終了し、静まり返った部屋の中に嗚咽だけが響く。
町のデジモン達が何事かとジジモンの家に集まってきたが、ジジモンは玄関に立ち人差し指を顔の前に立てて皆を制した。
ひとしきり泣いた少年が、目元を腫らして扉を開けた。まだ瞳が潤んではいるが、決意の固まった表情を見て、ジジモンは頷き少年に二つのデジヴァイスを差し出した。
「日向君のデジヴァイスにも未だ光が宿っておる。これは人間がパートナーデジモンを思う気持ちを忘れない限り、決してその輝きを失わないのじゃ」
「日向が……」
「これも一緒に持っていってやってくれ。お主は決して一人でないこと、忘れるでないぞ」
少年はジジモンに礼を言い、町のデジモン達に旅立つことを伝え、はじまりの町を再び出発した。
パートナーとの再会に向けて歩き出した少年の背中を見送り、ジジモンは昨晩の出来事を思い出した。
――――――――――
月明かりが照らし、皆が寝静まった夜のこと。静寂な町に突然、獣の唸り声に似た音が小さく鳴り響いた。
ジジモンは唯一目を覚まし、町の入口へと向かった。音の正体は、ベルゼブモンが乗ってきたマシンのエンジン音であった。
「こんな夜更けに何か御用かな?」
大罪を司る魔王が訪れたというのに、ジジモンの態度は平時と変わらないものだった。
ベルゼブモンはその反応に怒りも驚きもせず、ただ淡々と伝えた。
「『災厄の魔王』を倒してきた」
「……そんな気がしておった。するとワシの思考データに掛けられた『呪い』が解けた気がしたのは、決して気のせいではなかったのじゃな」
『呪い』という言葉に引っかかったベルゼブモンが、言葉の意味を問うた。
「ワシとバルバモンは、元々一体のデジモンだったのじゃ。『強欲』のデータを取り込んで進化した際、僅かに残っていた善性がジジモンという形になってはじき出されたのじゃ」
「……そうか」
「戦うための力はほとんどあ奴に持っていかれおった。おまけに奴はワシに呪いをかけ、奴が『災厄の魔王』であることを周りの者に発言できなくしてしまったのじゃ」
返事こそしなかったが、ベルゼブモンは自身の中で合点がいっていた。
世界の中心に分かりやすく城がそびえたっていたにも係わらず、何故一部のテイマーは自分を『災厄の魔王』だと言ったのか。
ジジモンは魔王の存在を仄めかしこそすれど、それがどのようなデジモンであったのかまで伝えることができないでいたのだ。
「ワシにできるのは、この世界のシステム管理者に呼びかけ、ワシと同じ善なる心を持つ人間の少年少女をこの世界に連れてきてもらうことだけじゃった。大変な役目を押し付けてしまったと、今でも悔いておるよ」
「だが、その役目はもう終わった」
ベルゼブモンの返答に、ジジモンは力なく頷いた。
「『災厄の魔王』は消え、この世界には平和が戻ったのじゃ。この町を代表して、ワシから礼を言わせてくれ。本当にありが――」
「まだだ」
ベルゼブモンがジジモンを遮った。ジジモンは言葉の真意に気づかず、首をかしげる。
ベルゼブモンはライダースーツの内側に手を入れ、二つのデジヴァイスを取り出した。
「人間のパートナーを喰った時にこれを手に入れた。片方の人間は消えていなかったから、まだこの世界にいるはずだ。そいつに会うことがあればこれを渡してほしい」
「なんと……」
ジジモンは困惑しながらもデジヴァイスを受け取った。萌黄色と象牙色のデジヴァイス、それぞれアルラウモンとプロットモンがパートナーだった茂と日向のデジヴァイスだ。
災厄の魔王を倒したことを報告したのはあくまで事のついで、こちらが本来の目的だったのではとジジモンは推測した。
「お主、これを渡すためにわざわざここまで来てくれたのか」
「それの持ち主のパートナーデジモンと戦った。奴は最後まで俺の攻撃を受けてもくたばらなかった。戦利品は互いに受け取るべきだ」
「律儀じゃのう……」
ジジモンが肩をすくめる。
ベルゼブモンは踵を返し、マシンに跨った。ジジモンが改めて告げた礼には耳も貸さず、マシンは唸り声を上げて夜の闇へと溶け込んでいった。
手に持ったデジヴァイスの温かみを思い返し、ベルゼブモンはこの場にいないはずのパートナーに向けて独り言ちた。
「人間にとってみれば仇、パートナーデジモンからしてみれば決着をつけるべき好敵手、か。友里と別れ、魔王となって、気づけばずいぶん多くのものを背負ってしまったな。だが」
しばらくは退屈せずに済みそうだ、と口元の端をほころばせ、この世界でただ一人の魔王は夜に駆けるのであった。
――――――――――
「こんにちは、ザッソーモン」
キミは……誰? なんだか懐かしい感じがする。
「俺の名前は茂。君のパートナーだよ」
シゲル……?
「俺と君は、これから一緒に魔王を倒すための冒険の旅に出るんだよ!」
ま、魔王を倒す!? そんなのボクには無理だよ……!
「大丈夫。例え負けても俺達は絶対に死んだりしない!」
ほ、本当に……?
「ああ、本当さ! 一回で勝てなければ十回、十回でもダメなら百回、それでも無理なら千回、一万回! 何回だって旅を続けるさ!」
そ、そんなに一緒にいてくれるなら何とかなりそうな気がしてきたよ……!
「うん、これからは絶対に俺がそばにいる。だって、君は俺の最高のパートナーだから!」
デジタルワールドに君臨した『世界を崩壊に導く災厄の魔王』が倒されてから半年が経過した。
かつて『ホメオスタシス』が現実世界から送り込んだ人間の少年少女達は、ただ一人を除いて元の世界へと送り返されていった。この世界に残ったその人間は、パートナーデジモンと共に広大な大地と海を旅し、それぞれの目的を達成するための力をつけていった。
未だ、新たな魔王を打ち倒した者は現れない。世界は依然として、未知と期待を体現するようにどこまでも青空が広がっていた……。
どうもお邪魔します。tonakaiでございます。
タイトルに「草」と付けばザッソーモン!安定ですね!!
冒頭のやりとり、いや全編にわたってザッソーモンにはハードモードを強いるわらびさん・・・わらびさんらしいですね^^;
しかし今回は、ベルゼブモンとかバルバモンとかテイルモン、エンジェモンといった人気者も割と前面に出ていて、結構王道冒険&バトル物だ~
読み終えてみれば、ザッソーモンから種を勝ち取って食らってブラストになってバルバモンを倒して・・・待って!ザッソーモンの記憶を取り戻す旅ではないの!?
しかも後々明らかになるパートナーもまぁークズ!(←自重しろ)
救いはあれど、もう少しそのザッソーくんにはね・・・いやまぁ随所で格好いい見せ場はあったし、めっさ健気!!
ザッソーモンとシゲル君の旅の先に幸あれ!!
といったところで、失礼いたします。
コンペもお疲れ様でした~
追伸:ベルゼブモンが某エン●レを彷彿とさせる部分があって、個人的には素敵だったと思います。もぐもぐなところとか、もぐもぐなところとか・・・彼の未来にも幸あれ!!
ノベコンお疲れ様でした。夏P(ナッピー)です。
ほう、簡単には死なない上に長命で強大なデジモンとな? ここまでおつコンでアキレウスモンとかスーツェーモンとかダークドラモンとか大した奴らを数多見てきたので、多分ここはオメガモンとかデュークモンとかが遂に来たんだろうな……と思っていたらザッソーモン。
ザッソーモン!?
思わず作者名を確認してきちゃいましたが、そういえばそうなるのも必然でした。いや直前に読ませて頂いていたナクルさんがグリフォモン出してこなかったので油断していた。ザッソーモンってことはザッソーモンから進化しないんだろうし、これで画面右のスクロールバーが下に降り切る前に『災厄の魔王』倒せるのかと思ったのですが、こういった形でケリを付けるとは。
序盤の時点で「うん? 如何にもな超悪者っぽいバルバモンが城を構えているのに、スイクンエンテイライコウの如く徘徊して暴れ回るベルゼブモンの方が災厄なの!?」と疑問が浮かんでいたのですが、結末が明かされればなるほどそーいうことかと得心。バルバモンとジジモン、神様とピッコロ大魔王の関係(善性と悪性が逆ですが)。
茂君はデジモンカイザーもビックリ仰天のクズだった……どっちかっていうと、普通に見捨ててくる日向ちゃん(?)及びアルラウモンと同郷だろうテイルモンが怖い。そして期待の新人としてスカウトされたのに特に見せ場無く惨殺・極上の餌にされたエンジェモンに幸あれ。フロンティアのエンジェモンもよくわからんままデュナスモンにやられて死んだ哀れな男だった……。
最後のパート、意図的かと思いますがザッソーモンの冒頭の目覚めシーンと台詞や描写を重ね合わせているので、てっきりベルゼブモンにボコられたザッソーモンがまた記憶を失ってふりだしに戻るさせられたのかと思って戦慄しましたが、茂君も一度の過ちを悔いる機会を与えられて良かったですね。というか、記憶を失う前のザッソーモンが健気でいい子過ぎるのに、何故復帰したらあんな蓮っ葉で口の悪い輩になってしまったのか。
ベルゼブモンは最後まで律義な奴でしたが、最後の一文「この世界でただ一人の魔王」という表現には若干の寂しさも残る。パートナーとももう再会できませんものね。でもまあ己の後悔と無念をちょっぴりだけ晴らせたので、なんとなく元気でやっていけるのでしょう。
そして最後、まさしくふりだしに戻るして彼らはまた改めて絆を繋ぎ直して旅立つ、途中の茂君達のクズぶりで「き、貴様ァーッ!」と思ったのを鑑みれば、とても綺麗な〆でした。
……うん、まあ最後に言わせて頂くと。
その額の文様USBポートになんのかよ!?
恐竜メダル五枚を凸から投入したDr.真木ィだ!
タイトルがめっちゃ夏川りみなので、この辺の記録媒体で過去の記憶を思い出していく流れはゼルダの伝説ブレスオブワイルドではなく「古いアルバムめくりありがとうって呟いた」を思い出したのでした。
それでは改めましてノベコンお疲れ様でした。
この辺りで感想とさせて頂きます。